婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第176章 Father's Role

「もう我慢できねぇ!俺の可愛いアリエルを痛めつけるあの化け物をぶっ殺してやるッ!」

『落ち着きなさい、あの子が魔装獣に確実なダメージを与えるまで待機する作戦でしょう?」

「俺は娘が殺されるのをぼんやり眺めてる父親じゃねぇ!」

『結果的にそうなっても仕方ないわね、魔装獣は私達の予想を超えて進化成長を続けているから』

「他人事みたいに言いやがって…、大体なんだよこの映像はッ!?途切れ途切れで満足に映せねぇのか!?」

『仕方ないでしょう、老朽化が進んでるのよ。あの部屋だって扉の開閉と室内の撮影が出来るだけで奇跡的よ』

 

 声を荒げる俺とは対照的に遺跡は落ち着いた口調でアリエルと部屋の状況を知らせる。

 遺跡は自分の体と言える部屋や通路がぶっ壊れても痛くも痒くもないようだ、むしろ愛着を持ってるかすらも怪しかった。

 俺達が遺跡のあちこちを壊したり、装置で造り出した化け物を倒されても怒らないし悲しまない。

 ただただ俺達と怪物の戦闘記録を収集し黙々と分析を続ける機械は本能のまま荒れ狂う怪物とは別の恐怖がある。

 会話が成立してるようで思考がまるで異なる連中と会話した時に感じる違和感がこの遺跡と関わってからずっと

付き纏い続けてた。

 これなら球っころの方がまだ感情的で人間味を持ってるから上手く交渉が出来る。

 だけど遺跡(こいつ)は無理だ。

 俺達を利用する気満々だし自分の技術がどれだけ魅力的かを把握してる上に判断に迷いが無い。

 既に俺の心の中じゃ遺跡は最優先で破壊するするしかないと覚悟決まっていた。

 

『それより貴方の娘の攻撃で爆弾が誘爆しない?』

「流石にそこまでアリエルはバカじゃねぇよ、設置場所に関しても十分吟味して設置したからな」

 

 尤も俺は指示を出すだけで実際の作業はエルフ達だったけど。

 ぶつくさ文句を言ってても自分達が改造した怪物に喰われるのは流石に嫌だったらしい。

 手頃な部屋への案内と爆弾の設置に関してはかなり協力的になってくれた。

 これを機に人間に対する差別意識を解消してくれたら本当にやりやすいんだけど、世の中はそう上手くはいってくれないようだ。

 あくまで非常限定の協力関係って事でエルフ達は別室に隠れてる、俺が身を潜めてるのはアリエルが戦ってる大部屋に一番近い小部屋だ。

 辛うじて設備が使用可能なこの部屋でアリエルの戦いを見守りながら化け物を部屋に閉じ込めて爆破する、その役割を俺が担っていた。

 

 だけど魔装獣の成長速度は俺の予想を遥かに上回っていた、何しろ身長も幅も厚みも遺跡の中枢で戦った時の二倍以上ある。

 単純な計算で二倍の二倍の二倍と考えれば八倍の体積、どう考えても人間が対抗できる相手じゃない。

 エルフ達が鎧にさえも勝てると思ったのも納得だ、このまま魔装獣が成長を続ければ何処までデカくなるか考えるだけでも恐ろしい。

 やっぱり俺が相手をするべきだったか?

 普段の俺なら子供達を囮にする作戦なんて考えない、初手で負傷したせいでここまで追い詰められるとは思わなかった。

 

ドグァアァァンッ…

 

 突然の爆音と揺れで堂々巡りだった思考が急速に覚醒した。

 慌てて部屋の情報端末に視線を送ったが真っ暗な画面に反射するのはぼんやりとこっちを見つめている俺の顔だけ。

 明らかに何かあった、あれだけの音と揺れが起きるのはただ事じゃない。

 

「おい!何で映んねぇんだよ!?」

『衝撃で回線が断裂したのかもしれないわね、此方からのアクセスに応答しなくなってるわ』

「アリエルは無事なのかッ!?」

『寧ろこの事態を引き起こしたのが御宅のお嬢さんよ。凄いわね、魔装獣に魔法を直接叩き込むなんて』

「高威力の魔法を至近距離で!?」

 

