婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第149章  Solo Operation

「すまない、俺の不手際でみんなに迷惑かけた」

「……御当主、まずはどうして謝罪するのかきちんと御子息達に理由を伝えた方が賢明かと。話はそれからです」

 

 ユメリアの家で台所と居間と客間の役割を兼ねる場所には、私とリオンに以外に子供達六人と軍務責任者の兵長が集められていた。

 家の主であるユメリアは家の外へ退避してもらっている、巻き込んでしまったが彼女はあくまでも部外者に過ぎない。

 騒動が収束した後に何らかの形で罰せられないよう配慮した結果だ。

 母子二人が暮らせる最低限の間取りしかない家の一室に合計九人はあまりに手狭過ぎ、仕方なく何人かはクッションの上に座る等の対応でどうにか話を聞く体勢を整える。

 私自身も椅子に座りながら膝の上に末子のディランを乗せている有り様だ、謝ろうとするリオンの態度は殊勝だ。

 しかし、こうした部分に気を回さないと相手に対しての誠意が十分に伝わらない場合も多い。

 リオンの話が終わった後でその辺りについても注意しておこう。

 

「お父様はどんな理由で私達に謝っていらっしゃるんですか?」

「そりゃお前達を俺の勝手な都合でこんな事件に巻き込んだ事だよ」

「母上があんな姿になったのは偶然だと思いますが」

「そもそもエルフの里が不穏な雰囲気になってると俺は予め知ってたのに、エルフ達を騙す為に家族旅行を装って家族を危険に晒しちまった」

「何それ、全然聞いてないんだけど」

「正直に話過ぎるぞリオン、真実を告げる事が必ずしも良い結果になるとは限らん」

「家族団欒と調査を一度に済ませようとしたり、その場その場で中途半端に人命を優先したり関係悪化を避けた結果がこれだろ。俺は元々そんなに器用な人間じゃないんだよ。アンジェや他の連中の助けでどうにか上手くやれてたのに、いつの間にか随分と調子に乗って起こした結果でこんな状況になってるんだぞ。今から巻き返す為にもきちんと皆に謝った方が良いって」

「まぁ、そうかもしれんな…」

 

 ロストアイテムに協力さえしてもらえれば、今回の調査は安全に済ませられる事態を甘く見積もっていたのは私も同じだ。

 心の何処かに油断が存在してのは明らかだろう、まだ幼い子供達が居るのに危険な場所へ同行させるとは親として明らかに異常な判断なのは間違いない。

 単純にエルフ過激派の実態と遺跡の状況を調査した後は王都の連中に全てを任せ、素知らぬ顔で観光を楽しむ算段自体が当事者意識に欠けていた。

 そうした結果が若返った体と言うなら受け入れる以外に無い、人は自らの行いによって相応しい報いを受ける。

 これはリオンだけが負うべき責任はなく私も背負うべきの責任だ。

 

「忙しくて家を空けがちだから任務と同時に家族団欒を熟そうなんて無茶な話だった。調子に乗って俺がそんな器用な真似を出来るような人間じゃない事を忘れた結果がこの有り様だ。そのせいでお前達を巻き込んで本当にすまない、生きて帰ったら必ず埋め合わせをする」

「お父様が言ってる任務って何よ?」

「エルフの里が不穏だから調査しろって王都の連中に言われたんだよ」

「どうして領主の父上がそんな真似を?そんな仕事は密偵や間諜の仕事でしょう」

「いろいろ事情があるんだよ」

 

 こうなってはリオンが抱えている事情を子供達に説明する必要がある。

 口外を禁じられた機密の部分を省いて子供達に説明すれば、リオンはホルファート王国が抱える諜報機関の外部協力者という事になってしまう。

 リオン本人の自己評価こそ低いが優秀な兵士だった彼の潜入能力は極めて高く、加えて自意識を持ったロストアイテムと協力しての工作で幾度も成果を挙げている。

 過去には国営金融機関の要職や食料生産関連の顧問を務めていた上に、領主貴族派閥の筆頭であるレッドグレイブ公爵家の娘婿として王家との調停役や新興貴族との仲介人の役割もリオンは担っている。

