婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです 作:品☆美
右腕を振るう度に暗闇の中で赤い蛇が這い回ってるような光景が広がる。
魔法は実態が無いはずだけどあたしの右腕から伸びる炎が蠢く度に風切り音がブンブン聞こえるのが変な感じ。
普段の右腕と比べて数十倍も伸びた炎の鞭がどうやって動いているのかあたしにも全く分からない。
ただ鞭のように右腕を払うと通路の上下左右に火花が散り怪物達が呻き声を出す。
暗闇があたしの炎で照らされる度に怪物達がジリジリと一歩ずつ退いていく。
怪物達の攻撃方法は基本的に嚙みつきに何本も生えた腕を使った怪力や鋭い爪の引っ掻きといった近接の肉弾戦のみ。
だから射程外から攻撃すれば反撃の手段はほぼ無いはず。
広い通路の通路に陣取り右腕を振るう、そうすれば通路であたしの炎から逃れる場所は無くなる。
それでもあたしの右腕は一本だけしかない。
さっきから必死に左腕や両脚からも炎を出そうと試しても何の反応も出ないまま。
たぶんお母様が渡してくれた御守りを右腕に付けてるのが原因だと思う。
場所を変えたらどうなるか知りたいけど、もしも炎が出なくなったら確実にあたし達は確実に死ぬ。
それだけは絶対に嫌だから滅多な行動だけは出来ない。
「よし、取り敢えず上手くいったな」
『彼我の戦力差で撤退は致し方ないと思いましたがアリエル・フォウ・バルトファルトの覚醒は僥倖でしたね』
「父上が僕達の同行を許可したのはこれを見越しての事ですか?」
「そんな訳あるかよ、最初は一人で遺跡に行くつもりだったぞ」
『リオン・フォウ・バルトファルトの作戦立案能力について過剰な期待を寄せるのは得策とは言えません。世間での評価に於ける彼は大胆で狡猾な戦術家ですが、実態は基本に忠実でリスク管理を怠らない慎重派な男です』
「お前は俺を褒めてんのか貶してんのかハッキリしろ」
あたしの横でロストアイテム、いや球っころとお父様が言い争いを始めた。
お父様とライオネルがあたしの左右を護りつつ銃撃で怪物達を牽制、動きを止めた怪物はあたしが炎の右腕で思いっきりぶっ叩く。
互いに死角を補いながらも銃の射線に味方が入らないよう気を付けた陣形だった。
この陣形はお父様が咄嗟に思い付いたんだけど怪物達にかなり有効な事ぐらいは頭の悪いあたしにも分かる。
怪物達に追い詰められて後退を余儀なくされたあたし達が元の位置まで戻れたのがその証明と言って良い。
それでも圧倒的な数の差を覆すのは難しかった、戻る事は出来たけど遺跡の奥へこれ以上進むのはなかなか上手くいかなくて困ってる。
「くそッ、押し戻すだけで精一杯か」
『先程から怪物達の撃破数の変化は三匹に留まっています。これでは銃撃のみで対応してた先程の方が撃破数に於いては効率的だったと判断せざるを得ません。現状アリエル・フォウ・バルトファルトの攻撃で怯ませるだけのダメージは与えられますが完全破壊する程のダメージには程遠いと推察されます』
「はぁ!?あたしのせいって言いたいの!」
「アリエル、落ち着いて。まず怪物を倒す事に集中しよう」
湧き出した怒りで炎が乱れるとライオネルの言葉で必死にあたしを宥める。
どうにか感情を抑え込んで状況を整理する、さっきからあたしの攻撃で怪物達を倒せないのは確かな事実だ。
鞭みたいな炎の打撃が当たった怪物の体は皮と肉が焼け爛れて痛々しい傷痕になってるけど倒せた数は力が目覚めた直後に攻撃した数匹しかいない。
あれから何度も迫ってくる怪物に攻撃を当ててるんだけど、傷の痛みで一旦は奥へ後退するのに時間が経つとまた襲ってくるの繰り返し。
このままじゃあ怪物達があたしの攻撃で傷付くのを覚悟して一気に攻めて来ればやられるのは間違いなくこっち。
そんな不安が心の奥底でどんどん大きくなってるけど何をすれば良いか分からない。
『計測した結果、炎による打擲はアリエル・フォウ・バルトファルトの体から距離が離れるほど殺傷力は低下していると推測されます』
「つまりは射程の問題か」
『そのように推察されます。陣形に則り銃の有効射程距離と合わせた結果、距離が遠ざかると敵個体の肉体損傷が軽減しているのが確認できました』
「なら今直ぐに怪物達を殺しきれる距離を算出しろ」
『その計算は既に計算は完了しています。最も威力を保てる距離はアリエル・フォウ・バルトファルトの肉体から60cmの範囲内との結果が算出済みです』
「お前の言ってる単位がこっちは分からないんだよ!」
『凡そ一歩程度の距離になります」
つまりあたしの体から半径一歩ぐらいの近い距離じゃないと怪物を仕留められないって事?
