婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです 作:品☆美
「隊を三つに分けるぞ」
俺の言葉にライオネルとアリエル、そしてエルフ達が視線を向けた。
尤もこの場所に居るエルフ達とはついさっきまで殺し合いまでしてた間柄ときてる。
視線から伝わってくる感情は恐怖やら怒りやら疑いに加えて敵意さえ混じってた。
それでもやらなきゃ死人が増える、どうして俺は関わり合いたくもない騒動にいつも巻き込まれるんだよ?
きっと神様は俺がとっても嫌いで堪らないんだろうな。
だからこうやって問題が解決しても次々と問題が起きる。
でも嘆くのは後回しだ、嘆いてるだけじゃ時間を浪費するだけ。
頭を切り替えて考えられる最善を模索する事だけが事態の悪化を食い止める。
「じょ、冗談じゃない!」
「どうして我々が人間共の命令を聞かなければいけないんだ!」
なお高尚なエルフの皆様方は御不満のようです。
まぁ気持ちは分からんでもないな。
ホルファート王国に叛逆しようとこんな遺跡で化け物を造ってた過激派からすりゃ俺に従うなんて屈辱だろう。
しかもエルフ達が負傷した原因は俺との戦闘だ、逆らうどころか殺意さえ持ってても不思議じゃない。
「このッ…!」
「ひぃ!?」
「だから、暴力は止めなって言ってるじゃん」
アリエルが思いっきり腕を振り上げる仕草をするとエルフ達が怯えた声を出す。
俺が止めようにも痛みのせいで動きがどうしても少し遅れる。
ライオネルが止めなきゃ本当にエルフ達を殴りかねない怖さがある。
だが今に限ればアリエルのやり方が正解かもな。
何しろ策を練る時間も残りの弾薬も戦う体力もほぼ尽きかけている最悪な状況だ。
今まで戦って来た怪物を超える怪物、魔装獣がいつ俺達に追い付くかも分からず不安が襲ってくる。
あいつが俺達を追って来ないのは単に空腹を満たす、そのたった一点しか無い。
腹が満たされる、或いは空腹が解決しなければ真っ先に俺達を追い始める。
それまであとどれ位の時間の時間が残されてる?
「…止めろアリエル」
「……でもお父様」
「いいから、ここは任せておけ」
気が逸るアリエルを落ち着かせながらエルフ達に視線を向ける。
その両目には恐怖や不安や疑いといった感情が交じり合ってどうしたら良いか自分でも分からない奴らの目だった。
戦場じゃこんな目をしてる奴らは別に珍しくもない。
何をすれば生き残れるか、誰に従えば良いのか分からない兵士達は取り敢えず頼りになりそうな上官に従う。
基本的に人間ってのは命令に黙々と従う方が楽だ。
自分で決断する事は自分に責任を持つ事と繋がっている。
失敗した時の事を考えればお偉いさんに判断を任せれば自分が責任を負わずに済む上に、もし失敗してもそいつの責任に出来るからな。
どうやらエルフもその辺りは人間と大した差が無いようだ。
仮にホルファート王国を倒せたとしてもこいつらはどうやって国を運営していくつもりだったんだろう?
王国は長い歴史を持ってる上に他国と交流や政略結婚も積極的に行ってる。
それを武力で打倒した亜人がそう簡単に乗っ取れるものか?