 ホルファート王国にリオンが齎した成果や立場を鑑みれば侯爵位への陞爵も十分に可能な範疇だろう。

 それらを前面に出さないのは偏にリオンが社交界で目立ち余計な諍いに巻き込まれるのを厭っているからに他ならない。

 もう少し野心や出世欲を見せれば周囲から成り上がりと謗る声も少なくなると何度もリオンに伝えたのだが、私の夫は地位や名声よりも家族と共に過ごす時間を減らされる事を重要と思う男だ。

 そうした自身の行動が原因で我が子達からさえ侮られては本末転倒だろうに。

 

 リオンの話を聞いてる間にも子供達の表情は変化し続け、私とリオンの血を受け継いだ子供達なのに反応は如実に違って生命の不可思議さを感じさせる。

 ライオネルは徐々に表情を強張らせ、ロクサーヌとメラニーは唖然とした表情でリオンの顔を凝視した。

 その一方でアリエルとリーアは興味津々、まだ幼く話の内容を理解できないディランは私の膝の上で退屈そうに手足を小刻みに動かす。

 漸く話し終えた頃になると室内は重苦しい空気に包まれてしまう。

 ロストアイテムの本体やバルトファルト家の由来等の事情を省いたとはいえ、まだ十代の子供達が知るには重過ぎる事実であろう。

 こうした後ろ暗い実情をリオンは子供達に出来るだけ知らせたくなかった筈だ、話し終えたリオンの表情は随分と陰鬱な物へと変わっている。

 普段なら彼が何かしら窮した場面や落ち込んだ時は私がそれとなく手助けをしているのだが、幼い体になってしまったこの状況では有効な手立てを思い付かない。

 己の無力さに歯噛みしながら末子を抱きしめる手に力を籠めるとディランは優しく手を撫でてくれた。

 

「まぁ、出不精なお父様が急に家族旅行をすると言い出すので普段と違うとは皆も感じていました。たぶんお母様と喧嘩でもなさったから、仲直りする為に観光地に来たんだと思っていましたのに」

「いや、まぁ確かにアンジェと少し揉めたんだけどさ。別にお前達の事なんてどうでも良いとか俺は考えてないぞ」

「お父様はそう仰いますけど現状はこの有り様です、どう責任を取るおつもりのか詳しく教えてくださいまし」

「ロクサーヌ、流石にそれは言い過ぎだわ」

「母上も渋い顔をしてるからその辺りにしておいた方が良いよ」

 

 次女のロクサーヌは私が産んだ子供では最も貴族的な思考を受け継いでいた。

 気高さと弁舌については私や日頃から親戚付き合いしているドロテアに何れは匹敵するかもしれない。

 だが、社交界入りすらしていない現時点に於いて実の父を殊更貶すような娘は看過できない醜悪な振る舞いである。

 過去を鑑みれば幼い頃の私も現在のロクサーヌのように随分と生意気で嫌味な小娘だったのだろう。

 己の血統や立場を鼻にかけて他の貴族令嬢を無自覚に責め立てるような行動が無かったのかと問われたなら反論できる自信は無い。

 

「……ごめんなさいお母様」

「謝る相手が違う、私ではないだろう」

「いいってアンジェ。別に俺は怒ってないから」

「リオンがそうやって子供達に甘いから叱る役目はいつも私が担う事になるのだ」

「悪かったよ、次からはちゃんと改めるからさ」

「お前がよく言う『次から』『今度から』は全く信用ならん」

 

 そうやって己を省みて責任があると認めるリオンの姿勢は確かに長所ではあるのだが、素直過ぎるのも貴族として父親として問題だ。

 権謀術策が蠢く社交界では強固な自意識を保たなければ付け入られる隙になりかねない、結婚した当初から幾度も叱ってきたのに。

 だがそうした素直さや純朴さに惹かれたからこそ二十年近くも夫婦関係を続けてこれた。

 ある意味では私が世界で最もリオンに対して甘い人間かもしれない。

 

