婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第140章 Family meeting 前編

「はい、注目!注目しましょうね~!」

 

 覇気が足りない俺の声が室内に響く。

 今の状況を考えたら本当はもっと焦るのが普通なんだけど、何しろ突然の緊急事態なんで頭の整理が追い付かない。

 それと我が家の子供達が元気良過ぎる。

 

「ほら、みんな着席しなよ」

「腹立つ事しか言わないのよコレ!思いっきり殴りたい!」

「そっち行ったぞ!逃げようとすんな!」

「……売れば良い金額になりそうね」

「分解しちゃダメかな?」

「おもしろ~い」

 

 お前ら、それは新人類の殲滅を企てる飛行船の端末?らしいんだぞ。

 誕生日に買ってやった玩具みたいに奪い合って触ろうとすんな、怖い物知らずにも程がある。

 

『ライオネル・フォウ・バルトファルト、もう少し強い語気で弟と妹に注意を促しなさい』

『アリエル・フォウ・バルトファルト、私は単純に貴女の貴族令嬢と思えない浅学を指摘しているだけです』

『リーア・フォウ・バルトファルト、害意を示す相手から距離を取るのは戦術的に間違っていませんよ』

『ロクサーヌ・フォウ・バルトファルト、私は貴女の父の所有物ではない事を留意してください』

『メラニー・フォウ・バルトファルト、好奇心のまま行動しては取り返しがつかない事態になります』

『ディラン・フォウ・バルトファルト、菓子を食べた手でレンズ部分を触るのは即刻中止してください』

 

 ライオネルを除いた五人が球っころに群がって弄り回す。

 というか球っころの奴、うちの子供達を全員憶えてたんだな。

 てっきり新人類殲滅にしか興味が無いと思ってたぞ。

 必死に五人が大人しくするように俺とライオネルは注意を促すが効果は薄い。

 普段は忙しくて領地の外に出向く事も多い俺が家庭内じゃ父親としての威厳が低いのは分かってた。

 大人しい性格なライオネルがいまいち弟妹達に強く出られないのも知っている。

 だけど、この慌ただしい状況を齎している一番の原因は俺の側から離れない可愛らしい少女だ。

 

「…………」

「……なぁ、アンジェ」

「どうしたリオン?」

「お願いだからちょっと離れてくんないか」

「断る」

「流石に子供になった嫁を傍で侍らすってのは子供達の前じゃマズいって」

「嫌だ」

「そこを何とか」

「い や だ」

 

 ご機嫌斜めなアンジェリカ奥様は俺のお願いを聞いてくれません。

 ソファーに座った俺の隣にぴったりと引っ付いて離れようとしない。

 せっかく一番体格が近いロクサーヌから可愛い寝間着を借りたのに肝心の本人が膨れ面だと台無しだ。

 いつもの礼儀正しい口調じゃなくてぶっきらぼうな物言い。

 感情を露わにするのは見苦しいが信条だけど隠そうともしない不機嫌な表情。

 そして何より俺が自分の所有物だと言わんばかりに周囲を威嚇して体を擦り付けるような距離感。

 アンジェが他人に知られる事を最も恐れてる一面を隠そうともしてない。

 あの珍妙な旧人類が造ったというの遺跡が拵えた巧妙な偽者って可能性はどうしても拭いきれなかった。

 本当にこの少女がアンジェ本人なのかという疑問を感じながら抱きついてくる少女の顔を見る。

 

 以前レッドグレイブ公爵家を訪ねた際に見せてもらった写真。

 映っていた幼いアンジェと目の前の少女はそっくりで同一人物だと思って間違いない。

 さらに実の娘であるアリエル、ロクサーヌ、メラニー。

 アンジェが産んだ三人の面影が少女にも確かに存在していた、事情を知らない奴が見たら三姉妹じゃなくて四姉妹だと思うのも仕方ないぐらい似ている。

 そして何よりも俺の精神と肉体がどうしようもないぐらいにこの少女に惹かれてた。

 十代の頃に出会ってから二十年近くも共に過ごし、何十回何百回と抱いて六人も子供を産ませてるんだ。

 確かにこの少女はアンジェだという確信があった。

 

 一方、子供達は相変わらず球っころを夢中で奪い合ってる。

 何せ普段から行儀作法に口喧しいアンジェがこの有様だ、怖い母親が居なくなれば子供って奴は何処までも煩く暴れ回る。

 我が家の教育方針としちゃ体罰は基本的に禁止していた。

 俺とアンジェは子供達を信頼してるし過剰に叱って誤魔化しや自分より格下の相手を苛めるようになったら困るからな、あと単純に娘も多いから下手に体罰で傷が残ってもマズいし。

