婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです 作:品☆美
王宮が王制国家の権威を象徴する代表的な建築物なのは間違いない。
非常時には要塞として機能する立地条件、王宮を構成する数々の高級建材、精緻な建築技術と壮麗な彫刻。
資産と物資と人材を余す所無く用いて建造された王宮は他国からの来訪者に対しての威圧、自国民に対しては王家の威容を示すには最適と言えよう。
正面玄関付近で待機していた王宮警備兵達は来訪者の存在を確認すると一斉に準備を開始する。
王宮とは単に王族が暮らす居住するだけが目的はない、国政を司る執政機関であり来賓を歓待する外交の場でもあった。
来訪者の全てが正面玄関から王宮に入る訳ではなく、閣僚や近衛兵などは各々が専用の出入口が存在し身分の貴賤を問わず検査を受ける。
出自を鑑みれば今回の来訪者は王宮に足を踏み入れる事すら叶わぬ身分だった、正面玄関に達するどころか門に近寄る事さえ出来ず追い返されても文句は言えない。
しかし出迎える王宮警備兵達の殆どは神妙の面持ちで来訪者を待ち構えていた、彼らの中には貴族出身の者も多いがこの来訪者に対し誠意を以って傅く必要がある。
ある者は崇敬、別の者は恐怖、また他の者は僅かな敵意を滲ませると反応は各々で違っている。
唯一の共通点は相手の存在が己と比較にならない程に強大だと認識している事のみ、それも来客の素性を考えれば仕方ない反応であった。
この場に居る王宮警備兵のみではない、上は数年前に即位した国王から下は貧民街の犯罪者に至るまでホルファート王国の民全員が少なくとも二度は彼女によって命を救われている。
二十年近く前に行われたファンオース公国との戦争、その数年後に起きた国家の存亡を賭けた総力戦に於ける彼女の功績は絶大である。
第一次ファンオース公国戦争では仲間と共に敵軍司令官であるヘルトルーデ・セラ・ファンオース公女を討ち取り最も戦功を挙げた者として賞賛を受けた。
第二次ファンオース公国戦争では王家が秘蔵するロストアイテムの飛行船を用いて敵軍を委縮させ敵軍司令官ヘルトラウダ・セラ・ファンオースの捕縛に成功し、ファンオース公国がホルファート王国に併合される切っ掛けとなる。
もしも彼女が存在しなければファンオース公国との戦争はどうなっていたか?
終始劣勢のまま内通者や逃亡者が続出したホルファート王国に勝ち目などありはしない。
成人した男は身分や年齢に関係なく全員が処刑場に晒される躯と化し、女子供は身分を剥奪された後に奴隷として生きる事を余儀なくされる筈だ。
王侯貴族は率先して処断され豊かな暮らしどころか最低限の暮らしさえ保障されないほどファンオース公国が抱いていた敵愾心は強かった。
どれだけ彼女を平民出身の聖女と謗った所で情け容赦ない敵国から王国を救った事実に変わりはない。
逆に平民に護られる王侯貴族に存在価値はあるのだろうか?
彼女の存在は王制国家であるホルファート王国にとって英雄でありつつながら最も危険な存在として周知されていた。
王宮の正面玄関には来賓用の絨毯が敷かれ、整列した王宮警備兵達は不手際が無いか気を払いつつ姿勢を崩さない。
やがて門の方角から何かが接近する音が徐々に大きくなり、視界に入る小さな影の輪郭は徐々にはっきりとした物へと変化してゆく。
影の正体は豪奢な装飾が施された馬車であった、王宮に比べたら微々たる物であろうが此方も相応の資金を費やして作られた物だと一目で分かる。
馬車が正面玄関の前で止まると専用の係が儀礼に則って乗降用の台座を置き恭しく下がる、すると御者台から降りた一人の青年が馬車の扉を軽く叩き目的地へ到着したと内部の者に知らせた。
開かれた扉から現れたのは二人の女性、法衣を纏う彼女達の姿は物を知らぬ者達にさえ確固たる意志と豊富な知識を備えた女性だと一目で分かる威圧感を備えている。
国王よりも名が知れ渡り民の崇敬を一身に集める聖女、それがオリヴィアという女だった。
聖女が王宮に突然の来訪、と思うのは何も知らない者達の心境である。
如何に聖女オリヴィアが王家に絶大な貸しを作っていても、王の招聘が無ければ王宮に足を踏み入れる事は出来ないと規則で決められていた。
つまり国王は何らかの目的があって聖女を招いた事は確実、しかし何の目的で招いたかは見当がつかない。
