結束バンドのファンになった転生者の軌跡   作:ハルカゼ

2 / 12
更新遅くて申し訳ないです…。
なんとか日曜日のうちに次を投稿できるように頑張ります。


海辺に並ぶ二体の石像

 

 (待ちあわせの時間まであと30分…。ついにこの時がきてしまった……)

 

 畔くんとの約束の日。ギターの練習を終えた私は、布団にくるまって現実逃避していた。

 ただ出かけるだけならいいけど、怪しいところが色々あって不安にかられてしまう。なぜかギターを持ってくるように言われたし、虹夏ちゃんたちには内緒だっていうし…。

 

 天気も残念なことに晴れ模様で、私の気分とはそぐわない。ちょっと戦々恐々としながら、ゆっくり階段を下りていく。

 リビングにはお母さんとふたり、ジミヘンがいた。ふたりはお昼寝中みたい。気楽でいいなぁ…。

 

 「あら、出かけるの? 練習?」

 「ううん。友達と待ちあわせ」

 「ギターをもって…? 帰りの時間は分かるの?」

 「あっ。えっと……」

 

 ふたりを起こさないように、小声で話をする。

 そういえば帰りがいつになるかも分からないや。どこで何をするのかも聞けてないし…。下北沢まで行くわけじゃないから、そんなに遅くならないかな?

 

 「分からないけど、遅くなりそうなら連絡するね」

 「分かったわ。……今日は花火大会だし、人混みには気をつけてね」

 「うん、分かった…………花火大会ィ!?」

 

 

 思いもよらないワードが出てきて、思わず大声が出てしまった。今日って花火大会の日なの!?

 そういえば毎年この時期だったような…。うっかり会場に迷い込もうものなら、人の波にのまれて溺れ死ぬのは必至。絶対に近づかないようにしよう…!

 決意をこめてグッと拳を握りしめたところで――――恐ろしい予想がうまれて、背筋が凍った。

 

 (あれ、まさかこの時間から待ち合わせって……ないない絶対ない考えたくない!!)

 

 待ち合わせは16時。日が沈むまでにはかなり時間があるし、花火大会に行くつもりじゃないはず…。それに花火を見るなら、私なんかじゃなくて喜多さんとかを誘うだろうし……うん、絶対ないよね。

 ガクガクと震えながらも、なんとか自分にそう言い聞かせる。

 

 

 

 ――暗い表情でギターを背負いながら、ふらふらと出ていく後藤ひとり。

 いつも以上に情緒不安定な娘の姿を、母親は何も言わずに見送った。身じろぎするふたりを優しく撫でながら、ふと呟きが漏れる。

 

 「あの子ったら、またあんな嘘を……」

 「くぅーん……」

 

 ”友達と待ち合わせ”なんて見栄を張るための嘘で、本当はただ練習に行くだけだと。

 ある種の信頼に満ちた―――全く娘の話を信用していない呟きは、犬以外に聞かれることなく虚空に消えた。

 

 

 

 

 

 ~~Side:畔一保~~

 

 僕はちょっと憂鬱な気分になりながら、待ち合わせ場所に向かっていた。 

 憂鬱な気分になる原因はただ1つ。今日遭遇する―――遭遇しなければならない、酒飲みベーシスト『廣井きくり』である。

 

 いや、実力はあるのは分かるよ? 後藤さんの成長に不可欠なのも。

 緊張や不安を酒の力で誤魔化しているところとかも、キャラクターとしては魅力的だと思うんだけど……直接付き合うのはちょっと嫌だ。シャワーやらお金やら、借りられる対象にはなりたくない。

 

 まあ廣井さんの関心は後藤さんに向くだろうから、僕は名もなき一般人として引き立て役に徹させてもらうとしよう―――脳内の後藤さんが恨めしそうな目を向けてくる。本当にごめん…。

 結局チケットも売ってないから、後藤さんにとってはただ苦労させられるようなものだし…。

 

 

 色々と考えながら歩いていると、いつの間にか目的地についていた。

 コンビニ脇にある、海沿いの小路。鳥居をくぐった先には、目印となる弁財天の石像だけがぽつんとある。アニメで描かれていた、廣井きくりと後藤さんが出会った場所。

 

 道の先には神社があるみたいだけれど、人の気配が全くない。大きな通りもすぐ近くにあるのに、まるで別世界のような静けさだ。後藤さんにとっては過ごしやすいことだろう。

 小さいながら海も見えるし、木陰もある。まだ時間もあるので、軽くスケッチしてみることにした。

 

 

 

 ――描くのはアニメと同じ景色。座り込む後藤さんと、弁財天の石像。

 

