婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第13章 性悪な田舎領主と悪女な奥様

 私がバルトファルト領を訪れ一年が経つ頃、正式な婚姻が行われ私はアンジェリカ・フォウ・バルトファルトとなった。

 レッドグレイブ家は王都での挙式を提案したが私達は固辞した。

 私の評判は未だに回復しきれていないし、公爵家の娘婿になったリオンが周囲から受ける嫉妬を避ける為だ。

 貴族同士の結婚としては身内だけの小規模な式でリオンは申し訳なさそうだったが私は満足している。

 リオンと夫婦になれるなら形式に拘る必要は無い。

 リオンが私の隣にいるのが最重要なのだから。

 

 結婚して三ヶ月ほど経った頃に急な体調不良に襲われた。

 慌てたリオンが領内の医師を総動員させた結果、私の懐妊が判明する。

 バルトファルト家は喜びに満ち溢れたが私とリオンの内心は冷や汗が流れていた。

 何せ婚姻前から私達は情交に耽溺していたのだから。

 一応は避妊していたが私もリオンも盛り上がるとつい羽目を外してしまいがちなので、挙式前に孕まなかったのは単なる幸運に過ぎなかった。

 何とか誤魔化す為に『バルトファルト領の温泉は不妊に効果がある』等の噂をさり気なく流した結果、これが功を奏したのか女性客が増えた。

 まさか領主の正妻自身が広告塔になるとは思わなかったが、こうした事情もあって私の懐妊はすんなりと周囲から受け入れられた。

 

 レッドグレイブ家からは勿論、周辺の地方領主からも祝いの品を贈られたがその品々に混じってホルファート王家からの祝辞があった。

 王家に対し蟠りが無いと言えば嘘になる。

 それでも産まれてくる我が子に私の怨讐を引き継がせたくない。

 だから敢えて私は返礼の手紙を送った。

 今の私は国母に為れずとも幸せだから。

 もう殿下や聖女と関わる事は今後無いのかもしれない。それで良い。

 互いに誤りどうしようもなく擦れ違ってしまった殿下と私だけれど、いつか思い返し笑える日が訪れる事を切に願う。

彼 らには彼らの人生があるように私達にも私達の人生があるのだから。

 華麗な舞台から退場したその後にも人生は続いてゆく。

 もし私が悪夢に魘され目を覚ましても隣を見れば其処にリオンがいてくれる。

 それだけで私は涙が出るぐらい幸福だから。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「小麦の収穫量は予想通り。今年開拓した農地が上手くいけば来年は倍近い生産を見込めると思う」

「だとすると問題なのは輸送手段の確保だな。レッドグレイブ家の伝手を頼り続ける訳にもいくまい」

「近くの領主と協力して流通ルートを作った方が良いかもな。上手くいきゃ安くて便利な販売網が出来る」

「だからと言って急に変えれば職を失う者が出る。王都向け商品の輸送を任せつつ徐々に移行しよう」

「また空賊対策に金がかかるなぁ」

 

 バルトファルト邸の領主夫妻の寝室で行われる夫婦の会話としては些か色気の足りない話題。

 婚姻して以来、私達の本拠はバルトファルト邸に移った。

 政務を執り仕切るのに別宅は手狭で移動が面倒だったし、領主が子育てをするにも適さない。

 別宅はそのままに、機能だけはバルトファルト邸の執務室に移した。

 そして夫婦共同の寝室で私達は今後の領地経営に頭を悩ませる。

 だが、これは我々バルトファルト子爵夫妻が就寝前に行う日課のような物だ。

 リオンは領主としてまだ未熟であり、私自身も至らぬ点が多い。

 そうして自然と就寝前にその日に行った政務を報告し合い今後の方針を定めるのが習慣になった。

 

「空賊をまとめて一掃できるロストアイテムとか欲しい」

「そんな都合の良い物が存在するものか」

「じゃあ未来を見通す予言者。来年の正確な情報が欲しい。楽して稼ぎたい」

「未来を予測できる者が実在したら真っ先に王家が確保している」

「いっそ兵士じゃなくて冒険者を目指すべきだった」

 

 リオンは仕事がつらくなると愚痴が止まらなくなる。

 それを慰めるのも私の大事な仕事だ。

 

「冒険者になってたら私と出会う機会はなかったぞ」

「そりゃ困るな、アンジェが居ないと俺は生きていけない」

 

 ロストアイテムを入手して素直に国へ献上する方が稀だ。

 リオンは私と出会う事なく一生を送るだろう。

 リオンと出会わない人生など御免蒙る。

 

「それと王都の父上から陞爵の意思確認が来た」

「またか?」

 

 心底嫌そうな顔をするリオン。

 普通の貴族なら飛び上がって喜ぶぞ。

 

「何で義父(おやじ)さんや義兄(にい)さんは俺を出世させたいんだよ」

「そもそもリオンの功績や領地の大きさを鑑みたらむしろ子爵という地位が低過ぎる」

 

