婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第133章 暗部

「どうしたもんかねぇ?」

 

 我ながら気の抜けた声に呆れちまうけど、思いもよらない速さでこの里が抱えてる問題が向こうから近づいてきたら戸惑うのは仕方ないだろ。

 本来の計画なら数日かけて慎重に情報収集、その後で球っころ(ルクシオン)を使い怪しげな部分を調査したら報告書をまとめて提出。

 後は王都のお偉方が法律やら利害関係やらを考えて上手い具合に問題解決してくれる。

 今回もそう思ってたのに、よりにもよって段階をすっ飛ばし重要参考人が向こうから相談しに来たんだぞ。

 即興で完璧な対応が出来るほどこっちは頭の回転が速くない、俺のやり方は思い付く方法をたくさん用意して可能な限り命を大事に。

 危ない橋は出来るだけ渡りたくないし、平穏な人生が一番だ。

 

 わざわざ観光地の保守派と改革派の部外者が首を突っ込んで両方を敵に回すのだけは避けたかった。

 ここは敵地だ、浮島全体が余所者を歓迎してない雰囲気の上に発展が中途半端に止まっているのがマズい。

 森は生い茂った木が太陽を遮って昼間でも薄暗く視界が悪い上に攻撃を防ぐ遮蔽物ばっかだし、逆に草原は手入れが行き届いてるから寝転んでも完全に体を隠せないぐらい視界良好。

 環境を利用した戦い方をするには年季が物を言う、十年どころか百年は生きるエルフが暮らしてるこの浮島で戦うのは自殺行為だ。

 

「美しいエルフの補佐役に頭を下げさせておきながら問題解決はしてやらないのか?」

「いくら何でも限界があるだろ、猿を上手く煽てても空を飛ばねぇぞ」

 

 こっちが何も準備していないのに協力を求められても困る。

 そもそもの話、上の連中が俺に与えた権限はあくまでも現場の捜査権とそれに関して法を超えた活動をある程度は目を瞑ってくれる超法規的措置だけ。

 エルフの里の重鎮が俺に交渉した所で精々が捜査中にこの里のエルフを出来るだけ刺激せず穏便に捜査するぐらいの事しか確約できない。

 里の状況を改善したいのならそれこそ王都のお偉方か神殿の聖女様を頼れって話に帰結する。

 或いはホルファート王国の政治に疎い里長が頼れるのが占いに出て来た英雄様だけなのかもしれない。

 それはそれで対処に困るぞ、一方的な悪党呼ばわりは嫌いだけど勇者扱いも面倒だ。

 

「エルフの女ってのは皆あんな感じなのかな?綺麗な美人さんだけど母さんどころか婆さんよりずっと年上とか詐欺だろ」

 

 俺の知ってるエルフは全員が男だ。

 普通は出稼ぎで故郷を離れるのは女より男が多いんで、この里を訪れるまで女エルフを見た事は無いし会話もしてない。

 法律で禁じられる前にエルフを侍らしていたのは貴族の女ばかりだ。

 逆に傲慢な貴族女のせいで疲れ果てた男が女エルフを妾同然に雇ってた例もあるみたいだけど、そういうのは周囲にバレないよう厳重に囲っていたらしい。

 ユメリアさんとか胸がデカくて顔立ちが幼いのに成人した息子がいる、それでもあの可愛さときてる。

 貴族の男が女エルフを雇った日には夢中になる奴が何人居てもおかしくない。

 そりゃお偉方も専属使用人を法律で禁止するはずだ。

 

「……エルフが外見の美しい者が多い、それが専属使用人という建前で愛人契約を結んだ者が多発した原因だ。加えて人間と性交を行っても子供が出来なければ貴族にとってこれほど都合が良い存在も無かろうよ。そうした体質を利用して欲に塗れた結果が現在の窮状だ、これほど因果応報が相応しい実例もあるまい」

「随分とまぁ、今日のアンジェは辛辣な物言いだな」

「……リオンは見た目が若い女が好みか?」

「だからさ、どうしてそうなるんだよ」

 

 せっかく仲直りしたと思ったのにまたアンジェが拗ね始めた。

 見た目が良い女エルフを侍らす事と良妻賢母な嫁さんを貰う事は全然違うだろ。

 貴族は家の存続が最優先だから婚約者と仲が悪くても仕方なく結婚して、嫡子が生まれたら顔も合わせないし愛人の方に通い詰める奴らも多いけど俺達は違うじゃん。

 そもそも俺は二十年近く爵位持ち貴族やってるけど一度も侍女や女使用人に手を出してないぞ。

 アンジェさんはもう少し俺を信用してくれませんか?

