婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

146 / 174
第144章 Interrogate

 背中に担いだエルフの体が重くて額に汗が噴き出す。

 距離自体はどうにか担げる程度だけど、手足を縛られ弛緩した体を運ぶのは熟練した軍人でもかなり難しい。

 やや痩せた成人を六回も運ぶのは空港で働く労働者でも嫌がる重労働だ、ようやく仕事を終えた時にはだいぶ息が乱れてた。

 一部屋に集められたエルフは全部で十人、全員が何らかの怪我を負って無傷の奴は一人も居ない。

 いくら球っころの透明化があっても不意打ちでエルフ十人を倒すのは骨が折れる。

 殺しても良いなら話はもっと簡単で済むけど、後々を考えれば出来る限り犠牲者を出さない方が良いだろう。

 

 しかし疲れた、本当は急いだ方が良いのは分かってるが呼吸が整えて汗が引くまで少し休む。

 王国軍に所属していた十代の俺だったら、武器や食料を詰め込み子供一人分と同じ重さの背嚢を担いでも余力を持って行軍訓練を熟せたのに。

 三十代の今は大人一人を担いで部屋を六往復するだけで息が切れる。

 加齢による衰えも確かにあるけど、この数年間は事務仕事と会談が多くてバルトファルト領軍の訓練や菜園の鋤き起しをろくにやってない。

 王都の連中や球っころに協力して任務を熟す事もあるが、ついつい球っころが持ってるロストアイテムの力に頼り切ってた。

 この任務が終わったら領主の仕事を熟しながら体力作りに励もう、脂肪で丸くなった体をアンジェや子供達に見られて嫌われたくない。

 

 とりあえず用意してあったロープをエルフ達に巻き付け始める。

 既に手足を縛られた賊共は身を必死に捩るけど、碌な抵抗も出来ないまま全員に巻き付け終わるまで大した時間は経たない。

 巻きつけが終わったらある物を取り出しロープへ引っ掛ける、これで準備は完了だ。

 全てが終わり立ち上がって見下ろすとまだ戦意が折れていないエルフ数人が俺を睨みつけてくる。

 どうしてこう、犯罪に手を染める奴は明らかに『悪いのは相手の方だ』『自分は悪くない』って考えが露骨に分かる表情をするんだろうね?

 反省の意を見せてくれるんならこっちも多少の手加減は出来るのに。

 まぁいいさ、そっちがそう思ってるなら俺も好きな様にやらせてもらうからな。

 

「さて。貴族の寝込みを襲う不埒な犯罪者エルフの諸君、ご機嫌いかがかな?」

「………………」

「初対面の相手に挨拶もできないとは育ちが知れるなぁ。まぁいいさ、自己紹介だ。私はリオン・フォウ・バルトファルト。ホルファート王家から伯爵位と領地を賜った貴族だ」

「…………」

「或いはこっちの通り名の方なら聞き覚えがあるか、元ファンオース公国領や他の国からは外道騎士なんて蔑称で知られてるな」

「……ッ」

 

 何人かが外道騎士の名前を聞いて瞬きしたり細長い耳を動かした。

 どうやら俺の悪名は人間をナメてるエルフ達にもそこそこ知れ渡ってるらしい。

 普段はいい気がしない悪名でも使いようになっては有効な武器になる、少なくとも相手をビビらせるにはうってつけだ。

 

「エルフとは美麗衆目にして温厚篤実な種族と聞いていたのだがね、どうやら噂とは違う生き物らしい。宿に侵入して貴族を襲う盗賊にまで零落れているとはな」

「…………」

 

 わざとらしいぐらい慇懃無礼な貴族の身振り手振りをしつつエルフを挑発する、高慢な手合いにはこれが一番効くやり方だ。

 特にエルフ達は戦前までホルファート王国の貴族に専属使用人として仕えていたけど、大半の奴らは内心で雇い主を嘲っていたらしい。

 そんな過去を思い出させるように如何にも相手をバカにするような物言いをして心を掻き乱す。

 尋問ってのは相手を動揺させて感情と言葉を吐き出させる事が出来れば後はどんどん情報を聞き出せる。

 

