結束バンドのファンになった転生者の軌跡   作:ハルカゼ

8 / 12
 4月のイベント、抽選結果が届いたみたいですね。
 私は落選しました。



運命の分かれ道

 

 

「人違いでしたーー!!」

 

 STARRYの扉を開けると同時に、ピンク色の光と悲鳴に襲われた。

 たまらず目をかばっていると、やがて光は消え、薄暗いライブハウスが戻ってくる。今のはなんだったんだ…?

 

 

 近くにいるのは後藤ひとりファンのお二人。何かに怯えた様子。

 酔っ払いこと廣井さんが星歌さんに締められていて、結束バンドのみんなは……後藤さんが軟体生物と化して笑っている。

 この状況から導き出される結論。それは、

 

(……後藤さんが天に昇ったところか。まあこれはドン引きされるよね)

 

 かっこかわいいバンドマンを期待してきたら、出てきたのがぐへぐへ笑うスライムだ。人違い扱いされても仕方ない。

 まあこれが後藤ひとりなんだし、慣れてもらわないと…。

 

 

 しばらくして後藤さんは人間体に戻ったけれど、ファン1号・2号さんは戸惑っているようだ。

 後藤さんがやらかしに気づいて青ざめているなか、虹夏さんがフォローに入って2人をケアしていく。こんなんだから、そのうち虹夏さんの方が2人より仲良くなっちゃうんだよね…。

 

 ……まあコミュ力の差についてはいいか。

 後藤さんに関しては虹夏さんに任せておけば大丈夫そうだし、僕は中に入らせてもらおう。喜多さんと目があうと、笑って小さく手を振ってくれる。今日もかわいい。

 こちらも小さく手を振って、ファン1号・2号さんの脇を抜けたところで――後ろから声をかけられた。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

「あれ? 前のライブで歌っていた人ですよね?」

「本当だ。今日も歌うんですか?」

 

 ぼっちちゃんの奇行に戸惑うお客さん。そのフォローをしていたら、話がとつぜん変な方向に向いた。

 歌といえば喜多ちゃんだけど、前のライブ? あの時はインストだったし、そもそも喜多ちゃんは逃げちゃったんだけど…。

 お客さんの視線の先を確認すると、畔くんがいた。どういうことなの?

 

 

 お客さんと畔くんの話を聞いていると、どうやらこういうことらしい。

 ぼっちちゃんと畔くんが金沢八景で路上ライブをしていて、2人はライブをみてぼっちちゃんのファンになった。畔くんは臨時メンバー扱いでボーカルをつとめていた、と。

 なるほど、そういうことかー。

 

(……っておかしくない!? ぼっちちゃんと畔くんってそんなに仲良かったの!? この前の花火大会の話といい、知らない情報がどんどん出てくるんだけど!?)

 

 同じクラスだし仲良くなるのは自然なことだけどさ、片道2時間かけて何度も遊びにいく仲だったとは…。これマジでぼっちちゃん狙いある? 恋愛ってよーわからん。

 というかぼっちちゃん、路上ライブしたの? え、マジ…? 人気のないところで練習してたとかじゃなくて?

 

(ツッコミどころが多すぎる…。ライブ前じゃなければ色々問い詰めたいところだけど)

 

 落ち着いてライブにのぞむためにも、そろそろ楽屋に行かないと。ホールにいると客入りの悪さが目に見えちゃうから、みんなテンション下がりそうだし…。

 いやー、でも一歩間違えれば修羅場だよね。ぼっちちゃんはそういうのには疎いだろうし、喜多ちゃんは気にしてないから安心だけど。

 

 あたしにはぼっちちゃんも喜多ちゃんも、いつも通りの様子に見えていた。それが間違いだったことを知るのは、まだ先の話である。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

(なんだったんだろう? さっきの目……)

 

 みんなが楽屋に引っ込んだ後、僕は喜多さんのことを考えていた。

 もの言いたげな視線。不満のような、不安のような…。心当たりがないけど、なんかしちゃったかな…?

 さっきの反応だって、ずいぶんおとなしかった。普段の喜多さんならもっと、こう……

 

「路上ライブだなんて、後藤さんすごいのね!」

「えっ? い、いや~それほどでも~。うへへ」

 

 ……みたいな会話になっていたと思う。ライブ前だし、プレッシャー感じてるのかな…。

 うーんうーんと唸っていると、誰かに後ろから抱きつかれた。

 顔を見なくても分かる。この酒の匂いは……

 

 

「ど~したど~した~? ライブなのにテンション低いぞ~?」

「……いや、ライブ始まるのまだ先ですし」

「というか客に迷惑かけんな。シメるぞ」

「ギ……ギブギブ…。もうシマって……うっ」

 

 不埒な酔っぱらいが静かになる。断末魔のような声が聞こえた気がするけど、気のせいだろう。

 星歌さんはそのまま僕の近くに座った。……なんかじっと見られている。なんで…?

