婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第161章 闇に蠢く者

ダンッ! ダンッ!

ダァンッ!

 

「あぁもうッ!これで何匹目よ!?」

「今ので十二匹かな?」

『訂正を求めます、先程リオン・フォウ・バルトファルトが十三匹目を討伐しました』

「あんた達どうしてそんなに落ち着いてんの!?」

「文句はいいから僕がこっちを引き受けてる間に早く弾を装填しなよ」

「うっさいわね!」

「少しは静かに戦えアリエル、イライラしてると体力を無駄に消耗するぞ」

 

 耳で後方の双子を確認しながら指示を出す、視線は闇に覆われた目の前を見つめたままだ。

 ダンジョン地下の遺跡に突入してどれだけの時間が経過したのか分からない。

 アンジェ達と別れてからまだ数時間しか経っていないように感じる時もあれば、微かな灯りを頼りに暗闇の遺跡を歩き続けてもう数日が経過したようにも感じる。

 人間の感覚なんて正確に思えて実は意外と大雑把だから当てにし過ぎるのも逆に命取りになりかねない。

 取り敢えず暗闇に紛れて襲って来た十三匹目らしい怪物の死体を観察、息を吹き返す心配が無い事を確認してから息を吐く。

 ダンジョンのモンスター退治と同じだけど、大まかな弱点さえ分かれば大丈夫な戦いなんて今まで一度も経験した事は無い、少なくとも俺の場合に限ってはそうだった。

 屈強な英雄が少量の毒を盛られて苦しみ血反吐を垂れ流して死ぬ、訓練じゃ優秀だった兵士が流れ弾に当たり何も出来ないまま死ぬ。

 命ってのは気を付けないと恐ろしいぐらい呆気なく喪われるってのが俺の持論だ。

 俺を百戦錬磨の軍人だと評価したり、聖女様と英雄様御一行を無敵の存在だと勘違いしてる奴ほど戦場の恐ろしさを理解してない。

 死なない為には入念な準備と細心の注意が必要で、戦いに勝つには更に知識と察しの良さが必要になってくる。

 俺が戦場を生き延び続けて今日という日を迎えてるのは猫に怯える小心な鼠みたいにひたすら臆病だからだ。

 

「球っころ、周囲の状況は?」

『視認できる範囲内に貴方達以外の生体反応は感知されません、遺跡内のシステムにアクセスを試みていますが広範囲の索敵は困難です』

「とりあえず暫くは大丈夫か。二人とも今の内に所持品の確認を済ませておけ」

「分かりました」

「は~い」

 

 双子に声を掛けつつ様子を窺う、取り敢えず負傷は見当たらないが疲労が見え始めてる。

 無理もない、二人ともこれが初実戦だけどダンジョンや遺跡の探索は体力と同じぐらい精神の消耗が激しい。

 俺の場合は王国軍に所属してた頃はまず空賊退治に慣れた後で戦場にぶち込まれたけど、まだ戦闘経験や実戦の緊張感をファンオース公国との戦場に活かせた。

 まぁ先の見えなくて怪物が徘徊してる遺跡探索と砲火が全く絶えない戦場のどっちがマシな部類かは判断が難しいけど。

 

 取り敢えず背嚢のポケットに収納してある小缶から丸い玉を取り出した。

 水飴にいろんな生薬を混ぜ合わせて作った薬飴だ、甘味は心を落ち着かせる上に生薬の独特な苦みを和らげてくれるから食事の時間を確保できない時はこれをよく舐めてた。

 戦場食に用いられがちな乾燥物はそのまま食うと口の中の水分が吸われる、手持ちの水はなるべく節約させたいが喉の渇きを我慢させ過ぎると脱水症状になりかねない。

 

「これを舐めとけ、嚙み砕かずなるべくゆっくり舐めて渇きを癒すんだ」

「水筒の水は飲んじゃダメなの?」

「先が見えないから今は節約して一口にしとけ、なるべく口の中で長持ちさせて渇きを癒せ」

「分かりました」

「弾薬の消耗を確認しておけよ、ここじゃ弾薬が俺達の命綱だからな」

 

 俺の言葉で二人が確認作業に移り始めた、その間も俺は周囲を警戒して銃に手を添えたままだ。

 戦場で俺が体得した技術の一つに集中力の分散化がある。

 周囲を警戒できる程度に感覚器官を研ぎ澄ませながらも、他の部分はわざと弛緩させて体の疲労回復に努めるような感じだ。

 これが出来るようになるとちょっとした休憩で疲労をかなり軽減できるようになる、尤も年齢が三十代の半ばに差し掛かって貴族としての性格を送ってると少しずつ鈍ってくるが。