 背景はなるべく簡素にして、雰囲気だけを取り込む。海の方は明るく開放的で、後藤さんが座る側は無機質で固い感じに。

 次に後藤さんと石像を並べて描く。フライヤーをもって座り込む後藤さんと、穏やかに佇む弁財天。憂鬱そうにする後藤さんを想像しながら、空想を紙の上に表していく。

 

 

 やがて鉛筆の音が止んで、絵が完成した。

 出来栄えの方は――普通かな。オーディションライブの時は、自分でも最高だって思えるくらいのものができたんだけれど…。アニメと同じ情景なら上手く描けるっていうわけではないらしい。

 どうすればいい絵が描けるんだろうか…? モデルが目の前にいればいいのか、あるいは何か上手く描ける条件があるのか。考えながらスケッチブックを閉じると、横から小さな声がした。

 

 「……いつからそこにいたの?」

 「あっ。5分くらい前に……」

 「そっか…。気がつかなくてごめんね」

 

 絵を描いていて気がつかなかったけれど、いつの間にか後藤さんが横にいた。

 落ち込む後藤さんの絵を描く僕を見て、どう思ったのだろう…。思いっきり目をそらす後藤さんに対して、それを聞くことはできなかった。

 

 

 

 

 

 ……いきなり気まずい雰囲気になったけれど、いつまでもこうしているわけにもいかない。

 廣井きくりが来る前に、やらなければならないことがある。決意して後藤さんに向き直ると、彼女はピクリと震えた。

 その様子に少しショックを受けながら、膝を地面につける。続いて手もつけて、頭を下げる―――土下座だ。

 

 「あっえっ。ほ、畔くんどうしたんですか…?」

 「僕は後藤さんに謝らなければならないことがあります。落ち着いて聞いてください」

 「き、聞きますから頭上げて……」

 「配る分として引き受けたチケットノルマ2枚ですが、友達には売れませんでした」

 「と、とにかく頭を…………え゛?」

 

 自分の耳で聞いた中では最も低い声で、後藤さんは呻いた。

 そりゃショックだよね。本当に申し訳ない…。実は声をかけてもいないんだけれど、このチケットを売るわけにはいかないので、売れなかったことにさせてもらおう。

 

 「ライブに興味がないとかじゃなくて、みんなその日は用事があるみたいで――」

 「………」

 「――他のクラスメイトにも声をかけようかと思うんだけど、その前に試したいことが…?」

 

 土の匂いがする中、売れなかった言い訳(嘘)などを並べ立てていたけれど…。後藤さんの反応が一向にない。不思議に思って顔を上げてみると、後藤さんは石になっていた。……比喩とかじゃなくて、カチコチの石像に。

 試しにちょっと叩いてみると、硬い感触だけが返ってくる。途方に暮れて原作知識を思い返してみても、石になった人を元に戻す方法なんてない。

 ……とりあえず、コンビニで唐揚げでも買ってくるかな…。

 

 

 

 

 唐揚げやお菓子をお供えしてナムナム祈ると、なんとか後藤さんは元に戻った。

 どうすればいいのか分からなかったから、本当に安心した。あとは人通りのない道だったのも良かったと思う。誰かに見られたら、どうなっていたことやら…。

 

 石像から人間に戻った後藤さんだけれど、その態度はとても固い。唐揚げを口にする仕草は小動物的でかわいいのに、悲嘆や絶望的なオーラが重くて和めない。近くにいるだけで膝をつきそうになる…。

 明るい空や海を眺めることで正気を保ちながら、後藤さんを慰めにかかった。たまたま用事と被っただけでみんな興味を示していたとか、他のクラスメイトにも声をかけてみるつもりだとか、必ず買ってくれる人を見つけるとか…。

 

 

 ほとんど嘘の話だけれど、なんとか後藤さんの気持ちも持ち直してきたらしい。絶望のオーラがおさまってきた。

 ……ここからまた追い詰めないといけないんだよね。これは唐揚げくらいじゃ釣り合わないかな。本当にごめん…。

 

 「バンドマンの人から聞いた話なんだけど、チケットを売るには一番いい方法があるんだって」

 「い、一番いい方法ですか…?」

 「うん。それは――――「うぅ~ん」

 

 路上ライブについて話そうとしたところで、うめき声と人の倒れる音に遮られた。

 あわてて救急車を呼ぼうとする後藤さんをやんわりと止めて、倒れた人に慎重に近づいていく。ぴくぴくと震えながら手を伸ばすその人に対して、心配する気持ちは当然生じない。

 

 

 近づくにつれて、酒の匂いが強まる。鼻をつまみたくなる気持ちを抑えながら、あらかじめ買っておいた水を廣井きくり(酔っぱらい)に差し出した―――

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。