婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第159章 Recruit's first battle

 まずは最初の一人。

 俺の不意討ちを思いっきり食らった兵士の一人が地面に倒れ込む前に駆け出した。

 人間は強い力で顎に攻撃を受けると脳が揺れて倒れ込む、父上や領軍の訓練で教えてもらい実際に倒した事も倒された事もある。

 今まで何十回と参加した模擬戦じゃ相手の隙を狙って倒せた事は一度も無かった、それぐらい人を鮮やかに倒すのは難しい。

 俺に倒された兵士はまさか本気で倒されるとは思ってなかったんだろう、こんなに上手くいった事に殴ったこっちが驚いてるぐらいだ。

 だったらこのままやらせてもらう、喧嘩で必勝はとにかく相手より先に攻めて攻めて攻めまくるやり方に限る。

 そうじゃなくてもこの場にいる兵士は十人程度、それを相手にする俺はたった一人だ。

 守りに徹したら人数差で押し切られる、どんなに俺が同年代の奴らより強くても正面から大人を相手にしたら力負けするのは避けられない。

 とにかく暴れてこいつらの注意を俺に向けさせて無事に母上達が逃げる時間を作る。

 男ってのは家族の為に命を張れる奴の事だからな。

 

「ぅうぅおらあぁぁッ!!」

「なぁっ!?」

 

 取り敢えず一番近くにいた兵士に向かって跳び跳ねた。

 空中で右足を前に突き出して飛び蹴りの体勢のまま相手の胸に目掛けて足裏を勢いよくぶつける。

 それなりの体重があれば速度を出して子供が体当たりするだけでも大人を倒すのは出来ると教わった。

 とても訓練通りにはいかないが気合と勢いは十分あるはず、何より相手はいきなり跳びかかった俺に反応が遅れる。

 厚い靴底に男の胸が当たったと同時に力を込めた右足をさらに蹴り込んだ。

 胸に跳び蹴りを受けた兵士は勢い良く後ろへ倒れ込むのが地面に落下する俺の視界に少し映る。

 これで二人、最初の不意討ちとしては幸先が良い。

 

 蹴りを放った後はいつまでも倒れ込んでたらいけない、もし敵が地面に這い蹲る俺を攻撃してきたら立つ暇も与えられず終わる。

 

「このガキ!」

 

 俺が急いで足腰に力を込め立ち上がろうとしてるのと同時に近くにいた兵士が思いっきり拳を突き出してきた。

 武器じゃなくてわざわざ自分の拳で殴りかかってきたのは俺を殺す気が無いのか?

 だったら付け入れる隙は在りそうだ。

 襲い掛かってくる相手の左拳をかろうじて間に合った俺の右手が防ぐ。

 やっぱりここの兵士達はうちの領兵よりも弱いけど体格だけなら俺より大きい奴が多くて力も強い。

 真っ正面から戦い続けたらこっちが負ける可能性が高い事ぐらいは阿呆な俺にも分かる。

 だから危なくて汚いやり方を使わせてもらうからな。

 

 防御に使ってた右手をそのまま素早く前に突き出した。

 拳を握る必要は無い、力を込めるとそれだけ体が硬くなって素早い動きが出来なくなる。

 叩くじゃない、はたく程度の最低限の力で十分。

 手を握らずにそのまま右手をしならせて殴りかかってきた兵士の両眼と鼻の辺りを軽く打った。

 相手の視界を潰すのにわざわざ目突きをする必要は無い、これは少し前の訓練で父上に教わった効果的な技の一つ。

 指で眼球を抉るような目潰しは相手が俯いたり首を傾げるだけで狙いが外れるし、額みたいな硬い部分に当たったら逆に指を痛めてしまう。

 それなら手を鞭のようにしならせて相手の顔を叩くようなやり方をすれば当たる範囲が広くてわざわざ力を込めず指を痛めない方法が効果的だ。

 実際に兵士の顔面を習った通りに叩いたら顔に受けた衝撃で呻いて体を屈めている。

 そうして悶える兵士の頭はちょうど手で打ち易い位置まで下りてきた、なら狙うしかないだろ。

 左手を握って斜め上から勢い良く打ち下ろす感じで兵士の右側頭部を打ち抜く。

 ここは人体の急所だ、訓練を重ねて体を鍛えた軍人が思いっきり攻撃すると確実に殺せる。

 だけど力も訓練も全然足りていない俺が必死にやってみてもどうにか気絶ぐらいしか出来ない。

 急所を狙うような攻撃で今倒した奴で三人目、まだまだ先は長い。

 

