婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

115 / 174
第114章 論功行賞

 王宮にある玉座の間はやたらと広い上に装飾が多くて派手だった。

 国の催しで大勢の貴族を収容したり、他の国の使節との外交でよく使われる王国の顔とも言える場所だからな。

 有名な建築家に設計させて莫大な予算を費やして完成させたらしい。

 その為の金が税金で賄われると思うと便所より汚い場所に見えてくるから不思議だ。

 アンジェの話だと戦費を捻出する為にユリウス殿下と婚約者だった頃よりも装飾やら使用人の数が減ってるらしいけど、その頃を知らない俺にはよく分からん。

 そんな玉座の間に入室できるのは高位貴族と用事があって呼び出された下位貴族、後は王宮勤めの使用人だけだ。

 ホルファート王国じゃ王家とその分家筋な公爵家、王家と血の繋がりが無い貴族の侯爵家、大臣みたいな重職に就ける伯爵家が上位貴族扱いされる。

 下位貴族として扱われる子爵や男爵は普通なら謁見の間で見たくもない国王陛下の顔を拝む事さえ無理だ。

 平民でも聖女になったオリヴィア様みたいな人も居るけど、そんなのは例外中の例外。

 そんな訳で普通なら子爵位の俺は玉座の間に入る事は許されない。

 

 でも今日だけは特別に許される、何故なら嬉しくもない論功行賞が行われるからです。

 あ~、帰りてぇ。

 今すぐアンジェと子供達が待ってる公爵邸へ帰って親子水入らずの時間を過ごしてぇ。

 出産を終えたばかりのアンジェはすぐにバルトファルト領に戻れない。

 産後の肥立ちが悪いと体を壊して寝たきりになったり、最悪の場合死ぬからな。

 公爵が用意してくれた医者は王都で名医と評判なんでその辺は感謝してる。

 あと公爵は意外と孫に甘くて、威厳のあるおじいちゃんに見せかけて裏じゃ菓子とか玩具を双子に与えてるから始末が悪かった。

 久々に会う双子と産まれたばかりのリーアに贅沢を覚えさせないでください。

 

 ぼんやりとそんな事を考えながらひたすら俺が呼ばれる瞬間を待ち続ける。

 数年前に叙爵された俺には貴族の顔なんて誰も同じに見えて仕方ない。

 付き合いが多い近場の領主貴族ならともかく、年に数回しか会わない宮廷貴族や領地が離れて関りが薄い領主貴族の顔と名前を一致させるのは中々の難問だ。

 後で渡される国内貴族の名簿を見て名前を爵位を暗記しろとアンジェに言われるんだろうな。

 領主様は面倒な仕事が本当に多い。

 

「……これは余の不徳の致すところである。この場を借りてレッドグレイブ公爵への謝意を表明したい。誠にすまなかった」

 

 視界の隅で金ピカな王冠と派手なマントを着込んでるオッサンが公爵に謝罪した瞬間、玉座の間がどよめいた。

 まぁ、ホルファート王家とレッドグレイブ公爵家の和解なんて何も知らない貴族からすりゃ驚きだろうな。

 公爵が和解を受け入れてから王妃様や宰相に中立派の大臣を交えた裏取り引きがあったらしいけど、その辺について俺は詳しく知らない。

 これ以上の国家機密に関わるのは勘弁だし、俺には産まれたばかりの子供を構ってアンジェとイチャつくという大事な仕事があるんだ。

 早く帰って来いという父さん達からの連絡にはアンジェと一緒にバルトファルト領の指示書を送って対処した。

 どうせ論功行賞が行われるのに領地と王都を行ったり来たりするのは面倒臭い。

 アンジェの体調も心配だしな。

 早く論功行賞で子爵位から伯爵位に陞爵されて、この後のパーティーで適当に挨拶を済ませてたら帰ろう。

 本当ならアンジェも一緒に来て欲しかったな、まぁ今は出産したばかりで無理させられないから仕方ない。

 

