婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです 作:品☆美
なるべく目立たないように道を注意しながら歩き続ける。
自然に出来た物にしろ、人が作った物にしても『道』ってのは草原や森に比べて格段に歩き心地が良い。
疲労が少なくて時間もかからないとなりゃ使わない方がどうかしてると誰もが考える筈だ。
それは同時にもしも本気で誰かと敵対した場合、こっちの進行方向が相手に分かりやすいって事でもある。
諜報活動や潜入捜査をする時にわざわざ分かり易く人目に付きそうな玄関から忍び込む奴は居ない。
目的地をそれとなく探って入り易い窓や裏口から侵入ってのが盗賊や密偵の作法ってもんだ。
ぼんやりそんな事を考えながら後ろにも気を配る、我が家の長男と長女は文句どころかお喋りもせずに黙々と足を動かしてた。
こいつらは性格が全く似ていない双子の兄妹だけど二人きりにさせると延々と会話を続ける。
話の内容が大したもんじゃないのによくもまぁ喋り続けるもんだと感心するが今日に限っては一切無い。
普段通りの行動をしないのは今が非日常的な場面だと自覚して指揮がし易いのと同時に過度の緊張で体の動きが鈍る原因にもなる。
初戦闘の新兵を指揮するってのはいつの時代でも難しい、それが自分の子なら尚更だ。
「止まれ」
小さな声で二人を制止させると荷物を下ろして近くにあった登り易そうな木の枝に指を掛ける。
そのまま節だらけの木に体重を乗せて耐久力を確認、両手と両足を連動させひたすら交互に動かす。
戦士と兵士じゃ必要な能力や技能が明確に異なってる、戦士に必要なのは個人の強さで兵士の場合だとしぶとさが最重要ってのが俺の持論だ。
つまり歩く、走る、昇る、跳ぶ、泳ぐという身の熟しや基本動作の精度が良いほど兵士の質が上がる。
どれだけ銃火器が発展して高性能化した鎧を中心に据える大規模戦争が行われるようになっても、最小単位で最多数なのが兵士なのは変わらない。
むしろ兵士の運動機能の底上げこそ集団戦闘や鎧操縦に繋がると王国軍の軍事改革に協力した頃からずっと主張してきた。
結果としちゃ手応えはいまいちだったなぁ、特に貴族出身のお偉方は「貴族の子息に早駆け木登り水練をやらせるつもりか!」と渋ってた。
それで仕方なく自分の所の領軍にやらせてみたら今度は「軍を精強にして謀反でも企む算段をしている」とか言い出すんだもん。
どうしてお偉方は頭が固いくせに爵位が下の連中が手柄を出すのを嫌がるのか、だったらお前らも必死に頑張れって。
阿呆な事を考えても手足は動かす、そうして数十秒が経った頃には見晴らしが良い位置まで登り終えた。
ここから目的地まではほぼ一直線で開けた場所だ、もし俺が敵なら此処で待ち伏せするのが一番効果的だと考える。
本当なら遠眼鏡を使いたいんだけど何しろエルフは目と耳が良い、こっちが相手の動きを探ろうとして逆に見つかる可能性を捨てきれなかった。
だけど今の俺にはちょうど使える奴が居る、こいつが居るからこそ無茶な作戦を立てちまったとも言えるけど。
「おい球っころ、傍に居るか?」
『…………』
「居るなら返事ぐらいしろ」
『聞こえていますよ、リオン・フォウ・バルトファルト』
このロストアイテムはつくづく愛想が無い、そのくせ減らず口の語彙だけは千年以上も倉庫で引きこもってたくせに豊富に揃えてるから厄介だ。
機械にそんな物が感情があるのかは疑問だけど長年の付き合いを続けていると何となくこいつの気分らしい物が高揚しているような雰囲気を出してるのが分かる。
あの遺跡はこいつと同じ陣営に作られた可能性が高いらしい、つまり久しぶりに会う同胞って訳だ。
感動の対面にしたいんだろうがこのロストアイテムを作った連中はどうも今の人類を滅ぼしたかったと聞いている。
だから本心を言えばこいつと遺跡を合わせたくない、下手に意気投合された日には世界最期の日だ。
でもアンジェを元通りにするにはこいつが必要不可欠だし、もしも遺跡を利用したエルフの悪巧みを潰すにも協力してもらわなきゃならん。
まったく、どうして俺の所には厄介事ばかり舞い込むんだ?
