婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです 作:品☆美
球っころが小っちゃなアンジェの周囲を飛び回ってる。
真っ赤な瞳みたいな部分から光を放って頭頂から爪先まで何度も何度も入念に。
十二の瞳はどんな原理か知らないが機翼や推進機も無く浮かんで室内を飛ぶ球っころに夢中だ。
子供を黙らせるには夢中になれる玩具か菓子を与えるのが一番だけど、目の前で浮かんでるそいつは飛行船や鎧の模型みたいな可愛いもんじゃない。
たった一隻でホルファート王国どころかこの世界を滅ぼしかねない旧人類が造った超兵器。
こんな奴に関わったら命が幾つあっても足りないぞ、本当ならアンジェにだって球っころの存在を明かしたくなかった。
到底扱えきれない強大な力を一人で抱え込めなくて賢い嫁に相談した小心者な上に、こんな事件の捜査に家族を偽装工作として巻き込むバカな俺が悪い。
だけど後悔するのは全てが片付いた後だ、悩んで行動が遅れたらそれこそ取り返しがつかなくなる。
何を為すにも必要なのは正確な情報と早めの決断、凡庸な俺が今もこうして生き延び貴族になれたのは結局そこんに尽きる。
その場その場を凌ぐだけで精一杯な俺にホルファート王国の未来やこの世界の存亡なんか担えるかよ。
愛する妻と子供達を護りきるのが精々だ。
『スキャン完了、調査結果が出ました』
「どうだった?」
『遺伝情報・声紋・指紋・虹彩の全てが私に記録されているアンジェリカ・フォウ・バルトファルトと一致しています』
「……はぁ、良かった」
思わず溜め息が漏れた、
いくら目の前の少女を直感でアンジェだと確信してもそれに縋り過ぎるのも危険だ。
身内を疑う事ほど嫌なもんは無いが、身内を信用し過ぎて破滅した奴は歴史上の偉人だけじゃない。
俺だって戦時中に肩書だけは立派な上官達に裏切られたし、仲間だと思ってた友軍が敵と内通してた事は数えきれなかった。
その点に関しちゃ球っころは都合が良い、何しろこいつにとっちゃ玉座に座る王様も飢えた貧民も同じ新人類で大差ない。
感情を挟まずに冷酷冷徹な判断を下すには適任だ、まぁ人の心を無視して苛立たせるような奴だけど今回だけは見逃してやろう。
「つまり姿形が変わってもアンジェ本人なのは間違いない訳だ」
『それはどうでしょう。遺伝情報が全て合致し記憶を保有してもオリジナルである確証があるとは証明できません』
「何でだよ、どう考えても疑う余地なんて無いだろ」
『旧人類の技術は貴方の想像以上です。彼女がクローンである可能性は捨てきれません』
「くろーん?」
『血液・毛髪・肉片から遺伝情報を取り出し培養した複製の呼称です。単なる偽者ではなくオリジナルを基にしているが故に調査で本人とクローンを識別するのは極めて困難かと』
「何が言いたい、私は私だ。間違いなくアンジェリカ・フォウ・バルトファルト本人だ!」
「ほら、アンジェの記憶がちゃんとあるって言ってるぞ」
『記憶は脳髄に蓄積された情報に過ぎません。オリジナルの記憶情報を何らかの手段を用いて移植や複製が可能ならばオリジナルの記憶を備えたクローンの創造も可能になります』
「何だよそれ、やりたい放題じゃねぇか」
『オリジナルと全く同じ記憶を持ち、オリジナルと全く同じ肉体を備えたクローン。それは最早オリジナルの同一体を言っても過言ではないと私は考えます』
「なっ…!?」
『改めて問います、貴女は何を以てアンジェリカ・フォウ・バルトファルトだと言い張れるのでしょうか?』
「…………ッ」
『貴方は自分こそアンジェリカ本人だと主張していますがそれを証明できる物は何もありません。移植された記憶でそのように信じ込んでいるだけなのでは?』
相変わらず人を嫌な気分にさせる言い方が得意な球っころだ。
つまりお前はこう言いたい訳か?
