婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第164章 The deepest part

 背後から通路を照らしていた光がどんどん小さくなっていくのが背中越しでも分かる。

 どうしてアリエルがアンジェと同じように火の魔法を使えるようになったか、原因に心当たりは無い。

 ただ突然力に目覚めた娘に縋らなきゃいけなくなったのは俺の見通しが甘かった証明だ。

 元々がかなり無茶な強行軍、しかも実戦は初めてな息子と娘を引き連れてる上に球っころはいつもの力を発揮できない地下の遺跡。

 大量に襲ってきた怪物の数を考えれば今回の件はどう考えても軍を動かすべき案件だった。

 アンジェの体を元通りにする事を最優先し、ロストアイテムの存在を周囲からなるべく隠したいと考えていた俺の判断を呪いたくなる。

 だけど引き返せる場所はとっくに通り過ぎていた、もう後戻りが出来ないなら前に歩き続けて勝つか負けて死ぬかの二つしかない。

 

 嬉しい誤算だったのはアリエルが火の魔法に突然覚醒した事、嬉しくない誤算はアリエルが火の魔法に突然覚醒した事だ。

 どんな事情があるにせよ戦場に我が子を放り込む親父なんてのは鬼畜でしかない。

 しかもいきなり沸いて現れた娘の力を頼りに作戦行動を変更するのはただの博打だ。

 親失格な行動にどれだけ嫌気が差してもそうしなきゃいけない辺りが俺の指揮官として限界、こんな奴がどうして周りから評価されるのかさっぱり分からなかった。

 

 闇に覆われた通路でひたすら怪物達の迎撃に明け暮れる。

 ここまで怪物が多いとは流石に予想外だった、どうやらエルフの過激派は本当に人間を滅ぼすつもりらしい。

 背嚢に収納してある弾薬はどれ位か?

 軽くなっていく背嚢の重量が恐ろしくて堪らないが殺されない為には迎撃を続けるしかない。

 弾薬を惜しんで命を失ったら本末転倒だ、生き残る為に足掻く以外の方法をとっくに失っていた。

 背後で何かしているアリエルの様子を知りたいがそれは無理だ、隣で必死に銃を撃ち続けてるライオネルも疲労を隠せていない。

 無茶な作戦に息子と娘を巻き込んで嫁の体を戻せないまま死ぬのか。

 若い頃から自分が柔らかくて暖かいベッドの上で眠るように息を引き取るなんて思っちゃいない。

 どれだけ言い訳しても俺が貴族になったのは戦争で人を殺し続けたからだ。

 国や故郷を護る為とは聞こえが良いが、殺された奴らの家族にそんな言い訳は通じない。

 暗い地下の遺跡で俺一人がくたばるなら受け入れてやる。

 だけど息子と娘まで巻き込んで死なせる事だけは認められない。

 今も戦意が萎えず全力で抗えているのは子供達が傍にいてくれるからだ。

 

 ふと背後の光が随分と小さくなっている事に気付く。

 何か起きたのかと振り返る俺の横を何かが通り過ぎて行った。

 それがアリエルだと認識した瞬間に俺とライオネルの迎撃は止まってしまう。

 やけに思考が冴えて余計な物音や衝撃が遠ざかっていく、こんな感覚に陥るのはいつもヤバい時だ。

 普通の人間ならいきなり思考が冴えて周囲が遅くなると戸惑って何も出来なくなるもんだが、戦場やら任務やらで経験を積み重ねた俺は普段と変わりなく体を動かせた。

 咄嗟に腕を伸ばしてライオネルの腕を掴む。

 この感覚に襲われる時は普段よりも力を出せるから背嚢や握っているライフルごと強引に引っ張った。

 後ろを振り返らないまま次はアリエルに近づく、同時に光の球がアリエルから放たれる光景が視界に入る。

 

