婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第110章 君ヲ想フ文

『我が愛しき妻アンジェリカ様へ

 

 公爵邸でお過ごしのアンジェリカ様におかれましてはお変わりありませんか。

 

 貴女と離れて数日が経ちましたが、これほど誰かに対して身も心も焦がれるよ

 

 うな想いを抱えたまま只管に時が過ぎるのを待つ日々を送るのは私の人生に於

 

 いて初めての経験です。

 

 怠惰な私の姿を見ればきっと貴女は激しく怒るでしょう、その怒った顔でさえ

 

 今の私にとってはどれだけの救いになるでしょうか。

 

 私達が暮らす領地から遠く離れた戦場で愛する貴女や子供達の身を案じながら

 

 戦った日々でさえこれ程の寂寥感に身を苛まれた事はありません。

 

 もしも貴女への愛に身も心も灼かれる私を憐れんでくれるなら、今一度だけ弁

 

 明の機会をお与えください。

 

 貴女が私と別れたいと御思いならば、身を引き裂かれる苦しみに耐えて望みを

 

 叶えましょう。

 

 明日、私達の子が王都を訪れる予定です。

 

 私はともかく、せめて子供達だけでもお会いいただけないでしょうか?

 

 貴女の心が安らかになるよう神へ祈りを捧げます。

 

                   リオン・フォウ・バルトファルトより』                       

   

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 やや癖がある文字で堅苦しく形式ばった手紙を書いた人物を私はよく知っている。

 大抵の書類で彼が書き記すのは直筆の署名ぐらいなのだが、爵位を持つ領主がそれではいけないと説き伏せてこの数年間は直々に指導してきた。

 それでも癖が残る文字を眺めるとつい笑みが零れてしまう。

 思い返せば父上から縁談を持ち込まれ一年程度の婚約期間で結婚に至った夫婦である。

 手紙のやり取りなど碌にせず、したとしても領地の状況報告が精々なのが私達だ。

 恋文など一回も彼から貰った事が無い。

 婚約時代からずっと私の隣には彼が控えていた上に、戦時中は機密漏洩の防ぐ為に個人的な手紙のやり取りは禁じられていた。

 こうして形に残る物で愛の言葉を囁かれるのは中々に良い。

 同時に送られたのがバルトファルト領の状況報告や決済に関する書類でなければ猶良いのだが。

 

 バルトファルト邸の机とは比較にならない価格で発注された机に置かれた手紙を何度も読み返す。

 公爵邸の私室は隅々まで手入れが施され、バルトファルト家に嫁入りする前と変わらないままだった。

 しかし、十六年もの期間をこの部屋で過ごしてきた筈なのに他人の部屋に泊まるような違和感を感じてしまう。

 それだけ私がバルトファルト家に染まったという事だろうか?

 彼と結婚して、彼の子を産んで、彼と共に領地を発展させていく。

 此処に存在しているのはアンジェリカ・ラファ・レッドグレイブではない。

 アンジェリカ・フォウ・バルトファルトだ。

 それならどうして今の私は彼と共に居ないのか?

 

コンッ コンッ コンッ

 

 扉を数回ノックされ、慌てて手紙を机の一番上の引き出しに仕舞い鍵を掛ける。

 リオンからの手紙よりもバルトファルト領の報告書を秘匿すべきなのだが、どちらを見られて恥ずかしいかと問われたら間違いなく前者だ。

 開かれた扉から現れたのは兄上とコーデリアの二人、公爵邸で私と最も関わり合いが深い者達である。

 

「体調はどうでしょうかお嬢様?」

「変わりない、だが部屋に籠り続けるのも少々飽いたな」

「なら庭園に行こう、父上もお待ちかねだ」

「分かりました」

 

 兄上の言葉に従い部屋を後にする。

 公爵邸内部の長い道のりを歩きながら横目で窓の外を窺う。

 リオン達が起こした騒動から十日が経過し、鎧に踏み荒らされた芝生はほぼ補修が完了している。

 あれ程の騒ぎを起こしながら死亡者を出す事なく、屋敷も修復が可能な程度の破損で済ませたのは計画したリオンと戦闘を担当した者達の腕の良さだろう。

 それだけ策略に考えを巡らせながら、どうして私に黙って無茶をしたのか?

