婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第108章 The masked knight!

「この店の鶏料理は中々に美味くてな、酒の品揃えはいまいちだが合わせると及第点という所か」

「はぁ……」

「どうしたバルトファルト子爵、酒は苦手か?」

「あまり嗜まないもので」

「それはいかんな。美味い酒と美しい女、そして血沸き肉躍る冒険。これらが無くして何の人生か!」

「…………」

「頼む、堪えてくれバルトファルト」

 

 さっきから目の前のオッサンがやたら捲くし立てながら酒を呷り料理に喰らいついてる。

 青髪の中年、中々に顔立ちが良くてさぞ女にモテるんだろうな。

 実際、俺達が部屋を訪ねた時も若い女店員とよろしくしてたみたいだし。

 よく見ればユリウス殿下と血の繋がりを感じる、あと二十年ぐらいすりゃ殿下もこんなオッサンになるのか。

 俺達の目の前で楽しそうに酒と料理を愉しむオッサン、本名はローランド・ラファ・ホルファート。

 この国で一番偉いオッサンだ。

 

「国王陛下がこんな酒場に私を呼び出してどのような御用件でしょうか?」

「なに、此度の第一功労者を労ってやろうと思ってな。流石に王宮で宴を催す訳にもいくまい。さぁ。遠慮せずに食え」

「……いただきます」

「今日は無礼講だ、遠慮せずに飲み食い歌え」

 

 その言葉を素直に信じるほど俺も間抜けじゃない。

 下位貴族や部下に理解があって気安いお偉いさんを演じるのは貴族や軍人の基本中の基本だ。

 確かに親し気で心優しい王様ってのは他人から好かれるだろう。

 だけど本当にそんな王様なら生真面目なレッドグレイブ公爵(おやじさん)が殺意を抱くぐらいに憎んで内乱すら視野に入れる訳がないはずだ。

 公爵は確かに貴族の務めを果たす事に対して厳しい人だけど、無能でも努力を怠らない奴を毛嫌いするほど器が小さい男じゃない。

 現に酒を飲んで酔っている風な今の態度でも目の奥の光は鋭いままだ。

 今日の宴は俺を試す為に用意したのが丸分かりだ、気を緩めたら何をされるか分からない。

 

「二十歳を越えたばかりなのにお堅いヴィンスの奴を説得に成功したらしいな」

「説得じゃありません、脅迫です」

「その辺りについて本人の口から直接聞いておきたくてな」

「……報告は殿下がなさった筈では?」

「検閲ばかりの報告書など読んでも退屈なだけだ」

 

 どうやら殿下は俺やアンジェに対して配慮してくれたらしい。

 その辺の気遣いを王家と公爵家の諍いが大きくなる前にやってくれたらもっと助かるんですが。

 で、王様は検閲塗れな報告書がお気に召さないようだ。

 まぁ公爵家や王家の批判とか、ロストアイテムの船とかヤバい部分が多過ぎるから無理もないけど。

 

「御不満ですか?」

「不満だな、事なかれ主義は国がダメになる最初の一歩だ」

 

 事なかれ主義の代表例みたいな人が何を言ってんだよ。

 公爵は腐敗してた王国を立て直したいって決意があった。

 王妃様もあの人なりに必死で公爵家と和解したい気持ちを感じられた。

 今までろくに仕事もせず公爵と向き合わなかった奴が言う言葉じゃない。

 陛下と直接話すのはこれが初めてだけど、話して一時間もしないうちにこの人が嫌いになってる。

 ゾラ達みたいに俺が直接被害を受けた訳じゃないのに珍しい。

 いや、被害は目一杯あるか。

 この人が原因で内乱一歩前までヤバい事態になって、その火消しにこの一年は奔走してたんだし。

 

「構いませんよ。でも話す前に一筆書いていただけますか?」

「何を書けと?」

「誓約書です。この場の発言に関して一切の罪に問わないと確約していただきます」

「今は無礼講だぞ、多少の行いには目を瞑る」

「お偉方はいつもそう言います。そして根に持って宴の後になったら約束を反故にする。社交界ではよくある事でしょう」

「余が信用できぬと申すか」

 

