結束バンドのファンになった転生者の軌跡   作:ハルカゼ

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ひとり廊下でつぶやいた

 

 8月某日。

 金沢八景の某所――後藤家では、一大ニュースが流れていた。

 

 

 なんと長女、後藤ひとりの友達が、

 家に遊びにくるというのである!!!

 

 

 このニュースに対する各人の反応を紹介しよう。

 

 Mさん「あら、ならごちそう用意しないとね」

 Nさん「音楽の力ってやつか。良かったな!」

 Fさん「えー? うっそだぁ~」

 

 ……およそ33%の人は信じなかったようだ。

 ともあれ、ニュースを信じた後藤ひとりの両親は、お客をもてなすため買い物に出かけた。買うものは鶏肉、ピザ、フライドポテトにサラダ、コーラなど。ひとりの好きなものを中心にしたパーティメニューだ。

 

 買い物をする2人の顔は、娘に友達ができた喜びで彩られ……てはなかった。

 期待や喜びもわずかに感じられるが、心配事でもあるのかどこか浮かない表情である。

 

 

 「親として、あの子を信じてあげましょう!」

 「母さん…!」

 「ほら、30%くらいは本当かもしれないし…!」

 「母さん……」

 

 ……ひとりニュースの信頼性は、残念ながらかなり低い。

 

 なにしろひとりが管理するOH! Tubeアカウントでは、友達とカラオケに行っただの、バスケ部エースの彼氏持ちとかの嘘情報を拡散しているのだ。信じきれないのも無理はない。

 友達との写真も見せられたが、今どき画像なんていくらでも加工できるものだ。

 

 風邪を引いたとか適当な理由でドタキャンになら(嘘に嘘を塗り固め)ないか一抹の不安を覚えつつ…。

 2人は食材の山を抱えて、家に戻るのだった。

 

 

 

 

 まあ全部杞憂だったが。

 

 

 「この子、自分の世界に入って迷惑とかかけてない?」

 「いえ、全然迷惑だなんて」

 「そうそう、面白いよね」

 「そうなんだ…!」

 

 後藤ひとりの母親、後藤美智代は、感慨で目が潤みそうになるのを頑張って抑えていた。

 こんなかわいいお友達が2人も! 何よりひとりのことを受け入れてくれる優しい子のようだ。溶けたひとりを見ても引いた様子じゃないなんて、とてもいい出会いに恵まれたのね…!

 

 まあ”高校最初の友達”とやらはいないようだけれど、そこにはツッコまない方がいいでしょう…。バンド友達ができただけでも十分すぎる快挙なのだから。何も傷口に塩を塗る必要なんてないものね。

 

 

 「からあげ揚げたてです~」

 (体育祭なんて……はえっ? 私は今まで何を?)

 (おお~。鮮やかな手並み。さすがぼっちちゃんのお母さん)

 

 好物でひとりを現世に引き戻すと、虹夏ちゃんにキラキラした目で見られた。うふふ、なんか照れちゃうわ~!

 でもこれ、あまり乱発できないのよね。ひとりの好物はハンバーグやからあげとかだから、あんまり食べさせすぎると太っちゃいそうで…。

 今のところ、余分な脂肪は胸にいってるみたいだけど。ひとりは運動苦手なんだし、油断大敵よ!

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 「友達が来るって聞いたときは、見栄を張ったか、幻想かなと思ったけど……」

 「写真もあるし、念のため買い物にいって良かったな!」

 「幻想って……(ぼっちちゃんって家でもこんな感じなんだ)」

 (あれ、まさか私って全然信じられてない…?)

 

 時折ピンクジャージの少女に流れ弾が飛びつつも、談笑は続いていく……

 ひとりが部屋の飾りつけを試行錯誤していた話や、バイトの様子。好きな音楽に、ライブで弾く曲の話など。

 全体的にはコミュ力が高いこともあって、場の雰囲気はすこぶる良い。様々な話題が流れる中、後藤ひとりは一息つくため、席を立って廊下に出た。

 

 (自分の家に友達がいるなんて、なんだか不思議)

 

 いつも通りの静かな廊下だけど、扉一枚隔てた先には、虹夏ちゃんと喜多さんがいる。

 日常のような廊下の雰囲気と、非日常的な部屋の中。そのギャップがちょっと不可解で、でも嫌な気分ではなかった。

 

 ……なかった、はずなのに。

 

 (……あ、これ知ってるやつだ)

 

 ちょっと席を外した間に、部屋の中は大盛り上がり。

 自分抜きで盛り上がる家族と友達の姿に、凄まじい疎外感を覚える。自分の家なのに、もはや完全にアウェーといっていい。

 虹夏が気づいて声をかけてくれるまで、ひとりはただ呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 ―――ここで話が終わっていれば、何事もなく映画鑑賞が始まっただろう。

 しかしそうなる前に、もう一波乱起きることになる。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 「ところでおねーちゃん、男の子のおともだちはどうしたの~?」

 「ふ、ふたり。その話はやめておこう、な?」

 「なんでー? 今日もくるって言ってたじゃんー」

 

 無邪気に放たれた5歳児の発言に対して、反応は大きく2つに分かれた。

 ちょっと気まずそうにしている両親と、どうしてそんな空気になっているのか理解できない虹夏、喜多、ひとりの3人に。

 

