婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第121章 Order

「さて、バルトファルト伯爵。君にお願いしたい案件があるのですが」

「断る」

 

 反論の余地無く、速攻で拒絶の意志を伝える。

 交渉ってのは時と場合によって対応を変えるのが基本中の基本だけど、コイツを相手にする時はとりあえず断ってから話を進めるのが俺のやり方だ。

 もうコイツとの付き合いは俺の人生の半分近くの長さだけど、気に食わないのは相変わらず。

 たぶん向こうもそうだろう、なので遠慮なんかせず率直に拒否した。

 

「大体よぉ、どうして俺を頼るんだよ?情報管理室ってのはそんなに人材不足なのか」

「馬鹿な事を言わないでくれませんぁ。内政に於いても外交に於いても情報は何物にも勝ります。各国が血眼になって諜報機関に注力しているのに我々の王国がそうしない筈なありませんよ」

「なら良いじゃん」

「だが、この案件は些か厄介です。首尾よく解決できるのは王国にその名を轟かせるリオン・フォウ・バルトファルト伯爵を於いて他に居ないと私は推察しています」

「ナメてんのか?俺、一応は伯爵様だぞ。ホルファート王国の貴族だぞ。自分の領地を治めてる御領主様だぞ」

「知っていますよ。この二十年程に渡る君の経歴はしっかりと把握済みです」

「なら巻き込むじゃねぇ。そもそも俺は領主貴族だぞ、外部の人間を国の重要案件に関わらせるな。秘密が漏れたらどうすんだよ」

「それについては我々も心を痛めています、痛めた上で相談しているから安心していただきたい」

「誠意も謝意も全然伝わって来ねぇぞ」

 

 今この部屋で言い争っている俺達を除いた全員はそれとなく酒や肴を摘まんだり、本を読んだりしてやがる。

 俺達のやり取りがよくある光景だと思って距離を置きつつも、俺がコイツの話を聞く態勢が整うまで待つ腹積もりらしい。

 なんて奴らだ、まったく。

 

「リオンさん、落ち着きましたか?」

「……落ち着いたら話に従わなきゃいかん案件なんでしょう」

「拒否権はあります」

「俺の記憶では受け入れて貰えた憶えがないのですが」

「…………」

 

 あ、聖女様は目をお逸らしになられたぞ。

 出会った事は大人しくて真面目な性格だと思ってたけど、この人って意外と図々しい所があるな。

 まぁ、素直な善人が国の暗部に関われる訳ないか。

 神殿の奴らはもっとこう、聖女様の実態を正確に把握して信徒に宣伝しろ。

 

 王都の一角にある賭博場、其処はホルファート王家のお膝元でありながら裏社会の住人が仕切る王国の法律が適用されない場所の一つ。

 単に賭け事をやりたい貴族や金持ちだけじゃない、他人には聞かせられない会合にも使われる。

 稀少な情報の取り引き場所としても活用されてるせいで国の御偉方も潰したがらず、むしろ積極的に利用するぐらいだ。

 そんな賭博場にある秘密の取り引き場所として名高い貴賓室に俺達は集まっている。

 ここには良い思い出があんまり無い。

 理由は単純、ここへ最初に来たのは目の前で優雅に酒を呑む緑髪の腹黒野郎の策略で強引に連れて来られたのが十数年前。

 以来ずっと何かあって無茶な相談をされる度に連れて来られる、良い印象を抱けるはずがない。

 

「さて、話を続けて構わないですか?」

 

 そう呟く腹黒の名はジルク・フィア・マーモリア、この国で最も古い貴族の血を継ぐ男だ。

 尤もコイツは一族の当主じゃない、分家の生まれな上に廃嫡されている。

 一時期は救国の英雄と国中から持て囃され、今じゃホルファート王国の情報機関で上から数えた方が早いお偉いさんに出世していた。

 ただその事実を知ってる奴は少ない、諜報機関の責任者なんてホルファート王家に叛意を持ってる領主貴族や他国の軍人からすりゃ真っ先に消しておきたい人物だ。

 コイツが若いのに実働部隊の指揮を任されてるのはそれだけ有能だからに他ならない。

 

