『裸の聖女』が世界を救うまでの物語 〜異世界召喚されてしまった少女は、早くおうちに帰りたいのです〜   作:柴野いずみ

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25:へっぽこ聖女の誕生

 ニニからの試練の後、私の意識が戻ったのはたっぷり三日が過ぎてからのことでした。

 

 数日と経っていないのにまた倒れてしまうだなんて……。しかも三日も意識不明だったとは、私、体力なさすぎじゃありませんか?

 でもまあ、アレほどの過酷労働をしたのだから仕方ありませんね。約百匹を相手にして、五十人ほどの大怪我をした人々を癒し、それからニニを打ち負かせだなんて無茶ぶりにもほどがありましたから。

 

「そ、そういえば私、試練にクリアしたんですか……?」

 

 見舞いに来てくれたニニに私が尋ねると、彼女は静かに頷き、

 

「もちろんでございます。聖女様は確かにわたしを圧倒し、立派な聖女として認められたのでございます」

 

 私が勝ったのだという事実をはっきりと教えてくれました。

 どうやらニニと私の対戦が始まった直後、素手で攻撃してきたニニに向かって私は聖魔法の、それも最大級の威力の結界を張ったらしいです。

 結界はあの庭園中に広がり、ニニを吹っ飛ばしたようで、これで私の勝ちとなったのだとか。その時にはすでに私は気を失っていたのですが……。

 

 いまいち実感のない勝利ですけど、これでもうニニの厳しい修行は受けなくてもいいということですよね。それだけで私がこの勝負に挑んだ甲斐があったと思えました。

 

「本当にお疲れ様でございました聖女様。厳しい訓練に耐えられたあなた様ならきっと、これからのどんな苦難にも立ち向かえることでございましょう」

 

「……そう、ですね。こちらこそありがとうございました」

 

 この程度でぶっ倒れている人間がこれからあるかも知れない謎の苦難とやらに本当に太刀打ちできるかはわかりませんが。

 せっかく勝ったことですし、今は細かいことは気にしないことにしましょう。

 

 今この瞬間から私は本物の聖女として認められたということなのですよね。

 こんなへっぽこに聖女という役割が務まるのかどうか。それは私にはわかりません。ただ、何とも言えない使命感のようなものが背中にのしかかってきたように感じられたのでした。

 

「――さて。では長居しても聖女様のご負担になりますからわたしはこれにて失礼いたします。ではまた」

 

「はい」

 

 ではまた、ということは後日に何かあるのでしょうか。気になりますが我慢我慢。

 とりあえずせっかくフリーになったことですし、のんびりでもしますか。でものんびりすると言ってもこちらの世界にはゲームだの漫画だの娯楽系のものが一切ないのですよね……。いつもは次の修行の際にどうやって上達してニニを見返してやるかの思考に沈んでいたのですが、もうその必要もありませんし。

 

 と、早速暇を持て余していた時のこと。

 

「『裸の聖女』! 気がついたって本当なのかしら!?」

 

 そんな風に喚きながら、勝手に私の部屋へ飛び込んで来た人影がありました。

 赤毛にエメラルドのような瞳の可憐なその少女は、言うまでもなく王女様でした。ずいぶんと騒がしい入室ですね。私、起きてからまだ三十分も経っていないんですけど配慮とかはないのでしょうか。

 

「……王女様、『裸の聖女』って呼ぶのやめてくれませんか? 恥ずかしいんですが」

 

「事実だから仕方ないでしょうが! ……わたくしに反論できるくらいなのだもの、すっかり回復したようね。こちらがどれだけ迷惑したかも知らないでいいご身分だわ!」

 

「つまり王女様は私の心配をしてくださったんですね?」

 

「心配なんかしてないわよバーカ!」

 

 王女様は相変わらず元気で、と同時に配慮という観念が欠如しているようです。まだ十歳だから仕方がないのでしょうか……。

 でもしばらくギャアギャア騒いでいると、私も少しずつ調子が戻って来ました。まだ身体中が重い感じがしますがある程度なら動けそうなので、ベッドから立ってみることにします。

 

「立てました。ニニは魔力がどうだか言っていましたが、そこまで問題なさそうですね」

 

「ふーん。あれほどの魔力を使って三日で体力が戻るとは、まあ、その……珍しい人間ね?」

 

「魔力という観念が正直よくわからないのであれですけど、私が異世界の人間だからなんでしょうか。でもできるだけ魔法は使いたくないです。疲れますから」

 

「聖女のくせに怠惰なこと」

 

 ……私は聖女である以前に一人のか弱い女の子なので。

 そう言おうと思いましたが、この世界での私の存在価値が聖女である以上、ただの少女でいられないのも事実。私は言葉をグッと飲み込みました。

 

「それで、王女様は私の様子を見に来てくれただけですか? 何か急いでいたご様子でしたけど」

 

「あっ、そうだったわ! 『裸の聖女』、正式な聖女に選ばれたのならとっとと母様の傷を治しなさい! これは王女の命令よ」

 

「私さっきも言いましたけどできるだけ魔法は……」

 

「いいから来なさい!」

 

 そう言うなり王女様は私の腕をがっしりと掴み、勢いよく部屋の外へ駆け出してしまいます。

 そうすると当然私はついていかざるを得ないわけで、床を引きずられるようにして彼女の後を追うことになりました。

 

 ――これ、寝起きの人間にする仕打ちじゃないと思うんですが。この国の人たちは揃いも揃って私を過労死させる気なんですかね?

 そんなツッコミすら口から出ないまま、私は王妃様のいるという場所へ連れて行かれたのでした。

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