婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです 作:品☆美
「調子はどうだアリエル?」
「もちろん、絶好調よ」
「正直に言わないと此処で留守番させるぞ」
「……まだ本調子じゃないけど十分にやれると思うわ」
「ったく」
これだからアリエルの言葉は信用できない。
幼い頃には高熱が出てベットに無理やり寝せた筈なのに、使用人がちょっと目を離した好きに寝間着のままで外を走り回ってた事が何度もあった。
他人に弱みを見せたくない気持ちは分かる、だが個人的な意地は集団行動の作戦を遂行する途中で足枷になりかねない。
作戦が成功する為に必要なのは敵味方の正確な情報、今回の場合はとにかく敵の総数や配置といった情報が少ないから味方の状態の把握はかなり重要になってくる。
「ライオネル、お前はどうだ」
「体力や弾薬の消耗から平常時の半分程度だと思います」
「……まぁ一応そういう事にしておくか」
こっちはこっちで自分を低く見積もるから困る、何とも対照的な兄妹だ。
人間は疲労が蓄積してくると外見や動きに露骨な変化が見えてくる。
俺の質問に対してすぐに回答はまず出来ないし、あらゆる動作が緩慢に変わっていく。
二人の疲労が明確に違うのは備えている性別や体力が出たというより途中の戦闘でどれだけ奮戦したかだろう。
別にライオネルが今まで怠けていた訳じゃない。
新しい力に目覚めたアリエルが俺の予想を上回る奮戦をしたが、ろくに訓練も受けてないまま力を使い過ぎたというだけの話だ。
「球っころ、室内の状況は」
『依然として索敵を妨害されています。しかし扉に施錠はされていません』
「いつでも好きな時に入って来いって訳か、俺達を歓迎してるのかナメてんのか分かんねぇな」
遺跡の中枢に来るまでの戦闘は本当にヤバかった。
冗談抜きに戦闘で死にかけた瞬間が何度もあって大した怪我も負わず生きて辿り着けたなと自分でも思う。
もしもアリエルが覚醒しなければ俺達全員はめでたく怪物の夕飯になってた筈だ。
そんな危機的状況も綱渡りの状況を乗り越えてようやくあと一歩で終わりの場所まで来れた。
だからこそ気が抜けない、ほぼ勝ちが決まった戦で死にもの狂いの敵に逆転負けを許した戦いは戦史書を読めばいくらでも載ってる。
少し前の自分の記憶を必死に辿り、今まで戦って得たエルフや怪物の特徴を反芻し、弾薬や魔法といった攻撃手段の損耗を把握し、頭の中で起きうる状況を可能な限り思い描く。
俺がやってる事は決して難しい作業じゃない。
勝負に勝つ為の手札を増やす、軍務に携わる人間なら誰でも普通にやってる事だ。
「ねぇ、お父様。こんなに幾つも作戦を立てる必要あったの?」
「それは俺にも分からん」
「分からないのに考えるって時間の無駄じゃない」
「世の中そういうもんだ、だけど俺の人生で何から何まで上手くいった作戦が起きた事は一度も無い」
「不安になる事を言わないでよ」
「だけど起きそうな事を予め考えておき、もしも本当に起きたら自分がどう動けば良いかを知っていると間違いなく動きが変わる」
「普段のアリエルは試験勉強さえ面倒臭がりますから。こうやって考える習慣に慣れてないんですよ」
「余計な事を言わないで」
「俺としても戦闘はごめんだ、穏便に話し合いで解決するならそれでいい」
「でも父上はそうならないとお考えなんですね」
「遺跡の中枢に来るまで何度戦った?もし相手が話し合うつもりなら怪物を嗾けないだろ」
怪物達との戦いは単なる遭遇戦じゃない、明らかに俺達の進行方向に怪物を配置し逃げ道を塞ぐ意図が感じられた。
遺跡自身の意思か、或いはエルフ過激派の仕業は分からないが俺達を歓迎してない事だけは間違いない。
そんな奴らが居る部屋に入るんだ、何か罠が仕掛けられてると考えてるのは当然の行動だった。
相手がどんな策を仕掛けているかは分からない、だけど止まる訳にはいかない状況じゃ複数の対策を講じるのが俺に用意出来るささやかな対抗手段だ。
