婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです 作:品☆美
「最初にお聞きします、王家が隠している軍事力はもうありませんよね?」
王家が隠してる情報なんて知ったら要注意人物認定されるから嫌だけど仕方ない。
軍を指揮するのに最初に知っておくべきなのは自軍の戦力と敵の戦力。
他にも地形やら兵站やら絡んで来るけど、そいつらは諸々の状況で変化するからとりあえず除外。
王家の手札をきちんと晒してもらわない限り提案なんて出来ない。
ロストアイテムの戦艦を隠し持ってるならそっちを使った方が手っ取り早く解決できるし。
「御安心をミスタ・バルトファルト。王家が秘匿してる軍事力は現時点で存在しません」
「王族の為に作られた特別仕様の鎧も売却したわ。現状で王国の軍事力は半分近くにまで低下してるの」
バカ王がピクッと身震いした。
そう言えばアンジェから聞いたけど仮面の騎士が乗り回してた鎧を王妃様が売り払ったらしいな。
アホな行動するから嫁さんにそう言う事をされんだよ。
同時にそこまでしなきゃ傾いた国を立て直すだけの金を用意できない王家の現状が憐れだ。
軍っての維持するだけで金がかかる、だから平和になったら規模を縮小したり兵が解雇されたりする。
でも放逐された元兵士が空賊になったり、鹵獲した敵の飛行船や鎧を売却すると治安が悪化するんで一領主としては止めて欲しいんだけど。
そういや
やっぱ悪魔だろ、別世界の俺。
そりゃレッドグレイブ公爵家と手を組んでホルファート王家を引き摺り下ろして王様になるわ。
「ロストアイテムの艦、あれは修復できないんですか?」
「今も試しているけど無理そうね。修復に長い期間が必要だし、飛行が可能になっても聖女の力を増幅する機能は私達の手に負えないわ」
「我々の技術では再現不可能、故に
いや、ダメだ。
アイツに任せたら逆に奪われる可能性があるし、仮に直せてもまたホルファート王家が領主貴族を支配する為に使う可能性が高い。
王家の艦はファンオース公国やラーシェル神聖王国みたいな対立国家より王国内で反抗的な領主貴族を黙らせる目的で使われてきた。
あんなのに攻められたら勝てる領主貴族は存在しない。
唯一勝てそうなのは俺が知ってる中で
「じゃあ、領主貴族が軍備を増強する事はお認めくださいますか?」
「…………」
「先に言っておきますが、領主貴族達の軍事力は据え置きで王家の軍事力だけを回復なんて器用な真似なんて俺には無理です」
これもアンジェから聞いた話だけど、ホルファート王家は時間をかけてゆっくりと領主貴族の数を減らして最終的に王家に従順な貴族をだけを残す計画を立てていたらしい。
そもそも国の成り立ちからして国祖達やうちのご先祖様は何の後ろ盾も無い流れ者の冒険者だ。
未開拓の浮島を発見して少しずつ開拓したのに、いきなり訪ねて来た冒険者が『お前達は俺達の手下だ』と力で無理やり抑えつけられたら恨みが残って当然だ。
おまけに昔の大公が王国から離反して出来たのがファンオース公国。
どうやって領主貴族達の力を削ぎつつ王家に従わせるか必死に考え続けてある結論に至った。
王家に反抗する気が失せるほど弱らせて最終的には滅ぼそう、そこまで行き着いた訳だ。
軍事力の制限、税の加算、望みもしない政略結婚、わざわざ王立学園へ通わせて王家に都合が良い教育、女尊男卑思想の植え付けと領主貴族達をひたすらイジメ抜く事に腐心し続ける。
反抗的な貴族が現れても強大な軍事力で叩き潰す。
そうやって国内の、いや王家の安泰を図ってきた訳だ。
だけどそんなやり方が出来たのは強大なロストアイテムである王家の艦があってこそ。
王家の艦が沈んだら万全だと思ってた支配も一緒に崩れるしかない。
特に領主貴族達への過剰な弾圧と軍事力の制限がマズかった。
軍事力の制限すれば他の国が攻めて来た時に対処できない。
領主貴族達を結束させないように政略結婚を強制すれば、領主貴族は互いを助けようとは思わず自領を護る事だけに固執する。
こんな弾圧をやり続けて逆に王家への忠誠心が薄れて、ファンオース公国が攻めて来た時は大量の離反者が出た。
戦争中にファンオース公国へ寝返った貴族は何も金や地位が目当てだったり、自分の命惜しさに裏切った連中だけじゃない。