「先に言っておく、こちらは既にこのエルフの里の内情を把握してる。この外道騎士に誤魔化しが通じると思わない方が身の為だぞ」

「…………」

「沈黙は肯定と見做すからな、素直に吐けば無駄に傷付かずに済む。長く苦しみたいならそれも構わんが」

「……ッ」

「あぁ、ちなみに君達の首にぶら下がった物が何か確認したまえ」

 

 互いを見る事を促すと明らかに不本意な顔でエルフ達が互いを見る。

 犬の首輪みたいに巻き付けられたロープ、それにぶら下がる装飾のような金属製の筒。

 大きさとしては掌に納まる程度、合計十個の金属筒が部屋の照明に照らされて鈍い光を反射して目に痛い。

 これが何なのか、戦争に参加しなかったエルフには見覚えが無い代物だろう。

 

「諸君らの首にぶら下がってる物は小型の手榴弾だ。大きさから火薬の量は大した事はない、爆発しても精々が人間の体を欠損させる程度の威力だから安心しろ」

「なッ!?」

「あぁ、下手に動かない方が良いぞ。安全ピンが抜けたら十秒もしないうちのドカ~ンっと爆発だ」

「ひぃっ!」

「だが、私もこの部屋を卑しい盗人の血肉で汚したくないな。諸君らの穢らわしい血液など床に敷かれている絨毯の価値を下げるだけ、たった一ディル程度の価格にもならない」

「き、貴様ぁ!」

「無駄な手間暇を私にかけさせないで欲しいのだが。無駄に長いだけで薄汚いエルフの寿命など高貴なホルファート王国貴族の数秒に値しない価値だと理解しているのかね?」

 

 最初の脅しと挑発は成功したらしい、軍属のエルフがホルファート王国にほぼ居ない事も功を奏した。

 ちなみに首にぶら下げてるのは手榴弾じゃなくて非殺傷性の閃光弾や音響弾の類だ。

 仮に安全ピンが抜けても死ぬ事はまずありえない、まぁ死にはしないけど目が潰れたり鼓膜が破れるのはご愛敬だけど。

 それを知らないエルフ達にとっちゃ爆弾を首にぶら下げられて真っ当な判断はほぼ不可能な状況だ。

 これからひたすら脅迫と懐柔を繰り返して情報を引き出す。 

 

 挑発を続けるほど相手の判断力は鈍く落ちていく。

 尋問は事前に相手の不安や怒りを煽ったり、飢えや渇きや不眠みたいな状態に持ち込むと上手く情報を引き出せる確立が上がる。

 恐怖と痛みを使った拷問もかあんり効果的だけど取り扱いが難しい、拷問して情報を聞き出せなくなったら本末転倒だから気を付けないと。

 既にエルフ達を叩きのめした後で肉が抉れ骨が折れた奴も居た、尋問の前に死なれたら困るんでさっさと終わらせたら次の作業へ移らないと予定が狂う。

 

『提案します』

「……何だよ?」

『このような尋問形式は非効率です。早急な方法を使った方がよろしいかと』

「具体的には?」

『電撃、或いは熱線を使用します』

「止めろ」

『非殺傷ですから問題ありません』

「大有りだバカ野郎」

 

 以前に何度か球っころが進言した時に試しにやらせたら酷い状況になったのを思い出す。

 電撃で気絶させた捕虜は舌が痺れて情報を聞き出せず、熱線は髪や髭どころか皮膚や肉まで焦がした。

 こいつは加減を知らない、というか新人類に対する鬱憤を捕虜にぶつけてる気配さえ感じてる。

 相手をどうやって上手く肉体を痛めつけ心を折れるかを判別できない奴は尋問係に相応しくない。

 拷問を愉しむ輩はすぐ言い訳をして無駄に他人を苦しめる事に腐心する、任務より自分を優先する奴は下手をすると情報を独占する可能性も出てくるからだ。

 

 透明化してる球っころに返事をしたら数人のエルフが俺に訝しげな視線を送って来やがった。

 傍から見りゃ俺がも無い宙に向かってブツブツ独り言を繰り返してるように見える。

 こうやって頭がイカレた拷問好きの外道騎士なんて悪名が世間に広がるんだよ、ちくしょう。

 まぁ、捕虜の虐待は好きじゃないけど情報収集の為に痛めつけるのは真っ当に見える軍隊でも裏では常習化してる行為だ。

 これも仕事と割り切った方が精神が擦り減らずに済む、難義な生き方だよ本当に。

 

