婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第169章 災厄の獣

 微かな光さえ存在しない部屋に在るその獣はまるで漆黒のインクで染められた岩の如き外見をしていた。

 仮に何者が近付けば黒い表面は体毛の色であり、岩のような外見は身を捩り横たわった体勢故だと気付くだろう。

 何事に対しても反応も示さないその状態を生きていると呼べるのかは非常に怪しい。

 頭部と思われる個所に耳を近付けて微かな呼吸音を辛うじて確認し漸く生存していると分かる程だ。

 この部屋にその生物が閉じ込められてから一体どれ程の時間が経過したのか。

 閉じ込められている当事者ですら把握が難しかった。

 

 室温と湿度が空調で常時一定に保たれてこそいたが、逆にその状況は環境の変化が著しく乏しいが故に精神を確実に蝕み続ける。

 陽光による日の出や日の入りは勿論、寒暖差による季節の変化さえも全く感じられない。

 そのような状況下で長い期間を過ごせばどんな生き物も思考に歪みが生じるものだ。

 いや、そもそも飢えと渇きによってとうの昔に息絶えているだろう。

 その獣が未だに命を保っているのには事情があった、他者の歪んだ欲望や偏見によって歪められた生き様が。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 とある広大な浮島に存在する森に存在する日の光が届かない洞窟の奥でその獣は母の胎内からこの世界へ産み落とされた。

 その生き物の種族はこの世界では広く分布している肉食獣の一種だが徐々に衰退していた。

 広大な浮島でその獣の一族が繁栄を謳歌できたのはその浮島が豊かな自然によって十分な食料が存在してた為だろう。

 無論、如何に餌が豊富であっても自然界とは弱き者に対しては苛烈である。

 力の弱き者は産み落とされてから一日も経たぬ間に息を引き取り他者が生きる為の養分と化す。

 そんな状況下に於いてその獣は生まれながらに強者だった。

 同じ日に同じ母から生まれた他の兄弟姉妹と比べても明らかに強壮な体躯と聡明な知恵を備えて生まれた種族の異端児。

 母の胎内に居た頃の記憶すら憶えいたその獣は出産から一時間もしない間に目を見開き、這いずって母の乳房に牙を突き立てるように乳を啜った。

 過剰な生存本能を備えた故の行動か、それとも明敏な知能故の冷静な判断か。

 産声を出し間も無く親の庇護が無ければ生きられない時期にさえ、その獣にとって他者とは自分の糧か大人しく従属すべき存在だと認識してた。

 

 しかし浮島で最も反映していたのはその獣と同じ種族では無かった。

 太い牙も鋭い爪も持たず、全身を覆う体毛すら備えない貧相な体を持った種族。

 その獣が『二本足』と認識する種族は自分達を『ニンゲン』と呼称し、浮島の至る所に巣を作り繁栄を謳歌していた。

 

 或いはその獣が種族を超えた力と知性を備えた理由は、母の胎内に誕生した頃に起きた『二本足』同士の争いが原因かもしれない。

 ある日、腹に子供を宿していたその獣の母が獲物を求めて森を徘徊していると轟音が空で響き始めた。

 暫くの後、浮島の草原や森には火で覆われた巨大な塊が次々と落ち続け草木を焼き、多くの生き物がその巻き添えとなっていく。

 どうも『二本足』の異なる群れが激しい争いを始めていたようだ。

 逃げ惑う動物達にとってその時だけは捕食者と非捕食者の関係は無い、誰もが生き延びる事に必死であった。

 幸いな事に空か落ちたそれが巻き起こした火は燃え広がらず、浮島の生態系に大きな被害を出すには至らなかった。

 その獣の母を除いて。

 

 空から落ちてきた木と金属と奇妙な意思で出来た奇妙な塊の中には『二本足』の死骸が母の知性では数えきれないほどたくさん蓄えられていたらしい。

 突然の恵み感謝しながら母は『二本足』の死骸を貪った。

 もとより出産に必要な栄養を腹の中に居る胎児に吸収され続けて慢性的に栄養が欠乏している。

 日に日に目に見えて肥えながらも『二本足』の死骸全てが腐りきる前に母は奇妙な塊の中から退散し、出産場所である森の洞窟に身を潜めて過ごした。

 