 たぶん自分でも気付かない間に油断したんだろう、姉弟喧嘩や同年代の奴らに領軍の訓練じゃなくて初めての実践で興奮して警戒が疎かになってた事もある。

 体力だって自分が気付かない内に消耗してたから、いつの間にか兵士達は順序良く順番に相手をしてると思い込んでた。

 いきなり嫌な気配がして後ろを振り返ると俺目掛け兵士がすごい勢いで突進してくるのが見える。

 見た感じ突進してくるのはこの集落を訪れた兵士で体が一番デカい奴だ、そんなのが俺を抑え込もうとしてるのは熊か猪にでも襲われたような錯覚で全身から汗が吹き出した。

 関節技や投げ技を訓練で習ったけど打撃の数倍は難しい、技の掛け方にはコツが必要だし最低限の体格や筋肉も必要になる。

 たぶんデカい兵士は俺の腕力じゃ相手ならないまま強引に抑え込まれる、そんな確信があった。

 じゃあ突進を避けられると思っても状況がヤバい、俺の周囲は倒れた兵士達が転がって素早く動くのは無理だと断言できる。

 

 迷ってるうちにデカい兵士は更に近づいて来る、もう回避する隙も場所も無かった。

 こうなりゃ仕方ない、俺は覚悟を決めた。

 右手を力いっぱい握り込むとそのまま突進してくる兵士に向かって足を踏み出して真っ正面から近付く。

 狙うのはまた相手の顎だ、たとえどんなに体が大きな敵だろうと顎の一撃で脳を揺らされると暫くの間は立つのが難しい。

 体重差があればなおさら急所を狙う以外に俺の勝ち筋は何処にも無かった。

 そんな俺の焦りが外に漏れ出してたのか、それともデカい兵士が想像以上の手練れだったのか。

 デカい兵士は顎を引いて頭突きをするような体勢に切り替えて俺に突撃してくる。

 

 判断をしくじったかもしれない。

 打撃で相手を倒すのは投げ技や関節技に比べたら簡単だ、素人の繰り出した拳が上手く当たれば鍛えられた相手を倒せる事もある。

 でもそれは打撃が当たる場所が相手の急所で上手く体重が乗った一撃の場合だけだ。

 今の状況だと俺の一撃が当たるのはデカい兵士の額、頭蓋骨の中でもかなり骨が分厚い部分になる。

 そんな場所を思いっきり殴れば逆に俺の方が拳を痛める結果に終わるだろう。

 仮に上手く当たったとしても突進の勢いまでは止めれられない、そのまま突進で地面に倒された無理やり抑え込まれて捕まる。

 左右に体を動かせばそれだけ俺の速さが失われて止められる、だったら逃げ場所は下だ。

 

 膝を曲げて体が地面スレスレになるぐらいに屈む、デカい兵士は戸惑ってるみたいだけど重い体は咄嗟の反応が難しい。

 屈めた体は力を溜めるのにちょうど良い体勢、バネを思いっきり抑え込むほど弾ける強さが増すのと同じ理屈だ。

 右下から左上に、曲げてた腰と膝を思いっきり伸ばし地面に擦れるぐらい距離に於いてた拳を斜め上方向へ全力で突き上げる。

 俺が狙ったのはデカい兵士の顎だった、でも想像以上に相手の動きが速かったのか急な方向転換で狙いがズレたのかは分からない。

 ただ俺の拳は顎を逸れ、そのまま胸板を通過し、最後は腹にめり込んだ。

 

「ぐぶッ!?」

 

