婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第168章 Battle of the Willing

「待て、アリエル」

「どうしたのお父様」

「部屋に入る前に幾つか作戦を考えておこう」

 

 遺跡の中枢、アンジェが捕らわれていた部屋と思われる扉の前でアリエルを制止させる。

 訝し気な視線を俺に向ける双子とロストアイテム一個を敢えて無視し頭の中で想像できる状況を想像した。

 何しろこの部屋の中に居るのは人間嫌いの過激派エルフと何を考えているか分からない遺跡と不安材料しかない。

 球っころと初めて会った時の事を思い出す、碌な話し合いもしないまま戦いに突入して危うく殺される所だった。

 今日の遺跡探索にしても途中で死にかけそうになった瞬間が幾つもある。

 正直言えば脱落者や重傷者が一人も出なかったのは奇跡に近い。

 そして俺は自分の幸運を過信して部屋に突撃するほど豪胆な性格じゃなかった。

 地面を這い回る鼠のような小心者、だからこそ絶えず頭を使い体を鍛えて死にかける程の傷を負っても今日まで生き延びている。

 臆病も卑怯は正々堂々とした武芸試合や決闘だったら周囲の奴ら全員に非難轟々だろう。

 だが戦場なら許される、まして人命が掛かっているのなら尚更だ。

 

「作戦って、この遺跡にお母様を元通りにしてって頼めばそれで終わりでしょう?」

「ねぇアリエル、それは甘い見通しだよ」

「ライオネルの言う通りだ。今までも冒険者が何人も怪物に襲われて戻って来ない。俺達だって怪物の大群に襲われてる。そんな奴らと真っ当な交渉が出来ると考えない方が良いぞ」

「それじゃあどんな罠が仕掛けてあるのか、お父様だったら分かる?」

「正直言えば分からねぇ。ここが戦場ならある程度は予想できるけど何せ古代遺跡だからなぁ」

 

 遺跡の扉は幾つも閉じられて、ここに辿り着くまで基本的に一本道だった。

 もしも途中でダンジョンによく仕掛けられてる落とし穴や吊り天井があれば俺達は回避する手段は無く手詰まりだったはず。

 なのに遺跡の防備は怪物達だけ、ダンジョンの入口には見張りも居なけりゃ侵入者を防ぐ物理的な防壁すら作っていない。

 歴史書の記述を思い返してもエルフが貴族の護衛を兼ねた専属使用人になった事はあっても部族の存亡を賭けた戦いを起こした事は一回も無かった。

 対人間用の罠どころか数十人規模の戦術さえ持ってないからこそ身体能力に秀でた怪物を使役して襲わせてるのかもしれない。

 もしかしてエルフ達は国同士の戦争どころか浮島間の戦闘すら経験してこなかったんじゃないか?

 そんな連中のせいで危うく死にかけたとかふざけた話だ、だからと言って侮るのはマズい。

 何度も同じ戦法を繰り出して敵を慣れさせた後に別の戦術を仕掛ける可能性だってある。

 敵を過剰に怖がって動きが硬くなるのは良くないが、逆に侮り過ぎて隙を狙われるのも良くないからな。

 

「まぁ、真っ先に考えられるのは護衛として怪物を何匹か隠してるって場合だろうな」

「うぇ…、またあいつらと戦わなきゃいけない訳?」

「父上、アリエルはかなり消耗している上に魔法弾も残りはかなり少なくなっています。もし先程の数で攻められたら完全に僕達の負けは必定かと」

「分かってる、相手がエルフだけなら対処法は山のように用意できるんだが」

「……普通はモンスターも怖いけど武装した連中も恐ろしいって考えるべきじゃないの」

『彼を侮ってはいけません、リオン・フォウ・バルトファルトは現在のホルファート王国に於いて小隊規模の指揮官としては最上位の逸材です』

「褒めてんのかよ、それ」

 

 あんまり切った張った撃ったが得意な俺の一面は自分の子供達に知られたくないんだよ。

 家長の父親が戦場や任務で敵を何人も殺して味方を何人も死なせてきた殺人者と嫌われたら立ち直れない。

 どんなにバルトファルト伯爵家が戦争中の武功で成り上がった家だとしてもだ。

 