目の前の小っちゃな少女は自分をアンジェだと思い込んだ偽者で、アンジェ本人は今も遺跡の中で囚われてると。
十年以上も球っころと行動を共にしてロストアイテムに関する知識をある程度は教わったが詳しい部分までは持っていない。
だから球っころがどれだけ冷酷な意見を告げるとそっちに心がどうしても傾いてしまう。
もし少女がアンジェじゃなかったら? 本物は何処に居るんだ?
考えれば考える程に小心な俺は最悪の事態を想定してしまう。
「リオン……」
顔を上げると紅い瞳が不安そうに俺を見つめてきた。
小さな少女は必死に何かを訴えかけようとしてるが上手く言葉に出来ないのか口を動かすだけで声は出ない。
俺が知ってるアンジェと似通った姿を見ていると少しずつ愛おしさが湧いてくる。
手を伸ばし軽く頭を撫でてやると最初は戸惑っていたけど次第に心地良さそうな表情を浮かべ、ついには『もっと撫でろ』と言うみたいに自分から頭を擦り付けた。
夫婦共有の寝室でアンジェがよく強請る仕草で、気難しいくせに甘えん坊な育ちが良い猫を思わせる。
こんなアンジェの姿を知ってるのは世界で俺一人しか居ない、その事実に何とも言えない戸惑いと嬉しさが込み上げた。
何か足りない頭でぐだぐだ悩んでた俺がバカみたいに思えてくる。
まず優先するべきはアンジェの不安を取り除いてやる事だ、そう考えて何度も頭を撫でてやるとアンジェの顔が少しずつ緩んで行く。
「……父上」
「何だ?」
「母上と仲睦まじいのは結構ですが時と場所を考えましょう。そうやってすぐに母上と二人だけの世界に没入するから僕らは辟易するんですよ」
何でうちの子供達はこうも俺達夫婦に辛辣なのか。
俺とアンジェの夫婦仲が良いからお前らが生まれたんだぞ、もうちょっと感謝しても良いだろうが。
不満を漏らしたいが敢えてこの場は黙っておこう、父子喧嘩になったらそれこそ時間を無駄に浪費する。
『可能性としてこのアンジェリカがクローンである可能性は著しく低いという結論になりますね。アンジェリカが遺跡内部から貴方に救出されるまで僅か数時間、ここまで精巧なクローンを培養可能な旧人類の技術は私の記録には存在していません』
「だったら脅かすなよ……」
『先程の結論はあくまでも私が知る情報に基づいて導き出された物に過ぎません。旧人類があの遺跡をどのような目的で建造し、何時から稼働していたかによって異なった結論になりますので』
「同じ旧人類が造ったんだからその辺りの情報を持ってないのか?」
『私の機能は移民船です。対して遺跡に関する情報から何らかの生体実験施設、若しくは生産工場だと推察されます。我々は目的に応じた機能に特化した反面、別の目的で建造された旧人類の施設に関し情報共有が足りていなかった事が悔やまれます』
そういうもんか。
まぁ、軍隊やら役所なんかも同じ場所で働いていても、部署が違えば相手の顔を知ってても名前も知らず会話すらしないとかよくある事だ。
数千年だか数万年だかを朽ち果てた遺跡から外出すらしてない球っころの情報がどれだけ正確かも怪しい。
辛うじて分かるのはあの遺跡は人間や他の生き物を改造してモンスターとは違う恐ろしい生物を生み出してるって事ぐらいか。
世界滅ぼす飛行船に怪物を作り出す施設、旧人類ってのは悪魔の化身に違いない。
だから滅びたんじゃないのか、これを言ったら球っころが絶対に怒るから口にしないけど。
「球っころ、お前ならアンジェを元通りに出来ないのか?」
『先程も説明した通りです。私の本分はあくまでも移民船であり、医療行為も可能ですが外傷や疾患の治療が限界になります。成人女性を若返らせる、自然界に存在しない生物の創造は専門外な上に機能が足りていません』
「エルフの里から脱出してお前にアンジェを治せれば話が楽に解決して良かったんだけどなぁ」
世の中そうそう美味い話は転がってないようだ。
