『裸の聖女』が世界を救うまでの物語 〜異世界召喚されてしまった少女は、早くおうちに帰りたいのです〜   作:柴野いずみ

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08:聖女とかどうでもいいから帰らせて

 私はどうしようもない孤独感に苛まれ、せっかく出された夕食を食べることもせずに泣き出してしまいました。

 

 高校一年生にもなってこんなに泣きじゃくるなんていうのはみっともないでしょう。しかし、じゃあ私にどうしろと言うのですか。

 

 だって、ここは私の家じゃないのです。

 それどころか日本、いえ地球ではない別の場所。私は今この世界で、たった独りきりでいます。

 

 もちろん、部屋を出れば使用人の人や国王、貴族だって大勢いるのでしょう。そして聖女であるらしい私にペコペコするに違いありません。なんて言ったってここはファンタジー異世界ですもの、身分が絶対。聖女は王族に匹敵する役割を与えられるはずですから敬われること間違いなしに決まっています。

 でも彼らは、私とは違いました。私にとって彼らは完全なる異種族なのです。

 

 それも当然。このスピダパム王国に暮らす人々は、私よりも遥かに背が大きかったのですから。

 平均身長が女性でも二メートルほど。男性など高身長の人ではそれ以上は余裕にあるでしょう。

 そして髪の色だって、瞳の色だって、地球人ではあり得ないカラフルなものばかりです。

 

 似ているけれど全く別の……そう、気持ちの悪いエイリアンのように私は感じてしまうのでした。

 

 ならどうして言葉が通じているのかと言えば、それは聖女の力なのだとか。

 女神という存在に選ばれた私は、彼らの言葉が自然とわかるんだそうです。よくわかりませんが、神のご都合主義な悪意を呪いたくなりました。

 

 いっそのこと言葉が通じなかった方が良かったのではないだろうかと思いました。それならば聖女などという意味不明な仕事を強引に押し付けられるようなこともなかったに違いないというのに。

 

 

 どうして私は、こんな目に遭わされなければならないのですか?

 何か目をつけられるようなことをしたのでしょうか。私が何か悪いことをしたなら謝ります。

 

 ですからどうか、帰らせてください。

 聖女とか世界を救うとかはゲームやラノベでお腹いっぱいで、本当にどうでもいいんです。私、普通に生きたいだけですから。

 弟と両親と一緒に、小さな一軒家で仲慎ましく暮らしたい。私の願いはただそれだけなのです。

 

 なのでどうか助けてください。

 聖女なんていう役割は、巫女さんなどの専門的な人がやればいいでしょう?

 

 異世界を救えだなんて言われても、私はどうしていいのかわかりません。

 お願いします。心からのお願いです。

 ……私を、温かいあの家へ帰らせてください。

 

 

 ――いつしか私は、手を合わせて祈っていました。

 祈ることが聖女の仕事だというのなら、聖女という運命から逃げたいと祈るのは矛盾が生まれてしまいますが、私はそのことには気づきません。いいえ、気づきたくありませんでした。

 とにかく祈りました。天の上にいるであろう彼女――女神に届くように何度も何度も。

 このやり方では間違っているのでしょうか。でもやり方なんてどうでもいいではありませんか。だって祈りとは心であり、行為そのものではありませんから。

 

 そうして私はひたすらに祈りを捧げていました。

 祈って祈って祈り続けて、そして静かに呟きます。

 

「神様なんて、いないんですよ」

 

 夕食に口をつけると、私は涙を堪えながらそれを飲み込みました。

 その味はきっと美味しかったに違いありません。けれども私の舌には何の刺激も与えてはくれず、まるで砂つぶを食べているような気持ちになるだけです。

 

 巨人たちの国へやって来た異邦人は、帰る道標を持たず、ただただ悲嘆に暮れるしかありませんでした。

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