婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第103章 The road to the King

『私の行動目的。それは旧人類の保護であり、新人類の殲滅です』

「前半は良いけど後半は止めろ」

『不可能です。私はそのように製造されました。目的を以ってに創られた存在に対し止めろと提言する。それは存在意義(レゾンデートル)の否定であり、私に対する侮辱に他なりません』

 

 よく分からない単語が出てくるが、要するに球っころにとっちゃ自分のご主人様の子孫を見つける事と俺達を滅ぼす事はどうしても譲れないらしい。

 俺がどれだけ人類を滅ぼすのは止めろと説得しても悲しいかな、コイツを止める手立てが無い。

 コイツはどうもロストアイテムの飛行船の方が本体らしい。

 この球体は目とか口とかを飛ばしてる感じなのか?

 本気で俺を殺す気ならそれこそ本体を動かして砲撃の一発でも撃ち込むだけで終わる。

 そもそもコイツにとって俺はちょっとしぶとい蟻みたいなもんだ。

 蟻と真剣に交渉する人間はいない。

 

『しかし貴方の存在、同時に興味深い情報によって懸念が生まれました。少なくとも現段階に於いて、この世界に関する情報が不足してるのは事実です。このまま行動しても十分な成果を得るのは厳しいと判断せざるえません』

「そりゃどうも」

『旧人類の存在確認、並びに新人類の戦力把握は急務と言えます。聞けば魔法技術以外にも私が未確認の技術体系が存在しているとか』

「俺もそこまで詳しい訳じゃないぞ」

『構いません。今の私にとって重要なのは情報及び協力者です。どうやら待機状態(スリープモード)へ移行している間に世界の変容は私の予測を大きく上回りました。本体の修繕と並行して調査探索を行う必要があります』

「それが終わるまで何年かかるんだ?」

『修理自体は定期メンテナンスの範疇です。問題は私と同様に活動し続けている旧人類及び新人類の関係者です』

「お前みたいのが他にもいるのかよ!?」

『可能性としては十分にありえるかと』

 

 そっか、俺は王家の艦に乗った事が無いけどコイツみたいな感じだったのかもしれないな。

 他の国だって王族はロストアイテムを所持してたりする。

 こんなのが幾つも暴れ回ったらとっくの昔に世界は滅んでる筈だ。

 どの国やどんな組織がコイツみたいなのを所持してるか分からないけど、所持してる連中は取り合えず今すぐ暴れ回るつもりは無いんだろう。

 

『提案です、リオン・フォウ・バルトファルト』

「なんだよ急に、途轍もなく嫌な予感がするんだけど」

『私の協力者になってください』

「お断りだ」

 

 ただでさえファンオース公国との戦争やらホルファート王家とレッドグレイブ公爵家の争いに加えてアンジェの出産や兄さんの結婚を控えてる。

 何が悲しくて重荷をこれ以上背負わなきゃなんねぇんだよ。

 こんだけデカくて凄いロストアイテムだ、俺の協力なんていらないだろ。

 

『不服ですか?』

「大いに不服だ。どうして俺がお前の為に働かなきゃならん」

 

 この遺跡に来たのはいろいろと教えてくれたルクシオンへの義理だ。

 ルクシオンがこんな危険物だと知ってたら来なかったぞ。

 こんな爆弾みたいな奴を従えた別の世界の俺はどんな豪傑なんだよ?

 アンジェと聖女様と王妃様を嫁にするとか女好きにしてもひど過ぎないか?

