婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです 作:品☆美
「アロガンツ?何ですかそれは」
母上は僕の疑問に答える事無くロストアイテムを睨み付ける。
怒りではない、だけど苛立ちと形容するには激しい感情が小さい母上の体から放たれ室内に充満してゆく。
子供の姿となった現状でも見る者を怯ませるだけの迫力を母上は備えている。
だがロストアイテムは母上から放たれた激情を受けても平然と宙に浮んだままだ。
女傑と怪異の睨み合い、そんな形容をされそうな状況下に居る僕だけが部外者のように感じてしまう。
「あれをリオンが持ち出したのはあくまで万が一の場合に備えてだ。そこまでする状況とはとても思えない」
『その万が一の場合が現状です。既に単なる一種族の叛乱計画から国家間戦争の火種になりえる古代技術の復活が起きてしまった。この事態に対処する為には武力行使が望ましいと判断します』
「だからと言ってあれを使う必要などありえん。飛行船の砲撃で事足りる」
『この飛行船はあくまで移動用であり戦闘用ではありません。搭載した砲門や弾薬にも限りがあるのでは?』
母上とロストアイテムは自分の主張を一歩も譲らず相手の主張を説き伏せる闘論、いや舌戦だった。
バルトファルト伯爵家が所有する飛行船で対処可能だと母上が主張するとロストアイテムが否定する為の判断材料を提示する。
何度も繰り返される会話の中で母上が「アロガンツ」という存在を用いる事を躊躇しているのが感じられた。
だが歯切れの悪い主張を繰り返す母上に対し、ロストアイテムは僕達と共に遺跡内で起きた騒動と魔装獣を正確に把握してる差が徐々に現れ始めている。
僕が飛行船に合流し母上と再開してから既に数百秒の時間が経過した、この間にも父上とアリエルは遺跡の中で息絶えようとしてるかもしれない。
その焦り感じながらも闘論に参加すべきなのか、傍観すべきか決断が鈍ってしまう。
「地上に露出した穴に対して正確な砲撃を繰り返せば済む事だ」
『それであの穢らわしく悍ましい怪物が討てるとしましょう、しかし遺跡内部への影響が皆無だと言い切れますか?』
「……っ」
『遺跡の中枢にある生体改造施設だけではありません、リオン・フォウ・バルトファルトとその娘が現在も遺跡内部に残されたままです』
「貴様…」
『アンジェリカ・フォウ・バルトファルト、貴女を救う為に遺跡へ向かった夫と娘を生き埋めにする覚悟があるならそうしても構いません。しかし私の計算ではこの飛行船の砲撃で旧人類と新人類の技術を無秩序に融合させた忌わしい怪物を討つには不十分であると算出されました』
「……」
重苦しい沈黙が室内を覆う、母上が逡巡している事は視線を送らなくても分かる。
考えた案を尽くロストアイテムに否定された。
更に下手な行動をすれば父上とアリエルが巻き添えになるとまで言い含められたら反論の余地など無くなってしまう。
確かに僕自身もそこまで深く考えては居なかった。
所持していた魔法弾を全て用いれば魔装獣を倒せるかもしれないというロストアイテムの言葉に踊らされ、周辺への被害を全く考慮していなかったと改めて気付かされた。
飛行船からの砲撃なら魔装獣を討伐できる、そんな作戦案は希望的観測が含まれた甘い考えと思いきり頭を殴られたような気分だ。
それでも未だに解決方法があるように感じてるはロストアイテムが何らかの策が在ると主張するからに他ならない。
エルフの里を訪れてからいろんな騒動に巻き込まれ、初めてこのロストアイテムの存在を知り行動を共にした。
確かにロストアイテムは信頼するには危険過ぎる相手なのは間違いない。
だけど冷徹なまでに正確な観測と古代技術の知識は信用するに値すると僕は感じる。
