『裸の聖女』が世界を救うまでの物語 〜異世界召喚されてしまった少女は、早くおうちに帰りたいのです〜   作:柴野いずみ

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30:宮廷料理人の協力

 私と王女様は手分けして紫粉と香水を入手することに成功しました。

 

 そこから入浴剤とバスオイルを作ります。現代的なものがないのでなかなかに苦戦しましたが、水に溶かしたりして工夫し、何度も失敗しつつ数日がかりで完成させました。

 

「香り高く見た目も美しい……! 可憐で高貴なわたくしにぴったりだわ!」

 

「自分で可憐とか高貴とか言えてしまうことにドン引きなのですが……」

 

「何か言ったかしら?」

 

「言ってません」

 

 そんなこんなしているうちにまもなくニニが発注してくれた大きな木材が届きました。

 木材というよりはとんでもなくでかい丸太です。確かにこれをうまく削ることができれば浴槽が簡単に作れるでしょう。

 

「どうやって削ります?」

 

「聖魔法はそういうことに向かないし、わたくしの時魔法もいまいちなのよね。悔しいけれどこれまたニニにやらせるしかないわ」

 

「ニニって結構有名な騎士様なんですよね? お忙しいんじゃ……」

 

「いいのよあんな平民風情。こき使ってやらないと勿体無いでしょう」

 

 こんなことまで頼んでしまっては悪い気がしてなりませんが、他の手も思いつかないのでニニに申し訳なく思いつつ私は頷きます。

 

 それから再びニニの元へ赴くと、彼女は「聖女様のためなら」と意外にも快く私たちのお願いを受け入れてくれました。そしてなんとその場で剣を抜いて木材を真っ二つにしてしまい、浴槽を作り始めてしまいました。

 

「す、すごい……。ニニって何でもできるんですね」

 

「何でもできるというわけではございませんよ。少し魔法の才と縁に恵まれただけの、ただの平民でございますから。聖女様はわたしを買い被りすぎかと」

 

 その割には喋りながらあっという間に木材を風呂桶の形に変えているのですが……。それも私の知る浴槽とほぼ同じです。簡単に形状を話しただけなのに、すごすぎやしませんかね。

 それはさておき、ありがたく浴槽を受け取れば、これでいよいよお風呂に必要なものが揃いました。

 後は事前に用意していた、洗濯で使う水を聖魔法の力で浄化した聖水を浴槽に満たせば完成……。

 

「ってちょっと待ってください。大事なことを忘れていました!」

 

「何よ急に。大事なこと? まさかまた手をベタベタにして何か作らせようという気じゃないでしょうね?」

 

 バスオイル制作の時に手を油まみれにしたのが王女様の中ではトラウマになっているようです。あれくらい別になんてことないんですけどね。

 ……そうではなく。

 

「お風呂にとって最も欠かせないもの、それは火です!」

 

「火? 水に火を入れたところで消えるに決まってるじゃないの」

 

「わかってませんね。お風呂の水が冷たくてどうするんです。温かいからこそお風呂はリラックスできるんですから!」

 

 力説する私に、王女様は「そ、そうなの……」と一歩後ずさってしまいました。私、実は大のお風呂好きなので、結構こだわってしまうのです。

 

「木の破片はありますけど、手で火を起こすのって大変ですよね。でもこの世界には多分マッチもライターもなさそうですし」

 

 そう言って考え込んでいると、気を取り直したらしい王女様が「何言ってるのよ」とおかしそうに笑い、こんなことを言いました。

 

「火魔法の使い手に頼めば一発じゃないの」

 

「そんな魔法が使える人がいるんですか?」

 

「ええ、もちろんよ。火がなくては料理ができないことくらい、異世界人でもわかるわよね? 宮廷料理人の扱う火魔法は一般的な魔石で起こす火よりずっと精度が高いから、その力を借りるといいわ」

 

 宮廷料理人! そんな人がいるんですね。確かにこの王城ではあれほど美味しい料理が毎日出て来るのですから、専門の職人さんがいて当然ですよね。

 火の魔石というのがあるのも初耳ですが、宮廷料理人さんの魔法はかなりすごいとのことなので、頼ってみる価値はありそうです。

 

「行ってみましょう」

 

「わたくしは疲れたから、一人で行って来なさいよ」

 

「……なら私が一番風呂に入っていいなら」

 

「王族たるわたくしを優先しないだなんて、なんて不敬な奴なのかしら!」

 

「いいから行きますよ」

 

 もはや慣れればこの王女様の扱いなど容易いものです。

 そのまま王城の厨房へ直行し、宮廷料理人さんに会うことになりました。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「おぉ! 王女殿下に聖女様ではございませんか! ワタシの料理を褒めに来てくださったのですかな?」

 

 厨房――想像以上に広くて立派です――に入った途端鼓膜を震わせた声に、私は思わず彷徨わせていた視線をその人物へ向けました。

 

 白いコック帽に似たものを被り、エプロンをしたそこそこ背の高い男性。この人が宮廷料理人で間違いないでしょう。

 

「こんにちは。いつも料理、美味しくいただいてます」

 

「そうでしょうそうでしょう!!! ワタシの作るもので失敗作など何一つないのですよ! さあさあ、もっと褒め称えてくださって構いませんよ!」

 

「うるさいわよ料理人。確かに貴方の料理はなかなかだけれど、その態度が気に入らないわ。改善なさいといつも言っているでしょう」

 

「ははは! 照れ隠しとは、王女様もやりますなぁ!」

 

 ……少し話すだけでわかりました。この人、なんかテンションがおかしいです。ぐいぐい来ます。今まで異世界人には数えるほどしか会っていませんが、なんだか変な人の確率多いですよねぇ……。

 でもどうやら悪い人ではなさそうなので安心です。早速本題を切り出すことにしました。

 

「あの、宮廷料理人さんは火魔法が使えるんですよね?」

 

「はい! おそらくスピダパム王国内では最上級と言っていいでしょうなぁ!」

 

「その魔法で少し協力してほしいことがあるんですけど」

 

「いいですとも! ワタシの素晴らしい腕でどんなお悩み事でも解決して見せましょうぞ!」

 

 自信満々ですね……。まだ私、用件も言っていないのですが。

 でもまあ快く引き受けてもらえたので良しとしましょう。私は頭を下げました。

 

「じゃあ、ぜひよろしくお願いします」

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