 全身の毛が逆立つような恐怖、戦争中に自分達がいる場所へ敵の飛行船が砲撃を始めたりデカい鎧が接近する怖さが一番近い。

 アレは間違いなく人間を、いや怪物を簡単に葬れる力の塊だ。

 今まで魔法の腕前が平均以下だったアリエルがいきなり強力な魔法を使えるようになったのか、それは俺にも分からない。

 分かるのはぶっつけ本番の無茶なやり方が上手くいく確率は限りなく低いという事だけだ。

 あまり魔法の詳しくない俺にもあの光の球がヤバいのだけは分かる。

 しかも放ったアリエルの様子がおかしい、目が虚ろで恐怖や気の昂ぶりも一切感じられない表情ときている。

 巻き込まれる事も構わずに手を伸ばす、やたら遅く感じる時間の流れが鬱陶しい。

 伸ばした俺の右手がアリエルの右手に触れた瞬間に思いっきり掴み、さっきまで体を隠していた横道へ引き寄せる。

 床に倒れ伏すアリエルの体に多い被さってから一秒、いやこんな感覚の最中に正確な時間が分かる訳ない。

 とにかくアリエルを庇ったのとほぼ同時にデカい音が通路に響き衝撃と熱波が体を揺らす。

 地上のダンジョンと地下の遺跡へ通じる大きな穴が出来るぐらいひび割れや崩壊があちこち見られる遺跡だ、崩れた天井の破片が落ちてくる可能もある。

 自分の体がアリエルを護る盾として機能してくれる事を祈るしかない、強引に引き寄せたライオネルがどうなったかも気に掛かった。

 とにかく揺れが収まってくれる事だけが頭の中でグルグルと回り続ける、こんな時に限って時間の流れがやたら長いのは苛立たしい。

 

 やっと揺れが収まると同時に四つん這いのまま金属製の床に手を這わせる。

 アリエルを引き寄せる事に夢中になってライフルに殆ど意識を回せなかったのが痛い。

 今の俺達は戦闘中だ、生き延びた怪物達が態勢を整えて再攻撃してくる可能性が残っていた。

 天井から落ちたらしい金属の破片に混じって馴染みのある感触の物体が掌に触れる、どうやらライフルは無事らしい。

 

「ライオネル、無事かぁ?」

「……」

「聞こえてるかライオネル?」

「心配せずとも父上の声は聞こえてます」

 

 礼儀正しい口調で返ってきた声は聞き慣れた我が家の長男の声に間違いなかった、どうやらちゃんと生きているらしくて少し体の緊張が解れる。

 とりあえず安堵の息が漏れたが床に倒れたアリエルの確認をしなきゃいけない。

 怪物達が襲ってくる可能性もあるから行動は手早く、今は一秒の遅れが命取りだ。

 

「球っころ、お前も無事か?」

『見縊っては困りますねリオン・フォウ・バルトファルト。私の端末を対人戦レベルの火力で破壊する事は非常に困難です』

「その調子なら大丈夫そうだな。ライオネル、立って周囲の警戒は出来るか?」

「何とか出来そうです」

「よし、暫くの間は周囲の警戒を頼む。球っころ、少し力を貸せ」

『貴方はいつも私の力を貸りていますが』

「今は減らず口は要らねぇぞ、ちょっとアリエルの体を見てくれないか」

『……了解しました』

 

 俺が真剣な顔をしてる事に気付いたのか、球っころは無駄口を止めて近付いてくる。

 このまま怪物達が襲って来ないならアリエルの状態を確認したい。

 アリエルはさっき小さな光球を放った直後くらいからろくに反応しないままだ。

 目立った外傷は見当たらないが地面に伏せた時に頭を床へ思いっきりぶつけた可能性はある。

 他にも訓練も無いままいきなり威力が高い魔法を使えば体のあちこちに無理が出てもおかしくない話だ。

 魔力が体に悪影響を及ぼして障害を引き起こし、最悪の場合は命を失う可能性だって大いにある。

 