 

 子供ってのは雰囲気の変化に敏感な生き物だ。

 むしろ体が弱くて小さい頃ほど危険を察知してすぐ逃げる為に自分が居る群れの長が誰か、いろんな行為がどこまで許されるか本能で理解する。

 つまりバルトファルト伯爵家の長は俺なんだけど、真の支配者がアンジェだと感じてるって事だ。

 だけどアンジェが弱ってる状況になれば頼りない俺に従わなくてもお仕置きは無いと察したらしい。

 ガキんちょ共は指示に従わなくていいと考えて新しい玩具の球っころを弄り回してる。

 父親としての威厳が無くて子供達が言う事を聞いてくれない、少し向こうで泣いて来ても良いかなぁ?

 

「貴様ら、その態度は何だ」

 

   ――――  シ ~ ~ ~ ン  ――――

 

 一際音域が高い女の声が響く、するとさっきまでの喧騒が嘘のように静まり返った。

 相手を力尽くで従わせる怒声じゃない、理を説く知性と確固たる意志を備えた貴き者だけが発せられる声。

 こんな声を出せる女に俺の人生は振り回されてばかりだ。

 今も王都で政治の実権を握ってる前王妃様、神殿で祈りを捧げ民衆から崇められる聖女様。

 そして元レッドグレイブ公爵令嬢でバルトファルト伯爵夫人な俺の嫁。

 どうして俺の周りにはホルファート王国で敵に回しちゃいけない女三女傑様が集まってんだろ?

 怖過ぎて泣きたい。

 

 子供達も全員が息を押し殺して動きを止めた。

 どうやら本能的に少女が自分の母親だと察したらしい。

 それとも俺の臆病な部分が遺伝してるせいで、どれだけ足掻いても母親のアンジェには絶対に勝てないと刷り込まれてるのか?

 何か嫌だなぁ、それ。

 

「……本当に貴女はお母様なの?」

「さっきから何度も言っているだろうが。お前達はどんな理由があって私の言葉を素直に聞き届けないのだ」

「自分より年下の女の子を母親と同一人物だと認めろって方が無理よ」

 

 アリエルが臆す事無く真正面からアンジェに反論を始める。

 俺達の間に生まれた子供で共に過ごした期間が一番長いのが長男ライオネルと長女アリエルの二人だ。

 しかもアリエルはアンジェに叱られた回数が最も多い、主義主張が違う上にお互い気が強くて一歩も引かず諍いが長引くのはバルトファルト伯爵家お馴染みな光景で半ば名物扱いされている。

 別にアンジェとアリエルは心底憎み合ってるわけじゃない、互いに意識し合ってるからこそ意地の張り合いになっちまう似た者母娘。

 気難しいお年頃だから素直になれないだけだ、アリエルの本心はアンジェを母親として慕っている。

 

「そうやって私の言葉に耳を傾けないせいで後から慌てる事になるぞといつも忠告しているだろうが」

「……いや、その」

「勉強も淑女教育も生半可な状態が一番危うい。自分は本気を出せばすぐに習得できるなどと甘い考えを持つな」

「…………わ、私はやれば出来る子だもん!」

「あと数年もすれば否応無しに社交界のお披露目がある。それなのに貴様ときたら、今を楽しむ事ばかりに夢中になりおって。将来を真剣に考えているロクサーヌとメラニーを見習ったらどうだ」

「ちゃんと考えてるってばッ!」

「数日前に縁談をいくつか持ち込んでも写真を見ないまま逃げ出したな。拒否する理由があるなら言ってみろ。気になる殿方が居るなら考慮してやらん事もない」

「……今はそういう相手は居ないっていうか、世知辛い話は止めない?」

「よく『聖女様も未婚だ!』等と言い逃れしているが、彼女は特待生として王立学園の上級クラスに在籍していた。成績も常に主席かそれに準ずる優秀さだ、怠慢の理由にされるなど勤勉で聡明な聖女殿にとっては一番の屈辱だろうな」

「ぐ、ぐぅ……」

「文句が言えないのなら言えるだけの実績を出せ、それなら考慮してやらん事もない。今のままなら小遣いの増額は認めん、寧ろ減らして勉学のみに集中させる」

「わかった!わかったわよ!確かにこの問い詰め方はお母様だわ!」

 