「逆らう事無く私の質問に答えてくれたまえ。エルフの諸君もこれ以上は痛い目を見たくないだろう」

「…………」

「では問いかけよう、君達は何の目的で私達を襲ったのかね?」

「…………」

 

 エルフ達が口を閉じて顔を背ける、全員じゃないのは負傷で意識が朦朧としてる奴も居るからだ。

 口を割らないのはエルフとして誇りか、仲間を裏切らないという覚悟か、それとも人間の俺を侮ってるからか。

 たぶんその全部が当てはまるんだろうな、おそらく戦闘では戦闘では負けたけど心までは屈しないと考えてる。

 その決意がどれほどの物か見せてもらいましょうか。

 

「そこの君、私達を襲った目的は何か教えてくれないか?」

「…………」

 

 とりあえず近くで座っていた一番気が強そうなエルフに問いかけてみる。

 あからさまに敵意を剥き出しにして口を噤む、顔を背けて俺を見るのも嫌だと言わんばかりだ。

 そんな態度を採れるってのは体の怪我が少ない証明だ、体力と気力は密接に関係してるから体力が消耗し上や渇きに苦しむ捕虜は簡単に口を割る。

 尋問は時間をかけてやるもんだけど今回は時間が足りない。

 だから手っ取り早い方法でいかせてもらうぞ。

 

「その無駄に長い耳は飾りかね?それとも言葉が通じないと?やはりエルフという種族は見た目だけ麗しい禽獣の類らしいな」

「なんだとッ!?」

「おや、どうやら言葉を理解する程度の知性と同族が侮辱されて怒るだけの感情を持ち合わせているようだね」

「黙れ!!」

「問いかけてるのは私だ、早く質問の答えたまえ」

「うるさい!地獄へ落ちろ!」

 

 キレたエルフは唾を撒き散らしながら俺に罵声を浴びせる。

 まだ元気が残ってるエルフ達もニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて俺達を眺めていた。

 逆に怪我が重いエルフは不安げな表情だ、中には意識が朦朧としてるのか目の焦点が合わず状況判断もままならない奴も見える。

 良いね、実に良い。

 こうやって露骨に反抗的な態度を見せられると容赦する気持ちも失せてくる。

 今回は俺のやりたいようにやらせてもらう、後で聖女様に怒られようと知った事か。

 この件に関しては俺が任されてる、犠牲者を出さない種族同士の和解なんて善人同士でやってくれ。

 

 暴言を吐いたエルフの首に引っ掛けられた縄を解いて閃光弾を回収、そのまま縛られた体を担ぎ上げて浴室へ向かう。

 浴槽や手桶に水は張ってない、拷問に水責めはよく使われるけど時間がかかる上に加減も難しい。

 なのでここは最短の方法でやらせてもらおうか。

 乱暴にエルフを浴槽に投げ入れる、口煩く罵ってるが反応する気も無いから無視。

 懐から取り出したのは愛用してる大型の拳銃、携帯性は最悪で扱いも難しいけどその代わり威力はライフルにも匹敵する。

 空っぽの弾倉に特製の弾を装填し終えてから安全装置を外す、淀みない滑らかな俺の動作を見たエルフは漸く顔色を変えた。

 

「ま、待てッ!何だそれは!?」

お前達(エルフ)は拳銃も知らないのか?」

「違うっ!それでいったい何をするつもりだッ!?」

「殺しの道具を何に使われるかなんて分かりきってるだろ」

「頼む!止めてくれぇ!」

「その殊勝な態度をもう少し早く出しておくべきだったな」

「分かった!すまない!知ってる事を全て話す!」

「あと九人も居る、別に情報を吐かせる相手はお前じゃなくてかまわない」

「まッ…!」

 

タ゛ン゛ッ゛!

 タ゛ン゛ッ゛!

  ト゛ォ゛ン゛ッ゛!