 取り敢えずはアリエルを床に寝かしたまま対処を始めよう。

 覚悟がたりないまま戦場に出て雰囲気に吞まれたり、絶え間なく起きる発光や衝撃に爆音といった情報を脳が処理できずに気絶する新兵は珍しくない。

 そんな時の対処法は一兵卒として戦場を駆け回った時に嫌ってほど経験してきた。

 まずはアリエルが着ている服のあちこちにあるベルトや拘束を緩めて機動を確保し、それと同時に首筋や手首で脈拍と血流を確認。

 俺の見た限りじゃ呼吸に問題は無いし失血の可能性は無さそうだ。

 一方で俺達のちょうど真上に浮かんでいる球っころの赤い瞳から放たれる光が横になったアリエルの体をゆっくりと照らす。

 まずは体の前面、次は左右、最後に背中側と体を一周するように光を当てて俺の目でも傷が無いか確認する。

 

『観測した結果、アリエル・フォウ・バルトファルトの肉体に切創・打撲・骨折等の外傷は見当たりません』

「俺にもそう見えたな」

『意識の回復を促す為に呼びかける事を推奨します』

「分かってる、でも怪物達がまだ生き残ってるかもしれないから大声は出せないな」

 

 手持ちの布を水筒の水で濡らして軽く顔を拭いてやる、他にも背嚢をアリエルの足の下に敷いて頭へ血が通う体勢も整えた。

 しばらく血の気を失い真っ白なアリエルの頬に少しずつ赤みが戻ってくる、後は意識が戻るのを待つだけだ。

 俺が一安心したのとほぼ同時にライオネルが戻ってきたが、今度はこっちの顔が真っ青になっていやがる。

 

「どうした?何かヤバい事でもあったか」

「……あまり語りたくありません」

「報告は確実にしろ、他人に言い難い事でも情報共有を怠けると命取りになるぞ」

「……その、焼かれた怪物の死体が大量に」

「…あぁ、そうか」

 

 焼死体ってのは無惨だ。

 火力が足りなければ焼け焦げた髪や皮膚の下に爛れた赤い肉と白い脂肪が露出し、火力が高ければ人の形を保ちながら炭化して死んだ時の姿がそのまま残る。

 怪物達の上半身は人間にかなり近い形だ、動物ってのは共食いしないかぎり同族の死体に嫌悪感を抱く。

 ほぼ初実戦なライオネが無残な怪物の焼死体を見て精神が擦り減ってしまうのは無理もなかった。

 

「生き残りは居ないな?」

「そう思います、少なくても僕が見た範囲なら」

「分かった、ライオネルはこっちでアリエルの意識が戻るように呼びかけ続けろ、球っころは周囲の警戒を続行だ」

『了解しました』

 

 これで暫くの間は周囲に気を配らなくても安心してアリエルの介抱に専念できそうだ。、

 同年同日に生まれた双子のせいかライオネルとアリエルは性別も性格も違うのに心が何処かで繋がっているような態度を時々見せる。

 父親の俺が呼び掛けても大した効果が無いのが結構悲しいけどな。

 ライオネルのお陰か、暫く呼び掛けを続けていると少しずつアリエルの体が小刻みに動いて目に生気が戻ってきた。

 これなら大丈夫だろう、そう思いながら背嚢に入れておいた小瓶の蓋を開け中身を少量だけアリエルの口へ注ぎ込む。

 

「……ぅえ、何よこれ?」

「気が付いたか」

「口と鼻が苦くて甘くて臭いんだけど」

「数種類の薬草から抽出した成分を煮詰めた気付け薬だ、吐き出さずに飲み込め」

「誰か水ちょうだいよ、こんなの飲んだら舌がおかしくなるじゃない」

「はい、水筒」

 

 やっと人心地ついたアリエルはライオネルが差し出した水筒に直接口を付け水を飲み始めた。

 水を補給できない状況で飲料水の過剰摂取は控えさせるべきだろう。

 でも今はアリエルの回復を最優先にするべきだ、いざとなれば俺の持ってる水を飲ませればいい。

 掌を額に当てて体温を確認、まだ低い体温を上げる為に食料を与えるべきか。

 