エルフの寿命が人間の数十倍な部分を考慮しても難しいだろうな。
まぁそんな連中だから兵力が少ない俺達でも制圧できたし、今もこうやって考え無しに造った化け物に追い詰められてヤバい状況に追い込まれているんだが。
「まぁまぁ、落ち着けよ。会話は異文化交流の基本だろ?」
「我々に暴力を振るった野蛮人が何を言う!」
「だからって俺達は捕って喰うつもりじゃないんだからさ。そもそも、あんたらを喰おうとしてるのはあんたら自身が造った化け物って訳だが」
「侮辱してるのか貴様ァ!」
「そう聞こえるって事はあんたらが追い詰められてるからだよ。まぁ今の俺達も似たようなもんだが」
実際の所、今までの会話からあの化け物が人間の冒険者達を襲い喰ってきた実行犯なのは間違いないだろう。
だからと言って化け物はエルフ達に忠誠心があった訳でもない。
むしろ無理やり連れて来られて体を弄り回されりゃ殺意を抱かない理由なんて山ほどある。
真っ先に攻撃を仕掛けた俺への追撃をしないままエルフ達を襲った原因がその恨みだったと考えるのが自然だ。
でも化け物は絶対に俺達を襲わない訳じゃないだろう、あくまで標的の優先順位が俺達よりエルフ達なだけに過ぎない。
だからこそエルフ達と手を組む余地があった。
「このまま逃げても生きて遺跡から出られる保障は無い、それはあんたらと俺達も同じ条件だ。ならこの場だけでも手を組むのが得策だと思うな」
「人間など信用できるか!」
「そうだッ!」
「あっそ、なら勝手にすれば良い。おい遺跡」
『何かしら?』
「化け物は今どこで何をしてる?」
『今は中枢の部屋でランチの真っ最中よ。肉料理が改造体の肉、メインディッシュはエルフの肉って感じね』
「喰い終わるまでの時間はどの程度だ?」
『エルフの体は細身だからそれほど時間は掛からないわ。でも改造体は巨大な上に様々な生物の遺伝情報を付加しているせいで鱗や羽が生えてるし筋繊維も硬い。食べ終わるまでは一時間ほどかしら?』
「つまりあんたらが化け物に食われて糞に変わるまでの残り時間がその程度って訳だ」
「ぐっ!」
エルフの一人がくぐもった声を出す、自分の命があと僅かと突き付けられたらそうなるのも仕方ないな。
だけどそれは俺達にとっても同じ事だ。
あの化け物が標的の優先順位を付けてたとしても、それは俺達の安全を保障してる訳じゃない。
内心の焦りを誤魔化しながら必死に脳を回転させて良い案が出ないか模索する。
何もしなかったら俺達もエルフ達と同じように化け物の昼飯されちまう。
「よ~く考えろ。このままだと俺達もお前らも仲良く喰われて同じ胃袋に詰め込まれるんだぞ。それなら最期ぐらいは人間と協力して生き延びる方法を探った方が建設的じゃないか?」
「……何か策があるとでも言うのか?」
「まぁ、やる価値がありそうな策と化け物に通用しそうな武器が一つだけある」
「どんな策だ?」
「おい、どっちか俺の背嚢を取ってきてくれ」
「分かりました」
即座にライオネルが背嚢に向かう。
今の俺は化け物から受けた傷で碌に動けない、痛み止めの錠剤や傷薬でどうにか動ける程度だ。
戦えば為す術無く化け物に喰われる、しかも被害はそれだけに留まらない。
この浮島に居るエルフ、観光客の全員が化け物の餌になっちまう。
それだけは何としても、あらゆる手段を使わって阻止しなきゃいけない。
たとえムカつくエルフ達と共闘し、可愛い俺の子供達を戦わせる事になろうとも。
「父上、持ってきました」
「じゃあ背嚢の一番下に仕舞ってある金属の箱を出してくれ」
「はい」
ライオネルの手が背嚢に差し込まれ目的の物をゆっくりと取り出す。
一見するとかなり大きな金属製の缶詰、俺が背嚢に入れて来た荷物の中で一番大きい重量物だ。
こいつが無きゃ地下にある遺跡を探索するのがもうちょっと楽だったかもしれない。
だけど何かあった時の為に備えて持って来て正解だった。
……使う事態が来ない方が一番良かったけどな!
「何これ?」
「爆薬だ」
「ばッ!?」
驚いた双子とエルフ達が一斉に部屋の隅まで跳び退いた。
まぁ、怖がる気持ちは分かるけど扱いさえ謝らなければそんなに危険な物体じゃないぞ。
飛行船の大型化や軍事転用、人型機動兵器の鎧が発明されて戦場で歩兵が担う役割はかなり減少した。
特に陸地ではなく空中で戦闘が主流になってからは敵拠点の制圧や破壊工作を歩兵が担う事になっていくのは戦争の歴史をきちんと学べば周知の事実だろう。
だからと言って歩兵が全く必要なくなった訳じゃない。
もしも飛行船を撃沈され鎧での戦闘行動が不可能になった場合に無条件降伏しか残される手段は無いのか?