 

「飛行船で私の胸が転び出そうと揶揄っていたのはリオンだぞ」

「……悪かったって」

「エルフのように長命の者は数十年程度で体型が大きく変化しないのだろうな」

「そうかもな」

「……いや待て、一度でも太ると百年は痩せないのかもしれん。だがエルフは美しい者しか生まれない故に太らないとも考えられる」

「アホな事を考えるなよ、確かに美形は多いけど慣れないと似たような顔ばっかで判別が難しいんだぞ」

「美しさに拘るのは女の性だ、私とてその業からは逃れられん」

 

 女心は難しい、俺の周りには母さんと姉貴とフィンリーに加えてアンジェと娘達と女の身内が多いけど未だに上手く扱える方法が分からない。

 俺は肉付きの良いアンジェの体が好みなんだけど、本人としちゃ太ってる範疇になるみたいだ。

 慰めても火に油を注ぐ事になりかねないから踏み込んだ会話は控えよう。

 

「おい、球っころ。こっそり見てるんだろ」

 

 何も無い空中を睨みつけながら声をかける、返事は無かった。

 

「聞きたい事があるんだ、ちゃんと答えろ」

『……リオン・フォウ・バルトファルト。貴方は慎重なのか、それとも大胆なのか判別が難しい存在ですね』

 

 音も無く空中に金属の球体が姿を現す、何度見ても不気味な登場の仕方だ。

 アンジェも球っころについては慣れたらしい、初めてこいつと会わせた時は随分と取り乱してたんだけど。

 

「お前の事だから周りに誰も居ないかとっくに確認してるはずだ」

『はい。現状に於ける私の索敵範囲内に貴方達二人を除いて人間相当の生命体は存在しません』

「あの村を見てお前はどう感じた?」

『質問内容は正確にお願いします』

「……村の中に俺達を見張ってる奴は居なかったか?」

『貴方達が室内でエルフと会話中に接近した他の人間及びエルフは存在しません。また家に何らかの記録装置が仕掛けられた形跡はまず無いかと』

「まず無い、ってお前らしく無いな」

『私とエルフの初接触はこの浮島を訪れた時点になります。彼らが私の知らないテクノロジーを所有している可能性が捨てきれないのでそのように表現しました』

「なるほどね、とりあえず罠の可能性はだいぶ減ったな」

『飛行船の停泊場所からこの場所を訪れるまで貴方達を追跡していた生命体を確認済みです。生体識別から先程会話していた女性型エルフでほぼ間違いないかと』

 

 補佐役さんに随分と見込まれたみたいだ、同時に後先考えてなさそうな大胆な行動に頭が痛くなってくる。

 どうやら里長の派閥は相当追い込まれているらしいな、占いで余所者の俺を頼っている時点でそれは確定してるんだけど。

 彼女の証言を全て信じる訳にはいかない、物事ってのは当事者の立場によって感じ方が変わるもんだ。

 里長は人間と共存したいが里の観光地化には反対、新村長は里を運営する為に観光地化を推進、そして過激派で元罪人の旧村長は人間達が大嫌い。

 三者三様の思惑で動いている上に裏で繋がっている可能性も捨てきれない状況だ。

 ただ、里の内情についてはかなりの情報を仕入れられた。これは思わぬ収穫と言えるな。

 やっぱり日頃の行いが良いお陰だな、神様は俺を見捨てていなかったらしい。

 ただ書類を提出すれば終わる任務ならこのまま帰って良いんだけど、俺に課せられた任務に関してはある程度の物的証拠も必要だ。

 