「ったく。期限付きとは言え、どうして情報管理室の協力者なんかに」

「君がアルゼル共和国で功績を挙げたからでしょう。先方が貴方に感謝しているから良かったものの、下手をすれば内政干渉や独断行動として扱われ処罰対象となってもおかしくありません。その影響で我々がどれだけ苦労した事か」

「俺は巻き込まれた側だ」

 

 俺が期限付きで情報機関の協力者にされたのは昨年の聖女様のアルゼル共和国視察に同行したのが原因だった。

 少し前に球っころ(ルクシオン)がロストアイテムや旧人類の情報、特に聖樹に絡んだ物を欲しがりアルゼル共和国へ同行するように強制されちまったのが運の尽き。

 聖女様に頭を下げて何とか使節団に同行する貴族の一人に選ばれてアルゼル共和国を訪れた所までは良かった。

 暇な時は以前の聖樹や共和国の戦場跡や遺跡を見て回っていたら怪しい動きしてた奴らを球っころが確認。

 関わりたくないから無視したってのに向こうから絡んできたので止む無く自分の身を護る為には手荒な真似をするしかなかった。

 使節団の貴族が襲われるなんて外交問題だ、すぐに二国が共同で調査をしたら意外な事実が判明する。

 俺を襲った連中は共和国の現状を良く思ってない旧貴族の残党、しかも中心人物はラウルト公爵の娘だった。

 どうやら魔石の算出に関して不満を持った他国と共謀し、自分達の失墜する原因となった聖樹の巫女様と内乱の時に協力した聖女様を同時に狙っていたらしい。

 その結果、俺は二国合同の残党狩りに協力する羽目になっちまった。

 文句を言おうにも他国の貴族が護衛を付けないで崩壊した聖樹やら遺跡の周りをうろついてたのがバレて、下手したら何年も共和国内に拘留されかねないんで従うしかない。

 めでたく残党狩りは成功し、首謀者こそ捕らえられなかったが大部分を捕縛できた。

 聖樹の巫女様と仲間からは随分と感謝されたけど、事態が鎮静化するまで諜報機関の指揮官をやってるジルクに協力しなきゃいけないのは不満だ。

 ジルクの奴、あの事件とか関係ない案件について俺の意見や協力を求めて来やがる。

 俺はお前にとって使い勝手が良い手駒じゃねぇんだよ。

 

「一応は外交問題は決着したし、外部の人間がとやかく口出しするのは王家や宮廷貴族からやっかみもある。辞任届は受理されたはずだ」

「確かに受理はされています。しかし、機密保持の誓約書の発行や正式な辞令が下るまでには若干の時間差がありますから。現時点で貴方はまだ諜報機関の外部協力者のままかと」

「くそっ」

「納得していただけたなら話を進めます。本日の議題はエルフの里についてです」

 

 不満を隠そうとしない俺を無視してジルクが話を進める、コイツの慇懃無礼な態度は出世してからさらに嫌みったらしく感じるようになった。

 それまで会話に入って来なかった連中も向き直ってジルクに顔を合わせる。

 今夜の参加者はジルク、国内のダンジョンや冒険者を統括する部署に関わってるグレッグ、王族の剣術指南役のクリス。

 あと神殿から聖女オリヴィア様と護衛のカイルとマリエ、元王族なファンオース公爵ことユリウスと辺境のブラッドは欠席してる。

 毎度思うんだけど、どうして国を護った聖女と英雄に混じって俺が呼ばれるのか分からない。

 俺、王立学園に通ってないし戦争中はお前らと別の所で戦ってたんだぞ?

 何で途中加入の仲間、若しくは志を同じな協力者扱いなのおかし過ぎるだろうが。

 

「エルフの里?あそこに何かいるのか」

「躯体的に言えば『何かいる(・・・・)』よりも『何かしている(・・・・・)』が正しいでしょうね」

「僕からお話します」

 

 話に割って入ってきたのはオリヴィア様の護衛の一人、エルフのカイルだった。

 出会った頃は十代前半ぐらいの幼さだった外見も今では二十代の青年に成長している。

 エルフの年齢は見た目だけじゃ分からない、中年ぐらいに見えるエルフでも祖父さん曽祖父さんよりも年上だったりするからだ。

 オリヴィア様によるとカイルは外見に即した年齢らしい、外見だけならエルフ特有の美しさで神殿に勤める女連中からは大層モテそうに見えた。

 

