結束バンドのファンになった転生者の軌跡   作:ハルカゼ

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踏み出した先に

 

「ぼっちちゃんが――」

「――ギターヒーロー、なんでしょ?」

 

 確信をもった響きだった。

 後藤ひとりはその問いかけに狼狽し、わたわたと腕を振って否定しようとするが……虹夏の確信は崩れない。観念した彼女は、ついにその事実を認めた。

 

 

 ひとりは恐れていた。

 ギターヒーローは虹夏の憧れである。その憧れの相手が、自分であると知られること。それによってがっかりされてしまうことを。

 自分はまだまだ未熟であり、人前でギターヒーローとしての実力を発揮できていない。リアルの自分(後藤ひとり)ネット上の虚像(ギターヒーロー)のギャップはまだ大きいのだと、他ならぬ彼女自身が悟っていた。

 

 だからヒーローの名前に相応しい自分となれるまで、そのことは秘密にしたくて……でも、バレてしまった。

 きっとがっかりされただろう。「私と知ってショックでしたか?」と吐露するひとりに、虹夏は言った。

 

「ううん、むしろぼっちちゃんで良かったよ」

 

 意外な言葉にひとりが顔を上げる。そんな彼女を見て笑うと、虹夏は空を見上げて、自分の夢を語りだした。

 

 

 武道館ライブの、その先にある夢。

 母親を亡くし、寂しがる自分を慰めるために、姉がライブハウス(キラキラした世界)に連れて行ってくれた。さらにバンドをやめて、STARRYという居場所をつくってくれた。素直でない姉は絶対に認めないし、お礼だって受け取ってくれないけど…。でも間違いなく、自分のためにしてくれたことだ。

 

 ―――だからあたしは、

 お姉ちゃんの分まで人気のバンドになって、STARRYをもっと有名にしたい。

 

 

「でも、いざバンドを始めてみるとなかなかうまくいかなくて…。あたしの夢って無謀だったのかも、って思うこともあるの」

「………」

「でもね。今日、思ったんだ。ぼっちちゃんやみんながいれば、どんな夢だって叶えられるって」

「私や、みんな…?」

 

 星を見上げながら、虹夏はうなずく。

 果てしない遠くにあるはずの星が、今日はとても近くに輝いて見えた。

 

「今日のライブは、誰が欠けても実現しなかったと思う。畔くんが励ましてくれて、ぼっちちゃんが盛り上げてくれて……」

「あっいや、私はただ……調子に乗ってただけで……」

「ううん、それは違うよ。ぼっちちゃんは、みんなを引っ張ってくれたんだよね?」

 

 ただ自分のやりたいように押し付けていたら、ギター初心者の喜多郁代はついてこれるはずがない。彼女の実力を見極めつつ、今の自分たちにできるベストな演奏を引き出そうとしていたのだと、虹夏は見抜いていた。

 初ライブの日も、オーディションの日も。ひとりは困難な状況を打破し、支えてくれた。だから、

 

「ぼっちちゃんが、私の憧れ(ヒーロー)でよかったって。そう思うんだ」

「あっ…。私も、その……」

「うん?」

「に、虹夏ちゃんに誘われて…。結束バンドに入れて、よかった……です」

「てへ、ありがと。そういえばさ、ぼっちちゃんの夢って――――」

 

 真っすぐに向けられた称賛の言葉と視線に対して、目をそらすこともなく、溶けることもなく応える後藤ひとり。

 彼女たちの語らいは、夜の静寂の中、まだしばらく続くのだった。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 畔は扉の内側で、2人の会話を聞いていた。

 大声で話しているわけでもないので、断片的にしか聞こえない。でもかろうじて、虹夏さんの夢について話しているのはわかった。

 その話をしているということは、ギターヒーローバレもしたのだろう。横槍を入れた結果、後藤さんと虹夏さんの交流が不足するなどと、そういう事態になりはしないかと心配していた。そうならなくてほっとしている。

 

 でもこれは、まだ始まりにすぎない。

 まだ原作1巻分の話が終わったばかりで、これから結束バンドは様々な試練を乗り越えていかないといけない。それについて考えようとしたとき―――星歌さんと目があった。

 

(いつの間に!? こっちにくる…?)

 

 無言のまま、一歩一歩迫りくる星歌さん。正直怖い。

 でもこれは、いいチャンスかもしれない。そう思って口を開こうとしたとき、後ろの扉がガラガラと音を立てて開いた。

 

「あれ、お姉ちゃんと畔くん…? 何してるの?」

「ああ虹夏か。ちょっと涼もうと思って」

「ふーん、そうなんだ」

 

 その言葉に嘘はないと感じたか、あるいは元から大した疑問ではなかったのか…。虹夏さんはそのまま店内に戻っていった。後藤さんもそれに続く。

 入れ違いになるように、僕と星歌さんは店の外に出た。

 

 

 

 

 店の外に立って、空を見上げる。

 横目で星歌さんの様子を窺うと、彼女も空を見上げていた。何を考えているのか分からないけど…。その様子は、アニメで見た虹夏さんと似ているように感じた。

 もしかしたら星歌さんも、星に思いをはせているのかもしれない……なんて。外見からは似合わないけど、結構ロマンチストな面もあるしあり得るかも…?