この数年間のホルファート王国は穏やかな平和を享受している、他国との折衷や権力争いはあっても血で血を洗うような事態は起こっていない筈だ。
かと言って何らかの慶事や催しが行われる節目の年でもない、その事に王宮内の者は首を傾げる。
だがそれは国政に関りが少ない者達の反応であり、要職に就いている者達は日が昇る前からある用件について忙しく動いていた。
昼過ぎから行われる緊急会議まであと数時間、招かれた者達は会議をどのように進めるか足早に裏工作を始めている事だろう。
「どうか此方でお待ちください聖女様」
「ありがとうございます」
「失礼いたします」
来賓用の控室に案内されたオリヴィアは使用人に礼を述べるとソファーに腰を下ろす、その優雅な身の熟しから感じられる気品はとても平民出身とは思えない。
彼女が聖女の地位に就任してから既に二十年近く、既に平民の娘として生きた月日よりも救国の聖女として扱われる日々が長くなっていた。
貴族達がどれだけ己の血統を誇ろうが品性とは本人の気質と教育による賜物であり、どれだけ先祖の功績を声高に叫んでも子孫が素晴らしい人物とは限らない。
戦後のホルファート王国は血統主義の偏重と領主貴族達に対する過剰な締め付けが国家存亡の危機を招いたと過去の失政を認めざる得なかった。
早急に国力を回復する為には長年に渡って冷遇していた領主貴族の地位を引き上げ、身分を問わず有能な者を登用する政策を施行する以外に無い。
他にも国家運営の金融機関の設立や軍制度の改革を始めてから約十年、併合した旧ファンオース公国との融和も進みホルファート王国は嘗てない繁栄を謳歌している。
しかし、それは必ずしも王家の力が増したという訳ではない。
今の王家は先王の頃に比べ権威に陰りが見え始めた事は在りし日を知る者達の殆どが認める事であった。
「オリヴィア様、何人かの貴族が面会を求めているみたいです。如何いたしましょうか?」
「恐らく会議前に自分達にとって都合が良い情報をオリヴィア様に吹き込んで味方になって欲しいのだと思われます」
報告を行う二人の側近、女官長マリエと秘書カーラの報告を聞いたオリヴィアは両目を瞑り嘆息する。
政治の世界ではこうした根回しは珍しくないとは言え、政治的な意図があまりに露骨過ぎる上に全員と面会する時間はとても確保できそうにない。
かと言って面会する者を選べば面会を拒否された者から恨まれる、表面上だけは友好的な付き合いを望みながら権力欲を隠そうともしない貴族達には聖女に就任してからずっと辟易させられる状態だ。
宮廷だけではなく神殿入りを望むうら若き乙女達の多くも内心では『平民出身の聖女』と蔑みながらホルファート王国で最も尊ばれる女に取り入る為に必死な姿は神殿の空気に欲が沈殿していくように感じる。
関係を求められるのはオリヴィア本人とは限らない、嘗ては無理やり悪事に加担させられたカーラを非常にも切り捨てた実家のウェインは娘が聖女の側近となった途端に和解を求め始めた。
実の両親や兄姉に冷遇され貴族らしい教育すら受けさせて貰えず置き去りにされたマリエに至っては一度も顔を合わせず名前も聞いた事が無い親戚を自称まで現れている。
どうやら気高い貴族様にとって誇りとは立場の強い者に媚び諂い、弱い者に対し血筋や身分を盾に強硬的な態度の理由付けに過ぎないようだ。
そのような者達が多い中で稀にだがオリヴィアの理想に共感して神殿の門を叩く平民の娘や王国をより良くしたい貴族も確かに存在する。
ひたすらに悪徳の芽を摘み善意の種を植えるという地道で過酷な行為を始めて約二十年近く。
信頼できる仲間が居なければとっくの昔に心が折れていただろう、その結果として神殿の汚濁はほぼ除去できた。
神殿の調査を行い不正を働く神官や女官を少しずつ免職し、腐敗の元締めであり聖女を金蔓としか思っていない大神官は新王が即位した際に行われた告発によって今は塀の中に収まっている。
此処に至るまで十年以上の時間を費やしたがこれが終着点ではない、漸く出発点に立てたというだけ。
「お断りしましょう、会議前に突然の招聘で準備が済んでいませんと伝えてください」
「分かりました。しかし連中はいつまでも懲りませんね」
「それだけ家の存続に必死なのでしょう、今は貴族が繁栄を謳歌していた頃と違いますから」