「まぁ、戦法としちゃ基本中の基本だ。戦闘に入る前に閃光手榴弾で目と耳を封じておく」

『相変わらず同じような戦法を多用しますね』

「うるせぇ、実際コレが一番楽で確実なんだよ」

「でもさ、あの怪物達に閃光弾が本当に効くの?」

「問題はそこだ」

 

 今までの戦闘と怪物の死骸を解剖して耳と鼻と舌が良いって事は分かってる、逆に目は暗闇に適応し過ぎた影響かあまり良くはないらしい。

 光に鈍感な生き物は突然の閃光でも全く怯まない事も狩人からよく聞く話だ、そうなると怪物の耳を潰しただけでは不十分な可能性が存在してる。

 

「一応は臭気爆弾も何発かあるにはあるんだが…」

「じゃあ使えば良いじゃない」

「扱いが難しいんだよ。屋内は特に臭いがその場に溜まるから下手するとこっちの動きだって制限されちまう」

『生物は大変ですね、無機物である私には理解できない苦しみです』

「他人事みたいに言うな球っころ、そもそもお前がこの遺跡を掌握できないからこうなってんだ」

『私の責任ではありません。此方のアクセスを遮断してる遺跡の人工知能の対応に問題があります』

「屁理屈ばっか捏ねやがって」

「ねぇ、怪物達はあたし達の正確な場所をどうやって把握してるのかな?」

「球っころの分析と今までの戦いから音と匂いと体温みたいだぞ」

「でもあれだけ通路に密集してたんだし全く仲間と勘違いしなかったのはおかしいと思うの」

 

 普段は直感で行動するアリエルにそこまで言われると返答に困る。

 確かにあれだけの数が居れば他の怪物を誤認して同士討ちしてもおかしくはない。

 何しろ人間同士の戦闘でさえ情報が交錯して誤認、意識高揚による確認不足、練度不足による誤射といった事態が頻発する。

 人間の倍以上の体躯を持ちながら凶暴極まりない怪物達がどうしてお互いに意思疎通してる様子が見えないのに同士討ちを起こさないんだ?

 何かが頭の中でひっかかる、もしかしたら重要な事を見逃してないか。

 

「あの唸り声で交信してた、ってのは考えられる」

「でも交互に声を交わしてるようには見えなかったわ」

「じゃあ俺達に聞こえない音だったらどうだ?」

『戦闘中の記録を詳しく分析しましたが、人間の可聴域を超えた音を発していた形跡は見られません」

「う~ん、全くもって見当がつかないなぁ」

「……父上、心当たりと呼べるのか分かりません。でも参考に出来る事例があります」

「言え、言ってくれ。今はとにかく情報が少しでも欲しい」

 

 今まで黙ってたライオネルが俺達の会話に割り込んできた。

 ろくな教育を受けてこなかった俺や頭を動かすより体を動かす方が性に合ってるアリエルとは培った知識量が違う。

 ライオネルは昔からアンジェから与えられた様々な分野の本を熟読してきた。

 元公爵令嬢で政務に長けているアンジェだけど実は冒険に関しての情熱が高くて息子にも興味を持ってもらおうと、勉学書に混じって冒険者関連の本を混ぜてたのを俺は知ってる。

 まぁ、性格が大人しい嫡男の興味は引けなかったようだけど。

 

「前にメラニーが読んでいた生物学の本に記載されていました。仲間の死骸が発する匂いが付着した相手を敵とする昆虫が存在すると」

「死骸の匂い?」

「はい、死ぬ間際にその生き物同士にしか分からない匂いを付着させて仲間に敵だと認識させて群れで襲わせるようです」

「お父様、どう思う?」

「……ありえるな」

『一部の昆虫は同族の死骸が発するフェロモンに引き寄せられ共食いを行う習性が確認されています。ライオネル・フォウ・バルトファルトの指摘通り外敵へ匂いを付着させ襲わせる生物の存在も事実です』

 

 生き物ってのは確かに血の匂いに敏感な種族が多い。

 同族が流す血は警戒を促すし、傷付いた小動物の血の匂いを辿って追い続ける肉食獣は俺もよく知ってる。

 この場所に来るまで俺達は怪物を何匹も殺してきた、きっと奴らの鼻には仲間の死臭を纏った三匹の人間が何処にいるかはっきり辿れるだろう。

 

