婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第151章 Excitement

「まさかライオネルに先を越されるとは思わなかったわ」

「何が?」

「あんたがお父様に同行するって言ったの。本当はあたしが言うつもりだったのに」

 

 同い年の兄に語りかけながら弾丸を予備の弾倉に詰めいく。

 普通の冒険やダンジョン探索には着替え、食料、飲料水なんかを背嚢に詰め込むらしいけどあたし達が今回するのはダンジョンの侵入と占拠、つまり戦闘が中心だから必要な物が全く異なる。

 食料と水は必要最低限、塗り薬や飲み薬といった医療用品は忘れずに。

 衣類や調理器器具の代わりにこれでもかってぐらい大量の武器と弾薬と爆発物。

 これの取り扱いを間違えたら間違いなく冥府に直通ね、体が欠片も残らないんじゃないかしら?

 危険物を取り扱う時は領軍の教官や王立学園の先生に注意するように言われてるんだけど、あたしはライオネルとさっきから会話を続けてる。

 たぶん頭と体が初めての実戦で妙に興奮してるのと、死ぬかもしれない恐怖を必死に誤魔化そうとしてるのかも?

 

「あたしがお父様に同行するって言ってたら大した文句が出なかったはずよ」

「いや、伯爵家の令嬢が危険に晒されそうになったら普通の親は止めると思う」

「そうやって大人が『女の子はお友達とお茶会をしてればいい』と考えてるせいで冒険の授業に荷物持ちを同伴させる女生徒が出るのよ。それを聖女様に言ってぶん殴られたらいいのに」

 

 背嚢に物を詰め込むのをいったん止めて、どんな具合か一度確かめてみた。

 荷物の重心にずれがあると背嚢が持ち運んでる間に体へ食い込んで痛くなるから、バルトファルト(うち)の領軍に入ったばかりの新兵は必ず荷物の収納方法を教えられる。

 今回は戦闘が中心になって銃弾を使うほど荷物は減るとお父様や兵長は言ってたけど念の為だ。

 背嚢をゆっくり担ぐと自分の体重が二倍になったように感じる、たしか行軍で兵士が担ぐ背嚢は小さな子供一人分の重さと前に聞いた。

 こんなのを背負える貴族令嬢なんて王立学園の生徒で私ぐらいしかいない。

 

「父上は納得してたけど母上は怒ってたよ。『どうしてアリエル(おまえ)はそうなんだ』って」

「悪かったわよ、でもあたしなりにお母様を心配してるのよ」

「内心で『お母様が小さくなった今なら好き勝手やれる!』、なんて思ってない?」

「……オモッテマセンワ~、マトハズレデスワ~」

「アリエルは嘘をもう少し上手く吐けるようになった方が良いと思うな」

「うっさいわね。とにかく嫌なのよ、お茶会や夜会に参加してる連中みたいに心の中で欠片も思ってもいないご機嫌伺いやおべっかを使うのが」

「だからこんな無茶をするの?」

「手柄を挙げたら流石にお母様の文句も減るでしょ、なにしろバルトファルト伯爵家(うち)は戦功で成り上がった家なんだから」

 

 昔から母上に『女の子らしくしろ』『伯爵令嬢に相応しい振る舞いを』と口煩くお説教されてきた。

 だけど周りから言われてもピンと来ないからしょうがないじゃない。

 そりゃ大抵の女の子は男の子より弱いのは分かってる、でも男の子より強い女の子が確かに存在してるのよ。

 昔からあたしは双子の兄ライオネルと比べて体が丈夫だった、病気らしい病気はした事ないしバルトファルト領じゃ領主一家のお嬢様じゃなくてガキ大将扱いとして知れ渡ってた。

 