「……遺跡が見えるか?」
『確認できます、何らかの封鎖をしているようですが周辺に人間及びエルフの痕跡は見当たりません』
「どっかに隠れてる可能性は無いか?近付いた俺達を遠くから狙撃してくるかもしれない」
『光学視認及び熱反応探知で人間を含めた大型生物は存在しません。この森林に覆われた場所で障害物を物ともしない狙撃能力をエルフが備えてるなら別ですが』
「分かった、お前を信用する。木に隠れたエルフに後ろから撃たれるのは嫌だからな」
何しろ遺跡は手入れが行き届いている上に周りは森林で隠れる場所が幾らでもあった。
俺が作戦立案するならこの場所を使う、自分に思い付く事が相手には無理と油断して大敗した軍師や参謀なんて兵学書には珍しくない。
取り敢えず木から降りて双子に声を掛けた、アンジェと他の子供達が心配だから時間をかけ過ぎるのは逆に悪手だ。
少し森の中を歩くと開けた平地に到着する、その中心にあるのが遺跡の入り口だ。
流石にデカい入り口を数日で塞ぐのは無理だったか、鎧を土木作業に使えば作業は楽だろうが大雑把で後片付けが難しい。
入り口付近に木や鉄の棒を組み合わせてた急ごしらえの柵を作り、ご丁寧に頑丈そうな鎖と錠前でガチガチに固めてあった。
これなら普通の観光客は諦めて帰るだろう、だけど冒険者対策なら想定があまりにも生温い。
盗掘者や犯罪者紛いな冒険者ならこんなの注意書きにもならねぇぞ。
とりあえず柵の扉に巻かれてる鎖を軽く観察、太さはそれほどじゃない上に緩んでる箇所があった。
こんなのは障害物の範囲じゃない、道端に転がってる小石程度の邪魔な置物だ。
愛用してる大型ナイフを鞘付きのまま鎖が緩んでる場所に差し込んで巻き付ける、準備はそれだけで終わり。
後はねじ巻きの要領でひたすら力を込めていく、それまで緩んでた鎖が徐々にピンっと張ってもひたすら力を込め続ける。
やがて力を加えられ続け変形した鎖の一部が外れて地面に落ちる、観察から破壊まで二百秒もかからなかった。
「……お父様、何か手馴れてるわね」
「暫く黙ってたと思ったら言う事がそれかよ」
「いや、だってこういうのは銃で錠前を壊すとか斧で鎖を叩き切るのが定番じゃない」
「絵物語の読み過ぎた。銃で壊したらデカい音が出るし破片が飛び散る。携帯用の斧は便利だがどうしても荷物が嵩張るから今日は持って来てない」
「それにしたってやたら行動が手早いというか」
「ぐだぐだ無駄口を吐くな、さっさと行くぞ」
「あっ、ちょっと待ってよ!」
手馴れてる理由が何十回と冒険を熟してきたならカッコいいんだけどな。
実際は軍の斥候やら破壊工作やら諜報活動やらばっかでやたら後ろ暗い経験しか積んでない。
盗掘者同然で古代の遺跡から宝を掘り当てるのは持て囃されるのに、今を生きてる連中から黙って金を拝借するのは泥棒扱いされる。
世の中ってのはいろんな事が曖昧で、法と犯罪の境界線はその時々で変わる。
今回に関しちゃ遺跡の周りに誰も居なくて助かった、もし警備してる奴らが居たら戦闘は避けられない。
余裕がなら一人ずつゆっくりと気絶させられるんだが、今はライオネルとアリエルが二人同行してる上に時間が押してる。
一番単純な解決法は相手を殺すやり方だがなるべく避けたい、流石に我が子の前で人殺しは避けたいってのが父親としての正直な気持ちだ。
「…………」
「父上、どうかしましたか?」
「……いや、何でもない」
遺跡の入り口を護るエルフ、或いは人間が一人も居ないのが妙に意識に引っ掛かる。
そもそも今回の騒動の切っ掛けはこの遺跡から始まった。
観光資源にしてる現村長にしろ、何やら悪巧みしてる前村長にしても遺跡というロストアイテムの塊があるから茶を通せる。
言ってみればここがエルフ達の生命線だ、その入り口を護る奴が一人も居ないのは流石にマズいと考えるべきなのが普通じゃないか?
