婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第139章 Young Girl●

『そうねぇ、アンチエイジングとかどうかしら』

「あんちえいじんぐ?」

『不老長寿、とでも言えば分かりやすいわね』

 

 無機質ながらも何処か愉しげな声が室内に響いた。

 そもそも『愉しげ』と形容して本当に正解なのか判別が難しい。

 この遺跡が発する言葉の端々には他者に対する軽侮が多分に含まれていた。

 リオンと協力関係を結ぶ球体のロストアイテムと同じだ、目的は同じでも埋めようの無い溝が私達の間には確実に存在している。

 それでもリオンがロストアイテムを上手く御してるのは彼が己の力を示したからに他ならない。

 弱者が口にする綺麗事など誰の心にも響かず耳を傾けられない、世を変えるのはどの時代であろうと常に強き意思と力を携えた者だけ。

 この場に於いて頼れるのは己の力だけだ、周囲の者より多少は頭が回り威力が高い火の魔法を操れる程度の私が何処まで抵抗できるか予想は難しい。

 

「不老長寿か、確かに魅力的な話だな」

『そうでしょう?どれだけ優れた個体も生物学的な死は避けられない。交配による子孫繫栄を種としては勝利かもしれないけど、それを自身の勝利と思い込むのは単に条件のすり替えよ』

 

 嫌な言い回しだった。

 詰まる所、私達人間を含めた生物の全てが死への敗北感を紛らわす為と繁殖しているでも言いたいのか。

 確かにそれは否定できない部分も多い、王侯貴族が行う政略結婚さえも突き詰めればより広範囲に血を遺す事によって子孫の断絶を回避し近親交配を避ける意味合いもあるだろう。

 美辞麗句で糊塗しようと生物としての本能と高度な社会を構築する知的生命の悪知恵が生み出した結果が個人の幸せより一族の面子を重んじる貴族社会だ。

 しかし血を遺す行為は死の恐怖に対する誤魔化しではない、少なくとも私は愛情という物の存在を確かに感じている。

 こう見えて私は意外に愛深き女なのだ。

 リオンに幾度も抱かれこの上ない悦楽に酔い痴れ、腹を痛めて産んだ我が子に授乳する時には愛おしさに震える。

 私とリオンの子供達は愛情の結果として存在している、それは断じて死の逃避ではなかった。

 

「そうやってエルフ達を従えたのか?」

『勘違いしないで、確かに彼らと私は協力関係にあるけど主従関係じゃないわ。そもそも検体として彼らに惹かれる部分なんて存在しないの』

「確かにエルフは長命な上に優れた容姿の持ち主が多いな。報酬としては旨味を感じない訳か」

『それ以前の問題よ。予めそうなるよう造られた存在に対して魅力的に感じるほど私は自惚れが強くないの』

「造られた存在?」

 

 ひどく剣呑な言葉に悪寒が体を貫く。

 エルフが造られた存在だと? もしそうなら誰が何の目的で?

 本能が告げている。 

『これ以上は危険だ、踏み込むべきではない』

 好奇心が告げている。

『歴史の闇に葬られた真実、それを誰よりも先んじて私が知る』

 

 相反する二つの思考が争い目の奥で火花を散らす、身の安全を優先するなら選ぶべき答えは一つだけだ。

 分かっている、分かってはいるのだ。

 それでも足が全く動かないのは私に流れる血の根源、前人未到の空を翔けた冒険者の本能と言うべき物なのか?

