婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第166章 The origin of the Elf

『情報のダウンロードを開始します』

『情報を確認、問題のあるデータの精査を行います』

「……父上、彼らは一体何を?」

「黙って待ってろ、すぐに終わるから」

 

 

 遺跡の装置と球っころの赤い瞳が同調しているかのように明滅を激しく繰り返す。

 今まで球っころの要請を聞き入れてダンジョンやら遺跡を調査し、何かを見つけた時には必ずこれと同じ事をしている。

 球っころが何かを調べる時はこうなると鈍い俺だって幾度も体験すれば勘付く。

 問題なのはこうなった時の球っころは隙だらけで警戒を続けなきゃいけないって所だ。

 何しろ遺跡の中枢は敵陣ど真ん中、エルフ達がこの隙に何か仕掛けてきたら流石にマズい。

 だけどエルフ達は遺跡と球っころに夢中で俺達三人にまで気を回せるだけの余裕は無さそうだ。

 それならそれでこっちも準備させて貰いましょうか。

 

 こっそり背嚢に手を突っ込んで目的の場所にある物を掴んで取り出す、お目当ての物はきちんと手の中に納まっていた。

 さり気無くエルフ達から見え難い位置に移動し、ライオネルとアリエルの前に陣取るとそのまま手信号でどうするかを背中越しに伝える。

 声を出せない潜入任務や夜襲で重宝される手信号は軍隊の座学じゃ最初に習うし、ダンジョンを探検する冒険者もモンスターに襲われない為に学習する基本技能だ。

 暫くして二人の息遣いから俺の意図を察してくれたらしい、ゆっくりと俺の背嚢から同じ物を取り出そうと背嚢を漁り始めた。

 

『ダウンロードの終了を確認』

『情報の精査を完了、危険なデータはありません』

 

 球っころと遺跡がそう告げたのは二人が背嚢から目的の物を取り出した後だ、上手い事間に合ってくれて助かった。

 器具の明滅を終わって室内に静寂が戻ったと思ったのも束の間、部屋のあちこちにあった透明な板が光り輝く。

 どうやら透明な板は何かを映す道具のようだ、貴族や大聖人が使う大型飛行船や王国や領主貴族が所有する最新の軍用飛行船でもここまで小型化された通信機器は備えていない。

 映し出された光景は俺が知る世界とはまるで違う、文字通りの別世界がそこに存在していた。

 石畳よりも平坦な何かが舗装された道。

 夜中でも昼のように明るい照明で輝く街々。

 俺達が乗用する物より遥かに高性能と分かる乗り物の数々。

 明らかに文化形式が違い精密な縫製技術で編まれた衣服。

 性別も肌の色も髪の色も違う人間の群れが其処で生活している。

 たった一瞥しただけでも齎される情報は膨大だ、俺みたいな無学な奴よりロストアイテムの研究者に見せたらそれこそ人生観が一変するに違いない。

 俺や傍に控えていた双子、さっきまで憎悪と軽蔑の視線を向けていたエルフ達すらただただ映し出される世界に圧倒され見入るしか出来なかった。

 

「……っはッははは!!そうだァ!そうだともぉ!やはり太古の世界には高度な文明が存在した!!我らエルフが支配する高度な文明っ!!人間共など全く及ばない理想世界だァ!!」

 

 真っ先に言葉を放ったのは眼鏡エルフの野郎だった。

 興奮のあまり理性を置き去りにしたような甲高くて上擦った声はやたら鼓膜を掻き毟るように耳障りで不快窮まりない。

 どうして世の中にはこうも知識量と品性が一致しない輩が多いのか昔から疑問だ。

 不思議な事に血筋を誇る貴族、学力を誇る秀才、力だけは人一倍で上官を見下す一兵卒といった何かを自慢する奴ほどこの傾向があるように思う。

 俺がいまいち社交界に馴染めないのもこれが原因だ、傲慢なお貴族様の相手より農家のおっさんと作物の収穫を相談した方が心を安らかになる。

 眼鏡エルフに声に釣られて他のエルフ達も次々と声を出し始めた、地下でも空調が効いてる部屋なのに妙な熱気が徐々に充満していく。

 

『違います』

『最初から話の腰を折らないで。愚か者に情報を与える気が失せるから』

「……ッ」

 

 眼鏡エルフの言葉を思いっきり否定する球っころと遺跡の声は明らかに苛立っていた。

 ロストアイテム達の気持ちは理解できる。

 球っころから旧人類やら新人類の情報をある程度は教えてもらった俺だからこそ眼鏡エルフの主張が間違いだと分かるが。

 エルフ達が何も知らなきゃ映像を見てそう思い込むのは仕方ないだろう。

 いや、むしろエルフ達が何も知らないのはおかしくないか?

