婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第100章 It's the Cavalry!

 公爵邸の敷地は小規模の集落と比較しても遜色の無いほど広大なものである。

 当主とその家族が過ごす邸宅は無論だが、広大な庭園は勿論だが茶会や夜会に用いるホールに加え飛行船の離着陸が可能な飛行場さえ完備していた。

 敷地の広さに比例して手入れの仕事量も増える、勤め人の数は家令・使用人・侍従・調理師・従僕・衛士を含め百人に迫る。

 嘗てホルファート王の血を継ぐ王子が初代レッドグレイブ家当主として公爵位と領地を拝領して以降、領主貴族筆頭の地位を保ち王国の重鎮として君臨し続けている。

 特に現レッドグレイブ公爵家当主ヴィンス・ラファ・レッドグレイブは良識派の貴族として知られ国内外からの評価も高い。

 長年に渡って女尊男卑思想や国政への関与を制限されてきた領主貴族達にとってヴィンスは頼りがいのある統率者であり、ホルファート王家にとっても不満を抱える領主貴族達との調停人として国政に無くてはならない存在だった。

 

 ホルファート王家とレッドグレイブ公爵家の関係に歪みが生じたのは現国王ローランド・ラファ・ホルファートがレパルト連合王国との同盟によって一人の姫を娶った事に端を発している。

 ラーシェル神聖王国との対立に備えたホルファート王国とレパルト連合王国の同盟、加えて国政に関心を示さないローランドに代わる執政者が必要とされていた。

 輿入れされたミレーヌ・ラファ・ホルファート王妃は才媛と名高く政を執り仕切るに十分な才覚を備えていたのは確かである。

 

 しかし政は王や王妃で国政の全てを管理・運営するのは不可能だ。

 王家に忠実な宮廷貴族は良い。領地を持たぬが故に俸給と官職を与えれば忠実な手駒と為りえる。

 問題は領主貴族。まだ王国が未成熟だった時代に覇を競った小国の王達の末裔。

 力で従属させても恨みは積もり王家に対する不信は募っていく。

 加えて王妃は他国から嫁いだ身、如何に王族の生まれとは言えそれが他国の後宮までは及ばない。

 夫は当てにならず先王弟も心許ないと感じた王妃が自身と我が子の庇護者を求めるのは当然の帰結だった。

 斯くして公爵令嬢アンジェリカ・ラファ・レッドグレイブは第一王子ユリウス・ラファ・ホルファートの婚約者と相成った。

 この時は誰もが良縁と喜んだ、それがホルファート王家とレッドグレイブ公爵家の確執に繋がると気付かずに。

 

 しかしアンジェリカが結婚したのは王位継承権第一位の王子ではなく戦争で出世した辺境の領主貴族。

 その事実がレッドグレイブ公爵家の凋落を否応なしに感じさせ、自然とバルトファルト子爵に対する対応に影を落としていた。

 貴族の婚姻は基本的に同格の家同士で行われる物であり、家格の差がある場合でも一階級が精々である。

 歴史ある公爵家の令嬢が四階級も下の子爵の妻となった。

 まるで今のレッドグレイブ公爵家の実態は子爵程度、まるで周囲かそう告げているように感じてしまう。

 バルトファルト子爵より上の家格に生まれた使用人達は屈辱に身を震わせる。

 だからといって大っぴらに王家を批判する訳にもいかない、行き場の無い感情はアンジェリカへの同情と夫となったリオンへの憤懣と化して子爵夫妻に向かう。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 リオン・フォウ・バルトファルト子爵。

 ファンオース公国との戦争で武功を挙げ爵位と階位を賜った新興貴族。

 辺境の貴族とも言えない貧しい家に生まれ、学園に通う事さえ出来なかった貴族の血を引いているだけの平民と大差ない育ち。

 顔には戦場で負った傷痕が残り陰鬱な態度を隠さない醜く礼儀知らずな粗忽者。

 運良く戦場を生き残り地位と領地を手に入れ、これまた運良く公爵令嬢と結婚できた幸運が取り柄。

 若い貴族を公爵派に取り込む為の人気取りとして王子との婚約が破棄されたアンジェリカ様は哀れにも不釣り合いな男に嫁がされ、辺境で質素な生活を余儀なくされている。

 

 何故あのような者にアンジェリカ様を嫁がせたのか?