嘗てのホルファート王国は家柄によって人生が決定され、多くの領主貴族や下位貴族はどれだけ望んでも国政の中枢に近付く事さえ難しかった。
逆に宮廷貴族はどれだけ能力に乏しく劣悪な人格であっても政治に関与できる状況が窮まっており、その結果が政治の腐敗となって政治を蝕み続け滅亡以外の道は残されていなかったのだ。
旧ファンオース公国との戦争の数少ない功績は腐敗貴族の姿を露わにした事であろう。
戦死者と断罪された腐敗貴族によって出来た空席は優秀で勤勉な者に与えられ、刷新された政治体制によってホルファート王国はどうにか持ち直せた。
そうして身分が低くとも優秀な者が採用され続ければ、家柄を頼りにする者は次第に追いつめられるのは自明の理だろう。
優秀な当主や嫡子が居ない貴族は生き残る為に必死で権力者に阿るようになった、其処に貴族の誇りなど存在しない。
足を差し出せば喜んで舐め始めそうな貴族の顔など見たくもない、ただでさえ緊急会議で話し合われる内容を考えれば心労を減らしておきたかった。
「侍女に軽食でも頼みましょうか?」
「そうですね、お願いします。今日の会議は長引きそうなので何か食べておかないと」
「分かりました、王宮の雰囲気は嫌いですけど食事だけは美味しいのは救いですね」
「それは単にマリエさんが自分も食べたいだけでは?」
「違います、これはあくまで毒見です」
「取り敢えず四人分、いえ五人分を用意してもらいますか」
扉の外に待機していた王宮仕えのメイドに声を掛けて食事を頼む、暫くすると軽食どころではない質と量の料理が部屋に持ち込まれる。
嫌がらせではなく単純に聖女を崇敬する者達の心付けだろう、断るのも流石に悪いので残さず食べるのが相手に対する礼という物だ。
一人分の料理が女官長であるマリエ目の前に置かれると僅かな時間で料理が盛られた皿は空にされる。
行儀良く水を口に含んだマリエの反応から毒が仕込まれていない事を確認すると他の三人も食事を始める、マリエも毒見用の料理とは別に自分が食べる分の料理に手を付けた。
本格的な料理を食べ終えた後は甘味と茶を嗜むのが王宮で振舞われる食事の定番だが、今日は少し給されるのが遅い。
訝しんだカイルが席を立つと申し訳なさそうな表情のメイドが入室して何かを耳打ちした。
顔を顰めたものの取り乱す事無くカイルが頷き返す表情を明るくしたメイドは行儀良く退室する。
その頬が少し赤らんでいたがエルフの青年は何事も無かった様に席へ戻った。
「カイル君も罪な男だよねぇ」
「何の話ですか?」
「さっきの娘、あれは君に色目を使ってたわ」
「興味ありません、むしろ迷惑です」
「まぁ、たくさんの女の子に言い寄られて鬱陶しく感じちゃうのは分かるけど」
「王宮だけじゃなくて神殿もそうですよ、女官や聖女見習いの娘が新しく入る度に付き纏われて仕事が思うように出来ません」
「でも神殿入りするのに男に惑わされるような軽薄な娘を選別する方法には打ってつけよ。これもオリヴィア様の御為だと考えて我慢しなさい」
「恐れ多い事に僕をオリヴィア様の愛人だと陰口を叩く輩さえ居るんです、とにかく不快で堪りません」
カイルの発言に三人の女達が思わず笑い声を発した、普段は聖女に相応しく微笑むオリヴィアも例外ではない。
彼女達にとってカイルは歳の離れた弟のような存在である。
エルフは人間と負い方が明確に違う、若い青年に見えても実年齢は言い寄る娘の親どころか祖父母を軽く越える事も珍しくない。
だが特殊な生まれのカイルはほぼ人間と同じ速度で成長する、美しさと逞しさを備えた美青年に育っても聖女達には仕え始めた頃と同じ生意気な少年のままだ。
「あ~、私も言われたなぁ。胸がぺったんこな嫁き遅れのチビ女がエルフの美青年を囲い込んでるって」
「私だって陰気な秘書が同僚のエルフと深い関係じゃないかって何度も疑われましたよ」
「今の神殿は俗世と切り離されて娯楽が少ないからねぇ。若い娘は噂話をするぐらいしか憂さ晴らしが無い訳ね」
「……御二方はそれで良いのですか?」
「別に良いのよ、偉くなったら見ず知らずの誰かに悪く言われるなんてよくある事なんだから」
「私もマリエさんも還俗する気はありませんし。生涯を神殿でオリヴィアにお仕えするのも悪くないと考えています」