俺が襲ってきた奴らを叩きのめした騒動の収集に追われてそっちに人手を回してる可能性は?
それもありえる、もし俺達を探してるならアンジェ達を里長の集落に預けてきたのはマズかったんじゃ?
ダメだ、想像を悪い方にばかり働かせるのは。
ここで俺が迷ったらそれこそ全ての作戦をが台無しにしちまう、
一度決めた作戦を絶対に変えようとしない指揮官は困り者だけど、逆に優柔不断で状況の変化でコロコロ変える指揮官もヤバい。
煩悶しながら遺跡の中に入ると相変わらず金属の天井と壁と床に威圧され軽く眩暈が起きる。
俺はここと似たような雰囲気の場所をよく知っていた、球っころが眠っていた遺跡と漂う空気と共通点も多かったのに。
気付かなかったのはアンジェの救出を優先して周囲への注意が散漫になった影響だろう。
この遺跡を最初に訪れた時に気付いていたらもっと上手く立ち回れてかもしれない、どうも俺は慌てると肝心な部分を見過ごす癖がある。
ウジウジ悩んでも仕方ないのは分かってるけどどうにも後悔が付きまとってくる、これも隣にアンジェが居ないからだ。
「おい球っころ、遺跡の内部は分かるか?」
『お待ちください、光学ディスプレイを表示します』
球っころの紅い瞳が光ったと思うと空中に映像が表示された、相変わらずの超技術は十年以上の付き合いでもどんな仕組みなのか全然分からん。
これを再現したら一儲け出来るんじゃないか?と試した時もあったが結果は残念な事になった。
やっぱ俺は地道にコツコツ稼いだ方が性に合ってるし確実だ。
直線と曲線で表示されたのはこの遺跡の地図だ、その中に点滅する赤い点が三つ。
「うわっ、凄い」
「球っころ、こいつらに説明を頼む」
『了解しました。表示されているのは遺跡の上層、我々の現在地が点滅しているマークの地点になります』
「所々に途切れている場所がありますね?」
『それらの場所は損傷が激しく探知不可能な地点です』
「地図を持ってこなくても良かったな、待ちで売ってるダンジョンの地図より詳しいから」
『しかし私が探知できたのは遺跡の上層までになります。以前来訪した時には下層までの探知を行うだけの時間がなかったのはリオン・フォウ・バルトファルトがアンジェリカ・フォウ・バルトファルトの救出を優先した為です』
「仕方ないだろ、ヤバかったんだから。だけどお前なら簡単に遺跡を探れそうに見えるけどな」
『上層と下層では管理システムが違います。この遺跡にとって下層こそが死守すべき物であると推察されます』
「……ねぇ、ちょっと。もう少し噛み砕いて説明してくんないかな」
「えっと、つまり上のダンジョンと下の遺跡は全くの別物と考えた方がいいんだよね」
『はい。遺跡の構造から上層は施設作業員の居住区及び倉庫、下層は研究施設だと推察されます』
「重要な施設は殆ど下にあって、上にあったのは別に大した物でもなかったって訳かよ」
『貴方達のような衰退した新人類にとっては旧人類の産物は廃棄物でも希少価値が高い物だったのでしょう』
「……ねぇお父様、ライオネル。実はこいつって私達をバカにしてない?」
『おや、この場で最も知的指数が低いと思われたのは貴女ですが、私の意図を察する程度の知能は有していたようですね』
「む、ムカつく……!」
「取り敢えず慣れろ、俺と球っころの付き合いは十年以上だがこいつの言葉にいちいち腹を立てたら疲れるだけだぞ」
球っころを睨むアリエルを放置して宙に映し出された地図を見る。
ダンジョン内部の構造に欠けた部分が所々ある上にどんな役割を持った場所なのかも分からない。
まず優先すべき問題は下層の遺跡に行く方法にダンジョン内部にいる奴らとの戦闘を避ける道筋だ。
「おい球っころ。下に行くにはどうしたら良いか教えてくれ」
『下層に繋がる昇降機は上層の崩壊が激しい為に使えない可能性が極めて高いと思われます。下層に繋がる非常用階段が数か所に設置されていますから、それらを用いるのが最も確実な方法でしょう』
「前にアンジェが落ちた穴は使えないのか?」