ホルファート王家に愛想を尽かしてファンオース公国を圧制からの解放者だと本気で考えてた貴族も多い。
領主貴族の叛乱を恐れるあまりにやり過ぎて、本当に裏切られたんだから皮肉な話だ。
「王国軍が弱体している現状じゃ、頼れるのは領主貴族しかいないでしょ。まずは飛行船や鎧の保有数制限の解除。領地と領空域の自治権の強化に関税の減額、浮いた費用を再軍備に充てれば時間稼ぎにはなるかと」
「正気なの貴方?そんな事を認めれば新たな火種になりかねないわ」
「嫌ならどうぞ自由にしてください。『叛乱が怖いからこれからも領主貴族を抑えつけます』。そう言われて従い続ける奴らがどれだけいるか見物ですね」
俺の言葉に王妃様と宰相は渋い顔をする、それとは反対に公爵は愉快そうに微笑んでいた。
そりゃ叛乱を計画していた公爵にとっちゃ娘婿の俺が王家に挑発じみた行動をするのは胸がスカッとするだろう。
実際に国王があんな奴だと事前に知ってたら公爵に味方してたかもしれない。
だけど時間は戻せない、自分のやらかしはきちんと自分で片付けるのが大人ですんで。
「大抵の貴族は復興を優先して軍備を整えるだけの金も人手もありません。なので一時的にでも関税や制限を減らして国内の流通が活発化すれば貴族だけじゃなくて王家にとっても得です」
「……バルトファルト卿の言いたい事は分かります。しかし徴税を減らせば王国の歳入が減るわ」
「公国からの賠償金の分だけ貴族の負担を減らしてください、期間も国力が回復するまでの制限付きにすれば良いと思いますよ」
「簡単に言ってくれるわね、せっかく決めた予算案を最初から修正しないといけないわ」
「御気を落とさずに」
まぁ、バルトファルト領を治めてる俺なりの打算があるんだけど。
関税が減らしてもらえればうちの領地で生産した作物を他領へ売る時の収入が増える。
流通が活発化すりゃ湯治に来る観光客も増えるだろう。
お金は大事、金儲けが下手な貴族は自分の領地を治める資格が無いとはアンジェの言葉だ。
「並行して国を護る領主貴族同士の結束を強める為に政略結婚の制限を解除しましょう。あぁ、もちろん王家や宮廷貴族にとって都合が良い政略結婚を押し付けるのは禁止して女尊男卑思想を持つのは明確な離婚理由ときっちり法律で定めた方が良いかと」
「それは逆に領主貴族が王家に歯向かう危険性を上げるのでは?」
「仕方ありませんよ。確かに政略結婚は貴族の務めですがあまりに一方にとって都合が良過ぎるのは恨みを買います。現に俺や父はその犠牲者であり、淑女の森が作られた原因ですから」
「失礼な質問だが、君の母は妾扱いだったと聞いている」
「そもそも父の正妻だった女は宮廷貴族の出身ですがひどいもんでした。碌に領地へ来ない、浮気をして夫以外の男との子を産む。挙句に俺をどっかの年増女に夫という態で売り飛ばそうって腹積もりですよ。後で分かりましたがあの女は淑女の森の構成員でした。あんな組織が生まれたのは間違いなく領主貴族への嫌がらせや女尊男卑政策が原因です。王家を護るつもりが逆に王家どころか国を蝕むような売国奴を育てていた訳ですよ」
この部屋に居るのは王族、他の国から嫁いで来た王妃、公爵、宮廷貴族の大臣。
王家と宮廷貴族は領主貴族を従えてる連中ばっかだし、レッドグレイブ公爵は王位継承権も持ってるから骨の髄まで領主貴族とは言い難い。
実際の領主貴族の憤りなんてが自分が体験した事ないんだろうな。
そうやって長年積もりに積もった恨み辛みがこの国を危機を齎した。
原因は領主貴族への偏見や格差を煽り続けた王家の自業自得としか言いようがない。
「高慢な女を無理やり嫁がせる、田舎者と見下して税だけは搾り取る、手柄を立ててもろくに出世させてもらえないとやりたい放題。そうやってずっと冷遇してきたくせにヤバくなったら掌を返して助けを求める。どれだけ王家が必死に呼びかけても見捨てますよそりゃ」
「手厳しい発言ですね」
「事実ですんで。待遇を改善しなきゃ領主貴族は働きませんし、ラーシェル神聖王国やヴォルデノワ神聖魔法帝国へ寝返って侵略の先導役になります。王国の力を削げる上に詳しい情報を集められる、今なら王国を攻め落とす好機だと俺だって考えます。だから待遇を良くして寝返りを防ぐしかありません」
信頼は言葉ではなく渡された金袋の重さ、ってのは誰が言った諺だったかな?