 情け容赦ないこの毒舌は間違いなくアンジェだ。

 むしろ子供の体になり、母親として振る舞わなくなったせいか手心を加えないままアリエルを完膚無きまで叩き潰た。

 これと同じ事を俺がやられたら泣く、部屋に戻ってベッドに突っ伏したまま泣き声を出し続けるぞ。

 ほら、子供達も完全にビビっちまってるじゃん。

 怖がってないのは状況を把握してないディランだけだ。

 

「リーア、貴様も同様だ。聞けば軍学校に入学したいから勉学はしなくていい等と嘯いているらしいな」

「俺は姉上と違って自分の将来を考えてるよ」

「あたしを引き合いにしないで!」

「軍人として功績を挙げた父親に憧れる気持ちは分からんでもない。だがリオンは幼少期にろくな教育を受けられなかった叙爵されてから随分と苦労したのだ。リオンが領主として最低限の振る舞いが出来るまで私がどれだけ苦労させられた事か、口で言い表せるものではない」

「そこまで言わなくても良いじゃん……」

 

 リーアへの説教が俺の方にまで飛び火するのは勘弁して欲しい。

 だって読み書き計算は習ってたけど、貧乏貴族だったバルトファルト男爵家には三男にまで十分な貴族教育できる余裕が無かったんだよ。

 バルトファルト領の経営が軌道に乗るまでの期間、ずっとアンジェが付きっきりで勉強を教えてくれたけどもう二度と受けたくない。

 アンジェは自分が淑女教育に加えて次期王妃としての指導も難なく熟せるほど優秀だから頭が悪い奴の気持ちが分からないんだ。

 そのくせ限界の見極めが上手いせいで教える相手が音を上げるギリギリを攻めてくるんだ。

 勉強嫌いなアリエルとリーアが何かと理由を付けて逃げ出す気持ちは俺にもよく分かる。

 

「私とリオンの子供全員には軍学校ではなく王立学園に入学してもらう、これは決定事項だ。少なくても高位貴族の令息令嬢として問題無い立ち振る舞いが出来るようにしてもらう。それが嫌なら幼いリオンのように家を頼らず独力で身を立てる程度の気概を見せろ」

「母上、いくら何でも横暴です」

「軍人は好き勝手に暴れるだけの無法者に勤まらん。リオンは少々卑屈ではあるが謹厳実直な男だ。相応に苦労を重ねたからこそ今の地位を得ている。領主の息子だからと両軍に特別扱いされた貴様と根本的に状況が異なる」

 

 アンジェの言ってる事は正論だから質が悪い。

 人間は感情で判断が鈍る生き物だ、そして正論いう奴はその指摘が正しければ正しいほど人を怒らせる。

 正論が正しいなんて大半の奴は理解してる、理解してるからこそ反論は難しい。

 でも正論を口にする奴は矛盾だらけの人間で、大抵の場合は相手を一方的に黙らせたいから正論を持ち出す。

 自分は間違ってない、正しい行いは否定されるべきじゃない、世の中は悪人だらけで汚れてる。

 そんな事を言う奴はいつの時代もどこの国でも嫌われる。

 たぶん婚約破棄されたのもアンジェのそんな部分が原因だろう。

 出会った頃のアンジェは今と比べてかなりキツい性格で、二十年近く連れ添った夫婦になった今だからこそ言葉の裏にある真意を正しく受け取れるようになれた。

 

「ロクサーヌは社交的なのは結構だが流行を追い求め過ぎる、己の芯となる価値観を持たなければどれだけ外側を取り繕っても焦燥は無くならんぞ」

「……ッ」

「逆にメラニーは興味の対象が些か偏重だな、他の価値観を持つ為に人と関わる機会を増やせ」

「え~~……」

 

 容赦ないよ、俺の嫁。

 外見だけなら同じ年頃の娘を一方的に説教かましてる、これ普段から溜め込んでた不満なんだろうなぁ。

 この場にいる家族の殆どがアンジェの言葉に反論する気が失せてた、下手に突っ込んだら倍返しされそうだし。

 唯一の例外はまだ判断力が育ってないディランだけ。

 アンジェにめちゃくちゃ凹まされた兄姉に興味を持たずに球っころを相変わらず弄ってた。

 

「ディラン」

「はい!」

 

 小さなアンジェに名前を呼ばれたディランは元気良く返事をした。

 

(ニコニコと笑ってる末っ子にまで文句を言うのか?)