どうしてそんな簡単そうに言えるのよ、お父様がこのロストアイテムに辛辣なのがよく分かるわ。
でも球っころの意見が正しいのも理解できる。
銃だって標的が遠くなるほど威力が落ちてしまうんだから魔法でも同じ事が起きても不思議じゃない。
どうしてもやらなきゃダメなら全力で試す以外に方法は無い、だけど上手くやるにはどうすれば正解なのかが分からなかった。
「アリエル、聞こえた?」
「聞こえたわよ、本当にムカつくロストアイテムね」
「取り敢えず試してみようよ」
「あんたも他人事と思ってるでしょ、さっきからいろいろ試してるけど上手くいかないのよ」
「落ち着けアリエル、まずは呼吸を整えろ」
ついイライラしてたから声を掛けてきたライオネルに八つ当たりしてしまう。
災難だとは思ったけどあたしも必死だからしょうがない。
どんな事も外野で口出しするのは簡単だけど当事者になったらそうそう上手くいかない事ぐらい短いあたしの人生でも分かるわ。
だけどこの炎が一体何をどうすれば制御できるのか、出してるあたしにだって全然見当がつかない。
今は手の先から鞭みたいに伸びて動くけど、そもそも鞭なんて弄った事自体が一度も無いし。
王立学園の講義やバルトファルト領軍の訓練で扱った事が一番多いのは銃だし、近接武器は剣や槍をちょっと扱ったぐらい。
だいたい魔法だって人並み程度の才能しかなかったのに、いきなり炎の魔法とか出せるようになっても持て余すでしょ。
こんな事ならもっと訓練や講義をしっかり受ければ良かったなぁ。
もしも無事に帰ったら心を入れ替えて勉強や訓練を怠けない学園生活を送ろう。
「アンジェが魔法を使った所は見たか?」
「うん」
「あいつも最初から魔法の才能があった訳じゃない、強い魔法を使えるようになったのは俺と結婚してからだ」
「そうだったの?」
「ただアンジェは何年も訓練して魔法を制御できるようなったし、普通の魔法はこんな形にならないのは分かるだろ」
「出してるあたしにもよく分からないんだけど」
「ゆっくり教えてやりたいが時間が足りない上にこの状況だ。要点だけ伝えるぞ」
「えぇ、ちょっと…」
「出した火を自分が上手く扱える形に纏めろ。アンジェが魔法を棒みたいにしたのはそれが一番扱い易い形だからだ」
「う~ん……」
「少しぐらいなら怪物達を食い止められる、その間にお前は上手い具合に形にするんだ」
あまり頼りにならなそうなお父様の助言を受けて立ち尽くす、あたし以外の二人と一個は少し前に出て怪物達の相手を始めた。
そんな事をいきなり言われても困るんだけど。
とにかく今はお父様とライオネルが食い止めてる間にこの炎を上手く扱えるようにしなきゃあたし達はおしまいになる。
こんな太陽の光も届かないような地の底で死にたくないし、家族の皆と会えないまま怪物のご飯になるのだって絶対に嫌。
だから生まれて初めて、本当に死ぬ気で炎を制御するしか生き残る道は残されていない。
あたしにとって幸運だったのは少し前にお母様と怪物の戦いを見れた事だ。
母親が出来るなら娘も出来て当然なんて考え方は嫌いだけど今はあの光景を再現する事にだけ集中する。
確かお母様はまず掌に火球を作り出していた。
魔法を棒みたいな形で出した時も両方の掌を合わせてたのを思い出す。
取り敢えず掌を前に向けるように構えて息を整える、さっきまでの異常な集中力を再現しようと頭の中から余計な事を放り出し自分の体から出てる炎にだけ意識を割く。
人生一番に集中した時の再現なんて無理だと思ってたけど、だんだん銃声や怪物の叫びが遠のき意識が自分と炎だけで満たされる。
思った以上に上手くいってあたし自身も驚いてる、問題はここからどうやって炎を制御するかね。
お母様みたいな火を棒状にするのは止めておいた方が良さそう。
下手に真似してもお母様が得意な戦い方とあたしの得意な戦い方は全く違ってるんだもん。
じゃあ、あたしが得意な戦い方って何だろう?