 幾ら何でも後先を考え無さ過ぎるだろ。

 アリエルが使う火の魔法が炎の拳や火球を形成するのを見てきたがあれだけの音と衝撃を起こした所は見ていなかった。

 怪物達はそれで始末できたが魔装獣はそう上手くいく相手じゃなかったって事だろう。

 下手すりゃ魔法の反動でアリエルの方が傷付いてるかもしれない、そう考えると居ても立っても居られなかった。

 慌てて部屋の内部に視線を巡らせる。

 此処に隠れた時に必要な物は予め分かり易い場所に置いた筈なのに焦りで思考が纏まらなかった。

 やっとの思いで近くに置いてあった背嚢とアリエルが使用していたライフルを手にする。

 俺が愛用していたライフルは魔装獣の攻撃で破壊されたからアリエルに持たせてたライフルしか手元に無い。

 口径が大きな拳銃はもしもの時に備えてアリエルに渡してある、つまり使える武器はこれだけだ。

 それでも使えるなら構わない。

 最優先すべき事は今すぐアリエルの安否を確認、そして魔装獣の動きを止めるの二つ。

 

「ぐぁ…」

 

 背負った背嚢と手に持ったライフルの重量に痛みがぶり返す。

 痛み止めの錠剤と傷薬を塗ってもあくまで応急処置、傷が治った訳でも痛みが消えた訳でもない。

 口の奥から込み上げてきた鉄臭い血を強引に呑み込んで準備を整える。

 むしろ痛い方が余計な思考を削ぎ落とすには都合が良いかもしれないな。

 

『呆れたわ、まさか傷付いた体を抱えたままで助けに行くなんて』

「お前みたいな薄情な機械には何千年経っても分からないだろうよ」

『でもそっちの方が都合が良いかもしれないわね』

「何でだよ?」

『お嬢さんが暴れたお陰でこの場所から扉の操作が無理になってるわ』

「つまり化け物を閉じ込めるには直接あそこまで行かなきゃいけない訳か」

『ご明察』

 

 軽口を叩く遺跡を言葉を聞いてから部屋を出た。

 扉の開け閉め程度は球っころや遺跡の会話で把握している、傷付いたこの体でも十分に可能だ。

 隠れていた部屋から大部屋までたった数十歩、その数十歩がやたらと遠い。

 傷が発してる痛みと熱が何度も意識を途切れさせ、心地好い気絶に導こうとするのを気力だけで跳ね除ける。

 ここで自分の娘を助けられなきゃ、たとえ俺は死んでも自分を許せない。

 ついに呑み込めなくなった血を口元から垂らして一歩、また一歩と前に進む。

 熱に浮かされ朦朧とする意識の中でも体に染みついた動きは意識に関係なく速やかにライフルの弾込めを行なった。

 

 血反吐を撒き散らしながらもやっと辿り着いた大部屋の入口に立つ。

 このたった数十歩を距離を必死に歩いたのが王国軍で兵卒をやってた頃から一番辛かった進軍かもしれない。

 まだ何もしてないのに達成感だけで意識が朦朧とするのを必死に堪えて薄暗い部屋の内部に目を凝らす。

 視界が暗闇に慣れてきた頃に見えたのは床に這い蹲ってこっちへ向かって来る何か。

 もぞもぞと芋虫みたいに蠢き揺れるそれが見慣れた金髪の女の子と認識した瞬間、俺の意識が澄み渡っていくのを感じた。

 

 心を落ち着かせる必要さえ無い、精神と肉体が対象を確認し必要な機能だけに特化する。

 血に染まった気道に流し込まれた空気が肺に送り込まれ、全身に酸素を巡らせ動きに必要な熱量を燃やす。

 弾丸は既に装填済み、目標は必死に床を這ってこっちに向かってる俺の可愛い娘を襲おうとしてる糞ったれな化け物。

 体のあちこちにある傷口から血が噴出して包帯を濡らすが気にしない、逆に頭へ昇った血が減って冷静さが増すぐらいだ。

 今までの人生で最大級の殺意を込めて銃爪を引き絞る。

 

ダアァァンッ!!