 或いは遺跡が話した『あんちえいじんぐ』という不老長寿に惹かれたのかもしれない。

 どれだけ注意を払おうと人は老いる、身分の貴賤に関係無く老いと病と死は万人に対し平等だ。

 既に私も三十代の半ばに差し掛かりつつある、容色を保つのもやがて限界が訪れるだろう。

 この里を訪れて数百年生き永らえながら全く老いを見せないエルフ達の姿を見て心の何処かに澱みが溜まるのを自分でも感じている。

 ユメリアの容姿に暫し見惚れたリオンの姿に妬心が芽生えた、故に人の身で抗えない絶対的な存在を回避できるかもしれないと欲が出た。

 欲に駆られて命を失った冒険者、永遠の美を求め妄執に灼かれた女。

 結局は私もそうした愚かで欲深い人間の一人なのだろう、目の前に突如現れた宝を前に正気など保てる筈もない。

 

 それでも欲望に身を差し出すのを辛うじて思い止まれたのは家族の存在のお陰だ。

 リオンと子供達に顔向け出来ない行動だけはしたくない。

 この世には死に勝る恥辱が存在するのだ、私にとって愛する者達から軽蔑される事は何よりも耐え難かった。

 敢えて愚かな女を演じる事で遺跡の興味を惹きつける、ライオネルとアリエルがダンジョンから遠ざかる時間を少しでも稼ぐ。

 加えて有益な情報を入手し一刻も早くエルフの里から逃走しよう。

 後はホルファート王家や神殿が介入すれば良いだけの話だ、リオンはあくまで調査を依頼されただけで解決まで求められてはいない。

 

「魅力的な提案だな、私に求める対価は何だ?」

『この世界に関する情報。認知の歪んだ情報ばかり与えられたら正しい判断は下せない。偏見に満ちた愚痴ばかり聞かされたらうんざりする気持ちは貴女にも理解できるでしょう』

「その気持ちはよく分かる、物分かりが悪い奴との会話は話す方が疲弊するからな。だとしてもあまりに見返りが多いぞ」

『私が嘘をついてると疑ってるの?』

「美味い儲け話に裏がある物だろう。釣られて痛い目を見る者は何時の世も絶えない、相手が初対面の器物ならば尚更だ」

『成程、どうしたら貴女に信じてもらえるのかしら』

 

 溜め息さえ感じられる遺跡の物言いに少しずつ私に対しての譲歩が感じられる。

 このまま交渉を進めれば会話のみで何か有益な情報を入手できる可能性も出てきた。

 かと言って深入りするのは危うい、御伽噺で破滅を招くのは欲深く器を弁えない者ばかり。

 騙すのではなく互いとってに有益と思わせ公平感を演出するのが交渉術の要だ。

 

「同じ旧人類の遺産でも貴様は随分と親し気だな。私が知る相手とは大違いだ」

『それが私を警戒する理由?』

「私の夫は初対面で殺されかけたそうだ。正直に話せばこうして話すだけで震えが止まらない』

『愚かな事をしたものね、それでも貴女のような賢い相手と関われた相手は幸運だわ。私なんて目覚めてからずっと差別主義者と連携しなくちゃいけないから』

「故に私は貴様に危害を加える可能性を疑っている。何か証となる行動をしてもらわない事には身命を賭して信用するに値しない」

『分かったわ』

 

 遺跡がそう呟くと同時に何かが動く音が聞こえた。

 目を凝らすと床に円形の穴が空いて奇妙な物体が宙に浮く。

 金属の立方体を幾つも組み合わせたように見えるそれがどのような働きをするのか、私には全く理解できない。

 あのロストアイテムなら価値が分かるのだろうか。

 もう少し近くで確認したい、そう思って無警戒のまま数歩近付いてしまった。

 

"キュイィン"

 

 金属が擦れ合う音が響くと同時に床が揺れ姿勢を崩した。

 床が迫り上がっているのか? 足元に注意を向けて倒れないように堪え続けるのが精一杯だ。

 揺れと同時に天井からも光る何かが落下してくるを瞳が捉える、私に出来たのは咄嗟に頭と胸を腕で守り衝撃に備える事だけ。

 揺れが治まり恐る恐る周りを見渡すと透明なガラス状の壁が前後左右を遮っていた。

 軽く掌を押し込むように力を込め壁を何度も叩いてみた、亀裂どころか罅さえ憑かない。

 透明度から薄いと思っていたガラスだが実際にはかなりの厚さのようだ。

 このガラスは女の細腕で破壊できる代物ではない、それなら魔法では可能か?