 武術の達人ともなれば熟睡しても敵襲に気付いて返り討ちにしたなんて話もあるが俺にはそこまで器用で超人的な真似は出来ない。

 俺に出来る事なんて何処まで行こうが凡人が訓練して習得できる技能の延長でしかない。

 

「どうも気に食わねぇな」

「何が?」

「この遺跡がだよ。どう考えても俺達が進んでる通路を指定してる、しかも嫌がらせみたいに怪物を配置ときた。なのに攻め方は生ぬるい、これじゃ俺達を拒んでるのか迎え入れてるのか曖昧だぜ」

「あたし達が強過ぎて苦戦してるのよ」

「初実戦の新兵が調子に乗るな、自惚れたバカが流れ弾に当たって一人も倒せないまま戦没者名簿に載るなんてよくある事だぞ」

「甘く見ないでお父様、あたしは既に三匹も倒してるのよ」

「そうかそうか、なら褒美に飴玉をもう一つやろう」

「えぇ~、もっとやる気の出るご褒美が欲しいわ」

 

 得意げに胸を張るアリエルに飴玉を投げ与えて思考を再開する。

 此処へ来るまで遺跡の通路を歩いてきがら金属製の扉の多くが固く閉ざされていた。

 しかも球っころの力を使って強引に開けようとすれば待ち構えていたように怪物が襲って来る。

 その後も何度か似たような事が何度も繰り返されるからついに俺達は無理に扉を開けるのが面倒臭くなって閉められていない通路を進む事になった。

 もしも時間制限の無い状況なら出来るだけ戦闘を避けるだろうが、今は戦闘の手間より時間を浪費し続ける方がマズい。

 それでも焦燥感は拭いきれなかった。

 この先であと何回戦うか、目的地に辿り着いた時に弾薬や食料は残っているか、ライオネルとアリエルは無事か、辿り着いてもアンジェを元に戻せるのか。

 考えれば考えるほど不安は次々と湧いて肉体よりも精神が疲弊してくる。

 それでも頑張らなきゃいけないのが指揮官と父親のつらい所だ。

 

「ライオネル、何か気付いた事は無いか?」

「特にありません」

「遠慮しないで言え、今はちょっとした情報でも欲しいんだ」

 

 昔から減らず口が多いアリエルと違ってライオネルは口数が少ない。

 別にボーっと何も考えていない訳でも察しが悪い訳でもなく、ただ周囲からの評判を気にして自分が原因で諍いが起きるのを避けているだけだ。

 この遺跡で何度も怪物と戦っているが今の所は無傷で済んでるのはライオネルが的確な支援を行っている事も理由の一つだと察している。

 周囲の状況を正確に把握し味方の攻防を常に予想して死角を補う、もし弾薬の補充が必要なら暫くは攻撃を引き受けるといった働きをライオネルが熟している事は俺も気付いていた。

 戦場だとこういう補助的な役割を担当する味方がたった一人でも居ると随分と心強い。

 そもそも戦闘は攻撃が得意な奴だけを集めれば必ず勝てると考えるのは実戦を全く知らない阿呆な素人だけだ。

 地形や敵の様子を正確に把握する斥候、情報を下に作戦を考える参謀、滞りなく補給や遠距離攻撃を行う後方支援、そして前線で敵と戦う攻撃手。

 盤上遊戯のように違った役目や動きを熟せる駒が居てこそ戦いに勝利できる。

 

 それでも俺が気になるのはやたら控えめなライオネルの性格だ。

 盤上遊戯で例えるとライオネルはいずれ司令官である王の駒にならなきゃいけない。

 司令官に必要なのは数ある作戦の中から自分が正しいと思う選択をする事、兵達の士気が下がらないよう鼓舞し続ける事、そして部下に嫌われようともしっかり前を見据えて戦う意思を見せる事だ。

ライオネルはどうにも人を従える為の気概が足りなかった。

 もちろん軍を指揮する司令官が最前線で戦う必要は無い、そもそも軍で一番強い必要だって無いんだ。

 ただ臆病や小心な上官って奴はどうしても部下から慕われなくなる、命を失うかもしれない戦場で部下を盾にするような上官や強欲な上官が我が身可愛さに逃げ出す可能性があるからな。