 俺にコイツは扱えない、一つでも選択をしくじれば国が滅びかねない爆弾だ。

 どれだけ強力でも暴発して自分が死ぬような武器を愛用する悪趣味は俺は無い。

 

『私に協力すれば貴方にとって有益な情報や物資を齎します』

「へぇ、例えば?」

『物質置換による希少金属の合成です。この世界の通貨基準がどうなのか不明ですが鉄を金に置換して報酬として支払いましょう。金以外にも銀・銅・錫・鉛、原料が鉄ではなく地面に落ちている岩石でも同質量の金属に置換できます』

「やめろ、国の物価がおかしくなるだろ」

 

 王国で流通してる通貨や金の総量は国が管理下だ。

 勝手に増やしたら贋金作りを疑われて一族郎党処刑される大罪なんだぞ。

 運が良い冒険者が宝を見つけるけど大した量じゃないし一部は国へ納める必要がある。

 とんでもない量の黄金の塊を貰っても困るんだよ。

 

『では技術提供では如何でしょう?私が所持する旧人類の優れた技術の一部を提供します。無論、低能な新人類に扱える程度に落とし込みますが』

「それとなく俺達をバカにしてんじゃねぇ」

 

 少しグラッときたけど扱いきれない物を貰っても困るし、最悪それが原因で争いが起きかねないだろ。

 領民の暮らしや農業とかに役立ちそうな技術なら良いけどどう考えて兵器の類に決まってる。

 コイツの強さは俺の手に余り過ぎて貰っても嬉しくない、そりゃ王様になるのも当然だ。

 

「頼むから大人しくしてくれ、お前の調査ってのはどれくらいの長さなんだ?」

『不明です。修繕は数ヶ月で済みますがこの世界の隅々を探索し旧人類の遺跡や末裔を調査するには十年以上の歳月が経過するでしょう』

「……もし俺が手を貸さなかったらどうする?」

『そのケースでは他の人間を協力者として選定します。今までも研究所を訪れた新人類は数多く居ましたし、貴方が訪れた事により私は本格的な再稼働を決定しました。私としてはリオン・フォウ・バルトファルトという一人の新人類に拘る必要がありません。私の提示した条件に同意する別の人間を協力者とすればいいだけです』

「魔王かお前」

 

 くそぅ、やっぱ来なきゃ良かった。

 機械人形に襲われて死にかけた挙句にとんでもない災厄を眠りから目覚めさせたとかひど過ぎる。

 こんなのどうやって説得しろって言うんだよ。

 俺に世界の命運を託すとかどう考えてもおかしいぞ、もっと適任な奴が居るだろ。

 王様とか公爵とか聖女とか英雄とか。

 運命に翻弄される人生に文句を言いたい、どうしてこうなった?

 

「分かったよ、協力してやる。その代わりに約束しろ。俺がお前に協力してる間は俺の家族は殺すな、滅ぼすにしても最後にしてくれ」

『可能な限り配慮します』

「必要な経費はちゃんと払ってもらうし、必要な道具もそっちで揃えてもらうからな」

『承りました』

「あとそうだな、共犯者なら俺の悪事を助けろ。今回は先払いで俺に協力しろ」

『……貴方が逃げ出さないという保証は?』

「無い。これは賭け金とでも思っておけ。俺を信用して協力するか、それとも俺より強くて賢い奴がここに来るのをずっと待ってるか。それともいきなり情報も無いまま動き出して迎撃されるか。選ぶのはお前だ」

 

 コイツは今の世界の情報を知らない、そこが俺の付け入る隙だ。

 確かにあの飛行船は厄介だ、王家の艦と同等以上なら国を滅ぼせるのは間違いない。

 でも思考はけっこう読みやすい。

 焦りのせいか最短最速の手段を選びがちでいつでも俺を殺せる余裕があるからな。

 とりあえず俺が生きてる間だけは何とかする、後はもう知らん。

 五十年後とか百年後の世界がどうなるかとか俺に分かる訳ないだろ。

 無責任と言われてもこれが俺に出来る最善だ。

 むしろ悪党がコイツを目覚めさせなくて良かったと思ってるぐらいだし。

 

『分かりました。貴方に提示された条件で契約が成立したものと見做します』

「助かる、これからよろしくな」

『では最初に貴方の目的をお聞きします。私の協力を得て何を為すおつもりで?』

「そうだな、とりあえず戦争を止める」

 

 こうして俺は自分の魂を魔王に売った。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 扉の外からデカい音が聞こえた。

