結束バンドのファンになった転生者の軌跡   作:ハルカゼ

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紅一点の逆は厳しい

 

 セミがしきりに鳴き声をあげ、強い日差しが照りつける。

 そんな夏の日に、遠路はるばる金沢八景まできた少女達がいた。

 

 彼女達が金沢八景まで来たのは、後藤ひとりの家がここにあるからだ。

 ただし遊びに来たわけではない。結束バンドのライブが迫る中、ライブで着る衣装デザインを決めるという目的がある。

 もっとも遊ぶ気満々の人や、諸事情でサボる人までいるなど、どれだけ真剣に取り組むつもりかは個人差があるが…。そのあたりはまあ、ご愛敬といえるだろう。

 

 

 「それにしても、畔くんは残念だったね」

 「そうですね。まさか……」

 「当日になって風邪引いちゃうなんてね……」

 

 結束バンドのリーダー、伊地知虹夏。同じくギターボーカルの喜多郁代。

 今日、後藤ひとりの家に行くのは2人だけ。山田と畔は不参加である―――

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 (……ほんと、意外だなぁ)

 

 喜多ちゃんと歩きながら、あたしは来なかった2人のことを考えていた。

 

 リョウはまあ分かる。どうせ面倒くさがったか、交通費をケチったかだろう。

 なお「おばあちゃんが峠で……」とかなんとか言っていたのは考慮に値しない。今年で10回目だし、どうせ嘘なのは分かりきっている。

 

 ただ畔くんまで休みなのは意外だった。絵を描くのが得意みたいだし、ちょっと期待してたんだけど…。

 おまけになんとなくだが、仮病のような気がする。根拠があるわけじゃないんだけど……こう、なんとなく? リョウと同じ気配を感じるというか……

 そういうタイプとは思っていなかっただけに、なんか意外だ…。まあ単なる被害妄想かもしれないけどさ。

 

 

 

 なお、虹夏の直感は的中していた。

 言い換えれば、畔が風邪を引いたというのは嘘であり……今日お休みするための仮病である。

 

 では畔は仮病まで使って休み、何をしているのかというと……特に何もしていない。

 休んだ理由の大半は、女の子の集団に混ざりづらいという、思春期めいたくだらない理由であった。本人にとっては切実な問題かもしれないが…。

 なにせ畔は中学時代、ろくに女子と話をしていない。友達は男だけ。それもうわべだけの付き合いがほとんどである。

 

 そんな彼に、女の子と楽しく遊ぶ方法なんて分かるはずもない。

 1:1ならまだ落ち着いて話ができる。1:2だと相性次第、1:3以上では蚊帳の外。なんとなく相づちを打って、話に参加している感を出すのが精一杯である。

 アー写撮影の時も、ぼっち2号としてついていくしかなく……その経験もあって、不参加を決めた。

 

 また、このお宅訪問のエピソードは、ストーリー上あまり重要でないというのもある。

 結局Tシャツのデザインはこの場で決まらないし、後藤粒子拡散事件という目に見えた地雷まで…。参加しなくてもあまり支障はない。

 

 

 とまあ、長々と理由を挙げたわけだが…。

 要約すれば、畔がヘタレた上に逃げたという、ただそれだけの話である。

 

 

 

 ――閑話休題。

 この場にいない2人のことをネタにおしゃべりをしていた喜多郁代と伊地知虹夏は、ついに後藤ひとりの家にたどり着いた。

 ……沈黙が場を満たす。セミの鳴き声すら、一瞬遠くなった気がした。

 

 「ここ、だよね…? 結束バンドって書いてあるし」

 「そのはずですけど……」

 

 2人は困惑の目でそれを見た。

 外観はごく普通の一軒家だ。……まるで旅館のような垂れ幕がかかっていなければ、だが。

 どうやって垂れ幕をかけたのかすら想像できない。1人でできることではないだろう…。とはいえ、

 

 (まあぼっちちゃん関連だし、そんなこともあるよね、うん)

 

 元々はダンボールに似てる家とか聞いてたんだし、想像していたよりはずっとまともだろう。

 そもそもぼっちちゃんのやることに、いちいち反応していたら身がもたない。スルーするのが一番……ってちょっと待って?

 

 (外観がこれなら、中身はどうなの?)

 

 垂れ幕だけで終わるとは思えない。しっかり心の準備をして入るべきだろう。

 喜多ちゃんにもあたしの考えを言うと、神妙な表情でうなずいた。喜多ちゃんも同感らしい。

 

 意を決してチャイムを鳴らすと、ドアのすぐ向こうからぼっちちゃんの声がした。

 もしかしてぼっちちゃん、玄関でずっと待ってたのかな…? それは嬉しいけど、何が待っているのやら…。

 

 慎重に、扉を開ける。

 どうなっていても驚かない。引いた顔を見せない。そう決意した先には――――珍妙な格好のぼっちちゃんが待ち構えていた。

 いつものピンクジャージに、一日巡査部長と書かれたタスキ。なぜか派手な光るメガネをかけて「い、いぇ~い! う、うぇるか~む!」などと言いながらクラッカーを鳴らしてくる。

 うん、まあ……

 

 

 (なんだ。この程度かぁ……)

 

 ぼっちちゃんが変なのはいつものことだし、内装も全然普通だ。パーティ会場みたいになってるとか、旅館風の内装とか想像してたから、ちょっと拍子抜けだったかも。

 方向性はどうあれ、歓迎したいのは確かみたいだし。そう考えれば全然いけるね。うん。

 

 「ぼっちちゃんお待たせ~。歓迎ありがとね」

 「後藤さん、これご家族と召し上がってね!」

 「あっはい。ありがとうございます」

 

 にこやかに奇行をスルーして、上がらせてもらう。

 喜多ちゃんの手土産、この前テレビに出てたやつだ。ちょっと気になる……って我慢我慢!