 別に男より女が好きとかそんなんじゃないし、他人の迷惑を考えられる程度の良識ぐらいは持ち合わせてる。

 世の中に居るおままごとよりも冒険ごっこが好きな珍しい女の子ってだけ。

 単純な話、私は自分の得意な事を生業にさせてくれるなら家でも学園でも大人しく過ごすわ。

 兄のライオネルみたいに嫡子扱いされないし、妹のロクサーヌとメラニーみたいに令嬢としての振る舞いや専門知識なんて持ち合わせてない。

 あたしの理想は聖女オリヴィア様、まぁ仮に神殿入りしてもすぐに適性が無いと実家に帰される未来が見えてるけど。

 要は政略結婚の駒じゃなくて冒険者か軍人にしてさせて欲しい。

 お父様とお母様が認めてくれるなら学園卒業まで大人しく過ごすし、もし融通してくれる相手がいるなら今すぐ婚約証明書に署名するわ。

 

「そもそもお父様って自分の子供には過保護なのよ。あれでよく王国軍の相談役をやってたわね」

「あんまり父上を悪く言うなよ、僕達を心配してるって事じゃないか」

「だって『貴族でも平民でも能力がある者に相応しい立場を』、な~んて言ってるのに娘が冒険者や軍人になるのを止めるって典型的な二枚舌の宮廷貴族じゃない」

「仕方ないだろ。アリエルみたいに重い背嚢を軽々と持ち上げられる女の子は少ないんだよ。ペンと食器以外を持った事も無いお嬢様は尚更さ」

「自分と比べてあたしの頭が悪いと思ってんでしょ、筋肉は考えて鍛えないの強くならないのよ。友達との付き合う時間以外にも学園の同好会に顔を出して鍛えてるんだから」

「頼むから止めてくれ。アリエルに負けた連中の苦情が僕に来るし、悪い評判が伝われば縁談も無くなるぞ」

「あたしに勝てないからあんたを頼ってお父様とお母様に告げ口するような男なんて願い下げよ」

 

 負けて悔しいなら頭を使うか体を鍛えて挑んできたらいいでしょ。

 相手に勝てなくて陰口をするような腐った性根だから努力しようって考えが思い浮かばないのよ。

 何でこう、王立学園はあたしを含めて出来る奴と出来ない奴の差が激しいのかしら?

 けど男子生徒はまだマシ、女子生徒ときたら本当にやる気が無さ過ぎる。

 冒険関連の実習じゃ男子生徒に媚びを売って荷物を持ってもらう、実習以外の時は人を雇って荷物持ちさせてるのを見たら頭が痛くなった。

 力で劣るんだったらせめて気概ぐらいは見せなさいよッ!!

 毅然とした態度や感謝の気持ちを見せず、お茶会で『女性の社会進出』とか『男性中心な社会の改善』を話してるの見たら頭が痛くなるわ。

 お母様やドロテア伯母様が通ってた頃の王立学園はもっと酷かったって聞いたけど、そんな状況でオリヴィア様みたいな御方がどうして認められたのかしら?

 

「オリヴィア様が聖女になったから、これからは女領主や女騎士が王国でどんどん活躍すると思ったのに…」

「順序が違うよ、女領主が認められたのは戦争で夫や父を喪った未亡人や孤児を保護する為の一時的な措置。終戦から十年以上も経てば『やっぱり男の領主や騎士が良い』って世論が変わっても仕方ないさ」

「そんな見せかけの女領主ばっかだから軍人や騎士になろうとする若い女はろくに居ないし、女の冒険者は男のおこぼれを色仕掛けで掠め盗る女狐って言われんのよ!」

 

 ホルファート王国の新たな守護者を育てるなんて謳っておきながら、王国軍は応募した相手が女だからって面接さえしてくれない。

 お喋りと贅沢にしか興味が無い女尊男卑世代が文句だけは大声で喚くだけで何の行動もしなかったせいよ。

 今の時代は神殿で次代の聖女を志すならかなりマシな方、殆どは女尊男卑政策が廃止されて自分が贅沢できないのを嘆く女の子が大半。

 やる気があるのに周囲が認めてくれなくて鬱々と過ごすのと、特にやりたい事も無くて自堕落に過ごすのを同じように扱われるなんて理不尽だわ。

 

「いい機会だわ、今回の騒動でお父様を助けてお母様を元に戻したら流石に文句も出なくなるでしょ」

「自分の将来設計の為に母上の容態を利用するのは親不孝者だなぁ…」

「うっさい!じゃああんたは何でお父様に同行するのよ」

「アリエルと似たような感じさ、僕も強くなりたい」

「あんたは領主になるんだから強さなんて二の次じゃん。あたしは自分の強さを示す必要があるけど、あんたは賢いし弱くても困んないでしょ」

「……今のままじゃダメなんだ」

 