 戦術的撤退で上官を優先的に逃がすなんてよくある事だけど、部下に『こいつを逃がすのは癪だな』と思われる奴はいずれ部下に軽んじられて命を落とす。

 細かい所に気が付いて有能な仲間の補佐に徹するってのは確かに上手い活躍なんだが、下手をすると他人に媚び諂う癖に危険な場所からなるべく遠ざかりたい卑怯者にも見えちまう。

 アンジェと結婚した後で分かった事だが貴族でも軍人でも無能や弱気だと周囲に認知されたらずっとナメられ続けられる。

 ある程度は自分から積極的に行動しないとヤバい時に誰も助けてくれなくて結局困るのは自分自身だ。

 俺も根が陰気で社交よりも畑の土弄りが好きだからライオネルの気持ちは分からなくもない。

 アンジェに子供達の扱いや教育方針についてずっと口酸っぱく忠告されてきたけど仕事の忙しさにかまけて後回しにしてきたツケがここで帰ってくるとは。

 苦難って奴はいつも一番来て欲しくない時に何故か擦り寄ってきやがる。

 

「怪物を僕達に襲わせてるのはエルフなのか、それとも遺跡なのか?攻め方が甘いのはそれぞれの方針が違うからだと思います」

「なるほど、確かにアンジェや俺と会話した遺跡は球っころより親し気に話しかけてきたな。逆にエルフや闇討ちで俺達を仕留めようとした。だから俺達に対する姿勢の違いが半端な攻撃になってるって訳か」

「遺跡は母上を子供の姿にしたけど逃がしてくれました。殺す価値も無いと思われた、或いは単なる実験動物として生かそうとした、エルフに見つからないように逃がした可能性も考えられます」

『新人類の生体サンプルとしてアンジェリカ・フォウ・バルトファルトが最適という可能性は確かに高いと思われます。彼女は知性及び身体能力に関してホルファート王国在中の女性では極めて高水準の個体です。サンプルとしては実に興味深い対象です』

「俺の嫁を実験動物みたいに言うな」

『単に事実の指摘です。この遺跡の人工知能が再起動してから交流した知的生命体は主にエルフのみで、新人類は上層のダンジョンを探索する冒険者を観察する程度に留まっていたのでしょう』

「だったらそいつらと関りを持てば良いじゃない」

「俺達がこの場所を調べに来た理由を思い出せ、この浮島にあるダンジョンを訪れて行方不明になった者が多過ぎるだぞ」

『おそらく冒険者達はエルフによって口封じされたと推測されます。遺跡の人工知能が再起動した時期が何頃かは不明ですが、嘗てオリヴィア達が過激派のエルフを捕縛した時期には再起動していなかったのでしょう。観光地化された影響か、それとも遺跡を利用していたエルフ達の帰還によるものかは不明ですが』

「じゃあエルフ達を避けて遺跡と話し合えば僕達の目的は達成できるんじゃ?」

 

 ライオネルの考えはそもそも争わずに問題を解決しようとする物だった。

 その案に一瞬だけ呆気に取られてしまう、失望したという意味じゃなくて本気でロストアイテムと話し合いで解決しようとするという考えが予想外だからだ。

 もう十年位前になるだろうか、俺と球っころの出会いは最悪と言っていい。

 俺は遺跡に居た球っころが操る機械人形を破壊したし、球っころは俺を殺そうとして機械人形を差し向けた。

 それからはお互いの利益の為にか奇妙な協力関係が今日まで続いてるけど、本心じゃ何処か信用しきれてない。

 球っころにとってあくまでも俺は敵対した連中の子孫で情報収集の為に手を組んでるに過ぎないし、俺にとっても家族の安全と厄介事の解決に球っころの力を利用しているだけ。

 お互いの力こそは認めてるけどまた敵対したら即座に殺し合いを始める、そんな血生臭い共犯者が俺達だ。

 利益交渉はしても争いを止めようとする意志が抜け落ちていた。

 