ここまで追い詰められた状況でロストアイテムが打開策を持っているのなら、それに託すのも悪くないと僕は考え始めている。
「母上」
「何だライオネル」
「僕達にはこの状況を打開する事は無理だと思います。ならばロストアイテムの提案に敢えて実行してみるも良いかもしれません」
「お前…」
母上がとても驚いた表情を浮かべている。
そう言えば今日に至るまで僕は父上と母上の意に背いた事も自分から提案をした事もほぼ無かった。
普通の子供なら当たり前の行動をしてこなかったなと改めて気付いて驚く。
両親は僕に対し苛烈な嫡子教育を行っていた訳じゃない。
ただ優れた才能の持つ両親に従う方が最良の選択だと物心ついた時から無意識に思い込んでいただけだ。
父上が生死不明で母上は体が若返った今の状況で正しい判断を下そうと必死に行動した結果がロストアイテムに味方する方向になってしまった。
初めて母上の方針に異を唱えた事に早くも公開が押し寄せる。
だけど母上は怒らなかった。
軽蔑した訳でも呆れた訳でもない、ただ暫く動きを止めてまじまじと僕の顔を見つめている。
過ちを咎める時のように鋭い視線を注がれはしない、まるで初対面の相手を観察するような仕草だ。
どれ位の時間が経っただろう、母上は体格に合わない椅子によじ登り腰を下ろす。
僕よりも若い年齢の肉体奈はずだけど、何故かひどく焦燥してるように見えた気のせいだろうか?
「だが、あれを動かす為に必要な始動キーが此処には無い。所持しているのはリオンだけだ」
『御安心を、既に始動キーはこの場に存在しています』
「なんだとッ!?」
『偽りではありません、リオン・フォウ・バルトファルトからライオネル・フォウ・バルトファルトに始動キーの譲渡が確認されています』
ふと父上達と別れる前に託させた小袋の存在を思い出す。
あの時は中身が何か尋ねる時間も惜しかったし、その後も遺跡から脱出に夢中で確認する事さえ頭の中から抜け落ちていた。
確か懐へ仕舞ったはずだと慌てて体のあちこちを弄った、まさか途中で落としていたらあまりに無様な醜態過ぎて死にたくなる。
結論を言えば父上から託された小袋はちゃんと懐に存在してくれた。
小袋の紐を解いて現れたのは掌に収まる大きさの複雑な文様を刻まれた金属の棒。
これが母上が仰る始動キーなのか、恐る恐る母上に掌を差し出すと少し気落ちした表情で溜息を吐かれた。
「……操縦できる者が居ない、リオンでさえ乗り熟せなかったのはお前も知っている筈だ」
『私が同乗すればある程度のフォローは可能かと。そもそもアロガンツは私と貴女達の共同開発物です』
「お前の口車に乗ったあの頃の私とリオンを殴りたい気分だ」
『出来もしない事に想いを馳せるよりも現実で対応可能な手段を模索するべきでは?』
「だが言った筈だぞ、操縦者が居ないと。仮にこの飛行船に同乗した領兵達の誰かを乗せた所でリオン以上に操縦技能が長ける者は存在しない。貴様の存在を知られるのも避けたい」
『えぇ、なので私が操縦者に相応しい者を選定します』
今まで母上と話し合っていたロストアイテムはそう呟くと同時に僕へ向き直る。
赤い瞳の部分から殺意とは違う居竦そうな視線を注がれている気がしてならない。
ロストアイテムは生物じゃなくて機械にはずだけど、人間や亜人のような感情や意思を明確に持ってるんじゃないか?
止めてよ、そんな風に睨むのは。
僕は他人から何かを頼まれるとなかなか断れない性格なのに。
『ライオネル・フォウ・バルトファルトをアロガンツの操縦者に推挙します』
「っ!?」
「認める訳が無いだろうッ!!」
僕の驚愕を掻き消すように母上の声が室内に響き渡る。
今までの話から推察すればその『アロガンツ』という存在は人間が操縦する、そして父上でも乗り熟せなかった存在だと分かった。
そんな危ない物を僕が操縦する?