 「ほ、畔くんは風邪ひいちゃって……」

 「こんなに楽しかったのに、残念だよねー」

 「……えっ? もしかして本当にそんな子がいるのかい?」

 「えっ?」

 

 この2者の違いは、畔一保のことを知っているかどうか。

 つまりどういうことかといえば―――

 

 「てっきり新しいイマジナリーフレンドかなにかだと……」

 「ほんとにいたんだー」

 

 畔一保の実在は、まったく信じられていなかった。

 娘のことをよく知っているがゆえに、ということもある。ただそれ以上に、ひとりの話にリアリティがなかったのだ。

 

 始業式の翌日、クラスメイトに話しかけられたとの報告。この時はまだ普通に信じられていた。お祝いしようかなんて話になったこともある。

 しかしそのうち、雲行きは怪しくなっていった。ろくに会話も弾んでないのに毎日欠かさず話しかけてくるとか、ギターをやっていて文化祭ライブに出ようとしているとか、相手と撮った写真が全くないとか、休日も今まで通り1日中ギターを弾いているとか……

 そのうち両親は悟ったのだ。この話が全部、あるいはほとんど嘘なのだと…。

 

 家族からどう思われていたのかを知ってしまい、どんよりと暗雲を背負う後藤ひとり。

 虹夏は場の空気を立て直すために話を変えようとして―――再び待ったがかかった。

 

 「いかんぞひとり! その子に気を許しちゃならん!」

 「えっ!? お、お父さん落ち着いて……」

 「バンドマン、バンドマン、バンドマンの3Bは彼氏にしちゃダメだ! お父さんは認めないぞっ!!」

 

 いやバンドマンに対する偏見が過ぎる! と虹夏はツッコミを入れようとして、すんでのところで自制した。

 彼女はTPOをわきまえられるのだ。初めて会う友達のお父さんにツッコミいれるのは、ちょっとマズイだろう。

 ゆえにヒートアップしていく父親を止めたのは、別の人だった。

 

 「あなたも元バンドマンじゃなかった?」

 「ぐぅっ…。いやそれはそうだけど……」

 「というか畔くんはバンド組んでませんよ。ギターもやめちゃいましたし」

 「なぁっ…!」

 

 母親の暴露と、喜多ちゃんの援護射撃。

 追い詰められていく父親に対して、トドメの一言が放たれた。

 

 「家に来るのが楽しみだわ~! いつ来るのかしら?」

 「家に……来るっ…!?」

 

 

 その言葉に何を想像したのか。

 ついに限界を迎えた後藤直樹の顔から、顔のパーツがポロポロと落ちていった。

 

 「お父さんがのっぺらぼうに!?」

 「後藤さんのこれって、遺伝だったんですね……」

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 (まあぼっちちゃんのお父さんが心配するようなことには、たぶんならないんだろうけど……)

 

 ぼっちちゃんのお父さんの復活を待つ間。あたしは畔くんの恋愛模様について考えていた。

 ぼっちちゃんのお母さんは期待の目でぼっちちゃんを質面攻めしてるけど、畔くんとぼっちちゃんはそういう関係にならないだろう。あたしの見立てでは、畔くんが好きなのは……

 

 (どう見ても喜多ちゃんだよねぇ。ライブの絵も喜多ちゃんのところはすごい気合い入ってたし、絵の感想を真っ先に聞こうとしたのも喜多ちゃんだし)

 

 実は幼なじみらしいし、これはもう決まりでしょ。

 恋愛とかしたことないから分からないけと、あの態度で喜多ちゃん以外が好きとか絶対ない―――

 

 「花火大会の日に会ったのは誰なの~?」

 「畔くんだけど……」

 

 ―――ない、よね?

 あれ、なんか自信なくなってきた…。畔くん、ぼっちちゃん誘って花火大会に行ったの!?

 

 

 実は花火大会ではなく昼間に会っていたわけだが、そんなことは分かるはずもない。

 後藤ひとりも自己評価の低さから、そんな誤解をうむとは思いもせず…。ゆえに虹夏の誤解を解こうとする者はいなかった。

 

 期待半分、警戒半分の気持ちで喜多ちゃんを見る。

 喜多ちゃんが畔くんのことを気にしているなら、三角関係が成立することになる。恋愛関係のもつれは、バンド解散にも繋がりかねない。

 恋バナとしてはちょっと気になるけど、もしこれでショックを受けているようなら要注意かも…!

 

 そして虹夏が見たものは、

 

 

 

 (……いつもの喜多ちゃんだね。まあ現実はこんなもんか)

 

 全く気にしてない様子……ということはつまり、脈なしというやつなのだろう。

 幼なじみからの恋愛なんて、アニメやドラマの世界のお話なのかもしれない。ちょっとがっかりしたものの、解散の危機は幻想に終わったのだった。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 お手洗いを借りたいと言って、廊下に出る。

 誰もいない静かな廊下で、小さな声でつぶやいた。

 

 「畔くんのバカ……」

 

 誰にも聞かせるつもりがない言葉は、誰の耳にも届かなかった。

 




 自分のもの認定していた相手が別の子と仲良くするのを見てもやもやする女の子ってかわいいですよね私は好きです
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