『あまりお勧めはしません。まず穴を塞がれている、待ち伏せされている可能性が極めて高いでしょう。さらに穴から降下した場合は位置の特定が難しく罠を仕掛けられている場合があります』
「だよな、じゃあ使えそうな階段から降りた方が良さそうだな」
『では非常用階段の場所を表示します』
宙の地図の数ヵ所に新しく青い表示が灯った、どうやら此処が非常用階段らしい。
上下左右にほぼ等間隔で表示されてる事からこの遺跡が利便性を考えて建造されたのが分かる。
どっちにしてもこのダンジョンは小さな町並みに広い、球っころが居なきゃ探索に数日かけなきゃ無理だった。
あとは手当たり次第に使える階段を探してアンジェが囚われてた部屋に辿り着かないと。
「取り敢えず片っ端から階段を当たるぞ。ライオネル、アリエル。銃を準備しろ」
「……分かりました」
「うん」
双子に準備を促すと肩にぶら下げてた散弾銃を準備し始める。
こいつらは数年前から領軍の訓練に参加していた上に王立学園の実技で銃の取り扱いを習ってる筈だ。
尤も訓練と実戦はほぼ別物だし、世界には銃器の種類は数え切れないほど存在してる。
エルフの里に持ち込んだ銃器の中で二人に持たせてきたのは散弾銃だ。
散弾銃はライフルに比べると装弾数が少なくて射程が短い上に威力も低い、だけどその代わり命中範囲が広くて実戦経験が無い新兵でも標的に当て易い。
装弾数の少なさは双子が協力し合う事で補う、その代わり威力が高く装弾数も多いライフルは俺が使う。
「作戦行動を伝えるぞ、ダンジョンと遺跡内部の案内と索敵は球っころが行う。お前なら遠くの敵も察知できるだろ」
『はい、光学カメラと熱探知で観測可能な範囲でしたら。最適なルート検索も出来ます』
「それと後方確認も頼む、何しろこっちは素人を二人も連れてるからな」
「ちょっ、ひど~い」
「隊形は俺が前方、アリエルが中央、ライオネルが後方を担当する。何か質問は?」
「はい、父上を中央に配置した方が良いと思います」
「それは俺とお前らの武器の違い、それに球っころの協力してくれるお陰だ」
肩に掛けてた愛用のライフルを取り出す、パッと見るだけじゃそこら辺の量産銃にしか見えないけど銃床の重さを減らし銃身の材料から変えた上に装弾数を増やしてみたりとかなり改造を加えてある。
武器の良し悪しで使い手の生存率は大きく変わるのはよく知られている事実だ、剣士が愛用の剣の手入れを欠かさないのと同じように俺も自分の武器に関しては手を抜かない。
射程と威力を上げて相談数を増やしたこいつならアンジェ達を襲った怪物にも確実に傷を与えられるだろうし、魔弾を装填すれば威力はただの量産銃とはそれこそ桁違いだ。
「俺の銃の射程なら遠くの敵も確実に仕留められる、はっきり言って実戦経験が足りないお前らは二人一組で行動した方が良い」
「だから僕とアリエルで固まって行動しろと?」
「散弾銃は命中率が上がる代わりに威力が下がる、人間相手なら仕留められてもモンスター相手は難しい。だから威力よりも数で勝負しろ」
「お父様は私達が二人揃って一人前って言いたい訳ね」
「文句があるならそのまま帰れ、戦場に来て子守をするほど俺は優しくない」
「……分かったわよ」
「取り敢えずは近くの非常用階段を一つずつ探しに行くぞ、絶対に味方を撃たないよう銃口を下げて射線に人が入らないよう気を付けろ」
戦闘で混乱した新兵が乱射した銃弾に当たった実例はかなり多い、本当ならもっと注意した方が良いんだけど流石にいちいち教えてる暇は無かった。
無機質なダンジョンの中を銃を構えて黙々と歩き続ける、何で家族旅行に来てこんな目に会ってんだろうな。
次からは任務なんか一切関りが無い家族旅行をしよう、或いは領地で畑を耕しならがだらだら過ごしてアンジェに怒られたい。
もう二度と任務に家族を関わらせないぞ、と心の中で決意した。
「これで五つ目の階段も無しか」
『いっそ所持した爆薬を使用しては?』