 公爵家への謝罪を含めた開会の言葉が済むと勲章の授与やら役職の就任やら領地の下賜が発表され始める。

 周りの貴族がソワソワし始めて自分の名前が呼ばれるのを今か今かと待ち侘びていた。

 何しろ去年の論功行賞は戦争が終わったばかりで出世したり領地を貰えた貴族が殆ど居ない有様だ。

 戦費を王国が補填すると約束した程度で地位も土地も金もお預けされてる。

 大半の貴族は『せっかくファンオース公国に勝利したのに王家は何も報いない』と王家への不信感を抱いて公爵派に付く貴族を増やす原因になった。

 そこから一年経ってやっと恩賞を貰えるとなれば手柄を上げた奴らは嬉しくて仕方ないだろう。

 

 ちなみに俺は爵位が上がって金を貰える程度だ。

 前の戦争で王家から下賜された未開拓の浮島や給金、それにアンジェとの婚約が許可されたのは伯爵位の扱いと同程度らしい。

 だけど平民同然の俺をいきなり伯爵にすれば他の貴族の恩賞も増やす必要があったから、数年後の出世を確約させる見込みで叙爵したようだ。

 つまり俺が伯爵になるのは既定路線でやっと手柄に相応しい地位になったと言える。

 正直な所、爵位なんて欲しくないんだけど。

 バルトファルト家(うち)は爵位が上がって碌な目に遭ってないから。

 じいさんは準男爵から男爵に陞爵されて苦労してるし。

 父さんはゾラと結婚させられて母さんはずっと妾扱いで虐げられてた。

 俺も関わりたくないのに王家やら公爵家やらと関わって、おまけに世界を滅ぼすかもしれない変な球っころ(ルクシオン)に怯える日々。

 爵位を貰っても義務と支出ばっか増えて嬉しくないね。

 身の丈に合ってる生き方が一番だ。

 

 いい加減、呼ばれないかなぁ?

 表彰ってのは盛り上げる為に小さな褒美からデカい褒美の順番で発表されるもんだ。

 デカい褒美を貰うと他の奴らから羨ましがられたり嫉妬されるから人前で表彰して欲しくない。

 宮廷階位を一つ上げるだけでも当主が変わるぐらいの年月が必要なのに二十代の若造を伯爵にすんな。

 誰だよ、『王国始まって以来の出世頭』『知略に富み武勇名高い神童』って?

 これだけ噂と実像がかけ離れてるの俺ぐらいだぞ。

 

「ブラッド・フォウ・フィールド、グレッグ・フォウ・セバーグ、クリス・フィア・アークライト、ジルク・フィア・マーモリア。以下の四名、陛下の御前へ」

 

 アホ四人が進行役に呼び出されるとあちこちから歓声が湧く。

 良いですね、美形で強いお坊ちゃん達は。

 貴族の皆様が楽しそうに盛り上げてくれますから。

 俺が呼び出されてもあんな風に喜ばれんし。

 まぁ、いろいろと協力してくれた腐れ縁なんでアイツらの出世を妬むほど俺も性根が腐ってないぞ。

 アイツらはアンジェの婚約破棄に関わったり、軍紀を無視してオリヴィア様に同行した影響で功績が失態で帳消しになって実家から勘当されてる。

 流石に聖女様と一緒に国を救った英雄に報いないとヤバいから報奨金やらそれなりの役職に就けるみたいだ。

 腕っぷしは強いけど領地の経営とか俺以上に無理そうな奴らだし、その辺は妥当な判断だな。

 あの四人が爵位持ち貴族になる方法は宮廷貴族として取り立てられるか、或いはどっかの家に婿入りするしかないだろう。

 オリヴィア様に一緒に行動を共にしたのに惚れた女と添い遂げられず、実家の嫡子や出世の道から外れたのは普通の貴族なら大きな痛手だ。

 当の本人達は意外に幸せそうなのはアホなのか、覚悟して選んだ道なのか他人には分からない。

 

 待てよ、何で俺の表彰があの四人より後に発表されるって何だよ?