ケチな主君の所じゃ部下のやる気は失せるし、もっと条件が良い勤め先に映ってく。
王家は徐々に領主貴族の力を削ぎたかったみたいだけど、そんなの王家の都合でしかない。
滅びろと言われて素直にくたばってくれるほどの待遇を与えなかったホルファート王家の失敗。
奪った事に気付かれて奪い返すのを防ぐだけの力を失う前に手を打つべきだったんだ、
俺自身もホルファート王家に対して忠誠心なんてほぼ無いし、俺が王家と公爵家の和解を仲介したのは俺の都合で他の国の脅威が無きゃ公爵家に味方していた可能性が高い。
「その辺の話はお偉方の会議で決めてください。次に軍の養成ですが兵の採用枠を増やしましょう。同時に軍を指揮する連中の育成機関も新しく作った方が良いと思います」
「では再開する王立学園に専用のクラスを設けましょう」
「学園ですか……」
「ミスタ・バルトファルト、何か不都合が?」
「う~ん…、再開する学園って以前とどんな風に違うんですか?」
「嘗ての学園は普通クラスは下位貴族と平民、上級クラスは高位貴族と特待生のみが在籍していました。しかし、そうした区分けが却って上位貴族出身の令息令嬢達が増長する一因となったのは間違いありません。故に新たな上級クラスは筆記試験の成績と面接による性格鑑定、並びに本人と実家の調査も加える予定です」
「それは貴族、平民で差を付けないと考えても良いんですね?」
「はい、ミス・オリヴィアは良き判例になってくれました。優れた資質を持つ者を学園は応援する、奨学金などの制度も導入し人材の育成に全力を注ぐ方針です」
学長に就いていた宰相は穏やかな物腰で俺に接してくれる。
この人自身は善人ではあるんだろうけど、どうにも胡散臭く感じてしまう。
アンジェや公爵の話だと兄だった先王に遠慮してあのオッサンが王になるように薦めた。
学園の上級クラスが腐った貴族達の温床になってたのを半ば放置してた。
特にアンジェの婚約破棄騒動やらオリヴィア様のイジメに関して対処しきれていなかった部分が原因で、俺の中での評価が悪くなってる。
きちんとオリヴィア様を保護してイジメの調査を行えばアンジェが批判される事は無かった筈だ。
それが無きゃ俺とアンジェが婚約できなかったとは言え、だからって受け入れられるもんじゃない。
「はっきり言えば軍に必要な教育と貴族に必要な知識はあまりに違い過ぎます。下手に混ぜるより別にした方が良いと俺は考えますね」
「しかし現状に於いて軍の統率は王族や貴族の務めです。戦闘に関しても稼業としている騎士も多く、それを考慮すればこの方法が最も効率的かと」
「逆にお聞きしますが、戦前や戦後に戦術学や軍の運用に必要な知識を学んで実際に訓練を行ってる貴族子息がどれだけ存在してるんでしょうか?」
「それは……」
宰相は勘違いしている、おそらく他の人たちも同じだろうな。
生まれた時から受けてきた王族や貴族として教育のせいで頭の中が凝り固まってそこから思考が飛躍できない。
確かに国や領地が危機になったら王族や貴族は率先して戦う義務が存在してる。
ゾラやルトアートみたいに領地や領民を捨てて逃げ出すような連中はそもそも貴族としての資格が無い。
たとえ貴族の義務を果たす為に戦う気概がある貴族でも前から疑問に思っていた事がある。
そいつを今からお偉方にぶち撒けよう。
「前から考えていました。どうしていざ戦うとなった時に指揮を執るのは
「無論、民と領土を護る為に戦うのが貴族として果たすべき役目だからよ」
「その果たすべき役目を全うする為にどれだけの貴族が真剣に戦略や戦術を学んでいるのか疑問です」
少なくとも軍に所属している奴らは真剣に学んでいるだろう。
兵站や交渉や軍備に関わる奴らも同じはずだ。
なのにどうして、いざ戦争になると王族や領主が現れて無茶な作戦やアホな理屈を捏ねくり回して滅茶苦茶にするんだよ?