「バルトファルト伯爵はエルフの里を御存知でしょうか?」

「聞いた話だけならな、実際に行った事は一度も無い」

「では亜人同化政策については?」

「そっちは宮廷貴族だけじゃなくて領主貴族の意見も参考に可決されたから良く知ってる」

 

 話は凡そ二十年前、旧ファンオース公国の侵攻まで遡る。

 当時のホルファート王国では亜人種の使用人を一人でも多く雇って連れ回す行為を貴族の女同士の序列争いの一環として競い合っていた。

 亜人の多くは力が強く魔法に長けている上に見た目も美男美女ばかり。

 そんな亜人を多く雇えるだけの財力と武力を保有していると周囲に自慢して自分がどれだけ優れた存在か吹聴してたって訳だ。

 亜人は基本的に王国内では人権が保障されていない、どれだけ優れていようと真っ当な職に就く事も出来ないし、人間と結婚する事も不可能。

 人扱いされない亜人にとって貴族の専属使用人と言う態の奴隷になるのは最も稼げる手段だった。

 貴族の女達が亜人を囲うのは他にも理由があって、人間と亜人は性行為をしても妊娠する可能性がほぼ無い。

 ほぼ(・・)と言ったのは極々稀な例外が目の前に居るからだ。

 カイルはエルフの母と貴族の人間の間に生まれたハーフだとオリヴィア様から聞いている。

 極僅かな例外を除けば亜人は貴族達が性欲を満たす為には適任な相手だ。

 自分がどれほど頭と股が緩くて金の扱い方を弁えてない大馬鹿かも理解できない貴族達は挙って亜人を使用人にした。

 そんな御主人様に亜人達が忠誠を誓う訳が無い、むしろ腕力や魔法力に秀でた亜人は内心で人間を見下している連中が大半だ。

 そこそこ良い給与を貰い、男娼や愛人として仕える主人と愉しみつつ、忠誠心が皆無な奴らが侵略者に対して何を行ったか?

 主人を裏切りファンオース公国に情報を売り渡して逃げ出す亜人の専属使用人が続出する。

 外患誘致したのは腐敗した貴族達だけじゃない、真っ当な主人だったとしても亜人の専属使用人を雇ったばかりに没落した貴族も数多くいたのが真相だった。

 

 ファンオース公国との戦争後になるとこうした状況を踏まえて、亜人の専属使用人を雇うのは法律で禁止されるが、困ったのは今まで貴族に仕えた多くの亜人達の方だった。

 何しろ一番割りの良い仕事を失った上に王国じゃ亜人に人権は存在してない。

 安く使える労働力として買い叩かれるか、腕っぷしを使って他所から奪って回るか簡単な二択問題だ。

 人間を内心で見下してる傲慢な亜人がどっちを選ぶなんて分かりきってた。

 これが戦後に大量発生した元軍人没落貴族が作った空賊と手を組んだからさぁ大変。

 英雄様達が王国の治安維持に奔走した原因もこいつだった。

 ちなみにその頃のバルトファルト領は人手が欲しかったので入植者や開拓者に紛れ込んだ亜人に対しては見て見ぬ振りをしてた。

 きちんと法律を守って移住するなら人間と比べて賃金に差を付けなかったし、出来る限り譲歩した対応をするようにアンジェが領民に言い含めて雇っている。

 まぁ、一部の真っ当な亜人はうちの領民同然になってくれたけど大半は昔の贅沢な暮らしを忘れられずに気が付けば領内から姿を消していた。

 だからって追いかける訳にもいかない、何しろ戸籍を持った人間は領主にとっちゃ護るべき領民であり領地に必要な財産だ。

 当時は亜人を大っぴらに雇えないし奴隷にするのは法律で禁止、戸籍が無くて力の強い亜人を領内から逃げ出すのを止めるのは割りに合わない。

 あとアイツら傲慢だから相手にしたくない、領主にさえ露骨に見下してくる亜人を庇い続けるのも限度がある。

 バルトファルト領だけじゃなくてどこの領地も似たようなもんだった。

 