とりあえず銃はダメね、訓練で扱いに慣れてるけどあんな複雑な仕組みを再現するのは絶対に無理。
剣や槍みたいな近接武器?
こっちも同年代の女の子より上手く扱えても達人や名人と思われるぐらいの腕前じゃない。
あたし自身は運動や戦闘が得意な女という認識してたけど、思った以上に出来る事は少なかった。
何か酷く惨めな気分、おバカさんのアリエルは普段は大口を叩くのに肝心な時は役立たず。
この浮島に来てからいろんな事が起き過ぎてあたしがどれだけ身分や両親に護られてきたか思い知った。
だけどまだだ、あたしの限界は此処じゃない。
目の前に立ち塞がる壁を壊せ、道を阻む奴らを捻じ伏せろ。
賢くお淑やかなお嬢様なんて御免被るわ。
あたしは何処まで行ってもあたしである事に変わりない。
この炎があたしの体から出てるって言うのなら、炎はずっと眠っていたあたしの一部。
それを今まで認識してなかったから制御できない、そんな道理を受け入れるつもりなんてあたしらしくないでしょ。
バカは後先考えないからバカなのよ、
「あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
鞭みたいに伸びていた炎が生きた蛇みたいに這い回ってあたしの右腕に絡みつく。
さっきまでは全く熱さを感じていなかったけど、今は服越しでも炎の熱さと腕を締め付ける力強さに肉と骨が軋み口から叫び声が漏れた。
だけど降参なんてしてやらないから。
あたしが死ねば
自分が死ぬ覚悟も予想も出来ない暴走した力風情にナメられてたまるもんか。
右腕が灼けて炭になったかもしれないと思うぐらいの熱さと痛みがどれだけ続いたか分からない。
意識を集中した影響で時間の感覚が引き延ばされて一秒が何十倍にも感じられる。
体から吹き出す汗さえ蒸発しそうな熱気があたしの体で暴れていた。
鼻と口の中が鉄臭くて何かが漏れる。
そのドロドロした物が血だと気付いて思わず顔を下に向け口の中に溢れ出した物を吐き出す。
これぐらい何て事ない、血の気が多いあたしなら逆に思考が澄み渡るぐらいよ。
ふと視線を右腕に移すと腕を締め続ける炎の蛇は居なかった。
代わりに在ったのは輝く巨大な右腕。
いや右腕って言うのもおかしなぐらい変な形だ。
さっきまで右腕全体に纏わり付いてた炎は消え失せている。
肘から先に行けば行くほど巨大になって光る右腕は炎みたいに揺らめかず熱した金属の輝きに近い。
特に右拳は普段の百倍ぐらいありそうなほど巨大で腕を下ろしたら確実に床に着くだろう。
大人を軽く握り潰せそうな大きさの腕はバルトファルト領軍が配備してる鎧の腕を無理やりあたしの体へ繋げたように歪つで化け物めいていた。
これだけ大きいのに重さを感じないのが逆に怖い、まるで熱を出した時に見る悪夢じゃないの。
軽く眩暈が起きたが何とか堪えて口周りを服の袖で拭う。
鼻血と吐血で服が赤黒く染まったけど女は男より血や痛みに慣れっこよ。
思わぬ結果にむしゃくしゃした気持ちを抱えたままあたしは前へ向けて駆け出す。
化け物なら化け物らしく戦ってやろうじゃない。
「二人ともどいてッ!!」
銃で怪物に応戦していたお父様とライオネルに声を掛けると二人とも撃つのを止めた。
右腕だけ巨大化したあたしの姿に驚いたのか、それとも怪物に向かって駆け出すあたしの無茶に驚いたのか分からない。
今のあたしはとにかく今の状況を覆す事しか頭に無かった。
一番近くに居た怪物へ右拳を叩き込もうと思いっきり握りしめた瞬間、暗い通路が光で満ちる。
ト゛オ゛ォ゛ォ゛ン゛ッ゛!!