 敵軍に囲まれても奮闘し司令官を討ち獲った英雄に然るべき地位を与えない王家なら貴族からの支持は下がり謀反の危険性が高まる。

 レッドグレイブ家からすれば娘の嫁ぎ先の爵位があまりに低ければ面子が保てない。

 この点に於いてホルファート王家とレッドグレイブ家の利害は一致している。

 

「未だ王国の政情は不安定だ。共和国や神聖王国の動きも怪しい。父上と兄上に何かあれば公爵家を継ぐのは私達の子になる。いや、王家に何かあれば王に為れるだけの家格を持つのが公爵家という存在だ」

「きな臭い話に関わり合いたくねぇ。何とか誤魔化して」

「しかし陞爵すれば義務は増えるが保有する権力も増す。領地の発展には有利だ」

 

 レッドグレイブ家は政治方針として幾度もホルファート王家と婚姻してきた。

 私自身も末席ながら王位継承権を有している。

 

「レッドグレイブ家は国祖の時代から王家と近しい家系なので余計な柵が増える。根回しも進んでいるからおそらく数年後には否応なく陞爵するだろう」

バルトファルト家(うち)だって先祖は初代国王の仲間だったらしいぜ。家族の誰も信じてない与太話だけど」

 

 レッドグレイブ家が私とリオンの縁談を勧めたのは案外そうした裏事情もあるのかもしれない。

 まぁ、そんな眉唾物の出自を騙る下級貴族は後を絶たない訳だが。

 

「今の俺にとっちゃ嫁と子と領地が重要さ。中央で出世なんて考えたくない」

 

 私が懐妊してからリオンは随分変わった。

 産まれてくる我が子の為に率先して政務に取り掛かるようになっている。

 その事が誇らしいのと同時に寂しい。

 身重の体ではどうしても無理が出来ない。

 私はリオンと共に歩みたいが愛の結晶と言える我が子が重荷になるのがもどかしい。

 そんな心中を隠しつつリオンの頭を抱いて撫でる。

 

「リオンはよく頑張ってる、えらいえらい」

 

 子供をあやすような口調だが此れがリオンに一番効く。

 本人が言ったように私の胸が触れる程度でやる気を出してくれるなら安いものだ。

 

「明日の仕事は?」

「無いよ、半月ぶりの休日。皆がいい加減休めって言ってた」

 

 むしろ身重という理由で夫に仕事を押し付け三食昼寝付きの生活をしている自分が申し訳ない。

 明日はうんとリオンを労ってやらねば。

 一緒にのんびり温泉に入り、一緒に美味しい料理を堪能し、一緒にぐっすりと眠る。

 

「じゃあ、そろそろ寝るか」

「そうだな」

 

 懐妊してから体調面で様々な変化がある。

 寝返りを打つのも一苦労だし、横になるとすぐに寝入ってしまう。

 姿勢を変えようとする私の背と腰をリオンが支える。

 リオンが過剰なぐらい私の世話を焼きたがるのが最近の悩みだ。

 初子なので心配も期待もあるのだろう、領主が使用人に任せるような世話さえ手ずからやりたがる。

 領主として成長していくリオンに対し懐妊してあまり手伝えない我が身が厭わしい。

 彼に相応しい妻と為りたいのに際限なく甘えてしまう。

 何処までも愛に溺れ堕落してしまう自分が怖かった。

 敢えてリオンから顔を背けて横に臥す。

 

「おやすみなさい」

 

 いちいち悩むのは胎教に悪い、我が子には健やかに産まれて欲しい。

 目を閉じて呼吸を整えれば眠りに落ちてしまうだろう。

 明日を楽しみにゆっくりと力を抜いて私は微睡の狭間に落ちた。

 寒さに震える動物が身を寄せ合うように私達は抱き合う。

 

 不思議と羞恥心は湧かなかった。

 お互いに確信めいた物を感じていた。

 私達はどうしようもないほど惹かれ合い共に歩む宿命だと。

 きっと互いの存在が傍に居るだけで満足してしまうほどに。

 だから見えない明日に怯える必要は無い。

 私達は分け難いほど一つなのだから。

 

 だから安心して眠りに落ちる。

 嘘のように幸福な現実を生きる為に。

 夢のように幸福な未来に生きる為に。




寝室シーンが多いのはもともと成人向けに書いたからです。(言い訳
読み返してエロゲーがコンシューマ移植された時に内容がスカスカになる現象の既視感を覚えました。
成人向け作品でエッチシーン無しでも内容が面白い作家さんの力量を尊敬します。
何故アンジェを妊娠させたかは親になるアンジェとリオンの悩みを描写したかった、漠然とこの二次創作の終着点を構想していたという事情です。
ギャルゲーやエロゲーでヒロインが妊娠していたり、主人公達の子がいるエンディングが一番幸せそうで好きという私情が大部分ですが。
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