 

 アンジェとディランを除いたこの場の全員がそんな事を思いながら二人を眺めてる。

 下手に庇えばアンジェに何を言われるか分からず戦々恐々と会話の流れを見守る事しか出来ない。

 俺の臆病な部分が子供達全員に遺伝してるのがはっきり分かって少し落ち込んだ。

 流石にアンジェも十歳にもならない末っ子を泣かせるような言葉を吐くような真似はしないだろう。

 でもアンジェだからなぁ、出会った頃よりも言動がキツいんだもん。

 

「今すぐロストアイテム(それ)を離しなさい」

「えぇ~~?」

「これからみんなで話し合います、貴方がずっと弄ってたら皆が困ってしますよ」

「うぅ~っ」

「ディランは良い子だから皆が困る事はしないでしょう?」

「…………」

 

 渋々と球っころを手放すディラン、二度と捕まるもんかと言わんばかりに球っころは宙に浮いて部屋の隅にいどうした。

 うちの子供達に玩具にされたのがそんなに嫌だったのか。

 素直に従ったディランだけど不満げな表情は相変わらずだ、そんな息子を慰めるようにアンジェが優しく頭を撫でると表情が徐々に和らいでいく。

 その光景に皆が安心した、確かにアンジェの言動はキツいけど優しさまで失った訳じゃない。

 子供達への言葉も将来を心配したからこそ出た説教だ、異常事態だからこそつい本音が出ちまったんだろう。

 体が子供に戻ったのなら誰だって混乱する、今の記憶と昔の体で齟齬が起きて当然だ。

 

 安心してゆっくりソファーに背を預けると太腿辺りに重みを感じた。

 顔を上げると隣に座っていたはずのアンジェが今度は俺の膝に乗ってる。

 重さは大したもんじゃない、問題は今のアンジェがやたらと俺の側から離れない事だ。

 少なくとも普段なら子供達の前でこうも肌を押し付けるような真似は控えて、逆に俺を戒める側なのに。

 

「アンジェ」

「何だリオン」

「どいてくんない?」

「断ると先程も言っただろう」

「頼むってば、子供達に見られて恥ずかしいだろ」

「今の私は身も心も不安定なんだぞ。積極的に労わるのが夫であるリオンの務めだ」

「……そういうもんのか」

「具体的にはディランを説得した私を褒め讃えろ、そして愛情を込めて頭を撫でろ」

「……分かったよ。アンジェは偉いな」

「うむ」

 

 取りあえず褒めた後に優しく頭を撫でてやる。

 普段から手入れを怠らないアンジェの金髪は肌触りが最高だけど、若返った今はそれ以上だ。

 上質のタオルの何倍もスベスベしていて、撫でてる俺の掌の方が気持ち良くなってるような気がする。

 頬を赤く染めて満足そうな顔をしてるアンジェの顔がひどく艶めかしい。

 少女の幼さと大人の知性を秘めた美少女を愛撫してるように妙な気分になりそうだ。

 

「……父上」

「おう」

 

 横から声をかけられた、たぶん長男のライオネルだ

 振り向くと半開きな瞼の奥にある瞳から冷たい視線が注がれてた。

 その視線は何だよ、俺が一体何したって言うんだよ。

 

「お控えください父上」

「だから何だって言うんだよ」

「みんなの前で夫婦だけの世界に入り浸らないでください。しかも母上はこの姿ですよ」

「やれって言ったのはアンジェだぞ」

「年端もいかない少女を愛でる中年という凄まじく退廃的な光景です」

「そこまで言うか!?」

 

 突然息子からひどい罵声を受けた。

 別に幼いアンジェに欲情はしてないだろ、ちょっと倒錯的な気分だったけど。

 周囲を見渡すとディランを除いた子供達全員が俺とアンジェを咎めるような視線を送ってる、ちなみにアンジェは気付かないままだ。

 

「流石にこれはどうかと思います」

「だから、お前らの思い過ごしだって」

「いや、どう見てもおかしいでしょ」

「お前らが色気づいたからそう見えてるだけだぞ」

「怪しい中年が幼女に迫ってる、官警に通報されてもおかしくない」

「そこまで言うか!?」

「お父様が今のお母様を見つめる視線は幼女性愛者のそれですわ」

「違っ、幼女なら誰でも良い訳じゃない!俺が惚れてるのはアンジェだけだ!」

「つまりお母様に似てる私達も危険ですね。しばらく私達に近付かないでください」

「お前らァ!!」

 

 子供達から変態扱いされた、泣きたい。

 これも全部あの遺跡が悪い、アンジェを元通りにしたら絶対に叩き壊してやる。




ロリコン扱いされるバルトファルト伯爵(3●歳)。
巨乳好きなリオンですが原作のエルフの里長の占いで運命の相手はマリエやヘルトルーデの可能性が高いのでツルペタに目覚める可能性も…。
ややギャグ調な今章は予想外に話が伸びたので分割しました。
次章は真剣な話の予定です。

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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