飛行船に搭載されてる実弾砲を発射した時に似た爆音が鳴り響く。
どうしてそうなったかはあたしにも分からない。
分かったのは巨大な右腕に殴られた怪物は胸から上が跡形も無くなってる事実。
右腕の光に照らされた通路の壁や天井に張り付いた血や肉の塊が本当に砲撃されたみたいで怖かった。
呆然としてるあたしは隙だらけで、その時なら攻撃をまともに受けていただろう。
怪物達が襲って来なかった原因は右拳から放たれる光だ。
「HIGYAAAAH!?」
「ОHHHH!SYUUUH!!」
怪物達は怯えるように目元や顔を手で覆う、まるで見てはいけない物を見てしまった憐れな小動物のように。
『発光と爆音です』
「はァ?」
怪物を含めてこの場に居る全員が状況を受け入れられず動きが止まってた。
そんな中で球っころだけが唯一冷静な判断を下す。
間の抜けた声が口から洩れた瞬間に慌てて自分が怪物達の前に体を晒していた事に気付いて慌ててお父様の近くに寄る。
『先程の解剖から推察するとこの生物は貴女達と比べ瞳孔の割合が非常に大きい事が判明しました』
「それって何の意味があるのよ!?」
『黒目が大きく見える生き物は暗い環境下で視認性を高める為に瞳孔、即ち黒目の部分が大きくなる傾向があります』
「だから!?」
『僅かな光を頼りに暗闇で活動できる代償として貴女達が生きる地上では太陽光の眩しさに耐えきれないの推察されます』
「だからアリエルの魔法に怯んだ、君はそう言いたい訳?」
『肯定です、更に長大な耳朶は集音性に優れますが突発的な大音量によって聴覚過敏になる可能性が高まります』
「耳も大きくて小さい音も聞き分けられる代わりに大きな音に弱いんだね」
「あれだな、洞窟の蝙蝠とか地中のモグラと同じか」
『以上の点を踏まえるとアリエル・フォウ・バルトファルトの攻撃は極めて効果が高いと言えます、単なる偶然でしょうが』
「一言多いのよあんたは!!」
いちいち腹が立つ言葉を投げつける球っころを睨みつけながら何度も右腕を振るう。
カ゛ァ゛ア゛ァ゛ン゛ン゛ッ゛!!
ト゛コ゛ォ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛!!
ハ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ン゛!!
巨大なあたしの右拳触れる度に爆音が鳴り響き怪物の体が吹き飛ぶ。
頭、下半身、胸、腹といった部分が最初から無かったと思うぐらい殴られた場所が大きく抉れて断面が焦げていた。
しかも当たる度に爆音と閃光が出るから怪物達は怯んで動きを止める、その隙に別の怪物を標的にして次の攻撃へ移る。
その繰り返しを何度か続けた、圧倒的な数であたし達を追い詰めていた怪物達を今度はこっちが追い詰める番になったのは胸がすく。
だけど限界は突然訪れる。
まだ十匹も倒せていないのに次の怪物に殴りかかろうとして体勢が崩れた。
血で足が滑ったとか激しい運動の息切れとは明らかに違う。
体から力と体温と水分が際限なく奪われていく感覚が怪物を仕留める度に起きる。
まるで命を消耗しているような疲労感に体の動きが鈍って次の一匹との距離がどんどん遠ざかっていくように感じた。
「どうしたアリエル!?」
あたしの異常を最初に気付いたのはライオネルだ。
双子として生まれたせいか、お母様のお腹に居た頃からの長い付き合いのせいかアイツは誰よりもあたしの事に関して察しが良い。
お父様は怪物達に隙を与えないよう手際良く銃を撃ってるし、球っころは赤い瞳みたいな部分から光を出して通路を照らしているからあたしにまで意識を割けないみたいだ。
どうにか体を奮い立たせようとしてるのに思うように体が動いてくれない。
ここで頑張らないと間違いなく死ぬと分かっていても悪寒が止まらなかった。
炎の腕で殴ると確実に怪物を一匹倒せる、だけど怪物の残りはあと何匹?