 思い出すだけで怒りが込み上げ眉間に皺が寄る。

 窓硝子に映る己の顔を見て平静を取り戻せるように深呼吸を心掛けた。

 

 庭園は以前と変わりなく手入れを施され、傍目からは騒動の痕跡は感じ取れない。

 しかし、よくよく目を凝らせば不自然な箇所が散見される。

 他の場所と濃淡が異なる芝生、花の色が明らかに違う花木、配置が明らかに無秩序な生け垣。

 貴族の庭園は全体の調和が要となる。

 前後左右対称で幾何学的な設計で造られた庭園、全体が一つの絵画のように調和された庭園、人工物を排し豊かな自然を再現した庭園とその屋敷の主の好みによって様変わりする。

 子供の頃から慣れ親しんできた庭園が不調和な物として否が応でも視界に入り苛立ちを募らせてしまう。

 公爵邸で何をしても思い浮かぶのはリオンの事ばかり、それほど彼を恋焦がれいる筈なのに私の苛立ちは募る一方だ。

 苛立たしさを辛うじて圧し留めて庭園の一角に建てられた四阿へ向かう。

 設置された椅子に座った父上が盤上遊戯に興じつつ私達を待っているのが見えた。

 

「来たかアンジェ、一局どうだ?」

「遠慮しておきます。とてもそんな気分ではないので」

「何だつまらん、漸く空き時間を捻出したのに」

「この数日は予想外の出来事で忙しかったからな」

 

 予想外の出来事、つまりリオンの起こした騒動である。

 何しろホルファート王国の領主貴族筆頭であるレッドグレイブ公爵に対し一代で子爵に成り上がった若い貴族が屋敷を強襲し、当主に銃を突きつけて脅すという暴挙は長い王国の歴史に於いて前代未聞。

 加えて若い貴族は公爵家の令嬢を娶り、多大な支援を受け続けている事情がある。

 しかも現場は王都の貴族居住区域の中心であり、王都に住む貴族の大部分がその異常事態に気付いてしまった。

 情報収集は貴族にとって生き延びる為に必要な基礎技能、噂好きの王都の人々にとって公爵家の騒動は夜会や茶会の話題として様々な憶測を生み出す。

 

 曰く『公爵家からの借金に追い詰められた子爵が返済取り消しの為に義父を脅した』

 曰く『辺境暮らしに嫌気が差し実家に戻った元公爵令嬢を連れ戻そうとして乗り込んだ』

 曰く『自分の孫に婿の爵位と領地を継がせようとする公爵の横暴に腹を立てた子爵が戦いを挑んだ』

 

 父上がある地位を狙い派閥を拡げていたのは紛れもない事実。

 私がバルトファルト領に戻らず公爵邸に残ったままなのも事実。

 レッドグレイブ家は多くの貴族に金を貸し、バルトファルト家もその内の一つなのも事実。

 制限された情報からの憶測と確かな事実を結び付きあらぬ誤解が更なる噂を招く。

 何しろ公爵派の貴族に限らず、王家派の貴族さえ騒ぎを聞きつけ見舞いを装い公爵邸を訪ねて来たのだ。

 訪ねた貴族の中には公爵邸の様子から騒ぎの規模を察し、自身の推理を他の貴族と交換し情報は錯綜する。

 そうした招かれざる来客と屋敷の修繕指揮は私が対応し続けるしかない。

 父上も兄上も公爵派貴族の説得、穏健な王家派や中立派との折衷に奔走し事態の収束には十日も費した。

 来客に紛れたミレーヌ様との仲介人によれば王家としても事態を重く見て協力を申し出てきたのでこれを快諾し、箝口令によって王都は平穏を取り戻しつつあった。

 