絶対に無理だ、喉元まで出掛かった言葉を口を閉じて遮った。
父上とアリエルは僕を逃がして魔装獣を仕留める為に戦って今も遺跡の中に居る。
いや、もしかすると既に魔装獣によって殺されたかもしれない。
このまま魔装獣が活動を再開すれば真っ先に襲われるのはこの浮島に住んでいるエルフ達と訪れた観光客。
今から全員に呼び掛けて逃げるよう説いても納得してもらえる可能性は低いし、そもそも逃がす為に必要な飛行船は絶対的に数が足りないだろう。
或いは空港に停泊してる飛行船全てを動員し、魔装獣に向けて砲撃をすれば倒せるかもしれない。
だけどそうなれば遺跡の父上とアリエル、そして母上を元に戻す為の装置に影響が出る。
こんな絶望的状況を解決するたった一つの方法が存在するなら試してみるべきだ。
少なくとも飛行船の一室で時間を浪費するより生産的だろう。
どんなに怖くても父上とアリエルは僕を逃がして魔装獣を食い止める為に戦っている。
胸を覆い尽くす恐怖よりも二人の意思を無駄な物にしてしまう自分自身の方が嫌だ。
「やってみます」
口から出た言葉が自分の耳に届いた瞬間、不思議と恐怖を超える熱い何かが僕の心に宿っていた。
金属製の床を叩くような足音が前方から響いてくる。
明らかに不機嫌さを隠そうとしない足音は僕の前方を歩く母上の物だ。
それも仕方ないだろう、母上に対して生まれてから初めて明確に反抗してしまった。
説得らしい説得もせずに時間が無いと強引に押し切った、しかも母上の意見は一切受け付けないとばかりに。
きっと母上が元の姿なら無理だったはず、今の母上がどれだけ拒絶しても腕力では僕に抵抗できないから上手くいっただけだ。
僕自身もロストアイテムより母上を信頼している、ただ現状では母上から僕へ注がれている愛情が行動を縛る鎖となって事態を悪化させかねない。
後でちゃんと謝らないといけないと思いつつ歩みを進める。
苛立ちを露わにした母上の歩き方ではあるが体が縮んでる影響で歩幅が短く音も軽いのが奇妙な光景だった。
流石にそれを指摘すれば更に怒りを増すのは分かっていたから敢えて口にはしないけど。
辿り着いた先は船底に近い格納庫だった。
バルトファルト伯爵家が所有してる複数の飛行船の中でエルフの里へ訪れる為に選んだのは比較的大型の物だ。
華美な装飾を施した高価な飛行船も所有しているがそれはあくまでも安全空域の飛行専用であり、空賊や飛行するモンスターの襲撃に対処できるよう砲門や鎧の格納庫を備えていた。
尤も完全な軍用船ではないので鎧の搭載可能数は一機か二機程度、装備する武器も嵩張るから軽装備が基本となる。
そんな格納庫の扉に辿り着き、前を進む母上に変わって扉を開ける。
縮んだ母上の体躯では扉を開けるのも一苦労だし、その事で機嫌が更に悪くなられても億劫だ。
空調が作動してないのか、格納庫内の空気はひどく暑くて油臭い。
おまけに照明も点いていないからちょっと何かに気を取られると何かに転びそうで怖かった。
照明のスイッチを手探りで探す僕の醜態をロストアイテムは呆れたらしく、壁に設置されている配電盤を赤い瞳から放たれる光で指し示してくれる。
どれが何処の照明を点けるスイッチか分からないので手当たり次第に押していくと徐々に格納庫全体が明るく照らされてゆく。
配電盤のスイッチを一つ残らず動かして振り返ると僕達が居る格納庫が思った以上に広い事に気が付いた。
一見しただけじゃ格納庫の奥まで見渡せない、船尾の辺りは未だに照明が点かず薄暗いままだ。
いや、おかしい。
