婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第42章 Roll The Dice●

「国内の混乱を煽っている輩についての対処は此方で進めておきます。王国軍の今後については別の機会に考えましょう」

「分かりました」

 

 王妃様が手際良く話を進める。

 この人が有能なのは間違いない、そして渡り合えるアンジェも確かに少し押されがちだけど上手く渡り合ってる。

 つくづく俺の嫁が王子の元婚約者で次期王妃候補だったと実感してしまう。

 同時にどうして俺なんかに惚れてるのか理解できない。

 あれか?

 アンジェって自分よりダメな俺を甘やかしてもっとダメにするのが好きなのか?

 夫として情けない限りだが仕方ないじゃん。

 俺が領主貴族として未熟なのは事実だし、アンジェは俺がつらい時は優しいからつい頼ってしまう。

 傍から見りゃ情けない旦那に見えるんだろうな俺。

 

「まず、この草案を上奏した貴方達の忠勤に惜しみない感謝を。その上で聞きます。貴方達が王家と協力する理由は何?」

「公爵家と王家の諍いを止めたい。先程ミレーヌ様や殿下が拝見されたように現在のホルファート王国は危機的な状況です。外部からの干渉を受ければ総崩れとなりましょう。それを食い止めたいだけです」

「アンジェの望みは分かっているわ。私が尋ねている相手はリオン君の方よ」

 

 感謝するって言ってるけど俺とアンジェを見る視線は冷徹な試験官と同じだ。

 まぁ、仕方ないか。

 バルトファルト家はレッドグレイブ家の派閥だ。

 そんな俺達が裏でホルファート王家と繋がって何やら悪巧みをしている。

 俺にとっちゃ義父で寄親、アンジェは実の父や兄を裏切って実家を没落させかねない裏切り行為だ。

 

 基本的に裏切り者は何処に行っても信用されない。

 同じ状況になったらまた裏切る可能性があるからだ。

 戦場という非日常な状況だと命がかかっているから仕方ない部分もあるだろうが、一応は平和に見える今の王国で寄親の目を盗んで対立派閥と通じるのは嫌われて当然だ。

 やんごとない方々は相手を罠に嵌めて失墜させるのがお好きな割に部下の裏切りを許さないんだからひどい。

 

「バルトファルト家の立場を踏まえればレッドグレイブ家に与した方が益が多いわよ。仮にヴィンス公が王位に就いたならアンジェは王の娘、リオン君は王の娘婿として扱われる。公爵位、或いは侯爵位として国政に於いて重要な地位を与えられるわ。正直、私達に味方しても得はほぼ無いと考えた方が良いわよ」

「出世したくて公国と戦った訳じゃありません。金に関しては平民として生きるなら死ぬまで飢えないだけ貰いました。現時点で俺に不満はありませんよ」

「不満がない人ならこんな騒動に首を突っ込まない筈よ。下手をしたら降爵すらありえるわ」

 

 俺としちゃそっちの方がありがたいんですけどね。

 今の子爵位とバルトファルト領だって必死こいて仕事を熟してるんだ。

 不相応な立場を貰っても迷惑なんで。

 

「争いを止めたい、それだけじゃダメですか?」

「駄目ね。抽象的な動機を信じられるほど私はお人好しじゃないの。まだ地位とか金銭を要求される方が信頼できるわ。提示された要求を受け入れたら裏切らない、いざという時に更に好条件を提示すれば良い。聖女もそうだけど、私には無欲な人間ほど何が原因で敵対するか分からなくて怖いわ」

 

 まぁ、そうだろうな。

 地位も金も興味ないのに面倒事に首を突っ込むような奴は気味が悪い。

 家族が大事ってんなら愛する嫁の実家を裏切る真似をするのは矛盾してる。

 若いのにさっさと隠居して心安らかな日々を送りたいなんて枯れた考えを持ってるのは王国の若い貴族の中で俺ぐらいのもんだろう。

 