「お仲間の気配ぐらいは無かったのか?」

『ありません』

「えらく断定的だな」

『建造物の立地や組成を分析しました。石材や木材といった天然由来の物を加工して建築されており旧人類の痕跡は発見できません』

「じゃあエルフの方は?」

『そちらに関しては詳しい調査が必要になります。出来る限り新鮮なサンプルの捕獲を提案します』

「物騒な事を言うな!」

『生体解剖が最短の分析方法です。貴方も私の協力者なら提案を受け入れるべきかと』

「やだね、絶対に協力しないからな」

 

 球っころと俺はあくまで協力関係に過ぎない、お互いに利用価値があるから行動を共にしてるだけだ。

 俺は家族と領地を護る為に球っころの情報や調査協力が必要だし、球っころは今の世界の情報収集の為に俺を社会との窓口にしてる。

 何時まで続くか分からない協力関係だが、球っころの為にエルフを誘拐して解剖に手を貸すなんて外道な真似は出来ないししたくない。

 いくら俺が外道騎士と蔑まれているような奴でも御免被る。

 

「だが調査対象はかなり絞れた筈だ。限られた時間内で優先的に調査する対象はまず旧村長だろうな」

「やっぱそうなるか」

「まず旧村長には前科がある、ホルファート王国への叛心を抱いていたのは間違いない。長命なエルフが十年や二十年で改心する可能性は低いと補佐役も告げていたからな」

「逆に旧村長を罠に嵌めたくて嘘をついている可能性は?」

「それならそれで補佐役を調べるしかあるまい。ただ里長に関しては人間に対して悪感情を抱いてはいないらしい」

「何処からの情報?」

「ドロテアと義兄上からだ。二人はこの里を訪れた際に里長が直々に占ってくれたと本人が自慢していた」

「あんまり信用できない情報なんだけどなぁ」

「だが少なくとも為人は分かる。里長は高齢な女性で常に補佐役が付き添っていたそうだ、そして補佐役の外見的な特徴はドロテア達の証言と一致していた」

「つまり人間と共存したいって部分は事実なのか」

「ドロテアはリオンと義兄上が兄弟と里長には教えていない、だがリオンの来訪を確信していた。占いの精度はかなり高いと考えるべきだ」

「俺はあんまり信じたくないんだよなぁ、占いって胡散臭いんだもん」

 

 姉貴やフィンリーはよく自分で恋占いしたり、占い師に運命の相手の特徴を聞いてたけど結婚した相手との特徴は全然一致してなかった。

 領民が迷信や風評で騒動を起こした事だってある、人は弱いから神殿の聖女様みたいに縋る物が必要なのは分かるけど狂信まで行ったら世の中の乱す元凶になっちまう。

 未来を見通されて避けられない絶望に怯えるよりはその場その場でしっかり生きるのが性に合ってる。

 

『私はエルフの占いを否定しません』

「意外だな、お前は真っ先に否定しそうなもんなのに」

『私にとってエルフは未知の生命体です。何らかの感覚器官による高次予測の可能性もあります』

「だから信じろってか」

『状況判断の一要素としては参考にすべきかと』

「情報があり過ぎても判断が鈍るぞ」

「是非ともエルフの生体調査に協力を……』

「やらねぇって」

『残念です』

 

 よっぽどエルフが気になるのか、球っころはやたら俺に調査を促してくる。

 やる訳ないだろバカ野郎、戦場でも敵の遺体を弄ぶのは味方からでさえ忌み嫌われる行動だぞ。

 球っころの提案をきっぱりと断った、心なしか落ち込んでいるように見えてきた。

 

『では、現存している遺跡の調査を提案します』

「切り替えが早いなお前」

『懐柔が無理ならば拘り続けるのは時間を浪費するだけです。寧ろ私にとって遺跡の調査こそが貴方に同行した目的ですから』

「古代の遺跡関連でお前に敵う奴は居ねぇよ、自分の意思を持ったロストアイテムなんて世界中の好事家が大金を惜しまないぞ」

『それも良いかもしれませんね、相手が新人類でない限りでは』

「……とりあえず今は俺で妥協しとけ」

『分かりました』

 