 

「こいつが迷惑かけたな。先輩として謝っとくよ」

「いえ、気にしてないです」

「そうか…。ところで、ちょっとききたいんだけど」

 

 真剣な目で見られる。

 なんか見覚えのある鋭い目つき。面接できつい指摘を受けたことが思い起こされ…………その想像は再び現実となった。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 もうちょっとでライブが始まる時間。僕は気持ちを立て直すため、お手洗いに避難していた。

 星歌さんは僕に悩みがあるのを見抜いたようで、洗いざらい吐かされそうになった。なんとか耐えて黙秘したけど、精神力は枯渇しそうだ。やっぱりあの人こわいって…。

 

 ……まあもし打ち明けてしまっても、どうにもならないだろうけれど。

 この先の未来を知っていて、それについて悩んでいます――なんて、気がおかしくなったと思われかねない。誰が相手でも、相談できそうにない話だ。

 

 

 僕は今まで、なるべく原作の流れを壊さないように心がけてきた。自分の居場所をつくるための行動はしたけれど、それ以外は原作通りになるように働きかけていた。

 それは原作知識というアドバンテージを保つためでもあるし、僕のせいでストーリーが乱れるのが嫌だったからでもある。

 

 僕のもつ原作知識は不完全だ。結束バンドがメジャーデビューを果たす、その途中で終わっている。

 だから僕は結束バンドの行く末を知らない。けれども「ぼっち・ざ・ろっく!」が後藤ひとり、ひいては結束バンドを中心とした物語である以上……その結末はきっと、ハッピーエンドのはずだ。

 

 

(でも、原作通りの流れを選ぶということは……)

 

 

 結束バンドの行く道は、決して平坦で楽な道ではない。

 色々思い悩んで、苦労して……一生懸命努力したにもかかわらず、うまくいかない。そんな未来だって待っている。

 ちょっとずつ進歩はしていくし、いつかは素敵な未来に辿り着くのだろうけど…。

 

 初ライブの1曲目は、その始まりのようなものだ。

 訪れる台風。少ない観客と心無い言葉。練習の成果も出せずに、バラバラな演奏をしてしまう。

 その苦しみがあるからこそ後のシーンが際立つというのは、一理あるかもしれない。ドラマとしては映える展開で――――でもこれは、フィクションではない。

 

 つらい思いをするのは僕の友達で、僕はそれを変えられるかもしれない立場にいる。

 でも僕は、変えることを怖がっている。変えた先の未来がわからないから。僕が介入したことでハッピーエンドに辿り着けなくなったらと思うと、二の足を踏んでしまう。

 

 ――原作通りの未来か、先の見えない未知。

 この期に及んで、僕はどちらを選ぶこともできずにいる。かっこ悪い……

 

 

 

 少しでも気持ちを切り替えられるように、顔をごしごし洗う。

 洗い終わって鏡を見ると、少しはマシな顔になっている……と思う。そのままホールに戻ろうとすると、壁際に誰かが寄りかかっているのが見えた。

 

 暗い通路。

 その人の顔や服装はよく分からなくて、でもそれが誰なのかは簡単に分かった。……酒の匂いで。

 

「あーきたきた。もうちょいでライブはじまるよ~」

「そうですね。そろそろ戻りま……す?」

 

 廣井さんの横を通り抜けようとすると、道を塞がれた。反対側から抜けようとして、またブロックされる。抜ける、ブロック、抜ける、ブロック……

 

 

「……あの、ホールに戻りたいんですが」

「その前にさー、ちょっとおねーさんとお話しよ~?」

 

 悩み事とかなんでも聞くよ~、なんて酔っぱらった顔で迫ってくる…。どうやら話すまで通さないつもりらしい。うざい…。

 話したところでどうにもならなさそうだけど。時間もないし、諦めて口を開いた。

 

「その、僕の悩みというのはですね……」

「うんうん」

「色々大変だけど成功が約束された道と、先に何があるのか分からない道。どちらを選ぶのかということなんです」

「ん~? なんか抽象的な話? 難しすぎてよく分かんねー!」

 

 ゴクリと酒を飲んで笑う酔っ払い。

 ……まあまともに受け取ってもらえるとは思ってないし、むしろまじめに返されたら困ったけど。笑い飛ばされるとそれはそれで嫌な気分だな。

 隙を見て無理やり突破しよう…。なんていう考えは、次の言葉でひっくり返った。

 

 

「けど1つだけ言えるのはね~、迷ったときは、自分の心に正直に生きるべきだよ」

「……え?」

「先のこととか、失敗したときのこととか考えないでさ、やりたいようにやってみる」

 

 ――それがロックってもんでしょ。

 

 

 ストン、と胸に落ちてくる言葉。

 廣井さんの瞳が見えたのは一瞬だったけれど、その瞳からは信念が感じられた。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 お酒でドーピングなんていう世迷言は断り、ホールに戻る。 

 グダグダ悩むのなんて、確かにロックじゃなかった。選択はギリギリになってしまったけれど、まだ間に合うはず。

 

 

 ――諦められない

 ――手放したくない

 

 ようやく掴んだ居場所、大好きな人。

 どちらも捨てることのできない、大切なものだ。

 

 

 胸を張って、隣にいられるようになりたい。

 そして何より、ずっと笑顔でいてほしい。

 

 

 だから、僕が選ぶ道は――――

 

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