「まぁ私に見合うだけの男が居るなら考えても良いとは思ってるわ。どうかしらカイル君、三十代の年増おばさんだけどお嫁に貰ってくれない?」
「冗談でも止めてくださいよ」
「あ~、照れてる照れてる」
聖女に最も近い男性と言われてるカイルは容貌と職務から周囲の羨望と嫉妬を一身に受けていた。
嘗て貴族の専属使用人として扱われたエルフに対する偏見は亜人がホルファート王国の民として戸籍を認められた後も根深く残っている。
更に同族であるエルフからも生まれのせいで忌避され続け、幼少期を過ごした故郷に対する想いは半ば色褪せてしまった。
カイルにとって重要なのは幼い自分を救ってくれたオリヴィアに対する忠節、そして故郷に残してしまった母への後悔の二つだけだ。
「それで、あのメイドは何を言ってきたの?」
「あの人達が此処へ訪ねてくるそうなので、面会するかと聞かれました」
「なるほどね。お偉方との面会は断るくせに元仲間が尋ねると聖女様はすぐお会いになるとか言われそうね」
「そんな嫌味を正面から言える度胸があるならやってみなさいよ。相手によってころころ態度を変える臆病者だから信用されないっていい加減に気付いて欲しいわ」
「皆さん、あまり悪く言い過ぎるのも酷ですよ」
癖が強過ぎる部下達に対し聖女が苦笑いを浮かべつつも戒める。
学生時代から勤勉で真面目なオリヴィアは自分の基準で他者の善性を見積もりがちであった。
故に民衆は清廉な聖女と讃えるが、政に於いては自身の利益を公的な利益と偽る悪辣さこそ正義。
没落した子爵令嬢、実家を放逐された娘、そして同族から迫害されたハーフエルフの青年。
世の辛酸を舐めてきた者達だけが生き残る為に備えた悪意に対しての嗅覚はお人好しの聖女にとって無くてはならない物となった。
故に聖女は部下達の悪口雑言に戒めながらも止める事が難しい。
コンッ コンッ コンッ
食後の茶を嗜んでいると扉が数回叩かれる、どうやら待ち人が訪ねてきたようだ。
既に入室の許可をしていたので返事をするまでもない、開かれた扉から現れたのは壮年の男が四人。
彼らの威容は上等な衣服に全く呑み込まれていなかった、むしろ周囲を威圧するような彼らの存在感を華美な衣服が枷となって圧し留めているような錯覚さえ周囲に与えている。
ホルファート王国の者なら誰しも彼らの名を聞いて尊敬の念を抱くか、或いは恐れ慄いて自身の存在を隠そうとするだろう。
各々が若くして王国の要職か打ち立てた功績により名が知れ渡っている、その中で最も有名なのは『救国の英雄』という呼称だ。
ホルファート王国近衛騎士団副団長クリス・フィア・アークライト。
ホルファート王国諜報機関第二室長ジルク・フィア・マーモリア。
ホルファート王国軍遊撃部隊隊長グレッグ・フォウ・セバーグ。
フィールド辺境伯軍指揮官ブラッド・フォウ・フィールド。
嘗て聖女オリヴィアと共に国を護り讃えられた四人の英傑達であった。
「なんだよ、もう食い終わったのか?」
「グレッグ様なら何時でも王宮や夜会で上等な食事を味わえるでしょう」
「いつもは軍の食堂か飛行船の艦内食だ、美味い物は食える時に食っておきたいんだよ」
「だったら王宮務めの官職に就きたまえ。君程の裁量ならばどの道を進んでも出世は思いのままだ」
「それはお断りだ、俺は軍人として冒険者として生きたいからな」
「王宮務めのマーモリア卿とアークライト卿が此方に来る事は分かっていましたが、自由人なセバーグ卿はともかくフィールド卿までお越しになるとは思いませんでしたわ」
「ちょうど僕の父上が王都に用件があってね、もうすぐ行われる緊急会議には父上も参加する予定だからその付き添いさ」
「貴方が来ると周囲の娘達が騒ぎ出して面倒ですから引っ込んでて欲しいのですが」
「すまないなマリエ君、これも僕が美しい故の罪だ」
「その無駄にキラキラな御顔に布でも巻いておけばよろしいかと」
「来たのは四人、ファンオース公爵は不在でしょうか?」
「緊急会議に彼は出席しません、急に決まった会議ですし領地を治めるのに忙しいでしょうから」
「前に在った時はやっと待望の嫡子が生まれたから張り切って仕事してたな」
「まぁ、それ以前に陛下はファンオース公爵に対しあまり良い感情を持っていらっしゃいませんから…」