 もう十年以上も球っころと協力関係を続けてるのはこいつの監視も目的の一つになってる。

 何せ国を簡単に滅ぼせそうなロストアイテムの戦艦が正体だ、野望に溢れた奴と手を組めば文字通り世界が終わっちまう。

 せめて一日でも世界が炎に包まれるのを遅らせるぐらいしか俺には出来ない。

 出来るなら俺達の子供全員が成長するまでは止めて欲しいんだけど、こいつを従わせられるご主人様が見つからないのが悩みの種だ。

 

「しかしエルフの里長も粋な名付け方をするもんだ」

『何の事でしょうか?』

「占いの『古の魔王』って部分だよ、絶対にお前の事だと思うぞ」

『私はあくまで旧人類に奉仕する為に製造された存在です。敵性存在である新人類を殲滅する意思は存在しても支配するつもりはありません』

「貴様がその選択をする事が私達にとっては何倍も恐ろしいな」

『私は製造されてから一度も格納庫から発信する事も無く、ただ只管に時間を浪費し続けました。そんな私が魔王と畏怖される存在と定義するのは間違いです。エルフはあまりに非合理的な生命体なのですね』

 

 ふと、球っころに対して憐れみの気持ちが湧き起こった。

 数千年、いや数万年かもしれない長い時間を誰にも知られず格納庫の中で何時か現れるご主人様を待ち続けるのはどんな気持ちなんだろう。

 機械だから狂う事も出来ず、たまに訪れるのは墓荒らしみたいな冒険者。

 俺があの遺跡に辿り着かなきゃこいつは壊れる日まであの格納庫から一歩も出ないまま朽ち果てていたのかもしれない。

 案外こいつも可哀想な目に会ってきたのかもしれない、だからって人類殲滅は絶対に認められないけど。

 球っころと今の世界を繋げたのは俺だ、だから最後まで面倒を見る必要がある。

 ぼんやりとそんな事を思いながら俺達は宿泊施設に戻る道を歩き続けた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「ちちうえ~、ははうえ~」

「お父様、お母様。お帰りなさい」

「ずいぶん遅かったね」

「それは野暮ってもんだろ」

 

 宿の部屋に入った途端に賑やかな出迎えだ、やっぱりうちの家族はこうじゃないと調子が狂う。

 同時にエルフの里を調査する偽装として家族を使っている事実に罪悪感を覚えた。

 帰ったらきちんと一人一人に埋め合わせをしよう、ここ最近は王都に出向いていたから何処となく親子関係が疎遠になってる気がするし。

 

「おう。お前ら楽しんでるか?」

「うん!」

「私は本を買いました、この浮島の事が詳しく書かれてるの」

「メラニーってばまた蔵書を増やすんだから。いつか部屋が本で埋もれても知らないわよ」

「与えた小遣いの範疇ならば私とお父様は口出しするつもりはありません。無論、道徳に反しない限りに於いてはですが」

「分かってます母上。俺はこの飾り物を買ったんだ」

「……似たような形のやつ、バルトファルト領の温泉街でも売ってたぞ」

「違うよ!全然違う!色とか輝きとか!うちで売ってるのとは違うんだ!」

 

 まぁ各々が好きな物を買えるのは良い事だな、うん。

 俺がガキの頃は父さんも母さんも忙しくて家族総出で旅行とか一回も出来なかった。

 苦労した反動なのか、今じゃ二人とも地元の温泉に通い詰めたり夫婦お忍びで旅行に行きまくってる。

 その代わり当主になった俺の苦労も増えてるんだけど。

 俺とアンジェがのんびり隠居生活を送る為にはあと何年必要なんだか。

 

「ライオネルとアリエルは?」

「兄上は疲れて休んでて、姉上は向こうで甘い物を食べてる」

 

