婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第10章 婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです●

幾度も口付けを交わしているのに幸福感が消えない。

むしろ回数を重ねる度に幸せを感じて更に欲しくなる。

まるで空を飛んでるような無重力感。ずっとこのままでいたい。

そんな事を考えてたら背中に柔らかい物が当たった。

 

「はぇっ?」

 

なんで私はベッドの上に横たわってる?どうして視線の先に天井がある?

混乱してる私に大きく黒い影が覆い被さる。

リオンだった。何故かひどく息を荒げている。

それまでの幸福感が一気に霧散し恐怖に体が支配される。

 

『発作か!?』

 

また私が敵兵に見えて命を奪おうとしているのか!?

だがいつまで経っても暴力は振るわれない。

恐る恐るリオンの顔を見ると理性を宿した優しい眼差しだ。少し血走ってるのが怖い。

混乱する脳が必死に情報を搔き集め一つの結論に達する。

これはアレだ。王妃教育の一環で読まされた艶本に書かれてた夫婦の契りを交わす行為だ。

命の危機ではない恐怖が私の体を貫く。

 

「待てッ!リオン!早まるなッ!」

 

こうした事はきちんと婚姻した後にやるべきだ。

性に奔放な学園の貴族令嬢は妊娠しないからと奴隷相手に性行為をしていたがそんな輩は例外中の例外だ。

公爵家の息女と婚前に契りを交わしたら面倒な事になりかねない。

いずれそうなるとしても今はダメだ。

 

「待てません。アンジェが可愛過ぎるのが悪い。そもそも婚約してる年頃の男女が同棲すれば周囲はそう思うだろ」

 

そういう下世話な想像する輩もいるだろうが仮にも領主だろお前ッ!

 

「もう限界。このままじゃ狂う。具体的には爆発しそう」

 

するのか爆発!?

 

「アンジェの全てが欲しい。でも無理にやってアンジェに嫌われたくない。だからアンジェが選んでくれ」

 

そう答えるリオンはやはり優しかった、彼はいつも私を気遣ってくれる。

良かった。これなら結婚を清い体のままで迎えられる。

あまりリオンを我慢させては可哀想だから明日から挙式についてレッドグレイブ家と早急に話合わなくては。

これから行う手続きを頭で考えながら返答する。

 

優しくして欲しい(すまない)

 

………感情と肉体が理性と精神を裏切った。

リオンの顔が近づいてくる。あぁ、もうダメだ。何とかして逃げ出さないと。

必死に逃亡プランを模索しつつ後退るとリオンの顔が近づく。

『キスなら良いか』などと思う私はチョロくない。決してチョロくない筈だ。

だが私達の唇が重ならなかった。僅かに逸れたリオンの唇が私の耳元に当てられる。

 

「アンジェ、愛してる」

 

……ダメだ、もう拒めない。その一言で私の心は蕩けてしまう。

左手をリオンの背中、右手をリオンの頭に添えて私自ら引き寄せる。

 

「リオン、私も愛してる」

 

もう迷いは無かった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

私の口から死にかけたモンスターのような唸り声が上がる。

いや、自分が気付いてないだけで既に死んでいるのかもしれない。

体中が痛い。痛くて寝返りすら無理だ。

眠いのに痛みで意識が覚醒する。呼吸すら覚束ない。

昨夜の契りは物凄かった。

手加減してくれたのは破瓜の痛みに喘いだ最初だけ。

その後はずっと飢えた狼に体を喰い千切られる兎の気分だった。

そういえば男爵夫妻は子供が五人の子沢山だった事実を思い出す。

もし、毎晩こんな風に求められたらそうなるのも無理はない。

せめて領地の経営が安定するまでは控えて欲しい。

リオンが扉をノックし部屋に入って来た。手にはスープ皿とスプーンを持っている。

 

「大丈夫かアンジェ、何処が痛い?」

「頭と首と肩と背中と胸と腹と股と尻と手と足が痛い…」

「つまり全身か」

 

リオンに支えられて身を起こす。ベッドの上を動く事さえ重労働だ。

 

「朝食、じゃなくて早めの昼食だけどシチューなら食えると思ってさ」

 