 事態を重く見た上層部は十年ほど前に亜人に戸籍を設けて一定の人権を保障する事を宣言し、検討を重ねた上で数年前に正式な法律を制定した。

 職業を選べないから犯罪に走る亜人が出る、それなら王国の民と迎え入れて職業の選択や国内の居住を認める方がマシだと考えたんだろう。

 税金を徴収できるし、いざという時の予備兵として使えるって魂胆もあったんだろうけど。

 今のホルファート王国では以前ほど亜人に対して偏見が減ってはいる、そして法律制定に最も尽力した一人が目の前にいる聖女オリヴィア様だった。

 

「亜人関連の法律が制定された後、エルフの里は二つの意見に分かれました。『このまま王国に従うべきか』、『それとも以前と同じように独立した自治を続けるか』の派閥です」

「よくある話だな、うちの領内でもそれなりに揉めたし」

「王国に恭順すべきと考えた穏健派の里長はこれまでの場所に留まり、逆に断固反対する過激派は同じ浮島内に別の集落を作って暮らしています」

「なるほど、話は終わりだな」

「終わらないから問題なのですよ、話は最後まで聞いて下さい」

 

 ヤだよ、最後まで聞いちまったら逃げられなくなるに決まってんだろ。

 いくら俺がお人好しの間抜け野郎でも何度も都合良く使われたらキレるぞ、俺だって一応領主なんだから兵卒扱いすんな。

 

「オリヴィア様が神殿に認められて僕がお仕えするようになった頃です、エルフの里では訪れた冒険者が不審死や行方不明者が続出していました」

「冒険者って事は里にダンジョンがあるのか?」

「えぇ、同じ浮島にあります。そこで多くの冒険者が異常な形で殺された死体が発見されました」

「ダンジョン内で生きてるモンスターの仕業なら自己責任だぞ」

 

 いざという時の為にギルドや王国に一定の金を収めて保護してもらってるが、重傷を負ったり命を喪う危険込みでダンジョンを探索するのが冒険者だ。

 王国の子供なら大部分が憧れる人気職業だけど、実態は上手く宝を見つければ手早く稼げるがそんな幸運は滅多に無い。

 大半の冒険者は四十代になる前に引退して別の人生を選ぶ、それまでに稼げなきゃ流民か犯罪者になる他ない不安定な職種ってきちんと広めた方が余計な犠牲を減らせると俺は思う。

 安定志向の俺は冒険者じゃなくて軍人を選んだ、それが今では伯爵様だから俺の選択は間違ってなかったと言える部類だ。

 

「ダンジョンの捜査には私とカイル君、あとジルクさんとグレッグさんが同行しました」

「仮にも聖女がする仕事じゃないと思いますが」

「平民出身の聖女なんてそんな物ですよ、それこそ上層部に命じられたら従う他ありませんし」

 

 アハハ~、と渇いた笑いを始めるオリヴィア様。

 どうやらこの人も若い頃はこの人なりに苦労したらしい、今も見た目だけなら二十代ぐらいの外見で俺と同い歳に見えないけど。

 

「調査に乗り出した俺達は裏でエルフが関与した事を突き止めた、当時の村長と遺跡に詳しい研究者が手を組んで何やら良からぬ企てを計画してたらしい。襲われた冒険者はそいつらに口封じされたようだな」

「私達は首謀者達を捕縛した後に王国へ引き渡し、この事件は一旦は決着しました」

「めでたしめでたし。じゃあ今夜はこの辺で帰らせてもらおうか」

「もう一度言います、話は最後まで聞いて下さい。あくまで一旦は決着(・・・・・)と言った筈です」

「聞きたくねぇ~」

 

 いや、本当にマジで。

 どう考えても王国軍とか情報機関を使って綿密な調査をするような案件ですよね。

 やっぱ俺が関わるべき案件じゃねぇよ。

 

「あれから二十年近くが経過しました。亜人同化政策が本格的に始まった。その一環として恩赦を与えた亜人達も多く居たのです」

「その中に捕縛したエルフが何人か居たらしい。里に戻ったそいつらが別の集落を作り始めた中心人物だと俺達は考えてる」

「そこから暫く経った頃、またエルフの里で不可解な現象が起き始めました」

「どう考えても釈放した奴らの仕業じゃねえか、十年以上も服役したのに懲りてないのか?」

「エルフは反省しませんよ」

 

