『裸の聖女』が世界を救うまでの物語 〜異世界召喚されてしまった少女は、早くおうちに帰りたいのです〜   作:柴野いずみ

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42:まさか一巻の終わり?

 人生においてどうしようもない時って、あるじゃないですか。

 諦めも肝心とよく言いますよね。……でも今の私の状況は、詰みでありながら諦めたら終わりなのです。手も足も出ないとはこのことだと思いました。

 

 もっと殴られたり言葉にはできないようなひどいことをされるかと思っていたのですが、実際そうはならず、再び私は先ほどにも増してキツくキツく雁字搦めにされることになりました。縛られた全身がぎしぎしと軋むような音を立てて痛み、思わず口から呻き声が漏れます。

 一方で男たちは何やら相談を始めていました。私の聖魔法で五人中の三人が吹き飛ばされ、怪我を負ったらしいのです。ざまぁ見ろと言いたいところでしたが『その程度』でしか済んでいないということでもありますし、第一、彼らの怒りを昂らせるという良くない方向に作用してしまっていました。

 

「クソ。あの女!」

「あの威力は凄まじかったぞ」

「ただの女って舐めてたのがいけねえな。もっととっちめてやらねえと」

「男三人をぶっ飛ばせるくらいの魔法が使えるってことはお貴族様じゃねえのか? それだったら身代金要求した方が」

「護衛もつけてねえし、あんな格好したのがお貴族様なわけあるかよ。とっとと娼館に高値で売っ払っちまおうぜ」

 

 娼館。あまり聞き慣れない言葉ですが、つまり夜の店、ですよね。

 夜の店に身柄を売られた時の未来は見え見えです。しかもこんな男たちが出入りするような場所なわけですから相当治安が悪いでしょう。そんな人間の権利を無視された玩具になるのは当然ながら嫌でした。

 

「誰か助けて……」

 

 か細い声で呼んでも当然のように誰も来ません。

 魔法で体力を消耗してしまったのか全身に力が入らず、もはや暴れることもできませんでした。暴れたところで男たちに殴られて失神させられるのがオチでしょうし。

 

 今ここにニニが来てくれたら……とふと思いました。彼女であればあんな男たちくらい一太刀でやっつけられるに違いありません。

 レーナ様なら、時魔法で彼らの体を停止させることもできるでしょう。今朝別れたばかりだというのに彼女たちのことがひどく懐かしく思えます。

 

 それから次に思い浮かんだのは残して来た家族の姿でした。……もう会うことはできないのでしょうか。そう思うだけで涙が出そうです。また会いたい、その一心で今までの日々を耐えて来たのに、こんなところで、こんな形で終わってしまうだなんて。

 

 私にもっと力があれば。聖魔法だってきっとチート級のすごい力なんだと思うんです。ただ、私がそれをうまく扱えていないだけで。

 こんなイベントがあっても覚醒できない自分に嫌気がさします。物語だったら「神様っ。私に力を貸して!」みたいな感じで覚醒するのがお約束でしょう。どうして私は覚醒できないどころか八方塞がりで娼館送りにされなければならないのですか。

 

 胸の中に湧き上がって来たのは運命という名の不条理への怒り。そしてこんな事態に陥っている自分への情けなさ、でした。

 

 ――いいじゃないですか。こうなったらヤケクソです。全力で抗ってやろうじゃないですか!

 

 再びやる気が込み上げて来て、口元に小さな笑みが浮かびます。

 それからなけなしの声を大にして力一杯叫びました。

 

「チンピラの皆様方。どうぞ私の話を聞いてください!」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「――聖女、だと?」

 

「はい。私は聖女。この国に呼ばれてやって来た、偉大なる聖女なのです! 聖女にこんな仕打ちをしたら国王様が黙っていませんよ? それに私はこの国の王女様の大親友! 『光の騎士』ニニとも仲良しで、私が娼館に売られたとあらばあなたたちの首はポーンですよ! さらにさらに! 私はこの世界でただ一人魔物の傷を治癒できるんです! そんな人材がいなくなれば、あなた方がもし魔物に襲われた時、どうなると思います? 私を犯したって娼館に売りつけたっていいことは何もありません! 死! 死があるのみなんです! そんなのあなたたちも私も嫌でしょう? だから私の即時解放を求めます!」

 

 ……私がとった最終手段。それは脅しでした。

 いかに悪いチンピラさんでも、これだけ言ったらさすがに怯むはずです。国王様と繋がりがあって、かの有名な――と言っても、実は彼女の話はほぼ知らないのですが――『光の騎士』のニニと知り合いで、しかもこの世界で重宝される聖女という存在。そうと聞かされてもなお私を連れ去ろうなんて思う愚者はいないでしょう。

 

「さあ。おわかりになりましたか? 大人しく解放してくれればこの件は不問と――」

 

「何言ってんだお前。そんな戯言を俺たちが信じるわけねえだろ。馬鹿か?」

 

 しかし、私のあまりにも甘い考えはこの暴漢たちに通用するはずがなかったのです。

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