 主君であり雇用主である公爵の判断に疑念を持つのは不敬だが、公爵邸で働く者は大なり小なり同じ疑問を抱えていた。

 雑務を担当する平民出身の従僕達を除き、公爵邸で働く者の多くは公爵派の貴族の家に生まれた者達である。

 そこそこの家格の貴族に生まれたが嫡子ではない男子、実家と公爵家への関係維持と自身の婚姻の切っ掛けを探す女子。

 寄る辺無き貴族の令息令嬢を召し抱え他家と繋がりを強化するのは大貴族の勤めであり権力維持の常とう手段だ。

 

 無論、家柄が良くても性格や素行に問題がある者は選考試験で除かれた。

 そうして選ばれた使用人達は公爵家に対する帰属心と己の能力への自信に満ち溢れる。

 故にリオン・フォウ・バルトファルトという奇妙な存在に対して忌避感を拭えなかった。

 無論、自分が当主の娘を娶れるなど思い上がった不遜な想いを抱いている訳ではない。

 明らかに自分より劣っている存在が公爵令嬢を娶る、貴族として最底辺の卑しい家に生まれた次男坊が自分達が傅く公爵家の一員と為る。

 自分達はどれだけ望んでも家督を継げない、上位の貴族から令嬢を下嫁される訳が無い。

 優秀であるが故に己の未来へ希望を抱けない者達の鬱屈した感情はリオン・フォウ・バルトファルトという一個人に対する蔑視へと変わる。

 レッドグレイブ公爵家の使用人達がリオンに対し辛辣な態度を取り続けるのはそうした事情があった。

 

 

 王子との婚約破棄騒動の際に多くの使用人達が職を辞し公爵邸を去って一時期は閑散とした様相を呈した時期がある。

 フランプトン侯爵との権力闘争で後れを取り、聖女オリヴィアの存在によってレッドグレイブ家は一時的に凋落し、今まで媚び諂っていた者は恩など無いと言わんばかりに振舞う。

 後にファンオース公国と通じたフランプトン侯爵の一族が皆処刑され、王家が和解を求めるも公爵は差し伸べられた手を払った。

 それに加え公爵家を見限った使用人が侯爵派の壊滅と共に旧主である公爵を頼ろうとした際の当主と嫡男が行った仕打ちは見る者の背筋が凍る物だった。

 ヴィンス・ラファ・レッドグレイブは己の期待を裏切った者を決して許さない。

 恐れ慄きながら仕え続ける以外に生き残る道など存在しなかった。

 二度目の戦争が終わりレッドグレイブ公爵家の地位は王国内で揺るぎない物となる。

 このまま公爵家が繁栄すれば自分も爵位を持てるかもしれない。

 

 そんな戦々恐々とした環境で将来に淡い期待を持った公爵邸の使用人達にとってリオン・フォウ・バルトファルトは異分子でしかない。

 幸運だけで公爵家の一員と為った成り上がり者。

 家柄は卑しく礼儀を弁えず学も無い荒事のみが取り柄の無頼。

 己の理解できない者に出会った時、理解より拒絶を選ぶのは人の愚かさ。

 己より劣っていると信じる者が評価される事ほど憤りを感じるのは人の業。

 憤りや嫉妬で他者の粗を探す行為は自身の向上心を萎ませ、経歴で相手を見下す行為は根拠無き自信と化す。

 故に強者は斃れ伏す。

 いつの世も壮健なる者を打ち据えるのは弱者の知恵と強者の慢心なのだから。

 

