婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第131章 Fortune Telling

「申し訳ございません、貴族の方々にお出し出来るような物が無くて…」

「お構いなく、簡単な話をお聞きするだけですから」

 

 通された家の中は確かにやや古惚けてこそいるが、手入れは隅々まで行き届き不快感は無い。

 広々とした部屋が居間であり客間であり調理場であり寝室だった。

 そして部屋に置かれている家具の多くは女性が一人で暮らすには明らかに数が多いか大きい物ばかり。

 ユメリアと共に暮らす相手が居る可能性は否定できないが、彼女が普段使っていると思われる家具と同じ形状で少し小さな品々から推察できる同居人は子供だろう。

 この辺りの機微は子を産んだ女性にしか察する事が出来ない、女性は同性に対し極めて辛辣で正確な審美眼を持って生きている。

 

「どうぞ、安物の粗茶ですが…」

 

 出された茶は色が濁り独特の香りがした、少なくても私の記憶にはこれと同じ匂いを嗅いだ憶えは無い。

 私が躊躇した数秒にリオンはカップに口を付け飲み始める、私も恐る恐る彼に続きカップに注がれた液体を口に含む。

 苦味と渋味がかなり強い茶ではあるが飲めない訳ではない、おそらく市場に流通している茶葉の中でも最下級の品だろう。

 申し訳なさそうなユメリアの態度から私達への嫌がらせとは思えない、本来は茶を嗜むような生活をしていない彼女が突然の来客に対する精一杯の持て成しだと察せられる。

 幼少期に貴族として最底辺の貧しい生活を送ってきたリオンにとってこの程度の味には慣れ親しんでいるのかもしれない。

 カップ内の茶が三分の一ほど減った時にリオンは自分に給された茶を飲み干していた。

 リオンの振る舞いに安堵したのか、ユメリアの態度から警戒心が薄れるのが容易に見て取れる。

 相手が振舞う料理を口に入れ褒め称える行為はどんな時代の何処の国でも共通の礼法だ、この場に於いても警戒心を解くのに最適解であろう。

 それが明らかに私より年上の筈が若々しい肉体を保っているユメリアへの気遣いでなければ私の胸の奥に凝りが生まれないのだが。

 リオンは基本的に女性に対して真摯な男だ、辛辣な物言いをする相手は極一部の身内にのみ限られる。

 故に根も葉もない噂を信じる軽薄な輩を除き、彼と関わり合いを持った者は相応の敬意を表す。

 社交界で積み重ねた信頼が逆に私の心を苛んでいるとリオンは気付いてもいないだろうが。

 

「リオン様に頂いた手紙を読んで構いませんか?」

「えぇ、勿論です」

 

 リオンの勧めに応じたユメリアは震える手で封筒を開いていく。

 実母であるユメリアへ私達の協力を要請しているのか、それとも母への近況報告なのか。

 カイルからの手紙を届けたのは私達だが内容までは認知していなかった、ひょっとしたら私達が何の目的でエルフの里を訪れたかが記されている可能性もある。

 室内に手紙が揺れる乾いた音だけが時折響く、茶を飲みながらユメリアが読み終わるまで待つ時間は思いの外長く感じた。

 ユメリアは手紙を読み終えると丁寧に封筒へ仕舞い込んだ、彼女の両目が潤んでいるのはテーブル越しにもはっきりと分かる。

 

「時間をかけて申し訳ございません、つい夢中になって……」

「手紙には何と」

「神殿で聖女様にお仕えして幸せだと…、それと手紙を届けてくれる方々に里の様子をお伝えして欲しいと書かれています…」

「大丈夫ですか?」

「……ごめんなさい、お目汚ししてしまって」

 

 手紙を読んで感極まったらしいユメリアの両目から涙が零れ落ち声を立てずに泣いていた。

 我が子からの便りがそれほどまでに嬉しかったのか、彼女の気持ちは母親として多少なりとも理解できる。

 王立学園という安全が保障された場所とはいえ我が子が数ヵ月も家を離れて暮らすのは例えようのない寂しさを感じるものだ。

 ある時ふと気付く、家の中が妙に静かだと。

 それは騒がしかった子供達が屋敷から居なくなって生まれた静寂だった。

 生まれた時から共に暮らした我が子が自分の下を離れて暮らしていく寂しさ、ちゃんと生活しているかと身を案じる不安は寂しいという単純な言葉では言い表せない。

 尤も母親が定期的に手紙を出せと命じても子供の方は新しい環境に適応するのに夢中で親の心配など無碍にするのが世の常だ。

 ライオネルは故郷への手紙を定時連絡と思い込んだのか報告書と言われても遜色ない程に私情を込めず、アリエルに至っては碌に手紙を出さないまま成績表を誤魔化そうとした。

 そんな私達親子と比べたらユメリアの我が子を想う態度の何と素晴らしい事か。

 