「御当主と御家族の話は一旦保留しましょう。話し合うべきなのは今後どのような方針で行動するかです」

「あぁ、そうだな。そうだった」

 

 この中でただ一人バルトファルト家の係累ではない兵長が話を引き戻した。

 どうにも私達夫婦と子供達だけではすぐに話が横道へ逸れてしまう、これではまともに今後の方針について話合えない。

 心を落ち着かせて口を閉じた、会話中はリオンと子供達への説教は控えよう。

 

「エルフの里で今起きてる騒動が大きくなった原因の一端は俺のどっちつかずな行動が原因の一つだ」

「どっちつかず?」

「まず仕事と家族団欒を一緒にやろうとしたのが一番の失敗だ。貴族の観光客を装うって魂胆もあったんだけど、それなら単純にダンジョン探索に来た冒険者気取りの貴族を演じるべきだった」

「何で父上はそんな事を……」

「いや、だからさ。だって家を空けがちにしてるせいか、お前ら俺に対して少しよそよそしいと思うんだけど」

「仕方ないでしょう、僕達は今年から王立学園に入学したんですから」

「でもお前ら、俺が面会しようとすると拒否するじゃん」

「嫌よ、寮生活してるのに親が訪ねてくるなんて。友達に変な噂されるでしょ」

「あと、領地で暮らしてる方も俺に対して距離感がある」

「年頃の令嬢はそういうものです、お父様にベタベタする方がどうかしてますわ」

「正直言えばお父様が居ない方が気楽ね」

「……助けてくれよアンジェ、娘達全員が俺に冷たい」

「とりあえず後で慰めてやるから話を続けろリオン」

「お、俺は父上が嬉しいぞ!」

「ありがとうリーア。特別に毎月の小遣いを増やしてやろう」

「よっしゃ!」

「ちょっとッ!そんなのあり!?」

「うわぁ、子供の信頼をお金で釣るお父様って最低…」

「そうやって差をつけるの、私は良くないと思う」

「父上、自分で信頼を溝に捨ててますよ」

 

 リオンが小遣いを話題にした途端に子供達が騒ぎ始める、これではいくら話を進めようとしても進まない。

 ディランを膝の上から退けて椅子へ座らせ席を立つ、そのまま子供達五人の頭を軽めに叩く。

 阿呆な発言で場を騒がせたリオンに対しては力を込めて拳を振り下ろしておく。

 

「さ っ さ と 話 を 続 け ろ」

 

 感情を込めない声で冷酷に話を進めさせる、私の秘めた怒気に怖気づいたのか全員が口を噤んだ。

 

「……次の失敗はエルフの調査を優先したせいでアンジェ達がダンジョン探索する時に別行動をしちまった事だな」

「あの件は致し方あるまい。待ち合わせた時間の直前にダンジョン内で怪物が人々を襲うなど予測できん」

「それでも俺が一緒に居れば大分マシな結果になったのは間違いないだろ」

「ならば私の行動も軽率だった事も否めん。それでも私があの場でダンジョンの内部に向かわなければ被害者は増え続けていた筈だし、私達がダンジョンの外で襲われた可能性もある。もしあの時に見ているだけで何もしなければ、我々が貴族としての務めを放棄した、そのように心無い者達からの批判される材料になったかもしれん」

 

 多くの貴族達は建前に過ぎないと考えているが、『貴族は弱き民を護らなければならない』という不文律は現在のホルファート王国内に於いては無視できない。

 無論、慣れない状況に困惑して満足に行動が出来ない、力の弱い女子供故に戦えない場合もある事は重々承知している。

 だからと言って目の前で誰かが襲われている状況下で茫然自失のまま逃げ出せば確実に他の貴族から軽侮される。

 しかもダンジョンの探索には最低限の武器を所持する事はこの里の統治者から認められていた、武器を持ち他者が襲われている状況を見過ごし我先に逃げ出せば貴族にあるまじき振る舞いという謗りは免れないだろう。