 答えるライオネルの瞳に宿る力は強い、こうなったら説教されても殴られても絶対に曲げなくなるのをお母様のお腹にいた頃からの付き合いで知ってる。

 こいつはあたしより喧嘩が弱くても絶対に負けを認めない男だ。

 勝てないと分かっていながら必死に食らいついて相手が根負けするまでしつこく戦う。

 昔から腕力で簡単に勝てる相手だったけど、喧嘩をしたくない相手の筆頭格だった。

 粘られ続けたら時間が経つほど周りに人が集まってライオネルが応援される、大半の連中は強くて偉そうな奴より必死に頑張る奴が好きだから。

 

「僕は父上の子だ、リオン・フォウ・バルトファルトの息子なんだ。弱かったら誰も認めてくれない」

「そんな訳ないでしょ、少なくとも私より評判が良いくせに。あたしは自分の願いを叶えたいから危ない橋を渡るけど、ライオネルは今のままでも領主に就いても支障ないじゃない」

「父上は戦功で領主貴族になったんだ。その息子が弱くちゃずっと比較され続ける、貴族が生き残るには先祖の名誉を穢ししたらダメさ」

「うちの先祖はずぅ~っと爵位を貰えず騎士や平民同然な半端者だってお父様が言ってるでしょ。逆に男爵家になってから生活が苦しくなったってお祖父様とお祖母様の苦労話を聞かされたじゃない」

「だから成り上がり者と言われないように僕が頑張らないと」

「……まったく、無茶だけは気を付けてよ。あたしは双子の兄を護れなかったってテレジアに責められたくないから」

「彼女は生まれた時から僕の婚約者にされたせいで勘違いしてるんだよ。もっと相応しい相手が世の中にはたくさんいるのに」

 

 思いっきり頭をぶん殴ってやりたくなるわね、この愚兄?

 親に決められた婚約者だからテレジアが慕ってるとか、王立学園の女子生徒があたしに頼み込んで会わせて欲しいと頼み込むのが何故か全く分かってない。

 あたし達の外見はバルトファルト家よりレッドグレイブ家の血が強く出たせいでお母様似とかギルバート伯父様似ってよく言われてる。

 見た目がある程度整っていれば異性の生徒から取り敢えずモテる、あたしの性格を知った男共は逃げ出すか敵視するかめげずに挑んでくるけど。

 ライオネルはとにかく生真面目で陰気だから会話が弾まない、茶会で年頃の女の子に囲まれておきながら過去の試験から推測すれる出題傾向を熱心に解説すんな。

 教本とノートを持って退室する女性とが死んだ魚の目してたじゃないの、そういう儲かりそうな話のネタは積極的にあたしを加えなさいよ。

 

「だからって別に今日じゃなくててもいいじゃない」

「決意した今日じゃないとズルズル先延ばしするのが僕自身にも分かるんだ。この事件を見過ごせばこれからずっと言い訳して逃げ続けるようになる」

「真っ先にお父様に同行したいって言ったあんたを臆病者だなんてあの場にいた誰も思わないと思うけど」

「自分を追い込んだだけさ、今だって心の中で『本当に正しかったか?』と後悔してるよ」

「そうやって自分から苦労を背負い込むと老けるから止めなさい」

 

 ライオネルは自己評価が低い、子供の頃からそうだった。

 同年代の比べても間違いなく優秀だけど、謙遜を越えて自分を卑下するのが実に厭味ったらしくて鬱陶しい。

 人並み以上に勉強も運動も熟せるのにわざわざその中で一番優秀な相手と比較して落ち込む。

 そして一番比較してる相手はお父様なのは態度を見てたら明らか、自分じゃバレてないと思ってるけど察しの良い家族はとっくの昔から知っていた。

 お父様と同じ年齢の時にお父様以上の成果を出さなければ自分に価値は無いと信じきってる。

 何でこう、わざわざ自分から苦しい生き方をしてるのかしら?