球っころと遺跡が同じ陣営らしいからある程度の予想を教えられたのは不幸中の幸いと言える、でもこいつへ感謝の言葉を口にするのは微妙に腹が立つな。
「何かあれば俺が手で指示を出す、それまで二人は互いに相手を庇い合いながら周りに気を配れ」
「はい」
「うん」
「球っころ、二人の準備が出来たら扉を開けてくれ」
『了解しました』
球っころの赤い瞳が何度か光り輝くと金属製の扉がやたら大きな音を立てて左右に開き始める。
通路に響く振動と音のせいでまず複数立てた案の一つ『こっそり侵入作戦』は潰れたな。
扉が完全に開いた所で双子に軽く頷いてから銃を構えて入室した。
部屋の内部は歩いて来た遺跡の通路と違って壁の罅割れや照明の損傷といった劣化が殆ど感じれない、印象としちゃ新造された飛行船の艦橋が一番近い。
以前アンジェの救出目的で来た時とは入口が違うせいか全く別の部屋のように感じる。
だけど空調が効いた部屋独特の一定に保たれた室温と湿度は間違いなくあの時の部屋と同一の物だ。
扉から数十歩ほど歩いた所でいきなり部屋が広がって明るい照明に目が眩み瞬きを何度もする。
明るさに慣れた両眼に映ったのは円柱状の水槽が幾つも並ぶ巨大な実験場。
水槽に浮かんでいるのは今まで戦ってきた怪物、見渡すだけでも十個を軽く超える水槽の中に怪物が瓶詰めにされていた。
どうにも気分が悪くて吐き気が喉奥まで出掛かってる、アンジェを救出した時はここまで水槽は無かったはず。
それが数日も経たない内に模様替えしてる目の前の光景は、この遺跡に秘められた力が全く未知という事実が齎齎す恐怖以外に無い。
何より瓶詰めにされてる怪物達の姿が捕らわれていたアンジェの姿と重なる事実に胸糞が悪くなる。
この遺跡やエルフ達にとって人間も怪物も大して差が無い存在だと突き付けられたようだ。
いっそ背嚢に隠してある爆弾で今すぐ跡形も無いぐらい吹き飛ばせば少しはマシな気分になるか?
後ろにいる双子がどんな反応をしているか俺からは見えない、だけど間違いなく興味や歓喜じゃない事だけは確かだろう。
ふと水槽の泡立つ音に紛れて何かがこっちへ近づく小さな足音が聞こえた。
右手は銃を構えたまま左手を腰の後ろに回し、手と指の形に特徴的な動きで事態を双子に知らせる。
前方に身構える俺の背を隠すように双子の気配が近づく、互いの死角を隠し合う形で何処から誰が来ても対応できる陣形で部屋の中央へ進む。
この部屋は水槽が敵の攻撃を防ぐ遮蔽物になるがそれは相手も同じだ。
むしろ見知らぬ場所に居る俺達に対し地形が不利に働きかねない。
それなら敢えて視界が開けた部屋の中央に行った方が生存率を上げる結果になりそうだ。
相手の不意討ちに備えつつ俺達は移動を始め部屋の中央に佇む、徐々に相手の気配もまた一つに集まっているのを知覚する。
パンッ パンッ パンッ
何かを叩くような音が聞こえて、それが拍手だと気付くまで数秒。
紛らわしい音を立てるんじゃねぇよ、銃声かと思い思わず引き金に指が掛かって発砲する所だったぞ。
俺達から少し離れ場所に現れた十数人のエルフ達、その集団の中央に眼鏡を掛けたエルフが拍手を続けている。
表情を見るだけで分かる、明らかに侮蔑という感情を隠そうともしてない面。
この手の連中はこの二十年ぐらい心底嫌になるほど見てきた。
自分の血筋を絶対視して平民や成り上がり者の見下す由緒正しい貴族様、そんな連中は決まったように性格の悪さが表情や仕草から滲み出てる。
「ようこそ始まりの地へ、人間の成体と幼体。ついでに変な丸いのもいるが歓迎しようじゃないか。実験動物にはちょうどいい」
露骨に歓迎するつもりが皆無な眼鏡エルフが慇懃無礼な態度で声を掛けてきた。
この瞬間、俺はこいつらとの交渉は無理だと確信する。
エルフ全員が悪人だとは思わない、今まで俺が出会ったエルフの中にも良い奴と悪い奴の両方が居た。
