なんとか日曜日のうちに次を投稿できるように頑張ります。
(待ちあわせの時間まであと30分…。ついにこの時がきてしまった……)
畔くんとの約束の日。ギターの練習を終えた私は、布団にくるまって現実逃避していた。
ただ出かけるだけならいいけど、怪しいところが色々あって不安にかられてしまう。なぜかギターを持ってくるように言われたし、虹夏ちゃんたちには内緒だっていうし…。
天気も残念なことに晴れ模様で、私の気分とはそぐわない。ちょっと戦々恐々としながら、ゆっくり階段を下りていく。
リビングにはお母さんとふたり、ジミヘンがいた。ふたりはお昼寝中みたい。気楽でいいなぁ…。
「あら、出かけるの? 練習?」
「ううん。友達と待ちあわせ」
「ギターをもって…? 帰りの時間は分かるの?」
「あっ。えっと……」
ふたりを起こさないように、小声で話をする。
そういえば帰りがいつになるかも分からないや。どこで何をするのかも聞けてないし…。下北沢まで行くわけじゃないから、そんなに遅くならないかな?
「分からないけど、遅くなりそうなら連絡するね」
「分かったわ。……今日は花火大会だし、人混みには気をつけてね」
「うん、分かった…………花火大会ィ!?」
思いもよらないワードが出てきて、思わず大声が出てしまった。今日って花火大会の日なの!?
そういえば毎年この時期だったような…。うっかり会場に迷い込もうものなら、人の波にのまれて溺れ死ぬのは必至。絶対に近づかないようにしよう…!
決意をこめてグッと拳を握りしめたところで――――恐ろしい予想がうまれて、背筋が凍った。
(あれ、まさかこの時間から待ち合わせって……ないない絶対ない考えたくない!!)
待ち合わせは16時。日が沈むまでにはかなり時間があるし、花火大会に行くつもりじゃないはず…。それに花火を見るなら、私なんかじゃなくて喜多さんとかを誘うだろうし……うん、絶対ないよね。
ガクガクと震えながらも、なんとか自分にそう言い聞かせる。
――暗い表情でギターを背負いながら、ふらふらと出ていく後藤ひとり。
いつも以上に情緒不安定な娘の姿を、母親は何も言わずに見送った。身じろぎするふたりを優しく撫でながら、ふと呟きが漏れる。
「あの子ったら、またあんな嘘を……」
「くぅーん……」
”友達と待ち合わせ”なんて見栄を張るための嘘で、本当はただ練習に行くだけだと。
ある種の信頼に満ちた―――全く娘の話を信用していない呟きは、犬以外に聞かれることなく虚空に消えた。
~~Side:畔一保~~
僕はちょっと憂鬱な気分になりながら、待ち合わせ場所に向かっていた。
憂鬱な気分になる原因はただ1つ。今日遭遇する―――遭遇しなければならない、酒飲みベーシスト『廣井きくり』である。
いや、実力はあるのは分かるよ? 後藤さんの成長に不可欠なのも。
緊張や不安を酒の力で誤魔化しているところとかも、キャラクターとしては魅力的だと思うんだけど……直接付き合うのはちょっと嫌だ。シャワーやらお金やら、借りられる対象にはなりたくない。
まあ廣井さんの関心は後藤さんに向くだろうから、僕は名もなき一般人として引き立て役に徹させてもらうとしよう―――脳内の後藤さんが恨めしそうな目を向けてくる。本当にごめん…。
結局チケットも売ってないから、後藤さんにとってはただ苦労させられるようなものだし…。
色々と考えながら歩いていると、いつの間にか目的地についていた。
コンビニ脇にある、海沿いの小路。鳥居をくぐった先には、目印となる弁財天の石像だけがぽつんとある。アニメで描かれていた、廣井きくりと後藤さんが出会った場所。
道の先には神社があるみたいだけれど、人の気配が全くない。大きな通りもすぐ近くにあるのに、まるで別世界のような静けさだ。後藤さんにとっては過ごしやすいことだろう。
小さいながら海も見えるし、木陰もある。まだ時間もあるので、軽くスケッチしてみることにした。
――描くのはアニメと同じ景色。座り込む後藤さんと、弁財天の石像。
背景はなるべく簡素にして、雰囲気だけを取り込む。海の方は明るく開放的で、後藤さんが座る側は無機質で固い感じに。