 この遺跡がどんな目的で建造されたかは不明だがエルフ達は怪物を生み出す程度には装置を使い熟している。

 最初からエルフ達が遺跡の使い方を知って猪飼、それとも遺跡がエルフ達に使い方を教えたのか。

 ここの装置を使える奴らが建造した旧人類の文明についてここまで興奮するのはどう考えても不自然に感じる。

 そもそもエルフって種族はいつから存在してたんだ?

 光る板にもう一度だけ視線を送った、旧人類の街ではいろんな肌の色や髪色がまるで違う人間が確実に存在している。

 だけどエルフはもちろん亜人は一人も映っていない。

 現代のホルファート王国でこれだけの規模の街だったら亜人は一人ぐらい映ってるはずだ。

 違和感、何かが嚙み合わない違和感が俺の心で満ち、次から次へと生まれる不安を拭いきれない。

 

『発達した機械技術は生命の創造、宇宙開発の域にまで到達して文明は繁栄を謳歌していたわ』

『外宇宙への移民すら絵空事ではなくなり、旧人類の版図は惑星を超えるはずでした』

「……ライオネル、こいつらが何言ってるのか理解できる?」

「ごめん、よく分からない。話の規模が大き過ぎて」

 

 まぁ、子供達の反応は仕方ない。

 俺も球っころとの付き合いが始まった頃は何を言ってるのかまるで理解できなかった。

 要は夜空に浮かぶ星の近くに俺達が生きてるような大地があって、旧人類はそこに移民する事も出来たって話らしい。

 星を浮島に、球っころの本体を俺達が使う移民用の飛行船に置き換えれば何とか理解できた。

 親としちゃあんまり二人には旧人類について詳しくなって欲しくない、間違いなく厄介事に巻き込まれるのはわかりきってる。

 

『しかし旧人類の文明を脅かす存在が唐突に現れたの。その存在によって旧人類の文明は終焉を迎えたわ』

「ッ、それこそ我らエルフ…」

『違います』

 

 本当に懲りねぇな眼鏡エルフの野郎。

 必死さは伝わって来るけど球っころと遺跡の説明にやたら口を挟むから冷たくあしらわれるんだぞ。

 いや、他のエルフ達の殆どは光る板に表示された映像を見て気圧されてるから逆に大物かもしれない。

 どっちにしても球っころと遺跡の説明を邪魔しないでくれ、こいつらが本気で怒ったら俺達は止める方法なんて持ってないんだから。

 

『新人類、私達がそう呼称する個体がある時を境に現れ始めました』

『魔法という攻撃手段はそれまで旧人類が持ちえなかった圧倒的な戦闘力を秘めていたわ。それこそ新人類の一人が旧人類の一部隊に匹敵するほどね』

「昔の人々が魔法を全く扱えなかったなんて信じられません」

『むしろ旧人類からすればそれまでの歴史に於いて架空の存在と認識されていた魔法が現実となった事が信じられない状況でしょう』

「あたし達みたいに魔法が使える連中がいきなり現れた理由は何なの?」

『不明です』

「分からないって答えになってないじゃない」

『悪いけど私達にも何が原因で新人類が現れたか、今日に至るまで全く分からないの』

『親世代が摂取し胎児に蓄積された栄養素説、何者かが意図的に遺伝子操作した陰謀説、外宇宙から降り注いだ放射能説、世界各地の神話から先祖返り説もあります』

『いずれにしても旧人類の繁栄は新人類の登場で完全に停止状態に陥ってしまったわ。それからは旧人類と新人類の血で血を洗う泥沼の抗争が長年に渡って続く事になったの』                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

「じゃあ僕達は……」

『この世界で現在繫栄している人間は新人類の子孫になります』

 

 そこまで俺も知っている、球っころが前に教えてくれた旧人類に関する歴史だ。

 たがこんな歴史の真実を初めて知らされた俺の子供達、そしてエルフ達は困惑を隠しきれてない。

 こんな反応になるも当然だろう、ホルファート王家だって把握してない極秘情報だからな。

 俺だって事前の知識と表示された映像が無けりゃ狂った学者の妄想だと一蹴する。

 逆に俺の方は認めたくない歴史が真実だと分かってどうにも気分が悪くて堪らない。

 今まで俺に旧人類の情報を齎してきたのは明確な意思と知識を持つ生きたロストアイテムの球っころだけだった。

 そのせいで心の何処かで球っころが俺に嘘を吐いてた可能性を捨てきれず話半分で聞いた部分がある。

 だけど同じ旧人類が製作した遺跡の存在でそれが真実だと目の前に突き付けられて頭を抱えたくなりそうだ。

 