 どう考えても戦争中の手柄はあの四人の方が上だろ。

 確かに俺の所が兵や指揮官の損耗が一番少なかったけど別に敵将を討った訳じゃないぞ。

 前の戦争では確かに公国の司令官を討ったけど、今回に関しては他の貴族と一緒に数カ月の期間ファンオース公国軍の侵攻を食い止めただけだ。

 それだって公国が巨大モンスターの召喚を始めてから撤退を余儀なくされた。

 手柄と言える功績なんて碌に無いぞ。

 王家派と公爵家派の対立を和解させたのを高評価するなら金銭の褒美だけにしてくれ。

 

「続いて、リオン・フォウ・バルトファルト子爵。陛下の御前に」

「はっ!」

 

 一応は礼儀正しく返事をして玉座の前に近付くと、意地が悪そうな顔だけはカッコいいオッサンが目の前に座ってた。

 どうやら俺が殴った場所は無事に完治したらしい、もう一発ぐらい殴っときゃ良かった。

 傍に控えてる王妃様は厳かな雰囲気で俺を見つめてる。

 俺に旦那が殴られたのを咎める気かな?

 だったら罰として爵位と階位を上げないでください、これ以上の地位はどう考えても俺に分不相応ですから。

 

「リオン・フォウ・バルトファルト子爵。先の戦争に於ける功績、並びに王国内経済に関するは誠に見事であった」

「お褒めに預かり光栄です」

 

 本当はアンジェが考えた提案だ、俺は単に名義を貸してるだけ。

 ホルファート王国は女尊男卑社会とは言っても実際に国政を握ってるのは男性だ。

 女性は貴族の当主や役職に就けない上に、求められるのは子供を産んで使用人に指示を出すぐらい。

 どれだけアンジェが優秀でも公爵令嬢や子爵夫人じゃ政治に関わる事は不可能。

 唯一の方法が王妃になるぐらいだけど、ユリウス殿下と婚約破棄したからそれも無理。

 だからって嫁のお陰で出世するって旦那としてどうなんだろ?

 

「よって卿を子爵位から伯爵位に叙爵させ、宮廷階位を三位中とする!」

 

 オッサンめ、殊更デカい声で恩着せがましく言いやがる。

 そもそも既定路線の話の筈なのに、俺の働きを見て特別なご褒美を追加くれたみたいな身振り手振りだ。

 やっぱコイツ、王様じゃなくて役者にでもなるべきだったんじゃないか?

 ホルファート王国の歪みってご先祖様達の血で血を洗う権力闘争じゃなくて、たまたま王族に生まれた放蕩オッサンが王様になった事だと思うぞ。

 ぼんやりそんな事を考えつつ、祝辞の言葉を聞き流す。

 

「多くの者が懸念しているように戦争の爪痕は未だ深く、国力の回復には時間と改革を必要としている。この危機を脱する為には人事を刷新し、より強きホルファート王国へと生まれ変わらなくてはならん」

 

 興味ない芝居を見ている感じだ、眠気に襲われて早く終わってくれないと立ったまま鼾をかく事になりかねない。

 はよ終われ~~。

 

「よってバルトファルト伯爵、貴卿をホルファート王国全体の軍事顧問に任ずる。より一層の働きを期待しているぞ」

 

 ……おい、この、オッサンは、今、何を、言った?