 そうして公爵令嬢に相応しくない子爵という評価は侮りとなり、やがて油断へ変質する。

 誰か一人でもリオンに注意を払えばあのような事態は起きなかったかもしれない。

 誰か一人でもバルトファルト家の飛行船の内部確認をすれば襲撃は回避されたかもしれない。

 誰か一人でも手荷物検査をしていれば公爵達は隙を突かれる事は無かったかもしれない。

 敢えて相手を油断させる為に弱ったふりをする狡猾な獣が存在する。

 暴力だけが取り柄の男が二度目の戦乱で友軍を護れる筈は無い。

 彼らは油断していた、自分達は公爵家の者であり今や王権を揺るがす巨人と為ったと錯覚していた。

 故に企ては成功する。

 彼らもまた増長した貴族の一人だった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 公爵邸の衛士である青年は邸内の警備と使用人の業務確認の為に公爵邸の庭園を巡回していた。

 陽光は春の訪れを告げ暖かな陽気は眠気を誘う。

 昼食後の眠気覚ましにやや早めの歩調で姿勢を正しながら歩けばこみ上げる欠伸も少しは落ち着くはず。

 花壇や生け垣、噴水や石畳といった多種多様な造形物が規則的に配置され庭園を彩る。

 飛行船を所持する貴族とって上空から見る庭園はその家の状況を判断する重要な要素の一つだ。

 家が零落すれば仕える者が減る、仕える者が減れば屋敷の手入れが滞りみすぼらしい光景を晒す。

 重要な地位に就き潤沢な資産を得た貴族は服装や乗り物の他に家屋にも拘り始める。

 貴族にとって侮辱は何より耐え難い、故に死に物狂いで己を飾り立てるのが貴族の生態だ。

 

 庭園の中央からやや外れた石畳の道を歩くと公爵家の私用空港が見えてくる。

 停泊しているのはレッドグレイブ公爵家の令嬢であるアンジェリカ様が嫁いだバルトファルト子爵家が所有する飛行船だ。

 ホルファート王国で最も大きな工房が製造した貴族向けの一隻、王国内でよく見かける型の一つ。

 おそらくはレッドグレイブ公爵家からバルトファルト子爵家に下賜された飛行船だろう。

 船首と両舷にバルトファルト家の紋章が申し訳程度に施され他の下位貴族との識別をかろうじて確認できる。

 

 公爵邸で働く者は大きく二つに分けられる。

 アンジェリカ様の婚約破棄以前から仕えていた者と婚約破棄以後に仕え始めた者だ。

 この若い衛士は若くとも古参組の一人だった。

 とある領主貴族の家に末子として生を受け、王立学園にてそこそこ優秀な成績を修めた後にレッドグレイブ家に仕え始め、七年程前から王都の公爵邸の衛士として抜擢される。

 公爵令嬢だったアンジェリカ様とは屋敷内で時折見掛けた程度の関わりでしかない。

 遠目からでも伝わってくる美しさと聡明さはまさに公爵家が長い年月をかけて丹念に磨き上げた紅玉(ルビー)と称しても遜色ない素晴らしさを湛えており、彼女が王妃になる事に誰も疑いを持っておらず未来は明るかった。

 

 だが、アンジェリカの相手は戦働きが得意なだけの成り上がり者。

 あんな醜い男がレッドグレイブ公爵家に連なるとはぞっとしない話だ。

 今日は近々行われる論功行賞の挨拶とアンジェリカ様の出産報告に来たらしいが、正直早いご帰宅を願いたい。

 最近は公爵邸を訪れる貴族が増えて、公爵邸は応対で忙しく新たな使用人を雇う話も出ている。

 それだけレッドグレイブ公爵家がホルファート王国にとって無くてはならない存在となったと思えば悪い気はしないが、非番の日ですら見回りを任されるとはついてない。

 さっさと終わらせ宿舎の自室でのんびり過ごしたいものだ。

 