「昼時を過ぎれば今日も彼が訪ねて来るぞ、そろそろ許してやってはどうだ?」

「今日は孫達も連れて来るらしい。流石に会わない訳にはいくまい」

「御言葉ですが私は面会を拒否している訳ではありません。一方的に私を避けているのはリオンです」

「毎日訪れる彼を待合室に閉じ込めたままにすればそうもなろう」

「文句を言いたければ強引に私の許まで乗り込めば良いだけの話です。勝手に計画して、勝手に怯えて。あれだけの事を起こす度胸が有ってどうして私に会うのを戸惑うのか意味が分かりません」

「其方の顰め面を見れば怖じ気づくのも止むを得まい」

「意地を張らずに会ってやれ。日増しにお前の機嫌が悪くなっているのを屋敷の者全てが感づいている」

「私はッ!意地を張ってなどいませんッ!!」

「……やれやれ、気の強さは相変わらずか」

 

 別に私は意地など張っていない、絶対に、間違いなく。

 公爵邸を毎日訪ねて来たリオンを応接室で待機させたのは事実だが、監禁した訳ではなかった。

 部屋の鍵は開けてあるし、手紙や贈り物は全て受け取り感謝の言葉を伝えている。

 それなのにリオンは私に会おうとしない、怯えて機嫌を窺い諂うような態度を取り続けるのだ。

 いや分かってはいる、そもそもリオンは自分を絶対視していない上に卑屈なまでに自己評価が低い。

 大胆に見えて実際は情報を集め綿密な作戦を立てて可能な限り成功率を上げて戦いに挑んでいる。

 そうした戦術を使えない上に女性との交際経験が無い状況で、私に対し及び腰になるのは致し方無いのだろう。

 ならば素直に私に会いに来れば良いだけの話だ。

 強引にでも私の部屋を訪れて、一度だけ誠心誠意の謝罪を行い、共にバルトファルト領に帰ろうと囁く。

 その程度の行為で私は彼を許し戻るつもりなのに。

 どうして何時まで経っても会いに来ないのか?

 今日に至ってはバルトファルト領に残してきたライオネルとアリエルまで招いて私の顔色を窺っている。

 子供達を餌にするような姑息な戦法を選んだリオンに腹が立つ。

 私に会いたいのなら正面から告げれば良いのに。

 

 それに加えてここ数日はどうにも体調が優れない。

 胎動が徐々に減り、体が火照る、腹部に違和感が生じている。

 最初は慣れない公爵邸での仕事が原因かと考えたがそろそろ出産予定日が近い事を思い出す。

 本来なら父上達との会談が終わったその日の内にバルトファルト領へ戻る予定だったのだ。

 それなのにリオンの起こした騒動が原因で帰還する期を失して公爵邸に留まり続けている。

 出産の不安から焦りを隠せずリオンに対する苛立ちばかりが募っていく。

 どうしてこう、度胸は在る筈なのに私に対して肝心な時にヘタレてしまうのだあの男は?

 

「お嬢様、そろそろ子爵を許して差し上げては如何でしょうか?」

「コーデリア、お前もリオンに味方するのか」

「有り体に申しますとお嬢様の夫としてバルトファルト子爵が釣り合いが取れていないとこれまで考えていました。しかし公爵邸に仕える者の殆どはあの一件以来は彼を見直し始めています。私共が望むのはお嬢様の幸福です。少なくとも愚物に嫁ぐより子爵の方が遥かに幸せだと考えを改めました」

「父上に銃を向けるような男だぞ」

「爵位や領地よりもお嬢様を選ぶと仰ったとお聞きしましたが」

「貴族としてあるまじき考え方だ」

「ですが一人の女としてはどうでしょうか?」

「……答えに困る質問は止めろ」

「失礼いたしました」

 

『嫌だ、アンジェ以外の女を嫁にする気は無い』

『俺はレッドグレイブ家と喧嘩してでもアンジェが欲しい』

『こんな嫁が居るなら王妃に据えてやりたいと思うのが思うのが旦那の器量ってもんだ』

『俺がアンジェに相応しい地位を与えて何が悪いんですか』

 

 罪な男だ、あそこまで宣言されては拒めないではないか。

 この世界で私を最も愛してくれているのはリオン・フォウ・バルトファルトを於いて他に無い。

 私の為なら王位を求めるし、私を引き換えに爵位と領地すら捨てかねない愚か者だ。

 導く者が居なければ容易く道を踏み外しかねないリオンには私が一生に傍らで叱りつけてやらないと。

 これが惚れた弱みという物か、我ながら度し難い女だと呆れかえる。

 