「何か口にした方が良いな、ライオネルも食っておけ」

「でもこれからの事を考えて節約した方が」

『その心配は無さそうです』

「どういう意味だ球っころ、何かあったか?」

『遺跡の中枢から私宛のメッセージを受信しました、安全な進行ルートを提示しています』

「どう考えても罠じゃない、さっきまで怪物を差し向けてあたし達を殺そうとしてた奴よ」

「父上、如何いたしましょうか?」

 

 二人と一つの視線が俺に集まる、正直に言えば俺も決断を下すのは避けたかった。

 アンジェを元通りにしようとここまで強行軍で突っ走った結果が危うく娘を死なせかけた有様と来てる。

 背嚢に詰めていた減りは想像以上に激しくて、球っころ以外の全員に疲労が出始めてる。

 今すぐ帰還するべきだと俺の心が囁く。

 このまま中枢へ向かえと別の心が囁く。

 いつの時代も指揮官が果たすべき仕事は決断して命令する事と失敗の責任を取る事だ。

 俺はつくづく領主にも指揮官にも向いてない男だと実感しちまうなぁ。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「平気かライオネル?」

「大丈夫です」

「無理すんなよ、戦闘や休息で消費したとはいえ二人分の荷物だ」

「それを仰るなら父上の方が」

「俺は重いもんを背負うのに慣れてるし」

「重いって言うなぁ!!」

 

 自分と妹の荷物を背負ったライオネルに絶えず声を掛け続ける。

 うちの長男は嫡男としてアンジェが嫡子教育を施したせいか随分と我慢強い。

 性格的は両親から貴族としての十分な教育を受けないまま育った実父の俺より、ちゃんと学園に通わせてもらった伯父の兄さんの方が共通点が多いように見える。

 ただ弟妹達や同年代の子供に比べて自己主張が少なくて自分の弱みを隠しがちだ。

 なので下手に父子として接するよりも当主と嫡男として必要な情報を共有という形で接する方が会話が進む。

 アンジェ曰く大貴族の親子は基本的にそんな関係が多いらしいが、俺としてはどうも距離を感じてして寂しい。

 

「いちいち突っかかって暴れるなよ、落として汚したら大変だろ」

「自分で歩けるし!」

「ダメだ、少しでも体を休めて体力を温存しろ」

 

 背中で体を揺するアリエルを注意して体の動きを止めさせる。

 昔からうちの長女は元気いっぱいだ、元気すぎて熱を出してるのに外を駆け回り退屈だからと子供用のドレスを着たまま木に登る事もあった。

 どうしてこう、外見は若い頃のアンジェと似ているのに中身は野生児なんだ?

 いや、もしもアンジェがレッドグレイブ公爵家の令嬢として育たなければアリエルと似たような性格に育っていたのかもしれない。

 アンジェも三十代半ばに差し掛かっているが、偶に俺と二人で冒険へ行く時は子供みたいに燥いでいるし。

 

 取り敢えず遺跡の中枢に到達するまでは背嚢を腹側に抱え、アリエルを背中に担いで暗い通路を一歩ずつ進むしかない。

 ライオネルは自分が持ってきた背嚢とアリエルの背嚢の二人分を運んでいるが、今まで戦闘で弾薬やら飲料水を消費したから支障は無さそうだ。

 俺の背嚢も出発前と比べたら七割ぐらいにまで減っている、こういった行動に慣れてない双子なら消費量は俺より多いだろう。

 

「代わりましょうか父上?

「アリエルはアンジェと比べて軽いから問題無い」

「その言葉は母上の前で絶対に仰らないでくださいね」

「……そもそもお父様はどうしてお母様の体重を正確に知ってるのよ」

「いや、今まで何度も背負った事があるんでな」

「……」

「何やってんのよ」

「別に疚しい事なんかしてないぞ」

 

 いや、アンジェを担ぐ時は疚しい気持ちがちょっと位あるか。

 子供を産んでから更に肉付きが良くなったアンジェの体は柔らかくて温かいから密着すると気持ちが良い。

 アンジェの体重は幸せの重さみたいに感じられるから、二人で冒険してる最中に適当な理由をつけてよく背負ってた。

 それに比べるとアリエルの体重はアンジェよりも軽くて逆に不安だ、年頃の若い娘ってのはこんなにも軽いもんだったのか。

 