 『二本足』の大きな群れが縄張り争いは片方の群れがもう一方の群れを吸収する形で終息した。

 人間達は後にファンオース公国という一つの国家が滅んだ戦争だと史書に記す事となるが、その獣の一族が関知しようもない事である。

 重要なのはただ一点、その獣は母の胎内で生まれた頃から『二本足』の味を覚え己の糧にしていたという事実。

 それが浮島内に於ける食物連鎖の果てに起きた偶然か、それとも戦で命を落とした者達の怨嗟が生態濃縮された必然なのか。

 いずれにしてもある種族に於ける異端児を産み出した事に関係があるかもしれないという程度しか全知全能ではない人間には分からないだろう。

 

 その獣の成長速度は同族と比べてもあまりに異常過ぎた。

 同日に生まれた兄弟姉妹が母から与えられる乳を啜っているのに対してより多くの栄養を求めて止まらない。

 洞窟の周りで外敵からの攻撃を警戒している父が仕方なく狩りへ向かわなければならぬほどであった。

 もしも十分な餌を与えなければその獣は血を分けた家族すらも己の胃袋に収めかねない、そう思わせる我が子の恐ろしさに親達は恐怖を覚えた。

 ひたすらに獲物を狩って巣穴である洞窟へ運ぶ日々、既に親と子という関係は支配者と従属者の関係に変質しつつあった。

 

 生誕したその日から僅か一年も経たない頃、その獣は既に母と同程度の体躯にまで成長した。

 兄弟姉妹が親が狩った小動物の肉を分け与えられながら成長しているのに対し、その獣は既にたった独りで狩りを行なえる程である。

 もちろん経験不足と幼さ故に狩りに失敗する事は数在れど同じ間違いは二度を犯さない。

 むしろ優れた知性を存分に用いて獲物を観察し確実に仕留める方法を自ら編み出すほどであり、同族が飢えていてもその獣は常に己の腹を満たし続けた。

 若き同族が効率的な狩りを行なっていると知った者達は次々とその獣に追従し始める。

 同年代と比べても圧倒的な体躯と豊かな知恵を備えるその獣はいつしか己の集団を形成し、月日が経つほど己の権勢を増していく。

 兄弟姉妹が親の手を離れ巣立つ頃になるとその獣は一族の群れを統率する若き長に君臨していた。

 

 その獣が長となった日から一族の狩りはより効率化し多くの獲物を仕留められるように変質していく。

 何処にどんな生き物が潜んでいるのか、その場所に住む生物が何を食べ何処で睡眠し何処で排泄をするのか。

 優れた観察眼はすぐに他の生き物達の生態を見抜き行動パターンから最適な狩りの方法を確実に導き出す。

 陸の獣、空の鳥、川の魚も関係無い。

 己の種族よりも圧倒的な体躯を備えた大型獣すらも群れを用いる執拗な狩りで屍肉と化す。

 浮島の草原や森を住処とする全ての生き物を食べ尽くす勢いでその獣と一族は繁栄を謳歌した。

 

 絶頂期の訪れによってその獣の性格もまた変質を始めていた。

 既に草原も森も川すら一族の狩場であり自分達は圧倒的な支配者である。

 自身に力と知恵で勝てる者など存在しない、その驕りが過剰な狩猟行為に変じ浮島の生態系を徐々に侵食し始めた。

 その獣によって安定した暮らしを享受する同族達が繁殖し続けた結果、浮島の自然に生息する他の種族を食べ尽くしかねない程にまで総数を増やしてしまったのだ。

 慢性的な飢えが一族を襲い始め、日に日に一族同士の争いが増え続け、ついには新たに生まれる同族すら喰らおうとする者まで出てくる。

 知恵を備え巨大な体躯を備えていたとしても、流石に群れの全員を相手に勝てる見込みは無い事に気付いていた。

 