 

「…陛下、発言の御許可を願います」

「認めよう」

「軍事顧問とは如何なる役職でしょうか?若輩故にそのような役職があるとは知りません」

「うむ、承知のようにファンオース公国に勝利し、大きく版図を拡げたとは言え王国は未だ他国の侵略に脅かされている。加えて貴族にあるまじき行動を重ねた腐敗貴族を処罰し、多くの者を戦いで喪ってしまった。この状況を打開する為には一刻も早い軍事力の回復が求められている」

「陛下の仰る通りかと」

「貴卿は先の戦争では部隊を率いて公国司令官を討ち果たし、此度の戦争では兵や物資の損耗を抑え数ヶ月もの間戦線を維持し続けた実績がある」

「僥倖に恵まれ続けたに過ぎません」

「謙遜する事はないぞ、我が息子ユリウスとその仲間達が貴卿の領地を訪れた際に領兵を見事に鍛え上げているのを目の当たりにした。叙爵されて数年の領地ではありえない見事な練兵と聞いている」

「過分な御評価です、私奴にそれほどの力はありません」

「たとえ些末な力であろうとも今のホルファート王国には必要なのだ、どうか余に力を貸してくれないかバルトファルト伯爵?」

 

 オッサンは俺に近付いて手を握って来た、優しく握ってるように見えて込められてる力は痛い位に強い。

 わざとらしく目元に潤ませて縋るような顔までしてやがる、本当にムカつく野郎だ。

 

(なんと、二十歳を超えたばかりで伯爵位のみならず王国の軍務も担うというのか)

(一代の出世としては異例だぞ)

(しかし伯爵の武功は確かな上に戦時中に救われた貴族や兵も多い、彼に恩を感じている者が多いのも事実だ)

(英雄であるユリウス殿下が高く評価されるならさぞ見事な練兵だろうな)

(何とも羨ましいことだ)

 

 ひそひそ声で話す貴族達の会話が耳に入る。

 止めろ、全然嬉しくないぞ。

 周囲を見渡してどうにか止められそうな人達を探す。

 王妃様は厳かに俺を見ていた、公爵は腕を組んで頷いてる。

 他のお偉方も笑いながら俺を見つめてた。

 あ、これ逃げ道を塞がれたな。

 俺だけが知らされてなくて最初から決められてた話っぽい。

 

「不満がある者は名乗り出よ!我こそはバルトファルト伯爵より優れた成果を出せると豪語する猛者は居らぬか!?」

 

 居る訳無いだろ、バカかお前。

 十回やって九回死ぬような無茶な作戦を成功させられると思ってる命知らずは戦争で死んだ。

 この場に居る貴族で戦場を経験した生き残りで、自分から進んで危ない橋を渡ろうとするようなアホじゃない。

 仮に内心で思っていてもわざわざ王家が決めた人事に口を挟めば嫌われるし、成果を挙げられなきゃ無能扱いで爵位や役職を失いかねない。

 成り上がりの俺なら失敗しても大した被害にならないし、成功すれば王家の手柄になる。

 とことん俺を利用するつもりだな、聖人のように心穏やかな俺でも流石にキレるぞ。

 

「今後の働きに期待しているぞバルトファルト伯爵」

「……ありがたき幸せ」

 

ギリィィ……

 

 本当にムカついたから強く握ってきたバカ王の手を握り潰すぐらい力を込めた。

 遠くから見てる貴族達にはバカ王と俺が感極まって手を握ってるように見えるんだろうな。

 俺の行動に対する仕返しか、今度はバカ王が俺の足を踏みつけてきた。

 負けじと俺もやり返す。

 俺とバカ王はお互いに顔だけは笑いながら人の見えない所で熾烈な戦いを始める。

 激しい応酬をしながら俺は心に誓う。

 

――いつか仕返ししてやると。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 論功行賞の後は王宮の大広間で楽しい楽しいパーティー、にはならなかった。

 一言ぐらいはバカ王に文句を言わせてもらおう、そう思ってたら背後から肩を掴まれて振り返るとユリウス殿下に引っ張られて別室に案内される。

 仕方なく殿下の後を付いて行くと何時かの夢で見たような廊下や部屋の扉が目に入って来た。

 王様になった別世界の俺はこの王宮を乗っ取って自分の居城にしたんだろうか?

