婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第157章 My Hero

 エルフの集落を囲んでいる森は俺が知ってる森とは違ってた。

 何が違うと言われると上手く説明できない。

 よく分からないけど動物や鳥の気配がバルトファルト領の森と比べて少ないのは分かる。

 これだけ広い物なら住んでる生き物を多くなるはずだ、なのに森にはいってみたら葉っぱが擦れ合うような音ぐらいしか聞こえてこない。

 まるで森の奥に潜む何かがずっと俺を見てるみたいな怖さがある。

 農地や森が多い辺境の観光地扱いされてるうちの領地だけど、ここと比べたらまだ発展してるなとあまり賢くない俺でも分かった。

 

 少し怖くなって匿われてるあの家に戻ろうかと少し弱気になってしまう、慌てて頭を振ってその考えを頭の中から追い出す。

 遺跡に向かった父上に残る家族を護るよう言われた、いつもの俺なら喜んでたはずだ。

 だいたい俺が居なくても父上の部下が何人も家の周りで見張ってる、わざわざ俺に頼らなくても大して問題ないはず。

 そこまで考えてしまうとまた気分が落ち込んでいく。

 今の俺はあまりに生い茂ったせいで陽の光がなかなか地面に届かないこの森みたいにどんよりと薄暗い。

 

 俺、リーア・フォウ・バルトファルトはバルトファルト伯爵家の次男として生まれた。

 父親であるリオン・フォウ・バルトファルト伯爵は俺が生まれる前に起きたファンオース公国との戦争で手柄を立てて叙爵された新興貴族。

 そんな父上と結婚したのはホルファート王国内の領主貴族で一番広い領地を持つレッドグレイブ公爵家の元お嬢様だったアンジェリカ・フォウ・バルトファルト。

 昔は成り上がり者と問題を起こしたお嬢様の結婚と評判が悪い者同士の結婚と噂されたらしいけど、とてもそうは思えない位にうちの両親は仲が良い。

 むしろ良過ぎるぐらいだろう、何しろ俺を含めて同じ母親から子供が六人も生まれた家なんてほとんど聞いた事が無かった。

 でも同じ浮島に住んでる伯父上と伯母上の所も子供が四人だし、祖父上と祖母上だって子供が五人も居る。

 

 気が付くとまた家族について考えていた、何となく気まずくなったから母上と妹達から離れたのに。

 別に妹二人と仲は悪くないし歳が離れてるディランは可愛い弟だ、ただ性別や歳が違えばどうしても興味を持つ物や共通の話題が減っていく。

 双子の妹ロクサーヌとメラニーは運動や武術はいまいちな典型的お嬢様で、おまけに二人とも俺よりずっと賢いから話してると俺の頭が悪いのを何となく感じるから嫌いじゃないけど話が合わない。

 弟のディランは俺の半分未満の年齢だ、話がそもそも共通の話題が合わないし一緒に遊ぼうとしても手加減に気を遣わなきゃいけないから疲れる。

 母上は論外だ、賢さも気の強さも凄まじいから我が家で一番おっかない。

 何か事件に巻き込まれて体を小さくされてもそこだけ全然変わらないって何だよ、反則じゃんか。

 これならやっぱり無理を言ってでも父上達と一緒に行けるように頼み込めば良かったな、でも父上は俺の同行を許してくれなかった。

 

 そこまで考えたらまた気分が落ち込んでくる、何か面白い物でも無いかなと家の外に出たけどこれじゃ何の意味も無い。

 怖い母上と違って父上は俺達を殆ど叱らないし、仕事で王都や他の領地に行った時は必ずお土産を買ってきてくれる。

 貴族の中には新参者の父上を嫌って外道騎士なんて陰口を叩くような奴らもいるらしいが俺は気にしていない。

 だって敵や競争相手に恐れられ異名を付けられるって事はそれだけ優秀な証明だから。

 むしろ格好いいと思わないか、今のホルファート王国じゃ何か異名を持ってる貴族なんてのはほぼ居ないんだぞ。

 かろうじて聖女様と英雄五人ぐらいと思えばその凄さが分かる、俺にとってずっと父上は憧れの存在だった。

 そんな父上の血を最も受け継ぎ子供達の中で一番似ていると昔から周りに言われ続けられてきたのが次男の俺だ、父上を育てた祖父上と祖母上や一緒に過ごした伯父上にもそう言われてる。