聖女オリヴィア様に仕えてるカイル、過剰なぐらい俺やアンジェに遜ってしまうユメリアさん、街から逃亡した俺達一家を匿ってくれた里長の補佐役エルフさん。
その一方でうちの領内を訪ね雇ってくれないかと頼み込んだのに数日で辞めたエルフ、エルフの里を訪れた観光客を明らかに見下しているエルフ、宿に泊まった俺達を襲って来たエルフ。
どんな奴でも過激な一部の連中を見ただけで集団や一族の全員が似たような存在だと判断しがちだ。
この世に同じ人間は二人と存在しない、出生や身分や才能といった違いから偏見が生まれて争いが起きる。
人を束ねて治めるなら偏見を持たずに個人と集団を切り離して考えなきゃいけない。
過去にいろいろあって王子との婚約を破棄されたアンジェから常々そう言われてきたし、子供達にもそう教えてきた。
それでも許容値ってもんが存在する、特に相手を見下して動物扱いする奴に対してはこっちも相応の対応をさせてもらおうか。
「あの怪物を製造したのはお前達みたいだな。ダンジョンに出没する普通のモンスターなら殺した瞬間に霧散する」
「人間のくせに理解が早いな、そうとも我らエルフの技術が持つ技術の産物だ」
ニヤニヤと粘つくような笑い顔が実に憎らしい、完全に自分に酔ってるな。
仰々しい口調と身振り手振りは下手なくせに自意識だけはご立派な貴族様達によく似てる。
こういった手合いはどれだけ自分が優位な立場かを誇示したくて堪らない所は種族差が無いらしい。
「我々はこの遺跡で生命の創造という神の領域に足を踏み入れたのさ」
「だってよ、どう思う球っころ?」
『確かに旧人類の技術は遺伝子操作やクローン製造の域に達していました。生物の改造及び人造生命を誕生させることは十分に可能です』
「……何を言っている?生命創造は我々エルフが創造した技術だ!!遥か昔には今よりも高度な文明が存在している!!野蛮な人間ではなく我々エルフが世界を支配していた時代があった!!その証拠こそこの遺跡に他ならない!!」
『訂正を要求します、この遺跡、いえ施設が建てられた時代は私の本体が建造された時代と一致しています。その時代に於いて旧人類と新人類の対立は既に始まっていましたがエルフという存在が何らかの文明を築いていたという記録は存在しません』
「機械如きが嘘を吐くじゃない!!貴様ら人間は我々の祖先が創造した生物の一つに過ぎん!!」
『嘘ではありません、私は旧人類によって建造された移民船の端末です。この施設で稼働している機械とは共通規格も多く、幾度もアクセスを試みています』
「話にならんッ!!劣等種の器物風情が捏造された歴史を語るな!!」
『……お言葉ですが物的証拠は幾らでも提示可能です」
「分が悪いぞ過激派エルフさんよ、こいつはこの遺跡と同じように生き残った古代文明の遺産だ。あんたがどれだけ妄言を吐こうが論破されるのが分かり切ってる」
「過激派ではない!我々こそがエルフの正統なるエルフ文明の後継者だ!!」
俺達の前に出てきた時の余裕は何処へやら、捲し立てるように眼鏡エルフは球っころや俺に対して暴言を吐き続けてる。
エルフ達が球っころに気を取られている今なら周りの状況を確認できそうだな。
気取られないようゆっくりと首を回してこの部屋に居るエルフ達と怪物が詰められた水槽を数え始める。
エルフは全部で十二人、水槽は合計で八個って所か。
戦力を単純に比較すればこっちが三人で相手は総数二十、とてもじゃないが勝負にならない。
でもエルフの半分は武装せずに眼鏡エルフと同じような白衣を着てる、どうやら戦闘員じゃなくて研究者みたいだ。
逆に武装してるエルフも何人か居て、こっちは年長者に見える髭面のエルフが統率者らしい。
今まで得た情報から考えても過激派エルフの親玉がこいつらなのは間違いなさそうだ。
だとすれば前に叛乱を企てて聖女様達に捕らえられたのも納得な振る舞いだな、どう見ても人間との共存とか考えてない物言いだし。
「球っころ、その辺りで止めてやれ。あんまりツッコミ続けると反論できなくて泣き出すから」