否、断じて否だ。
歩兵しか用意できない時でも飛行船や鎧を破壊する手段を模索するのは軍人なら当たり前の思考だろう。
俺が持って来たこの爆薬もそうして研究された成果物の一つ、一個人が扱いきれる最大級の破壊力を持った武器だ。
「安心しろ、起爆装置を繋げなきゃめったな事で爆発しないぞ。ただの火や衝撃ぐらいなら平気だ」
「全然安心できない!」
「……父上、もう少し事前に僕らと情報を共有して頂くと助かります」
「こういうのは味方にも黙っておくからこそいざという時に役立つんだよ」
実際の所、ライオネルやアリエルの方より球っころと情報を共有したくなかったのが本音だ。
あいつは遺跡と同じ旧人類が造ったロストアイテム、もしも新人類の末裔である俺達を滅ぼす方向に意気投合されたら対抗手段はほぼ存在しない。
いざって時に遺跡だけでも確実に破壊する為に爆薬をこっそりと持って来た。
それが化け物退治に使われるなんて人生は何が起きるか分からない。
「という訳で高威力の爆薬だ、こいつを使えば流石に化け物でもただじゃ済まないだろう」
『具体的な破壊力を説明を求めます』
「これだけの重量なら飛行船や鎧の装甲に穴を空けられる。艦橋や操縦席の近くなら撃墜も可能だな」
「なんて恐ろしい物を持って来てんのよ…」
『随分と都合良くそれだけの危険物を持ち込んだわね』
「やはり人間は野蛮だ…」
「こんな奴を頼る事になるとは…」
うるせぇ、黙ってろ。
何で子供達だけじゃなくエルフや遺跡にまで文句言われなきゃいけないんだよ。
お前らもあの化け物と一緒に爆殺してやろうか。
『計測終了しました。凡その概算になりますが魔装獣に致命傷を与えるには十分な破壊力だと思われます』
「断定はしないんですね」
『どんな兵器も当たらなければ無意味です』
「悔しいが球っころの言う通りだ。そこで確実に仕留める為に作戦を立てる必要がある」
「父上、具体的にはどのように」
「まず爆弾の組み立て、それと化け物を逃がさず確実に爆発を当てられる場所を探さなきゃならん」
「…その為に我らエルフと手を組む必要があると?」
「このままじゃどっちみち共倒れだ、しかも化け物が地上に出ればエルフや人間を見境なく襲い始めるぞ」
「……確かにお前の考えは正しい」
「上手くいったらお前らが王国に逮捕された後に減刑の口添えぐらいはしてやっても良い」
実際そこまで俺に影響力がある訳じゃないけどな。
騒動が終わった後で聖女様に頭を下げて俺に面倒事を押し付けたジルク辺りに嫌味を言えばそれなりの対応はしてくれるだろう。
別にこいつらみたいな過激派のエルフを助けたい訳じゃない、俺達が世話になったエルフの皆まで巻き添えを避ける為だ。
「それであたし達は?」
俺の顔を覗いて来るアリエルを直視するのが怖い。
これから俺は父親としてあまりに非情な選択をする。
今まで戦争や任務で部下に危険な指令を命じた経験は何度もあった。
どれだけ「争いは嫌いだ」、「平和が一番良い」と言った所でやらなきゃいけない事の為には金も時間も命さえ消費する。
そう決断する奴だけが人の上に立てる、だから貴族は領民を従えられる。
だからって部下に死ねと命じる事と自分の子供を危険に晒すのはまるで違う重さだ。
人でなしと罵られて軽蔑されても仕方ない鬼畜の所業、これが最善策と分かってても実行できる奴は決して多くないだろう。
いっそ俺が親子の情なんて持ち合わせていない悪党なら良心の呵責に悩まなくて済んだのに。
後でアンジェがこの事を知ったら離婚を切り出されるかもな、それでも俺は決断しなきゃいけない。
「アリエル、お前は囮役になれ」
「…ッ」
自分の娘を化け物を確実に倒す為の囮にする。
失敗したら無茶な作戦で娘を死なせたという汚名と後悔だけが残る非情の選択だ。
だが現状でこうするよりも確実な作戦が思い浮かばない。
仮に俺が万全なら囮を引き受けただろう、でも今の負傷した俺に満足な戦闘は熟せない。
しかもアリエルはこの遺跡に来てから急に魔法の力に目覚めた。