「とりあえず子供達が父上の御目通りする準備をしておけ。私とリオンが面会する用意も忘れずに」

「子爵と御会いになられるのですね」

「帰るかどうかは決めていない、全てはリオンの態度次第だ」

「もう少し素直にならんと彼に見限られるぞ」

「御安心を彼は私以外の女など眼中に……」

 

 言葉を続けようとした瞬間、痛みが下腹部を走った。

 腹を下した時とも生理痛とも違う独特の痛み。

 この痛みを私は知っていた。

 体験したのは三年程前にまで遡る。

 あらゆる生命の雌がある時に感じる避けられようのない痛み。

 それを感じた瞬間に全身から汗が噴き出し、痛みが治まるまで呼吸が止まった。

 痛みが引いていくのと同時に体の自由が戻って来る。

 突然動かなくなった私を三人が見つめていた。

 

「……コーデリア、急いで産医を呼べ。私は部屋に戻る」

「わ、分かりました」

「兄上、リオンに連絡をしてください。私は産気づきました」

「アンジェ、それなんだが…」

「何か?」

「彼は現在の居場所が分からない。毎日宿を変えている上に追跡されないように行動している」

「はァ?」

 

 何をしてるんだリオンは?

 せっかく私が赦そうとしているのにどうして、肝心な時にいつも間が悪い行動を取る?

 痛っ、苛立ったせいか痛みがぶり返してきた。

 何とか深呼吸を行いつつ痛みの緩和を心掛け精神の安定を図るも汗が止め処なく滴り落ちた。

 断続的に訪れる痛みがリオンへの苛立ちに変換される。

 父上と兄上が使用人達を呼ぶ声さえ煩わしい。

 前言撤回だ、やはり会ったら思いっきり文句を言ってやろう。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「ちちうえ~」

「ん~?」

「ははうえは~?」

「もうすぐ会えるぞ~、ママはおじいちゃんの所にいるからな~」

「?」

「パパのパパなおじいちゃんじゃなくて、ママのパパなおじいちゃんだぞ~」

 

 ライオネルとアリエルが公爵と会ったのは戦争が始まる前だ、流石に記憶は残ってないだろう。

 半月ぶりに俺と再会した双子はいつもより素直に甘えてくれる。

 でもライオネルはずっと俺の側から離れないのに、アリエルは馬車の窓から王都の景色を眺めて双子なのに行動はまるで違う。

 王都の道路は基本的に舗装されてるし、貴族用の馬車は設備もバルトファルト領より整って走行時も静かで揺れが少ない。

 辺境のバルトファルト領の催しや祭より普段の王都は人が多い。

 アリエルの方は俺よりもそっちが気になるらしい、パパは悲しくて涙が出そうだよ。

 

 いずれ俺とアンジェの子供の誰か一人が後継者になって、他の子は自分で身を立てるか他の家に嫁ぐ。

 なら王都で育てるのもありかな?

 いや、新興貴族のバルトファルト子爵家が最初から王都住まいってのもマズい。

 うちの領地は未だに発展途上、浮島の土地を全て開発しきった訳じゃないし、他の領地みたいに無人の浮島を繋げて拡げる為の金も人材も不足してる。

 領地を持たない宮廷貴族ならともかく、領主貴族は最初の数代は領地開拓に専念するのが常識だ。

 苦労を知らず領地に訪れる事も無い王都住まいの貴族がどんな奴らか。

 ゾラ、メルセ、ルトアートを思い出せばよ~く分かる。

 俺は自分の子をクズに育てるつもりは無いからな。

 手堅く、地道に、コツコツと。

 それがリオン・フォウ・バルトファルトの生き様だ。

 どうして大体不敵な戦術家なんて評価されんだよ。

 俺はビビりで死にたくないし人殺しは勘弁して欲しいだけなのに。

 

 やっぱアレか?

 日頃の行いが悪過ぎるせいか?