 今日はTシャツのデザインを考えにきたんだから。ほら、喜多ちゃんも映画なんて出さないの!

 

 (……服装のこと、何も言われないな…。やっばり遊びに行くなら、これくらいの格好が普通なのかも。よし、今日は気合い入れていくぞー!)

 

 ブルリ、と体が震える。

 うっ、なんか急に寒気が…。冷房のせいかな…?

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 ……なぜか急に寒気がした。

 おかしいわね。まさか風邪…? でも、そんな感じはしないのだけど…。

 

 伊地知先輩とお話ししながら階段を上っていく。後藤さんのお部屋ってどんな感じかしら。

 やっぱり音楽関係のもので埋まってそうよね。後藤さん、ギター以外の趣味とかなさそうだし…。どんな生活をしているか気になるわ!

 

 「あっここです」と言って、後藤さんがふすまを開ける。お部屋からは色とりどりの光があふれて……ってなにこれ?

 部屋の中には風船がいくつも飾られていて、まるでパーティ会場みたいな飾りつけがされている。でも照明は、カラオケ会場のようなミラーボール。

 絵のセレクトといい、コンセプトが謎だわ…。とりあえず、考え事に向いてないのは確かね…。

 

 「まさかの2段構え……だと…?」

 「えっえへへ…。どうですかね? 結構イケてると思うんですけど……」

 「えっ? ええ、そうね……」

 

 どうしましょう…。正直な感想言ったら傷つけちゃいそうだし…。とにかく笑顔でフォローしてあげないと。

 伊地知先輩もきっと同じように考え……って固まっちゃってるわ!?

 

 「楽しそうでいいと思うわよ! ね、伊地知先輩!?」

 「え? ……あぁうん! いいと思うよ!」

 「あっうっ……。飲みもの、持ってきますね……」

 

 気をつかったのがバレてしまったのか、後藤さんは落ちこんだ様子で出ていってしまった…。

 どうしましょう、いきなり気まずくなるなんて…。伊地知先輩も「あちゃ~」って頭を抱えていた。

 

 「このままTシャツづくり始めるのもなんだし、ちょっと遊んでからにしよっか」

 「そうですね。せっかく頑張って用意してくれたんですし」

 「だねー。……それにしても、音楽関係の道具とか全然ないね?」

 

 確かに…。もっと無骨でロックな感じをイメージしてたんだけど。

 部屋の中を見渡してみると――――お札と、盛り塩?

 

 「これは……ロック?」

 「うん、Lockだねぇ……」

 

 なんか私の知ってるロックとは違うんだけど…。先輩が言うならそうなのかしら。奥が深いのね…。

 伊地知先輩がゆっくりと後ずさると、棚にぶつかってしまい、はずみでアー写がドサドサと床に落ちた。なんでアー写がこんなにいっぱいあるの…?

 

 

 ――押し入れの中から、誰かが叩いたような音がする

  ぺらり、と絵がはがれると、

    ――下から大量のお札が出てきてっ

 

 

 思わず伊地知先輩の手を握りしめてしまう。わたしお化け屋敷はまだしも、本物のホラーは無理なんだけど…!

 伊地知先輩がロックがどうとか言ってるけど、その声も震えている。やっぱりこれってロックじゃないですよね!? なんかこう、別の何かに違いないわ。

 身を寄せあって震えていると、後ろから子供の声がした。

 

 (後藤さんの声じゃない…! まさかお化け!?)

 

 部屋の反対側まで逃げて、テーブルの陰に隠れる。

 女の子の幽霊(仮)は、大きなアー写を持ちながら舌足らずな説明をしている…。普通に足もあるし、なんか後藤さんに似てる気がする。

 この子もしかして……幽霊じゃ、ない?

 

 「もしかして、後藤さんの妹さん?」

 「はい! ごとうふたりです!」

 

 元気よく自己紹介をする様子は、どう見ても普通の女の子だ。

 はぁ…。なんか安心したわ。ようやくホラーな雰囲気から抜け出せた気がする。

 人懐っこく寄ってくるふたりちゃんをかわいがりながら……わたしはまず最初に、普通の電灯をつけることにした。

 

 

 

 

 

 ――いきなりわたしの心をかき乱した、後藤さん家への訪問。

 

 山場を乗り越えたつもりのわたしは、この先もっと心乱されることになるとは思っていなかった。

 

 




 そろそろ恋愛タグに仕事させたい…。
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