「ちゃんと聖女様の御力になっているようで安心しました。あの子は私と違って本当に優秀な子なんです」

「オリヴィア様は平民の出身ですから身分や人種で他人を評価しません。側に居る奴らは聖女の側仕えに相応しい性格を備えて、補佐してくれる才能を持つ、聖女様御本人が見極めた連中だと聞いていますよ」

「……幼かったカイルは自分から専属使用人になると家を飛び出しました。貧しい私達が生き延びるには母か子のどちらかが商人に買われてないと飢え死にするしかなかったんです。カイルは私の為に自分を差し出したんです。私はあの子に母親と思われなくて当然の女です」

 

 内心を吐露するユメリアの言葉は悔恨に満ちている、私の想像以上に凄絶な過去が語られた。

 レッドグレイブ公爵家の娘として生を受けた私が暖衣飽食を貪っていたとは言わない。

 だが家族を救う為に己を差し出さなくては生きていけない貧困という環境をどれだけ想像しても実感が湧かないのだ。

 結婚する前の貧しい時代のバルトファルト家について義両親やリオン本人から詳しく聞いていた。

 高位貴族となったリオンが今も家庭菜園を趣味とする原因は幼い頃に体験した飢えや貧しさに由来している事を理解しているつもりだ。

 だが厳しい環境を味わった当人同士でしか共感できない隔たりという物は確実に存在する。

 リオンは優しい男だ、目の前で苦しむ者を見捨てられるほど薄情な男ではない。

 私はそんな夫を愛している、愛しているが故に彼の優しさが他の女に与えられる事について仄かな嫉妬を感じてしまう。

 己の浅ましさを自覚しながらも必死に抑え、泣き声が入り混じったユメリアの話を聞き続ける。

 

「カイルを雇ってくれたのはまだ学生だった頃の聖女様でした」

「その頃の彼女達はよく知っています、才覚はありましたが随分と小生意気な少年だったので記憶に残っています」

「アンジェ、そんな言い方はよせよ」

「大丈夫です、カイルは昔から利発でしたから要領が悪い私にいつも苛立っていました。あの子の居場所を作れなかった私が悪いんです」

 

 もう二十年程前になるだろうか、平民でありながら王立学園に特待生として編入したオリヴィアは周囲から浮いた存在だった。

 由緒正しい貴族出身の令息や令嬢、或いは手広く商売を手掛ける豪商の子供ですらない平民の娘が上級クラスの生徒としてすんなりと迎えられる訳がない。

 当時の私はオリヴィアが優秀な生徒だとは認めていたが、だからと言って私の方からオリヴィアと関わるつもりも無かった。

 単なる同級生で終わる筈の関係が変わったのは私の婚約者だったユリウス殿下がオリヴィアと行動を共にする機会が増えてからだ。

 貴族令嬢であれば己の婚約者が知らぬ間に他の女と接触する光景を目にすれば文句の一つも言いたくなる。

 私だけでなく殿下の取り巻きだった四人と婚約していた令嬢も同じ気持ちであった筈だ。

 オリヴィアに対する周囲の目が厳しくなるのは当然の帰結であり、そんなオリヴィアを庇うような五人の行動が更に事態を悪循環させる有様であった。

 私がオリヴィアへの印象を硬化させた一因にはカイルの存在がある。

 当時の王立学園、いやホルファート王国の貴族社会ではエルフや亜人の専属使用人を雇う事が貴族間に於ける一種の示威行為として認められていた。

 それどころか専属使用人を愛人として扱うという悪習さえ蔓延していた状況である。

 勿論ホルファート王家を筆頭にレッドグレイブ公爵家や由緒ある名門貴族達はそのような惨状を憂いていた。

 そんな貴族の良識が問われる状況下でオリヴィアがエルフの専属使用人を雇ったという情報を掴んだ時、私はオリヴィアに対して失望し決定的な断絶が生まれたのを憶えている。

 思い返せば学園で見たカイルに対するオリヴィアの接し方は学園で淫行に耽溺する女生徒と異なっていた。

 カイルはオリヴィアを雇用主とは思わず世話が焼ける姉のように辛辣な口調で窘めていた。

 よくよく観察すれば多数の専属使用人達のように内心で雇用主を見下している態度を取っていなかったと気付けた筈だ。

 しかし当時の私は貴族故に平民を軽んじる傲慢さ、オリヴィアへの対抗心、私の諫言を無視するユリウス殿下への苛立ち、次期王妃への未来が閉ざされかねない焦りで目が曇っていた。