 

 きっとあたし達はお母様のお腹に居た頃、性別が間違ってしまったのね。

 もしライオネルが女の子に生まれたなら、きっとお母様に似て伝統を守り成績優秀で模範的な貴族令嬢に成長したわ。

 そしてあたしが男の子で騎士にも軍人にもなれた、さすがに領主は向いてないからリーアを嫡子して自分の好きなように生きるの。

 才能とやりたい事が双子の兄妹で正反対なんて、神様はよっぽど意地悪かうっかり者ね。

 

コンッ コンッ コンッ

 

 ライオネルと話し込んでいたら扉がノックされる音が聞こえる。

 お喋りに夢中で荷物の詰め込みの途中という事がすっかり頭の中から抜けてた、慌てて予備の重火器や弾倉を背嚢に積め込む。

 扉が開くと現れたのは小っちゃなお母様が厳しい表情であたしを見上げてる、キリッとした瞳で睨まれると幼い頃からずっと体に刻み込まれ続けた記憶でどうしても強気に出れない。

 十五歳のあたしより小っちゃくて十歳ぐらいに見えるんだけど、目に見えない気迫というか圧力みたいな物が体から放出されてない?

 こんなお母様と比べたらロクサーヌとメラニーはどんなに淑女っぽく振舞ったり知識を披露しても実年齢そのままの女の子だと実感しちゃう。

 

「……何用ですか母上」

「そう構えるな、今更止めようなどと思ってはいない」

「本当?その割には顔がしかめっ面だけど」

「今までずっとリオンに説得されていればこうもなろう」

 

 たぶん相当お父様と口論したんでしょうね。

 それでもこうやってあたし達がお父様と行動するのを認めたって事は随分と説得されたみたい。

 何だかんだと文句を言いながら結局お母様はお父様にお願いされると断れなくなってしまう。

 どうしてお母様みたいな才女が普段のんびりしたお父様に惚れ込んでるのか、あたし達はずっと不思議に思ってるバルトファルト家の謎だった。

 

 お母様はあたしの背嚢を見ると近付いて担ごうと手に持とうとする。

 かなり力を込めて持ち上げようとしたみたいだけど、背嚢は机の上から浮く事はなかった。

 冒険用に持ち運ぶ背嚢とは大きさも重さもまるで違ってる、たぶん末っ子のディランを背負うぐらいの体力と腕力が無ければ持ち上げられない。

 諦めの悪いお母様は何度も体を揺すってみたけど徒労で終わった、いったい何をしに来たんだろう?

 

「くそッ、やはり無理か」

「見てわかるじゃない、今のお母様じゃ背負ったらこの家を出る前に力尽きるわよ」

「無理しないでください。父上の足手纏いにならないよう努めます」

 

 起き上がれなくなった亀みたいになったお母様を起こしてあげたらよろめいて姿勢を正した。

 威圧感があるのに仕草だけは可愛らしいとか何なのよ。 

 きっとこうやってお父様を魅了したから我が家は子沢山になったと思うわ、このお母様あざとい。

 

「先の戦争では戦地に向かうリオンを見送れなかったが、まさか今度は戦いに赴く息子と娘も見送る事になるとはな。どうも私は肝心な時に役立たずの女らしい」

「誰もそんな事を思ってませんよ」

「まさか腹を痛めて産んだ我が子に慰められるか、お前に家督が譲られて私達が隠居するまでそんな日は来ないと思っていたぞ」

「結局お母様はあたし達にまだ愚痴を言い足りなくて来たわけ?」

「そうではない、渡す物がある」

 

 お母様が可愛らしい服の懐から布の包みを取り出す、白い布地をゆっくり開くと中から金属と鉱石を加工した装飾品が現れた。

 確かお父様と一緒に過ごす時によく見かけた物だ、伯爵夫人が身に着けるには随分と質素で古惚けた飾り物で装飾品の価値はほぼ無いのがそっち方面に疎いにも分かる。

 