 思わぬ方向から受けた一撃でデカい兵士が呻き声を出した。

 骨に覆われていない腹に攻撃を受けると衝撃でいろんな内臓が傷付く。

 激しい痛み、鈍い痛み、息苦しさ、ゲロを吐くほどの気持ち悪さ、他にもいろいろある。

 だけど頭を打たれた時みたいに暫く立ち上がれないのかと言われると微妙だ、取り敢えず痛みで苦しむ場合が多い。

 根性ある奴ならそのまま怒って攻撃してくる奴も居る、少し前に姉上と喧嘩した時は逆に怒らせてこっちが降参するぐらいやり返された。

 まぁデカい兵士が姉上と同じぐらい根性あるとは思えない、実際今も腹を抱えたまま嘔吐いてる。

 これで四人倒したって事で良いよな、頼むから四人目にしてくれ。

 

 一息つく前に五人目が襲い掛かってきたから両腕を上げて構えようとした時、鋭い痛みが襲ってきた。

 咄嗟に後退って攻撃を躱しつつ体の何処に異常が起きてるか調べる。

 右腕だ、右腕の感覚がおかしい。

 手首から先が痺れて力が入らず拳を上手く握れない。

 必死に距離を保ちながら左手で攻撃してるとだんだん右腕の痺れが取れていく、だけどその後に襲ってきたのは激しい痛みだ。

 たぶん原因はさっきデカい兵士の腹を殴った時、拳の当て方が悪かったのか相手の腹筋が想像以上に硬かったのかは分からない。

 どっちにしても右腕がすごく痛かった、たぶん相手からは見えていないと思うけど間違いなく腫れてる。

 たぶん骨は折れてないと思うけど捻る程度はしてそうだ、上手く力が入らなくて攻撃が左手だけの単調な動きになってしまう。

 五人目の兵士は大した強さじゃない、たぶんデカい兵士の方がこいつより力も早さも上だ。

 だけど右腕を痛めたせいで一番の強敵に感じる、少なくとも怪我をしたせいで俺の勝率は確実に落ちてしまった。

 

 動けば動くほど右腕がズキズキ痛んで上手く思考できない、頭の中が痛みで埋め尽くされる。

 ただその場で呼吸してるだけなのに全力で駆け回ったときみたいに汗がどんどん吹き出して止まらない。

 何より俺の動きが自分でも分かるぐらいに明らかにキレを無くしてる、さっきまで戦ってた連中の倍以上の時間をかけても五人目を仕留められない。

 こうしてる間にもどんどん時間が過ぎていく、俺の攻撃を食らい倒れてる奴らが復活するかもしれなくて焦りが積もる。

 いや、母上達を逃がす時間を稼ぐのなら俺がこうやって引き付け続けた方が良いのか?

 ダメだ、痛みのせいで上手く思考できない。

 

 はっきり分かるのは今戦ってるこいつがニヤニヤと俺を見てほくそ笑んでる事だけだ。

 自分でも明らかに呼吸が乱れてるのが分かる、きっと疲れた俺が上手く攻められないと思ってんだろうな。

 いくら俺の体格が良いと言ってもあくまで同年代と比べての話、普通に成長した大人の男なら俺より身長も体重も上だ。

 その事を自覚してるのか手足の長さを利用して俺の攻撃が届かない場所から攻撃してくるのがいやらしい。

 しかも嬲るように小突くように殴る蹴るの繰り返し、反撃しようにも間合いを見切られて俺が動くと同時に後退しやがるのが癇に障る。

 くそっ、右腕さえまともに動くならこんな奴に負けないのに。

 

「っあ!」

 

 相手から放たれる蹴りを咄嗟に右腕で庇う、その度に激痛が右腕を走って思わず声が漏れた。

 苦しむ俺を見た兵士は勝ち誇ったみたいに口元を歪ませる、同じ事を何度も何度も繰り返された俺の頭は徐々に痛みより怒りの方が強くなっていく。

 もういい、覚悟は決めた。

 そもそもこっちはたった一人で十人以上の大人に喧嘩を売ったんだ、今更怖い物なんてありゃしないんだよ。

 ほんの少し左腕より下げた位置で右腕構える、わざとらしく動かなくなったような仕草は相手を釣る為の撒き餌だ。

 必死に痛みを我慢する俺を嬲るのに夢中な兵士はそれを本物だと信じたらしい、さらに俺を苦しませようとさっきより前に構えてさらに強い蹴りを放つ。

 