僕は配電盤に在るスイッチを全て点けてる、現に天井の照明は全て点灯済みだ。
なのに格納の一部だけが黒い、まるで闇に染まっているように。
照明の明るさにやっと目が慣れた頃、僕はその存在を正しく認識した。
黒い。
頭部も、胴体も、腕部も、脚部も、翼も。
使われた金属の原色か、それとも塗装された結果なのかは分からない。
夜が齎らす闇とも太陽が生み出した影とは明らかに違う、金属の滑らかさと光沢を含んだ色合いだ。
戦闘で敵から視認されないように黒く塗ったのなら逆効果になるだろう。
その理由は目の前に佇む鎧が明らかに通常の鎧と比べて一回り大きいからだ。
仮に夜間戦闘や隠密行動を主な運用目的としていたとしても、これでは悪目立ちしてしまう。
一体何の目的でこんな鎧が存在してるのか、僕の頭では全く予想が付かなかった。
「これが…、「アロガンツ」ですか?」
『私が所持している旧人類の技術を新人類が開発した鎧で再現しようした試作機、その思い上がりを皮肉って「アロガンツ」という呼称を与えました』
「リオンの話では別世界の自分が搭乗していた鎧の名前が「アロガンツ」だと聞いていたが?」
『由来はどちらでも構いません。重要なのはこの兵器を用いれば確実にあの冒涜的で背徳的な怪物の存在を世界から抹消できるという事実です』
「理論上は、だろう。開発武器の起動試験と単純な操縦実験しか熟していない欠陥機にそれだけの力があるのか」
『アンジェリカ・フォウ・バルトファルト、随分な物言いですが私が提供した旧人類の技術は再現可能な低レベルの物です。満足な結果を出せなかった事実をまるで私が原因のように語らないでください』
「その貴様が再現可能と主張するだけの機材を揃えるだけで一体どれ程の時間と労力と資金が必要だったと思っている?」
『貴方達の資産状況は考慮しません。十全な準備を整えれば十分に成果を出せた筈です』
「我がバルトファルト伯爵家に於ける年間軍事費全体の三割だ!しかも数年に渡ってな!それで出来たのが欠陥機だと!?破壊されたいのか貴様ッ!!」
『それで気が済むのならご自由にしてください。しかし此処に居る私はあくまで端末に過ぎません。破壊したとしても次の端末が容易される事に加え現状が悪化するのでお勧めはしませんが』
母上とロストアイテムの口論が遠くの雑音のようだ。
目の前に聳え立った視界に入りきらないほど巨大な人型を模した黒い鋼の塊に魅了されているのが自分でも分かる。
もしアロガンツと呼ばれるこの鎧がホルファート王国で流通している鎧と大して違わない形状なら僕もここまで惹かれない。
明らかに通常とは異なる技術を用いて建造された鎧が全力を出せばどれ程の強さを発揮するのか。
まるで子供が玩具を思いっきり弄りたいと思うような感覚に近い欲望が自分の中に存在しているとは意外だった。
それはきっと巨大な鎧を所有するのは国軍や裕福な貴族か高名な騎士に限定され、剣や銃ほど身近な存在じゃないからだろう。
戦争の主役は個人の武勇から集団戦、やがて空中での艦隊戦から鎧を用いた戦闘へと移り変わったと授業で習った。
もし習わなくても吟遊詩人が謳う英雄譚で自分専用の鎧に乗り込み敵を撃墜する勇者に憧れない男子は存在しない。
エルフの里に来てからの騒動で僕は満足な活躍が出来ているとは言い難いのは自覚してる。
だけどこの鎧を操縦して魔装獣を討てば今までの醜態を帳消しに出来るんじゃないか、そんな浅ましい欲望が急に心の中に溢れた。
「……どんな鎧なんですか、このアロガンツとやらは?」