 きっと兄上より俺の方が父上に似ていると思う、何しろバルトファルト家の兄弟姉妹は父上と母上のどちらに似ているか性格や外見で良く分かると評判だ。

 金髪の兄上と姉上とロクサーヌは母上似、黒髪の俺とメラニーは父上似と金と黒で遠目でもよく分かる。

 だから父上に一番似ている息子の俺は父上みたいに成長すると思っていた。

 幼い頃から他所の家の子に比べて体の成長が早くて軍の訓練にも参加できる位だから父上もきっと俺に期待してる、疑う事無くずっとそう思い込み続けていたんだ。

 

 でも今回の騒動で父上と同行を許されたのは兄上と姉上だけ。

 いや、そもそもエルフの里にあるダンジョンの探索で父上と母上に同行を許されていたのも兄上と姉上と姉上の二人。

 俺は街で待機と言われてずっとロクサーヌとメラニーとディランと一緒にさせられる。

 これは流石に気分が落ち込んでも仕方ないだろ、だってせっかくの機会なのに俺の参加が認められないとかどう考えてもおかしい。

 そりゃ確かに兄上と姉上は今年から学園に入学してダンジョン探索の授業を受けてると聞いた。

 でも俺だってずっと領地で呑気に遊び続けてた訳じゃない。

 いつか父上みたい戦場で手柄を立てて敵から恐れられる英雄になれるよう毎日訓練を欠かしていなかったんだ。

 だけど家族でここに来てからずっと俺は父上に同行するのを許されていない。

 それどこか護衛まで付けられて大人しく待ってろとかお荷物扱いだろ。

 何だよ、別に悪い事なんてしてないぞ俺!

 

 あぁくそ、イライラする。

 父上のバ~カ! いつも母上とイチャついてるアホ! 領主なのに畑ばっか耕してるのんびり屋! 外道騎士!

 そうやって心の中で毒づいてやる、あんまりスッキリしないけど取り敢えず父上に文句を言った気にはなった。

 だけどまだまだ俺の怒りは収まらない、取り敢えず何か憂さ晴らし出来るような物が無いか森の中を歩き回って探す。

 狩れそうな動物は一匹も居ないしこれだけ木が生えてるのに美味そうな果実を付けた無い、あるのは延々と続く森だけだ。

 あんまり慣れない土地を探索して迷子になったらそれこそバカにされるから遠くに行けなかった、それが俺の怒りをますます膨らませる。

 ふと靴底に何かが触れたから足元を見ると太い枯れ枝が草の中に埋まってた。

 手に取ってみるといつも訓練で使ってる木剣の重さと長さに近い。

 もう我慢が出来なかった。

 そのまま枝を握り締め、近くに在った木へ向き直って思いきり振り上げる。

 

「おりゃああぁ!!」

 

 気合を吐き出しながら頭上から膝の辺りまで枝を叩き下ろす。

 剣術の訓練で習った型なんて一切考えていない、ただ力任せの一撃。

 

ガンッ!!

 

 木の幹に当たった一撃は節くれた表面の皮に少し傷を付けただけで終わる。

 逆に俺の握り方が悪かったのか、叩いたのはこっちなのに腕がジンジン痺れて痛い。

 まるで何も言わない木にまで俺をバカにしてる気分になって更にイライラが増していく。

 そこから先は感情の赴くままに何度も何度も気の枝を振り回す。

 

「ふんッ! えやぁ! とおっ!」

 

 とにかく目に付いた物に向けてひたすら木の枝を叩きつける、何も無い空中だろうと構わない。

 頭と胸に宿ってる熱が引いてくれるまで手足を振り続けた、全身から汗が噴き出し目が回っても体を動かし続ける。

 

ボギィッ!!