「劣等種風情が偉そうな口を叩くな!!」
「その偉そうな人間に負けて牢獄に繋がれてた連中がどれだけ凄んでもなぁ。お前ら聖女様御一行に負けて捕まった連中だろ」
「黙れ人間!!」
「あの頃はまだ技術の確立が不完全だったからだ!!」
「雌伏の時を乗り越え準備が整った我らに恐れる物など無い!!」
「それってあの怪物の事か?たった三人の人間に何十匹も討伐される怪物の何処が脅威なんだよ。ホルファート王国軍が到着した当日に鎮圧されそうな戦力程度なのにどんな妄想すりゃそこまで息巻けるのか分からねぇ。こんな地下に何年も引きこもったせいで頭の中身が脳じゃなくて土が詰まってんか?」
「貴様ァッ!!!!」
「……お父様の方がロストアイテムよりキツい事を言ってない?」
「……たぶん父上は無自覚だから指摘しない方が良いよ」
『リオン・フォウ・バルトファルトの毒舌は以前からです。もうすぐ中年期に差し掛かる彼に性格の矯正は不可能かと』
お前ら、ちゃんと俺の耳に聞こえてんぞ。
好き勝手に言いたい放題やりやがって。
一応は相手を挑発してまともな判断力を削ぐ、相手の気を逸らして状況を確認するって狙いがあるんだよ。
まぁ半分ぐらい俺の憂さ晴らしも混じってるのは事実だけど。
どっちにせよエルフ達は俺の言葉で徐々に苛立ちを見せ始めてる、それでもいきなり発砲しないのはそれなりに考えがあっての事だろう。
「既に俺の部下が王都に向かってる、そろそろ到着してお偉方が軍をどう動かすか話し合ってる頃だ。大人しく降伏した方が身の為だぞ」
「だからどうした!人間の軍勢など物の数ではないッ!」
「その自信はいったい何処から来るんだよ……」
確かにこいつらが作り出した怪物は人間が真正面から戦えば十分に脅威だ。
環境を整えて数を用意すれば軍の部隊程度なら全滅させる事も決して不可能じゃない。
だがそれは戦う人間の部隊が数十人規模という軍としてはかなりの小規模、しかも対人戦闘に限定されてる場合に限られてる。
まず叛乱を鎮圧する場合、ホルファート王国が直轄する軍にしろ領主貴族の軍にしろ百人単位の人員が配備されるだろう。
バルトファルト領の軍が空賊討伐をする時でさえその程度の人数を動員する。
領軍を幾つかの部隊に分けて遺跡探索と同時に怪物退治を並行して行う、数日もかければ安全に遺跡の中枢を制圧できる筈だ。
それがダメなら街や空港、それにエルフ過激派が集まった砦を包囲して補給を絶つ。
この遺跡はかなり損傷が激しく壊れてる場所も中枢に来るまで何箇所も見てる。
球っころの本体であるロストアイテムの飛行船のみたいな自給自足が出来そうにないだろう。
人質が居なければ一ヵ月も包囲し続けりゃ飢えと渇きに耐えきれず勝手に自滅する。
そして何よりも対人戦闘しか想定してないのが大問題ときたもんだ。
確かに現代の戦争でも歩兵の存在は必要不可欠だが、戦争の主役は飛行船と鎧に移り変わっている。
飛行船の砲撃は町を簡単に壊滅させ浮島を削るし、綿密な作戦を立てなければ人間は絶対に鎧を倒せない。
そもそも戦わずに浮島を複数の飛行船が包囲するだけで簡単に補給路を絶つ事が可能だ。
この浮島で昔ながらの生活をしてるエルフ達で賄える程度の自給自足はしているから、食料を蓄えているなら当面の飢え死には避けられる。
だけど弾薬や薬といった戦争に欠かせない物資はどうしても他の浮島との交易で手に入れなきゃいけない。
抵抗手段を念入りに潰された叛乱軍を待ってるのは全面降伏という未来だけ。
改めてこの場にいるエルフ達を観察する。
何処からどう見ても研究者で戦術や戦略に詳しくなさそうな眼鏡エルフとその部下。
或いは元村長らしきエルフが指揮する武装したエルフは妙に動きがぎこちない、たぶん冒険や狩猟の経験はあっても従軍した経歴は無さそうだ。
正直言って兵站の重要性さえ理解していなさそうなエルフ達、そんな連中がどうしてこんなに強気に出られるのか理解に苦しむ。
もしかしたら人間とエルフの寿命と繁殖力に差があるせいか?