「破壊するのにどれだけ必要か分からん、それにボロい遺跡の中で爆弾を使ったら崩落する可能性だってあるだろ」
『仕方ありませんね、では次へ向かいましょう』
「待てよ、作戦を見直したい。少しの間だけ休憩するぞ」
「……父上、僕達に気を遣わなくても結構ですよ」
「早く次に向かおうよ」
「ダメだ、作戦を強行して失敗したら意味が無い。俺はこいつと話し合ってる間は体を休めろ」
焦る双子を落ちかせて休ませる、初めての実戦は体より先に二人の心を疲弊させてるが伝わってきた。
人間ってのは不思議なもんで心が疲れると体の方にまで影響が出てくる、『病は気から』とは昔の人は実に的確な表現を生み出すもんだ。
作戦遂行の為に部下に無理をさせるのは戦場じゃよくある事だけど、到着した時に疲れて戦えなきゃ話にならない。
ここら辺の機微は部隊指揮官に就任した奴なら一度は悩む問題だろう。
休みを取らせつつ水筒の水を飲むように促しておく、二人の体力を回復させるまで俺は球っころと相談だ。
「どう見る?」
『今まで確認した下層への非常用階段は全て塞がれていました。他の階段も同様に塞がれている可能性は高いと推察します』
「まぁダンジョンを観光地化してるからな、ヤバそうな部分を潰しておくのはそりゃそうだろうよ」
考えてみりゃ危険な場所は潰しておくし、見られたくない物は見られない様にしておく当然の話だ。
もしかして塞ぎ忘れてる非常用階段があるんじゃないか?とは思って探ってたがエルフ達をナメ過ぎたらしい。
地図に示された場所を訪れて何の成果も出ないのは精神的な疲労がどんどん溜まる、経験が足りてない双子なら尚更だ。
残ってる場所はあと半分ぐらい、これで成果が出なきゃいよいよアンジェが落ちた穴から降りるしか手段が残っていない。
『周囲の状況から非常用階段を塞いだのはこの数日ではないと推測されます』
「たぶん観光地化する前に塞ぎ終えてたって訳か。じゃあ全ての階段を塞いでる可能性もあるか?」
『それはありえません。アンジェリカ達と遭遇した怪物が下層で製造された場合、上層に出現しない筈です』
「なら目立たない場所、或いは秘密の階段があるって事になるな」
『可能性としては此処だと思われます。あくまでも推測の域を出ませんが』
そう言って球っころが示したのはダンジョン地図の中央から大きく離れた場所だ。
密集した中央から細く長い道が伸びていて途中に殆ど隣接した部屋が無い。
こういう構造をした建物は何度か見た事がある、お偉方が住んでる城や屋敷にあるいざという時の逃走用通路だ。
「隠し通路か、何で黙ってた?」
『上層の管理システムにアクセスした際に反応がありません。施設が崩落した可能性が高かったので』
「だけど冒険者や墓荒らしも壊れた場所をわざわざ掘り返そうする酔狂な奴も少ないって訳か」
『如何いたしましょうか?』
「いいぜ、行ってみる。やってダメなら戻ってくりゃいいだけだ。」
その場合は無駄に子供達を歩かせて体力を消耗させるけど致し方ない。
こんな時の取捨選択は指揮官が責任を取らなきゃいけない、それが出来ないようなら人の上に立つような人間じゃないって事だ。
双子の様子を見ると顔色が大分落ち着いてる、ある程度は疲労回復したらしい。
取り敢えず俺も簡単に休息を取る、水を飲んで体を軽く揉んだらダンジョン探索再開といくか。
「話は聞いてるな、今度がこっちへ向かうぞ」
「はい」
「うん」
双子の返事を聞いて立ち上がる、今から向かうのは遺跡の末端に近い場所だ。
球っころが示した方向へ向かうと徐々に照明が弱まって壁や天井の破損が酷くなってゆく、建築物が末端から壊れるのはよくある話だな。
照明がほぼ消えかけた場所まで来たら球っころの瞳から灯りを付けさせた、本当にこいつは万能だから始末が悪い。
これで性格が良ければ俺もこいつの主人だったという旧人類とやらを探す機会を増やしても良いんだけど。
照明が完全に消えた真っ暗な道を球っころの灯りを頼りに先へ進む、同時に双子へ声を掛けるのも忘れに行う。
暗闇で転んだり物音に過剰反応して味方に被害を与えるような真似はさせない。