落ち着いた声で尋ねたのは興味からか、或いは浅ましい欲望を隠す為なのか自分でも分からない。
ただ未だに言い争いを続けていた母上とロストアイテムは僕の疑問に耳を傾けてくれたらしく向き直ってくれた。
どうも母上はこの件に関しては父上を超えるぐらい不満が溜まっているらしく、僕の方へ体は向いても頭はロストアイテムを睨み続けてる。
「事の発端は十年と少し前になる、リオンがとある浮き島を調査した際に古代の遺跡を発見した」
「今日までその件に関しては全く存じておりません」
「私とリオンが秘かに話し合って決めたからな。バルトファルト伯爵家以外で薄々勘付いているのはホルファート王家、そしてレッドグレイブ公爵家ぐらいだ」
『長年に渡る王家と公爵家の諍いが本格化してこの国を二分する内乱が起きかけたのです』
「当時の状況を知っている者達の多くが情報を秘匿したせいだ。何しろ旧ファンオース公国との戦争が終わって数年、戦後復興さえも覚束ない時期だった」
『王位継承権を持つ先代レッドグレイブ公爵がその機を狙い王位の簒奪を画策したのです』
「まさか、祖父上と伯父上がそんな事をするような方々には見えません」
「父上は孫達に対しては甘い御方だからそう思うだろうな。だがレッドグレイブ公爵家とホルファート王家が緊張状態だったのは歴とした事実であり、私とリオンを婚約もいずれ起こる内乱を見越して行われた物だ」
頭がクラクラして目も回り吐き気が込み上げてきそうだ。
幼い頃から父上と母上と共に王都の公爵邸を訪れた時にはいつも優しく出迎えてくれた祖父上と伯父上がそんな企てをしてたなんて。
弟妹達は躾や教育に厳しい母上より祖父上が好きと冗談交じりで呟く事もあるのに、まさか僕達が生まれる切っ掛けとなった両親の結婚にそんな意味が在ったとは知らなかった。
ただバルトファルト伯爵家が子沢山な円満夫婦なのは領内に留まらず社交界では有名な話だし、普段から僕達が辟易するほど仲睦まじいのは確かな真実だ。
恐らくレッドグレイブ公爵家の思惑が外れる程に父上と母上の婚約は予想外に上手く行き過ぎたのだと思う。
「その諍いを止める為の手段としてリオンは未発見の遺跡を探索し、この忌々しいロストアイテムと協定を結んだ」
『私の同胞や主人である旧人類の発見を手伝い現在の世界に関する情報を提供する代償に、私が所有している情報と技術の提供を求められました』
「聖女達の協力もあって父上は計画を断念し、ホルファート王国の危機は去った。一応はな」
「……一応とは?」
『リオン・フォウ・バルトファルトによる仲裁は王家と公爵家の完全な和解ではなく、自身が第三勢力という不確定要素となり共倒れになる関係を示唆した事による一時的な休戦に近い物と形容した方が正確です』
「戦後間も無い時期だったので近隣諸国からすれば王国の内乱は国土を拡げる絶好の機会だった。旧ファンオース公国の反感も強く、リオンが戦況を掻き乱せば第三次ファンオース公国戦争が起きていたかもしれない」
『成功率が極めて低い作戦でしたが貴女とリオン・フォウ・バルトファルトは奇跡的にそれを成し遂げましたね』
今まで知らなかった機密情報が次から次へと語れて思考が追い付かない。
でも歴史の長い家系とは言え地方で細々と血を繋いできた下位貴族の生まれの父上が家祖となったばかりのバルトファルト伯爵家がやたら王都で重用されている理由がこれで分かった。
どうやら僕の両親は思っていた以上にこの国にとって騒動の種であり平和に必要な重要人物だったらしい。
こんな謂れが多い伯爵家を僕が継ぐの?