「何ィ!?」

「こんなのに引っ掛かるなよバカ」

 

 驚きの声を出したのは俺じゃなくて兵士の方だ。

 勢い良く放ったはずの蹴りは何故か俺の両腕ががっちりと捕らえられている。

 さっきからずっと痛みが続いてる状態だからちょっと強くなった程度なら我慢は出来る、だからわざと右腕で蹴りを受けて引き戻す前に両腕で掴んだ。

 兵士は必死に足を動かして引き戻そうとするが意味は無い、何故なら人間という生き物は二本の足で立つ。

 確かに一本の足で立つ事も出来るけど、それはとても不安定な姿勢だ。

 片足で立つ大人は子供の力でも簡単に転がせる、何より走る跳ぶ泳ぐといった移動手段は足が無きゃ出来ない。

 だから戦闘で敵を蹴るときは十分に注意しなきゃいけない、訓練の時に何度も教わった事だ。

 俺を好き放題に攻撃していた兵士は敵を痛めつける事に夢中で隙を見せた、だからこうして形勢逆転される。

 

 俺が足を掴んだまま後ろに数歩下がると兵士は無様に倒れて仰向けの姿勢になる、もちろん足を掴まれた状態じゃまともな受け身も取れない。

 そのまま足を逃がさないよう必死に両腕で抱え何度も兵士の腹や胸を踏みつけ続けた。

 もちろん俺がこいつと同じ失敗をしないように踏みつける時には細心の注意を払う。

 踏まれる度に汚い悲鳴が聞こえるが相手が動かなくなるまで油断は出来ない、トドメは徹底的にしないとまた襲われる可能性があった。

 取り敢えず兵士の腹と胸に俺の靴跡がくっきり残って悲鳴が出さなくなってから足を放す。

 これで五人、散々な結果で勝ったのは俺だけど負けた気分だ。

 

「だ、大丈夫ですか……」

「ア゛ァ゛ッ!?」

「ひぃ!?ご、ごめんなさいごめんなさい!!」

 

 後ろから声を掛けられそっちに頭を向けて威嚇するとエルフの女が慌てた様子で謝ってくる。

 戦いの熱で上手く頭が回らない、誰だっけこの人?

 ……そうだ、ユメリアさんだ。

 確か俺はユメリアさんが倒れたのを見て『俺の家族も捕まったら同じ事をされる』と思い兵士達と戦ってたんだっけ。

 いつの間にか目的を忘れてとにかく兵士をぶちのめす事に夢中になってた。

 気分が落ち着いてくると体のあちこちが悲鳴みたいな痛みを出し始める、正直言って意識を保てるかも怪しい。

 それでも倒した兵士はまだ半分ぐらい残っている、こいつら全員を倒す前に俺がぶっ倒れそうだ。

 

「いやはや、何とも酷い光景だ。たった一人で兵を五人も倒すとは末恐ろしい少年ですね」

 

 俺に呆れているのか、それとも揶揄ってるのか分からない声が周囲に響く。

 振り返るのも面倒臭いから視線だけ声が聞こえた方向に向ける、そこには革鎧を着た兵士が覗き込むように俺の様子を窺ってた。

 明らかに他の兵士と纏う雰囲気が違う、エルフのお偉いさんとの会話もこいつが中人だったのを憶えてる。

 どう考えても指揮官はこいつだ。

 

 ならこいつを倒せばもっと時間を稼げるんじゃないか?