 『はい、仰る通りです』って正直に口に出来たらどれだけ楽なんだろうな。

 何て言ったら良いか、この人とは根本的に反りが合わない。

 俺も外道騎士って罵られるぐらい大概な奴だけど、陛下も陛下で相当アレだ。

 こんな所でホルファート王国の嫌われ者決定戦なんてやりたくなかったぞ。

 とにかく俺は陛下が信用できないし、この人を愉しませる為に何かしてやるつもりも起きない。

 

 俺の意志が固いと分かって諦めたのか、陛下が手を鳴らすと廊下で控えてたらしい付き人が部屋に入って来る。

 フレッドさんだっけ、アンタも大変だな。

 そんな事を思いながら二人を見つめていると手渡された紙とペンで何やら書き始めた。

 今の内に食っておきますか。

 陛下の言った通り、鶏料理はかなり美味かった。

 パリッと焼かれた鶏の皮と肉が香ばしく、かかったソースは複雑な味わいで淡泊な鶏肉とよく合ってる。

 アンジェと仲直りしたら一緒に来よう。

 いや、止めた方が良いか?

 来る度にムカつく誰かさんの顔を思い出して飯がマズくなりそうだ。

 

「ほら書いたぞ、これで満足か?」

 

 国王陛下直筆の確約書をフレッドさんから手渡された。

 文字を丁寧に読んで内容を確認する。

 契約書は絶対に数回目を通せとアンジェから口酸っぱく言われるから読み漏らしが無いように気を付ける。

 御丁寧に署名と捺印までしてあるぞ。

 この王様、他の奴にも同じ事してんじゃないか?

 とりあえず今回の件で俺と家族に被害は及ばない、勿論レッドグレイブ家にも。

 

「では、御話致します」

 

 そこからユリウス殿下の注釈を加えて話し終わるまでには時計の長針が一回転だけじゃ足りなかった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「……以上が公爵邸で起きた一連の出来事になります」

「当事者と俺が見聞きした物と同じです、バルトファルトは嘘偽りを述べていません」

 

 休憩に料理を食べたり酒を飲んで喉を潤してたら結構な時間が経っちまったな。

 公爵に銃を突きつけた辺りまでは楽しんで聞いてた陛下も最後の方は無言で聞いてた。

 流石に『俺が王になる』発言は我ながらヤバ過ぎると後悔する。

 だから話したくなかったんだよ。

 不敬罪を超えて反逆罪に問われてもおかしくないし。

 俺本人の意志を抜きにして勘ぐる奴や先走る奴が絶対に出て来る。

 俺の望む平和で穏やかな人生ってのはいつになったら訪れるんだか。

 

「……ロストアイテムの船、それは真実(まこと)か?」

 

 ほら来た、絶対来ると思ってた。

 今のホルファート王国はファンオース公国との戦争で王家の艦を失ったばかりだからな。

 切り札を失った王国をここぞとばかりに狙う他の国、今まで抑えつけてた領主貴族達が怪しく動き出し始めてる。

 穴埋めとして新たなロストアイテムを王家が欲しがるのは当たり前だ。

 平和の為に球っころ(ルクシオン)を差し出せって言うなら喜んで差し出すよ。

 問題はその球っころが新人類絶対に滅ぼす飛行船な点だけど。

 取り扱いを間違ったら最悪ホルファート王国が地図の上から消えかけない。

 アイツは死闘で勝った俺だから話を聞いてくれてる所がある。

 大した実力も無い貴族様が偉そうに所有権を主張したらそいつが真っ先に消し炭にされるだろう。

 いつ暴発するか分からない時限爆弾の在り処を素直に教えるほど俺は御気楽じゃなかった。

 

「ロストアイテムの船の存在は本当です。ですがどれも朽ち果てて使用可能な物は一隻もありませんでした。場所を教えろというのなら教えます。王家が俺の見つけた屑鉄にどれだけの報酬をくれるかによりますが」