 ならば別の狩場を見つけるしかあるまい。

 新天地に相応しい場所をその獣は既に導き出していた。

 薄暗い森を越え、広い草原を走り続け、川を泳ぎきったその向こう側。

 この浮島で自分達以上に繫栄してる『二本足』が住処としている場所以外に無い。

 しかも『二本足』の縄張りに生息してくるのは奴ら以外の種族さえ居た。

 大人しい狼、飛ばない鳥、毛が抜けた猪、乳臭い牛達といった自分達の住処に居ない生物達が同時に共存している。

 縄張りで生きる全てを喰らい尽くしてやろう。

 その獣は住処の移動に耐えられる強い個体の同族だけを引き連れて移動を開始した。

 一族の中には生まれ育った力から離れたくないと主張する者達も多数いたが敢えて捨て置いた。

 仲間が多ければ自身の分け前は減るし、日に日に従わなく同族など群れに居たとしても大して役に立たない。

 数十匹の同胞を引き連れた遠征は数日間に及び、その途中で脱落した同族達を見かけたが気にも留めなかった。

 

 辿り着いた新たな狩場は数えきれない程の獲物で溢れていた。

 木の板を組み合わせた囲いの中で眠り続ける毛の無い猪と乳臭い牛。

 奇妙な洞窟の中で大量に押し込められ卵を産み続ける飛べない鳥。

 石を積んだ『二本足』の住処近くでやたら威嚇する覇気の無い狼。

 気紛れに行動しながら『二本足』に媚びを売って食い物を分けてもらう猫。

 あらゆる生き物が警戒心を欠片も持たず楽に狩れた。

 肉も森や草原に住む動物達と違って柔らかく血も臭みが無くて美味い。

 この新たな狩場で新たに群れを作ろう、その獣は決意を固めるとより日に日に効率的な狩りで獲物達を仕留めた。

 

 そんなある時、たまたま群れから逸れた『二本足』を見つけて戯れに狩った。

 森に住む猿と『二本足』は似ていたが体毛は少なく体も柔らかい。

 仕留めた時の甲高い鳴き声は耳障りだったが何度も爪で体を引き裂いてやると大人しくなった。

 普段なら狩った獲物に毒が無いか群れの若い同族に食わせているのだが何故か『二本足』にはそんな気持ちが起きない。

 期待で高鳴る鼓動を必死に抑えようと努めながらその肉に噛み付く。

 あまりの美味さに意識が飛びそうになって気付けば歓喜を雄叫びを繰り返していた。

 

 この味を知っている、自分という存在を初めて認識した時の忘れえぬ記憶。

 まだ母の胎内で目も耳も役に立たなかった頃に幾度も味わった極上の味。

 どうして自分より遥かに弱い母が『二本足』の肉を喰えたのかは定かでは無い。

 ただ決意したのは『二本足』こそが自分が喰らい続けるに相応しい最上の獲物であり、配下の同族にさえ一匹すら分け与える気など全く無い事のみ。

 

 その獣は初めて人間を殺して以降、一族には飼育されている家畜達を襲わせ自身はひたすら人間を襲い続けた。

 従えている一族と比べても異常なほどに成長を遂げた体躯は成人した男性に匹敵し襲う人間を選ばない。

 膂力と鋭い爪が合わされば容易く服ごと肉を容易く引き裂き、咬合力と太い牙が合わされば骨ごと人を喰らう。

 特にその獣が獲物として好んだのは女や子供だった。

 脂肪が多い女は肉が柔らかい上に力も弱く簡単に仕留められるし、子供は量こそ少ない物の頭頂から爪先まで余す所無く喰らい尽くせる。

 何より浮島に生息する一族の総数を圧倒的に超える人数が魅力的だった。

 こんな素晴らしい餌場なら自分だけで『二本足』を独占したい、もしも他の餌が無くなれば他の一族を殺める魂胆すらもその獣は持ち始めていた。

 

 その獣が持っていた認識が甘かったのは事実だろう。

 母の胎内に居た頃から強者の側に居続けたその獣にとって他の生命は自身に追従するか餌となる為の存在にとしか認識して生きてきたのだ。

 失敗を知らず敗北を経験しなかった為に厳しい自然界を生きる為の危機を察知する力や敵がどう反撃するかを想像する力が不完全なまま成功を重ね続けた弊害だったのかもしれない。