 『脳筋』と『眼鏡』の二人に敵う奴をホルファート王国で探す方が難しい。

 公爵邸の奴らが銃でも持ち出したのかと思ったけどそれにしちゃ音が奇妙だ、早く公爵との話を進めた方が良いかもしれない。

 

「内乱を鎮める為には公爵と嫡男を処罰する必要がある、だけど公爵派を抑えるのに公爵家の当主が必要。だったら話は簡単だ。アンジェがレッドグレイブ公爵家の新当主に為れば良い」

「っ!?」

「な゛ッ!?」

「はァっ!?」

 

 アンジェと公爵、そしてギルバートさんが同時に声を上げる。

 流石は父兄妹なだけある、驚いた声はそっくりだ。

 俺としちゃこの案については半分本気、半分冗談ぐらいの感覚だ。

 『公爵家二叛乱ノ意志アリ』、ホルファート王家がそう確認した時点で本来ならレッドグレイブ家は取り潰されてもおかしくない。

 それが出来ないのはレッドグレイブ家を潰して内乱になったら公爵派の貴族を抑えきれない。

 今度こそ国が滅びると確信してるんだろう。

 領主貴族や騎士はその領地の統治や治安維持を担ってる。

 内乱でそいつらを潰して代わりの奴を派遣して終了って訳にはいかない。

 殺したら殺した分だけ新しい領主や騎士を用意しなきゃ税の徴収どころか領民が飢えで死に絶えるぞ。

 新興貴族の付き合いで聞いた話だと叙爵されて意気揚々と領地に行ったら代官や騎士どころか領民の殆どが逃散してたなんて話もある。

 ぶっちゃけバルトファルト領だって最初のうちはレッドグレイブ家の融資がなきゃやっていけなかった位だ。

 戦争で貴族が減った今の王国は簡単に貴族を潰せない、下手すりゃ自分の首を絞めるからね。

 だからって叛乱の意志を持ってる公爵とギルバートさんを見過ごす訳にもいかない。

 それなら二人を隠居させてアンジェに家督を継がせた方が数倍マシな提案だろう。

 

「俺はレッドグレイブ公爵家の当主に就けない、だけどアンジェなら話は別だ。現当主の娘で嫡子の妹。相続の条件は十分だと思いますけど。アンジェがダメでも俺とアンジェの間に生まれた男子ならどうですかね?」

「貴様…、それが目的か…」

「王妃様とアンジェは懇意、叛乱を事前に鎮めたとなりゃ御家存続で寛容な部分を見せた方が王家にとっても都合が良い。二人の首で国の危機を回避できるなら喜んで俺達に有利な条件を飲んでくれるでしょう」

「やってくれたな、バルトファルト」

 

 公爵とギルバートさんがめっちゃ睨んでくる、おまけにアンジェの視線も冷たいときてる。

 泣きたい。

 でも、俺がここまでしないと絶対に話すら聞かないでしょあんた達。

 おまけにアンジェと離婚しろまで言ってくるし。

 どうしてこう、貴族様ってのは意固地で傲慢なんだろ。

 いや、分かるよ。

 貴族ってのはナメられると他の貴族からもナメられてどんどん家が力を失うから。

 俺みたいに自分の幸運としぶとさで成り上がったなら良いけど、大した実力も無いくせに血筋だけで貴族やってる奴は落ちぶれたら二度と這い上がれないし。

 公爵様(おやじさん)は王家とフランプトン侯爵に嵌められて没落しかかったから不安材料を取り除く為にも王家を滅ぼしたい気持ちは分かる。

 ぶっちゃけ俺も賛成したい。

 たださぁ、それやられると間違いなく内乱になるんだよ。

 俺は弱っちいし、うちの男連中も戦に参加させられそうだし、また戦に領民を駆り出したらバルトファルト領でも叛乱が起きかねない。

 なのでここは大人しくしてもらいましょう。

 