既に遺跡で囚われていたアンジェの救出から半日以上が経過している。
家族の安全を第一に考えるなら救出した直後にうちの飛行船でこの浮島から脱出するのが最も手っ取り早い方法だ。
どうしてもそれが出来なかったのはアンジェの状態が分からなかったから。
子供になって眠り続けるアンジェを下手に動かして取り返しのつかなくなるのだけは絶対に回避しなきゃいけなかった。
目覚めるか分からないアンジェが起きたら今度は元通りの体になるかも不明ときてる。
こんな状況になると分かってたら王国と神殿の依頼なんて軽い気持ちで引き受けるもんじゃない。
「……飛行船の設備が足りてないのか、それとも知識の不足が問題か?」
『両方です。私が保有してる医療施設は生体改造や遺伝子操作に適していません』
「私をこの姿にした時の情報があればどうだ?」
『可能性はあります。尤も可能性の段階で確実とは言えませんが』
「その根拠は?」
『遺跡が貴女に施した処置に可逆性があるのか不明です』
「可逆性?」
アンジェが話に食いついて来たが俺にはよく分からない、小っちゃくなっても相変わらずアンジェは賢い。
うちの子供達は俺達の会話よりも球っころと幼いアンジェに夢中だ。
男子三人は宙に浮く金属の球っころ、女子三人は自分達の同年代になった母親を興味深そうに観察してる。
いや、メラニーだけは女子なのに球っころの方を向いてるな。
「えぇと、簡単に説明するとね。手元にある卵を使って料理したとするでしょ」
「うん、それで」
「卵を料理にする事は出来ても料理を卵に戻すのは無理じゃない。母上を小さくするのは出来ても元に戻せないかもしれない、ってボールさんは言いたいんだと思うの」
「分かりやすい説明ありがとな。おい球っころ、俺の娘の方が何倍も説明が上手いぞ」
『貴方の理解力が足りない事実が私の説明が難解である証明にはなりません。逆に幼い娘に劣る理解力を恥じるべきです』
「黙れ球っころ、バカにも分かりやすい説明を出来るのが良い教師だぞ。あとメラニーは賢いな、流石アンジェの娘だけはある」
「えへへ」
朗らかに笑うメラニーは少し得意げな表情を浮かべる。
メラニーは他の兄姉弟と比べると内向的だけどその代わり知識に対して貪欲で、土産で最も喜ぶのは菓子でも玩具でもなく書物だ。
以前のホルファート王国じゃ貴族令嬢に求められる知識は政治や社交に関わる物ばかりだった。
しかも女尊男卑政策の影響で『女は学ばずとも子を産むだけで勤めを果たしてる、男は女に傅けば良い』なんて風潮のせいで学問を探求する女は異端視されてたぐらいだ。
王国の価値観が変わったのはやっぱり聖女になったオリヴィア様の影響だ。
平民出身でありながら王立学園の特待生として迎えられ優秀な成績で首席になり、やがて戦争で活躍して多くの武功を挙げ、聖女に就任してからは政治外交でも活躍してる。
今のホルファート王国は優秀な女の活躍を奨励し、人材の登用にも積極的だ。
ほんの二十年前なら他の家に嫁いでも風変りな女として扱われたかもしれないけど、今ならメラニーが好きな進路が拓かれてる。
「でも若返ったなら特に問題無いでしょう?」
「若返る
『確かにアンジェリカは外見のみで判断すれば若返っているようにも見えます。ですが本当に若返ったのか、何らかの問題が今後発生しないのかという疑問は残ります』
「どう見てもお母様は私達と同じぐらいの年頃まで若返ってるじゃない」
『皮膚の皺や弛みを解消する整形手術は現在の技術水準でも十分に可能です。しかしあくまで若返ったように見せかけているに過ぎません。筋肉や内臓といった目に見えない部分は実年齢そのままあり、免疫や代謝などはアンチエイジングの影響で衰えている可能性さえあります』
「あんちえいじんぐ?」
「あの遺跡も同じ事を言っていた、長寿不老をそう呼ぶらしい」