 だとしたらケチで他人の物を奪って喜ぶ嗜虐趣味だ、人妻に手を出すような鬼畜だから王様になれたんだ。

 そんな訳で押し込められた部屋には俺と殿下に続いて見慣れた人や顔だけは知ってるお偉いさんが入室してくる。

 一人は片眼鏡(モノクル)をした年配の男、もう一人は恰幅が良い貴族のおじさん、そして一人は俺の義父であるレッドグレイブ公爵だった。

 

 「ミスタ・バルトファルト、こうして会話をするのは初めてになりますね」

 「えぇ」

 「先王弟で現在ホルファート王国宰相を務めているルーカス・ラファ・ホルファートです。以後お見知りおきを」

 「よろしくお願いします」

 

 随分と気安い紳士なおじ様だ、でも無条件に信用するのはマズい。

 アンジェに俺やオリヴィア様のご先祖の秘密を漏らしたのは既に確認済みだ。

 オッサンを王に推したり、他にも学園の学長でオリヴィア様を見つけて学園に編入させたりもしてるらしい。

 穏やかな見た目に反して腹の中で何を考えてるか分からない要注意人物だ。

 

 「大臣のバーナード・フィア・アトリーだ。よろしくな」

 「こちらこそよろしくお願いします」

 「そう身構えなくて構わん。君と私は同じ伯爵位だ」

 

 伯爵はそう言ってるけど気安く出来る訳がない。

 だいたい一代で伯爵になった俺と名門のローズブレイド家とか、大臣のアトリー家と俺が同格扱いってのがおかし過ぎるんだよ。

 この人も中立派だったのに裏で王妃様やアンジェと繋がってたから政治面では有能だけど狡猾な人と聞いているし。

 それに加えて領主貴族筆頭のレッドグレイブ公爵だ。

 ホルファート王国の重鎮達が勢揃い、どう考えても嫌な予感しかしないぞ。

 お願いだから帰して、頼むからアンジェや子供達と仲良くさせてくれよ。

 

 そんな俺の嘆きを嘲笑うように、今度はバカ王と王妃様が部屋に入って来た。

 これから査問会でも開くつもりかな?

 まぁ後ろ暗い事は今まで結構やってる人生だけど。

 でも悪巧みに俺を巻き込まないでくれ、俺は清く正しく生きたいだけの小心者なんです。

 

「さて、皆が集まったみたいだから始めましょうか」

「すいません、俺は関係無さそうだし帰っていいですか?」

「許される訳ないだろうバルトファルト」

「その希望は却下します。ユリウス、バルトファルト伯爵と陛下を逃がさないように」

「分かりました」

 

 お願いしますからバカ王と同列扱いは勘弁してください、アイツと似てるとか物凄い侮辱ですよ。

 そのバカ王も王妃様に捕まって無理やり連れて来られたようだ。

 ははッ、ざまぁみやがれ。

 

「さて、数年間に及ぶホルファート王家とレッドグレイブ公爵家の確執も漸く和解に至りました。国家存亡の危機を乗り越え再び手を取り合えたのはバルトファルト伯爵夫妻の尽力による物です。王家と全ての貴族を代表して感謝します」

 

 王妃様は俺に頭を下げてくれたけど、バカ王は視線を合わせずに会釈程度に頭を下げる。

 見咎めた王妃様が思いっきり頭を叩いた音が部屋に響く。

 どうしようもねぇな、コイツ。

 他のお偉方も呆れてるからシャンとしろ、下手したら公爵がまた謀叛を起こしかねないぞ。

 