 どうやら俺達が居ない間の弟妹の世話はかなり大変だったらしい。

 部屋の奥を覗くと休息用のソファーの上で寝転がる長男と見るからに甘そうな菓子を頬張ってる長女が寛いでいる。

 とりあえず労ってやろうと近付いたらアリエルは座卓の上に広げていた菓子を自分の方に寄せていく。

 俺は娘の買った菓子を横取りするほど情けない父親じゃねぇよ、泣きたくなるから止めてくれ。

 

「……お帰りなさい父上」

「どうした、疲れた顔して」

「本当に疲れてるんですよ。リーアもロクサーヌもメラニーもディランも旅行先だからって燥ぐから」

「だから言ったじゃない、姉妹だけの外出にあんたが同行しなくてもいいって」

「最年長のアリエルが一番頼りにならないからだろ。君は祭りに行ったら弟と妹を放り出して自分が一番満喫する性格だ」

「そんな事ないわよ」

「秋の収穫祭、八歳と十一歳と十二歳の時」

「あれは皆に誘われたから仕方なくよ、子守りもあんたに任せたでしょ」

「無理やりね、おかげで僕はあまり楽しめなかった」

 

 また双子が言い争いを始める、こいつらは完全に仲が悪い訳じゃないんだけど遠慮なくお互いに辛辣な言葉を投げかけるから傍目からだと口喧嘩しているように見える。

 アンジェの腹の中で十ヵ月も一緒だったんだ、他人には分からない強固な絆で結ばれてるのかもしれない。

 それはそれとして今後の予定を教える必要が出てきた、何せいろいろと事情が変化してきたからな。

 

「明日の昼過ぎに俺とアンジェとお前達で出掛けるぞ、今夜はしっかり休んで体調を整えておけ」

「え、それじゃ」

「喜べ、お待ちかねのダンジョン探索だ」

「やった!」

「面倒くさいな…」

 

 上機嫌なアリエルに対してライオネルは気怠げな反応を見せている。

 この光景は何となく見覚えがあった、冒険やら二人きりの外出を喜ぶアンジェと面倒臭がる俺とほとんど同じ反応じゃねぇか。

 妙に恥ずかしくなって双子から距離を置く、何事も準備が肝心だ。

 

「何の話?」

「明日の予定よ、ついに私達もダンジョン探索を許されたわ!」

「良いな~、俺も行きたい!」

「リーア、お前は大人しく留守番してろ」

「え~っ!?」

「十二歳はまだガキなんだ、危ないから大人しく弟と妹達の世話してるんだな」

「いやだ!」

「兄貴に手間をかけさせるお荷物は作戦行動を共にするにはまだ早い」

 

 話を嗅ぎつけたリーアが会話に加わってくる。

 うちの次男は王立学園に入学前なのに領軍の訓練に参加し、同い年頃の連中と比べると体が丈夫だ。

 鎧や銃に興味を示してるから、いっそ騎士や軍人にさせるのも進路の一つとして薦めてみるのも良いと思ってる。

 だけどまだ十二歳だ、危険があるかもしれないダンジョンに連れ回す気は無い。

 ライオネルとアリエルは学園で訓練を受けている。

 王国が定めた規定に基づいた訓練内容で、俺の息子だから勝手に参加してある程度の甘えや増長が看過されていた領軍の訓練とは違う。

 

「ちゃんと成長したらいつか連れて行ってやる、だからしっかり勉強と訓練に励んでろ」

「……分かったよ」

「なら良し。アンジェ、俺は今後の打ち合わせがあるから後は頼む」

「分かりました」

 

 子供達を世話を一旦アンジェに任せて隣室へ向かう。

 扉を叩いて中に入ると護衛として同行した三人が直立姿勢で待機していた。

 軽く手を振って挨拶を済ませて打ち合わせに移る。

 