 

 浴槽に銃声が鳴り響き火薬の匂いが充満する。

 発射された三発の弾丸は全てエルフの胸に命中、だけど血は一滴も流れていない。

 そりゃそうだ、何せ使用した銃弾は全て暴徒鎮圧用に作られた特殊加工の樹脂弾なんだから。

 どうしても相手を殺したくない、死人が出たらマズい状況の為に樹脂を弾頭にする方法は昔からあった。

 尤も火薬や薬莢は俺が使ってる大口径の拳銃に合わせてるせいで、あくまで死ぬ可能性が極端に低い程度に留まってる。

 着弾したら簡単に骨を折れるし、当たり所が悪ければ相手を殺してしまう。

 ただ胴体に当たればほぼ確実に衝撃と痛み相手を失神させ無力化が可能で、エルフ達の心を折るのが目的な今回の場合はこれが最適解だ。

 

 被弾したエルフは呻き声を出せずに気絶してる、喉元と口元に指を当てて呼吸と脈を確認して生存を確認。

 手足を縛ったまま浴槽に放置して部屋に戻ったら、エルフ達の顔は真っ青に変わっていた。

 ここから少し態度を変える、貴族の紳士的な振る舞いは是にて終了だ。

 エルフ達の動揺と恐怖を支配して情報を引き出す、その後にいろいろと調べる事があるから時間はあんまり残ってない。

 

「なっ、何をしたッ!?」

「聞き分けが無いから撃った、それだけだ」

「はぁ!?」

「別に構わんだろ、エルフはあと九人もいるんだから一人ぐらい殺しても大して変わらん」

「ほ、本気か貴様!」

「本気じゃなきゃこんな事は出来ないだろ」

「がァ!!?」

 

 そう言ってから握ってる拳銃の銃口をエルフの脚に押しつけるとエルフが身悶えした。

 弾丸を発射した時に発生した熱はまだ銃身に籠っている、火傷する程じゃないけど恐怖は痛みや熱を増幅するから実際の温度より熱く感じるはずだ。

 恐怖に顔を歪ませるエルフの恐怖を更に煽るように腰の後ろに留めてあった物を取り出す。

 分厚い革製の鞘に収まっているのは慣れ親しんだ手触りの大型ナイフ、通常の倍以上の厚さと長さを持ち俺の掌に合うよう作られた特注品だ。

 ナイフじゃなくて小剣に匹敵するそれは鉈と重さと剃刀の鋭さを併せ持ち、人間の手足を難無く切り落とし刺突剣ぐらいなら簡単にへし折れる。

 錆止めの油を塗られ丁寧に研がれた刃は手入れが行き届いて錆も刃毀れも見当たらない。

 命を奪う凶器は機能に徹した美しさが持つ物だ、育ちのせいで美術品の良し悪しは分からなくても武器の優劣ははっきりと分かる。

 視界に入ったさっきまで椅子だった木材を手に取り軽くナイフを当てると吸い込まれるような切れ味で手応えも無く二つに斬り裂かれた。

 それを見たエルフ達のは顔は青を通り越して白くなってる。

 

「じゃあ、また質問するから今度は素直に答えろ。拒否するならこの中の誰かが体の一部を失う事になる」

「ひいいィ!」

「鼻と舌は一つだけど目と耳は二つずつ、腕と足も二本、指は合計で二十本だ。それが九倍ともなりゃ全て斬り落とすまで時間がかかりそうだな」

「止めろぉ!止めてくれェ!」

「欠けた体で長い一生を過ごすのは随分とつらいだろうな。それを嘲笑いながら人間の俺はエルフよりも短い寿命で死ぬが、俺がこの世を去った後も延々と苦しむお前らには心の底から同情するよ」

 

 さっきと似非貴族じみた言葉遣いから普段の口調に戻す、この方が俺が本気だと相手が思い込むからな。

 敏感に俺が纏う雰囲気が変わった事に気付いたエルフ達は大量の汗を流し始めた。

 エルフは顔の美醜に拘らず魔力が判断基準の種族って話だがそれでも限度ってもんが存在する。

 貴族になった名誉の戦傷と讃えられる顔の傷でさえ醜いと裏で陰口を叩かれるのが世の常ってもんだ。

 劣ってる人間に傷付けられて体の一部が欠損した奴がどう扱われるか、一人息子が聖女様の側近と仕えてるユメリアさんですらエルフ達に冷遇されてるんだ。

 こいつらの未来は相当暗くなるだろうな。

 