魔法の攻撃力は爆弾には劣るだろうが、ただの銃弾や魔弾を超えた威力な上に広範囲の攻撃も可能だ。
実戦経験の少なさや化け物の未知数な強さを考慮しても一番生き延びる確率が高いのはアリエルと判断して間違いない。
「……それ、あたしじゃなきゃ無理なのよね」
「あぁ、そうだ。素早い化け物を爆発で仕留めるのは難しい。予め爆弾を爆弾を設置した場所に化け物を誘導し、逃げ場所を塞いで確実に仕留める。この作戦で囮役が務まるのはお前しか居ない」
つまり一番危険な役割はお前が担当しろ、と俺は自分の娘にそう告げた。
たとえアリエルが嫌がってもやってもらう以外の道は残されていない。
このまま部屋に閉じ籠り続けた所で化け物は間違いなく俺達を探し当てる。
仮にこの場をやり過ごして生き残った所で今度は地上に居る奴らが襲われる事になるだろう。
誰かが今ここで化け物を足止めしなきゃいけない。
そんな役目を自分の娘に告げる自分がつくづく嫌いになって体の痛みによる物とは別の吐き気が込み上げる。
「分かったわ!つまりあいつをボコボコに叩きのめせば良いって訳ね!」
「……どうしてそうなる?」
「だって倒せるなら倒した方が絶対に良いでしょ」
「アリエル、流石に調子乗り過ぎだよ」
一瞬、アリエルの頭の悪い返答に頭を抱えそうになった。
答えを聞いてもっと頭が痛くなる。
これはあれか、新兵が良く患う戦場の熱に浮かされ躁状態になる病気の類か?
勇敢と無謀は似ているようで全く違う、その判別が出来ない奴ほど戦場で簡単に命を散らす。
「おい、アリエル」
「あいつがとんでもない強敵だって分かってるわよ。でもあたしが頑張った分だけ作戦の成功率は上がるんでしょ」
「そりゃそうだけど」
「なら攻撃できる時は思いっきり攻める、倒せる時に倒せるなら一番じゃない」
「……まぁな、だけど無茶だけはするなよ。俺が退けと言った時は素直に退くんだ」
「了解ッ!」
元気なのは良い事だ、元気過ぎると悩みの種になるけど。
取り敢えずアリエルの方はこれで良いか。
考える時間は幾らあっても良いが何しろ今は時間が足りな過ぎる。
次の策を講じる相手はライオネル、そして球っころだ。
「ライオネル、お前は先にこの遺跡を脱出しろ。球っころ、この遺跡の構図を把握してるか?」
『貴方達が入口から遺跡中枢に到達するまでの順路、及び遺跡からダウンロードした情報によって最短経路の検索が可能です』
『あら、抜け目無いわね』
「すぐに遺跡から脱出してこの状況を皆に伝えろ、人間とエルフの区別無く多くの命が助かるように」
「つまり僕はろくに戦えないから逃げろ、そう仰る訳ですか?」
俺の命令を聞いたライオネルの顔がひどく歪んでる。
不満げな面はアリエルで見慣れてるけど、大人しいライオネルがこんな表情をするを見るのは記憶に無い。
昔からライオネルは出来が良くて真面目な長男だった、アンジェが施す嫡子教育にだって一回も文句を言わず熟していた。
そんな自慢の息子が明らかに不服と言わんばかりに俺を睨みつけてる。
普段から感情豊かなアリエルに睨まれるより迫力があって決心が鈍っていくのが自分でも分かった。
「父上は僕がアリエルより弱いから逃がそうとしてる訳ですか?それともバルトファルト伯爵家の嫡子だから逃がそうと」
「違うって、どうしてそうなるんだ?」
「傷付いた父と力に目覚めても実戦経験が足りない妹を見捨てた長兄、例え家族の皆がそう思わなくても周囲の者達はそのように考えます。人より秀でた才能が僕なら尚更です」
「悪く考え過ぎだ、勇ましく戦って死ねなんて誰も望んじゃいない」
「僕はッ!!父上のお役に立ちたいのですッ!!父上と母上に嫡子に相応しいと心の底から認めて欲しいのですッ!!」
その声に思わず威圧された、たぶんアリエルや無関係のエルフ達すら驚いてるだろう。
ライオネルがこんな風に怒鳴ったのは初めてだと思う。
こいつがまだ赤ん坊の頃に兄妹仲良く泣き喚き俺達を困らせたのとは全く違う感情の奔流。
たぶんライオネルなりに鬱屈した感情を抱いていたらしい。
遺跡に来てからか?