 そりゃそうだ、王妃に歯に衣着せぬ意見をぶっちゃけて、王子と決闘紛いな殴り合いして、公爵に銃を突きつけて脅迫して、最後に王様をぶん殴った。

 何で生きてんだろうな俺、悪運が強過ぎる。

 普通なら一回でもしくじれば命を落としてた筈だ。

 王妃様に気に入られ、王子様がやたら気安くなって、公爵が嫁の父親で、王様には誓約書を書かせた。

 俺を殺したいと思ってる奴らなんて身内を殺された元ファンオース公国の連中は勿論だけど、ホルファート王国の貴族だって山ほどいそうだ。

 

 やだやだやだ、どうして俺の才能は俺を幸せにしてくれないんだろう。

 あれかな、ひょっとして前世の行いが悪いとか?

 ここまで神様に嫌われるなんてどんな悪党なんだよ前世の俺?

 それとも別世界の俺が悪いのかもしれない。

 ロストアイテムを使って近隣国を幾つも滅ぼして王様になるとか人生を何百回繰り返したんだ?

 そいつが俺の幸運を吸い取って出世したのかもしれないな。

 でもアンジェが王妃になってたし、あっちのアンジェはこっちのアンジェより幸せだと悲しい。

 

 やっぱ球っころ(ルクシオン)をどうにか味方にして王様になるのが正解だったのかな?

 思わず口から出た脅し文句だけど、まさか俺のご先祖様がホルファート王国建国の功労者なんてなァ。

 人生は何が起きるか分からない。

 そんな事を暴露されても自分の生き方を今更変えられないよ。

 父さんは真実を知って驚くだろうけど隠居する時になって王の血筋とか言われても困惑しかないだろう。

 兄さんだってとても王の器じゃないし、コリンも良い子過ぎて悪い奴に利用されて終わる。

 姉貴とフィンリーはダメだな、迂闊に教えたら調子に乗って自分から地獄へ足を突っ込んで堕ちてく未来しか見えない。

 

「よぉ、ライオネル。王様になりたいか?」

「……おうさまってなに?」

「分かんないか、アリエルはどうだ」

「しらない」

 

 よく分からないようですね、それで良いかもしれないな。

 力を持つと出来る事が増えるけど義務やら他人との関わり合いが増えてく。

 身の丈に合った生き方をするのが無難でで楽しい人生だ。

 その俺の器に合った生き方の為に一番必要なアンジェが居ないんだけど。

 

 ここまでアンジェに嫌われたのは人生で始めてだ。

 何をすれば機嫌を直してくれるか全然分からなくて困る。

 公爵を脅した翌日から昼過ぎに公爵邸を訪ね、アンジェの面会を申し込んでるのに会ってくれない。

 手紙や贈り物を毎日抱えて応接室へ案内されるけど忙しいと言われてずっと待たされる。

 陽が落ちた頃になると仕方なく使用人やメイドに手紙と贈り物を預けて帰るの繰り返しだ。

 アンジェが俺とそんなに会いたくないって思ってると考えるだけで凹む。

 せめて顔ぐらい見せて欲しいけど一向に許してくれる気配が無い。

 あれだけ公爵邸で暴れたんだ、門前払いされないだけで十分な温情だろう。

 こうして毎日訪ねてたらいつか機嫌が直ってくれるかもしれないし。

 

 そんな事を思ってたら心配して王都を訪ねて来た父さんと兄さんに怒られた。

 まぁ、領主とその嫁が王都に行ったまましばらく帰って来なければっそりゃ心配して当然だよな。

 詳しい部分は省いて『公爵と喧嘩した』『アンジェが実家に戻った』と教えたら父さんに思いっきり殴られた。

 泣きながらどうしたら良いと二人に聞いたけどろくな案が出て来ない。

 父さんは『俺はリュースを愛してるからすぐに仲直りできるぞ!』と惚気た。

 嘘つけ、いつもバカやって母さんに殴られてるくせに。

 兄さんは『いや、俺に聞くなよ…』とろくな助言すら出てこない。

 半年ぐらい前まで童貞だった兄さんには難しい質問だったか。

 

