結束バンドのファンになった転生者の軌跡   作:ハルカゼ

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 風邪をひいて土日寝込みました…。
 感想評価ありがとうございます! 金曜日には次を投稿できるように頑張ります。

 (作中のアイデアは○イで売られていたトートバッグを参考にしたものです。再販しないかな……)


決められたこと、決まらないもの

 

 本来の目的を忘れ、映画や遊びにかまけてしまった結束バンド(リョウ除く)の3人。

 

 残った僅かな時間でTシャツのデザインを考えようとしたが、またしても話は別の方向にそれていってしまう。流れで清楚系の私服(親の趣味であり自分では着ない)を披露することになった後藤ひとりだが、ストレスに耐えきれず爆発四散してしまった。

 胞子となってしまった後藤ひとりを、呆然と眺める喜多と虹夏。やがて2人の体にも異変が起こる――

 息ができず、倒れ伏す2人。誰かに謝りながら、2人の意識は闇に落ちていった…。

 

 

「気がついたらもう夕方でね、遅くなったからもうお開きってことに……」

「大変でしたね……」

「あはは…。それで結局、Tシャツのデザインは決まらなかったから――――」

 

 虹夏さんが後藤家でのエピソードを語るのを聞きながら、僕は心底こう思った。

 やっぱり行かなくて正解だったな、と。

 

 

 

 聞いている限り、後藤家訪問はアニメ通りの流れで終わったようだ。

 事細かに語ってくれたわけじゃないけど、そう判断していいだろう。ネガティブになって謝る喜多さんは見てみたかったが、ちょっとリスキーすぎたので諦めた。

 後藤胞子に侵されたらネガティブな考えになり、自分のダメなところを吐露して謝罪するようになってしまう。いま僕が抱えている悩み事的に、原作知識のこととか口走りかねない…。

 

 ところで「かわいすぎてごめんなさい」ってすごいセリフだよね。

 自分のかわいさに自信がないと出てこない発言だよ。実際かわいいから許されるけど、もしも男が言ってたらナルシストにしか見えない。イケメン滅びろ……

 

「私の考えたやつでいこうと思うんだけど、これどう思う?」

「うーん、そうですね……」

 

 虹夏さんからTシャツのデザイン案(というかアニメで見た完成形)を見せられる。これ以上のデザインとかないし、このままでいいと思うんだけど……何も言わないと役立たずっぽいかな? 

 せっかく別の日に呼び出してまで、デザインの話をしてくれているんだ。頼りにされてると判断していいのか、単に休んだから聞いてくれてるだけかは分からないけど、何もなしで終わらせたくない。

 何かないかな? なにか……そうだ!

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

「メンバーごとのバリエーション……ですか?」

「そうそう。バンドTシャツのロゴをベースにしつつ、それぞれの個性を出していこうかと。具体的には……」

 

 イメージイラストを見せながら説明する虹夏さん。僕が提案したのは、結束バンドロゴの応用だ。

 バンドTシャツは黒地に白い文字で描かれているけど、僕のデザインでは白地にメンバーカラーでロゴをプリントする。後藤さんならピンク、喜多さんなら赤……みたいに。

 あとは髪留めやリボンなど、各自のチャームポイントを加えて完成。もっとも、バリエーションを増やすとコストがかかるので……

 

「今は1種類だけで展開して、いずれ人気が出てきたらこっちも使っていこうかなと」

「メンバー4人分買ってもらえば、売上も4倍」

「夢がある話ですね!」

「あぁ、うぅ……」

 

 わりとみんなも乗り気……じゃないな。後藤さんだけなんか絶望してる。

 顔面崩壊するような要素あったか…? と考えていると、虹夏さんが答えを教えてくれた。

 

 

「あー、自分のやつだけ売れ残るとか考えてるんじゃないかな……」

「おお、なるほど…!」

「売れ行きの差で人気がわかる……あるあるだね」

「ヒェァッ…! わ、ワゴン行き、かいとり0円……」

「ご、後藤さん!? しっかりして~!」

 

 リョウさんの追撃により、後藤さんは溶けてしまった。虹夏さんの解釈はあたっていたらしい。……胞子に感染して理解力上がったとかじゃないよね?

 後藤さんは不安になってるみたいだけど、実際のところそんな心配しなくていいと思う。コアなファンを捕まえるタイプになりそう。

 

 

 喜多さんの介抱により後藤さんが復活したあと。

 バンドTシャツを試着することになったので、僕はスタジオから追い出された。着替え終わるのをホールで待っているのだけれど……

 

(なんか星歌さんに見られてる……)

 

 顔をあわせるのはオーディション以来。なんでここにいるの、とか思われてるんだろうか…?