「俺がまだ王国軍に所属していた頃の上司は軍に長年所属していた人でした。平民出身でしたが有能な指揮官だと記憶しています。ところがファンオース公国が攻めて来た時に司令官に着任したのは軍事を碌に知らず訓練なんか一度もやっていない宮廷貴族の男でした。そんな奴が親から受け継いだ爵位だけで指揮官に就く。これじゃ勝てる戦も勝てません」
「紛れもなく私達の過ちね、兵達には申し訳ない事をしたわ」
「別に宮廷貴族だけに限りません、領主貴族も同じぐらい酷い奴も居ましたから。他の貴族と連携せず、自分の指揮が最善と疑わず、親から受け継いだ旧式の鎧と数十年前に廃れた戦術を必勝法と勘違いした阿呆です」
「頭が痛くなる話ですね」
「厄介な事にそういう手合いほど爵位やら宮廷階位を持ち出して他の貴族を部下だと思い込んでます。まるで戦場を遊技場か舞台と勘違いしてる。戦場で敵を薙ぎ倒す伝説の英雄に自分がなれると思い込んだ図体だけがデカいガキですよ」
吐き捨てるように答えながらバカ王を睨むと、王妃様と殿下も続く。
お前と同類だよバカ王、ちっとは反省しやがれ。
だから王族や貴族って奴らは嫌いなんだよ。
どれだけ悪事をやっても身分を盾に逃げるから状況が改善されないままだ。
種がまともでも歪んで育った作物誰からもは見向きもされなくて売り物にならず腐っていくしかない。
作物なら悪い種を取り除いて良い種を残し丹念に育てれば良いけど、貴族様なら何をやっても裁かれずに放置。
そうやって腐った種と腐った種同士が結びついてさらに酷くなった種が腐った土壌で育てられるのを繰り返し続ける。
頭が痛くなる事にそうやって腐乱した花と果実が増殖して下位貴族や平民の生き血を啜っていたのが数年前までのホルファート王国だ。
本来なら見捨てて別の畑を耕した方が手っ取り早いかもしれない。
でも俺はこの国で手柄を立てて出世しちまった。
元公国の奴らからは恨まれてるし、他の国からは要注意人物として見られてる。
仮に裏切っても王国の連中が真っ先に殺しに来るはずだ。
だから俺はこのままホルファート王国で貴族をやるしかない。
どうして人生はこうも幸せよりも苦しみの方が多いんだろうな?
「でも戦争中に貴方の指示に従った貴族は多かった筈よ。爵位が上の貴族達でさえね、一体どんな手品を使ったのかしら?」
「向こうがヤバくなったら救援を出しました、単純な答えですよ」
「たったそれだけ?」
「それだけです。戦場じゃ誰かと協力しなきゃ生き残れません。誰かを見捨てる奴はいつか他の誰かに見捨てられる。だから他の貴族が危機に陥ったら出来る限り助けて回った。それを何度も繰り返してたら、いつの間にか俺が貴族の集まりで指揮を執るようになっていたんです」
ぶっちゃけ人手と背後の弾除けが欲しかったってのが本音だけどね。
あまりにバカ過ぎる行動をする奴は面倒を見きれないから放置して助けなかった。
俺は聖女様や英雄達みたいな天才じゃないし博愛主義者でもない。
ただ死にたくないから必死にやれる事をやって恩を売りつけてる卑劣漢だ。
その辺は他の貴族も薄々察してるだろう、そうじゃなきゃ戦場で俺みたいな成り上がりの若造に従わない。
俺に従えば持ちこたえられる、少なくても死ぬ可能性は減らせる。
普段は誇りだの義務だの口にしてる貴族様も結局は死ぬのが怖いらしい。
「むしろ戦争が始まった頃が一番揉めました。協力しなきゃいけないのに誰が中心になるのか。爵位か、年齢か、経験か、評判か。作戦が成功すれば手柄の取り合い、負ければ責任の押し付け合い。通信機の周波数や暗号はバラバラだし、指揮官が死んだ時の代替さえ決めてなかったんですよ。指揮官の貴族様がこれじゃ何をしたって勝てません」