 

 めちゃくちゃに何度も叩きつけられた木の枝はついに根元から折れてしまう、振り回す物が無くなって俺はやっと体の動きを止める事が出来そうだ。

 そのまま草が茂った地面に寝転がると噎せそうなぐらい濃い草と土の匂いがした。

 バルトファルト領もかなり自然が多い田舎だけどここの草と土の匂いとは何となく違うように感じる。

 生い茂る木の葉で陽の光が遮られてる森の地面はひんやりして気持ち良い、火照った体を冷ますのにちょうど良かった。

 こうやってボーっとしてると自然に瞼が落ちてくる、遊べるだけ遊んで疲れてたら寝るのは気持ち良い。

 そう言えば家から離れた場所で眠りこけて大騒ぎになった事もあったな。

 確かディランが生まれる前か、いつも一緒の姉上と喧嘩してそのまま屋敷を飛び出したんだ。

 いつも皆で遊んでる森とは違う場所に行って、誰にも見つからないように隠れてたら自分でも気づかない間に眠ってた。

 父上と母上は夜になっても帰って来ない俺を心配して屋敷の使用人達まで探させて、ついには誘拐かもしれないと領軍まで動かしたっけ。

 あの時は母上はもちろんだけど、めったに怒らない父上にもかなり叱られた。

 

 昔の記憶が掘り起こされてまた気分が落ち込んできた、空っぽな頭のくせに嫌な記憶だけはよく憶えているから嫌になる。

 こうやって一人で落ち込んでたらどんどん自分が情けない奴に思えてきた。

 いつの間にか閉じてる両目が熱く潤んでいた、堪えきれなくなって目を開けたら涙が零れていく。

 一度だけでも涙が流れると後から後から湧きあがってくるから止められなくて困る。

 こんな情けない俺の姿は誰にも見せたくなかった。

 仕方ないから別の場所に移動しようと思って寝返りをしたら胸の辺りに痛みが走る。

 思わず呻いて地面に突っ伏す、何か変な物を持ってたっけ?

 記憶を辿って慌てて懐を探った、服の内ポケットには黒い硬い金属の塊が収まっている。

 

 それは子供でも携帯できる小型の護身用拳銃だ。

 内ポケットにすっぽり収まる程度の大きさだけど、急所を正確に撃ち抜けば大人でも簡単に仕留められる程度の威力はある。

 残ったうちの家族は女が三人に子供が一人、護衛もいるけど念の為と思ってこっそり拳銃を貸してもらってたんだ。

 きちんと安全装置は作動してるけど何かに当たったり落した時に暴発する可能性が十分に在る。

 暴れる事に夢中で自分が何を持っているかを忘れていた、もしもこれを他の誰かに見られたら流石に言い訳出来ない。

 恐る恐る取り出した拳銃を入念に確かめる、取り敢えず安全装置に問題は無さそうだ。

 

 黒光りする鋼鉄で作られた拳銃はどの角度から見てもカッコいい。

 貴族なら剣術用に装飾が施されてる剣や狩猟用に作られた猟銃を自慢するけど俺はこういう武骨で角ばった銃や鎧が大好きだ。

 バルトファルト領の軍が行う実地訓練に参加する時は射撃訓練や操縦訓練が一番の楽しみになってる。

 まぁ射撃訓練で撃つのは 非殺傷用の弾丸だし、操縦訓練も必ず教官が同乗してるから好き勝手に出来る訳じゃないんだけど。

 父上は子供を叱らないけどこういう部分に関しては凄く厳しい、訓練に自分の子供が参加する時はあんまり特別扱いをさせなかった。

 

 ふと、頭の中で悪い考えが思い浮かんだ。

 手元にあるのは実弾が装填された拳銃、口喧しい父上や母上はこの場に居ない。

 これは銃を撃つ絶好の機会なんじゃ?