 皮肉にも私が実行したのは精々オリヴィアと殿下へ忠告を繰り返す程度であり、ジルクの婚約者だったクラリスやブラッドの婚約者だったステファニーがオリヴィアへの嫌がらせまで私が指示したとされ婚約破棄されてしまう。

 裏でフランプトン侯爵派がレッドグレイブ公爵家の没落を画策していたと考えれば私に対抗できる手段が無かったのは当たり前なのだが、オリヴィアや王家に対する蟠りは今も心の傷痕として残っている。

 

「口調は悪いかもしれませんがカイルは聖女様を慕っています。あの子と別れて暫く経った頃に雇い主になった方とお友達を連れて里に来たんです。『この人が僕の御主人様だよ』って笑っていました、私と暮らしていた頃に一度もあんな顔はしていなかったので記憶に残っています」

「それはだいたい二十年近く前ですか?」

「えぇと…、確かそうです。あの後に前の村長が捕まって里が変わり始めたので」

 

 なるほど、その辺りの事情はリオンが持ってきた情報と一致している。

 エルフの里を訪れたオリヴィア達は前村長達が何らかの企てている場面に遭遇して鎮圧した。

 それがどのような企てなのか、私達に齎された情報では全てを把握できないがオリヴィアが聖女として周囲から認められる要因になったのは事実だろう。

 当時のホルファート王国は旧ファンオース公国との戦争で疲弊していた上に、貴族が雇っていた専属使用人達が公国に内通していた事態を重く受けとめた。

 その結果としてエルフや亜人達を専属使用人として雇う事を法で規制し、王国の民として戸籍を与える代償に納税や労役を課したという訳か。

 戦争による出費で国庫が空になりかけていた王国にとっては反乱分子を監視する名目を得た上に新たな収入源を得るという上手いやり方だ。

 被差別対象だった亜人達を王国民としての権利を与える活動に熱心だったオリヴィアは上層部の思惑に気付いていたのだろうか?

 いや、まだ若くお人好しな聖女がそこまで王国の事情を把握できていたとは思えない。

 おそらくは自分が専属使用人として雇ったカイルや亜人達を正業に就ける事で窮状を救いたかった筈だ。

 オリヴィアの善意からの行動が生み出した状況が、再びエルフ達が何らかの騒動を起こす切っ掛けとなったのは皮肉な話と言えよう。

 

「俺達がエルフの里を訪れたのは単なる家族旅行ですが、そのついでに里の様子を見て回って御子息や聖女様に報告する予定です。ご協力いただけますか?」

「分かりました、私で宜しければ」

「ありがとうございます、とても助かります」

 

 周囲からそう見られる為に家族旅行という偽装を提案したのは私だが、よくもまぁ親切な息子の知人という態でここまで親しげに振舞えるものだ。

 狡猾な冒険者や悪賢い商人は善人の衣を纏って親切を装って相手の懐を窺うものだが、リオンはどうしてこうも口が達者な男なのだろうか?

 私の夫が下位貴族の次男として育ったせいで貴族の慣習や政治に疎いのは本当なのだが、わざと愚者や純朴な男を装って相手の警戒心を解くやり口をこれまで幾度も見て来た。

 貴族や軍人や農夫より詐欺師に適性があるのかもしれない、そんな夫の血を受け継いだ私の子供達の将来が少しだけ不安になる。

 

「それじゃ、まず最初に聞きたい事が」

 

コンッ コンッ

 

 リオンがユメリアとの会話を進めようとした矢先に家の扉から物音が鳴り響く。

 その音を耳にした瞬間、リオンの顔が豹変したのが肩越しに見えた。

 先程までの気安い新興貴族の偽装はとうに剥がれ落ち、爛々と光を放つ瞳がひどく酷薄な獣めいた物に変わっている。

 リオンはただの貴族ではない。

 友軍が死に絶えた激戦地を我が身一つで生き抜き、打ち立てた戦果によって僅か一代で子爵位まで成り上がった戦士だ。

 ホルファート王家がリオンの存在を惜しむのは新興貴族のバルトファルト伯爵としてではない、卓越した戦士や斥候としての技量故である。

 リオンが持つ才能はいつも彼を騒動の渦中に陥らせ、私達家族に心休まる日々を与えない。

 