 公爵家の私用空港へ近付くと空気が振動し暖かな風が頬を撫でる。

 バルトファルト家の飛行船のプロペラがゆっくり回り始め速度を上げ続けると飛行船が徐々に浮き上がってゆく。

 どうやら招かれざる来客は帰途についたらしい。

 数時間前にアンジェリカ様とバルトファルト子爵が訪れた時は使用人が総出で出迎えたが去る時は見送りもないとは何とも物悲しく感じる。

 恐らくアンジェリカ様が見送りを拒んだか、或いは自分にまで連絡が届かなかったのか。

 何せ公爵邸の敷地は広大な上に使用人の数も多い、近頃は忙しさが原因で使用人達の連絡が途切れがちになるのが悩みの種だ。

 石畳の上に敷かれている赤絨毯はそのまま残し、バルトファルト家の飛行船はどんどん地上から離れて行く。

 庭師や従者を呼んでさっさと絨毯を回収させよう。

 自分以外の使用人を探しつつ私用空港を後にすると公爵邸の真上にバルトファルト家の飛行船がまだ浮遊し続けてる。

 あのオンボロ飛行船め、さては何らかの故障で動かなくなったか?

 これだから下位貴族は嫌なのだ。

 飛行船は貴族の富と権力の象徴だ、家格が上がる程により美麗な装飾を施し機体性能を向上させる。

 量産型の飛行船で公爵邸の私用空港に停泊するなど侮辱以外の何物でもない。

 どうして御当主はあのような男にアンジェリカ様を嫁がせたのか?

 何故バルトファルト領に融資を続けるのか

 バルトファルト子爵にそれほどの器量が在るとはとても思えない。

 

 憤懣を胸に私用空港を後にしても飛行船は浮かんでる。

 まず感じたのは違和感だった。

 いつまでバルトファルト家の飛行船は公爵邸の上空を浮遊しているのか?

 そもそも何故あの位置を維持し続けているんだ?

 王都の上空を飛行するのは王族と貴族が所有する飛行船に限られる。

 飛行船同士の衝突や重長物の落下などの事故が起きて貴族の屋敷に被害が及ぶのを避ける為である。

 空路は厳しく制限され、王宮の上空を許可無く飛べば撃ち落されても文句を言えないほどに法で制限されていた。

 何かある、それが何かが分からないが飛行船は明確な意思の元に公爵家の上空を浮遊している。

 

『誰かに連絡を』

 

 そんな考えが頭を過った直後、飛行船から何かが落ちた。

 黒い影は何らかの方法で落下速度を緩めながら効果してゆく。

 人の数十倍の体積と数百倍の重量を誇る黒い影は公爵邸のすぐ傍に軟着陸する。

 

ドォォォォッン!

 

 それでも緩和しきれない重量によって手入れが行き届き緑色の絨毯のような芝生は無惨に踏み荒らされ剥き出しの地面を晒した。

 鎧の足元にあった植木が咆哮の如き破壊音を出しながら折れていく。

 庭園の破壊音に混じって使用人達の驚嘆と悲鳴を上げて逃げ惑う。

 若い衛士が現場に到着した頃には公爵邸の周囲は騒然となり誰一人と正常な判断を下せない状況に成り果てていた。

 何が起こったのかは分からない。

 唯一分かるのはバルトファルト子爵がレッドグレイブ公爵家に牙を向けたというたった一つの真実だった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

ドォォォォッン

 

 窓の外からの衝撃音が腹に響く。

 やきもきさせやがって。

 公爵とギルバートさんの注意を外に向けさせないように会話で誤魔化すのは難しかったぞ。

 ボタンを押してから数百秒、わざとらしい挑発で頭の良い二人に悟られなかったのは奇跡に近い。

 応接室に差し込んでた光が遮断され外からデカい音が聞こえたらどんな人間も反射的にそっちへ顔を向ける。

 