アリエルが魔法の力に目覚めてからか?
それとも子供の頃からずっとか?
分からない、だけど悩む時間はもう残されていない。
「お前には果たしてもらう仕事が残ってるから脱出させる、それは単なる役割分担でお前が嫡子だったり弱い事は関係ない」
「単なる伝令が?」
「伝令だけじゃない、最悪の事態に備える為に球っころを同行させる」
内ポケットに手を突っ込むと硬い感触のそれが指先に触れた。
取り出して傷や破損が無いか確認、あれだけの戦闘を熟し化け物に手痛い一撃を受けても損傷は見られない。
安心と同時に嫌な気分になる、まさかこれをライオネルに託す事になるなんて。
本来は戦うのは俺自身が背負わなきゃいけない義務だ、なのに息子と娘を巻き込んだ挙句に戦いに送り出す俺は人でなしだと改めて思う。
それでもやらなきゃいけない務めがある、戦時に自分の命を賭して戦い敗れたら責任を取って贖うのが貴族の務めだ。
こんな事態になるなら貴族になるんじゃなかったと常々思う。
だけど俺は決断しなきゃいけない、たとえ家族から恨まれたとしても。
「ライオネル、これをお前に託す」
ブォンッ!!
大きな音を立てながら炎の腕が空を切った。
あたしの予想だと今の一発が当たれば目の前の黒い獣、魔装獣は爆発でよろめいて大きな火傷が出来たはずなのに。
大火球を受けた直後の魔装獣は体毛が焦げ落ち皮膚が爛れ赤い肉がまる見えになってた。
明らかに重度の熱傷、普通の動物なら動くどころか呼吸するのも苦しくてその場に蹲るしか出来ない。
だけど魔装獣はあたしの予想を超えていた。
この遺跡で倒してきた怪物は魔弾はもちろん当たり所がよければ普通の銃弾で倒せた、あたしの魔法で焼き殺す事だって出来る。
なのにこいつの体はまるで時間が戻っていくように体中の火傷がどんどん小さくなってく。
別に時間が戻っている訳じゃない、床に垂れた血や落ちてる焼け焦げた肉片はそのまま、つまり物凄い速さで火傷が治ってるんだわ。
魔装獣はゆっくりとあたしの周囲を回り始めて様子を伺ってる。
最初にあたし達の前に現れた時みたいな獣の頭と人間みたいな体がくっ付いた獣頭人身じゃない、四足歩行の獣の姿に変わってた。
体格差は最初は大男と女の子から今は子猫と鼠ぐらいまで広がってる。
視界から魔装獣の頭が外れないように必死で体を動かす、そもそも魔装獣が大き過ぎて視界に全部収まってくれない。
たぶん、魔装獣は蹴りをしないと思う。
お父様やエルフ達を襲った時は噛み付きと両腕の攻撃はしてたけど足で攻撃はしてなかった。
四足歩行になった今なら蹴りは更に難しくなったはず、問題は魔装獣の動きが予測しにくくなった事ね。
お父様が戦いの場として選んだこの大部屋は人間には広過ぎる大きさだった。
だけど大きくなった四足歩行の魔装獣にとってはちょうど良いらしい。
あたしからの攻撃が届かない場所から嫌らしく牽制するのが本当にムカつく。
火球を避けられる広さがある大部屋の上手く使って躱されてしまうし、爆弾に誘爆させられないから広範囲の大火球は使えない。
かといって炎の拳は当たらない、魔装獣が爪と牙で攻撃してきた時に相打ち覚悟で殴ろうとしても踏み止まるか避けられる。
ジリジリと魔装獣に追い詰められている事実が確実にあたしの体力と精神力を奪っていくのが分かった。
あたしが何も出来ない間に魔装獣が距離を取り始めた。
これは攻撃を恐れての後退じゃない、素早く動く前準備として助走に必要な距離を稼いでるだけ。