「うえぇ…、今のあたし達ってそんな臭いの?」

「まぁ此処に来るまでけっこう汚れて傷も付いたしな。今になって装備を水洗いする訳にもいかないか」

『血液は時間の経過に伴い凝固する性質があります、服の繊維に染み付いた場合は水洗いで落とすのは非常に困難です』

「じゃあ怪物達が出て来たら僕達は真っ先に襲われるんですか?」

 

 ライオネルは残った魔法弾の確認をしながら少し落ち込んだ様子だ。

 妹弟より自己主張が少ないうちの長男にとっちゃ自分の意見を否定されたような気分だろう。

 だからと言ってライオネルが出した情報が無価値とは限らない、些細な情報が戦いの趨勢を左右した故事は無数にある。

 作戦を時間は限られてるが不安要素は可能な限り消していくべきだ。

 

「ライオネル、あんまり自分を卑下するな」

「慰めはいりません父上」

「むしろ怪物達が出てきた時の対策案に重要な情報が追加されたんだぜ」

「具体的には?」

「それは今からみんなで考える」

『結局他人任せですか』

「黙ってろ」

 

 球っころに悪態を吐きながら頭の中を捏ね繰り回して考えられる状況を洗い出す。

 ここで勝てなきゃ全てがお終い、どれだけ途中で勝ち続けたとしても目的を果たせなきゃ敗北なのが戦争だ。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「オ前ら人間ヲ遺跡かラ逃がス訳にハいカンっ!!」

「じゃあどうするつもりだ?」

「こウシてやルっ!!」

 

 眼鏡エルフは近くにあった機械を叩く。

 同時に怪物が詰まった円柱状の水槽が上方向に動き出した。

 零れた水槽の液体が床を濡らして現れた怪物達は出産直後の獣にも見える、はっきり言って吐き気を催したくなるほど悍ましい。

 こいつらを見てると遺跡の技術は今の世界にとって危険過ぎだ、この場で跡形も無く消し去るのが一番かもしれないな。

 

 そっと手を腰に回して背後の双子に合図を送る。

 状況は俺達が幾つか考えた作戦の中でも最悪に近い、だからこそ事前に準備を整え覚悟を決められた。

 

「死ネ!!死ね!!死ネぇえぇぇ!」

「全然崇高な種族に見えないぞエルフ様、ちったぁ高貴で賢い御姿を見せてもらえますか?」

「黙れえェぇッ!!」

 

 さり気ない動作で既に魔法弾を装填し消音装置も接続済みなライフルの位置を確認。

 十代半ばで家を飛び出し王国軍に入った時から俺は銃火器に慣れ親しんでる。

 たとえ夜目が利かない暗闇の中だろうと、指が悴む凍てつく真冬の行軍だろうと、負傷して意識が朦朧としていようが。

 俺の体は意識しなくても機械のように正確に動いて敵を仕留めようとする。

 

「何で父上は不必要に相手を煽るんですかッ!?」

「もう最低!!信じらんないわっ!!」

 

 子供達が冷たい、遺跡に入る直前まで初々しい新兵みたいだったのに。

 エルフ達を騙す演技にしては感情が籠り過ぎだろ。

 お前らもう少し俺を労わってくれよ。

 

「クくクッ、仲間割レか。降伏スるなラ今ノ内だゾ」

「降伏するのはそっちの方だと思うけどな」

「ふザケるナっ!」

 

 眼鏡エルフが機械にもう一度触れた、同時に水槽から出て大人しくしていた怪物達が一斉にうめき声を出す。

 どうやらあそこの装置で怪物に命令を出してるようだ。

 つまりエルフ達自身が発してる声に従ってる訳じゃない、機械から伝わった命令を実行するんだろう。

 それでも球っころが居た遺跡の人型機械ほど命令に忠実にはいかなさそうだ。

 生き物ってやつは機会に比べてどうしても個体差が大きくなるし五感や痛みで動作に支障が生まれる。

 だからこそ俺みたいな卑怯者が付け入る隙が生まれるんだ。

 

「死ネぇエェ!!」

 

 眼鏡エルフが叫んだと同時に背後で待機していた双子へ合図を送る。

 金属が擦れ合う小さな音がしたと同時に近くにある機械の物陰に隠れて体を丸めて爆音と衝撃に備えた。

 

ドオオォォオン!!