 その隙の俺は革の装丁を施された本の拘束を外す。

 辞典並みに分厚いそいつは途中の百数十ページまで本当に本だけどその後は大きくくり抜かれた収納箱。

 缶詰や本や菓子袋に偽装して重要なブツを隠して持ち込むのは昔から密輸業者が使うありふれた手段の一つだ。

 単純な偽装だからバレやすい、ちょっと目を光らせれば持ち込むのは難しい。

 この状況を可能にしたのは公爵家が俺をナメてくれたから、悲しいけど事実だから仕方ない。

 俺とアンジェが公爵邸を訪ねた時に従者の男に持たせていた鞄の中身を確認してたらこんな事にはならなかった。

 

 そもそも俺達が飛行船で公爵邸を訪ねるのを断ればここまで決定的な隙を見せる事は無かったぞ。

 仮に飛行船で訪ねても事前に船内を調べれば俺達の企ては阻止するのは十分に可能だ。

 それが罷り通ったのは公爵家の驕りだな。

 寄子は寄親に絶対逆らわない、下位貴族は上位貴族に逆らわない。

 俺からすれば馬鹿馬鹿しい理屈だ、レッドグレイブ公爵家がホルファート王家に叛逆しているのにどうしてバルトファルト子爵家が安心だと思えるのか俺には分からない。

 娘婿だから信用してた部分もあるんだろう、その割に公爵家の使用人達は俺に対して辛辣だったけど。

 悪巧みをする連中って何故か自分は騙されないと思い込んでる奴が多い。

 少なくても俺が悪巧みするなら俺を仲間に引き入れないぞ。

 だって俺、外道騎士だよ?

 やり方が悪辣だって敵はもちろん味方からも非難されるような男だぞ。

 ダメだって、俺みたいな奴を信用しちゃ。

 

 義父と義兄に対する罪悪感で心が圧し潰れそうになりながら本に隠されていた銃を引き抜く。

 流石に愛用の軍用拳銃は大き過ぎてこの本の中に隠せない、人をギリギリ殺傷できる小型拳銃が精々だ。

 アンジェと公爵達のアンジェの間に割り込むように割って入る。

 時間にして十秒足らず、俺にしちゃまずまず素早く動けた方だろう。

 

「動かないでください」

 

 銃の冷たさが掌の熱を奪っていく感覚が実に気持ち悪い。

 俺は俺自身のこういう所が嫌いだ、他人を殺すのが不快で仕方ないのに何故か俺の才能は命を奪う事に特化している。

 嫌だ嫌だと思っていても生き残る為、家族を護る為なら目の前の相手にこうして銃を向けられる自分が嫌で堪らない。

 おまけに相手は愛しい嫁の親父さんと兄貴だ、こんな事を仕出かす奴がまともな訳ない。

 

「どうか動かないで頂きたいんで。俺もアンジェの身内を撃ちたくありません」

「……銃を突きつける者が吐く台詞ではないな」

「ですよね、俺もそう思います」

「自分が何をしているか分かっているのか君は!?」

「まぁ、正気ならこんなやり方はしないでしょうね。あまりにも強引で無茶なやり方だ」

「これは卿とアンジェの企てではないようだな」

 

 銃口を二人に向けたまま横目でアンジェを確認する。

 呆然として表情で蒼白なアンジェの頬が少しずつ血色を帯びていく。

 ゆっくりと公爵達に向き直る、正直に言うとアンジェが怖いから見たくない。

 怒ってる、絶対に怒ってるよ。

 相談も無しにいきなり家族に銃を突きつける旦那とか俺が嫁だったら即離婚するもんね!

 

 あ~、もう終わった! 絶対に俺達の夫婦生活終わった!

 だってしょうがないじゃん!公爵が俺とアンジェを離婚させて子供達をよこせとか言うんだもん!

 そんな事を言われたら俺は全力で抵抗しますから!

 嫁と子供を護る為に全力で暴れますんで!