 ちょうど気分がむしゃくしゃしてた所だ、一発ぐらい好きに撃っても特に問題無さそうだ。

 そう思ったら俺の手はいつの間にか動き始めてた。

 安全装置を外し照準を合わせて引き金に指を添える、訓練で何度も繰り返した動きは意識しなくても体が憶えてる。

 目標は近くに生えてた木の枝、その先端にある一枚の葉っぱだ。

 ちょっとした風で動く葉っぱを撃ち抜くのは難易度が高い、これが出来るなら父上も俺を認めてくれるだろう。

 

 銃弾を標的に当てようと意識を集中する、

 すると森の雑音がだんだん遠ざり、視界に入ってる木の葉が徐々に大きくなったような錯覚に陥って少しだけ眩暈を憶えた。

 呼吸を整えて引き金に添えた指に力を込めようとした、だけど何故か引く気になれない。

 父上は訓練の度に銃を撃つ覚悟を俺達に口酸っぱく説いてきた。

 

『相手を殺す覚悟、殺される恐ろしさがお前達にはあるか?』

 

 俺が自分から領軍の訓練に参加する事は止めないけど贔屓はしてくれない。

 そもそもうちの領軍兵は貴族の家で育った奴も平民に生まれた奴も同じ扱いするから、領主の子供だからって俺も訓練では教官達は普通に俺を叱ったりする。

 武器の手入れとか弾薬の管理にも厳しくて訓練や実戦で惜しむ事は無いけど普段は厳しい。

 遊び気分や憂さ晴らしなんかで弾丸を撃って浪費とか俺が情けなくだけで終わる。

 父上がこんな俺を知ったら怒るか失望するからどっちかだ、流石にそれは嫌だった。

 

『俺が家族を護るように言ったのに。お前は何をしてるんだよ』

 

 もしも父上にそんな事を言われたらもう二度と立ち直れなくなりそうだ。

 軍隊じゃきちんとやった上で負けたり失敗をしても処罰される事はほとんど無いらしい。

 どんな名将や軍師だって条件次第じゃ簡単に負ける、場合によってはわざと負けて仕切り直しをすると父上に聞いた。

 新兵の頃からそうやって何度も戦場で勝ち負けを繰り返し経験を積む事で立派な軍人になれる。

 もしも作戦失敗や敗戦の度に責任を取らせてたら誰も成長できずに軍は弱くなっていく。

 

『敗軍の将は自分の命を以って抗うが、兵に於いてはその限りではない』

 

 父上が読んでた兵法書にはそんな事が書かれていた、内容は正直言って半分も理解できていない。

 要するに軍人は指揮官や教官に教わった兵士としての心得を忘れず、真面目に仕事に取り組むべしと言いたいようだ。

 こうやって誰にも行き先を教えないまま家族から離れた場所に独りきりで憂さ晴らしするような奴は優れた軍人とは言えない。

 必死に頑張ったけど失敗した奴と不真面目にやって失敗した奴の評価が違うのは当たり前だ。

 おまけに指揮官である父上の息子なら、それに相応しい行動をしなきゃいけない。

 そう考えたら急に不安になってくる、早く家族の所へ戻ろう。

 

「リーア!」

 

 俺の名前を呼ばれた気がして背中がヒヤっとした、もしかしてこの森に潜んでるモンスターかと思って体が震える。

 知り合いの声を真似して獲物を油断させた後に襲ってくるとメラニーが教えてくれた。

 この森ならそんな訳の分からないモンスターが潜んでいてもおかしくなさそうな不気味さがある。

 怖いモンスターが襲ってくる前に逃げ出した方が良さそうだな。

 

「リーア!!」

 