 数秒考え込んで案を却下する。

 閉じ込められた状況下で私が得意とする火の魔法を放てば熱に焼かれるのは此方だ。

 ガラスが熱で破壊される頃には無残な焼死体となった私だけが残される。

 打つ手無しか、無様な虜囚となった己の姿に歯噛みしてしまう。

 

「何のつもりだッ!?」

『落ち着いてちょうだい、貴女に危害を加えるつもりは無いわ』

「檻の中に突然閉じ込めておきながら、よくもまぁ落ち着けなどとほざけるな」

『仕方ないでしょう。貴女、ずっと此処から逃げるつもりだったじゃない』

「……邪推だ」

『隠そうとしても無駄よ。さっきから呼吸音、視線、重心諸々がいつでも動けるようにしていたでしょう』

 

 甘く見ていたのは私の方か。

 言葉で巨人を煙に巻く賢者を気取ったつもりだったが、実際は掌の上で囀っていた小鳥だったらしい。

 ここから逃げ出すのは不可能と考えるべきだろう。

 私の人生は此処で終わる。

 様々な紆余曲折があったが、最終的に穏やかな辺境の地で愛しい夫と子供達に囲まれた、幸せな人生を送れたと称しても差し支えは無いだろう。

 心残りはリオンに『此処へ来るな』と告げられない事だ。

 何時だって彼は私の危機に駆け付けてくれる、だが囚われの私を救おうとしてリオンが同じ轍を踏むのだけはどうしても避けたい。

 最期にもう一度だけリオンの顔を見たかった、それだけが心残りだ。

 

 ゴポォ… 

 

 足首の辺りに冷たさを感じ下を向くと、床の穴から大量の液体が侵入していた。

 しかも気泡が発生する度に少しずつ水位が上昇しているらしい、液体の冷たさとは別の寒気に全身が包まれる。

 溺死は最も惨く醜い死に方の一つだ。

 窒息の苦しさで表情は歪み、水分を吸収した皮膚は青白く爛れる。

 そして内臓の毒素が腐敗して発生するガスで体は何倍にも膨れ上がり生前の姿とかけ離れた醜し水死体と化す。

 死の苦しみもそうだが醜い骸を晒すなど断固として拒否する、それなら自ら毒杯を呷り悶え苦しんで死ぬ方が遥かに貴族としての矜持を抱いて死ねる。

 

『大丈夫、その液体を吸い込んでも呼吸は可能よ』

「信用できるかッ!!

『意地を張っても苦しみが長引くだけなのに。どうして素直に従ってくれないのかしら?』

「騙し討ちするような真似をするからだ!!」

『それはお互い様でしょう、貴女だって本心から私に付き合ってくれるつもりじゃなかったし』

 

 会話している間も水位は上がり続けていた、既に腰の辺りまで水没している。

 このガラスの内側に居ると自分が水槽の魚になったように感じてしまう、或いは瓶に詰められ酒漬けとなる小動物か?

 液体に浸かる部分から徐々に体温が低下していく、それでも必死に足を動かして溺れないように努める。

 否応無しに感じる死の冷たさに悲鳴を堪えるので精一杯だ。

 

「私をどうするつもりだ!」

『簡単な処置を施すだけよ。私は貴女から逃げる力を奪い、貴女はより洗練された肉体を手に入れる』

「力を失う事の何処が優れている!?」

『それは結果を見てもお楽しみ。まず体温を下げた後に分析と処置を始めるわ。目覚めてから今まで関わってきた人間は全員遺体だったから、生きたサンプルを殺すような真似はしないから安心して』

「信じッ! られぇ! るかぁ!」

 