「アンジェが発案した国営金融機関の設立は細かい部分を調整して今年度の議会で審議する予定です」

「そりゃあ良かった、じゃあ用は済みましたね」

「バルトファルト、いい加減に諦めろ」

「財政面に関しては旧公国からの賠償金も含めて少しずつ余裕が出て来る予定ね。それらを必要な部署へ順次補填するわ」

「問題は政務・財政よりも軍事を含めた人材の育成です。腐敗貴族の処断に加えて戦争によって多くの貴族や騎士が亡くなりました。領主の妻女や幼い男子を当主として認めていますが、政務に関しては建て直し可能ですが軍事力の低下は深刻です」

「優秀な人材の育成、そして軍事力の回復の為に私達は王立学園の再開が必須だと考えました」

 

 なるほどね、つまり若い男達を国が使えるようにするって訳か。

 個人的には同意するけど、一人の父親としてはあんまり納得できないなぁ。

 俺は戦争のお陰で出世したが自分の子供達には平和で穏やかな人生を送って欲しい。

 それがダメなら国や親からの強制じゃなくて自分の意志で戦いを選べる世の中にしないと。

 

「話は分かりました。それが俺の軍事顧問就任とどんな関係があるんですか?」

「今言ったように人材の育成と軍備の再編が必要だ。そこでバルトファルト伯爵には気付いた問題点を指摘して欲しい」

「なら俺より賢くて強い奴は幾らでも居るはずでしょう。ユリウス殿下の方が適任では?」

「ユリウスは向いてないし他の四人も同様ね。聖女オリヴィアは神殿の仕事や外交で手一杯。それで人選を重ねて適任と判断されたのが貴方よ」

「納得できません。俺は下位貴族の出で、学園に通った訳でもなく勉強も独学。格闘や射撃にしろ、鎧の操縦技能にしろ、俺より有能な連中は多いはずでしょう」

「それほど王国の人材は枯渇しているのよ。加えてユリウス達は強過ぎて(・・・・)逆に不向き。どれだけ優れていても再現性の無い強さは国力の回復とは言えないの」

 

 英雄が名将とは限らない、勇者が王に相応しいとは限らない。

 オリヴィア様と五人の英雄はホルファート王国が生んだ天才だ。

 だけど世の中ってのは九十九人の凡人と一人の天才ぐらいの割合になってる。

 天才の技は凡人じゃ真似できない物が殆どだ。

 おまけに天才は自分が簡単に出来るから他人に教えるのが下手な連中が多い。

 感覚でやってるせいでどうしてそうなるか上手く説明できないし、再現するには同じぐらいの天才じゃなきゃ無理ときてる。

 一人の天才が一人の天才を鍛えてもたった二人の天才で国防を担える訳が無い。

 どれだけ個人の力が優れていても数ってのは単純明快な強さだ。

 

「領主の俺じゃなくて五人の英雄様にした方が貴族や兵のウケは良いでしょう。殿下はどうなんですか?」

「流石にユリウスを指導者にするのは無理があるわ。それに王位継承権が下がった王子が軍と関りを持てば他の王子が警戒して要らぬ争いを招きかねないの」

「じゃあジルク」

「彼は人望に欠けています、策士とは他者から嫌われ指導者は向きません」

「クリスなら?」

「剣の腕と鎧の操縦は天才的ですが指導が上手いかは疑問です」

「グレッグは?」

「落ち着いたとはいえ今も彼は筋肉信奉者は戦術が突撃一辺倒だよ」

「ブラッド」

「自分を誇るのは悪くはないが、他人と自分をいちいち比較するのはいただけないな」

「……俺は凡人だから他人に教えるのが上手いと思ってるんですか?」

「それだけではありません。貴方の領地を訪れた殿下が練兵や指揮に感銘を受けて推挙なさったのです」

「推挙しないでください殿下」

「謙遜するな、お前の実力は俺が一番よく知っている」

「殿下だけではありません。他の四名は無論ですが、戦時中に貴方に助けられた貴族からも感謝の言葉と推薦状が届いています」

「喜べバルトファルト、皆がお前の力を認めているんだ」

 