真っ暗な道をどれだけ歩いた頃だろうか、道の先に球っころの灯りとは違う光が視界に入った。
注意して近付くと周囲を照らしていたのは俺達がよく知る照明器具だ、野営や洞窟内の作業で使われる品でうちの領軍でも似たような物を常備してる。
どうやら俺達は賭けに勝ったようだ。
『この先の道を真っ直ぐ進めばおそらく街の付近に出るかと。恐らく下層へ物資の搬入するのは此処からのようです』
「じゃあ下に行けるのね」
「良かったぁ…」
「安心するのはまだ早いぞ、ここからが出発点だ」
無邪気に燥ぐ双子を敢えて戒めて先に進んだ頃、唐突に違和感を感じた。
道の何かが存在している、俺達以外の生き物の気配だ。
「ライオネル、アリエル。銃を構えろ」
「お父様?」
「いったい何が…」
「さっさと銃を構えろ、無駄口を叩くな」
『獣並みの察知能力ですねリオン・フォウ・バルトファルト。やはり貴方は優れた兵士です』
球っころの減らず口を無視して銃を構える、どうやらそう簡単に下へ行かせちゃくれないようだ。
ライフルに込めてた弾丸を抜いて魔弾を装填する、命中すれば大抵の生物はくたばる威力で人間に向けるような代物じゃない。
視界の最先端に入ってきたのは地面を這い蹲る女、長い頭髪は遠目じゃ女に見えるかもしれないな。
だけど世の中に腕が四本以上も生えて下半身が蛇な女が居るのか?
そりゃもう人間じゃないだろ。
ライオネルとアリエルにも相手の姿が見えたらしい、二人が息を呑んだ事から見覚えがあるみたいだ。
「アレがお前達の言ってた怪物か?」
「……うん」
「僕達に倒せるんですか?」
「アンジェは二匹も倒せたんだろ、だったら俺達にも殺せる」
『敵モンスター二体を発見、背後に敵影はありません』
「じゃあ目の前の奴らに集中できるな」
口の奥が酸っぱくなった、戦闘の予感に体が興奮するといつもこんな味が喉や胃の奥から込み上げやがる。
自分の中で酷く暴力的な俺が目覚めて歯止めが利かない、これから俺の意識はあの化物共を殺す事だけに集中するだろう。
勘弁してくれよ、俺は子供から愛される父親のままで居たかったのに。
この埋め合わせはお前らの命で贖ってもらうから覚悟しろ。
明確な殺意を込めて引き金に指を掛ける、一秒に満たない時間の後に銃声が通路に響き渡った。
モブせかコミカライズ掲載のドラゴンエイジ&あのせかコミカライズ最終巻発売日に投稿します。(別作品の執筆で遅れがちになったとも言う
今作リオンは兵士としての自分を家族に見せたくない+アンジェの現状に焦っているので割と不機嫌になってます。
双子はあくまで領地での訓練や学園の実習を受けても実戦とは言えないレベルの戦闘しか経験していませんから、熟練兵士のリオンにやや戸惑いつつも従ってる状況です。
父としては子供達を危険から遠ざけたかったのに巻き込んでしまったのに子供達から尊敬される方向性が違うリオンの明日はどっちだ。
追記:依頼主様のリクエストによりW様、縹様、つな様、オズワーニ様にイラストを描いていただきました。
また9430様に以前に頂いたイラストがpixivに投稿されました。
本当にありがとうございます。
tooteki様 https://www.pixiv.net/artworks/134513156(成人向け注意
縹様 https://www.pixiv.net/artworks/134835900
つな様 https://www.pixiv.net/artworks/134627938
オズワーニ様 https://www.pixiv.net/artworks/134838594(成人向け注意
9430様 https://www.pixiv.net/artworks/134853077 https://www.pixiv.net/artworks/134582095
ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。