 

 両目を瞑り両耳を塞いで数秒後、部屋全体に衝撃が巻き起こる。

 子供達が俺の背嚢から取り出した閃光手榴弾が弾け、眩い光と鼓膜を揺るがす爆音が轟いた。

 

「GAAUUHH!!」

「な、何だァ!?」

「目がッ!俺の目がァ!!」

「OOHHHH!!」

 

 エルフ達と怪物の悲鳴が同時に室内に満ちる。

 まともに閃光手榴弾の光と音を受ければ数十秒はまともな動きは不可能だ。

 たった数十秒、どうにか稼いだ僅かな時間で俺達、いやバルトファルト伯爵家の未来が決まる。

 

「二人とも無事か」

「何とか…」

「動けるわ」

「狙いは怪物達だ、撃て」

 

 必要最低限の言葉だけで次の行動を伝えた。

 既に俺の体は魔法弾を装填済みのライフルの射撃体勢に移り最も近い場所に居た怪物に銃口を合わせている。

 双子も部屋に入る前に考えた作戦の為に持っていたライフルは俺と同じように魔弾を装填し消音装置を装備済みだ。

 

 ブシュッ! パシュッ! ビシュッ!

 

「AAHAAAHH!!」

「GUGYOOO!!」

 

 消音装置で銃声が小さくなっていても魔法弾の威力は落ちない。

 銃弾と薬莢に込められている魔力は発砲と同時に増幅されて弾頭に宿り、銃口から放たれる瞬間には最高威力に到達する。

 わざわざ銃声を小さくしたのは初撃を外して俺達の位置を察知されない為の保険だ、役目を終えたなら外しても装備したままでも構わない。

 俺が標的にした怪物は腹に魔法弾が命中、ライオネルとアリエルは意図したのか同じ怪物を標的にしたようで頭と胸が大きく抉れている。

 ただの銃弾とは桁違いな魔法弾をまともに受ければ血は床を濡らし、肉片は飛び散って、臓物が生臭い臭いを放ち始める。

 強烈な血臭はこの部屋に辿り着くまで数十匹の怪物を殺してきた俺達にへばり付く死臭を超える濃度に達したはずだ。

 

「GUGYAAHH!!」

「GYIGIHH!!」

「URURUUAA!!」

 

 水槽から出てきた怪物達は眼鏡エルフに操られたせいか集団を形成しつつあった。

 まず耳と鼻と舌が発達した怪物の感覚を閃光手榴弾で視覚と聴覚を奪う。

 仮にライオネルの予想が正しいなら怪物達は仲間の死骸の臭いが付いた相手を最優先で狙うはず。

 もし今の怪物達は飛び散った仲間の血や肉片を浴びた連中に囲まれると誤認したのなら。

 起こる事態は凄惨を窮める物になるだろう。

 

「GYOOHH!!」

「AH!GYAAH!!」

「GIGUAA!!」

 

 何本も腕が生えた下半身が蛇の怪物、頭より大きい角が生えた巨人みたいな怪物、出来損ないの翼を生やした手足が鉤爪になった怪物、皮膚が爛れて体中に瘤がある怪物。

 そいつらが一斉に俺達が仕留めた怪物の血と肉片を浴びた怪物に襲い掛かる。

 目が退化して耳を閃光手榴弾に潰された怪物が敵と思うのはすぐ傍に居る血の臭いを放つ相手だ。

 もちろん襲われた怪物だって必死に抵抗する、攻撃してくる相手が仲間だったとしても確認する術は一つも無い。

 そして襲われた怪物の反撃で傷付く怪物も当然現れる、そしてそいつが別の怪物達から次の標的にされるという繰り返し。

 怪物達には近くにいる者に対して攻撃を止めようとする仲間意識は存在しなかった。

 ただエルフに命じられて遺跡に近付く者を区別も無いまま爪で引き裂き牙を突き立て血を啜り肉を喰らう事しか頭に無い。

 その事に関して少し、ほんの少しだけ憐みの気持ちが俺の心の中に生まれた。

 

「止めろッ!止めるんだ!標的は人間達の方だっ!」

 