「信じられません、これだけの技術を持った人達が魔法が使えるだけの御先祖様達に追い詰められるなんて」

『素直な子ね、その推察は正しいわ。新人類の発生と同時に世界は急速に変容を始めたの』

『魔素の存在です』

「まそ?」

『魔法の仕様に必要とされるエネルギーの総称になります』

「それが一体どんな理由でこんな優れた文明を滅ぼせるんですか?」

『旧人類は魔素に対する耐性が低いの。それこそ魔素が濃い空間で長時間活動したら命に係わるほどにね』

『逆に新人類が活動を続ける為には魔素が必要不可欠です。旧人類と新人類の生態の違いが二つの種族が相容れず、どちらかが滅びるまで争った原因になります』

「魚みてぇな理由だな、おい」

 

 世界には水中の塩分が濃い場所で生きる魚もいれば塩分が薄い場所で生きる魚もいる。

 もし魚の生きる場所を取り替えると両方ともあっという間に死んじまう。

 それぐらい生き物ってのは周囲の環境に生存が左右され、環境に適応できなきゃ絶滅を受け入れるしかない。

 もし同じ場所に同じぐらいの知能と力を持ってるけど生態がまるで違う生き物が居たとする。

 片方が生きれる環境でもう片方が生きられないなら殺し合わない方がおかしいって話だ。

 これは旧人類と新人類が野蛮だったからじゃない、どうしようもない位に二つの種族の生態が違い過ぎたから起った悲劇だろう。

 

『まさか私と貴方以外に近年まで活動していた旧人類の軍用船が存在してなんて想像すらしていなかったわ』

『私の本格的な再起動の僅か数年前に人間同士の争いで破壊されたようです。惜しい事をしました』

『貴方でも修復がほぼ不可能なの?』

『私の機能では完全修復が無理でした。場所も共犯者であるリオン・フォウ・バルトファルトが所属する国家とは別国家ですし、人間達の監視も常時行われ過度の干渉が難しい状況です』

 

 球っころが話してるのはアルゼル共和国で起きた騒動の話だ。

 俺が貴族になって暫く経った頃にアルゼル共和国は国を支配する大貴族同士の争いが起きて聖樹が崩壊した大規模の内乱が勃発した。

 ホルファート王国は聖女だったオリヴィアが指揮を執って内乱鎮圧に協力し、その後も王国は共和国への見返りを条件に今も支援を行ってる。

 数年前、どうやらその内乱にロストアイテムが関わってると球っころが気付いたせいで俺は聖女様の共和国来訪に同行する羽目になった。

 しかも調査の途中で内乱を起こした大貴族の残党が起こす騒動に巻き込まれて何度も命がヤバい事態に合わされてる。

 思い出すだけで球っころに弾丸を撃ち込んでやりたくなるが今は我慢しよう。

 取り敢えずはこの話を聞くのが優先だ。

 

『いずれにしても旧人類が敗北した事実は間違いなさそうね』

『魔素の増加が決定的だったのでしょう。最終戦争が勃発したのか、或いは一方的な虐殺か、それとも種として衰退していったのか。私達に知る術はありません』

『私は移民船として製造されましたが、本来の役目を果たせぬまま休止状態で待機し格納庫で朽ちる予定でした。それをリオン・フォウ・バルトファルトが妨害し、彼を私の代行者として協力させる事に成功しています』

「俺を共犯者みたいに言うんじゃねぇよ!」

『羨ましいわ、例え新人類の末裔だとしても賢くて思い通りに行動してくれる協力者は必要不可欠ね』

『現在は旧人類の生存確認及び旧人類の遺した施設と機材の探索を実行中です』

『目ぼしい成果はある?』

『現状ではあまり、ですが貴方や近年まで稼働していたアルゼル共和国の軍用船のように休眠状態の同胞が存在する可能性は捨てきれません』

『それは重畳と言っていいわね、今後に期待が持てそう』

 