 バイトの面接で音楽への関心のなさを厳しく咎められたのもあって、じっと見られてると落ち着かない…。

 気づかないフリで耐えていると、着替え終わった喜多さんが呼びにきてくれた。

 

「お待たせ―! ……ってどうかしたの?」

「いや、特に何も…。みんな着替え終わった?」

「ええ、大丈夫だけど……」

 

 喜多さんの言葉を待たずに席を立つ。

 星歌さんの視線に気づいた喜多さんが「何かしたの?」って目で問いかけてくるけど、僕にも分からないんだ。答えようがない。

 逃げるようにスタジオに入ろうとしたら、扉の前で腕をつかまれた。

 

「え、どうかした?」

「……べつに? なんでもないけど?」

 

 絶対なんでもなくない反応だよね?

 腕をつかんで、目も合わせようとしないし、もう片方の手は毛先をクルクルいじって…。

 

(……なんとなく正解は分かるけど、言わなきゃダメかな? 恥ずかしいんだけど…。でも言わないと拗ねちゃうやつだよねコレ)

 

 言うまで離してくれそうにないし、言うしかないか…。

 顔が真っ赤になるのが自分でも分かる。せめてもの抵抗で顔をそらしながら、正直な感想を言った。

 

 

「その…。Tシャツ、似合ってるよ」

「……ふふ、ありがと」

 

 くっ、恥ずかしい…。子供の頃ならかわいいねとか平気で言えたのに。

 僕がかなり疲れたかわりに、喜多さんの機嫌は良くなったのが伝わってきた。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

「先輩! 目線こっちにくださーい!」

 

 喜多の呼びかけに応じてポーズをとる。

 私は顔がいいからこんな反応には慣れているが、これだけ素直だと悪い気はしない。気分がいいので色々なポーズを見せてやった。

 

 

 キャーキャー喜ぶ喜多を見ていたら、ふと彼女の下の名前を知らないことに気がついた。店長なら知っているかな? 後で聞いてみるとしよう。

 あだ名もつけてないし、いつまでも名字で呼ぶのも他人行儀だ。明後日のライブが終わったら、名前呼びにするのもいいかもしれない。

 

(そういえば、畔の方も名前呼んだことないけど……)

 

 こちらはあまり呼ぶ気にならない。というか下の名前なんだっけ…? 忘れた。

 結束バンドの音楽に関心を持つようになったのは好評価だけど、いまいち畔自身への興味がわかない。もっと面白く生きたらいいのに。

 ……面白く? ふむ。

 

「ねえ畔、ちょっと聞きたいんだけど」

「はい、なんですか?」

「この中で、誰が一番似合ってると思う?」

 

 ピキリと畔が固まる。

 周りの反応も面白い。虹夏はなんか慌ててるし、ぼっちは自分には関係ないとばかりに床を向いている。喜多もスマホに夢中なフリをしているけど、指の動きがピタリと止まった。

 ククク…。この状況、なんて答えるのか見ものだな。冷や汗を流す畔をにやにやしながら眺めていると、しばらくして無難な答えが返ってきた。

 

「えっと…。みんなそれぞれ着こなし方が違ってて、いいと思います」

「あははありがとー。Tシャツ一つでも、色々着こなし方があるんだよね」

「……ですね! ところで今見たんですけど、なんか台風がきてるみたいで……」

 

 ちっ、うまく切り抜けおって…。どうせなら公開告白でもすればよかったのに。

 しかし台風か。あまりに悪い天気だと客の入りが悪くなるな…。

 

「てるてる坊主でもつくる?」

「いいねそれ! それしかない!」

「あ、でも関東からはそれるみたいですよ」

 

 一瞬、ちょっとだけ心配になったけど、結局問題はなかったらしい。

 てるてる坊主は必要ないかと思ったけど、ぼっちや畔は不安そうにしていたから付き合ってやることにした。ちょっと面倒くさかったけど…。

 

 

 

 この時間が無駄だったとは思わない。

 でも結局、てるてる坊主をつくる意味はなかった。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 ――――立ち止まったままだと、いつか後悔するよ?

 

 あの日聞いた言葉が、頭の中をぐるぐる回る。

 あの言葉は廣井さんの助言だったのか、それとも僕の想像がもたらした幻聴か……

 

 

 結束バンド、4人での初ライブ。その目玉はなんといっても、後藤さんのギターソロだろう。ギターヒーローの片鱗が見られる名シーンだ。

 でもその前に、1曲目の失敗がある。客入りの少なさや空気にのまれて実力が出せず、バラバラのまま終わった苦しい演奏…。

 

 あんなの痛々しくて見ていられない。苦しい思いをしてほしくない。

 できることなら、1曲目から上手く弾けるように働きかけたい。でもそれが上手くいったら、あのギターソロはどうなるのか? 観客は満足してくれるのか? その先の未来は…?

 

 

 

 窓がカタカタと揺れ、雨音も激しくなっていく。

 進路を変えた、あるいは予定通りの軌道をたどる台風がもたらす風雨は、夕方にかけてピークを迎えるのだろう。

 

 レールの上から外れる勇気が出ないまま、ただ時間だけが流れていった。

 

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