 近くて佇んでいたエルフが慌てて怪物達に近寄って声を掛ける。

 目と耳を抑えているからまだ閃光手榴弾の光と音から回復しきっていないんだろう。

 そいつは必死に怪物達の同士討ちを止めようとしていた。

 別に怪物達が可哀想って気持ちじゃないのは注目しなくても分かる。

 単に俺達を襲わせようとしてたのにこんな事態になってしまい慌てて軌道修正を図ってるだけだ。

 とにかく必死で怪物達に近付く、その場所は怪物達の攻撃が届くちょうど距離。

 迂闊に怪物へ近寄れば待っているのは無惨な死、それは今まで襲われてきた俺達が一番良く分かってる。

 

ザジュッ!

 

 小さなナイフ程の長さと鋭さを持つ怪物の爪が空を切る。

 次の瞬間、エルフの胸に大きな切り傷が出来て血が激しい勢いで噴き出した。

 エルフは自分の体に何が起きたか分からなかったんだろう。

 呆けた表情で胸に手を当てると掌にべったり濡らす液体の正体を知り恐慌に陥る。

 

「ひぃいぃぃッ!?」

 

 甲高い悲鳴は完全に悪手だ、怪物達は音に敏感な上に新鮮な血液の臭いを忠実に嗅ぎ取った。

 弱って血液(ソース)に塗れた獲物へ怪物達は狩猟本能のまま襲い始める。

 

「と゛ま゛っ゛! く゛ぇ゛ッ゛! た゛し゛く゛ぇ゛!」

 

 血の泡を吐き出しながら助けを求める光景は見ているだけでこっちの気が滅入ってくる。

 もしも襲われてる相手が家族や部下なら俺もどうにかして助けようとしたはずだ。

 だけど今の俺達とエルフ達は交戦状態にある、わざわざ危険を冒してまで敵を助けようとするほど俺は酔狂でも善人でもない。

 心は他人の命を奪う事を厭いながらも体は冷酷に敵を殺す事に手慣れている。

 こんな自分が昔から嫌いだった、しかも今は息子と娘の前だぞ。

 苛立ちを隠さないままライフルに装填してあった銃弾を魔法弾から通常弾に変えた。

 

「止めろォォ!!」

 

ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!

 

 今度は近くに居るエルフが襲われてるエルフを助けようと怪物達に向けて拳銃を乱射し始める。

 無駄だ、凍るように冷えた頭でそのエルフの末路を悟った。

 そんな拳銃で怪物達が殺せるのなら冒険者達は行方不明になってないし俺達だってもっと楽にこの場所に来れただろう。

 殺戮兵器として優秀な怪物達は対人用の銃弾で殺す事は決して出来ない。

 大口径の銃で攻撃するか、或いは事前に魔法弾を大量に用意するか、或いはアリエルのように高威力の魔法で薙ぎ払う以外に怪物達を殺すのは無理だ。

 必死に仲間を助けようとした仲間想いのエルフは怪物達の怒りを買って次の標的に成り下がる。

 ずいぶんと昔の話だけど畑を荒らす害獣退治に行く父さんや兄さんに同行した時を思い出す。

 肉食獣が集団で狩りを行っていたのとほとんど同じ光景だ。

 怪物は我先にとエルフに群がって牙と爪を突き立てる、恐慌状態に陥ったエルフは必死に抵抗を試みるが確実な死をほんの数十秒遅らせるだけ。

 似たような光景が部屋のあちこちで始まってる、襲われてるエルフの殆どは武装した連中ばかりだ。

 

「早くッ!!あいつらを止めないと!!」

「ちイィっ!!」

 

 一段とデカい声が怪物の方向とエルフの悲鳴に混じって聞こえる。

 顔をそっちに向けると元村長の髭エルフが眼鏡エルフの肩を掴んで何かを命じていた。

 やっぱりエルフ達は怪物達に攻撃を嗾けるだけじゃなくて動きを止めさせる事も出来るらしい。

 なら今の状況で優先するべきは怪物達よりもエルフ達だ。

 

「UGOO…」

「GAAHH…」

「OUUA…」

 