どうやら遺跡が球っころと同類なのは疑いようがないみたいだ。
しかし外見だけ若くても中身は元のままの可能性か、確かに若い体でも内臓が年寄りだったら酒や煙草はキツいし体も上手く動かせないと思う。
ホルファート王国の王太后様は俺と同じ歳の息子を産んでるのにどう見ても四十代ぐらいの若さを保ってる恐ろしい妖女だけど。
中身がそのままで成長したらアンジェが元の姿にぐらいに成長した直後に寿命が来そうだな。
アンジェがずっと若々しい姿で生きたい、綺麗なまま棺に入りたいならそれで良いかもしれないけど。
『さらに付け加えるなら、もしも何らかの方法で細胞の固定化がされていた場合も考慮すべきです』
「また訳が分からん単語が出て来たな、今度はどんな情報で俺達を落ち込ませるつもりだ?」
『先程までの話はアンジェリカを元に戻せる、戻せないが時間の経過と共に加齢していく仮定した場合になります。ですがアンジェリカを時間経過に関係無くその姿のまま保つという、私の知らない未知の技術を用いて可能性は捨てきれません』
「……つまりアンジェは死ぬまでこの姿のままって事かよ」
『あくまで可能性の話です』
また嫌な情報を付け加えやがった、今度はアンジェが元に戻らなくなってる場合か。
アンジェがずっと子供のままならどうなるだろう?
親子ぐらいの年齢差がある貴族の夫婦は珍しいけど存在する、大抵は女の側がまだ子供の頃に婚約して成長した後に正式な婚姻する場合だ。
相手の成長が見込めるから結婚が成立できる、姿の変わらない子供を妻にしたら周囲から怪しまれる。
既に俺とアンジェには六人の子が居るからバルトファルト伯爵家の跡継ぎの心配は無いから安心、とはいかないだろうな。
子供の姿になって成長しないまま生き続けるアンジェの体を調べようとする奴は確実に出てくる。
聖女様なら庇ってくれそうだがロストアイテムの悪用を企む連中は何処にも存在する、それこそ神殿に関係する奴らの中さえ。
幼いアンジェを他人と一切関わらない生活を強いるのは無理があった。
バルトファルト領の統治が滞りなく行われてるのは政治力に長けたアンジェのお陰だ、そこまで考えたら背筋が寒くなる。
アンジェの為、子供達の為、バルトファルト領の為、そして何より俺自身の為に元に戻さなきゃいけない。
「でもずっと若いままって魅力的じゃない?」
「……ロクサーヌ、何を言い出すんだ」
「だって使い方さえ正しければ死ぬまで綺麗なままです。お母様は小さくても可愛らしいから問題ありません」
「お前は自分の母親がそれで良いのかよ」
「いけませんか?」
「あたしはお母様が小さいままなら怒られずに済むから賛成」
「僕は反対する、周囲の皆にこの状況をどう説明すれば良いんだよ」
「俺も嫌だ。確かに怒られる回数は減るけど自分より年下の母上は違うと思う」
「母上を元に戻すのは賛成、あと遺跡を調べたいな」
「や~だ~」
賛成が二人、反対が四人か。
お前ら、母親のアンジェがこんな状況なんだぞ。
アホな採決なんかしないで頼むからもっと焦ってくれ。
ロクサーヌは子供達で最も社交的だから若さとか可愛さが魅力的に見えるんだろ。
それとアリエル、どうしてお前はアンジェが元通りになるのが嫌な理由が母親に叱られたくない悪ガキの発想なんだ。
「ずっと子供の姿のままってのもつらいぞ。お前らだってアンジェがいつまで経っても子供だと違和感を覚えるさ」
「そうなのですか?」
「そういうもんだ、お前だって自分より若々しくて綺麗な母親と比べられるのが嫌になるぞ」
「お父様はお母様が一番というだけでしょう」
「当然だ。あぁ、別にロクサーヌが可愛くないとは言ってないからな」
「また惚気始めた…」
良いだろ、別に。
俺が妻子を愛してるのは事実だし、家族の為なら出来る限りの事はしてやる度胸に繋がってんだから。
しかし、これからどうすれば良いんだろう?