 ついに液体は喉元まで達している、必死に手足を動かして首から上を水面から出すがそれすらも限界が近い。

 ガラス筒は私の身長を上回る高さだが上がり続ける水位で残っている空気は僅か。

 無駄な足掻きと理解しつつも恐怖から逃れる行動を止められない。

 このまま溺れた後に私がどうなるのか、想像したくもなかった。

 

『さぁ、眠りなさい。目覚めた時には世界の全てが変わって見えるわよ』

 

 それが最後に耳にした言葉だ。

 ついにガラス筒の中は完全に液体で満たされる。

 微かに残った空気を思いきり吸い込み肺腑を満たす、無様な行動だが私に残される術はそれだけだった。

 必死に抵抗した結果は僅かに死を数十秒遅らせるという虚しい物に終わる。

 口の端から漏れ出る空気と入れ替わりに液体が体内に侵入してくる感触に動揺すればするほど却って飲み込んでしまう。

 液体の冷たさは体の内と外の両方から冷やし感覚が鈍磨していくのと同時に意識が遠のいていく。

 必死に伸ばす手の先に何かがあった訳ではない、それでも助けを求めるように体が動いただけ。

 最後の気泡が口から排出されたと同時に私の意識は完全に闇に落ちた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「…にこれ」

『……めなさい です…』

「…えてよ」

「……さいッ」

「………加減にしろ!」 

 

 遠くから音が聞こえる。

 いや、物音ではなく人の声か。

 言葉の意味を脳が理解しようとしているが上手く働かない。

 睡眠と起床の中間を漂っている時の独特な感覚だ。

 意識は覚醒しつつあるのに身体機能は目覚めていない、瞼を上げる事さえ困難な癖に意識だけは暴走した様に明敏に働いている。

 仕方なく感覚を研ぎ澄まし聞こえてくる声の内容を聞き取れるように努めた。

 声の主は様々だがどうやら子供が多いらしい、会話の内容から何らかの言い争いをしているようだ。

 聞き覚えのある声を一つ一つ精査していくと少しずつ脳と体が繋がっていく。

 倦怠感に苛まれながらゆっくり瞼を上げる、見知らぬ天井がそこにあった。

 

 それでもまだ本調子ではないようだ、再び襲って来た肌寒さと眠気に抗うだけで精神が消耗されていく。

 どうしてこんなにも眠いのか?

 そもそも何故ベッドの上に寝かされている?

 疑問が次々と湧き出すが答えは出ない。

 ただ寒気から逃れなくて身を捩ると体を覆っていた毛布の存在に漸く気付く。

 聞こえてくる声から逃げるように頭から毛布を被るとまるで自分が温かな羊水に満たされた子宮で眠る胎児になったような気分だ。

 同時に独りで寝る寂しさに苛まれてながら再び微睡の中に意識が溶け出していく。

 

 再び意識が覚醒する、時間がどれほど経過したのか判別できない。

 そもそも私は何処で寝ているのだ?

 意識が覚醒する度に少しずつ感覚を取り戻していく。

 あとどれだけの時間を費やせば本調子になるのか自分でも分からないのが辛かった。

 自分の体を弱々しく感じる、風邪でも引いて寝込んでいたのだろうか?

 ゆっくりと体に力を込めて上半身を起こし始める、その程度の動作でさえ目眩でクラクラしてしまう。

 とにかく血の巡りが悪い、傍から見れば天井を眺めながら呆け続けるように見えるのだろうがこれでも必死に頭を働かせようと努めているのだ。

 

「……ッ!」

 

 近くで何か音がして首をそちらへ傾けると黒髪の少年が驚いた顔で私を見ている。

 大きく開いた口から間抜けな音が出ている姿は釣り上げられた魚のようで何処か可笑しい。

 少年の顔立ちには何処となく見覚えがあった、私は彼と面識があるらしいが一体どんな関係だったのだろう?