「領主貴族の同盟軍も問題を抱えていたようね」
「だからまず軍の指揮系統を単純にします。その上で爵位や宮廷階位と違う階級を持たせて上官の命令に服従させましょう。例え貴族でも階級を持っていない奴は作戦行動に口出し出来ないようにすれば自分が強いと勘違いしてる貴族の被害は減るでしょう」
「単純に騎士に軍権を委譲させてはどうかな?」
「二度に渡る公国との戦争で多くの騎士を喪いました。現時点では戦功を挙げた貴族子弟や平民を取り立てていますが、それでも十分とは言い難い状況です」
「そっちについても俺から意見があります」
まだあるのか、そう言いたげな顔をしないでくださいよ。
俺だってお偉方に文句ばっか言いたくありません。
でも言わないと後々面倒な事になりかねないからこの場を借りて言いますんで。
「功績を挙げた奴を騎士に取り立てるのは構いません。騎士として用いるには何らかの教育や試験を受けさせる事を義務付けした方が宜しいかと」
「何故かね?国力の回復には軍備の再建が必須だろうに」
「質の悪い奴らを騎士にしても兵力は戻らないって事です」
ホルファート王国の騎士は主に宮廷階位七位から九位の連中だ。
八位と九位は一代限り、七位からは世襲が可能。
貴族として最下位である男爵が六位で、要件さえあれば王族と面会だって出来る。
だからこの場の皆さんは騎士の連中と会話をした経験がほとんど無いはずだ。
護衛任務の騎士を人型の盾程度にしか思ってないだろう。
普段見てるのは質の良い騎士だけで、実際に軍務を担当する騎士の実態を知らない。
「戦争で喪った騎士の補充する為に条件を緩くしてがんがん採用すると、粗暴な奴や最低限の水準に達してない騎士も増えます。それでも実績があって騎士になる奴はまだ良い、問題は七位の世襲騎士と貴族から騎士になった連中です」
「貴族子弟は幼少期から教育を受けている、騎士としての振る舞いに支障は無いと思うのだが」
「よ~く考えてください、そいつらは大体が
俺が発言してから数秒後、言葉の意味を理解したお偉方の顔から血の気が引いていく。
王族や高位貴族ってのはこれがダメだ、世襲を当たり前だと信じて疑わない。
親が優秀なら子が優秀と無条件に信じ込む。
だけど親の才能が子に受け継がれないとかよくある事だし、どんなに優れた樹木から採れた種だって一定の割合でダメな種が混じるもんだ。
「貴族から騎士になるのは嫡子になれなかった男子です。後から後継者に選出される優秀な奴も極稀に居ますが、大抵は親に才能が無いと見捨てられた男子が殆ど。貴族出身の傲慢さで鬱憤を抱えたままの連中に領地の防衛や主人の護衛が務まると本気で思いますか?」
「考えたくないわね」
「何の努力もしないで功績も出さず、ただ貴族の生まれというだけで鎧を乗り回し暇潰しに平民の男を撃ち女を犯す。実家はバカ息子を騎士として引き取ってくれた貴族に賄賂を渡して揉み消す。領主は平民を税を毟り取る数字として見てるから騎士の横暴を見て見ぬふりをする。ひどい奴になると領主に悪事を唆す騎士さえ居ますよ」
「見て来たように言うな」
「実際に見て聞いて来ましたから」
戦争が起こる前、王国軍に入る為に家を出てしばらく度をしている間に横暴を働く騎士を何度も見かけた。
そんな奴は戦争になるとさっさと逃げだすか自分の腕を過信して大部分が死んだ。