 あの時に限定するのならば私の行動は決して間違いではない、そうした私の振る舞いが齎す結果があまりに予想外過ぎたというだけだ。

 

「アンジェの救出にライオネルとアリエルを同行させたのも失敗だった」

「何よ、お父様は私達が足手纏いだって言いたいのかしら」

「止めなって」

「そうじゃない、ただアンジェを救出する為にお前達を同行させたのに途中で別行動するなら最初から外で待機してもらった方が安全だった。二人をダンジョンに残して俺一人で奥に行ったアンジェの救出を最優先するのはどう考えても悪手だ。あの時に遺跡の探索をろくに出来なかったのが今になって響いてる」

 

 ライオネルとアリエルが気掛かりだったとリオンは語っているが、真実はそうではあるまい。

 あのロストアイテムを二人の護衛に回し、たった一人で私の救出に向かった事が誤った判断とリオンは考えている

 最深部で私が出会った遺跡の意思とも言える存在、あれは確実に私達と行動を共にしているロストアイテムと同種の存在だ。

 交流を深め説得するにせよ、目的の不一致で争う運命になるにせよ私の救出より遺跡との対話を最優先するべきだった。

 上手くいけばあの時点で今回の騒動は終結していたかもしれない、そう考えるとリオンの足を引っ張ってた己が恨めしい。

 

 

「あと昨日からいろいろ裏でやってたけどな、あまり目立った成果は出なかった」

「襲ってきたエルフ達から何か情報は得られなかったのか?」

「連中は使い捨ての下っ端だよ、人間嫌いで誰かに扇動されて金を握らされたら何も考えず人間を襲うようなチンピラさ。そんな奴らを叩いても上で命令してる奴らは痛くも痒くもないだろうな」

「監視している部下の報告によれば昨夜から現在までエルフの砦には目立った変化はありません。ですが街や空港の方では官警や空港警備の動きが些か慌ただしいものに変化しています。恐らく御当主の戦闘が原因となり現村長が治安維持の命令を下したのかと」

「ちくしょう、上手くいかねぇな。裏で糸を引いてる連中を誘き出す予定だった筈なのに、結局はエルフの里から抜け出すのが難しくなっちまった」

「私の推測になりますが発言してよろしいでしょうか?」

「構わない、続けてくれ」

「エルフ過激派は砦から一歩も動かない方針か、或いはダンジョンの下に存在する遺跡に移動していると考えられます。昨晩から砦に近付いた者は一人もいません」

「あの砦はもう用済みって訳か、挑発を続けても意味が無いままで終わるな、くそッ」

 

 リオンが頭を掻きむしりながら唸り始める、たった一人で宿に留まり襲撃者を撃退するという行動が完全な徒労と分かれば無理もない。

 彼の伝聞や噂を聞いた者達からよく勘違いされがちだが、確かにリオンは優秀な兵卒であり間諜の才を持ち戦術面で功績を挙げた。

 だが変化し続ける情勢に即興で対応できる程に器用な男ではない。

 平時は只管に必要な知識を蓄え続け、有事の際に詳細な情報を収集し相手の行動を予測して最も成功率が高い方策を選択しているだけだ。

 故に自身よりも強い者には当然のように負けるし、己よりも賢い者には後れを取る。

 外道騎士などと謗られる非情な手段を採るのは己より遥か強大な相手と戦い、そうしなければ勝てないから採った弱者の策に過ぎない。

 こうした複雑な事情が絡んで刻一刻と変化する状況ではリオンの力だけで対応するのは難しい、そもそも優秀な兵員が足りない上に私達家族の存在が枷となって行動を制限していた。

 

「こうなったらまず初心に帰ろう。兵長、戦術の基本は?」

「目的を明確にして優先順位を定める、作戦は分かりやすく簡潔に、行動は手早く無駄なく」

「よし、それじゃあ今後の方針を伝える」

 