 横から感じるアンジェの殺気に怯えつつ銃を公爵に向ける、泣きたくて仕方ねぇ。

 公爵に銃を向けてる隙を狙ってギルバートさんがゆっくり身を屈めてジリジリと壁の方に寄っていくのを確認する。

 

「もう一度言います、動かないでください」

「…………」

「十秒も有れば俺は御二人の頭と胸に銃弾を撃ち込めます、これは誇張じゃなくて単なる事実確認です」

「婿殿は腕が良いようだな」

「ありがとうございます」

「良いだろう、大人しくしようではないか。但し座っても構わんかね?」

「ご自由に」

 

 この小型銃で撃って即死するかはかなり微妙だ。

 頭蓋骨は丸みを帯びてるから銃弾が逸れるかもしれないし、心臓は胸骨や肋骨に囲まれて骨に当たれば仕留め損なう。

 もし公爵とギルバートさんが同時に襲い掛かったら仕留められる可能性は半々といった所か。

 あぁ、こんちくしょう。

 アイツら何をしてやがるこのままじゃ不利なのは俺の方だ。

 

 状況が膠着して数十秒、窓の外から鎧とは別の音が近付いてくる。

 安心で銃を握る手を緩めたいけど此処で油断したら全てが水の泡になる。

 応接室のバルコニーに人影が見えると思いっきり窓を叩く音が数回聞こえた。

 

ガァン!! ガン!! ガギィン!!

 

 窓硝子に罅が入って取っ手の金具が拉げた、もうちょっと丁寧に壊せよ。

 

ドオォン!!

 

 デカい足が窓を蹴り破ると完全武装の四人が入って来る。

 一番デカいのはグレッグ、ちっこいのはマリエ、細身なのはジルク、隙が無い身の熟しはクリスって所か。

 

「遅いぞ、何やってた?」

『悪りぃなちょっと手間取った』

「良いから急げ。『筋肉』と『眼鏡』は廊下担当だ」

『その暗号名はどうにかならないのか』

「終わったら幾らでも言え、さっさと行った行った」

『まったく……』

「『おチビちゃん』と『腹黒』は『耽美』と一緒に外の護りを頼む。誰も近寄らせるな」

『やはり私達の事が嫌いでしょう君?』

「今は俺が指揮官だ、命令は絶対順守しろ」

『憶えておきたまえ』

『文句言ってないで行きますよ』

 

 ヘルメットで顔は確認できないし、くぐもった声じゃ判別は難しい。

 ただアイツらをよく知ってる奴が居たらすぐバレるだろうな。

 

「随分と手の込んだ事だな、本格的に私の命を奪うつもりか?」

「必要ならそうしますよ。恨んでくれてかまいません」

「私を殺しても状況は変わらんぞ。指導者を失った公爵派が大人しく王家に従うと思うのか。卿は徒に王国の混迷を加速させるだけだ」

「俺は自棄になった訳じゃありません、勝算は低くても勝つ見込みが無ければ無茶はしません」

「では聞かせてもらおうか。何が卿に出来るかを」

 

 公爵の目は明らかに俺を蔑んでた。

 まぁ良いや、ナメられるのには慣れてるし。

 銃を向けるのもいい加減疲れるし構えたままゆっくり座る。

 アンジェは相変わらず俺を睨んだまま。

 もうやだ、おうちかえる。

 泣きたくなる気持ちを抱えたまま俺は最後の交渉に取り掛かった。




祝100話。(長かった
ですが展開としてあまり進んでないのが悩ましい。
やってる作戦が人質を使った脅迫なのがまさに外道騎士。
リオンはどれだけひどい事をしても許される。(おい
奇襲策しか採れないんじゃなくて、ルクシオンという強大な力が無く五馬鹿に才能で劣るリオンが勝利する為には卑怯な手を使うしか勝ち目が無いという悲しい事情。
転生やチートの爽快感がよく分かります。

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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