つまり次の攻撃が来る、迷ってる時間は無い。
腰を落として右腕を隠すように構えた、魔装獣が仕掛けてくるなら賭けに出る。
魔装獣は四足歩行になったせいか、動きに敏捷さが増した上に身軽さも加わった。
素早く駆ける、というより跳ね回るに近い動きだ。
それがまた動きの予測を難しくしていた、少しでも目を離すと予想外の方向から攻撃される。
でも魔装獣の行動で確実に分かる事が一つだけあった。
あいつは常にあたしの左手側に回り込むように移動してから攻撃を仕掛けてくる。
今まで魔装獣はあたしの周囲をぐるぐると回りずっと行動を観察してた。
だから炎を出せるのは右腕だけと勘づいたらしい、そしてその予測は当たってる。
お母様に貰った御守りの作用か、今まで使い熟せなかった魔法の力が突然目覚めた反動なのか。
上手く炎を顕現できるのは右手だけ、左手で炎を起こそうとしても上手くいかない。
しかも大火球は溜め時間が必要な上に魔装獣を殺しきれなかった、使おうとすれば隙を突かれて確実に殺される。
炎の拳で接近戦を挑もうにも射程は短いし素早い動きの魔装獣に躱される、上手く当たっても相打ちになってあたしも重傷だ。
つまり魔装獣の予想を上回らなきゃ負ける、今まで見せてない技を叩き込む以外に勝機は無い。
握った右拳を緩めて腕全体を脱力させる。
炎を収束して攻撃力を高めるんじゃなくて可動域と射程を伸ばす感覚。
初めて顕現した炎の形を思い出す、あの時は無理だったけど今のあたしなら出来るはず。
攻撃するのは魔装獣が仕掛けてきた瞬間、予想外の方向と射程から思いっきり叩く。
魔装獣の体が小刻みに震えてる、あれは攻撃の前兆だ。
体中の感覚を研ぎ澄ませ体を攻撃に最適な構えへ移行する。
思い出すのは王立学園の授業で見た模範演武、達人が鞘に納まった剣を抜く勢いで相手を攻撃するあの姿勢。
目にも止まらない速さで抜かれた剣が光を反射し、人間と同じ硬さに作られた人型が音も無く両断された。
もちろんあたしに剣聖と同じ事は出来ない、真似するのは間合いの長さと動きの素早さ。
必要最低限まで無駄を削ぎ落して魔装獣の顔面に手刀を叩き込む、頭の中で考えるのはそれだけ。
ググッ…
魔装獣の体が沈む。
あれは攻撃に必要な最後の溜め、体が浮いた瞬間に攻撃が来る。
ダアァンッ!!
四つの足が床を蹴った音が耳に届く前にあたしは右腕を大きく振った。
いよいよアニメ2期の放送があと1ヵ月迫りました。(挨拶
ライオネルは双子の妹であるアリエルが魔法の力に覚醒した事で焦りを感じています。
スペックが高い両親への劣等感に加えて妹に追い抜かされる危機感が反発を招きました。
そんなライオネルをフォローするのが球っころこと今作のルクシオン。
活躍の機会まで少々お待ちください。
追記:依頼主様のリクエストによりオスワーニ様、Kuu.様、たま様にイラストを描いていただきました。
本当にありがとうございます。
Kuu.様 https://www.pixiv.net/artworks/145514233
オスワーニ様 https://www.pixiv.net/artworks/145492172(成人向け注意
たま様 https://www.pixiv.net/artworks/145728913
ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。