 リオンは乱れた髪を手櫛で整え始める、その両眼は狭まり酷薄な印象に変貌していくのが子供達にも何となく理解できるようだ。

 普段のリオンなら子供達の前で不機嫌な表情を晒す事は殆ど無い、そんな父親が露骨なほど機嫌が悪そうな顔で不躾な態度を取り始める。

 まるで同じ顔の別人が現れたようで困惑しても仕方ないだろう、私もリオンのこうした一面を初めて見た時は頼もしさより先に恐れが感じてしまった。

 

「まず御当主は何を優先するのはおつもりでしょうか?それによって我々の行動も変わってきます」

「最優先なのは俺の家族の安全だ、俺の愛する嫁と大好きな子供達を無事に屋敷へ帰す。それだけは死守しろ」

「御家族であれば御当主自身の命を含めない、そう仰いますか」

「俺が一番命を張らなきゃ成功確率がめちゃくちゃ減るんだよ。あぁ、お前達にも働いてもらうけどなるべく死ぬなよ。死亡報告書を書いて遺族年金の勘定するのは面倒臭い」

「善処いたします」

「いざとなりゃ皆を連れてこの浮島から脱出しろ、俺を置いての逃走も許可する」

「了解しました」

 

 貴族に使える騎士や兵卒が真っ先に護るべき存在、即ちその家を支配する当主である。

 非情な言い方になるが高位貴族ともなれば妻を喪っても他の貴族の娘と再婚すれば十分に代わりが効く、子供は新しい妻に産ませればよい。

 非情な貴族社会に於いて妻子の命など合理性の前では何ら意味を為さないほど軽い存在だ、どれだけ愛情深いと周囲から言われる当主であろうと家と妻子では前者を選ぶ。

 場合によっては己の命を代償にして家の存続を願う、それが貴族として採るべき生き方であると多くの貴族は幼少期から教育されているものだ。

 

 それなのにリオンは真っ先に自分の命を賭け金として用いる、しかも一兵卒のような振る舞いで自ら率先して危険に赴く。

 軍人としての立身出世した経歴故か、新興貴族として家の重要性を理解していないか、若しくは下位貴族だったバルトファルト家を継ぐ事などありえないと十分な教育を受けていない影響かもしれない。

 どちらにせよ、私の夫は己の家族を護る為に己の命を喪う事を厭わない当主なのだ、リオンのこうした性分のせいで結婚してからどれだけ悩まされた事だろうか。

 それでも嫌な気分がまるでしないのはそれだけ彼に愛されているという幸福感が悪い、恋愛という物は惚れた側が敗北者なのだ。

 

「次はアンジェを元に戻す事だな、これに関しては最悪の場合、王国軍の到着後に行われるエルフ過激派鎮圧後に回して構わん」

「よろしいので?」

「まだ戻る保証が確実じゃないからな、俺と連絡が付かなくなったら大人しく王国軍を待ってろ」

「その際の指揮権はどのように」

「お前が指揮を執れ、ただ王国との会議や今後の方針についてはアンジェに一任する。あくまで一時的な指揮権の委譲だ」

「了解しました」

「私が当主代理か、別に構わんがリオンは一体何をするつもりだ?」

「取り敢えず俺は一人でこれからダンジョンに向かう」

「…ッ」

 

 思わず舌打ちが漏れてしまう、リオンは突拍子もない言葉や行動を物怖じせず言うから始末が悪い。

 厄介なのは彼がこうした奇策や危険を冒す作戦を用いる時に限り、予め決まっていたように上首尾に終わらせて周囲の文句を言わせない所だ。

 普段は手堅く地道で泥臭いやり方を好んでいるくせに、こうした部分があるせいでリオンなら無茶な要請をされるのが分かっていないのか?

 そもそも今回の件に関してすらリオンならエルフの里を上手く探れると王都の連中からいいように使われているせいだ。

 一度ぐらい手痛い失敗を経験した方が危険に身を晒すような真似を控えるのではないか?