今のところは状況証拠でしか議論が進んでいない。
アンジェを救出から約半日、同行させてる部下達へ情報収集やらいろんな準備を進めさせてるが
「どっちにしろアンジェを元通りにする方法を探す必要がある。球っころ、意見を出せ」
『結局は私頼りですか、ですが今回は旧人類に関わる施設ですから喜んで協力しましょう。まず遺跡と再接触を行い、情報の取得をしないければアンジェリカの状態の把握と治療は行えなません』
「やっぱそうなるか、だけどそれはかなり難しいだろ」
『私だけで遺跡と接触する事も可能ですが』
「ダメだ、お前だけに任せたらどんな結果になるか想像も出来ないからな」
球っころと遺跡が意気投合して世界を滅ぼそうと考えたら本当に世界が終わりかねない。
遺跡とエルフの関係については分からないが、人間を敵視してるエルフと新人類を憎んでるロストアイテムの組み合わせも最悪だろう。
子供達の危険を考えたら飛行船で待機してるのが一番の安全策だがそれだけは出来そうにない。
正直、アンジェと子供達と別行動は心苦しいが球っころを放置する方が何倍も危険だ。
「遺跡にエルフ、こんな事なら領兵をもっと連れて来れば良かったな」
「ダンジョンには怪物だって出ました、父上は本気で再突入する気ですか?」
「やりたくなくてもやらなきゃいけないだろ、アンジェをこのままにはしておけないし」
「本当にこんな怪物がダンジョンに出たのかよ」
「リーア、現場に居なかった癖に私達を信用しないの」
「だって姉上、こんな生き物が実在するとか簡単に信じられないぞ」
「ライオネルお兄様の画力の問題では?」
「僕の絵が下手って言うのか」
怪物に遭遇したライオネルが描いた絵には奇妙な生物が描かれている。
蛇の胴体に人間の上半身が繋がり腕が何本も生えてるという、どう見ても自然に発生した生き物には思えない。
まだ幼いディランが悪夢で見たと言われた方がまだ信憑性があった。
そこそこ上手い画力が却って気味の悪さが増している、俺だってこんな生き物を見たと息子が言い出したら見間違いが熱が出たのかとまず疑う。
厄介なのはこれを描いたのがライオネルって事だ、冗談が苦手で真面目な長男が言い出してるからどうしても信用するしかない。
「これ、人の体が蛇みたいになったのかな?それとも逆に蛇の体が変化したの?」
『絵画のみで判断する事は困難ですが、体積の割合から爬虫類と思しき部分が多いので生態は蛇に近いと考えられます』
「でも食事はどうするんだろ?この巨体なら食べ物だって相当必要だよ」
『栄養補給の手段に関して口を用いない点滴等に近い方法を旧人類は確立しています。或いは製造されてから一回も食事をしない生態の可能性もあります』
「蛇みたいに獲物を丸呑みは出来ないよね、人を襲うのは狩りが目的じゃないの?」
『施設防衛の用途で想像されたと思われます。私が格納されている施設も警備用ロボットが稼働しています』
なんかメラニーが凄い勢いで球っころと話し合ってる。
ちょっと他の令嬢と好みが違うと思ってたけどここまでとは知らなかった。
その球っころに興味を持つのは止めなさい、この世界を滅亡させかねない超危険物だからそいつ。
子供達がまた騒ぎ出し始めた、こんな時に頼りになるのはアンジェなんだけど今は小っちゃくなってるから頼りに出来ない。
俺に父親としての威厳が足りないって事実は目を瞑る。
「リオン」
「……どうしたアンジェ?」
「眠い」
小っちゃいアンジェは何度も瞬きをして何処か意識が散漫になってた。
さっきまで寝てたのにまだ寝足りないのかよ。
体の不調か? 若しくは取り返し出来ない状況の前触れ?