「王都の学園でちゃんと食ってんのか?痩せてるのが良い女と思われてる社交界だって、痩せた鶏みたいな体じゃ逆に評判が悪くなるだろ」

「別に節制なんてしてないんだけど。あたしは体を動かすのも美味しい物を食べるのも好きだし」

「アリエルは明らかに他の令嬢より大喰いです」

「じゃあ原因は若さか。まぁ若い頃の俺も飯を喰って訓練して寝てたら意識しなくても体が鍛えられたな」

「あたしだって体型には気を付けてるわ、お祖母様みたく太るのもお母様みたいに胸とお尻が大きくなるのは嫌だもん」

「……それをアンジェ本人の前で言うなよ、けっこう気にしてるんだぞ」

「あたしだってまだ死にたくないわ」

 

 社交界の御婦人方は自分の美しさを競い、相手の醜さを陰で罵り合うような不毛な争いがお好きらしい。

 其処に貴族としての面子やら家格の上下やらが絡んでくるから事態が更にややこしくなる。

 どれだけ美容に金を注ぎ込めるかを自慢して家の資産を誇示、そうやって金回りの良さを周囲に示さないと必ず何処かで舐められちまう。

 アンジェが若返った理由もそんな気持ちが関係してた可能性があるとは本人が語ってた。

 俺としちゃアンジェが年を取ろうが太ろうが問題無いんだけど、そう思えずに意地を張り合うのが生粋の貴族だという。

 逆にいつまでも兄さんに愛して欲しいだけのドロテアさんの方が貴族としちゃ珍しい部類だ。

 アンジェを元通りにさせる時に実年齢よりも若い体にして貰おうか?

 ぼんやりとバカな妄想をしつつ俺達は遺跡の中枢へ近付いていく。

 

「本当に怪物達が襲って来ないな、これが俺達に協力するって遺跡の意思ならやりやすいんだが」

『その可能性は判断が難しいと思われます』

「まぁ、迎え入れるなら熱烈な歓迎で殺しかけるなんて事はしないか。お前らロストアイテムは何を考えて行動してるか分からないから困る」

「きっとあたしの活躍に怖気づいたのよ!」

「……ライオネル、背中のアリエルに何か食わせて黙らせろ」

「分かりました」

「ちょっ!?」

 

 携帯食か飲料水か分からないが口に何か詰め込まれたらしい。

 アリエルの甲高い声の代わりに食べ物を咀嚼する音が通路に木霊する。

 いきなり火の魔法に覚醒して調子に乗ったアリエルの阿呆な意見はさておいて、遺跡の奴が俺達の戦力を見極めようと怪物達を襲わせたのは十分にありえる範疇だ。

 全ての交渉がお互い対等の立場で行われてるとは限らない。

 俺と球っころが殺し合って協力関係を結んでから既に十年以上が経過している、だけど主導権はずっと俺達にじゃなく球っころだ。

 協定ってもんは常に強者が有利な条件を押し通される、誇張抜きに世界を滅ぼせる力を持つ球っころと凡庸な地方領主が対等な関係を築ける訳が無い。

 情報収集と暇潰しとして力を時々貸してもらえる関係が精々だ。

 

「あの力は危険だ、出来るならもう使わない方がいい」

「えぇ~?」

「使った後に気絶するぐらいだ、自分でも制御できない力は身を滅ぼすぞ」

「大丈夫だから。何かこう、コツみたいなのが分かってきたから次は上手くやれると思うな」

「具体的には?」

「体の奥がグワァ~っとするんだけど、頭の中がフワ~っとして落ち着いたら、右腕をグッっと握ると炎がボボッってなるの」

「ライオネル、頼むから分かるように翻訳してくれ」

「すいません父上、同じ日に生まれた双子でもそれは無理です」

 