 心底冷え切った声でカイルが答えた、その整ってる顔が嫌悪感と侮蔑を隠そうともしてない。

 見た目が好青年だから凄味も増してる、美形はこんな時も得だな。

 

「エルフの寿命はまちまちだけど人間の数倍あります。凶悪犯が一年か二年、下手をすれば数ヶ月間だけ牢に繋がれて反省すると思いますか?」

「思わねえな、逆恨みしてる可能性だってある」

「エルフは頑固で、傲慢で、反省とは無縁の差別主義者です。王国に捕縛されたのも『下等な人間共に崇高なエルフが理不尽な扱いを受けた』と思っているでしょうね」

「……お前、自分の同族や故郷をボロクソに貶してるって気付いてるか?」

「エルフの連中は僕の母を蔑みました、僕自身もハーフだから人に言えないような扱いを受けています。オリヴィア様に拾っていただけない道を歩んでたら他の専属使用人みたいに育ったはずです」

「カイル君も随分と苦労してたのね」

「構いませんよ、オリヴィア様や皆さんと一緒に生きているだけで報われています」

「良い子ね、飴舐める?」

「舐めません、あとマリエさんは僕より年上ですけど後輩なのを忘れないでください」

「オリヴィア様ぁ~、助けてくださぁ~い。あんなに可愛かったカイル君がこんな小生意気な美形に育ちましたァ~」

「あ、アハハ」

 

 神殿連中の漫才を放置したまま話を戻す。

 過激派エルフが良からぬ陰謀を企ててる可能性が高い。

 そんな中に俺を派遣して一体何をさせようって考えてるんだよ。

 

「諜報機関に探らせてから王国軍をを派遣しろよ、それが一番手っ取り早い」

「出来るなら君に頼らず最初かそうしています。実行しないのは相応の事情があるんですよ」

「現時点で穏健派のエルフの里は王国の領地だ。だけどとても領地と呼べるような物じゃない」

「里長と新しい村長は居ますが貴族と呼べる統治者はいませんし、自給自足の生活でとても税を徴収できる経済状況じゃありません」

「バルトファルト伯爵、エルフが外貨を得る為にやってる商売は何だと思いますか?」

「……分からないな」

「里の近くにある遺跡やダンジョンを訪れた観光客や冒険者が里に払う諸々の経費、或いは…」

「かつての専属使用人と称した奴隷売買です」

「でも遺跡は同化政策が認められるまで立ち入り禁止、奴隷売買は法で規制。他の領地と交易可能な産業も無いエルフにとって現状は大変厳しく、我々も頭を悩ませています」

「追い込まれたエルフが穏健派から過激派に転じて大きな騒動を起こせば同化政策は失敗で終わる。上層部としてはそれだけは避けたいんだよ」

「エルフの里を種族や文化の保護を名目とする王家直轄領にする方針で上層部は動いています。だからと言って王国軍を用いて無理やり抑え付ければ貴族達からの批判を受けてしまいます」

「あと別の領地で働いてる亜人達を刺激したくない。上手くいってる奴らの足枷になったら本末転倒だ。

「裏でエルフと商人や腐敗貴族は組んでいたから人身売買なんて真似が出来た。でも奴隷が禁止されて割を食った奴らも多い。今も過激派と悪党達の縁が続いていたら軍を動かす前に察知されて首謀者達に逃げられる可能性がある」

 

 空には国境や河川や海が無い。

 逃亡しようと考えれば食料と水と飛行船の動力源さえ確保すれば他国へ密航するのは簡単だ。

 過激派エルフ達が何らかの重要な情報や器物を持ってたらホルファート王国に仇なすのは分かりきってる。

 だから秘密裏に行動する必要があるって訳か。

 話は分かる、よ~く分かった。でもな、

 