 だけどライオネルはエルフ達を避けてこの遺跡の意思と交渉し問題を解決しようと考えていた。

 ロストアイテムの恐ろしさを知らないバカな子供の戯言、そう判断して笑うにはライオネルの目が真剣過ぎて躊躇われる意思が瞳に宿っている。

 これが臆病さから来た消極的な交渉案だとしたら俺も否定しただろう。

 でも普段は大人しい我が家の長男が真剣に考えた結果だとすると無碍にするのも気が引ける。

 昔からライオネルはアリエルやリーアと違って短絡的で力任せな解決方法を好まない、まず話を聞いて穏便な解決方法を選ぶ。

 それは嫡子として他人の話をよく聞いてから判断しろとアンジェが繰り返し教えたのが切っ掛けだ。

 球っころの力を使ってエルフ達を力づくで鎮圧した後は遺跡との約束を果たしたと詰め寄ってアンジェを元通りする、その後は面倒事を王都の連中にお任せする俺の案にも難色を示すかもしれない。

 

「……実際どうなんだ球っころ、お前から話を持ち掛ければ遺跡は応じるんじゃないのか?」

『その提案は非常に困難だと判断せざる得ません』

「どうしてだよ?面識は無くても同じ陣営なんだろ、お前が新人類を嫌ってるのは知ってるけど、それなら同じ旧人類のロストアイテムなお前なら話ぐらいは聞いてくれそうなもんだが」

 

 まぁ、球っころと遺跡が意気投合して人類抹殺一直線になられるとそれはそれで俺達が困るんだけどな。

 確かに俺はアンジェの解放と引き換えに球っころと遺跡を引き合わせる約束をしてる。

 だけど約束したのは引き合わせるまでだ、その後で面倒事が起きそうなら相応に対処させてもらう・

 実はいざという時の為に俺の背嚢には高性能爆弾が幾つか忍ばせてあった、流石に球っころの本体を破壊できるぐらいの力は無いけど遺跡の中枢を止められるのは可能だろう。

 ただ最悪の事態を考えたらライオネルとアリエルを逃がすのは難しい、俺は球っころや遺跡と相討ちになっても構わないけど自分の子供達を巻き込むのは流石に気が引ける。

 

『先程から幾度も扉を開ける為にこの遺跡に対してアクセスを試みていますが無反応で終わりました。しかしハッキングによって開錠する直前にパスワードを変更されて失敗に終わっているのです』

「あ、あく…? はっき…? ぱす…?」

『分かりやすく説明すると私が扉を開ける鍵を複製している度に錠前を変えられている状況です。私からの呼び掛けに対しても厳重なプロテクトが施され何の返答もしません。明らかにこの遺跡は何らかの意図を持ち私を拒絶しています』

「エルフ達の仕業じゃないの?この遺跡を使って怪物を作ってる奴らならその位は出来るでしょ」

『不可能です』

「断言したな、おい」

『私達の情報処理性能は有機生命体を遥かに上回っています。この浮島を訪れた時から独自にエルフの調査を開始しましたが、エルフが新人類よりも優れた身体能力を有していたとしても生物の反射行動には限界が存在します。それは決して私を上回る物ではありません』

「遺跡とエルフの目的が一致して協力しているとしたら」

『確かに私とリオン・フォウ・バルトファルトは協力関係ですが、あくまで利害の一致を条件に行動を共にしているに過ぎません。遺跡とエルフが同様の協力関係だと仮定した場合でも私の呼び掛けに全く応じないのは不可解と言わざる得ません』

 

 さらっと俺に対する当てつけみたいな事を言い放つ球っころ、やっぱりこいつは油断ならねぇ。

 同時にエルフ達と遺跡の関係が気に掛かる、確か遺跡の奴はこう言った。

 

『私は外界と旧人類の現状を知りたい』

『目覚めてからずっと関わってた相手が偏見に凝り固まっていたら差別主義者なら、真っ当な相手を傍に置きたくなるのは当然でしょ』

『扱う者が存在しなければ十全に機能を発揮する権限を与えられていないの』

『彼らは私の技術を活用したいけど一方的に使うだけ。私が必要な情報を与えないまま独占したいだけ』

 

 遺跡はエルフ達が居なきゃ力を発揮できない、でも本心からエルフ達に従ってる訳じゃない。

 なのに同族の球っころの呼び掛けには応じず沈黙を貫いてる。

 アンジェや俺を観察して手を組むべきか判断する為に俺達を試しているのか?

 或いはアンジェを逃がした事がエルフ達にバレて面倒な事態になったのかもしれない。

 それとも球っころとは全く別の意図を持ってる行動している?