「だけど俺はレッドグレイブ家をを滅ぼしたくありません。義父や義兄を罠に嵌めて家を乗っ取るなんてしたくないし、アンジェに嫌われるのは死ぬほど辛いんで。だから王家と仲直りしてくれるなら証拠をぶっ壊します」

「……本気で言っているのか?卿が握っているのはこの国の未来を決める重要な情報。使い方次第で一つの家だけでなく一つの国、一つの王朝を滅ぼしかねない代物だ」

「なおさら要りませんね。そもそも公爵家どころか子爵家で泣き喚いてる俺が公爵家を思い通りにしようなんて思う訳ないでしょう。まぁ、アンジェがレッドグレイブ家の女当主になりたいなら吝かではありませんが」

「大事な判断を私に委ねるな!!」

「だってアンジェも家族を処刑されたくないだろ?」

「それなら如何して此処まで父上と兄上を追い詰める必要があった!?」

「いや、必要だと思ったからさ」

 

 あ、アンジェが怒った。

 凄く怒ってんなぁコレ、本当にどうしようか?

 だってどう考えても俺って領主の器じゃないだろ。

 貴族になってからその手の教育をガキの頃から受けてる連中と平民同然に育てられた俺の間にある壁みたいのが何となく分かるんだよ。

 品の良さというか、とにかく立ち振る舞いの違いが違う。

 もちろん『こいつ、本当に貴族の生まれか?』って下衆はいるけど、高位貴族になると雰囲気が違う。

 貴族として社交界に認められるのは三代目からってのは本当らしい。

 俺みたいに戦功で貴族に為った奴はたぶん一生かかっても貴族として認められないだろう。

 

 なら俺の爵位を王家に返上して公爵家のみんなを助命嘆願すれば良くないか?

 そもそも子爵とか伯爵とか俺に分不相応な地位なんだよ。

 欲しくもなかった地位や領地の為に自分の神経を擦り減らして働くのは面倒くさい。

 俺は自分で耕せる広さの土地とたまに美味い物を食えるだけの収入があるだけで幸せな凡人なんだよ。

 貴族として育てられてない俺が領主様なんてやってるのが間違ってると思うぞ。

 今の王国は女当主や家督相続する令嬢もいるからアンジェがレッドグレイブ家を継げる可能性はある。

 内乱を止めた手柄と俺の爵位を差し出せばレッドグレイブ家の降爵と減封で済ませてもらえそうだ。

 まぁ公爵家のみんなからはレッドグレイブ家を乗っ取った裏切り者と思われそうだけど嫌われてるのは元々なんで。

 アンジェは俺よりもずっと有能だから俺を立てて仕方なく子爵夫人をやるより、当主として腕を振るうのがよく似合ってる。

 爵位を失った途端にアンジェと離婚するのは嫌だけど愛人扱いされるなら悪いもんじゃない。

 本格的にヤバいなら追放か、みんなの為に俺の命を差し出す程度の覚悟はある。

 そう思わなきゃこんな無茶やってられないぞ。

 準王族の公爵を襲うとか反逆罪の範疇だし。

 

「……仮にだ、仮に卿の願い通り和解に応じたとしよう。それが為される前に我々の無事を保障できるのかね?」

「……父上」

「成程、卿の策は特筆に値する。王家としても叛心を持つ私より妃殿下と懇意のアンジェに公爵家を継がせた方が意のままに政を執れる筈だ」

「仰る通りです」

 

 さすが公爵様だ、俺の狙いを的確に把握してる。

 でも正直な話、王家と公爵家に和解してもらうのが一番楽なんですけど。

 俺としちゃ両方に借りがあるんでどっちの味方をしても角が立つ。

 おまけに所詮は下位貴族だから王家と公爵家に睨まれたら吹き飛ぶような儚い身の上と来てる。

 なんで交渉の席に座ってもらう為に無茶をします。

 嬉しくないけど何故か俺は荒事とか悪巧みが上手いんで。

 いや、もう、全く以って嬉しくないけどね。

 