「は~い」

 

 あまりに自然な動きのせいでユメリアが扉に近付くのを止められなかった。

 エルフ特有の他者を寄せ付けない佇まいが彼女には無い、或いは小動物めいた愛くるしさこそ彼女が生き延びる為に身に付けた術かもしれない。

 いずれにしても、今この家に訪れた者が誰であろうと騒動に巻き込まれる予感がする。

 荒事が苦手な私でさえそれが察せられた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 ドアを叩く音が聞こえた瞬間に思考より先に右手が懐へ動く。

 冒険用の軽装は服の裏地や隠しポケットがあちこちにある、そのうちの一つに忍ばせてあった拳銃の感触が指先に触れた。

 同時に家の中の構造や家具の位置を確認、ここから走って宿泊施設までかかる時間と子供達を連れて飛行船に戻る経路を大まかに計算する。

 とりあえず一番近くの窓から逃げ出せるな、扉の鍵を閉めて適当な家具を置いて塞げば時間を稼げそうだ。

 逃げ道になる窓は相手にとっての侵入経路にもなるが、迂闊に家の中を窺ったり侵入を試みれば俺に迎撃される危険も孕んでる。

 

 この浮島に飛行船が到着してエルフの里に来るまでの間、妙な気配がずっとこっちを窺っているのを感じていた。

 明らかに戦争中に感じた事の無い気配は人間の物じゃなかった、里で大量に感じたエルフとよく似てる。

 誰かに見張られてるような中で訪ねた家に俺達が入って暫くしたらまた誰かが来た?

 どう考えても相手の目的は俺達と考えるのが自然な流れだ。

 仮にその相手がエルフだとしても俺達をつけ回す目的は何だろう?

 まさか俺達が何をする為に里を訪れたか既にバレた?

 いや、冷静に考えるとその可能性は低いな。

 任務を依頼したジルクと俺は確かに相性が悪い、会う度に嫌味を言い合って貶し合う仲だ。

 でも俺を嵌める為にここまで手の込んだ罠を張り巡らすほどの大馬鹿野郎じゃない。

 何よりこの依頼はオリヴィア様直々だし、その背後に居る神殿勢力が絡んでる。

 陰険なジルクの勝手な独走を見逃すほど聖女様はバカじゃないし甘くもない、聖女と肩書とは裏腹に恐ろしい力を備えてる人だ。

 

 そうなると思いつくのはエルフの連中なんだが、俺の人生でエルフとの接点はほぼ無い。

 無いと思うな。

 いまいち断言できないのは俺とエルフの関わり合いが全く無かった訳じゃないからだ。

 とっくの昔にくたばったゾラやメルセはエルフや亜人を愛人兼使用人として侍らせてたし、バルトファルト領の開拓が始まった頃は人手が足りなくて素性がよく分からない亜人を雇った事もある。

 いつ、どこで、誰の恨みを買ってるか分からないのが後ろ暗い俺の人生だ。

 ひょっとしたら俺を憎んでるエルフがいるかもしれない。

 

「は~い」

 

 無警戒のまま扉に向かうユメリアさんの背後から相手の顔が見える位置まで移動する。

 外の相手がどんな奴か、どれだけ仲間を連れているかも分からないままじゃこっちがヤバいからな。

 既に銃の安全装置は外してある、戦闘に突入してもある程度の対応は可能だ。

 

「あれ、あなたは…」

 

 戸惑うユメリアさんの言葉から推察すると、どうやら予想外の相手らしい。

 背中越しに見える相手のエルフ特有の衣装を着込んでて性別は不明、ただ身長はそれほど高くないのはユメリアさんと比較して分かった。

 これなら単純な腕力と体術を使えばどうにか俺でも取り押さえられそうだ、相手がエルフにだけ伝わる秘術でも使わない限りは。

 

「貴女の所に来客が来ていますね」

「はい、王都で息子のカイルとお付き合いがある人達です」

「その者達に用があります、私も入れて頂きたい」

「えぇと……」

 

 戸惑うユメリアさんが振り返って俺達の返事を待っている。

 断りにくい相手なんだろう、甲高い声は間違いなく女の物で言葉遣いから里でそれなりの地位がありそうと推察できた。

 下手に拒むと里での行動が制限されるし、俺の家族やユメリアさんにも危険が及びかねない。

 振り向いてアンジェの意見を求める、口を閉じたまま縦に首を振ったアンジェを見て俺も覚悟を決めた。

 