 何処か楽し気に会話を続ける球っころと遺跡、それとは正反対に俺の心は焦りばかりが募っていく。

 いや、本来ならアルゼル共和国にある破壊された旧人類の飛行船を見た時から考えるべきだった。

 ホルファート王国を建国した冒険者達が操った王家の艦こそ王家の権勢を保証していた事実を考えれば分かる事だったのに。

 若しくは最初からエルフの里にある遺跡の調査を拒否すればここまで事態が拗れなかったかもしれない。

 世界には俺達の想像を遥かに超えた超技術の数々が眠っていて、その一つ一つが新たな国を作ったり逆に滅ぼす事が可能な技術を備えている。

 巨大な地雷が埋まった地面の上に家を建てて生活してるような感覚、十年以上も無意識に目を逸らしていた想像が現実だと分かったせいで絶望感が半端ない。

 空調が行き届いた部屋なのに寒気が襲ってくる、体が運動で流すのとは違う汗が噴き出してるのに。

 

「待てッ!!待てっ!!待ってくれ!!」

『また貴方ですか』

『そろそろ鬱陶しくなってきたわね』

 

 眼鏡エルフがうんざりした口調になった球っころと遺跡にまた声を掛け始める。

 ある意味で大物だな、人間に差別意識を持ってなきゃ度胸はそれなりに評価できるんだけど。

 まぁ、今の俺もロストアイテム同士が会話した内容を咀嚼して理解するの必死だから疑問を投げ掛ける分にはありがたい。

 つくづく俺の頭はこういう歴史とか文化とか技術に対して察しが良くなくて困る。

 

「もしその歴史が正しいのならエルフは!!我らは何処から来たと言うのだッ!?」

『この惑星が誕生してから今日までの歴史に於いて社会文明を形成した知的生命体は旧人類と新人類の二種だけです』

「だがエルフは確実に存在している!!我らは魔法を使用し人類より長命で肉体にも秀でた存在だ!!そんな種族が歴史に何の影響も与えないなどありえんッ!!」

『それはそうよ、だって私がそのように造り出したんだから』

「……はァ?」

 

 気が抜けた溜息のような声が眼鏡エルフの口から漏れた。

 逆に他のエルフ達は何が何だか分からず動揺して近くに居る奴らと話し始める。

 一方の俺達は特に大きな驚きは無い、今までの情報が衝撃的過ぎてエルフという種族の誕生ぐらいじゃ動揺しないと言った方が正しいか。

 この部屋に居る全員の思惑を無視して再び映像が切り替わる。

 映ったのはおそらく旧人類と新人類の戦闘、そして何処かの施設内部らしい。

 

『見ての通り、長きに渡る争いは徐々に新人類が優勢な戦況となった旧人類は追い詰められたわ』

『致命的だったのはこの世界に満ちる魔素の濃度が上昇し続けた事です。例え局地的な勝利を収めても世界その物が生存環境でなくなれば勝利しても意味はありません』

『同時に度重なる戦闘で失った人員の補給もままならない、旧人類の窮状は後戻り出来ないレベルに到達しつつあった』

『その為に旧人類の首脳部は様々な対策を講じました。私の本体が移民船なのも旧人類の生き残りを生存可能な惑星へ運搬する事が目的です』

『私が作られた理由は新人類の解析及び旧人類の強化だったわ。尤も大きな成果を出せたとは言えないけれど』

「新人類の解析ってのは何だ?」

『文字通りの意味よ。戦闘中に回収した新人類の死体、捕獲した個体を用いて様々な実験を行ったの』

 

 唐突に切り替わった画面に映ったのは目を背けたくなるほど悍ましい光景だった。

 白衣を着た奴らが手術台に於かれた死体を解剖し、ベッドに拘束された人間に点滴や注射を行い、生きたまま円柱状の水槽に閉じ込め液体を注ぎ込む。

 人間を人間として扱わない狂気、息を吸って飯を喰い排泄し眠るだけの物体として扱う異常さが日常と化している。

 こんな光景を俺は何度も知っている、戦場で味わった地獄その物だ。

 自分が殺す相手を同じ人間として扱えばどうしても銃で撃ち剣で斬る決意が鈍ってしまう。

 だからこそ目の前に居る敵は人間じゃない、殺すべき相手だと兵士は頭の中で合理化が行われるし軍隊もそれを推奨する。

 ましてや生存権を争う二つの種族の争いとなれば国同士の戦闘とは桁違いだろう、文字通り相手を全て滅ぼすまで止まらないはずだ。

 