 

 火薬による放出と弾頭に刻まれた魔法が交わって独特な光を放つ軌跡を空中に描きながら肉塊に吸い込まれていく。

 一瞬の膨張、その直後に訪れる破裂音。

 醜い肉の塊は赤黒い血と肉片を撒き散らしながら身悶えする。

 同時に俺の口からも胃液と血が混じった液体が込み上げてその場で噎せた。

 口から零れた液体は所々が赤く染まり酸っぱくて鉄臭い、何処から見ても体の内部の傷が開いたのは明らかだ。

 普段の俺なら全く動じないライフルを発射した時に起きる反動がこんなにキツいとは。

 撃った時に体のあちこちから起きた激痛で軽く意識が遠のいたぞ。

 それでも歯を食いしばって意識を保つ、アリエルの無事と魔装獣の状態を確認するまでは絶対に倒れるなよ俺。

 

 扉の近くからじゃ良く見えないが魔装獣はおそらく頭部を大きく損傷しているか、下手すりゃ跡形も無く弾け飛んでるようだ。

 魔弾が命中する前に魔装獣をここまで徹底的に傷付けたアリエルの力に驚くと同時に、これだけの傷を負わせてもまだ息がある魔装獣の生命力に唖然とする。

 いや待て、驚くな。

 敵に意識を割くのは危険予測に重要だが今の状況で優先すべきはアリエルの安否確認だ。

 

「アリエルっ!!」

 

 腹の底から思いっきり声を出す。

 それだけで吞み込んでた血液が逆流なのを必死で堪えた。

 既に半死人な体なのに体は慣れた手付きでライフルの排莢と次弾の装填を始めてるのが実に気持ち悪い。

 どうしてこう、俺は家族と穏やかな暮らしを愛する良き夫で良き父で居たいのに戦闘の才能だけは人一倍に達者なのか。

 

「っ、お父様ぁ!!」

 

 泣き声にも悲鳴にも似たアリエルの声が俺の耳にも届く。

 良かった、まだ返事が出来るぐらいの元気は残ってるらしい。

 だけど明らかに負傷して満身創痍だ、特に右腕がどう見ても曲がっちゃいけない方向へ曲がってた。

 骨折か、或いは脱臼。

 いずれにせよ早く助けて処置をしないとアリエルは利き腕を一生動かせなくなる。

 

「無事かァ!?」

「生きてるぅ!!」

 

 この声の調子ならまだ俺もアリエルも動けそうだ。

 それなら俺のやるべき事はたった一つ、アリエルが扉の外に脱出するまでの時間を俺が稼ぐ。

 

バアァァンッ!!

 

 ライフルに魔弾が装填された直後に銃爪を引く。

 魔弾の残弾数は少ないが体が悲鳴を出してるけど惜しんでいたらアリエルが死にかねない。

 既に体の一部が弾け飛んだ魔装獣の体が激しく蠕動を始めている、同時に体のあっちこっちで腫れたような肉の瘤が現れ始めていた。

 どう見てもヤバい、絶対にろくでもない事が起きるのは学識が皆無な俺にだって分かる。

 たった一つだけ幸運なのは明らかに魔装獣の動きが止まっている、その一点だけだ。

 おそらく体の修復に力を集中しているんだろう、近くで体を引き摺るアリエルや攻撃を続ける俺に対して攻撃の意思らしき物は見受けらない。

 それなら俺に残されてる手段は魔装獣に攻撃を続け動きを止めこの大部屋に閉じ込める、何て分かり易い作戦目的だろうな。

 

「立てるかアリエル!?」

「な、なんとかッ!」

「俺が食い止めてる間に部屋から出ろ!そうすりゃ俺達の勝ちだぁ!」

「分かったァ!」

 

 命令は簡潔に、そして手早く。

 俺の言葉を理解したアリエルは必死に手足を動かして何とか立ち上がった。

 ふと、まだ立つ事も覚束なかった頃のアリエルを思い出す。

 双子の兄なライオネルより活発なアリエルは寝返りも這い這いも立つのも早かったが失敗の回数も多かった。

 寝返りに失敗しては無き、壁に進路を塞がれては泣き、体勢を崩し転んでは泣くの繰り返し。

 俺もアンジェも初めての子育てでどうしたら分からず狼狽えていたっけ。

 上位貴族は子育てを乳母や教育係に任せる風習があるらしいが幼い自分の子供はそんな習慣なんて吹っ飛ばすぐらい可愛くて堪らない。

 だから悪戦苦闘したけど思い出は楽しく美しいままだ。

 

 どうしてそんな事を思い出してるかだって?