「いつ、何処でそんな物を見つけたんだ?」

「王国軍に入る前に家出した頃です。何せ実家が貧乏で王国軍の所在地までの船賃すら無くて。野宿やら無賃乗船を繰り返してた途中の浮島で偶然発見しました」

「本当に一隻も無かったのか?」

「あったら俺は王国軍に入隊してませんし、公国との戦争で使わない理由がありませんよ。お疑いならいずれ場所を教えても構いません」

「分かった、もう良い」

 

 我ながらよく息を吸うように嘘が吐けるなと感心する。

 貴族として最底辺だったバルトファルト男爵家に他の貴族との繋がりなんてほぼ無いし、妾が産んだ三男坊だった俺の過去は尚更だ。

 貴族として扱われてない頃がこんな風に役立つなんて人生は何が起こるか分からない。

 

「それでよくヴィンスの奴を騙せたな」

「たぶん公爵も今頃は気付いているでしょう。でも、あの時の公爵は敗けても良い理由を探していました。それなら上手い理由を用意すればそれに飛びつきますよ」

「敗けてもいい理由を探していた?」

「この国の貴族で一番偉い御方が俺みたいな成り上がりのクソ生意気なガキに敗けるんです。普通なら屈辱に耐えられなくて何とか納得できる理由を探しますよ。銃で脅さてた、救国の英雄が敵に回っていた、娘を人質にされた、王家が和解を求めていた」

「そして『ロストアイテムの船をバルトファルト子爵が保有していた』か」

「えぇ。ホルファート王国はロストアイテムによって領主貴族を抑えつけてました。同じ事をする奴が他に居てもおかしくないとこの国の成り立ちを知ってる奴なら考えるでしょう」

「だから公爵は和解に応じたのか」

「完全に逃げ道を無くすと誰でも死に物狂いで最期まで戦う物です、しかし逃げ道を用意すれば楽な方に流れてしまうのが人間かと。これは俺の戦場で体験した事や戦術書に書かれてた交渉術です」

 

 この辺は本当だ。

 最初からロストアイテムの船を見せて脅しても効果が薄くて公爵を説得できなかった。

 アンジェの説得、銃での脅し、公爵邸の乗っ取り、そして最後のトドメにロストアイテムの船の存在。

 幾つもの段階があったから最後の一押しになってくれた。

 そうじゃなきゃ公爵だって画像が荒い写真を見せられて騙されてくれないだろう。

 

「なるほど、卿は若くして中々の戦術家だな」

「単に悪賢いだけです。力が足りないからどうしても悪知恵で相手を騙すしかありません」

「謙遜するな。武術も戦術も須らく弱者が強者を打ち倒す為に創造した人間の知恵だ。恥じ入る所など無い」

「……ありがとうございます」

 

 褒められても嬉しくないね。

 要は俺が弱くて臆病だからそんな方法しか取れないだけだし。

 何より王家と公爵を和解させる為に俺とアンジェは離婚の危機になってる。

 やりたくてやった訳じゃないのに俺達の夫婦仲は最悪に近い結果だ。

 誰かに嫌われるのは慣れっこな人生だけど一番嫌われたくない嫁が実家に帰っちまったのが痛過ぎる。

 

「功ある者を労わなければ君主の器が問われる。バルトファルト子爵、此度に於ける卿の働き誠に大儀であった。褒賞を述べるが良い」

 

 褒賞ねぇ、別に王家から恵んで欲しい物なんて何も無い。

 俺が欲しいのは嫁や子供達が平和に生きられる世界だけだ。

 そんな事が出来るのは余程の名君か英雄様じゃなきゃ不可能だろう。

 目の前のオッサンがそれを出来るような王様かと言われたらどう見ても無理そうだ。

 

「ありません。今回の件で俺は疲れ果てました。出来れば暫らくの間は王都への出仕を免除していただきたい程度です」

「バルトファルト、お前それで本当に良いのか?」

「……では陞爵を伯爵から侯爵、宮廷位階を三位中に叙すのはどうだ」

 