「どうしてそこで俺が指名されんだ、小一時間ぐらい問い質してぇんだが。諜報員や軍部はそんなに人材不足なのかよ」

「もちろん人材はそれなりに確保しています。しかし、密偵として君と同程度も卓越した腕前の持ち主は非常に稀です」

「俺だって暇じゃねえんだよ。この所は領地経営をずっとアンジェに任せっぱなしだし、子育てもろくに手伝えてねぇ。そもそもの話、聖女様を抜きにしてお前ら全員俺より強いだろ」

「俺とジルクは前の時に顔を憶えられた可能性が高い。エルフにとっちゃ少しばかし老けた程度じゃ丸分かりだ。ユリウスとブラッドは参加してなかったけど今は手が離せない事情がある」

「ならクリスにしとけ」

「私は正面からの荒事は得意だが密偵は慣れてない。今回は役に立てそうにない」

「それに、この件では重要な裏事情があるからこそ君に依頼しています」

「一体何だよ」

「前の事件はエルフ達が何らかの技術を使ってモンスターを製造して、そいつらが冒険者や観光客を襲っていた。今回の件も同化政策の影響で里を訪ねる奴が増えた後に似たような報告が幾つも俺の部署に舞い込んできた」

「事件後の調査で王国は遺跡を調査しました。だがエルフの証言と同じように動かせた事は一度としてありません。その結果、遺跡を破壊する事も出来ず放置する以外ありませんでした」

 

 その答えを、たぶん俺は知っている。

 なるほど、だから俺を選んだ訳か。

 

「この件に関してはロストアイテムが関わっていいます。私達では動かせず、エルフ達なら動かせる何かがある。バルトファルト伯爵、貴方はその答えを知っているのでは?」

「……どうしてそう思った?」

「一つは貴方の密偵としての腕前。貴方が優れた身体能力を持っているのは承知していますが、それでも貴族が厳重に保管している機密書類を持ち出すのはほぼ不可能と言って良いはずです。間違いなく貴方は何らかの技術を隠し持っている」

 

 軍事顧問や国営金融機関の役員を勤め終えた後、ホルファート王国の農業生産に関わる部署に携わった時期がある。

 その時に汚職や業者間の癒着を発見し、不正の事実を王家に提出した。

 部外者の俺が不正を暴こうと考えても使える手は限られる、だから仕方なく球っころ(ルクシオン)の力を借りちまった。

 お陰で不正は是正されたが首謀者は逮捕、責任者は辞任、俺も一緒に職を退いている。

 その時に俺がやった調査についてジルクは疑問を持ったようだ、頭の良い腹黒はつくづく厄介だ。

 

「確信したのはアルゼル共和国の騒動です。伯爵位の貴族が従者さえ同行させずに遺跡巡り、その割には貴方から歴史に関する智識は感じられません。君の経歴を見ても特筆する知性があるならば其方で身を立てる方が楽なのにそうしない。奥方の元公爵令嬢が絡んでいるかと疑ったが、王妃教育を受けた彼女は政治外交に秀でていてもロストアイテムは専門外です。ならば君の裏に別の誰かが居ると推察するのが妥当でしょう」

「凄いなジルク、付き合いは長いけど嫌っている俺を調べてよくそこまで推理できたもんだ」

「それでは採点をよろしくお願いします」

「ほぼ正解だな」

 

 俺とジルク以外から感嘆の声が出始めた。

 確かに推理の大まかな部分は当たっている、満点じゃないのは球っころ(ルクシオン)についての部分。

 だが仕方ない、誰だってロストアイテム関連なら研究者や受け継いだ子孫か金で買い集める収集家を思い浮かべる。

 だけど俺の知り合いは自我を持った飛行船なんて常識の外にいる存在だ、こんなもんを想像できる奴なんて居るはずない。

 

「どのような関係なのか、お教え願えませんか」

「まぁ、一度だけ戦った仲というか殺し合った仲だな。向こうが俺を認めてくれたから今も付き合いがあると言うか」

「目的はロストアイテム関係の情報収集。俺がお前らのアルゼル共和国行きに同行したのも向こうの情報が欲しいからだ。そのせいで面倒事に巻き込まれたのは完全に予想外だったけど」

「ホルファート王国はロストアイテム関連の知識を求めています。直接会って好待遇で迎える用意はあります」

「そりゃ無理だな、アイツは俺の立場じゃなくて俺個人を認めてるから付き合いが続いてる。どれだけ金や地位で釣っても靡かないぞ」

「研究者気質、という訳ですか」

「そんな所だ、アイツにとって王国や他の国がどうなろうと知ったこっちゃない訳だ」

 