よく見るとシチューにはさまざまな野菜と肉が入っている。

そんな気遣いをするぐらいなら、少しは昨夜の契りを手加減して欲しかった。

 

「体が痛くて動けない、食べさせて欲しい」

 

そう言って口を開くとリオンはスプーンですくったシチューを冷まし私の口へ入れてくれる。

「あ~ん♡」という親愛表現が病人介護のようになってしまった。

恋人同士の甘酸っぱさが欠片もない。

シチューを食べ終わりリオンが淹れた紅茶を飲むと漸く体の痺れが取れて来た。

ゆっくりと体を起こしベッドの縁に腰かけるとリオンも私の隣に座った。

 

「で、どうだった?」

「すごく気持ち良かった」

 

枕を手に取り何度もリオンを叩く。まだ力が戻ってないから大したダメージにはならない。

 

「そうじゃない。私の本心を聞いてどうだったと尋ねているんだ」

「そっちかよ」

 

ぶつくさ文句を言いながらリオンは私の顔を見る。

 

「アンジェが俺を愛してくれてるのはよく分かった。俺もアンジェを愛してる。俺の妻になって欲しい」

「うん、それが聞けただけでも嬉しい」

 

リオンと心が通じ合えて本当に良かった。

この事実があるなら私はどんな困難も越えて行ける。

 

「一つお願いがあるんだ」

「俺に出来る事なら」

 

そう答えるリオンに対して私は些か面倒くさいお願いをする。

 

「私はとても扱い難い女だ。だからきちんと私の心に届く愛の言葉が欲しい。その言葉を思い出すだけで幸せになれるような、死の間際に思い出して良き人生だったと振り返られるような言葉が欲しい」

 

リオンは頭を捻って必死に考える。

やがて私の前に跪いたリオンは臣従儀礼のように私の手を取って恭しく礼をする。

 

「アンジェリカ・ラファ・レッドグレイブ嬢。貴女を生涯に渡って愛し抜くと此処に誓います。どうか私、リオン・フォウ・バルトファルトの妻になっていただけますか?」

 

きっとこの光景を私は決して忘れる事はないだろう。

例え世界が変わっても彼と出会い、そして恋に落ちる。

私は満面の笑顔で彼の求婚に答えた。

 

「はい、謹んでお受け致します」

 

こうして私はアンジェリカ・フォウ・バルトファルトになった。

 

【挿絵表示】

 




朝チュンは女性向け作品の王道である。皆さんもそう思いませんか?
という訳でこの物語は完結となります。
アニメ二期が始まったら話を追加するかもしれません。
この物語を書く切っ掛けはアニメ放映開始前からモブせかを読んでる事でした。
悪役令嬢モノの好きなのでその月に発刊された女性向けレーベルはだいたい目を通しているのですが、「断罪回避やザマァ系が多いのに反省する悪役令嬢が少ないな」と感じていました。
モブせかの特典小説で「追放された悪徳令嬢アンジェリカは田舎貴族と結婚した」
モブせかアニメで「アンジェリカの結婚相手がリオンに酷似」
とある掲示板(https://bbs.animanch.com/board/1445264/?res=175)で私が想像した「モブリオンとアンジェの夫婦ルート」のコメントが好評だった
モブせかの二次創作は多いですがオリジナル展開ばかりで原作キャラの恋愛作品が少ないので、それなら「自分で書いてみるか!」と思い執筆しました。
他の投稿サイトでオリジナル作品は投稿していましたが、二次創作はほぼ十年ぶり。
ああでもない、こうでもないと原作との齟齬に悩みつつ楽しく書けました。
拙い文章で恐縮ですが、楽しんでもらえたなら是に勝る喜びはありません。
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

追記:本作のラストシーンがpixivでシキさんがイラスト化されていた事を知り吃驚。
何気なくモブせかのイラストを検索していたら「私の書いたシチュと似てるなぁ~、自意識過剰だなw」と思ってたら、まさか私が原案だったなんて…。
海外の方まで拙作を読まれるとは原作の人気は凄いですね。
こんな事生まれて初めてなので本当に驚きました。
https://www.pixiv.net/artworks/106447189

さらに追記:本作のエッチシーンを投稿しました。(https://syosetu.org/novel/312750/1.html
興味のある方は閲覧してください。

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