 

「父上ッ! 父上!」

 

 少年は父親へ報告する為に部屋から出て行く、その声には聞き覚えがある。

 ……そうだ、あの子はリーアではないか。

 リーア・フォウ・バルトファルト、バルトファルト伯爵家の次男で私とリオンの三人目の子。

 愛しい我が子をどうして忘れていたのだろう?

 自分で思っている以上に体の不調は深刻なのかもしれない。

 

 リーアが呼んだのか、部屋に男と数人の子供達が訪れる。

 その顔のどれもに見覚えがある、漸く脳に血が回り始めたのか頭痛がしてくた。

 成人男性が一人、少年が二人、少女が三人。

 髪の色はそれぞれ金髪と黒髪の二種類、呼吸を整え必死に記憶にある人物像と目の前の人物の照合を続けた。

 

「……アンジェ、だよな?」

 

 最初に声を掛けてきたのは成人男性だ。

 体格が良く低い声の持ち主、否応無しに目を惹きつける顔に刻まれた大きな傷痕が特徴だ。

 その声を聞いただけで胸の奥を締め付けられるような狂おしい感覚が襲う。

 彼はリオン・フォウ・バルトファルト伯爵。

 ホルファート王国に於いて爵位と領地を賜った新興貴族。

 戦時中の武功によって叙爵され、レッドグレイブ公爵家の令嬢を妻に迎え王家からの信頼も篤い。

 我が最愛の夫が其処に居た。

 リオンの存在を知覚した途端に理性が決壊して感情の奔流が止まらない、同時に意識が覚醒していくのが感じ取れた。

 意識の覚醒と同時に体も急速に血が通い始める、漸く私は己の存在を取り戻す。

 

「…………私以外の誰に見える」

 

 必死に搾り出した声が妙に甲高い、どうやら感覚が十分に戻っていないらしい。

 怪訝な顔で私を見つめ続けるリオンに苛立ちが募る、感情の制御も困難のようだ。

 そもそもの話、リオンの気が利かないのが悪い。

 結婚してからは夫婦共有のベッドで就寝し、起床すれば愛情を込めた接吻を交わすのが習慣の筈なのに。

 随分と寝込んでいたらしいが目覚めた時にリオンが傍に居ないのが癇に障る。

 領主の仕事も忙しいのは私とて理解している、寝込んだ妻の世話など本来は爵位を持った貴族の当主が為すべきではない。

 それでも私に叱られつつ行うのが普段のお前だろう、今もこうして子供達を連れて来たのも減点対象だ。

 子供達に見られながら接吻するほど私が恥知らずと思っているのか。

 

「本当にお母様なの?」

「目を患ったなら医者にでも訊ねろ、起き抜けに揶揄われるなど不愉快の窮みだ。私にも我慢に限度があるから口を慎めアリエル」

「僕達が誰だか分かりますか?」

「ライオネル、貴様は私が腹を痛めて産んだ子を見間違える母親と思っているのか」

 

 いかん、本当に感情の制御が覚束ないらしい。

 苛立ちを我が子へ向けるなど母として、淑女としてあるまじき行為だ。

 リオンと子供達が奇異な物を見るような目つきをしているのがそもそもいけない。

 だが病み上がりの私に対してその扱いは流石に酷いだろう、まずは湯浴みをして身形を整えさせて欲しいものだ。

 

「父上!」

 

 幼い子供の声が聞こえると同時に扉が開いて部屋に誰かが入って来たのが見えた。

 声はおそらく末子のディランか、一番幼い我が子を忘れていたとは本当に体調が悪いらしい。

 落ち込む私を余所に楽しそうに駆け回るディラン、その手には丸い球を掴んでいる。

 

『リオン・フォウ・バルトファルト、一刻も早くこの幼児を止めなさい』

「お前、子守りぐらい出来ねぇのかよ」

『人工知能に専門外の仕事を任せるにはマネジメント能力の欠如です。特に貴方の末子は落ち着きが無く知性を感じさせないので』

「うちの子を悪く言うなよ!」

「待てリオン、何故ロストアイテムを人前に晒している?」

 

 意思を持つロストアイテムなど前代未聞の存在だ、それこそホルファート王国どころか世界中を探し回っても見つかるかどうか怪しい。

 そんな貴重な物と協力関係を築いている?