「大丈夫です、俺達は構いません」

「分かりました。どうぞ」

 

 納得したユメリアさんが扉を開けると一人の女エルフが家の中に入って来る。

 頭を覆うフードから辛うじて見える口元、市場価値は分からないけど宝石が幾つも付いた首飾り、服に刺繍された何か意味がありそうな模様。

 里に住んでいた世間擦れしてるエルフ達とは明らかに違う、かと言ってユメリアさんみたいな所帯じみた愛くるしいエルフとも違う。

 気品と賢さを備えてる物語の中でしか聞いた事がない神秘的な女エルフだ。

 同時に俺の人生で似たような雰囲気を持った相手を思い返す、これに似た独特の雰囲気を持ってるのは王妃様と聖女様だ。

 どっちも俺に面倒事を持ち込むから正直これ以上関わり合いを増やしたくない二人だ。

 王妃様は見た目が若くてオッパイがすごく大きいけど、聖女様は優しくてオッパイがすごく大きいけど。

 俺が安心できるすごく大きいオッパイはアンジェだけだ、その代わり結婚してからずっと尻に敷かれてるけど。

 目の前の女エルフも大きいけどユメリアさんほどオッパイが大きくない、なので冷静に対処が可能だ。

 どうして頭の下に胸があるんだろうね?

 女と話す時にオッパイが視界に入るのは人体の致命的な欠陥で神が与えた奇跡だよ。

 

「リオン様、アンジェリカ様、こちらは里長様の補佐を務めていらっしゃる御方です」

「どうも、リオン・フォウ・バルトファルトです」

「妻のアンジェリカ・フォウ・バルトファルトです」

「御挨拶ありがとうございます。私は里長の補佐役を務めている者です」

「つまり次期里長、或いは副里長みたいなもんですか?」

「いいえ、私はあくまで里長の世話を任されているに過ぎません」

「里長様はご高齢で普段は外を出歩く事も少ないんです」

「故に補佐を務める者が常に必要でして、里の運営は村長に任せているのが実情です」

「なるほど。では補佐役の貴女が如何なる理由で私達に用があると?」

 

 アンジェの言葉には少し棘があるが真っ当な主張だ。

 俺達は王都からの密命で行動してるけど現時点でやってる事はカイルから渡された手紙をユメリアさんに届けたぐらい。

 疑われるような行動は殆どしてないし、仮に何かを疑われても貴族に対して非礼だと主張しても許される範疇に収まってる。

 わざわざ里長の部下が直々に訪ねて物申されるのは異常過ぎて逆に訴えても許されるだろう。

 

「里長は『里を厄災に見舞われる、我らは己が行いによって危機に瀕す。近々それを治める者が里を訪ねるであろう』と仰られました」

「……何ですかそれ?そんな事を言われても困りますよ」

 

 そもそも俺は怪しい予言なんて物は殆ど信じてない、顔も見た事が無い年寄りの口走った予言を肯定するほど耄碌してねぇぞ。

 仮に何か騒動が起きるなら、それはエルフ達が原因だとあんたらも分かってるじゃん。

 だったら自分達で解決して欲しい、俺はあくまでエルフが怪しい事をしてないか調べる為に来たんだよ。

 むしろ俺に付き纏って変な脅しをする方が心象悪くなるだろ。

 補佐役さん、いや里長が何を考えて俺に接触してきたかまるで分からない。

 

「その者の特徴は『黒き甲冑を纏う冠無き王』との事です」

「もう少し分かりやすい特徴は無いんですか?」

「他には『古の魔王と同盟を結びし』と仰っていました」

「何の事だかやっぱり分かりません、やっぱり人違いじゃ」

「……『冠無き王』、つまりそれは『王と為る資格を失った者』の暗喩でしょうか?」

「おい、アンジェ」

 

 冷めた気持ちで聞く俺に対してアンジェは随分と興味を示してる。

 止めろって、下手に首を突っ込むと余計な騒動に巻き込まれかねないんだぞ。

 きちんと里の様子を調べたらライオネルとアリエルに付き添って課題を終わらせて家に帰る。

 それで済ませるはずだったのにやたら古めかしい言葉に釣られて家族を危険に晒すのは止めようよ。

 

「里長の正確な御年齢は分かりますか?」

「詳しく知る人は里で暮らすエルフの中にも居ないはずです」

「補佐役の私でさえ『ホルファート王国が建国する以前から生きていた』としか聞いておりません」

「なるほど……」

 