 アンジェが居なくてもバルトファルト領の経営は軌道に乗ってるけど安心は出来ない。

 俺としちゃ融資とか領地の運営を抜きにアンジェに戻って欲しいだけなんだ。

しょうがないからライオネルとアリエルを連れて来ると父さん達は一旦は帰ってくれた。

 次の日に手紙と贈り物を以外にバルトファルト領の報告書を提出すると問題点を修正された報告書を渡された、ちなみに個人的な手紙の返事は無い。

 俺がどんなにアンジェを愛してるか毎日真剣に悩んで手紙を書いてるのに読んでくれてるかも分からない。

 アンジェが冷たく悲しい、帰り道でかなり本気で泣き崩れたぞ。

 おまけに望んじゃいないのにこっそり面会した王様は性格の悪いクズだったから思いっきりぶん殴ってやった。

 そのせいで今の俺は毎日泊まる宿を変えてる有様だ。

 

 しょうがないから最終手段、ライオネルとアリエルを連れて公爵邸を訪ねよう。

 公爵だって孫達に会いたいからアンジェの説得に協力してくれるはずだ。

 俺には愛想を尽かしても。アンジェは子供達を嫌ってる訳じゃないしきっと大丈夫。

 ……大丈夫だよな?

 これでダメなら次の手が思い浮かばないぞ。

 いっそアンジェの目の前で情けなく泣き喚いたら戻ってくれないかな?

 もっと俺に失望するから無理っぽいな。

 

 馬車はもう貴族の居住区域に入ってる、あと少しで公爵邸の門が見えて来る頃だ。

 あぁ、やだなァ。

 どんどん気が重くなる、下手な戦場より気が重いぞコレ。

 ライオネルとアリエルが心配そうに見つめているのも一因だ。

 流石に離婚は勘弁して欲しい、しばらくは夫婦別居ぐらいに譲歩してくれないかなぁ…。

 

 振動と音が止まった、どうやら到着したらしい。

 馬車の扉が開かれて双子を抱えて下りると今までと違う光景が広がってた。

 公爵邸を襲った時から使用人達が俺にナメた態度は取らなくなったけど、門に使用人が何人も待ち受けるなんて状況は一度も無い。

 アンジェが産んだライオネルとアリエルを連れて来たからか?

 それにしては何処か表情が切羽詰まってる。

 

「ようこそ、お待ちしておりましたバルトファルト子爵。何処に連絡して良いか分からず困っていた所です」

「……何かあったのか?」

 

 使用人の中で一番歳を取った執事長が声をかけて来る。

 表情と声色から若干の焦りが感じられた。

 俺の襲撃してから警備をした公爵邸を襲う計画を立てそうなバカが俺以外に居るとは思えない。

 考えられるのはアンジェの身に何か起きたぐらいしか考えられない。

 急な病気とか、体調の変化みたいな。

 ……あれ、そういやアンジェの出産予定日っていつだっけ?

 

「アンジェリカ様の陣痛が始まりました、御当主とギルバート様がお待ちです」




『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』王国編コミカライズ完結に合わせて投稿です。(寂しい
そんな訳で王国編は本日発売のドラゴンエイジ10月号で無事に終了となりました。
なろう系小説の書籍やコミカライズを何百冊も読み漁ってる私ですが、モブせかを読む切っ掛けは潮里潤先生のコミカライズでした。
そして私もモブせか二次創作を二年近くも続けてるので不思議な気持ちです。
今作もほぼ本編はほぼ終盤に突入しています。
本当は原作完結・王国編コミカライズ終了までに完結させようとしたのに延びに延びたのは私の構成力の無さが原因です。(おい
ここからはアンジェとリオンのイチャイチャが中心のストーリー。
重い政治の話ばかりだと私のメンタルが疲弊するので!
最期に7年間の連載に感謝を込めて、潮里潤先生お疲れ様でした。

追記:依頼主様のリクエストにより詣創様、CL様にイラストを描いていただきました。
ありがとうございます。

詣創様 https://www.pixiv.net/artworks/122250027(成人向け注意
CL様 https://www.pixiv.net/artworks/122260298

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