十匹?それとも二十匹?
全て倒しきる前にあたしの命が尽きそうな事ぐらい体の疲れから嫌でも気付くわよ、何しろ自分の体なんだから。
「ライオネル、これじゃダメ」
「何がどうしてッ!?」
「このまま一匹ずつ倒してたら先にあたしの方が力尽きるわ、火力が強過ぎて消耗が激しいの」
「そんな!!」
「だから協力して、あいつらを一気に倒せそうなやり方があるんだけど」
作戦と言ってもろくに根拠は無い、ただ何か出来そうって大雑把に感じてるだけ。
でもあたしの炎に家族を護れる力があるならやってみる価値はあると思う。
ライオネルは少しの間だけ考え込んだけど頷いてくれた、こういう時は双子なお陰か意思の疎通が楽だ。
後はやれるだけやってみよう。
「父上ッ!一時撤退を!」
「どうした!?そっちもヤバいのか!」
「アリエルに考えがあるそうです!」
「……とりあえずそっちに行くから待ってろ!」
そう呟いてお父様が近付いて来る、服のあちこちに怪物の返り血がべったりついてかなり無残な姿だ。
だけど同時に頼りになりそうな雰囲気もまとってる、もしかしたら初めてお父様を尊敬したかもしれない。
喋る時間も惜しいので通路の途中にある曲がり角を指差すと考えが伝わったのかあたし達の背中を護りながら後退してくれる。
すっかり体力を消耗してたけど何とか駆け出す事は出来た。
跳び込むように曲がり角へあたしが隠れた後でライオネルとお父様も続く。
怪物達の様子はあたしから見えないけどお父様は相変わらず銃撃は続いたままだ。
「どうしたアリエル!?」
「一匹一匹倒してたら先にこっちがやられるわ、流石のあたしでも右腕だけで相手できる数じゃない」
「それで何か考えがあるのか?」
「取り敢えず時間を稼いで、ぶっつけ本番だけどやるしかないわ」
「よし、手伝えライオネル」
「はいッ!」
二人が角から体を出して銃撃を始めた、たぶん怪物達はあたし達の後退を逃走だと勘違いして追ってきてるんだろう。
そっちの方がやり易い、この攻撃は賭けだから撃ち漏らしがいたらその方が面倒だし。
目を閉じ呼吸を整え右腕を掲げたまま少し指を曲げる。
頭の中であの光景を思い出す、お母様が火の魔法を放った時の姿を記憶の中から引き摺り出す。
こんな事を言えば親の威光に縋るバカ娘と思われるかもしれない。
だけどろくに魔法を使えなかったあたしが見本とすべき相手はお母様以外に居なかった。
ゆっくりと指を曲げて掌に力を集める感覚で力を込める、もし炎が本当にあたしから生まれ別れた一部ならきっと応えるはず。
暫くすると掌に温かさが感じられた。
恐る恐る目を開くと宙に浮かぶ丸い炎の球が浮いてる。
お母様が使った火球と同じぐらいの大きさ、初めてにしては上出来だろう。
だけど問題はここからだ、このまま怪物達にぶつけた所で一匹倒すぐらいの火力しかない。
呼吸を整え掌に力を込める、あたしの中にある全ての炎を集めるつもりで意識を集中。
どんどん炎の球が大きくなって握り拳の大きさから既にあたしの身長を超える位に成長していく。
炎の球が膨れるほど体の疲労もひどくなる、まるで体力や魔力以外に知能や命さえ吸ってるみたい。
怖いけど血の気が多い頭が落ち着いて冷静に炎を操れるからちょうど良いかも。
これなら廊下にいる怪物を何匹も始末できるけど持ち運びが難しいし指向性も無い。
銃弾と同じ、薬莢に詰める火薬を圧縮する事で一方向への威力が増すと前に教わった。
それと同じ事をこの火球で行う、しかもあたし自身の手で。
全ての方向から圧縮するのは無理そう、頭の中で思い浮かべるのは炎が渦巻く太陽。
炎の球をゆっくりを回してどんどん加速させる、そして引き延ばした炎を今度は纏めていく。
小さかった頃にお母様が毛糸の玉を作るを手伝った事があった、それを今度はあたしの炎で実践する。