 怪物達がいきなり苦しみ始め、呻き声を放ちながらその場に崩れ落ちる。

 今まで襲っていたエルフの体を引き裂く事こそ止めたが肉体を掴むのはまだ止めていない。

 再びエルフ達を確認すると必死に機械を弄り回す眼鏡エルフが視界に入った。

 どうやらあの装置で怪物達を制御してると考えて間違いなさそうだな。

 

「ライオネル、アリエル。怪物退治は任せた」

 

 最低限の命令を口にして返事さえ聞かずにエルフ達に向けて駆け出した。

 怪物の動きが止められつつある今の状況で敵集団の態勢が整う事が一番マズい。

 この部屋に居るエルフや怪物達が別の場所に潜んでるかもしれない、もし加勢されたら俺達の敗北で終わる。

 隙を見せたこの瞬間を逃してはいけない、ここは一気に叩き潰すのが得策だ。

 

 エルフ達の集団は眼鏡エルフ、髭エルフ、技術者らしく白衣を着たエルフが二人、拳銃で武装したエルフ三人の計七人。

 どうにか俺一人で制圧できる人数だけど敵味方両方が無傷で制圧するのは難しい人数でもある。

 俺の頭が冷静に「絶対に殺しちゃいけない敵」、「可能な限り殺さないように仕留める敵」、「殺しても仕方ない敵」を選別していく。

 絶対に殺しちゃいけないのは首謀者の眼鏡エルフと髭エルフ、こいつらは今後の事情聴取に必要だから生かして捕らえ王国のお偉方に引き渡す必要がある。

 可能な限り殺さないのは技術者らしきエルフだ、ロストアイテム関連の情報は貴重だからな。

 銃を武装したエルフ達は全力で攻撃させてもらう、本気で自分が殺されたくないなら相手を殺す武器なんて持つべきじゃないぞ。

 

 握っていたライフルを逆手に持ち換え一番近くにいたエルフ兵士に駆け寄る。

 そのまま大槌のようにライフルを振りかぶり木製の銃床部分で側頭部へ思いっきり思いっきり叩きつけた。

 銃弾で仕留めなかったのは怪物達を警戒したからだ、もしも今の状況でエルフ達の返り血で引き寄せられた怪物に襲われたら対処できない。

 そのまま掴んでいたライフルを手放して、次の標的である白衣を着た技術者エルフへ向かう。

 ライフルを手放す理由は撃てない銃を持っていても仕方ないから、それに打製武器の扱いに関して俺の技量はそこまで高くない事もあった。

 俺の襲撃に白衣を着たエルフは驚くばかりで抵抗の動きさえ出来ないままその場に立ち尽くしている。

 特に抵抗もしない相手に難しい技を使う必要も無い、右手を握って拳を作るとそのまま腹を殴りつけた。

 殴ったエルフの柔らかい腹部の感触が拳に伝わるが内臓破裂はしないだろう、今日食べた食事を全部吐き出すぐらい苦しいだけで済む。

 

パンッ! パァンッ!

 

「ぎゃあ!!」

 

 

 銃声が響き渡り慌てて腹を殴ったエルフの体を盾にした数秒後、周囲に血の臭いが満ち始めた。

 どうやら盾にされたエルフは仲間からの銃撃を受けたらしい。

 ったく、せっかくこっちが殺さないように加減してるのに仲間を撃つとかどうかしてるだろ。

 過激派エルフって連中はどうも人間だけじゃなく同族に対しても命の価値が極端に低いみたいだ。

 

「止めろ!仲間を撃つやつがあるかッ!」

 

 撃ってきた兵士を髭エルフが必死に止める、どうやら撃ってきたのは兵士達のようだ。

 盾にしたエルフの体の陰から少し顔を出して敵の位置を確認する。

 場所はバラバラで陣形さえ組まず、射線の延長には味方のエルフが居るひどい有様で軍どころか集団の基礎戦術さえ備わってなさそうだ。

 こんな奴らに翻弄されてきたのかよ、そう考えると腹がムカムカしてきた。

 エルフ達はろくな戦闘経験が無く戦術さえ学んでいない、ただただホルファート王国の貴族に取り入って兵を雇い戦わせるか遺跡で造った怪物達を操って戦わせる。

 自分の未来を自分の意思で掴もうとする意志さえ無かった。

 ただ手にした力を使って相手を一方的に蹂躙したい、歪んだ意識だけがそこにある。

 もう手加減する必要もない。

 