 どうして上げるんだよ。

 今の子爵だって精一杯だし、今度の論功行賞で伯爵になるのだって嫌なのに。

 侯爵ってアレだぞ、王族じゃない貴族が昇進できる最高位だ。

 家柄が良い貴族が凄い手柄を立てたとか、小国の王様が帰順したぐらいしか前例が無い。

 一代でそんな爵位になった奴なんて王国の歴史に一人も居ねえぞ、伯爵位だって前代未聞なのに。

 他の貴族のやっかみもひどくなるし、領主としての責任だって大きくなる。

 とてもじゃないが俺一人で背負いきれる物じゃない。

 

「やめてください、今の爵位だって俺には過ぎた物です」

「王国を二分する争いを止めたのだ、誰も文句は言わんさ」

「そんな事をするぐらいなら公爵派に対する締め付けを禁じてください」

「ならば王家から嫁を取れ」

「……はァ?」

「俺とミレーヌの娘のエリカは無理だが側室が産んだ王女達が居る。平民同然に育った隠し子にも器量良しでも良い。ホルファート王家の外戚となってゆくゆくは…」

「叩き殺すぞジジィ」

 

 誰のせいでこんな状況になったと思ってやがる。

 お前がもっとしっかり仕事をしてりゃ誰も悩まずに済んだはずだ。

 これ以上バカな事を言い続けるなら帰るぞ。

 

「落ち着けバルトファルト!」

「……失礼、ついつい内心の言葉が出てしまいました」

「その割には反省の色が見えんぞ」

「陛下のお戯れが過ぎますから」

「戯れでないとすればどうする?」

 

 何だよ、それ。

 どうしてそうなるんだ。

 質の悪い冗談と思ってたら本気も本気らしい。

 止めてくれ、冗談ならまだしも本気とか何がどうなってんだ。

 

「婚姻が無理なら養子入りはどうだ?ちょうど愚かな真似をして臣籍降下する馬鹿な第一王子が出て空きがあるぞ」

「ユリウス殿下の他に陛下の御子は数多いはずです。猶子を取るほど逼迫した状況に見えません」

「これはホルファート王家に限った問題ではない。バルトファルト家、引いてはこの国の成り立ちまで遡る王家の罪業に対する贖罪の話だ」

 

 殿下の顔が軽薄そうな表情から一変して真剣な顔になった。

 美形はこんな時に場の空気が締まって羨ましい。

 横を見るとユリウス殿下も困惑してる一体何の話だよ。

 

「詳しい説明は省く、王国の根幹に関わる事だからな。ユリウスがまだ王位継承権筆頭なら話せる事もあるがこの場で言える事はバルトファルト家は国祖や初代聖女と密接な関係がある」

「……冗談はお止めください」

「この期に及んで嘘は言わん。嘗て我らの祖先がこの地に国の原型とも言える物を築いた時、バルトファルトの祖先もその場に居た。寧ろ国祖達の中心人物こそバルトファルトの祖と言えよう」

「……それは誠ですか父上」

「事の成り行きが違えたならば我らの方がバルトファルトに傅く身になっていただろう」

 

バルトファルト家(うち)だって先祖は初代国王の仲間だったらしいぜ。家族の誰も信じてない与太話だけど』

 

 いつかアンジェに話したバルトファルト家(うち)に伝わってきた言い伝え。

 俺は勿論だが家族の誰も信じちゃいない名前も知らない御先祖の話。

 そんな物をいきなり真実と言われても脳みそが普段通りに働かないに決まってる。

 

「付け加えるなら聖女オリヴィア、あの娘の先祖は初代聖女だ」

「なッ!?」

「知らなかったのかユリウス?俺は王家の船を動かす前に言った筈だ。『嘗ての英雄達の末裔が揃うとは運命なのだろう』と」

「……あれは俺達五人の先祖について話していたと思い込んでいました」

「鈍い奴め、そんな察しの悪さだから婚約者も惚れた女も逃すのだ」

「面目次第も御座いません」

 

 何だよそれ、頭がクラクラしてきたぞ。

 俺と聖女様と英雄のご先祖が仲間だった?

 しかも本当ならバルトファルト家(うち)が王家になるかもしれかったって訳?