 俺も頭は良くない方だがアリエルの抽象的な説明で納得するのは無理だ。

 だけど本人としちゃ力を引き出す感覚が分かりかけてきたらしい。

 下手にまた魔法を使う事を禁じた所でアリエルは絶対に俺の指揮に従おうとはしないだろう。

 新兵の中にもこういう奴はちょくちょく混じる、地元じゃ腕っぷしが一番強かったと自慢するような性格の持ち主が大体これだ。

 俺もどちらかと言えばそういう性格だからよく分かる、特に家出して軍に入った頃はそうだった。

 

「もし使うなら俺の指示に従え、魔法を使う時と場所は俺が選ぶからな」

「絶対?」

「絶対だ。お前、自分の魔法で死にかけたんだぞ」

「それはまぁ、そうだけどさ」

「俺はアンジェを元通りにしたいが、お前らを犠牲にして戻したくない、きっとアンジェも同じ気持ちだ」

「……ごめんなさい」

 

 少しキツめに注意すると珍しくアリエルが項垂れた。

 いつもこうしてお淑やかに振舞えるなら俺とアンジェの苦労も半分ぐらいに減るんだけどな。

 親子三人とロストアイテム一個で暗い通路を歩き続ける、遺跡の深部まで来ると壁や床の罅割れが減ってきた。

 徐々に点いた灯りや何かが稼働してる音が増すこの感覚を俺は知ってる。

 今の文明を超越した古代の遺物は目覚めの時をひたすら待つ巨大なモンスターと同じ、少しでも選択を誤れば人間一人どころか一族郎党が破滅へ向かう。

 巨大な蛇の食道を通り抜けて自分から胃袋へ向かうような錯覚に眩暈がする、きっと背負ったアリエルの体重のせいだと思い込みたい。

 

『最深部に到着しました』

 

 目の前には一際大きい金属製の扉、どうやらここが目的地らしい。

 逃げ出したい気持ちを必死に抑え込んでアリエルを降ろす、双子もこの先に待ち構えているのが平和な歓迎じゃない事ぐらいは察しているようだ。

 背嚢から道具を取り出しつつ呼吸を整えて準備を開始、昔からどれだけ怖い戦場でもこうやって銃器を弄ってると心が落ち着くする。

 自分でも物騒な性分だと分かってるが、俺の本質はきっと程度が低い冒険者か空賊に近いんだろう。

 たまたま軍人やって成功したから貴族になれた、そのままロストアイテム絡みの騒動や王家の問題に関わるなんて人生何が起きるか分からない。

 

「扉の向こうはどうなってる?」

『索敵は無理です、高度なプロテクトでこちらの情報収集を遮断しています』

「隙が無いな、相手の人数が分かれば対策も立てられるんだが」

「父上、やはり戦闘になるんでしょうか?」

「たぶんな。今になって怖気付くなんてお前にしちゃ思考が足りてないな」

「ダンジョンのモンスターや怪物相手なら想像できますが、人やエルフと訓練ではなく本気で戦うのは初めてですから」

「そりゃそうだな、まぁお前らなら大丈夫だろ」

 

 俺の子供達の中で長男のライオネル、長女のアリエル、次男のリーアは領軍の訓練に参加してそこそこの腕前だ。

 軍に入ったばかりの俺より余程良い物を喰って上等な訓練を受けたから暴徒相手なら心配は要らない。

 だけど今回の相手は意味不明なロストアイテムと人間を下等生物と思ってる過激派のエルフ。

 命のやり取りを行う可能性は高いと言わざる得ない。

 呼吸を整えて意識を切り替える、ここからの俺は父親じゃなくて部隊を統率する指揮官だ。

 

「作戦を伝える、全員が最善を尽くせ」




戦闘と戦闘の間のインターミッション回+親子の交流。
本作の2025年投稿は今章で終了です。
次章の投稿は2026年になってから、それでもは皆様もよいお年を。

追記:依頼主様のリクエストにより鈴原シオン様、オスワーニ様にイラストを描いていただきました。
また9430様にはリクエストしていただいたイラストを投稿していただきました。
本当にありがとうございます。

鈴原シオン様 https://www.pixiv.net/artworks/138590671
オスワーニ様 https://www.pixiv.net/artworks/138958306(成人向け注意

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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