だけどしぶとく生き残った騎士も居るし、人手が足りない領主貴族が新しく雇っているから恐ろしい。
「俺が領主になってから兵や騎士の募集をかけました。過剰評価の平民やら貴族子弟やら貴族のお抱えだった騎士が訪ねて来ましたけど、まぁ平民より貴族の方が出来が悪いですね」
「そこまで腐っていたか」
「教育を担う者としては否定しがたい事実です。現にミズ・オリヴィアと比較して彼女に勝る女生徒はほぼ居ません。辛うじて比肩できたのはミス・アンジェリカぐらいでした」
「平民は明らかに素質が無い奴も居ますけど、自分の足りてない所を自覚して改善しようと頑張る奴もいます。貴族出身者は昔の贅沢な暮らしを忘れられないみたいで。領主の俺より贅沢な待遇を求めてきた奴さえいました」
「仮にも主君に対しそんな真似をする騎士が居るのか」
「戦争で騎士が足りなくなってから、領主が直接召し抱える分に関しては叙任権を委譲させたじゃないですか。
う~ん、我ながらひどい言い草してるな。
何しろ貴族って存在を否定して世襲制を批判してんだもん。
お前だって貴族だろ、狂ってんのかとこの場の全員に罵られても仕方ない。
でもこの程度の意見は言わないと腰の重いお偉方は動かないだろうし。
王族の目の前でこんな発言をしまくる俺は王政どころか貴族社会の異端児だ。
バルトファルトはヤバい男だ、出世させたら何を仕出かすか分からないと思われた方が都合が良い。
「貴方の考えを実行すれば王国が根底から覆されるわね」
「忌憚なく意見を言えと仰ったので」
「ですが母上、視察した俺の意見を言わせてもらえるなら僅か数年で成り上がりの領主貴族が作り上げた軍と思えないほど見事な物でした」
「何より王国を護ったのはミス・オリヴィアであるのは揺るぎない事実です。人材育成の観点から考えてもあまりに貴族の優遇を続けては新たな腐敗の温床になりかねません」
「縁故採用が逆に派閥の争いを助長してるのは否めませんな。各所に配属された若い閣僚にも仕事を部下に任せて遊興に耽り収賄を繰り返していた者も居ました」
「膿を出しきるにはいい機会だ。既得権益に拘る無能な貴族を減らせば組織の風通しも良くなる」
「だから平民を積極的に採用するのは暴論では?」
「オリヴィアの人望は既に神殿内に収まらず王国の民の大部分が支持しています。下手をすれば国王である父上よりも信頼されています」
「言い過ぎよユリウス、言葉を弁えなさい」
「ですが事実です。オリヴィアの名声が高まる程に平民達の意識も高まりつつあります。このままでは平民が貴族に対して暴動を起こす可能性があります」
「せっかく国内の貴族が纏まりかけたのに内乱が起こるのは避けたいですな」
「寧ろ聖女殿を担いで新たな支配者になろうとする者も出かねないわね」
「はて、誰の事でしょうか?」
「白々しい、それとも取り繕う必要も無くなったと言いたいのかしら?」
ついにはお偉方は喧々諤々と意見を出し合い始めた。
もう帰って良いよね俺?
この一年、いや戦争を含めたら二年以上も王国の面倒事に巻き込まれてきたんだぞ。
お願いだからそろそろ解放してくれ。
嫁や子供達と一家団欒する時間を与えてくれよ。
バルトファルト領に戻って少しずつ領地を開拓しつつ発展させるぞ。
領地の経営が安定したらちゃんと育った子供に跡を継がせて隠居するんだ。
自分の畑を好きなように耕してゆっくり温泉に浸かりながら穏やかな隠居生活を送ってやる。
そうやって歳を取ったらアンジェと子供達と孫達に囲まれて眠るように息絶えるのが俺の理想だ。
だから軍事顧問なんて絶対に嫌だ! 御免蒙ります!
