『裸の聖女』が世界を救うまでの物語 〜異世界召喚されてしまった少女は、早くおうちに帰りたいのです〜   作:柴野いずみ

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02:裸騒動

 よし。

 周囲の人々を見回しながら、私はゆっくりと事実を受け入れます。

 

 私を取り囲んでいる彼らは皆一様に、華やかなドレスや紳士服を着こなしています。まるで海外のパーティーか何かに出席するような格好をしているのです。

 一方私自身を見ました。………………裸。下着はもちろんのこと、ブラも、パンティも、何もかもを脱ぎ捨てた完全なる裸体でした。

 

 多くの人々の視線の集まる中、私の姿はなんとこの場に不釣り合いなことでしょう。

 というより――。

 

「いやぁぁぁぁぁぁっ――!!!」

 

 私は遅まきながら重大な事実に思い至り、思わず絶叫してしまいました。

 ……そう、そうなのです。私は今、明らかに百人以上はいるであろう人間に、ありのままの裸体を晒しているんです!

 

「セージョ様!」

「本当のセージョ様か?」

「あらあらまあまあ、どうしたことでしょう」

「はだ……ゲフンゲフン」

「まるで母なる者を体現しているようですわ」

「あっ……」

「裸!?」

 

 男性陣からの好色の視線が、女性陣からの驚き憐れむような視線が痛い痛い痛いっ。

 お願いですからそんな目で見ないで! 視線で犯さないでください、突き刺さって死にます! ……とにかく、

 

「服! 服です! お願いですから誰か服を持って来てくださいよぉ――!」

 

 私は人生最大の辱めを受け、悲痛な声をホール中に響かせたのでありました。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 よく漫画などで主人公に風呂場を覗かれたヒロインが悲鳴を上げるなどの描写があったりしますが。

 あんなものではありません。この恥ずかしさはあんなのとはレベルが違いすぎますよ……!

 

 男たちの視線は、まるで獲物を得た獣のように見えます。おぞましく、身の毛がよだつ思いでした。

 

 叫んだものの、いくら待っても洋服が運ばれて来る様子はありません。どうやら皆も驚愕と共に困惑しており、それどころではないようです。

 これは相手側からするとラッキースケベなわけですね。女性の方々には嬉しくないことでしょうが。

 

 ある者は叫び、ある者は笑いを堪え、ある者は舌なめずり。静かだったこの場は一瞬で大混乱の渦に包まれました。

 

 仕方ないので私は近くに立っていた女性の羽織を奪って着ました。

 ごめんなさいっ。こうするしかなかったんです許してくださいと心で叫びながら。

 カーディガンのようなものを一枚纏ったところでもちろん薄着には違いありませんが、最低限の場所は隠すことができました。ブルブル、まだみられてます、怖いですぅ……。

 

 それから数分後になって、ようやく騒ぎが収まってくれました。

 よほどにショッキングなことだったらしく、失神しているご婦人方までいらっしゃいます。人ってそんなにすぐに気絶するものなんですね。……というよりむしろどうして私自身が気絶しなかったのかが不思議でなりません。

 

 ああ……。なんていうことでしょう。これ以上の悪夢があるでしょうか?

 いいえ、きっとどこを探したってないに違いありません。

 私が神様に何か悪いことでもしたんですか。恨みますよ神様。

 

 神の悪意しか感じない仕打ちに腹を立てつつ私が恐怖に震えていると、目の前に何者かが歩み出て来ました。

 輝かしい銀髪に澄み渡った菫色の瞳。恐ろしいほどの美貌の男性――と言っても、先ほど私を笑っていた一人なのですが――でした。

 警戒する私に彼は一言、

 

「ようこそおいでになられました。心からお待ちしておりましたよ、裸のセージョ様」

 

 そう言ってにっこりと微笑み、頭を垂れたのです。

 

 お風呂から急にわけのわからない場所に来たと思ったら真っ裸で、さらに、ようやく落ち着いたと思った途端に謎の美男子に意味不明な言葉を告げられる。

 今私が見ているのは現実ではなく、珍奇な夢か何かなのでしょうか……?

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