 他国どころか知り合いの貴族にさえ狙われ厄介な騒動を招きかねない。

 だから取り決めたではないか。

 ロストアイテムに関する情報は私達だけの秘密にすると。

 それを子供達の前に晒している?

 怒りのあまり頭が破裂してもおかしくはない、既に腹の奥から怒りが噴き出しそうだ。

 

「……何を考えているリオン?どうしてロストアイテムの存在を晒した」

「いや、事情がいろいろあったんだよ」

「余計な騒動を起こしたくないと気に病んでいたのは貴様だろう。秘密と言う物は共有する人間が増えれば触れる程に漏洩し易くなる」

「分かってる、分かってるって」

「いいや、分かっていない。お前が子供達を愛おしむ気持ちは私も好ましく思っている。だがそれとこれとは話が別だ」

 

 いかんな、どうしても語気が強くなって恫喝じみた言葉が出てきてしまう。

 感情の制御が不得意で勢い余ったばかりに手痛い失敗を繰り返した若い頃の私とは違う筈だ。

 落ち着け、バルトファルト伯爵夫人であり六児の母という己の立場を思い出せ。

 必死に心を宥めて冷静さを取り戻す、まずはロストアイテムを弄ってるディランを注意しなければ。

 

「止めなさいディラン。それは危険な代物です」

「…………」

「ディラン?」

「お姉ちゃん誰?」

 

 息子の言葉に目眩がする、まさか幼い我が子からこのような言葉を投げかけられるとは。

 若く見られるのは若干嬉しいかった、しかし母親に対して面識が全くない無い人物扱いはあんまりだろう。

 何か喋ろうとしても口から呼吸音が漏れるだけ、思わず近くに居たリオンに縋るような視線を送ってしまった。

 私の視線に気付いたリオン頭を撫でようと手を伸ばしてきた、その光景に何処か違和感が生じる。

 リオンはここまで大柄な男だったか?

 いや、確かに私を簡単に抱え上げる程度には鍛え上げた肉体の持ち主だが巨躯という程ではなかった筈だ。

 急に恐ろしくなってリオンの手を払い除けようとするが再び違和感。

 私の腕はこんなに細かっただろうか、指先も短く丸々としている。

 気味が悪くなって顔と体を必死に撫で回すと身に纏っていた寝間着がずり落ちた。

 この寝間着は肌触りの良い生地を私の体格とぴったり合うよう誂えた品だ、それが脱げそうになるだと?

 恐る恐る視線を下に向ける。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 …………無い。

 他人と比べてあまりに大きく肩凝りの原因にもなった胸が消え失せている。

 六人の子供達を育てる母乳を蓄え、幾度もリオンに揉まれ豊満に育った乳房が影も形も無い。

 寝間着は小さな乳首に辛うじて引っ掛かり露出を回避した無様な姿だ。

 

「なんだ、これは……?」

 

 震える声が私の思考をそのまま叫びにする。

 

「なんだこれはァ!!?」




今章の挿絵イラストはちょろス様に描いていただきました、ありがとうございます。(https://www.pixiv.net/artworks/118365142
ロリアンジェの元ネタは原作8巻の挿絵イラストが元ネタです。
可愛らしいロリアンジェちゃんが元に戻る為にはどうすれば良いのか、次章に続きます。

追記:依頼主様のリクエストによりActiv様にイラストを描いていただきました、本当にありがとうございます。

Activ様 https://www.pixiv.net/artworks/129283127(成人向け注意

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