『裸の聖女』が世界を救うまでの物語 〜異世界召喚されてしまった少女は、早くおうちに帰りたいのです〜   作:柴野いずみ

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38:初めての馬車はドキドキ

 自分の人生の中で馬車をリアルで見る機会があるだなんて、思ってもみませんでした。

 

 立派なたてがみをふさふささせた二頭の白馬。その馬が繋ぎ止められている馬車本体はあちらこちらに散りばめられた装飾が金や銀に眩しく輝いています。

 馬車の中は非常に広い造りとなっており、まるでおとぎ話の中のお姫様の乗り物のようでした。

 

「でもそれもあながち間違っていないんですよね」

 

 この国には現に王様や王女様といった絵本の中の世界と言ってもおかしくないような人々がいるのですから、馬車があって当然なのでしょう。

 私は目をキラキラさせながら初めての馬車にそっと乗り込みました。

 

 座席は革製のようで座り心地がいいです。こんな広い場所にたった一人で座っていいのでしょうかなんて思いつつ、馬車の隅っこに腰掛けます。

 と、ちょうどその時。

 

「よぅ嬢ちゃん。あんたが聖女様だべか?」

 

 馬車の前方から突然声がしたので私はギョッとしました。

 馬車の中には誰もいないのに……と思って前を見てみれば、そこには見知らぬ男性が。

 

「私は聖女の早乙女聖ですけど……。ど、どなたですか?」

 

「おらか? おらはこの馬車の御者だべ。ある程度腕っ節があるからお城で重宝されとるんだ」

 

 御者台から身を乗り出したのは熊のような巨漢。御者さんのようです。

 いきなりの田舎なまりにかなり驚きはしましたが、そういうことなら安心です。一瞬誰か別の怖い人が乗っているんじゃないかなんて考えてしまいましたよ。

 

「そうですか。じゃあ馬車の運転、よろしくお願いしますね」

 

「おうよ」

 

 御者さんが手綱を握ったらしく、ガタン、と一度大きく揺れてから、ゆっくりと馬車が走り出します。

 王城からの旅立ち。私はなんだか浮かれてしまい、思わず歓声を上げました。

 

「いざ出発!ですね」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 横手の窓を開けると、そこから涼やかな風が吹き込み、私の髪を静かに揺らしました。

 そしてふと窓の外に目をやれば、そこに広がっていたのは石畳の古風で美しい街並み。それはまるで映画の中の世界のようで、その信じられない光景に目を瞠る他ありません。

 

 馬車がガタガタと揺れています。馬車での旅ってこんなにお尻が痛いものなのですね……。知りませんでした。でもそんなことすら楽しく思えるのですから不思議です。

 私にとって今目にしている景色や体験は何もかもが新鮮であり、これ以上なく胸がドキドキと高鳴っていました。

 

「やっぱり異世界、すごいです……!」

 

 誘拐されるようにしてやって来たのもあって、最初はあれほど嫌に思っていた異世界。ですがその実、素晴らしい場所なのかも知れないと私は思いました。ずっと城に閉じこもっていたことを勿体なく思ってしまうくらい外は魅力的なもので溢れています。

 大きくて立派な家の数々、道端を飛び交う元気な人々の声。私のいた世界では見られないほどの活力が街の中に満ちていたのです。

 

 そうして私がはしゃいでいる間にも馬車はガタゴトと音を立ててながら走り続けています。

 私の馬車旅はまだ始まったばかり。御者さんによると、今いる場所……王都というところを抜けるには、一日以上はかかるそうです。

 その間、ゆっくりとこの旅路を堪能することにしましょう。

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