 耳を澄ますと俺を呼ぶ声が更に大きくなる、明らかに幻聴じゃない聞き覚えがある声だ。

 あの声を出してる相手を無視するのはおっかないモンスターを相手をする何百倍も恐ろしい。

 どうして体が縮んでも怖さは据え置きのまま変わらないんだよ。

 もしもこのまま逃げ出したら絶対に後でグチグチ言われる、それを考えただけで俺が次に採るべき行動が決められた。

 だって仕方ないだろ、俺がこの世でがる物に順位を付けたら上位入賞間違いなしの存在が近づいてる。

 下手に逆らったり逃げ出せば何倍にも強くなる存在に逆らえる奴なんて居ない、だって父上さえ勝てない相手だもん。

 憂鬱な気分のまま声がする方へ向かう、きっとこれからお説教されるんだろう。

 そう考えると更に気分が落ち込む、どうして父上は俺を一緒に連れて行ってくれなかったんだよ…。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 私の前に現れたリーアは不満を隠そうともしていなかった。

 リオンに同行を認められない事が余程不服なのだろう、自分が不機嫌だという気配を纏わせ私に対し声を掛けてくるなと意思表示をしてくる。

 尤もそれが効果的かと言われると甚だ疑問だ、得てして子供の反抗は親の気を惹きたいという本心を糊塗している場合が多い。

 私がレッドグレイブ公爵家の令嬢として育てられた際は反抗期など起こした事などほぼ無かったと思うのだが、いざ親になって見ると如何に公爵家が特殊な環境だと思い知らされる。

 私とリオンの間に生まれた六人の子供の中で手が掛かるのはアリエルとリーア、次いでロクサーヌだ。

 逆に大人しく親に従うのはライオネルとメラニー、末子であるディランはまだ幼年故に手が掛かるのは致し方ない。

 どうして性格面で私に似た子供はやや高慢な面や気性が荒い部分が顕在化している場合が多いのか?

 確かに私もお世辞にも理想的な淑女とは言い難い性格だが、こうも子供達の性格が荒々しいと自己嫌悪の感情が生まれても致し方あるまい。

 

 それでも落ち込む我が子を放っておけないのは母親としての情と言うべきか。

 普段なら私が子供達を叱ってリオンが慰める役割を担うのだが今は私が受け持つしかない。

 貴族の子供は平民の子供に比べ育成環境が整えられた結果、心身の成長が早い事が多くある。

 私が産んだ子の中でも身体機能に優れたアリエルとリーアは特に同年代の子供と比べ明らかに秀でた体格に育っていた。

 しかし体の成長と心の成長が一致しているとは限らない、そもそも最年長のライオネルとアリエルでさえまだ十五歳の幼さだ。

 心身の健やかな成長に親は欠かせないが干渉し過ぎてもいけない。

 子供を六人産んでも各々の個性はかなり違う、世の親が子育てに悩むのも理解できる。

 

「泣いていたのかリーア?」

「はぁ、泣いてないから」 

 

 口を尖らせてぶっきらぼうに反論するリーアは外見に比べて幼く見える。

 その仕草に思わず笑みが零れてしまう、外見が最もリオンに似ているリーアは何かする度に父親の面影が見て取れた。

 義両親がリーアを可愛がる気持ちも理解できるという物だ、かと言って祖父母に甘やかされて育つ孫は教育上あまりよろしくない。

 特にリーアはやたらリオンに対し憧憬にも似た執着を見せる事が多い、母親の私から見てもそれは明らかだ。

 父であるリオンを崇敬する気持ち自体は悪い物とは言い難いが、だがリオンを真似て危険な行動をするなら話は変わってくる。

 リオンの人生は彼自身が育った環境、その選択に因る選択、結果を齎した情勢が複雑に絡み合って生まれた物だ。

 例えリーアがリオンと同じような行動を採ったとしても同じ結果に至る確率は限りなく低い。

 そもそもどれだけ外見が似ていてもリーアの性格はリオンの性格と全く異なる。

 妻としてリオンと二十年以上も連れ添い、自らの腹を痛めてリーアを産み落とした私だからこそ父子の違いが克明に見えてしまう。

 