 そもそも生まれ育った自然の中に存在せず初めて接触した『二本足』、つまり人間の観察を怠り侮ったまま餌をして扱うなど若い頃には見られない失態であった。

 人間達はその獣が想像する以上の知性を持ち、如何に膂力で上回ろうとも戦いの趨勢を覆す策も武器も備えている事に気付かない。

 何よりその獣が餌として選んだ人間が女子供ばかりな事実が人間達の殺意を煽る結果となってしまう。

 空を優雅に舞う大鳥も海の中では羽毛が水を吸って沈むだけ。

 海を我が物顔で泳ぐ大魚も陸の上では呼吸が出来ず窒息する。

 己の力を以って勝利を積み上げてきたその獣にとって力が通じない相手も牙や爪や角を用いて戦わない相手は完全に慮外であったのだ。

 

 音を立てて礫を飛ばす金属の棒、爪を上回る鋭さを持つ金属の棒、更に『二本足』の体が放たれる炎や雷。

 人間が厳しい自然界と袂を分かって数万年、火を従え、農耕を編み出し、金属を加工し、魔なる法を得た人間は獣性を捨てた代わりに知恵を用いて高度な文明社会を築いていた。

 火と金属と魔法という自然界ではほぼ遭遇しえない武器を携えている人間を相手にすれば徐々に劣勢に追い込まれるのはその獣と明らかであった。

 仮にダンジョンに生息する魔法を体得したモンスターと交戦した経験があったとしても結果は同じであろう。

 恋人を、夫を、妻を、父を、母を、息子を、娘を、孫を襲われ食い殺された人間達の憎しみと恨みはより苛烈で冷酷な刃となってその獣と一族を容赦なく追い込み始めた。

 

 人間の反撃によって群れに居た同族が日に日に一匹、また一匹と姿を消してもその獣は当初気にも留めていなかった。

 生まれた時からあまりに同族と隔絶した力を備えていたその獣にとって他の者はあくまで面倒事を担う為だけの存在に過ぎない。

 縄張りに異常が無いか見回る為に必要、雌が産んだ子供達を育てる為に必要、餌を狩る労力を減らす為に必要。

 その煩わしさを少しでも緩和する目的で同族が傍にいる事を赦していただけであり、群れの全員と正面から争って勝てるのなら既に単独行動していた。

 自ら生まれた地を離れたのは一族が生きていく為の必要な祭典減の餌が不足したのと同時に、面倒な立場を捨てる為。

 その判断が逆に苦しむ結果を齎すとは思いも寄らなかっただろう。

 

 復讐心に燃える『二本足』達はその獣の一族を詳細に分析し、生息範囲内に巧妙な罠を仕掛け、時には自ら武器を持って戦った。

 その獣がどれだけ一族を率いて狩りを行なってきたとしてもこれまでの相手はあくまで自然界に住む動物、しかも一族と協力して弱い生き物を狩るか強い者を数で圧倒するかの二つしかない。

 牙も爪も力も通じない『二本足』が自分達と同数以上の群れとなって襲って来る光景は悪夢その物だ。

 しかも『二本足』の中には火や雷といった自然現象すら起こす個体さえ存在している。

 生まれてから初めて感じる死の恐怖に慄き、受けた傷から流れる己の血と意識を掻き毟る激痛に苛まれて漸く世界には己を凌駕する存在がいる事をその獣は悟るしか出来なかった、

 

 半年にも及ぶ捜索と山狩りの結果、ついに浮島の人々によってその獣は捕らえられた。

 襲われた被害者や対策本部の者達に専門の学者を加えた調査報告書によってその浮島の歴史に於ける最大規模の獣害事件は後にエルフの里で起きた事件と合わせてホルファート王国上層部に提出される。

 

『事の発端は事件の十年以上前、ホルファート王国と旧ファンオース公国の戦争が原因と考えられる』

『戦死者の遺体を食し味を憶えた動物達が森林や山間部の餌が減少した為に人里に降りてくるという複合的な状況が発端となった』

『人間や食料廃棄物の味を憶えた動物、その中でも強壮な異常個体の誕生により被害が加速度的に増えたと考えられる』

『捕獲された異常個体は同族と比較して二倍以上の体躯を誇り、少なくとも他の成体の倍は生きてきた事が事件以前に山間部に入った狩人からの証言で判明している』

『異常個体が捕獲された当初、被害者や遺族達は速やかな処理を要求したが、領主や学者側からは調査の為に暫く確保する旨を発表。しかし領民達の反発を招き浮島内で新たな暴動が起きる切っ掛けとなる』

