書けたので投稿しちゃいます。
ちょっと文字数少なめ。
「1番目の結束バンドって知ってる?」
「知らなーい、興味ない」
「見とくのだるいねー」
パタン、と扉が閉まる音が虚しく響いた。
……覚悟していたことだ。台風の影響で、チケットを買ってくれたお客さんもほとんど来ていない。今いるお客さんのほとんどは、別のバンドを観に来た人たち。
だから私たちみたいに知名度もない、ほとんど初ライブのバンドに期待していないのも当然のこと。だけど……
「あははっ。結成したばかりでまだ知らないからね。落ち込まないでっ」
「気にしない、気にしない……」
さっきの言葉は、あまりに深く心に刺さってしまった。
いつもみんなを盛り上げてくれる虹夏ちゃんの声も、気にしないと言い張るリョウさんの態度も、無理しているのが伝わってくる…。
明るい性格の喜多さんすら、何もしゃべらない。
虹夏ちゃんがかけ声をあげるけど、その声は上ずっている。こんな調子で大丈夫かなって心配になるけど、私にできることなんて思いつかなかった。
空気が、重い。気まずい雰囲気のまま、ステージに移動しようとしたとき、
――ドン! と音を立てて扉が開かれる。
音とともに飛び込んできたのは、畔くんだった。
~~~~~~
ずっと、考えていたことがある。
もし8話の展開を変えるとしたら、どんな方法があるのだろうか。
台風を吹き飛ばすなんて、当然できない。
観客の言葉を聞かせないようにしたところで、少ない観客・盛り上がっていない会場での初ライブというのは変わりない。失敗に終わってしまう可能性が高いだろう。
崩れてしまった彼女達の心を、僕が支えるというのも難しい。そんな精神的支柱になれるほど、深い関係を築いてきていないから…。
だから、僕にできることがあるとすれば。
精一杯の気持ちを伝えて、結束バンドに自力で立ち直ってもらうしかない。
でもライブ前の僅かな時間で、少し言葉を交わしたくらいでそれができるとは限らない。それもまた、分かっていたことだ。
分かっていたから――――切り札を用意しておいた。
”切り札”を喜多さんに押し付ける。
そのまま無言で楽屋を飛び出す。言葉なんて必要ない。
僕の想いは全部、あれに込めてある。
~~~~~~
嵐のようにきて、その勢いのまま去っていった畔くん。
本番直前の楽屋に入ってくるなんて非常識なことなのに、それを叱る暇すらなかった。いったいなんなのさ、もーっ!
憤りのまま、喜多ちゃんの手元にある”それ”を覗き込んだ。こんなことして、変なこと書いてあるなら承知しな、い……
――キラキラとステージで輝く私たち
あたしとリョウは楽器を奏でながら、アイコンタクトを交わしている。ぼっちちゃんは俯いているけど、楽しそうにギターを弾いている。
センターの喜多ちゃんが歌う姿は、今にも動き出しそう。
オーディションの日に畔くんが描いていた絵が、色も塗られて完成した状態になっていた。背景に描かれた「STARRY」の文字が、あたしの夢を思い起こさせる。
絵の中の私たち、とても楽しそう。……いつの間にか、大事なことを忘れていたみたい。
(音は感情を伝える。だから何より、楽しく演奏すること!)
肩の力が抜ける。顔を上げてみんなを見ると、喜多ちゃんもリョウも穏やかな顔をしていた。
ぼっちちゃんは……ああ、絵が見れなくてわたわたしてる。場所を空けて、ぼっちちゃんも見れるようにしてあげた。
「考えてみれば…。この日のお客さんって、今日よりずっと少なかったよね」
「ですね。店長さん、PAさん、畔くんの3人だけですし」
「……でも、いいライブだった」
(うん、うん…!)
あの日に比べれば、今日の方がずっとお客さんが多い――なんて、詭弁みたいなものだけど。でもお姉ちゃんがプレッシャーをかけてきていたし、環境の悪さでいったらそんなに差はないはず。
ライブ本番とオーディション。環境は違えど、やることは変わらない。みんなで楽しくライブして、お客さんの心を掴めばいい。
「みんな、準備はいいね?」
「はいっ!」「ん」「あっはい」
「それじゃ、あらためて――」
――――ライブ、楽しんでいくよ!
そう呼びかけて、拳をつき上げる。
それに応える声はバラバラで、でも私たちの心は1つだった。
~~~~~~
暗がりの中、機材の調整が終わる。
開演時間ちょうどに照明が点灯し、MCパートが始まった。
「初めまして! 結束バンドです! 本日はお足元が悪いなかお越しいただき、ありがとうございます!」
「あはは、喜多ちゃんロックバンドなのに礼儀正しすぎだって~」
台本通りの寸劇。明るく笑いをとろうとしたが、期待したような反応は起こらない。
愛想笑い2割、無反応8割といったところか。スベったことに若干ひるみつつも、MCは続いた。
「えー…。では早速、1曲目いきたいと思います!」
「私たちのオリジナル曲で、『ギターと孤独と蒼い惑星』」
MCで笑いを取ることは難しいと判断したのか、足早に演奏に移る。
本来ならこの時、ほぼ全員が平常心を失っていた。周りと呼吸を合わせることもできず、呼吸が合っていないことに気づくことすら、できないほどに。
しかし今は、誰も平常心を失ってなどいない。その差は確実に、演奏に表れる。
速いテンポの曲ながら、ドラムの叩く音は乱れない。
ベースもしっかりドラムと呼吸を合わせつつ、足りないところを補っていく。
ギターも歌も、揺らぐごとなく曲を彩る。周りの音を聴きながら、自分の世界を表現する。
演奏が客の心をつかみ始めるなか、ステージでは不思議な感覚が広がっていた。
――トントンとドアを叩くような、あるいは足踏みをしているような感覚。
後藤ひとりの奏でるギターの音が、一緒に演奏する仲間に、その感情を伝えてきた。
こうしてライブをする日を、どれだけ待っただろう。
ギターを始めて3年以上。ようやくまともにステージに立てた。かかった月日の長さ、ここに至るまでの苦労。それが長く深いだけに、喜びもひときわ大きい。
一緒に演奏するのが楽しくてたまらない――この瞬間すら、待ちきれないほどに。
ひとりの感情を、やろうとしていることを察した3人は、その瞬間に備える。
やがてサビに入ると―――後藤ひとりは走り出した。
練習の時ですら見せたことがない”ちょっとだけ本気”の演奏。
まだステージ慣れしていないため緊張もあるし、周りに合わせるためにセーブしながらだが……それは紛れもなく、ギターヒーローとしての弾き方だった。
ギアの上がった演奏に、他の3人も食らいついていく。やがて1曲目が終わったとき――
ステージを見ていないものは、誰一人いなかった。