「これを持っていくと良い、何かしらの加護がお前達の身を護る筈だ」

「あ~、何度も見た事あるなぁこれ」

「これは一体?」

「まだリーアが生まれる前になるか、リオンが私の安産を祈願して特別に製作してもらった御守りだ」

「……普通こういうので安産祈願の御守りっておかしいと思うんだけど」

「確かに」

「侮るんじゃないッ!確かに作られた理由は安産祈願だが効果は確実にあるんだぞ!私の魔法も属性強化で底上げされたものだ!」

「何で安産祈願にそんな加護が付与されてんのよ…」

「おそらくはリオンが神殿に多額の寄付をしたから向こうもそれなりに気を回したんだろう」

「出立前に交わす会話が両親の惚気ですか、流石にそういった話は暇な時に…」

「だからそうではない、お前達が無事に帰還できるようにこれを持っていけ。決して無駄にはなるまい」

 

 御守りをまた布で包んで差し出される、お母様が私達を心配してるのが伝わってきた。

 まいったなぁ、出立の前にこういう事されたらどう反応すればいいか分からなくなるじゃないの。

 お母様を救いたいと思ってるのは本心だけど、自分の将来についてお父様とお母様に口出しさせないぐらい力を持ってると証明したがるあたしがガキに見えちゃうでしょうが。

 どうしたらいいか分からなくなっててライオネルに視線を送った、向こうもあたしの方を見てる。

 何かお母様を安心させる方法がないか考えるけど、気が利いた言葉なんてすぐ思い浮かぶもんじゃない。

 

「……じゃあ、あたしが持っていきます」

「壊さないよう丁重に扱え。必ず返すんだぞ」

「お母様の大事な物を手荒に扱ったりしないわよ」

「そうじゃない、必ず生きて戻り私に返せ。いざとなれば逃げ帰っても構わん」

「だから止めてよ、そんな風に言われたら決心が鈍るわ」

 

 あたし達より背が低くなったお母様が必死に背伸びして手を伸ばす。

 とりあえず屈んでみたら小さかった頃と同じようにお母様が何度も頭を撫でてくる。

 小っちゃい女の子が昔の記憶と同じような行動をする目の前の女の子がお母様本人なのが伝わってきた。

 こうやってしんみりした空気に浸ってると決心が鈍くなっちゃう、だけどどうしても止める気にはなれない。

 あたしだって今回の作戦が危険だと頭の中できちんと理解はしてる、これがお母様と顔を合わせる最後の機会になると思ったら名残惜しくなっても仕方ないでしょ。

 

「……家を出るまで見送る、準備は万全だな」

「はい」

「もちろん」

 

 返事をして部屋を出ると狭い家だからすぐお父様の姿が見えた、椅子に座って不機嫌な顔をしてるのはお母様を説得するのに苦労したせいかしら?

 そう思ってたらお父様の後ろでリーアが見えた、こっちも何か不満そうに頬を膨らませて兵長に宥められてる。

 あたしも他人の事を言えた義理じゃないけど、バルトファルト伯爵家の兄弟姉妹は問題児の集団ね。

 

「何やってんのよリーア?」

「俺も父上に同行するって言ったら父上に止められたんだ!」

「……そりゃそうだろう」

「兄上と姉上は認められたのに!俺だって活躍できるぞ!」

 

 その言葉にますますお父様は不機嫌になって兵長は困り果ててた。

 まぁ、そりゃそうでしょ。

 確かにリーアは男だから成長すればあたしよりも強くなれそうだし、子供達の中で一番お父様に似てる。

 一番お父様を慕ってるから一緒に行動したい気持ちは分かるわ、だけど絶対に許されないでしょ。

 あたしとライオネルはバルトファルト領で訓練も受けたし、王立学園の講義で実際にダンジョンの探索を経験してる。

 リーアも一緒に訓練を受けてたけど、学園の入学は数年後で冒険やダンジョン探索なんてした事もない。

 足手纏いになりそうな子供二人に確実に足手纏いになる子供を追加したら流石のお父様もどうしようも無くなるわ。

 

「止めるんだリーア、何度も説明しているだろう」

「母上、でも…」

「これ以上リオンの手を煩わせるな、そう言ってるのが分からないか」

「…………」

 