『また被害者遺族や狩りに動員した領兵や狩人に対する補填も獣害に端を発した暴動によって後回しにされ、領内は経済的危機に陥った事が判明』

『そんな折、噂を聞きつけた者が捕獲された動物達を高値で買いたいと交渉。領主は快諾し支払われた大金は被害者達へ補償に回された』

『動物達を高値で買ったのはエルフである証拠が後に起きた事件によって判明、ホルファート王国では希少動物の売買に関する法令が厳格化される一因となる』

 

 事件はまだ終わりを迎えていなかった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 その獣は草木が一本も無い金属の部屋に捕らわれていた。

 自分を狩ろうとする『二本足』により金属の棒を組み合わせた檻へ押し込められてからどれほど経ったのかは分からない。

 太陽も月も無いこの場所に昼も夜も存在しない、『耳の長い二本足』が餌を時折持ってくる事が唯一の変化だ。

 当初は己と共に捕らわれた一族も同じ場所に居た筈だ、しかし眠りに落ちて目を覚ます度に一匹また一匹と姿を消していく。

 殺されて喰われたか、それとも嬲られ殺されたか知る術は無い。

 

 己こそが世界を支配する者だと考えていたが『二本足』の力は凄まじかった。

 まさか己の牙も爪も通用しない相手が存在するとは。

 己の武器が通用しなかった事について悔しさは殆ど無かった、あるのは純粋な好奇心のみ。

 次こそはもっと上手くやる、『二本足』を観察し同じ力を得れば勝つのは必ず己の方だ。

 生まれて初めての敗北に悔しさは無い、むしろ似たような変化だけを繰り返す森や草原に比べて『二本足』の縄張りは刺激に満ちている。

 まずは食事と睡眠を繰り返して傷の完治を図る、行動はそれからでも構わない。

 

 ある時、『耳の長い二本足』が持ってきた生肉を喰らうと体が徐々に痺れ満足に動かせなくなる。

 故郷で毒草を間違って食べた時や『二本足』が仕掛けた罠や持ち物で同じような事を何度も経験していた。

 さては殺す気か、そう思い吠えようとするも口からは息しか漏れない。

 牙を突き立てる事も爪で引き裂く事も出来ぬまま『耳の長い二本足』によって別の場所に運ばれていく。

 今まで居た部屋より大きな場所に移されると無理やり手足を拘束され動きを封じられる。

 必死に力を込めても四肢はピクリともしない、まるで己の体が骸と化したようだ。

 周囲で忙しなく動いている『耳の長い二本足』を睨もうとする、ふと視界に奇妙な物が入る。

 黒い金属の塊だが『二本足』の腕に似た形状それは明らかに何かが違う。

 同族とも、獲物達とも、『二本足』とも、『耳の長い二本足』とも決定的に何かが違っていた。

 必死に身を捩るが上手くいかない、何やら管のような物を何本を体に刺されるてしまうが痛みを感じない事が逆に悍ましい。

 朦朧とした意識の中で己を見る『耳の長い二本足』、恨みではなく侮蔑と興味で輝いた両眼だけが印象に残る。

 

『これより移植手術を開始するわ』

 

 明らかに『耳の長い二本足』の鳴き声とは違う音がどんな意味を持っているのか知らぬまま、その獣の意識は深い闇へと墜ちていく。




新登場のオリキャラ、その獣くん(仮称)。
モデルは三毛別羆事件やジェヴォーダンの獣といった数々の獣害事件。
生物的な特徴は四足獣、主食は動物の肉、数匹~数十匹単位の群れを形成する程度とお考えください。
今章を書く上で一番キツかったのはモデルになった獣害事件を詳しく知る事。
私が自分がエログロを書く事は出来ても他人のエログロを知るのは苦手なので…。
ここから先は民族間闘争や異種族問題からモンスターパニックに路線変更!
でも人間側に対抗手段はあるよ!

追記:依頼主様のリクエストにより如月悠様にイラストを描いていただきました。
本当にありがとうございます。

如月悠様 https://www.pixiv.net/artworks/141746466

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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