 楽しい事を考えなきゃ痛みと熱と恐怖で気を失いそうだからだよ!

 

ガァアァン!!

 バァァアン!!

  ダアァァンッ!!

 

 残段数や属性さえも確認しない、今の俺が放てる最大級の火力をひたすらに魔装獣へ撃ち込み続ける。

 膨張した肉塊に為り始めた魔装獣はこっちがわざわざ照準を定める手間が無くて楽だ。

 ただ出来るのは足止めだけ、今の装備じゃ絶対に殺せない予感が胸を過る。

 それでも何もしないより遥かにマシだ、だいたい魔弾程度じゃ殺せないのは織り込み済みだろ。

 

 ポケットへ手を突っ込んで次の魔弾を取り出そうとするが指先には何も触れない。

 ついに魔弾が尽きたか、これで俺達には魔装獣への対抗手段が無くなった訳だ。

 それでも諦める気持ちは訪れなかった、あくまで魔弾は攻撃方法の一つに過ぎない。

 俺の考えた作戦は密閉された部屋に魔装獣を閉じ込め爆弾で殺すのが最終目的だ。

 

「アリエル!!」

 

 弾が尽きて使えなくなったライフルを投げ捨て床を這うように進むアリエルに手を差し伸べる。

 ほんの数時間前に遺跡の中枢で起きた時とは正反対の状況な事に気が付いて思わず苦笑いが漏れた。

 あの時は息子と娘が俺を必死に助けようとしてくれたっけ。

 なら今度は俺が娘を助ける番だ。

 必死に伸ばされたアリエルの手を力を掴み思いっきり引っ張る。

 体のあちこちで筋が裂けるような音がするのを無視して後ろへ倒れ込むようにしてどうにかアリエルの体を扉の外へ引き出した。

 

ゴポッ

 

 口から熱い血の塊が込み上げて気道を塞ぎかける。

 ヤバい、本当に死ぬかも。 

 だけど役割だけは果たさないと。

 俺の使命は可愛い嫁と子供達を護る事、そして家族を傷付け世界に災いを齎す存在を食い止める事だ。

 

「……ッ、は゛や゛く扉を閉めろォ゛」

『了解したわ』

 

 忌々しい遺跡の声が聞こえた直後、音を立てながら金属製の扉がゆっくりと横方向に移動を始める。

 さっさと閉まれよ、今にも死にそうなんだぞ俺は。

 徐々に遠のく意識に抗いながら懐をまさぐる、目的の物はちゃんと仕舞った場所にあってくれた。

 勝負は扉が完全に閉まった直後、もし少しでも早ければ爆発はこっちにまで到達しちまう。

 どうにか取り出した手に収まる位に小さなそれは爆弾の起爆装置、安全装置を外してボタンを押せば遠隔操作で爆弾を起爆できる。

 だけど俺に出来たのはそこまでだった。

 意識が遠のいていくのと同時に体が力が抜けていく、目と耳の感覚も覚束なくてこれじゃ魔装獣の姿も扉が閉まるのかさえ確認できない。

 

「お父様!」

 

 俺の意識を繋ぎとめようとしたのか、それとも持ってる起爆装置を奪おうとしたのか。

 力強い何かが手を包み俺の意識を保たせる。

 どうにか開いた目に入って来たのは心配そうに俺を見つめ手を握っているアリエルだった。

 何か、何か言わねぇと。

 これだけの傷を負ったのは十代のガキだった頃の戦場以来だ。

 何度も何度も死にかけて生きる意味さえ見失ってた頃に比べたら今の俺はまるで別人に見えるだろうな。

 あれだけ幸せな人生を送って死んでも悔いは無いと思ってたのに、いざ死にかけると生き汚い自分がおかしい。

 もし死んじまうなら遺言だけでも伝えねぇと、そんな事ばっか頭で考えてるのに体と口はまるで別な行動を採っていた。

 