 おかしいだろ、そんなの。

 

「ヴィンスがユリウスと婚約破棄した自分の娘をバルトファルト子爵に嫁がせたのは王家への、もっと突き詰めれば俺に対する牽制だ。あいつはバルトファルトの血筋を以って俺を討てると言いたかったのさ」

 

 何となく、婚約時代から感じてた事が腑に落ちた。

 どうして俺みたいなくたばり損ないと公爵令嬢のアンジェの縁談が来たのか。

 公爵は俺個人の力じゃなくて、バルトファルトの血が欲しかった。

 嫌な気分だ、俺の知らない所から歴史の暗部が複雑に絡んで鬱陶しい。

 アンジェはこの事を知ってたのか?

 知ってたから身分違いの俺に嫁いだのか?

 分からない、アンジェと結婚した月日が俺の人生の四分の一ぐらいだ。

 アンジェに関する大抵の事は知ってるつもりだったけど、その自信が揺らいでる。

 今すぐに問い質したいけどアンジェが居るのは公爵邸。

 忍び込むのはずいぶん骨が折れそうだ。

 

「ホルファート王家としてはバルトファルト家の血を建前としてこれ以上の内乱は回避したいのが本音だ。レッドグレイブ公爵家はそもそも王家の分家筋だ。そんな連中でさえ今回の騒動が起きた。今後も同じ事を企てる輩が出ないとは限らん」

「だから俺に王家から嫁を取るか若しくは王家の養子になれ。そんな魂胆ですか」

「お前としても悪い話ではないだろう。ホルファート王家はバルトファルト家を血が悪用されるのを未然に防げる。バルトファルト家は王家との繋がりで要職に任命される至れり尽くせりだぞ」

 

 アホ臭い。

 何百年も前のご先祖の仲違いをバラされそうになって戦々恐々してる王家も。

 俺がアンジェと結婚すれば王家を追い詰められると思い込んでる公爵家も。

 どっちもバカじゃねえのか。

 くっっっだらねえ事を企んで、先祖だの御家だのに執着して。

 お前らそれでも王様か、貴族様か。

 もっと真っ当な事に頭を使えよ。

 何でお前らみたいバカ野郎達の為に高い税金を払ってると思ってんだ。

 こいつらに従ってる俺達もバカになるだろ。

 国を治めるのが王族の責務ならちゃんとしとけ。

 

「一応聞いときますけど、それ勅命ですか?」

 

 王様に対して不躾で語気が荒くなってるけど知ったこっちゃない。

 今夜の数時間で俺はこの王様の事が嫌いになってる。

 こいつの娘を嫁になんてしたくないし、こいつを『義父上』と呼ぶぐらいなら舌を噛んで死んでやるね。

 

「違うな、だが断っても何らかの形で王家派お前達に接触を続けるぞ」

「それなら爵位と領地を剥奪してください。元々欲しくて貰った物じゃないで返せと仰るなら喜んで返しますよ」

「社交界で爪弾きにされるかもしれんぞ」

「むしろ良い事尽くめですね。余計な付き合いが減って畑仕事に没頭できそうだ」

「バルトファルト領に監査の手が伸びるかもしれんぞ」

「どうぞご勝手に。開拓が始まって十年も経ってない領地に隠し資産なんてありませんよ。足りない分はレッドグレイブ家から補填してもらってるんで咎めるならそっちですね。でもレッドグレイブ家に融資して貰ってる貴族も多いからな~。今後の融資が制限されたりすればそいつらが王家に反抗するかもしれないな~」

「……おい、ユリウス。こいつに弱点は無いのか?」

 

 ざまぁみろ。

 こっちは雑草みたいなしぶとさが取り柄の下位貴族、しかも平民同然に育った身の上だもんね。

 地位や財産に執着できるほど余裕ある生き方してない上に、公爵家から金を借りてるんだぞ。

 何の咎も無い俺を追い詰めればその負債は王家に回る、今もこうしてデカい口を叩く為に誓約者をさっき描かせたんだ。

 王直々の署名と捺印がある上にユリウス殿下が証人、これを反故にすれば王としての信用が問われるからな。

 後はこの店の周りで見た堅気じゃなさそうな連中からどうやって逃げるかだ。

 さて、どうしますか国王陛下?