 いずれにしても遺跡が容易に説得できる相手じゃない事だけははっきりと分かる。

 

「どちらにしても今の俺達は前に進むしか出来ない。到着したら何とか遺跡にアンジェを元通りにしてもらう事だけを考えろ」

「具体的な方針が無ければいざという時に対応できないと思います」

「考えられるあらゆる可能性を探すお前の考え方を否定するつもりはないぞ。だけど考え過ぎて足を止めるのだけは止めるべきだ」

「いけませんか?」

「上手く言えないんだけどな、人間ってのは悩むのが楽なんだよ」

「いやいやいや、どう考えたって楽じゃないでしょ。渡された課題を悩みながら解くより忘れたふりして誤魔化す方が簡単だし」

「アリエルはライオネルを見習って生きろ、そんなだからアンジェに追い掛け回されるんだ」

「いちいち思い出させないでよ」

「こう、何て言えば良いんだろうな。悩むってのは果てが無いんだよ。『もし嫌な事があったらどうしよう』とか『もし予想外の事があれば何をすればいい』ってどれだけ考えても俺達には限界があるし、嫌な事や予想外の事なんて世の中じゃ珍しくないのは分かるだろ?」

「はい」

「そんな時にな、悩み続けて足を止めるのは楽なんだ。考えてたから余計な被害に合わずに済んだって思っても、傍から見りゃその場で足踏みをしてただけさ。決断を先送りにして嫌な事から逃げてても実は何も変わってない。むしろ状況は刻一刻と悪くなってる事さえある」

「だから前に進み続けろと?」

「俺も臆病で怠惰な男だから気持ちは分かるよ。でもアンジェがいつも俺の尻を蹴り上げてくれたからここまでやって来れた。そんな嫁が危ない時に騒ぐ以外に何もしなかったのと無駄でも足掻いたのじゃ何かが違うんだ」

 

 俺は学も無いしそこそこ軍人に向いてて運が良いだけの男だ。

 アンジェが嫁になってくれなきゃ今こうして生きてるはずも無い事だけは分かる。

 もしかしたら遺跡に行かず王国軍の救援を待った方が正しい選択かもしれない。

 でもそれは楽な方へ楽な方へとただ流され続けるだけの生き方だ。

 自分でやれるだけの事をやっても力及ばずにダメな結果になって後悔する、何もしないまま言い訳と嘘を積み重ねて自分の人生を他人に委ね後悔する。

 どっちを選ぶなら俺は自分で行動する方を選ぶ、単に前へ進む以外に選択肢が無いだけかもしれないが。

 

「だけどこのままじゃ遺跡の中枢まで本当に辿り着けるんですか?」

「難しいな、もしエルフ達が籠城戦を決め込むなら圧倒的に俺達が不利だ」

「籠城戦って増援が前提の戦い方だっけ。確かにこの遺跡の外に居る連中が着たらマズいかも」

『加えて怪物達の総数は不明です。更にホルファート王国軍が貴方達の完全な味方ではないと仮定すると時間的な制限もあるので任務遂行の成功率は極めて低いと言わざるを得ません』

「俺が言い難い事をズバズバと指摘しやがって」

『必要とあらば私の本体を今から起動させる事を提案します、物理的な距離が縮まればハッキング速度も向上し貴方達へのサポートが楽になるでしょう』

「良いじゃんそれ。頼もうよお父様」

「却下だ却下、他の誰かに見つかったらどうする。そもそもお前の手勢で戦闘が出来るのかよ、さっき怪物が何匹いるか分からないって言ったのは確かお前だぞ」

『最終手段として本艦に搭載された主砲による攻撃で上層部のダンジョンを吹き飛ばします。遺跡の中枢さえ無事なら情報の収集には問題ありません』

「やめろ、絶対にやめろ」

 

 金属のくせに球っころはやたら血の気が多くて困る、こいつは敵さえ倒せば後はどうにでもなると考えてるから方法が雑で暴力的過ぎる

 こんなのが現れたら怪物騒動以上の混乱になるのは間違いない、下手すりゃ王国軍と会敵して死人がどれだけ出るか分かったもんじゃない。

 遠回りな方法でも死人は出ない方が良いに決まってる、たとえ相手が敵対してる奴や顔さえ知らない奴でもな。

 

「逆に扉が開かないからこそ上手くここまで来れた。これからもこのやり方で行くぞ」

「どういう事ですか?」

「通路が塞がれるからこそ怪物が俺達の所へ一気に集まらないって事さ。図体がデカい怪物にとっちゃこの通路は並んで戦うには狭過ぎる上に体を隠せるような場所も無いからこっちの攻撃が当たりやすい」