「分かったぁ!話すッ!話すから止めてくれ!」

「頼む!命だけはぁ!」

「俺達は頼まれただけなんだッ!本気であんたを襲おうとした訳じゃない!」

 

 何とも変わり身が早い事で、信念とか誇りとか良識が無いのかよお前ら。

 ここまで情けないとこれ以上追い詰めるのは流石に気が引ける、気が引けるだけで手加減するつもりは全く無いんだが。

 とりあえず一番元気そうなエルフに近寄って首筋にナイフを当てた。

 

「あぁッ!?」

「話を聞くからぎゃあぎゃあ騒ぐなって、手元が狂ったら死ぬのはお前だぞ」

「……っ」

「俺が質問するからきちんと答えろ。他の奴らも知ってる事があったらすぐ俺に教えろ」

「わ、わかった」

「嘘を吐いたらその場ですぐ首を落とすからな、そしたら次の奴へ移る」

 

 全員が声を出さずに頷く、これで場の空気は掌握済みだ、後は質問すれば命惜しさにベラベラと秘密を漏らす。

 こういう暴力や拷問に長けてる自分の才能が本当に恨めしい。

 今回の件が終わっても外道騎士の悪名が今度はエルフ達に広まるんだろうな。

 

「お前達はこの里で普段は何をしている?」

「わ、我々は村長の配下だ」

「役職はそれぞれ違う」

「つまり、俺達を襲おうとしたのは村長の指示って訳だな」

「い、いや」

「はっきりと答えろッ!くだらねぇ時間稼ぎをするならその舌ぁ切り取って喰わせるぞ!」

「うぁあっ!?」

 

 刃の向きを変えて峰部分を首に当てる。

 首に切り傷は付けられないがナイフの冷たさを直接感じるのは凄まじい恐怖だろう。

 恐怖で引き攣った顔のままエルフは陸に上がった魚のように口を開閉し続ける。

 これ以上は脅かしても意味が無いな、ナイフを離したら少しだけ安心したらしくエルフの顔に血色が戻った。

 

「もう一度だけ聞いてやる、指示したのは誰だ?」

「……前の村長の部下だ」

「奴は村から離れた場所で仲間と暮らしてると聞いたぞ」

「だが今もこの浮島に住んでる」

「この浮島を広げる技術を俺達は持っていないし、畑に出来る土地は限られてるんだ。エルフが自給自足するのも限界があるからな」

「この街の稼ぎで食料を分けてやってたんじゃないのか」

「違う、今の村長とは違う販路で物を仕入れてる」

「どんな方法か知らないが裏社会との取り引きで稼いで金回りが良いんだ」

「食料だけじゃない、動物や器具も買ってるぞ」

 

 どうも里長の集落で聞いた話や軽く観察して感じた以上に前村長の周囲は物騒だ。

 単なる亜人達の叛乱

 

「その事について何の疑問は無かったのか?」

「ある訳ないだろう、荷物の運搬や見過ごすだけで金をくれるんだぞ」

「王国が変わったせいでエルフは貧しくなっちまった。こうでもしなきゃこの先延々とひもじい想いのまま何百年も生きなきゃならん」

「俺達を襲ったのも支払われる金が理由って訳だな」

「…………」

 

 エルフ達が全員口を噤む、そんな態度をしてたら正解だと白状してるようなもんだろう。

 端金で命を狙われるのは業腹だけど、行動原理としては実に分かりやすい。

 もっと詳しく知りたい問題は前村長が俺達をどうしたいのかだ。

 金で雇った暴力で制圧する方法を選んだ事から推察すると、明らかに交渉が目的じゃない。

 だとしても貴族を殺せばホルファート王国は本格的にエルフに対して何らかの措置を取るはず。

 王国軍や神殿騎士が問題にならないような切り札を用意してるのか?