 二人から説明されたアンジェは何やら考え始めた。

 知識が足りない俺は抽象的な言葉の断片を貰っても碌に推察できない、戦場で使う暗号ならもう少し規則性があって分かりやすいんだけどな。

 何やら思い付いたアンジェは俺の手を握って部屋の隅に連れていく、エルフは耳が大きいから会話を聞かれない為の用心のつもりか。

 

「リオン、先程の言葉についてどのように考える」

「どうって、よく分かんないなぁとしか」

「お前はもう少し諧謔的な表現を学んだ方が良い」

「悪かったな。で、意味は?」

「まず『冠無き王』についてだが、これはおそらくバルトファルトの血脈についてだ」

「何でそうなるんだよ」

「冠は王権の象徴を表す、だが王でありながら冠が無い。つまりは王になる機会を失った、或いは王座を奪われたと考えるのが自然だろう」

「まさか、里長がうちの家計を知ってるとは思えないぞ」

「里長はホルファート王国が出来る前から生きている。当時の情勢を詳しく知っていても何らおかしくはない」

 

 そこまで言われると不安になってくる。

 うちの御先祖のリーア・バルトファルトが初代国王の仲間だった事実を知ってるのは今じゃ秘密にしてきた王家と歴史に詳しい奴だけだ。

 もし冒険者だったご先祖達が里長と面識があったなら真実に気付いても不思議じゃない。

 

「加えて『黒き甲冑を纏う』だが、お前が操縦する鎧の色は?」

「……確かに黒だけどさ、単なる偶然だろ。ファンオース公国にだって黒騎士バンデル・ヒム・ゼンデンみたいに黒色を好んだ奴が居たぞ」

「偶然でも憂慮すべきだ、あの補佐役が私達の飛行船を調べて鎧を隠し持ってる事をこの短時間で調査したとは思えん」

 

 夜間戦闘や隠密作戦で見つからないように鎧を見え難い色に塗装するなんてよくあるのに。

 それだけで判断するのは流石にどうかと思うぞ。

 でも確かに飛行船に残してきた護衛達は作戦行動用に持って来た鎧や武器を没収されないように待機させてる。

 補佐役の女エルフがどれだけ美人さんでも俺の命令を無視して素直に従うとは思えない。

 

「最後は『古の魔王』だが、これについて私は心当たりがある」

「奇遇だな、俺もだよ」

 

 ホルファート王国の建国よりさらに昔、里長も生まれてないずっとずっと昔から甦った化物。

 そんな奴を俺達はよ~~っく知っている、というか姿を消して今もこの家の中に居て見張ってるはずだ。

 太古の遺産(ロストアイテム)球っころ(ルクシオン)

 その気になれば王国どころか世界を滅ぼせる奴は魔王と形容しても遜色が無い。

 ここまで偶然が重なると俺としても認めるしかなかった。

 仕方ない、とりあえず話だけは聞いてみよう。

 

「占いなんて不確定な物を信じるようになるなんてなぁ…」

「里長の占いは正確です、口を慎んでいただけますか」

「とってもよく当たるんですよ!」

「そうだ、反省しろリオン」

「…何でアンジェまでそっち側なんだよ」

「私が此処に来た目的は里長の占いだからだ」

「どうしてまた?」

「いや、その、なに、ドロテアにエルフの占いはよく当たるとドロテアに言われてな」

義姉(ドロテア)さんは適当に『兄さんとお似合いです』って言っときゃすぐご機嫌になる人だろ」

 

 アンジェの視線が俺から逸れた、俺の嫁は頭が良いのかアホなのかよく分からない。

 とりあえず聞き込みを済ませよう、状況判断はそれからだ。

 またユメリアさんが淹れてくれた独特な味のお茶を飲みながら俺達は聞き込みを開始した。




補佐役女エルフこと代弁者さん(仮)登場。
原作とコミカライズで本名が不明なのでこうなりました。
里長や他エルフの登場についてはもう少し先になります。
描写されてませんがルクシオンは常にステルスモードで待機中、でも原作ほど仲が良い訳ではないので話しかけないかぎり応対してくれません。
次章は里の様子について説明回。

追記:依頼主様によりキラ裏 禁刻童児様、百日夢様にリクエストのイラストを描いていただきました。
いずれ成人向け回の挿絵として使う予定です。
ありがとうございます。

キラ裏 禁刻童児様 https://www.pixiv.net/artworks/126885602(肌色多め注意
百日夢様 https://www.pixiv.net/artworks/126961951(成人向け注意

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