「そっか、あたし達だけに不利って訳じゃないのね」

「分かったらそろそろ休憩は終わりだ、この遺跡の中も無限って訳じゃない」

『リオン・フォウ・バルトファルトがアンジェリカ・フォウ・バルトファルトを救出した時間から換算して遺跡の面積は上層のダンジョンと同程度と推測されます。私の計算では遺跡の中心まで遠くはないでしょう』

「分かったな、じゃあ行くぞ」

「はい」

 

 休憩と飴玉が効いたのか二人の顔色がだいぶ良くなった、これならどうにかアンジェが囚われてたあの場所まで辿り着けるだろう。

 球っころが照らした通路をひらすら歩き続ける、行き詰ったら少し引き返して進むの繰り返し。

 中枢に近付いたせいか休憩した後は怪物とも遭遇しない、これは案外上手くいくかな?

 

『リオン・フォウ・バルトファルト』

「どうした?」

『この先に生体反応があります。データ照合の結果、先程までの怪物に間違いありません』

「ようやく来なすったか、場所は?」

『この先の通路を右に曲がった先になります』

「数はどんだけだ?」

『不明です』

「何?」

『御自身で確認ください』

 

 嫌な予感がしたので壁に体を近付けて恐る恐る曲がり角から顔を出す、ライオネルとアリエルも俺と同じ行動を採る。

 

「お父様」

「どうした?」

「さっき『通路が塞がれるからこそ怪物が俺達の所へ一気に集まらない』とか言ったわね」

「確かに言ったぞ」

「あたし、それを聞いて少しだけ尊敬したの」

「そりゃ嬉しいなぁ」

「でも今は逆に少し呆れてるわ」

「やめてくれ、娘に嫌われるとお父さんはとても悲しいんだ」

「じゃあ聞くけどさ、何あれ?」

 

 通路の先に怪物達が見える、それも五匹や六匹なんて数じゃない。

 今まで倒してきた怪物の合計を上回るほどの群れだ。

 一瞬だけ逃げたくなったけど俺が逃げたらライオネルとアリエルはどうなる?

 アンジェは確実に元の体に戻れなくなっちまう。

 領主も大変だけど父親ってのも同じぐらい大変だ、もしみんな無事で領地に戻れたら暫く思いっきり休む。

 脳が蕩けるぐらいダラダラ過ごしてアンジェに怒られよう。

 その為にもまず生き残らなきゃな。

 

『おそらく私達を襲って来なかったのは待ち伏せしていたからと推察されます』

「分かりきった答えをどうもありがとう!」

「どうするんですか!?」

「ここで迎え撃つぞ!二人とも気合入れろ!」

「あぁもう!実戦や冒険ってこんな事ばっかなの!?」

「絵物語なんて脚色ばっかだぞ!世の中を支える仕事はほとんど地味で目立たないお仕事だ!」

「作戦は!?」

「今まで通り!とにかく襲って来た奴の動きを止めたら高火力で仕留めるぞ!」

 

 異常な数の怪物達から向けられる敵意はデカい金属製の扉みたいな圧力で俺達に迫る。

 ここから先へ行かせない、この遺跡に潜む奴らの意思を代弁しているようだ。

 同時にこの局面を切り抜ければ後は楽だって確信も心の何処か感じた、この遺跡がどれだけ優れた技術を持っていても無限に怪物を産み出せはしないはず。

 

ダァァンッ!!

 

 魔力が宿る弾丸が闇を貫いて血の華が咲く、死地に放り込まれるのは慣れっこだ。

 戦闘態勢に移行した脳が五感を研ぎ澄ませると、俺は次の標的に銃口を向ける。

 ろくに人が訪れない通路に何度も銃声が響き渡った。




リオン視点回、親子の語らいが中心です。
遺跡とエルフ達の関係は原作とはまた違った形です。
原作で再起動したばかりの状況やクレアーレとも違う異質な存在として描いています。
次章はアリエル中心回の予定。

追記:依頼主様のリクエストにより
tooteki様、オスワーニ様 감가지様、タカミ様、Helmet Nyan様にイラストを描いていただきました。
本当にありがとうございます。

tooteki様 https://www.pixiv.net/artworks/137734743
オスワーニ様 https://www.pixiv.net/artworks/137775205(成人向け注意
감가지様 https://www.pixiv.net/artworks/137798985
タカミ様 https://www.pixiv.net/artworks/137814532
Helmet Nyan様 https://www.pixiv.net/artworks/137912517

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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