長命なエルフにとっちゃ十年なんて人間の数ヵ月程度の感覚だろう。
百年ぐらいの年月をかけて怪物を千匹ぐらい養殖すれば軍団と呼べる規模になるかもしれないな。
いや、数が増えればそれだけ人目に付いて噂になる。
実際に俺が来たのもエルフ達に不審な動きがあると関係各所からの報告されて聖女様直々に調査を依頼されたからだ。
百匹に届かない数でさえ今の状況なのにどうやって怪物の維持する算段があるのか?
この浮島には森林が多いから全ての土地を切り拓けりゃ食料を賄える可能性も捨てきれない。
そうなると大々的な開拓が必要になって物資や人の出入りが増す、となればバレる可能性も増えちまう。
あぁ、くそ。
考えれば考えるほど計画の粗が目に入り思考が鈍る、出来の悪い頭で思案しても何の解決にもならないな。
不測の事態を防ぐ為にあらゆる可能性を考えるのは指揮官の務めだけど、判断が鈍るなら逆に自分を危機に追い込む。
物事は単純で素早い方が良い、後悔は取り敢えず問題が解決した後に回そう。
このエルフ達の処罰はお偉方に任せよう、俺がこんな地下深くまで来た理由はたった一つ。
アンジェを元通りする事だけだ。
「おいッ!!俺達を見て聞いてるんだろうッ!?」
この部屋に居る誰かに向けた声じゃない、この部屋自身に向けて声を放つ。
「てめぇの望み通り!!きちんとお仲間を連れて来たぞ!!さっさとアンジェを元通りにしろッ!!」
「……何を言っている貴様」
「気でも狂ったか人間」
『…………ちゃんと聞こえているわ』
部屋にある装置の灯りが明滅を繰り返し、地の底から響くような声が響き渡る。
さっきまで明らかに俺を侮っていたエルフ達が一斉に動揺して慌てふためく、まさか人間の俺に遺跡が反応すると本気で思っていなかったんだろうな。
こっちには宙に浮いて喋る球っころという現在の技術じゃ再現できない存在が居る時点で気付けよ。
まぁ、頭に十分な血が回って無さそうなエルフは別に放置したままで構わないな。
俺にとって重要なのはエルフじゃなくて遺跡の方だ。
「喜べよ、ご同類の球っころだ。尤もコイツはさっきからお前に関わろうとしてるのに無視を決め込んでたみたいだけど」
『それについては申し訳なく思っているわ。でも人間だって同じコミュニティに所属しているからって個体同士の蟠りが皆無という訳じゃないでしょう』
「そんなの俺が知った事か、とにかく俺は約束を果たした。お前も約束を果たしてもらうぞ」
『えぇ、勿論よ。むしろ貴方には感謝してもし足りないぐらいだわ』
「ま、待ってくれ!!一体どういう事だ!?どうして我々エルフではなく人間と交渉しているッ!?」
『……暫く無粋な輩は黙って欲しいわ。旧人類の叡智の結晶たる施設が経年劣化で半ば崩壊し始めるほど長い年月を経て同胞と再会した感動的なシーンよ。これ以上騒ぐのならこの部屋からご退場願いたいわ』
「…ッ」
遺跡の声が圧力を増した、人工物のはずなのにエルフ達よりも胃が締め付けられるような恐怖を感じてしまう。
球っころもそうだが旧人類が残したロストアイテムとやらは冗談抜きで世界を変える力を秘めている。
俺が最初に出会った球っころの本体である大型飛行船、既に破壊された後だったがアルゼル共和国にあった聖樹に関する施設、そしてエルフの里で稼働しているこの遺跡。
そのどれもが俺達の常識を超えた存在だ、例え器物だとしても意思疎通が出来る超常的な存在は人間に危害を加える怪物よりも天災を齎す神のようだ。
完全に判断を誤ったか?