 そう思って跳びかかる姿勢を取ろうとしたけど上手く行かない。

 全身が痛くて思うように体が動かず逆によろめいてしまう。

 それでも弱みは見せられない、喧嘩もそうだけど貴族ってやつは少しでも弱みを見せると他の貴族から狙われる運命だ。

 

「やれやれ、まるで相手を選ばずに噛み付く見境のない狂犬だ。それでは育ちが知れますよ」

「なんだとォ、テメェ!?」

「もしも貴方が高名な貴族の御子息ならば相応の振る舞いをした方が宜しいかと。取り敢えず名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「お前らに名乗る名は無えよボケ!!」

 

 顏と名前を知られる訳にはいかない、そうなったら俺達はさらに追い詰められる。

 父上の話だと王都から救援が来るまで何日かかるか分からない、その間に捕まらなければ俺達の勝ちだ。

 だけど顔と名前を知られて何か作戦を立てられたら今の俺達に対抗する手段は全く無い。

 しかも父上はダンジョンの下にあるという遺跡の探索で不在、ここから逆転する方法なんて目の前のこいつを倒す位しか俺には思いつかなかった。

 

「まぁ良いでしょう、捕まえた後で自白させれば済む事です」

「待て、この少年を捕らえるつもりか?」

「勿論そのつもりですよ。何しろこちらは兵を負傷させられましたから。たった一人の少年に兵が五人も倒される、これは由々しき事態なので厳正な対応が求められます」

「テメェらが弱いだけだろッ!!」

「おぉ、怖い怖い。昨夜にも十人を超えるエルフが貴族に暴行を受けるという痛ましい事件が街で起き、朝から我々はその対応に追われているんですよ。この少年は事件の関係者だと推測されます、此処は是が非でも捕らえて情報を聞き出さなくては」

「やってみろよ、その面を思いっきりぶん殴ってやるぜ」

「確かに貴方と私が戦えば些か私に都合が悪い条件だ、倒される可能性も高いでしょう。だからそれなりの手を用意させて頂きましょう」

「何だと…」

 

 俺が男に向かって跳びかかる前に革鎧の男がサッと手を振る、すると森の中から男達が何人もこっちに向かって歩いて来る。

 数人の集団が複数、合計したら革鎧の男が連れて来た集団の倍ぐらいの人数だ。

 流石にこいつら全員を倒すのは無理だ、さっき手放した拳銃を使っても先にこっちの弾丸が尽きる。

 今まで落ち着いた顔で話していたエルフの偉い人も顔が強張ってる、ユメリアさんに至っては今にも泣きだしそうだ。

 

「予めこの集落は我々に包囲されていました。私はあくまで穏便に事を進める為の交渉に訪れましたが、すぐにでも強制捜査に踏みきれる段取りを整えていたのです」

「彼奴が新しい村長に就任する際に話し合って決めた筈だ。街の運営に関して我々は一切の口出しをしない。その代償として昔ながらの生活を望む者達に其方も干渉しないと」

「事態が事態です。街で暴れる無法者を匿うのは治安維持を任された者として看過できません」

「俺達は無法者じゃねぇ!!」

「そう思い込むのは貴方の勝手でしょう、しかし状況を鑑みれば私の部下は貴方の暴力で傷つけられているのが現状です。これは相応の人員を以って対処に当たらなくてはいけません」

 

 くそッ、口の上手さじゃ俺はこいつに全然敵わない。

 要はここを無理やり捜査しようとしたのは憲兵みたいな感じで正しい行いって訳だ。

 エルフの皆に酷い事をした所で大義名分があるのは奴らで、殴った俺の方が悪者になっちまう。

 だからと言って匿ってくれたエルフを見捨てて逃げ出せばこっちが恩知らずになるし、既に周りは見張られるから縮んだ母上と妹達を連れて森の中を逃げ切るのは難しいだろう。

 俺の頭じゃこの状況を変えられる方法が全然思いつけないぞ。

 

「自分一人じゃ勝てねぇから人数で圧倒するのかよ、それでも男なのかお前」

「貴方は何か勘違いしていますね、別に私は力比べをする為に此処へ来た訳ではありませんよ」

「あぁッ!?」

「まるで犬のように吠えないでいただけますか、器が知れますよ」

「何だとこの野郎!!」

「おぉ怖い。貴方は敵対する者を全て倒せば己の勝利と思っているようですが私の目的は違います。上司の命令を完遂するのが勝利条件、つまり貴方と争うのは方法の一つに過ぎず勝利する必要もありません。それこそ部下を差し向けて貴方を挑発し、戦闘で疲れさせるのも立派な作戦と言えましょう」