 盾にしていた白衣エルフを力任せに蹴り飛ばす、この際生きてるか死んでるかさえどうでもいい。

 白衣エルフの体はそのままの勢いで近くにいた兵士エルフにぶつかってそのまま二人とも床に倒れ込む。

 いきなり飛んで来た仲間の体の下敷きにされ、床で必死にもがくエルフの胸板を力任せに踏みつける。

 うちの両軍で愛用されてる軍靴は鉄板を仕込んで一際頑丈に作られた代物だ、格闘戦で上手く使えば鈍器に早変わりだ。

 

「あっ… あぁ…」

 

 同族がまた一人潰されてもエルフ達は慌てたままでろくに対処が出来ないらしい。

 銃を持ってる兵士エルフでさえ髭エルフの命令を優先すべきか、それとも俺を攻撃するべきか迷って銃口を下げたまま。

 その隙を逃さず攻撃を仕掛ける、不安定なエルフを踏みしめ一気に駆け寄りながら右腕を振り上げた。

 駆け出した加速、俺の体重と筋力、上から下へ物が落ちる重力。

 三つの力を合一させ思いっきり右肘をエルフの右肩に向け振り下ろす、俺の右肘がぶつかったのと同時に何かが折れたような音が響く。

 鎖骨が折れると腕を動かす事はほぼ出来なくなる。

 もし肩近くの頸椎が折れたなら動くどころか呼吸さえ無理で窒息死するだろう。

 

「おぐぇ……」

 

 攻撃されたエルフは手から銃を落として床に崩れた、同時に次の一人に向けて体勢を整える。

 次々と仲間を仕留められ状況を整理できず呆けたままのエルフに数歩だけ近付く、前方移動の勢いのまま思いっきり股間を蹴り上げた。

 かつてのホルファート王国じゃエルフの専属使用人は貴族階級の女向け男娼も兼ねていた、ゾラが見た目だけは華やかなエルフや亜人を傍に侍らせていた事を思い出す。

 つまり男性器の形や大きさは人間と大差が無い、体外に露出してる男性器は生物共通の剥き出しの弱点って訳だ。

 

「ぎゃあぁぁ!?」

 

 一際大きな叫びが室内に轟く。

 正直、股間を蹴りつけたけど何かが潰れるような感触は分厚い靴には伝わらなかった。

 まぁ暫く大人しくしてくれるならそれで充分、睾丸を潰された激痛でそのまま死ぬ奴も多いけど確かめてる時間が惜しい。

 残りは三人、その中で武器を所持てるのは髭エルフ一人だけだ。

 ひどく苛立たしい、敵対したエルフが俺の攻撃でこれほど呆気なく昏倒する事に驚きより失望が勝る。

 体捌きや武器の使い方や集団戦闘の習熟具合からエルフ達は明らかに戦闘慣れしてない。

 エルフ達が大層な野望を抱いたのはこの遺跡があったせいだ、自分達を生み出した旧人類の技術に頼り己の研鑽を怠ってきた。

 もしエルフが里長派の集落に居るような連中ばかりなら人間との関りは全く別の形になってたはずなのに。

 仮に種族全体が温和だったとしても昔のホルファート王国今より人命の扱いが軽い、亜人なら尚更で専属使用人どころか人扱いすらされない奴隷として酷使されただろう。

 そんな歴史の無情さが頭の片隅に現れて消える。

 まだ敵は残ってるぞ、集中しろ俺。

 

 既に仲間の大部分を倒された髭エルフの戦意はほぼ消失しつつある。

 それでも慌てて俺に銃を突きつけようとしているのは元組織の長としての責任感か、或いは人間への敵意か。

 未だに抵抗を続ける髭エルフを殺意を込めて睨みつける。

 一瞬だけ身を竦ませたせいで動きが止まった、そのたった一瞬が勝敗の分かれ目だ。

 素早く駆け寄り銃を持った髭エルフの左手を力いっぱい握り湿る、例え骨は折れなくても暫く動かす事は厳しくいだろう。

 次に右手で髭エルフが着ている服の襟を掴んだ、丈夫な服は防寒性や耐刃性に優れてるけど脱ぎ難い破れ難いという欠点も存在する。

 こうやって掴まれると服を脱いで技から逃れるなんて真似はほぼ無理だ。

 掴んでいた襟を思いっきり引き寄せ、同時に膝で腹と胸の中間辺りを蹴り上げる。

 自分の側に引く力と自分の側から放つ力の相乗効果で密着した状況でも十分な威力があった。

 髭エルフは意識を失ってそのまま床に倒れて痙攣を繰り返す、間違いなく戦闘不能だ。

 