 あ~、こりゃ説得は難しいわね。

 六人兄弟姉妹で一番性格が似てるのはあたしとリーアだけど、それでも年齢や性別の差で埋めきれない違いがあった。

 何だかんだ文句を言いつつも、あたしとお母様は生まれた家の長女という境遇のおかげである程度は共感も持ち合わせてる。

 口喧嘩も多いけど互いに遠慮や気遣いも持ち合わせてる、だけど男でまだ幼さが残るリーアにその辺の機微は分かんないでしょうね。

 普段はもうちょっと聞き訳が良いんだけど、こんな状況でお母様が縮んだからリーア抑え込めない。

 だからリーアを説得する人、お父様とリーアを仲介する人が居ない泥沼。

 しかもお母様も手がいっぱいでお父様を宥めるには不十分、お父様の機嫌は悪くなる一方ね。

 だったらあたしが大人しくさせますか、うちで一番喧嘩してるのはあたしとリーアだし。

 そう考えてリーアに近付こうとしたらあたしより先にリーアに近付た奴が居る。

 またしてもライオネルだ、何か今回の件でやたら目立つようになったわね。

 

「リーア、この任務が危険なのは分かってるね」

「もちろんッ!だから俺も父上や母上を助けたくて!」

「これから父上と僕達はダンジョンに向かう、リーアには留守番を任せたい」

「留守番なんて嫌だ!」

「よく聞くんだリーア、ここには小さくなった母上だけじゃない。妹のロクサーヌとメラニーに弟のディランだって居るんだよ」

「それは…」

「リーアは自分を母や妹弟を護れない、自分でそう言ってるのかい?」

「違うってば!」

「ならちゃんと父上と僕達が戻るまで頑張ってくれるね」

「……分かったよ兄上、ごめんなさい父上」

「もし父上と僕が戻らなかったらリーアが次期バルトファルト伯爵になるんだよ、責任を持って行動しなきゃ」

「俺は領主になりたい訳じゃないよ、みんな無事で屋敷に帰りたいだけ」

「僕も同じだよ、父上と母上もそうでしょう」

「……まぁ、そうだな」

「リオン、子供に促されるとは情けないぞ」

 

 何か良い感じに場が纏まってる、これは間違いなくライオネルの手柄ね。

 あたしだけ成長してないみたいに感じてムカついたから軽く爪先を踏んでやった、分厚い拵えの軍用靴には何の傷も付けられないけど。

 怪訝な表情を浮かべるライオネルを無視して玄関の扉へ向かう、のろのろとした動きのお父様とライオネルが慌てて付いてくる。

 

「じゃあ行ってきますお母様」

「皆、無事に帰って来るんだぞ」

「分かりました」

「兵長、護衛を頼む。なるべくアンジェの意思を尊重してほしいが人命優先だ、場合によっては浮島からの脱出や敵への投降も現場判断として任せる」

「はっ、了解しました御当主」

 

 雰囲気がひどく物々しくて、これから命のやり取りをするかもしれない状況に恐怖や焦りもある。

 だけど心の奥で気が昂ってるのを止められない。

 今まで一度も感じた事の無い熱をで全身が扱った。




アリエル視点のお話です。
キャラ造詣としてアリエルはアンジェの冒険者部分や苛烈を強調し、令嬢部分を弱めたイメージです。
恋愛面に関しては意外にも自分の評判を正確に把握してるので特に結婚願望を持たず仕事に生きる女性になれます。
今作のホルファート王国に於いて社会構造の変化によって生まれた新世代の女性像です。
次章は王都の現況、原作キャラがたくさん登場予定。

そしてめでたく本日発売のドラゴンエイジにてモブせか共和国編コミカライズ開始!
2話同時掲載で各々のキャラが嬉しい、アンジェの出番もちょっとあった!

追記:依頼主様のリクエストによりJJuneジュン様、MAGIKFLAAN様、白様にイラストを描いていただきました。
本当にありがとうございます。

JJuneジュン様 https://www.pixiv.net/artworks/133577912(成人向け注意
MAGIKFLAAN様 https://www.pixiv.net/artworks/133591995(成人向け注意
白様 https://www.pixiv.net/artworks/133611089(成人向け注意

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