「講和後に約定を破棄し不意打ちを仕掛けるなど史書を紐解けばよくある話。王家が約束を破って我々を罰した後、レッドグレイブ公爵家は果たして存続できると思うかね?」

「……」

「先程の旧ファンオース公国を用いてレッドグレイブ公爵家を討つ策略は見事だ。貴殿と同じ策を和解後の王家が仕掛けぬとも限らぬ」

 

 ですよね~。

 公爵の懸念は当然だ。

 なんせ王家と公爵家の同盟条件なユリウス殿下とアンジェの婚約破棄を認めるような奴らだもん。

 確かにオリヴィア様が素晴らしい人なのは俺だって認めます。

 美人さんだし、優しいし、頭良いし、オッパイ大きいし。

 でも婚約者を蔑ろにして挑発して決闘を挑ませて一方的にアンジェが悪いように仕立てるやり方は俺だって気に食わない。

 そこにフランプトン侯爵とか神殿の思惑があったのかもしれないけど、王家はアンジェよりオリヴィア様の方が有益と思って事態を放置した訳だ。

 いざって時に裏切る奴に背中は預けられない、これは戦場の鉄則だ。

 我が身可愛さに逃げ出すならマシだけど仲間を売って敵に回るような奴は信用できない。

 そんなだから公爵が王家を嫌うのは分かる、俺だって本心じゃ嫌いだもん。

 

 だけど今回についてはきちんと王家に約束を守ってもらいます。

 その為に夢に出て来たらしい球っころの話を信じてダンジョン捜索して死にかけたり、良い思い出が無い賭博場へ行ったんだ。

 出来る限りの事はやった、後は王家と公爵家をどれだけ上手く錯覚させられるかだ。

 バレたら俺の命で勘弁して欲しい、死にたくないけど。

 

ドオォォン!!

 

 轟音が鳴り響いて扉が開かれた。

 公爵とギルバートさんに銃を向けながら横目で侵入してきた奴を確認。

 どうしてこの人はこっちの都合が悪い時に限ってやらかすんだろう?

 いや逆か、空気が読めないからバカな事を仕出かすのか。

 身分と才能があるから後先考えずに行動しても何か解決できる。

 俺みたいな凡人がどれだけ悩み続けて足りない頭を搾って考えた作戦を乗り越えちまう。

 その才能が羨ましい、ちょっとで良いから俺に分けてくれ。

 

「どういう事だバルトファルトっ!?」

「……何やってんだ、この部屋に誰も入れるなって言っておいたじゃん」

『すまん、だがこの国にアイツを止められる奴がいるか?』

「もうちょっと踏ん張れよ、これじゃ計画が台無しだ」

『どうする、一旦退くか?』

「……作戦は変更しない、このまま進めるぞ」

 

 状況を立て直す為に退却するのは恥じゃない、だけどここは退くべきじゃない。

 今ならアンジェを連れて逃げ出せる、でも公爵と話し合う機会は永遠に失われる。

 裏で王家と繋がって公爵家を裏切った俺とアンジェを公爵様(おやじさん)は絶対に許さない。

 そのままどちらかが滅ぶまで殺し殺されの内乱へ一直線ときた。

 次に俺達が会うとしたら公爵派が勝ってうちの連中が処刑される直前か。

 或いは公爵家の皆が王家に処刑される直前になる。

 だからこの場で無理やりにでも話し合いに持ち込む必要がある。

 その為の準備をコツコツとこの数ヶ月してきた。

 もう俺が悪者扱いされてでも事態を収拾しなきゃいけない。

 爵位の剥奪と追放で済むかなぁ、出来れば処刑は勘弁して欲しいんだけど。

 

 

「これはこれは。ユリウス・ラファ・ホルファート殿下ではございませんか。立て込んでおりますから暫しお待ちください」

「わざとらしい礼は止めろ!」

「ならお願いしますからそこで立ったまま黙っててください。こっちは忙しいんですよ」

「公爵に銃を向けるのを止めろ!」

「お断りしますよ、この場を支配してるのは俺なんで。そもそもアンジェの説得は失敗したんです。殿下の出番はとっくに終わってるから出番の終わった役者は舞台裏で控えてもらいましょうか」