今更そんな後悔が頭の中を過って良く。
一番大事な物は何かと問われたら自分の家族だと俺は答える。
だからと言って自分以外の誰かが不幸になっても構わないとまでは思わない。
自分が治める領地とそこに住む多くの領民を護る為に泣く泣く身内を犠牲にする、その覚悟こそが貴族の貴族たる所以だ。
自分の手で混ぜちゃいけない二つの薬品を混ぜたような感覚、本音を言えば今すぐここから逃げ出したい。
『私が旧人類の陣営に属していると度重なるアクセスで察していた筈です。リオン・フォウ・バルトファルト達に不要な戦闘を強いる必要があったと思えませんが』
『それはごめんなさい、だけど戦いを仕掛けたのはエルフ達だから私を恨むのはお門違いよ。まぁ、私も彼らの効力と行動に興味を持って静観してたのは事実だけど』
「ふざけんなよ、もし俺達が途中で死んだらどうするつもりだったんだ」
『その時は貴方達を抜きにして其方の端末にアクセスすれば良い話、現に今もこうして生きてるんだから怒らないで』
腹の底に一瞬殺意が芽生えたけど何とか思い留まる。
分かってた、分かってたつもりだった。
こいつらは人間やエルフを地面に這い蹲る虫と同じように見ている。
子供が無捕まえた虫の羽や脚を無邪気に毟り取る感覚で俺達の生死を弄ぶ、そこには罪悪感なんて物が介入する余地は一切無い。
だからって臆していたら何も始まらない、状況を変えられるのは愚かでも足を進められる奴だけだ。
「そろそろあんた達のどうしてこんな事を仕出かしたのか、本当の目的を教えて欲しいな」
『構わないわ、私としても同胞や新人類の末裔とはいえ生きた人間と対話するのは久しぶりだし』
遺跡の声は何処か楽し気に変わっているが全く安心できない。
くそっ、やっぱ王都からの救援を待つべきだったか?
『私は新しいパートナーを求めているの』
アニメ2期放送! アニメ2期放送! アニメ2期放送!(列海王風
という訳でいよいよモブせかアニメ2期が今年放送予定の2026年初投稿です。(元旦のエッチ回投稿を除いて
アニメ1期放送が2022年、今作の初投稿が2023年の今頃で時の流れは早いものです。
2期までの繋ぎ程度に考えてた今作もここまで続いたのも定期的に提供される原作とファンの皆様のお陰でしょう。
私もファンの一人として2期開始を首を長くして待っています。
1月は共和国編コミカライズ1巻とアンソロジーが発売され楽しませてもらっています。
執筆ペースが若干落ち気味なのをどうにかしたいですが…。
次章は遺跡の歴史と行動の真意について語られる予定になります。
追記:依頼主様のリクエストによりBiBita様、sugu様、オスワーニ様にイラストを描いていただきました。
また9430様にはリクエストしていただいたイラストを投稿していただきました。
本当にありがとうございます。
BiBita様 https://www.pixiv.net/artworks/139465188(成人向け注意
sugu様 https://www.pixiv.net/artworks/139707897(成人向け注意
オスワーニ様 https://www.pixiv.net/artworks/139730755(成人向け注意
9430様 https://www.pixiv.net/artworks/139834822
ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。