 

 星歌さんの想いはさておき…。この先、僕のやりたいことについて。

 まず必要なことは、星歌さんを説得することだ。STARRY以外に、僕がやりたいようにさせてくれるところなんてないだろうし、活動拠点としてもここが一番都合がいい。

 そう考えて、僕は星歌さんに話しかけた。

 

「星歌さん。お願いしたいことがあるんですが」

「なに? 言ってみな」

「……僕を、STARRYで雇っていただけませんか?」

 

 僕の言葉を聞いて、星歌さんがこっちを見る。

 じっくり真剣な目で見られるのは、前にバイトの面接を受けたときのこともあって、ちょっと居心地が悪い。でもここで引くわけにはいかないと、一歩下がりそうになるのを抑えこんだ。

 

 

「前に言ったこと、覚えてる?」

「……はい」

「虹夏たちのことを手伝いたいだけなら、STARRYで働く必要はない。音楽やライブへの興味が薄いならなおさら―――まあ今は、まったく興味がないわけではないだろうけど」

 

 星歌さんの確認に、無言でうなずく。

 ライブへの興味がないわけじゃないけど、結束バンド以外にはほとんど興味がないし、自分で楽器をしたいわけでもない。ライブハウスで働きたい理由としてあげるには、弱すぎる。

 

「じゃあ、私が聞きたいことも分かっているな?」

「はい」

「畔は何のために、STARRYでバイトしたいんだ?」

 

 それでも、ライブハウスで――STARRYで働きたい理由というのは、ちゃんとある。

 ライブを見たいとか、バンドを組もうとしているからじゃない。ただ喜多さんたちと一緒にいたいからというわけでもない。

 

 僕がSTARRYでやりたいこと。それは――――

 

 

 

 

 

 ――話を聞き終えた星歌さんは、しばらく何も言わなかった。

 あまり普通じゃないことだし、無理もないことだろう。せめて、即却下にならないことだけを祈るしか…。

 

「……いいよ」

「え…?」

「面白そうじゃん。まあ色々詰めなきゃいけないから、早くても来月からね」

 

 星歌さんがニヤリと笑った。その顔を見て、心の中から何かがあふれてくる。

 安心感? いや、もっと別のなにか……嬉しいのかもしれない。認められたことが、STARRYの一員となれたことが。

 ちょっと目が潤みそうになったのを、顔を背けて誤魔化した――――笑い声が聞こえた気がするから、誤魔化せてないかも。考えないようにしよう…。

 

 

 そろそろ戻るか、と言う星歌さんにあわせて、僕も店内に戻ることにした。

 ここから本格的なスタートだ。この先、もっといい未来をつくっていくために頑張ることを決意して、扉をくぐる――

 

「ねえ郁代、私は郁代のことを郁代って呼びたい……だめ?」

「うぐっ…。リョ、リョウせんぱぁぃ……」

「あぁー。これはもうだめそうですねぇ……」

「喜多ちゃん…。将来ダメなバンドマンに引っかからないようにね……」

「あっおっお姉さん…。ちょっと飲みすぎなんじゃ…?」

「だってぇ~。飲まなきゃやってらんないんらよぉ~。みんなキラキラしちゃれぇ~」

 

 ……くぐった先は魔境だった。

 そういえば名前ネタの件、解決してなかったな…。ついに陥落してしまった幼馴染に、心の中で手を合わせた。

 

 

 

 

 

 打ち上げが終わって、それぞれ帰宅の途につく。

 ちょっと遅い時間帯なので、なるべく集団で帰ることになった。それでもだんだん人数は減っていき、後藤さんと駅で別れてからは、喜多さんと2人だけとなっている。

 

 喜多さんを家に送ってから帰るつもりだけど……会話がほとんどないから、なんだか気まずい。

 打ち上げの時、あるいはライブ前からちょっと様子がおかしかったけど、ここまでとは思わなかった。原因がよく分からないから、対処もしにくい。

 救いなのは、喜多さんの方もちょっと気にしているのが伝わってくることだ。完全無視コースならかなりヤバいけど、これなら嫌われたりはしていないはず…。

 

 静かなまま歩いていると、喜多さんの家が見えてきた。

 明日にでもまた話した方がいいかもしれないと、約束をとりつけようとしたとき。彼女の方から話しかけてきた。

 

「あのね畔くん。次の土曜日って空いてるかしら?」

「えっ? 特に予定はないけど……」

「じゃあお祭りに行ってみない? ほら、昔行ったことあるでしょ」

 

 小さい頃の記憶を探ると、確かに夏祭りがあった気がする。

 ただ、それに誘ってくる理由がよく分からない。気まずい感じになっちゃってるから、それを解消するためだろうか…?

 

「いいよ。虹夏さんたちには――」

「あ、今回はバンドのみんなには言わないでおこうかなって」

「……えっ? 一緒に行く人とかは…?」

「2人の思い出なんだし、2人だけで行きましょう!」

 

 いやちょっと待って? 2人だけ? 喜多さんに限ってそんなはずは…。

 というか幼馴染とはいえ、付き合っていないのに2人だけでお祭りとかいくものなのか? 実は普通によくあること…? いやそんなバカな。

 

「せっかくまた仲良くなれたのに、ぜんぜん遊びに行ってなかったもの。土曜日はいっぱい遊びましょうね! 詳しいことはロインで!」

「あっ。ちょっと待って……」

「じゃあまたねー!」

 

 僕が悩んでいる間に、喜多さんはさっさと家の中に駆け込んでしまった。

 に、逃げられた…。様子がおかしかったし、明らかに不自然。やっぱり男女2人だけでお祭りって普通じゃないのでは…?

 

 

(『男女 お祭り 2人』で検索……脈ありと判断していいの? いやでも、脈なしって意見もあるし…。幼馴染とかならありえる? でも結構疎遠の期間が長かったんだけど…。結局どっちなのか分からない! そういう意味で好きならもっと態度に出るだろうし、やっぱり違う…? もしただの勘違いだったら……)

 

 こんなに幼馴染の内心が分からないのは、初めてかもしれない。

 自宅にたどり着くまで、畔の唸り声は途切れることがなかった。

 




長引いてしまったけれど、これでアニメ8話終わりです。
次回はオリジナル回(夏祭り編)
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