 残る二人に迫ると白衣を着たエルフはおもむろに両手を上げ怯えた瞳で俺を見る。

 どうやら降参する気らしい、まぁ明らかに技術者の外見だから、俺と正面から戦っても絶対に勝てないと悟ったんだろう。

 余計な抵抗をしないならこっちも攻撃するつもりは無い、今日はもう誰かを傷付けて何かをぶっ殺すのは腹一敗で胃もたれがする。

 最後の一人になった眼鏡エルフは人間を罵る呪詛は吐きながら機会を弄ろうと床を這う。

 綺麗な顔をしてるのに狂った表情のまま昆虫みたいに動くこいつには怒りよりも呆れの感情が先に来た。

 

「忠告する、痛い目を見たくないんだったら大人しく捕まれ」

「〇●□!▽◆△◆◎!」

「何言ってるか分からねぇって」

 

 右手を握り全力で拳を顔面に叩き込んだ。

 端正な顔が陥没し鼻血と折れた歯に割れた眼鏡の破片を撒き散らしながら狂ったエルフは気絶する。

 漸く終わった、虚しい実感だけが俺の心を静かに満たす。

 

『終わりましたか、リオン・フォウ・バルトファルト』

「まぁな、子供達の方はどうなってる?」

『特に目立った外傷も無く全ての怪物達を殺傷済みです』

「そいつは良かった、これで漸く肩の荷を全部下ろした気分だ」

『尤も二人の戦闘力よりもエルフ達が怪物達の動きを止めしまった事が彼らの勝因となりましたが』

「良いんだよ、生き残ったんなら」

 

 俺みたいにボロボロになって立ち直るのに何年もかけるより遥かに上首尾だ。

 いくら本人達が望んだとしても我が子をこんな危険な場所に連れてきた事に後悔が無い訳じゃない。

 さっさとエルフ達を捕縛を済ませてアンジェを元通りにする、後は王都の連中へ丸投げして俺はゆっくり休みたい。

 

『これが現時点でのエルフなのね。数で勝り技術で勝っていながら新人類の末裔数人に鎮圧されるほど劣化してるとは思わなかったわ』

「お前、仮にもエルフを造った母親みたいなもんだろ。少しは協力してやろうとは思わなかったのか?」

『悪いけど私が創造物に関して求めている望み通りのスペックを発揮する事と私の意思に忠実かという部分なの。私との情報共有すらせず自分勝手な行動で貴方達に鎮圧されるエルフ達に期待する方が無理よ』

「胸糞悪ぃ話だ」

 

 とにかく疲れた、手足が蓄積した疲労で力が入らない。

 この浮島に来てからずっと危険や戦いに巻き込まれて綱渡りの連続だ。

 さっさと屋敷に帰りたい、帰って数日は眠って過ごす。

 

「ねぇ~!お父様~!ちょっと来て~!」

「ご無事ですか父上~!」

「……今行く、そこで待ってろ」

 

 今は子供達が怪我もせず勝てた事を素直に喜ぼう、それ位は赦してくれてもいいよな神様?




対エルフ戦闘終了!(デデーン
個人的な判断ですがコミカライズでも培養したモンスター頼みで武装も拳銃が主だったのでエルフ達自身の戦闘力は高くないと考えてこのような決着になりました。
エルフが部屋に設置してある防御システムを起動させなかったのは遺跡自身の制御下にある事の他に理由があります。
原作ではエルフ達を止めルクシオンで施設を破壊して終了ですが、今作はエルフの里で戦いが巻き起こる予定。
次章からは七部のラスボス登場です。

追記:依頼主様のリクエストによりオスワーニ様、Deka様にイラストを描いていただきました。
本当にありがとうございます。

オスワーニ様 https://www.pixiv.net/artworks/141095004(成人向け注意
Deka様 https://www.pixiv.net/artworks/141134661(肌色多め注意

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