 不覚にもリオンの不幸を望む考えが一瞬だけ脳裏に浮かび、否定するように頭を振った。

 

「何故そうなるか詳しく説明しろ」

「単純な話さ、そもそもダンジョンの下にある遺跡が騒動の発端だ。俺達がどれだけ地上でわちゃわちゃした所で元凶を叩かなきゃ後手に回るばかりだ。地の利は無いし手駒も足りない、そんな状況を覆すなら指揮系統を叩くか戦力を維持する為の要所を潰すのが一番効果的な方法になる」

「其処までは納得できる、不満を呑み込んで漸くだが。だが何故リオンが単独で行動しなくてはならない」

「そりゃ勿論、俺一人の方が動きやすくて効率的に終わらせられるからな」

「……部下として御当主に具申いたします。せめて部下を数名同行させた方が安全です」

「却下」

「現時点に於けるダンジョン及び遺跡内の状況は未確認です。証言にある怪物やエルフの過激派が潜伏している可能性は極めて高く、御当主が単独で向かえば自ら死にに行くのと変わりありません」

「そんな状況なら護衛が一人二人だけ増えても同じだろ、むしろ人数が増えるほど見つかる可能性も高くなる」

「ですが」

「だいたい俺以上に密偵の腕が良くて古代遺跡に詳しい奴が他に居るんなら紹介してもらいたいね」

「……」

 

 兵長が言葉に詰まった、リオンが上官と言う遠慮もあるのだろうが否定しきれない事実だからだ。

 この場にいる者の中で唯一兵長だけが意思を持つロストアイテムの存在を知らされていない。

 子供達が知ったのはあくまでも偶発的な出来事であり、本来ならば私とリオンのみが共有する秘密として私達の死と共に埋葬される秘密として埋葬する予定だった。

 ロストアイテムを有効に用いれば己の国すら興せるのはホルファート王家の歴史を知れば簡単に分かる。 

 その存在を知られたら悪用を企てる者に狙われる可能性が自ずと高くなってしまう、だからこそ他者に秘密を漏らさないよう心掛けてきた。

 結果としてリオンがロストアイテムの協力によって齎した実績は彼一人で成し遂げた物と周囲から認識されている。

 リオン・フォウ・バルトファルトは貴族でありながら優れた間諜であると同時に古代文明に関して造詣が深い稀有な男だとバルトファルト領軍や王国の諜報機関は認知されている筈だ。

 

 故に兵長はリオンに対して反論できない、私達が造り出した人物像によってそれが最も効率的だと彼は誤認している。

 リオンの過大評価のせいで部下を同行させるよりも単独行動させた方が効率的だと錯覚してしまう。

 それが何とも口惜しくて堪らない、彼の実像は周囲が思うよりも平々凡々でか弱い男だ。

 秘密を優先した結果によって私の為にリオンがたった一人で怪物やエルフ過激派が潜むダンジョンに向かうのを止められない。

 これはロストアイテムの力を利用してきた私達に対する罰なのか、そう思うと己の行動が浅薄に思え声にならない嘆きを零すしか出来なかった。

 

「はい」

 

 リオンとも兵長とも違う声が室内に響く。

 視線を向けるとライオネルが挙手して意見を述べようとしていた。

 

「どうしたライオネル」

「提案があります」

「何だ?」

「僕も父上に同行します」




原作リオンは状況を制御していると甘く考えてしっぺ返しを受ける事が多いですが、今作のリオンは護る者が増えてルクシオンが服従してないのでより上手くいきません。
功績や印象でリオンを偉人と思っている家族ですが、徐々に父の実像を理解しつつあります。
爆弾発言をかましたライオネルくん、彼の意図は次章にて。
モブせか新コミカライズを待ちながら執筆に励みます。

追記:依頼主様のリクエストにより百日夢様、MIDNIGHTBLUE03様、オスワーニ様、ponyo様にイラストを描いていただきました。
また9430様に以前に頂いたイラストがpixivに投稿されました。
本当にありがとうございます。

百日夢様 https://www.pixiv.net/artworks/132668978
MIDNIGHTBLUE03様 https://www.pixiv.net/artworks/132980589
オスワーニ様 https://www.pixiv.net/artworks/133004824(成人向け注意
ponyo様 https://www.pixiv.net/artworks/133035956
9430様 https://www.pixiv.net/artworks/132939696

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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