「…ぉせ」

 

 震える手がアリエルに起爆装置を握らせる、口から漏れた言葉は魔装獣を殺す為の手段だ。

 バカだなぁ俺、つくづくバカだよ。

 

「…分かったわ」

 

 ふと、何かが顔を伝った。

 もう首を動かすのも億劫で視線をそっちに向けると涙を流すアリエルが俺の顔を覗き込んでた。

 だからそういうの止めろって、まるで俺が死ぬみたいじゃねぇか。

 意を決したアリエルは扉に向き直る、ちょうどもうすぐ扉が閉まる頃合いだった。

 起爆装置を握る手を突き出すようにアリエルは構えた、既に部屋の中に居る魔装獣がどうなってるか俺には見えない。

 ちょうど扉が完全に閉まったその直後、アリエルは思いっきり起爆装置のスイッチを押した。

 それから数秒ぐらいだろうか?

 流れる時間がやたらゆっくりに感じる。

 俺が死にかけてる影響か、或いは爆弾の起動に失敗して何秒も経過したのか。

 ぼんやりと目の前の光景を眺めていると凄まじい振動が体を襲う。

 あぁ、成功したのか。

 既に意識が遠のいてる俺には扉越しの爆発音も聞こえない。

 ただ仕事をやり遂げた充足感を抱いたまま俺は意識を失った。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 ベッドに寝転びながらぼんやりと部屋の天井を眺める。

 慣れ親しんだ場所でも体が縮んだからで状態はまるで別室のように感じて落ち着かない。

 せめて心から信頼を寄せる誰かが此処に居れてくれたなら、そんな血迷った妄念に囚われてしまう己が嫌になってしまう。

 

 エルフの現村長との交渉により私達一家を拘束しようとする者達は退けられた。

 封鎖された空港に停泊を続けていたバルトファルト伯爵家が所有する飛行船への退避が認められ私達は身の安全を図る為に其方へ移った。

 正直に言えばそのままエルフの集落に居た方が効率的ではあっただろう、だが状況を鑑みればそうも言っていられない。

 現村長が私達の安全を約束した所で全てのエルフが同意するとは限らない。

 彼の部下が人間の排斥を企てる過激派エルフと裏で繋がっていないと断言は出来ないし、私達の保護が罠ではないとも言い切れなかった。

 そもそも私達一家が泊まっていた宿を襲ったエルフ達は現村長の部下達である、これで信用しろと言われても無理な話だ。

 懇願するように私達一家へ好意的な態度で接してきたのは王都から訪れるであろう査察官の追及を避けるのが目的か、或いはダンジョンの地下にある遺跡へ向かったリオンへの牽制なのか。

 

「……またリオンの事ばかり考えてるな」

 

 既にリオン達が出発してから数時間が経過しているが未だに帰還の連絡は届いていない。

 私の体を元通りにする為に長男のライオネルと長女のアリエルを伴いロストアイテムの塊である遺跡の中枢を目指す。

 其処へ至る道は決して平坦な物ではあるまい、ダンジョンで私達を襲ったモンスターが襲ってくる可能性は極めて高かった。

 あの旧人類が造り出した飛行船の端末は底知れる力を秘めているが、あくまで我々と一時的な協力関係に過ぎない。

 もしも遺跡とロストアイテムが意気投合すれば真っ先に狙われるのはリオン達だ。

 

 それに加えてエルフの集落を訪れた傭兵達から私やユメリアを護る為に次男のリーアが戦って負傷してしまった。

 取り敢えずは薬草学に長けたエルフの薬師の診療を受けさせ負傷した部位の治療を施してもらい容体は安定している。

 幸いな事に骨折や内臓の損傷といった大怪我こそしていなかったが、だからと言って安心できる訳でもない。

 リーア本人としては父親であるリオンに私や妹弟達の守りを任され張りきった結果で悔いは無さそうだが、母としては只管に我が子の身を案じてしまう。

 この辺りは十月も子を宿して過ごしてきた所以だろうか、それとも父親と母親の役割の違いか。

 

 そしてどうにも、着ている服の丈が合わないのが気になってしまう。

 まさか若返った時に備えて子供の頃の服を常備している訳も無く、かと言って三十代の私の服は今の私にとってあまりに大き過ぎた。

 まったく憎たらしい脂肪共め!