 嘘は言ってないぞ、全部話してもいないけど。

 球っころ(ルクシオン)にとって俺は都合が良い協力者だ。

 俺の方も何か困った時にロストアイテムを借りたり知識を教えて貰ってる。

 そんな関係が始まって十年以上も経つ、王国の使い走りでロストアイテムの手駒とか俺の人生はとことん誰かに酷使される運命らしい。

 

「エルフの里にある遺跡についてその方に詳しい調査を依頼したかったのですが」

「アイツは気ままで俺が言っても聞きやしないぞ、寧ろ俺の方がアイツに使われてる。やりたい事の為なら一方的に利用するし、まともに相手をすればお前らでも絶対に敵わない。これは単なる脅しじゃなくて本心からの忠告だ、アイツを利用しようなんて絶対に企むな。そうなったら滅ぼされるのはホルファート王国の方だ」

「…………」

 

 俺が神妙な表情で言ったのが功を奏したのか、この場の全員が口を閉ざす。

 どうやら本命の議題はこっちだったらしい、まぁ不確定要素を出来るだけ排除したいのは王国の情報戦に関わってるジルクなりの愛国心だから大目に見よう。

 

「私の望みはあくまでエルフの里の調査になります。遺跡に関しての情報を得たかったので協力をしていただければ良かったのですが」

「向こうに一応は伺っておくけど期待はすんな、断られる確率の方が高い。俺を追跡しようとするのも止めておけ、アイツは絶対に見破る。そうなりゃ敵対行動と思われて最悪国が滅ぶぞ」

「ご忠告感謝します。では引き受けていただけるのですね」

「本心じゃやりたくないがな」

「辞令が下りるまで貴方はまだ情報機関の協力者ですから」

 

 下手に他人が関わるより俺と球っころ(ルクシオン)だけで行動した方が手っ取り早い。

 面倒事はさっさと済ませよう、この一ヶ月は情報機関の協力やら、貴族同士の会合やらが続いたせいでずっと王都にあるバルトファルト伯爵家の屋敷で領地に帰ってない。

 明日は王立学園の終業式、長期休暇に入るライオネルとアリエルを迎えに行ってバルトファルト領に戻れる。

 アンジェを抱き締めて子供達と一緒に遊んだ後に、領地の現状把握やら領軍の訓練や商業ギルドとの話し合いが待ってる。

 俺が不在の間にアンジェを宥める必要もあるし、その上にこの依頼だ。

 領主は仕事が満載、俺も長期休暇が欲しいぞ。

 

「後ほど資料を渡すので目を通しておいてください」

「分かったよ」

「ありがとうございますリオンさん。こんな無茶なお願いに応えてくださって」

「お気になさらずに、聖女様の頼みなら断る理由もありません」

 

 だから屈んでお辞儀しないでください、重力に引っ張られる聖女様の大きめなオッパイは俺の目に毒なんです。

 

「出来るなら遺跡が沈黙するか、無理なら破壊していただいて構いません」

「そりゃまた随分と物騒な。……良いのか?」

「構いませんよ、王国としては利用できるなら使いたいでしょうが、私個人としては破壊した方が良いと考えています」

「俺も同じだ、あの光景を見たら真っ当な奴はそう思う」

 

 あれだけ球っころ(ルクシオン)の協力を願っていたのに珍しいな。

 

「リオンさん、命を創って弄ぶのはとても罪深い事だと私達は思います」




という訳で目的提示回になります。
六部まではエルフ関連のキャラや地名が少なかった+アンジェとリオンの子供達が描写が足りなかったので七部はこのようなストーリーになってます。
次回からバルトファルト領で伯爵家の話が中心です。

追記:依頼主様のリクエストによりNiShiChi/ニシチ様、Planterak様にイラストを描いていただきました、ありがとうございます。
NiShiChi/ニシチ様 https://www.pixiv.net/artworks/124406997(ちょいエロ注意
Planterak様 https://www.pixiv.net/artworks/124544570(成人向け注意

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