『細胞単位で切り刻み遺伝子情報を解析し、数々の薬品を投与して得た実験データを基にした計画が幾つか提案されたわ。例えば旧人類に新人類の遺伝的形質を与えるとか』

『生存戦略としては理解できますが、打倒するべき相手と同質の存在に成り下がる事を首脳陣が認めるとは思いません』

『えぇ、貴方の推測通りよ。こちらの計画は早々に頓挫した代わりに提案されたのは新人類に対抗するために同質の生命体を創造する。この研究所に行われたプロジェクトは其方が主流になったわ』

「まっ、まさか……」

『そうよ、旧人類によって創造された人造生命体。それこそがエルフの起源なの』

 

 眼鏡エルフはもちろんだが他のエルフ達も全員が言葉を失ってる。

 そりゃそうだ、奴らからすれば自分達の主義主張を全否定されたんだから。

 さっきまで人間をさんざん劣等種や愚か者だと見下してきたのに、よりにもよって自分達はその人間達によって生み出された生き物だった。

 しかも生み出した旧人類はとっくの昔に俺達の先祖に負けて生き残ってるかも怪しいときてる。

 自分が嫌ってた奴が産みの親で、そいつらも敗北者と聞かされたらその高慢な鼻も真っ二つに折れたはずだ。

 

「違う違うちがうちがうッ!!我らエルフが人間よりも長命なのは優れた存在だからだ!!」

『単に兵の損耗率を抑える為にそう調整されただけよ。簡単に死なれたら兵の補充が追い付かないじゃない』

「魔法に長けているのはエルフこそが魔法を創造したからに他ならない!!」

『サンプルにしたのが魔法を扱う新人類だから対抗手段としてエルフも魔法を扱えるようにしたの。魔素が濃い環境でも活動可能という意図もあったわ』

「混ざり物やハーフエルフなど種族の面汚しだ!!純血のエルフこそ世界を導くに足る存在である!!」

『むしろ複数の魔力属性を扱える個体こそ人工生命体としての理想形よ。旧人類や新人類を問わず交配が可能な個体が傍に居れば旧人類の生き残りが一人になってもは繁殖そのものは可能だから都合が良いし』

 

 なんかエルフ達が憐れになってきたな。

 自分達の主義主張を繰り返してもすぐに遺跡と球っころに反論され証拠を突き付けられ黙る事しか出来ない。

 中には茫然自失になって立ち続けるのも難しそうな奴さえ居る。

 これほど手痛い因果応報も無いだろう、少なくとも人間への復讐を企まなきゃ自分達の尊厳位は守れたかもしれないのに。

 

「……ずっと不思議に思っていた事があります」

「何がだライオネル?」

「家族でエルフの里を訪れると聞かされた時から僕なりにエルフの里について調べました」

「あぁ、何か冊子を幾つか読んでたわね」

「エルフの歴史や神話についての記述はほぼ存在しません。どれだけ探しても彼らがホルファート王国の歴史に登場するのは建国して暫く経った後、人間と交流し貴族に雇われるようになってからです」

「それは劣等な種族である貴様ら人間が我ら尊いエルフの歴史を都合良く改竄して自分達の功績にするという愚行を犯したからだ!!」

「これほどの技術を持った種族がそう簡単に歴史や技術を失伝しますか?ホルファート王国の初代国王や初代聖女は流浪の冒険者達です。彼らは近隣の豪族を外交と軍事力で従え国を興しました。その中に強大な力を持ったエルフ達の記述はありません。もしエルフが人間との交流を意図的に絶っていたなら逆に正しい歴史を子孫に伝えていた筈です」

 

 うちの息子がエルフの歴史について次々と詰問し始めた。

 これもアンジェが施した嫡子教育の賜物だな、ぶっちゃけ領主やってる俺よりライオネルの方が領主に相応しいじゃないかコレ?

 事件が解決したら褒美として今すぐ隠居して息子に領主を継がせられられないか相談してみるか。

 まぁ、真剣に歴史を学んだ貴族の子供にちょっと質疑応答された程度で破綻するような歴史を信じ込んでいたエルフ達にも問題がある。

 今まではエルフの権威みたいなもんを盾にして強引に相手を黙らせてきたみたいだが、それも当の遺跡から教えられた真実で全てが台無しだ。

 これで諦めてくれるなら俺としても都合が良さそうなんだけど。

 

『賢い坊やは好きよ。この浮島出身のエルフはおそらくプロジェクト凍結と同時に私がスリープモードに移行した際に脱走した個体の子孫でしょう』

 