 嬉しくない、全然嬉しくねぇよ。

 せっかく領地に戻って子供達をあやしながらアンジェとイチャつきつつのんびり領地を開拓する俺の人生設計が滅茶苦茶だ。

 一年も王家と公爵家のゴタゴタに神経を擦り減らしてきた俺に追加の仕事を回すな。

 

「英雄様の他にも俺より強かったり賢い奴は居るでしょ」

「各々の専門分野に関してはな。だが自身の戦闘技能・鎧の操縦・戦術論・兵の育成と満遍なく高水準な男は私の知る限り卿だけだ」

「たかが二十歳の若造が国の軍備に口出しするとか爵位が上の貴族や年配の方々が黙っちゃいませんって」

「爵位と宮廷階位を上げたのはその為だよ。流石に大臣に据える訳にはいかんが、ある程度の裁量を与え諫言できる程度は許されるだけの物を与えている」

 

 公爵、実は俺に脅迫されたのを根に持ってるだろ。

 俺が途方に暮れてるのを見て楽しそうに体を揺すってるし。

 大臣も俺みたいな奴と同格扱いされた事に怒れよ。

 宰相は期待に満ちた目で俺を見るな。

 殿下はどうして俺の出世を喜ぶ友人みたいな態度してんの?

 俺達そんな関係だっけ? 

 王妃様は俺を良い手駒だと思ってるようだ、完全に部下に命令を下すお偉いさんの視線をしてる。

 バカ王、退屈そうに欠伸すんな。

 いつか絶対に泣かす。

 

 こうなったらダメな部分を手酷く指摘して、無茶な条件を突きつけて解任に持ち込もう。

 流石に『これじゃ任せられない』と分かれば諦めてくれるだろ。

 でも王国の軍備が低下したままじゃ戦争の火種が起きかねないし、俺も巻き込まれる事になる。

 注意は的確に、言い方は大げさに作戦だ。

 

「……最初に言っておきますが、俺には現状で手元にある物の効率化ぐらいしか出来ませんよ」

「承知してるわ」

「いきなり兵隊を生み出せとか、弱い一兵卒を一日で精兵にしろとか、鎧を量産しろなんて無理です」

「分かっている」

「人材の育成に時間がかかるのは承知しています。我々が求めているのは国力が回復するまで数年間を耐え凌げる方法と今後の王国軍の指標です」

 

 そんなもん俺に求めんな。

 お偉方は若造の俺を何だと思ってんだ?

 自棄になって考えた作戦が上手く当たって偶然生き延びただけの男だよ。

 あぁ、ちくしょう。

 仕方ないから俺が思いついたダメな部分を指摘しまくろう。

 後はお偉方が勝手に解釈して上手い具合に修正すんだろ。

 とりあえず好き放題言わせてもらうけど!

 ダメなのは俺のせいじゃないからな!

 失敗しても人事の失敗で責任を押し付けるなよ!

 無茶言ってさっさと解任されるぞ!

 公爵邸に戻ったらすぐに飛行船でバルトファルト領(うち)に帰ってやる!!




やったねリオン、出世したよ。(愉悦
そんな訳で王国一の成り上がり者になったリオン。
でも国を滅ぼすとか、クーデターを鎮圧とかしてないから原作よりマイルドだよね?
論功行賞のシーンは原作やコミカライズのシーンを参照。
今作リオンは原作より年上なのでかろうじて落ち着きがあります。
仕事という物は出来ない奴よりも出来る奴に回されるのが世の常です。
頑張れリオン、皆が君を認めてるぞ。

追記:依頼主様のリクエストによりPlanterak様、柳(YOO) Tenchi様にイラストを描いていただきました。
ありがとうございます。

Planterak様 https://www.pixiv.net/artworks/122667637
柳(YOO) Tenchi様 https://www.pixiv.net/artworks/122737543

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。