「部下を捨て駒にしたのかよ、悪人だなお前」

「好きなように仰って構いませんよ。盤上遊戯と同じです、優秀な駒が一つあっても勝てるとは限らない。そして自軍の駒が全く残らずとも王を討てば勝利です」

 

 論理的に俺の敗北を告げられるのが心底ムカつく。

 どうにか一発殴れないもんかと体に力を込めるけど立ってるだけであちこちが痛い。

 考えたらこれが俺にとって訓練じゃない初めての実戦なのか、弱っちい兵士を五人倒して終わりなんてショボ過ぎる。

 確か父上は兄上と同じ歳には家を出て王国軍の兵士として手柄を立てたんだっけ、それに比べたら俺なんてまだまだ弱くて頭が悪い。

 せめてこの場で指揮官のこいつを仕留めたらカッコいいかな?

 そんな考えがぼんやり頭の中を過ったけど慌てて首を振る、確かに父上は俺が母上達を護る為に仕方なく敵を殺したとしたら咎めはしないと思う。

 だけど革鎧の男を殺せばきっと部下の連中は怒って俺を殺そうとする、そしてきっと集落のエルフ達や母上達も巻き込まれるに違いない。

 最悪の未来がやけにはっきりと思い浮かぶ、家族や俺達を匿ってくれた人達を巻き込んで戦うだけの闘志は残ってなかった。

 

 何だろうな、初めての戦いってもっと華々しいもんだと思ってたんだけど。

 これじゃ酒場の酔っ払い同士の喧嘩みたいでちっともカッコ良くない。

 前の戦争で活躍した英雄達の話や領兵達が語る父上の戦働きはもっと華々しく聞こえたのに。

 俺はバルトファルト領に住んでる同年代の男子の中で体もデカくて訓練に参加してるからもっと活躍できると思ってた。

 なのに上手く倒せたのは最初の三人、後はグダグダの戦いで怪我までしてる。

 こんなんじゃもっと激しい戦場に出ても簡単に死ぬだろう。

 

 ぼんやりそんな事を考えてると揺れて光る何かがこっちに近付いて来るのが見える。

 あれは髪だな、綺麗な金髪。

 そこまで目で判別できると物凄く嫌な予感がした、今日一番で嫌な予感だ。

 どんどん大きくなるそいつの外見は物凄く可愛い女の子に見えるだろう、でも身内からはうちの領地で最も怒らせちゃいけない相手だと認識されてる。

 今直ぐ逃げ出したいが怪我が痛くて上手く走れそうにない、俺が焦ってる間にも相手はどんどん近付いて来る。

 もう仕方ないから覚悟を決めよう、きっと放せは分かってもらえるはずだ。

 

「あ、あの母上……」

「この愚息がァ!!!!」

 

 怒り狂った母上の声が森に響き渡り、俺は頭を力いっぱい殴られた。




少し間が空きましたが投稿再開です。
今章はリーア君の初戦闘のメインとなります。
才能があっても10代前半の少年が成人した兵士を武器も無しに倒すのは難しいので後半は苦戦してます。
むしろリーア君は兵のレベルが他国と比べて高水準なホルファート王国内の同世代でも上位に入りますが、彼の比較対象は直近の戦争で活躍した聖女や英雄や実父なので現実とのギャップに打ちのめされました。
今後の成長に期待しましょう。
そして書籍版マリエルート5巻の発売と同時に前のコミカライズ担当の潮里潤先生の『世界を救った最強勇者にストーカーされる村娘の話』も発売、買い換えたノートPCの横に置いて読みながら執筆する幸せ。
次章はおっかないアンジェお母さま(ロリ)が活躍します、ペンは剣より強し。

追記:依頼主様のリクエストによりW様、Doogge様、えみっと様にイラストを描いていただきました。
また9430様に以前に頂いたイラストがpixivに投稿されました。
本当にありがとうございます。
W様 https://www.pixiv.net/artworks/136618330(成人向け注意
Doogge様 https://www.pixiv.net/artworks/136622390(成人向け注意
えみっと様 https://www.pixiv.net/artworks/137004657(成人向け注意
9430様 https://www.pixiv.net/artworks/136901647

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