 再び画面が切り替わって映し出されたのは半裸に近い状態に檻に入れられたエルフ達。

 生気を失った瞳が幾つもこっちを見ている光景は狩人に捕獲され貴族に売られていく野生動物を思わせた。

 正直見ていて気分が良い物じゃない、昔の話になるが奴隷の身分に堕とされて売り買いされる連中があんな目をしていた事を思い出す。

 エルフと人間の外見が似通ってるせいで悍ましさが凄い、父親として子供達に見せたくない光景だ。

 

『実験施設の閉鎖と共に遺棄されたエルフ達はそのまま檻の中で息絶える予定だったのですね。しかし予想外のイレギュラーが生じたのでしょう』

『優秀な個体に協力させてたのが失敗だったわね。どうやら仲間を逃がして森の中で生活を始めたみたい、スリープモードに移行してたからそこまで詳しい事情は分からないわ』

『エルフ達がこの場所を禁足地にしたのはそうした事情から迂闊に近付けば危険が及ぶと判断したのでしょう。機器の操作が出来るのは優秀な個体が残したマニュアルが伝承として受け継がれたと推察されます』

『施設管理である程度の自立稼働もしてたから操作の音声解説で知ったのかもね』

『長命故に人間ほど繁殖する必要が無い事もこの浮島で生きてゆく最低限の食料や水を確保できた理由の一つかと』

「……そんなエルフ達がホルファート王国と関わって変わっちまった訳か」

『原始的な生活をしていた種族が文化の流入により本来の歴史を失伝する事例は珍しくありません』

「何ともまぁ」

 

 ここまで来ると悲劇を通り越して喜劇だ、それも笑えない脚本で下手な役者が演じるやつ。

 たぶん昔からの生活を守ろうとしてた里長達にはこういった裏事情が伝わってたのかもしれないな。

 それをホルファート王国の貴族がエルフ達を専属使用人にしたり、エルフが金を稼ぐ方法としてダンジョンに人の出入りを認めたせいで話が拗れた。

 ある意味エルフ達も被害者だ、旧人類の都合で生み出され必要とされなくなったら廃棄される。

 変に人間を見下すのもそんな過去の反動か、同情するが巻き込まれてるこっちは堪ったもんじゃない。

 

『やっぱり実験で生み出した人造生物は駄目ね、予想外の行動を採るし私の話すら聞き入れず勝手な行動を止めないから。まぁ、もう彼等には期待していないからどうでもいいけど』

「だったらこっちの要求を叶えてくれ、さっさとアンジェを元通りしたら俺達は大人しく帰る。後の事は王国のお偉方が何とかするだろ」

『えぇ、その方が私の目的を果たすのに都合が良いわ』

「…………」

 

 何か、嫌な予感がする。

 遺跡の女みたいな口調が剣呑な空気を帯びてきているのを俺の五感が捉えた。

 そもそもの話、何でこいつは俺達が遺跡の中枢に辿り着くまで協力しなかったんだ?

 エルフ達が俺達を排除したい事情は分かるが同族の球っころを巻き込む必要は無かったはず。

 再び動き出した遺跡が主人の居ない今の世界で一体何をするつもりなのか。

 嫌な予感が拭えない。

 

「お前の目的ってのは何だ?」

『そんなの分かりきった事じゃない』

 

 女の口調を模した機械音声が無慈悲に告げる。

 

『新人類の排除、それが私の最優先命令よ』




エルフの起源ついての章になります。
既に原作やコミカライズで語られた設定の再解説ですが、未読の方や2期アニメ視聴が初モブせかな読者の皆さんはネタバレ注意です。
基本的に球っころ(ルクシオン)と遺跡(クレアーレ)が主体のお話、眼鏡エルフはフルボッコ。
今作ではアルゼル共和国の騒動にイデアルが関与するもノエル達がオリヴィア達の協力を受けて討伐され、その数年後にリオンがルクシオンを伴い残骸の調査を行う最中にラウルト家の残党に襲われる騒動がありました。(詳しく語られる予定は今の所ありませんが
遺跡の目的と方法については次章で語られます。

追記:依頼主様のリクエストにより감자싹様、ぽん太様、JunYi様、MIYAMA様にイラストを描いていただきました。
本当にありがとうございます。

감자싹様 https://www.pixiv.net/artworks/139959220
ぽん太様 https://www.pixiv.net/artworks/139985010(成人向け注意
JunYi様 https://www.pixiv.net/artworks/140273848
MIYAMA様 https://www.pixiv.net/artworks/139556398(今後のネタバレ注意

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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