正直言って御免被りたかった。
「問題はその後からだ。言わばバルトファルト伯爵家の存在を軽視できなくなったから王家と公爵家は仕方なく講和した、つまり二つの勢力にとって新たな敵が現れた状態だ。ライオネル、お前だったらどう動く?」
「……講和した直後に共通の敵である新興勢力が現れたなら勢力を拡大する前に今までの敵と協力して叩き潰すのが最適かと」
「その通りだ、私とリオンはそのような状況に陥るのを恐れた。どれだけリオンが軍才に富んでいたとしても限界が在る。一人の天才が二人の敵を同時に相手するのは極めて困難、おまけにこのロストアイテムは我々を護る事には非協力的ときている」
『勘違いしないでください。私と貴方達はあくまでも協力関係に過ぎず、私の存在を現在の世界に周知させてまで護るメリットも遵守するべき協定も存在しないと判断しただけです』
「だからバルトファルト伯爵領の軍備を早急に育てる必要があった、その結果の一つが古代技術の忌み子である鎧だ」
それが普通の鎧と比べて明らかに技術系統が違う理由か。
軍用の鎧は人間が纏う甲冑から発展したように曲面が多くがっしりとした外見をしてる。
でもアロガンツは一般の鎧より大型なのに禍々しく相対的に細い、他の鎧が傍に在ればその異質さがより顕著に分かるだろう。
こんな鎧を僕が操縦して大丈夫なのか、もう何度になるか分からない逡巡によって心に迷いが生じていく。
「一から建造する為の資金は無い、しかし量産型の鎧を改造しても結果は同じ。仕方なく当時のバルトファルト領軍の中で最も高性能だった王家から拝領品を改造したのだが完全に別物だ」
『私に機体設計・材料の調達・製造組み立てを任せなかったせいです。中途半端に旧人類の機械技術を再現した影響で機体の大型化に武装も不完全な欠陥機になりましたね』
「リオンと私が望んだのは抑止力としての軍事力であって世界を滅ぼす兵器ではない!!」
『結局は鎧の量産や技術の再現計画も失敗に終わり、成果はテスト用に造られたこの機体のみ。しかも実戦で用いられた事も無いので戦力としてあまり期待は出来そうにありません』
「そんな機体に私の息子を操縦させようとは正気か貴様ッ!!」
『仕方ありません。まだ遺跡から十分な情報のダウンロードを済ませていませんし、私の本体の攻撃では遺跡だけでなくこの浮島諸共に破壊しかねませんので』
母上とロストアイテムが言い争うほど真っ当な経緯で開発された鎧じゃない事が分かって気が滅入る。
本来なら領地内の格納庫に死蔵されてるのが正しい評価の鎧だ。
これを操縦して魔装獣を討てと言われたら百人のうち九十九人が嫌がって断るに決まってる、それほど無理無茶無謀な作戦だった。
もしこれを操縦しなきゃいけない人間が居るとしたら、これを造り出した連中に関わりを持ってどうしても戦わなきゃいけない理由を持った人間だけだ。
そして僕はその数少ない理由がある人間だった。
躊躇している時間が増える程に犠牲者は増え続ける、なら覚悟を決めるしかないじゃないか。
「乗るよ」
僕の口から出た言葉を聞いて母上とロストアイテムの言い争いが止まった。
決意を固めるように姿勢を正し、二人に向き直ってもう一度だけ決意を告げる。
「僕がアロガンツを操縦して皆を助ける」
ついに正式登場、本作のオリジナル版の鎧アロガンツ!
デザインは依頼主様のリクエストにより山桜様にデザインして頂きました。(感謝
【挿絵表示】
https://skeb.jp/@yamanozakura/works/2
原作のアロガンツがルクシオンによるほぼ旧人類の技術を用いた機体であるのに対し、今作のアロガンツは旧人類の技術を現代の技術で再現しようとした機体です。(さながらクロスボーンガンダムとアマクサ
今章の挿絵はuMIYAMA様に描いて頂きました、他の挿絵イラストについても後の話で使用する予定です。
https://www.pixiv.net/artworks/139556398
アニメの方も佳境に入りましたが、今作もこのままの勢いで投稿を続けます。
追記:依頼主様からのリクエストによりしぶあ様北方赤麂様、百日夢様にイラストを描いていただきました。
本当にありがとうございます。
しぶあ様 https://www.pixiv.net/artworks/148621713(成人向け注意
北方赤麂様 https://www.pixiv.net/artworks/148880458
百日夢様 https://www.pixiv.net/artworks/148959666
ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。