 

「バルトファルトは並みの貴族ではありません。ただの力自慢ではなく慎重にして大胆、己の身を惜しまない優れた戦術家です」

「なるほど、ヴィンスが見込むだけの実力はあるか」

「殿下、評価上げるの止めてください」

 

 明らかに目の前のオッサンの目付きが変わってきた。

 この手の目付きをする奴らを俺は知ってる。

 何不自由なく育った貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃん連中だ。

 自分の望みが叶えられて当然と思ってるし、世の中に自分の思い通りにならない事なんて無いと信じてる尊大な自信。

 そういう野郎に限って逃げる奴を追い回す嗜虐心の持ち主だから質が悪いんだよ。

 まして目の前のオッサンは王様だ、その傲慢っぷりは半端じゃないだろう。

 相手したくない、とっとと帰らせてもらおうか。

 

「バルトファルト子爵、お前は俺に借りがある。文字通り命の恩だ」

「……俺が重傷を負った時の野戦病院ですか?あれは王国軍の兵に対して当然の行動です。自軍の兵士へ兵糧の支給や医療行為を恩着せがましく言うのはいただけませんね」

「そうではない。もっと大きな恩だ」

 

 王様は謎めいた言葉を口にして懐から何かを取り出そうとしてる。

 形状から判断して銃の可能性は無い。

 それでも念のために椅子から尻を浮かせて中腰の体勢に移る。

 お偉方ってのは自分の為なら平気で部下を使い捨てて顧みないからな。

 俺はバルトファルト家の皆は勿論、領兵や領民を出来るだけ死なせたくない。

 だから戦争は嫌いだし、戦争で死んだ連中の夢を時々見て魘される。

 暴力で俺を屈服させられると思ってんなら大間違いだぞ。

 

 取り出されたのはやたら派手で変な仮面だった。

 極彩色な上にデカい羽根と薔薇の装飾まで付けてやがる、こんなの付ける奴は祭で気分が浮かれたアホだけだ。

 ……いや、待て。

 どっかで見た事があるぞ?

 

「まだ分らんのか」

 

 仮面を身に付けたオッサンがどこか楽しそうにこっちに顔を向けた。

 殿下が隣の席で頭を抱えてるのはこの際無視する。

 

 あぁ、知ってるぞ、その面。

 何度も戦場に突然現れてよくも作戦や隊列を滅茶苦茶にしてくれやがったな。

 余計な事をしやがって。

 やっぱりホルファート王家とレッドグレイブ公爵家の和解をを手助けしたのは俺の判断が間違いだったと後悔する。

 コイツはアイツだと知ってたら手を貸さなかったぞ。

 やられた、完全にしてやたられた。

 

「お前は……!」

「そうだ、思い出したか」

 

 唇を噛み締めて目の前をオッサンを睨みつける。

 ノリノリで格好つけてるクソ野郎の名前を口にした。

 

「神出鬼没で趣味が悪い変質者ッ!?」

「仮面の騎士だァ!!」

 

 知るかよバカ王。

 お前の仮装名なんか絶対に呼んでやらねぇからな。




仮面の騎士は国王ローランドだったんだよ!!(な…なんだって―――!!
そんな訳でリオンとローランドの秘密会談です。
原作の乙女ゲームだと女主人公リビアに対してローランドは理解ある上司(下心あり)だけどある程度はまともそうだったのでリオンの懐柔に動いてます。
今作のエリカは悪役令嬢でしたがミレーヌに性根を叩き直されてエリヤに嫁いでます。
父がコスプレして戦場を駆け抜ける姿を目の当たりにしていたユリウス殿下の明日はどっちだ?

追記:依頼主様のリクエストによりないん様、紫音様にイラストを描いていただきました。
ありがとうございます。

ないん様 https://www.pixiv.net/artworks/121878746(成人向け注意
紫音様 https://skeb.jp/@shion__art/works/24

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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