次に後藤さんと石像を並べて描く。フライヤーをもって座り込む後藤さんと、穏やかに佇む弁財天。憂鬱そうにする後藤さんを想像しながら、空想を紙の上に表していく。
やがて鉛筆の音が止んで、絵が完成した。
出来栄えの方は――普通かな。オーディションライブの時は、自分でも最高だって思えるくらいのものができたんだけれど…。アニメと同じ情景なら上手く描けるっていうわけではないらしい。
どうすればいい絵が描けるんだろうか…? モデルが目の前にいればいいのか、あるいは何か上手く描ける条件があるのか。考えながらスケッチブックを閉じると、横から小さな声がした。
「……いつからそこにいたの?」
「あっ。5分くらい前に……」
「そっか…。気がつかなくてごめんね」
絵を描いていて気がつかなかったけれど、いつの間にか後藤さんが横にいた。
落ち込む後藤さんの絵を描く僕を見て、どう思ったのだろう…。思いっきり目をそらす後藤さんに対して、それを聞くことはできなかった。
……いきなり気まずい雰囲気になったけれど、いつまでもこうしているわけにもいかない。
廣井きくりが来る前に、やらなければならないことがある。決意して後藤さんに向き直ると、彼女はピクリと震えた。
その様子に少しショックを受けながら、膝を地面につける。続いて手もつけて、頭を下げる―――土下座だ。
「あっえっ。ほ、畔くんどうしたんですか…?」
「僕は後藤さんに謝らなければならないことがあります。落ち着いて聞いてください」
「き、聞きますから頭上げて……」
「配る分として引き受けたチケットノルマ2枚ですが、友達には売れませんでした」
「と、とにかく頭を…………え゛?」
自分の耳で聞いた中では最も低い声で、後藤さんは呻いた。
そりゃショックだよね。本当に申し訳ない…。実は声をかけてもいないんだけれど、このチケットを売るわけにはいかないので、売れなかったことにさせてもらおう。
「ライブに興味がないとかじゃなくて、みんなその日は用事があるみたいで――」
「………」
「――他のクラスメイトにも声をかけようかと思うんだけど、その前に試したいことが…?」
土の匂いがする中、売れなかった言い訳(嘘)などを並べ立てていたけれど…。後藤さんの反応が一向にない。不思議に思って顔を上げてみると、後藤さんは石になっていた。……比喩とかじゃなくて、カチコチの石像に。
試しにちょっと叩いてみると、硬い感触だけが返ってくる。途方に暮れて原作知識を思い返してみても、石になった人を元に戻す方法なんてない。
……とりあえず、コンビニで唐揚げでも買ってくるかな…。
唐揚げやお菓子をお供えしてナムナム祈ると、なんとか後藤さんは元に戻った。
どうすればいいのか分からなかったから、本当に安心した。あとは人通りのない道だったのも良かったと思う。誰かに見られたら、どうなっていたことやら…。
石像から人間に戻った後藤さんだけれど、その態度はとても固い。唐揚げを口にする仕草は小動物的でかわいいのに、悲嘆や絶望的なオーラが重くて和めない。近くにいるだけで膝をつきそうになる…。
明るい空や海を眺めることで正気を保ちながら、後藤さんを慰めにかかった。たまたま用事と被っただけでみんな興味を示していたとか、他のクラスメイトにも声をかけてみるつもりだとか、必ず買ってくれる人を見つけるとか…。
ほとんど嘘の話だけれど、なんとか後藤さんの気持ちも持ち直してきたらしい。絶望のオーラがおさまってきた。
……ここからまた追い詰めないといけないんだよね。これは唐揚げくらいじゃ釣り合わないかな。本当にごめん…。
「バンドマンの人から聞いた話なんだけど、チケットを売るには一番いい方法があるんだって」
「い、一番いい方法ですか…?」
「うん。それは――――「うぅ~ん」
路上ライブについて話そうとしたところで、うめき声と人の倒れる音に遮られた。
あわてて救急車を呼ぼうとする後藤さんをやんわりと止めて、倒れた人に慎重に近づいていく。ぴくぴくと震えながら手を伸ばすその人に対して、心配する気持ちは当然生じない。
近づくにつれて、酒の匂いが強まる。鼻をつまみたくなる気持ちを抑えながら、あらかじめ買っておいた水を