「……貴重な意見をありがとうバルトファルト伯爵」
「浅はかな俺の考えなど妃殿下の深謀遠慮には遠く及びません」
だから解放してくれ、頼むから。
その為に過激な言い草で王家や宮廷貴族の介入阻止・領主貴族の権利向上・新たな階級制度の導入・平民の採用を口にした。
どれか一つぐらい提案が達成すればマシだろう。
貴族なのに社会制度をぶっ壊しかねない奴を要職に就けるのは危険過ぎる。
これから俺は要注意人物として国の政治から遠ざかるから後は皆様に任せます。
「些か過激で先進的過ぎるけど、貴方の慧眼は目を見張る物があるわ。何処からその知見を得たのかしら?」
「軍務に関しては教本を読み漁った独学です、政治や貴族の仕来りについては妻に仕込まれました」
「アンジェリカが貴方をここまで鍛え上げたのね」
「別に俺は何処にでも居る平凡な男ですよ。俺より優秀な奴は幾らでも居ますし、妻が教え込めばどんなバカでも一端の貴族になれるでしょう」
「…………」
「………………」
「……」
「…………」
何でみんな黙るんだよ、俺は凡人だぞ。
ちょっと先祖に優秀な奴が居て、戦場でたまたま生き残る幸運だけが取り柄な男だ。
生き残る為に相手を罠に嵌めるし、どうやったら上手く領地を発展させられるかアンジェに尻を蹴られて頑張ってるだけ。
とてもじゃないが要職なんて務まらない。
「分かりました、貴方の貴重な意見は出来る限り配慮します」
「ありがとうございます」
「やっぱり貴方は有能ね、今後のホルファート王国になくてはならない人材だわ」
何で顔は微笑んでるのに目が笑ってないんですか王妃様。
あと公爵と宰相と大臣はにこやかな表情するな、殿下に至っては嬉しそうに手を掲げてる。
一方でバカ王は嫌そうに俺を睨んでいやがる、本当にぶれないなコイツ。
「……領主貴族の若造な俺が王国の軍備に関わったら良い顔をしない貴族が多いと思いますが」
「領主貴族の地位向上を提言するなら貴方を採用する方が一番早いのではなくて?」
「流石に数年は領地の発展に勤しみたいんですが……」
「無論、相応の待遇は用意するわ。軍役の免除と役職報酬、その他諸々も王家が負担します」
外堀を徐々に埋める王妃様が怖い。
何を言っても逃がさないという意思を感じた。
あと軍役の免除は正直デカい、これで領地の負担をかなり軽減できる。
その間に領地の発展を続ければ公爵家からの融資の返済もかなり進められそうだ。
「そうそう、伯爵の兄がローズブレイド家の令嬢と結婚するそうね」
「王妃様がご存知とは光栄な話です」
「でも流石に伯爵令嬢が男爵に嫁ぐのは無理が多いと思うの。貴方が軍事顧問の仕事を引き受けてくれたら御令兄を子爵位に陞爵させるのを早めるわ」
「…………」
元々の兄さんが男爵位を継いで子爵になれるようにレッドグレイブ公爵家とローズブレイド伯爵家が手を回してくれてる。
それをこの王妃様は兄さんの陞爵を認める代わりに俺を働かせたいらしい。
くそッ、どっかに逃げ道は無いのかよ!?
「ちょうど私付きの侍女を募集しているの。宮廷貴族じゃなくて領主貴族のご令嬢でいい娘達が居ないかしら」
それはうちの姉と妹の事ですか?
確かに姉貴とフィンリーは貴族の奥方になる為の花嫁修業で満足な成果を出せてない。
ただでさえ女尊男卑政策の反動で貴族の女は結婚が難しくなってる。
このままじゃ二人とも行き遅れになって独り身のまま実家で一生を過ごす未来が確定だ。
でも王妃の侍女や王宮で行儀見習いという経歴が付けば話は別だ。
それだけ優秀な令嬢として見合い相手がうちの姉妹を見る目は変わるから結婚の可能性が高くなる。
王宮に勤めて恥をかかない水準に到達するまでアンジェに行儀作法を徹底的に叩き込まれるんだろうな……。
その辺は当人に頑張ってもらうしかない。
王妃様は本当に悪賢い。
俺が家族を見捨てられないと分かってこんな話を持ち掛けて来たに決まってる。
あぁ、やだやだ。
さっきまで批判してた貴族と同じ事を自分がしてると思うだけで気が滅入ってくる。
どうして人間は清く正しく生きられないんだろうね?
爵位が高くなればなるほど自分が汚れていくのを感じるよ。
「王妃様のお気持ちはよく分かりました」
「そう、嬉しいわ」
「不肖リオン・フォウ・バルトファルト、軍事顧問の任を務めさせていただきます」
こうして俺、リオン・フォウ・バルトファルトは伯爵位に陞爵と同時にホルファート王国軍の軍事顧問に就任。
何故か分からないけどお偉方に気に入られる事になった。
本当にもう、どうしてこうなった?
こうしてリオンは軍事顧問に出世しましたとさ、めでたしめでたし。(オイ
原作を読むとルクシオンの圧倒的な力や危機的状況もありますが、ホルファート王国自体の支配体制その物が限界に達していたのかと感じられます。
原作ではルクシオンの力とレッドグレイブ家の後援もあってバルトファルト王国が興りましたが、今作は聖女オリヴィアと英雄達のお陰である程度状況が改善しています。
頑張れリオン、皆が君に期待しているぞ。
ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。