 どうして貴様らは私の胸と腰と尻にばかり纏わり付くのだ?

 これでは下着さえも満足に履けないではないか。

 仕方なく次女のロクサーヌと三女のメラニーの衣服を貸してもらってはいるが、我が子の衣服を借りるのはどうにも親として情けない。

 

 いかんな、どうも思考が乱れて考えが纏まらないのは何故だろう?

 肉体が若返ると精神まで引き摺られて幼くなってしまうのか、もしこの状態が遺跡に施された施術の影響だとすれば無条件に肯定できる物とは言い難い。

 リオンが遺跡の掌握に成功し、私を元通りにした後の対応を誤ればホルファート王国のみならず多くの国が技術を求めて際限の無い闘争の起点と為りえる。

 いっそ遺跡を跡形も無いほど徹底的に破壊する方が後々の面倒な騒動を考えれば最適解か?

 そんな物騒な思案すら行ってしまうのは私の情緒が不安定な証拠か。

 

 やはり体を元通りにするよりもリオン達と共に飛行船でこの浮島から撤退すれば良かった。

 この若返った体を言い訳にして人目を憚らず夫婦水入らずの時間を過ごした方が精神的な充足を得られた可能性は高い。

 子供の状態だからこそ背徳的な気分を味わえるというか、いつもと全く違う状況に心が躍ったというか。

 リオンが遺跡に向かう前、鍛えられたリオンに抱き締められた時はいつも以上に逞しく感じ胸が熱くなってしまった。

 抱き締められると蕩けるような安心感が凄まじく、時間が止まればとさえ思った程だ。

 リオンが戻って来たらもう一度だけ抱き締めてもらおう、そう心の中で固く誓う。

 

カンッ カンッ

 

 金属製の扉が数回叩かれので慌てて身形を整える。

 この飛行船に搭乗しているのはリオンの部下である領兵と私の子供達のみ、叩き方から考えれば領兵だろう。

 

「奥方様、よろしいでしょうか?」

「……あぁ。リーアの怪我が思ったより重かったのか?」

「いえ、坊ちゃまに異常は見られません。捻挫や打撲は見受けられますが大事には至らないかと」

「それではリオン達に何らかの危険が迫っていると?」

「分かりません、ただこの飛行船に向けて信号が発信されています」

「何だと、他の飛行船ではないのか」

「飛行船とは全く違います、しかしこの状況に於いては無視するのも危険かと思いご報告を」

「分かった、回線を開き通話可能なら私が交渉する」

「助かります」

 

 何か嫌な予感がする、そう感じた私は慣れない体を必死に動かして扉へ向かった。




アニメ2期放映中なのに投稿が遅れる…。(溜息
成人向け回を投稿していた影響もありますがこれはひどい。
リオン&アリエルと魔装獣の戦いがこれで一旦は決着です。
モンスター等の描写は原作&潮里潤先生のコミカライズとアニメ2期で齟齬が出ていますが、今作は前者寄りになってます。
今作リオンはルクシオンと協力はしていますが信頼関係ではないので常に綱渡りの戦い方で負傷が多いのです。
次章はライオネル&ルクシオン視点、何故リオンが魔装獣との戦いでルクシオンを使わなかったのか説明される予定です。

追記:依頼主様から多くのリクエストによりオスワーニ様、9430様、枯木逢椿様、りくぐま様、にイラストを描いていただきました。
本当にありがとうございます。


オスワーニ様 https://www.pixiv.net/artworks/147499736(成人向け注意
9430様 https://www.pixiv.net/artworks/146959879
枯木逢椿様 https://www.pixiv.net/artworks/146695441
りくぐま様 https://www.pixiv.net/artworks/147594185

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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