救国の英雄と呼ばれる男達は五人、その筆頭格が嘗て王位継承権第一位だったユリウス・ラファ・ホルファートであった。
しかし彼は自身が起こした問題の責任を取って臣籍降下し、今は元敵国である旧ファンオース公国領を新たな公爵として納めている。
嘗て公国の統治者だったヘルトラウダ・セラ・ファンオース公女を娶り、ファンオース公国という存在がホルファート王国に併合された事を知らしめ叛乱の芽を挫く事が目的であった。
そうしてユリウスが王位継承権を放棄した事で空席となった王座に得たのは先王が側室に産ませた王子の一人である。
他国から嫁いだ正妃の子が誰も王位に就かない異常事態は陰惨な政争を巻き起こす、其処には史書に記されぬ暗闘が存在した。
現王は王座に就く為に聖女の協力を求めたのは当然の成り行きであった、そもそも異母兄のユリウスが臣籍降下せざる得なかったのも聖女が絡んだ騒動が原因である。
故に聖女に対して現王は強硬な姿勢を取れない上に、公爵となったユリウスには劣等感や憤懣を抱いて国政から遠ざけようとする動きがあった。
聖女達も現王から冷遇される嘗ての仲間を救いたい気持ちは持ち合わせていたが、だからと言って安定した王国に新たな騒乱を起こす事は望んでいない。
唯一の救いはユリウス本人が現状を受け入れて自領の統治に専念している事だろう、元公女と結婚してから十年以上経って漸く生まれた我が子の為に今は粉骨砕身していると聞いている。
「フィールド辺境伯だけではありません、レッドグレイブ公爵も此度の会議に参加されます」
「筆頭領主貴族の彼は参加する事は珍しくないでしょう?」
「問題は彼本人ではなく、彼の妹と義弟に関した事です」
レッドグレイブ公爵家は新王の即位と同時期に先代のヴィンス・ラファ・レッドグレイブが引退し、嫡子のギルバート・ラファ・レッドグレイブが滞りなく当主となっている。
王家に比べ然したる問題も無く引継ぎを済ませたレッドグレイブ公爵家が問題を起こすとはとても思えない。
そんなギルバートの妹、そして義弟の聞いて聖女と四人の英雄は顔を僅かに歪ませた。
彼女達にとっては因縁が深い二人だからである。
「バルドファルトの夫婦が何か起こしたのかい?」
「彼らが起こしたと言っていいものか迷いますね…。実行したの彼らでも協力を要請したのは私達ですから」
「私達は会議までに詳しい状況を把握し、早急な対応をしなければいけません」
「また聖女が手下と一緒に政治に嘴を突っ込んでくると嫌味を言われるな」
「仕方ありません、十年以上もかけた私達の努力が無に帰そうとしてるのですから」
そう告げるオリヴィアの言葉には有無を言わさぬ力が宿っている。
屈強な男達に囲まれても気圧されない胆力を備えているからこそ平民出身でありながら今日まで神殿を統括する聖女として君臨できる理由が周囲に示された。
世界をより良き物に、分別のある大人なら一笑に付すような青臭い理想を今も掲げ猛進するからこそ彼女は国を救えたのだ。
「では会議が始まる前に為すべき事を為しましょう」
久々に登場した聖女グループと英雄4人です。
大まかなホルファート王国の現状解説回、次章は王都にオリヴィア達の方針が語られます。
現国王はユリウスの異母弟になりますが、誰なのかは敢えて明言は避けています。(最も可能性が高いのは第二王子でしょう)
ユリウスの現状は原作本編のヘルトルーデ+マリエルートのヘルトラウダの状況から構成した物です。
ギルバートはヴィンスから爵位をスムーズに引き継いでレッドグレイブ家当主になったので特に問題ありません。
ヴィンスは時折訪ねてくるアンジェの子に対し甘いと考えてます。
追記:依頼主様のリクエストによりコタ壺様、SH339様にイラストを描いていただきました。
また9430様に以前に頂いたイラストがpixivに投稿されました。
本当にありがとうございます。
コタ壺様 https://www.pixiv.net/artworks/133843613
SH339様 https://www.pixiv.net/artworks/133981005(成人向け注意
9430様 https://www.pixiv.net/artworks/134030757
ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。