 いや、ホルファート王国どころか世界を滅ぼしかねないロストアイテムが眠っていたんだ。

 この浮島にある遺跡にだって似たような代物があって、それを前村長達が使えるとしてもおかしくない。

 アンジェの救出を優先したから詳しく確認できなかったのが失敗だったな。

 一つだけ上手くいったのは王都へ伝令を直接送れた事ぐらいだ、今回の件でどうも俺は判断を誤ってばかりだ。

 

「前村長はいったい何を企んでる?」

「詳しくは知らない、ただ『この世界を在るべき形へ戻す』と前から言ってた」

「前村長宛ての荷物の運搬や輸出で里に結構な金が流れてる」

「損する奴が居ないから誰も咎めない、空港で働く奴らにとっても上得意だ」

「今の村長は里が潤うなら商売相手は誰でも構わないと考えて、エルフ同士なら特に関りを禁じていない」

「だから街で働いてる俺達が前村長側の奴らと取引するなんて珍しくもない事なんだ」

 

 脅しのせいか、エルフ達が知ってる情報を次々を俺に教えてくる。

 だけど肝心な部分がぼんやりして全体像を掴めない。

 詳しく知る為には遺跡をもう一度探索するか、それとも前村長達が居る砦に忍び込んで直接聞くかだ。

 どちらにしても俺一人で出来る事は限られてる、面倒事は聖女様と王都の連中に任せて俺はアンジェを元に戻すのに専念した方が良いだろう。

 

 部屋の中に居る九人のエルフ達を見渡し、その中で一番傷が浅い奴に近付く。

 自分が拷問されると思ったのか、体の硬直させるエルフの態度を無視してナイフを向ける。

 刺されると思い目を閉じるエルフだけど、斬り裂く対象はお前の体じゃない。

 研がれたナイフを軽く触れて擦ると丈夫なロープは簡単に解けていく。

 

「な、何のつもりだ…?」

「解放してやる、仲間を呼んでこいつらを回収してもらえ」

「……はぁ?」

「聞きたい事はとりあえず聞いた、お前達にこれ以上の用は無い」

「罠のつもりか」

「それなら解放せずに全員殺してる。不服なら今すぐそうしてやろうか」

「わ、わかった。止めてくれ」

「俺の気が変わらない内にさっさと行くんだな」

 

 エルフは慌てて部屋を飛び出す、とは言っても手傷を負ってるから走る速さはそれほどじゃないだろう。

 残りのエルフ達を放置したまま俺も部屋を出て非常口へ向かった。

 

「球っころ」

『……私に何の用があるのでしょうか?』

「今のエルフの追跡は出来るか」

『可能です。しかし貴方はどのような目的で彼を解放したのか、詳しい説明を求めます』

「あいつが他の仲間を呼べば前村長の仲間達も当然動き始めるだろ。遺跡の怪物とエルフを同時に相手するのは俺一人じゃ流石に無理がある」

『つまりは陽動と攪乱ですか』

「俺が最優先するのは遺跡を確保してアンジェを元に戻す事だけだ、エルフ達の反乱を鎮圧する役目は王都から来る連中に任せるさ」

『分かりました、但し遺跡には私も同行させてもらう事が交換条件です』

「そんなの当たり前だろ。旧人類やロストアイテムに関してはお前以上に適任な奴が居ないんだから」

『では』

 

 非常口の扉を開けると傍にあった気配が消えていくのが分かる。

 姿は見えないがとっくに球っころは自分の仕事に向かったんだろう。

 暫くの間は姿を隠しつつ街の様子を窺う、怪しい奴が居たら追跡か尋問だ。

 今夜は眠る暇もろくに無さそうだ。




外道騎士の尋問回、拷問じゃありません。(欺瞞
原作でもリオンは性別・年齢・種族に関係無く殴ったり銃を向けるので今作の外道騎士様は相応にヴァイオレンス。
今作リオンは性格が荒事に向かないだけで才能はあるのが彼自身の悩み。
落ち込む度にアンジェが慰めます。

追記:依頼主様のリクエストによりIndol様、ヴィヴェイ様にイラストを描いていただきました。
また9430様に以前描いて頂いた挿絵イラストがpixivに投稿されたました、本当にありがとうございます。

Indol様 https://www.pixiv.net/artworks/130638739
ヴィヴェイ様 https://www.pixiv.net/artworks/130801188
9430様 https://www.pixiv.net/artworks/130575778
https://www.pixiv.net/artworks/130710218
https://www.pixiv.net/artworks/130834590

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。