中心にある核を回転させ炎を纏わり付かせ続ける、圧縮された炎が更に熱を帯びて輝きを増した。
まだだ、もっと。
もっと小さく、もっと熱く、もっと眩しく。
気が付けば右腕に纏ってた炎さえ吸い込まれ、あたしの掌には握れるほどの小さな太陽が浮いていた。
大きさは子供が遊ぶ硝子玉ぐらい縮んでるのに絶えず震えて今にも弾けそう。
少しでも力を緩めたらそのままあたし達が焼け死ぬのが分かるぐらい力が宿ってる。
あたしの体に宿ってる力の全てが込められたこの球をどうにかして怪物達に当てないと。
必死に怪物の足止めをしてるお父様とライオネルに近付こう足を前に出す、でもやたら足が重くてたった数歩の距離が途轍もなく遠い。
ちょっとした距離を歩くのが全力疾走より疲れるなんて笑っちゃう。
そのまま二人の後ろを通り過ぎて通路に出た、暗闇でも関係なく襲って来る怪物達の動きは吐き気が出そうなぐらい気持ち悪かった。
そのまま掌を前に向けて炎の球を前に向けると通路が一気に明るくなる。
さっきまでの炎の腕さえ比較にならないぐらい眩しい光、あまりの光量に怪物だけじゃなくお父様とライオネルも動きが止まった。
そんな状況でもあたしだけは動ける。
炎の球はあたしが生み出した、あたしの分身とも言って良い存在だ。
『前へ』
念じるだけで炎の球はあたしの掌から離れて怪物達へ向かってく。
どの程で飛んでるかは光で視界が潰れたせいで分からない、だけど炎の球とあたしはまだ糸より細い何かで繋がってる。
お父様とライオネルの横を通り過ぎて一番近い怪物に当たりそうな直前、もう一度だけ心の中で呟く。
『弾けろ』
あたしの意思が届いた瞬間、炎の球は膨張を始めた。
今まで無理やり圧縮されてた膨大な力が一気に解けて炎を撒き散らしながら体積を増す。
糸のように細い炎は空気と交じり合いまるで蛇のようにのたうち回り怪物を、遺跡の壁を、周囲のありとあらゆる物を吞み込みながらどんどん膨らみ続ける。
また時間の感覚が延びていく、何か炎がどんどんあたしの方へ近づいてきた。
そういや炎の球を怪物に当てる事だけ考えていたから当てた後は何も考えてない。
動こうとしても体中の力を使い果たしたあたしは立つだけで精一杯。
こりゃ死んだかな?
そんな事をぼんやりと考える、不思議と死の恐怖は無い。
むしろやれるだけやった充実感だけが心に残ってる、このまま自分が出した炎に灼き尽くされるのも悪くないかも。
遠のく意識をついに手放してあたしは闇の中へ落ちた。
アリエル炎魔法ブッパ回、イメージとしては元〇玉とか超大玉螺〇丸。
これでも母親のアンジェが原作で放ったファイアランスに劣っています。
怪物達の生態はコミカライズの描写から推察した物であって原作と差異があるのでご注意を。
次章はいよいよ遺跡の中枢に到達します。
年内は次章の投稿で終了、年明けに久々のエッチ回を投稿予定です。
追記:依頼主様のリクエストによりHanatori様、大宮みつ様、MIYAMA様にイラストを描いていただきました。
また9430様にはリクエストしていただいたイラストを投稿していただきました。
本当にありがとうございます。
Hanatori様 https://www.pixiv.net/artworks/138201033
大宮みつ様 https://www.pixiv.net/artworks/138268528(成人向け注意
MIYAMA様 https://www.pixiv.net/artworks/138418068(成人向け注意
9430様 https://www.pixiv.net/artworks/138475236
ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。