 自分の指揮で人が死ぬ、自分の施した政策で領民が飢える。

 俺は自分のせいで誰かの人生が滅茶苦茶になる重圧に耐えられない。

 軍で兵士やってた頃は気楽だった。

 命令に従って任務を熟せばそれで終了。

 体を鍛えて知識を増やせば選択肢が増えて任務達成が楽になる。

 失敗しても一兵士に戦局を左右する影響力なんて無い。

 地べたを這う蟻はときどき道端に落ちてる甘い菓子の欠片を食えれば満足なもんだ。

 

「欲しいのは爵位でも金銭でもありません」

「では何を求めているの?」

「……平和ですかね」

 

 俺は争いも面倒事も嫌いなの。

 いくら才能があると言われても嬉しくない。

 俺の幸せは田舎で可愛い嫁と子供達と一緒にのんびり暮らす事なんだよ。

 そんな生活を送る為には国内の治安が悪いのが一番困る。

 

「知っていると思いますが俺は下級貴族の父と妾だった平民の母から生まれました。育ちは平民同然で学園にも通ってません。だから国がどうとか国際情勢がどうとか言われてもいまいちピンと来ません」

「おい、リオン」

「アンジェ、止めなくていいわ。続けて」

「だからまぁ、綺麗な嫁を貰って子供が産まれてやっと人並みの幸せが実感できたんです」

「つまり、子供の為に平和が欲しいの?」

「絶対に人を殺すなとは言えません。大切な奴らを護る為に戦わなきゃいけない時はあります。永遠に争いの無い世界を創れるとは馬鹿な俺でも不可能だと分かります。ただ俺の子供にも俺と同じ幸せを感じて欲しいだけです。結婚して、子供が出来て、幸せな人生だと思って欲しいんです」

「……」

 

 アンジェから教わったけど政策の効果が出始めるのは五年後、十年後らしい。

 その辺は農業に似ている。

 種を蒔いて、水を与えて、はい終了じゃない。

 土を丹念に耕し、均等に種を蒔き、寒さ暑さから護って、こまめに水を与えて、実を剪定する。

 そんな地道な作業を数年間繰り返してようやくまともに作物が収穫できる畑が出来る。

 ライオネルとアリエルが成人して結婚するまで二十年ぐらいか?

 その位の間は戦争も内乱も起きないで欲しい。

 俺も孫の顔を見れるぐらいまで生きていたいし。

 

「随分と無茶な要求をするわね。それはこれからずっと失策せずに国を統治しろと言っているのに等しいって分かってる?」

「一応は。流石に無茶な要求だとは理解しています」

「金銭や身分を強請られた方が数倍マシだわ。政治、経済、外交。それら全てに最善を尽くしても戦いが起きる時は簡単に起きるものよ」

「平穏は食料や水以上に貴重なんすよ。糞みたいな貴族に虐げられて軍に入るしかなかった俺からすりゃ金も爵位も必要ありません。子育てするのに国の情勢が不安定なのが一番困るんで」

「分かりました。最高の結果を出せるとは確約できません。ですが最善を尽くします。今はこれで満足してくれるかしら?もちろん、その為に貴方達には骨を折ってもらうわよ」

「ありがとうございます。粉骨砕身の思いで働かせていただきますミレーヌ妃殿下」

 

 恭しく王妃様に頭を下げた。

 俺だってこんな口約束じみた見返りが上手くいくなんて思っていない。

 家族やアンジェと子供達の安全が保障されるなら王家を裏切って公爵側に付く。

 不敬極まる話だがそんな事は賢い王妃様なら察してるだろう。

 その意味じゃ俺も王家を裏切って公国と通じてたフランプトン侯爵と大して差が無い。

 ただ争いが嫌いで出世に興味が無いだけの不良貴族が俺だ。

 裏切りがバレたら公爵は容赦しないだろうし、王妃様だって公爵家との関係が上手く修復できたからといって俺達に何もしないとは限らない。

 それでも俺は足掻く事を選んだ。

 俺は自分が地獄に堕ちるのは受け入れる。

 だから、どうか俺の家族に平穏を与えてくれ。

 身勝手な祈りを胸に秘めて会談に臨む。

 お見合いしている両親や兄弟、家で留守番している姉妹と子供達の顔が頭に浮かんで消えた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 ミレーヌ様が提出された書類を捲る音だけが室内に響く。