「御当主、お戻りになられましたか」

「あぁ、子供達はどうだった?」

「いやぁ、随分と燥ぎ回っておられました。御当主と奥様が同行した旅行は嬉しかったご様子です」

「なら良かった。……町の様子は?」

「不審な部分については取り合えず見当たりません。無論、町の行政事務を行っている者達が働いてる宿舎への立ち入りは禁じられておりますが」

「町中で俺達を見張っているような奴は居なかったか?」

「確認は出来ません。エルフや役人達が何らかの機材や魔法を用いているならばその限りではありませんが」

「逆に入港してから感じた妙な気配は消えています。単に訪れた者全員を見張っていたのか、それとも監視対象から外れたのかは不明ですが」

 

 状況説明を簡潔に行うこいつらはバルトファルト領軍の中でも優れた成績を修めた領兵達だった。

 年齢は俺より上の奴も居れば十歳以上年下の奴もいる。

 辺境の新興貴族とは言っても伯爵位の領主貴族ともなれば領地と領民を護る為にそれなりの荒事を熟す必要が出てくるのは当然の成り行きだ。

 情報収集、治安維持、斥候任務、隠密捜査は政治や軍事にとっちゃよくある手段の一つでしかない。

 いくら球っころが協力しているとは言っても、それを俺一人で熟せる訳が無いから嫌でも限界が出てくる。

 俺を補佐し、必要な情報を掻き集め、場合によっちゃ邪魔な奴を排除してくれる部下が必要だ。

 伯爵になってからアンジェと一緒にバルトファルト領の暗部とも言える集団を設立し、ようやく組織と言えるものが完成した。

 俺の跡を継ぐ子供にはこの組織も自動的に引き継がれる予定だ。

 汚い裏の仕事を嫌っていた俺がこんな組織を設立するようになるとは思っても居なかった。

 きっと死んだら俺は地獄行きだろうな、子供達には罪に塗れた俺を見せたくない。

 

「そっちについては進展があった、詳しい事情を説明するぞ」

 

 部下達にユメリアさんの家で起きた出来事を話す。

 勿論エルフの占いやロストアイテム関係の情報は隠しておく、内容はあくまでもエルフ達の内紛とも言える部分に関してのみ。

 三人とも俺の話を聞きながら何かを考えている、有能な部下ってのは頼もしくも恐ろしいもんだ。

 

「流石ですな御当主、初日でここまでの情報を入手なされるとは」

「誉めても給料は上がらないぞ、ちゃんと働いてもらわないと困るからな」

「はっ。して今後の予定は?」

「とりあえず前村長が作った集落の確認、そして遺跡の調査になる。遺跡の調査に関しては明日の昼過ぎから俺が直々に取り掛かるつもりだ」

「我々は明日も引き続き御子息達の護衛ですか?」

「あぁ、だが集落に関しては今夜中に簡単な位置と情報を調べておきたい」

「では飛行船で待機している者達に連絡しておきます」

「頼んだぞ、集落の調査は夜闇に乗じて行うように。明日の昼までには俺も集落を見ておきたいから報告書は朝までに作成しておいてくれ」

「了解しました」

 

 三人の年長者が返事をすると同時に若い兵が部屋を出た、行き先は領兵達が待機してる飛行船だ。

 柄にもなく体が興奮で震えていくのを感じた、どれだけ子煩悩で愛妻家な成り上がり貴族を気取っても俺の資質は兵士らしい。

 こんな任務は手っ取り早く片付けよう、そしたらしばらく屋敷で家族団欒を味わうんだ。

 せっかくの家族旅行なのにもう帰りたくなってる自分自身が嫌になる。




バルトファルト領裏部隊登場、ちなみにメンバーは10人も居ません。
原作ルクシオンは万能過ぎますが、今作のリオンはそこまでルクシオンに信頼されてないので使える力に限度があります。
リオンの行動を補佐する意味で今後も登場予定です。
次章の投稿は2週間後、依頼主様に頂いたイラストを基に成人向けストーリーを投稿します。
重苦しい話や会話パートが続くとイチャラブが書きたくなる症状が発症しました。

追記:依頼主様により百日夢様にリクエストのイラストを描いていただきました、ありがとうございます。
こちらのイラストを基に成人向けストーリーを投稿予定です。

百日夢様 https://www.pixiv.net/artworks/127449181(成人向け注意

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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