「…………これは王家の差し金か?」

 

 どうやら公爵が興味を持ってくれたらしい、これで第一段階は上手くいった。

 銃を一丁しか持ち込めなかったのがマズいな。

 一応クリスとグレッグが殿下を抑えてくれてるけど何時まで保てるか。

 おまけに公爵邸の使用人達がこの隙にどんな行動を仕掛けるか判断が難しい。

 公爵を救出されても強制的に話が終わる、このまま突っ走るしかないな。

 

「……私とリオン、そしてミレーヌ様が立てた策です。本来は私達が父上を説得しミレーヌ様が非公式に謝罪をする予定でした」

「それを知った俺が母上に頼み込んで代わってもらった。公爵は俺と会うのを拒否していたからな」

 

 戦勝会の時も殿下が俺と接触したのを露骨に邪魔してたからな。

 アンジェと婚約破棄した殿下を嫌ってるのは仕方ないけど明らかに大人げない。

 あの光景の当事者なら説得は無理と察するもんだけど、殿下はいまいち他人の視線や評価に捻くれた見方をするしアンジェはその場に居なかった。

 だから説得が失敗に終わった時の策を用意する必要があったし、あの戦勝会で殿下の周りに居たバカ四人も俺の作戦に乗った訳で。

 

「私の説得が失敗に終わり強硬策に打って出た、些か無謀ではないかねバルトファルト卿」

「作戦ってのは幾つも同時に立てておくもんです。穏便な手段が失敗に終わったら力で捻じ伏せる必要がありますんで」

 

 一つの最善策しか用意しないなんて余程の自信家がバカしかやらない。

 戦況はたった数時間で変わるし、最善策が成功する保障がなければ愚策が上手くいく事もある。

 アンジェは身内に対して甘い部分があるからそこを俺が補完する。

 実際に公爵の説得が失敗した今となっちゃ用意して良かったと思う。

 

「お互いに言いたい事があるなら本人の前で話した方が早いでしょう。公爵が無茶な要求をしなきゃユリウスにご登場いただいて謝罪して和解交渉に持ち込めた筈です」

「まさか第一王子を従僕に変装させて同行させるとはな。いや、これも王家の血か。高貴な方々は身を偽って遊興に耽るのがお好きらしい」

 

 や~め~ろ~よ。

 無駄に挑発しないでくださいって。

 銃を突き付けてる俺が言えた義理じゃないけど、殿下が嫌いなのは分かるけど無駄に挑発して場を荒さないで欲しい。

 いや、むしろ公爵の胆力を見習うべきかな?

 

「口を慎んでください、ホルファート王家とレッドグレイブ公爵家の和解を望んでいます。派閥の強硬派を除けば多くの貴族や平民もそれを望んでいます」

「知らぬ間に随分と偉くなったようだなバルトファルト卿。物を頼む時はもっと下手に出るものだぞ若造」

「俺から見れば貴方も単なる頑固爺ですよレッドグレイブ公爵」

「大きく出たな、今の貴様に何が出来る?」

 

 言われちゃったな、やっぱ最終手段を使うしかないか。

 あぁ、使いたくねぇ。

 どうしてやりたくない面倒事ばっか俺の所に舞い込むんだろ?

 

「とりあえず王様にでもなってみましょうか」




久々に登場のルクシオン。
アルトリーベ世界は様々な災厄が眠っているのでとりあえず様子見の姿勢。
今作のリオンとルクシオンの関係は原作のエミールとイデアルの関係に近い形です。
これから関係がどうなるかは構想中の後日談で語られる予定です。
ルクシオンがいると大抵の問題をゴリ押しできるので逆に取り扱いが難しい。
真の王の末裔が大いなる力を持って帰還する。
伝説ではよくある話。

意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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