『おそらく体の変化に伴う体力の消耗が原因と考えられます、疲労回復の為に睡眠を推奨します』
「他に何もしなくて良いのか?」
『現状では異常は感知できません、アンジェリカの精神的なケアは貴方にお任せします』
「丸投げすんなよ」
取り敢えずアンジェを寝かせる為に抱きかかえた。
両手で抱えるとあまりの軽さに驚く、普段のアンジェの半分以下の重さだ。
遺跡から戻る時は慌ててた気付かなかった、改めて抱きかかえた少女がアンジェだと思うと少し力を込めただけで壊れそうに感じてしまう。
厚みのある脂肪の柔らかくて確かな手触りを感じない、伝わってくるのは薄い脂肪の下にか弱い筋肉と細い骨の感触だけだ。
眠りに落ちかけてるアンジェをベッドに横たえて部屋を後にしようとすると服の袖を引っ張られた。
「どうしたアンジェ?何か欲しいのか」
「一緒に寝て」
「……いや、まだやる事が残ってるし子供達も心配だからさ」
「私の為にダンジョンへ向かうのに添い寝は出来ないと?」
「添い寝と探索を一緒にするなよ…」
「寝ろ」
「…分かった」
我が儘なお嬢様はご機嫌斜めのご様子だ、俺が頷くまで解放してくれそうにない。
仕方なくアンジェのすぐ隣に寝転ぶと満足そうに身を寄せて来る。
俺の知ってる幼いアンジェは写真で数回見ただけで、まさか実物に触れる日が来るとは想像もしなかった。
貴族の自覚が足りてない俺は乳母や教育係に任せないで子供達を寝かしつけたもんだが、目の前の少女がアンジェと思うと変な感慨が生まれてくる。
頬擦りや指で触ってみたくなるというか、妙な気持ちが湧いて人の道を踏み外しそうだ。
自分は性倒錯者じゃないと思ってたんだけどなぁ、これじゃ子供達に変態扱いされても仕方ない。
「リオン」
「まだ何かあんのか?」
「もし私が複製だったり、元の姿に戻らなかったらどうする?」
どうやら子供達の前じゃ気張ってたらしい、人目が無くなった途端に外見相応の子供らしい仕草で訊ねてくる。
不安が無いと言ったら嘘になる、こんな事態に巻き込まれると分かってたら家族を同行させるなんてバカな真似はしていなかった。
だけど後悔するのは後回しだ、現状で俺に出来る事をやる以外の道は残されてない。
取り敢えず今出来るのは小っちゃいアンジェの不安を取り除く事だろう。
「安心しろ、アンジェが複製でも本物と一緒にきちんと愛してやるから」
「それではリオンの愛情が半分になるではないか」
「じゃあ二倍愛せば問題無いな」
「元に戻らなかったらどうする?老いない少女を娶っているなど周囲から好事家と思われかねんぞ」
「俺の評判はどうでもいいよ。アンジェと離婚するつもりも無い」
「本当か?」
「本当だよ」
「本当に本物か?」
「信じろって」
「そうか、安心した」
俺の答えに満足したのか、アンジェが目を閉じるとすぐに寝息を立て始めた。
柔らかそうな頬を何回も突いて確認した後に体が冷えないよう布団を掻けてやる。
正直どうなるかは俺にも分からない、球っころと遺跡がどんな反応をするのかさえ予想不可能だ。
それでも家族を護らなきゃいけないのが夫と父親の務めだ。
この事件が終わったら当分の間は王都に行かないぞ、必要経費と消耗品の請求も王家にしてやろう。
アンジェの寝顔を眺めながらどうにか怒りを抑えるのに随分と時間がかかった。
今章の挿絵は依頼主様からうにたる様のリクエストして頂いた絵を使用しています、ありがとうございました。(https://www.pixiv.net/artworks/129037384
小っちゃいアンジェを元に戻す為にバルトファルト家の奮闘が始まります。
次章からは本格的な作戦行動開始、エルフの里はどうなるのか?
追記:依頼主様のリクエストにより百日夢様、SH339様、ピザシー様、オスワーニ様にイラストを描いていただきました、本当にありがとうございます。
百日夢様 https://www.pixiv.net/artworks/129776759(肌色多め注意
SH339様 https://www.pixiv.net/artworks/129855449(成人向け注意
ピザシー様 https://www.pixiv.net/artworks/129867630
オスワーニ様 https://www.pixiv.net/artworks/129919822(成人向け注意
ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。