「あまりリオンばかりに注意を向けるな、家族を護るように言われただろう」

「分かってるって言ってるじゃん、しつこいって」

「何処まで行ってもお前はリーア・フォウ・バルトファルトであってリオン・フォウ・バルトファルトではない。それが分からぬ内は闇雲に行動しても望む結果は得られないぞ」

「なら兄上と姉上は分かってるって言いたいの?」

「少なくともライオネルもアリエルも自分がリオンと違う人間だと自覚はしている。王立学園に通い相応の経験も積んだ筈だ、それでも不安は拭えないが」

「そうやっていつも兄上と姉上ばっかり贔屓するんだ、俺だってやれば出来るぞ」

 

 強弁するリーアに何処か危うい物を感じてしまう。

 少なくとも私は子供達を平等に愛しているつもりだ、たとえ伯爵家を継ぐ予定の嫡子であろうと他家に嫁ぐ可能性が高い娘であろうと注ぐ愛情を量は変わらない。

 だが子供の性格や資質に応じて施す教育や与える品はどうしても異なってしまうのは必然だ。

 これは差別ではなく差異だ、各々が欲しがる物を無条件に与えるのは愛情ではないし歪んだ平等は却って家族の不和を招く。

 特にリーアがリオンの愛情を求め嫡子の座を狙いライオネルと争うなら母親として、伯爵夫人として看過できる物では無かった。

 

「……リーア、お前は嫡子になりたいのか?」

「別に跡継ぎになりたく訳じゃないよ、俺は父上みたいになりたんだ」

「ならば今のお前には無理だ、リオンと己を今一度見つめ直せ」

「俺の何処が悪いのか、母上には分かるの」

「朧気だがな」

「じゃあ教えてくれよ!」

 

 随分と真摯な顔で私を見つめてくる、どうやら本気のようだ。

 さてどうしたものか、やや直情的なリーアに教えても私の真意を理解してるとは限らない。

 だが放置も宜しくない結果を引き起こしそうだ、子供はいつも親の予想を遥かに超えた行動してしまう。

 実に悩ましい、これで私の体が縮んでいなければ毅然とした態度で諭せるのだが。

 

「リオンは望んで戦った事も貴族になりたいと思った事は無い。ただ必死に生きた結果としてああなっただけだ」

「じゃあ俺は父上みたいになれないって言いたいの?」

「まず今のお前に必要なのは心身の成長だ、特に勉強を嫌っているようではよい兵にも騎士にもなれん」

「また勉強の話かよ……」

「戻ったらお前もロクサーヌとメラニーと共に討論に参加しろ」

「あぁ~、やだやだ」

 

 心底嫌そうな表情を浮かべる今のリーアには私の真意は察せられないだろう。

 それも致し方ない、何しろまだ十三歳の子供なのだ。

 今回の事件で得た収穫は意外な我が子の一面を知る事が出来た、その位で終わりそうだ。

 やはり子育てとは難しい、私も自分では表面上は素晴らしい令嬢だと思っていたが案外そうではなかったのかもしれない。

 もしも自分がレッドグレイブ公爵家の後継者なら、そんな妄想をした事は一度や二度では無かった。

 母として願うのは愛おしい我が子が家督を争って殺し合うような未来が訪れない事だけだ。

 リーアはそんな私の愛に気付ないまま、相変わらず不満げな表情を晒していた。




ドラゴンエイジ発売に合わせて投稿、悩めるお年頃のリーア君視点のお話になります。
リーアはリオン似の外見でアンジェ似な性格ですが、どちらかと言えば大人しい今作リオンによりも原作リオンに近い性格になっています。
次章もリーア君視点の話があります、バトル導入の予定です。

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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