 今日の為に用意した書類は内容を五十枚程度に纏め束ねた物だ。

 この限られた時間で内容全てを理解するのはミレーヌ様でも不可能な筈だ。

 詳細な内容と詳しい資料は分けて鞄の中に用意してある。

 今は只々時間が惜しい。

 

「軽く目を通したけど内容は戦後復興案としては至極真っ当ね。経済の建て直し、人材の登用、国防の増強。ただ外交に関してアルゼル共和国に関する部分、各国のホルファート王国に対する姿勢の考察が図抜けているわ。これはアンジェの入れ知恵?」

「いえ、オリヴィア自身による物です。外交に関しては辺境まで詳しい情報が届きませんし」

「情報提供者は共和国の重鎮、おそらく聖樹の巫女ね。小娘達がコソコソと裏で何を嗅ぎ回っているのやら」

 

 オリヴィアはホルファート王家よりも神殿や民衆に近しく、聖樹の巫女はアルゼル共和国の権益の為に動いている。

 私もそんな鬱陶しい小娘の一人ではないのだろうか?

 ホルファート王家とレッドグレイブ家の関係修復と内乱の回避。

 私とリオンがミレーヌ様に協力する理由はその点のみであり、はっきり言ってしまえばホルファート王家に対する忠誠心は殆ど無いのだ。

 

「閣僚から提出される意見書より小娘達が上奏する書類の方が纏まっているのが悲しいわね。いっそ全員私の所に来て働いてくれないかしら?」

 

 ミレーヌ様の冷えた視線がユリウス殿下を貫く。

 私との婚約破棄、オリヴィアを聖女に推薦した事実を皮肉っているのがありありと分かる。

 ただ私達の意見は王妃教育を受けた私がホルファート王家の内実を予め知っていた。

 独自の情報網や伝手が存在しているという前提があってこそ。

 必ずしも今の閣僚が無能という訳ではないだろう。

 

「無礼を承知でお聞きします。現時点でのホルファート王国の歳入と歳出及び各領の税率とファンオース公国からの賠償金についてお教えください」

 

 単なる地方領主の妻が王妃に国の財政情報の開示を求めるなど前代未聞。

 だが、そうしなければ考えられる物も考えられない。

 情報は常に最新の物を用意しなければ未来の予測など不可能だ。

 

「現在の歳入は貴女がいた頃の約六割から七割ぐらいね。領主貴族から徴収する税の割合は戦時の被害を考慮して最高で四割、平均で二割の減免を行っているわ。それにフォンオース公国の賠償金を加えて何とか八割に届くかしら。国庫は非常時の貯えを除けばほぼ空っぽ。王家の予算も半分以下に減らしたわ」

 

 呆気ないほど簡単にミレーヌ様が口にする。

王 家が貴族に対し年度末に開示している情報からある程度は推察はしていた。

 状況としてはまだ最悪とは言えない、だが最悪ではないだけで依然悪い状況には違いない。

 此処から順次どうすれば良いか模索している案をその都度出していく。

 

「今は歳入に比べて歳出が多い状況ね。国土復興に必要な経費、戦争の論功行賞で各貴族に与える恩賞、アルゼル共和国への支援金、被害が多かった軍を整える為の防衛費。とにかく必要な費用が膨れ上がってるわ」

「国庫の貯えを放出する訳にはいかないんですか?結構貯めこんでるってアンジェに聞きましたよ」

「今の貯えは本当に何かあった時の貯えなのよ。大体ホルファート王国の国家予算の三年分だけど、これだって何かあった時の為に必要だわ。これを使い果たせばホルファート王国は国体を維持できません」

 

 それはそうだろう。

 凶作や流行り病といった天災、他国の侵攻など非常時に対する備えを考えたら最低でも国家予算の五年分は欲しい所だ。

 今日の食べ物にすら困る民からは国が金を惜しんでいるように見えるかもしれないが、実際は民の為に必要最低限の分を残して気前よく払っていると言える。

 

「王家直轄領の税収は?特に資源が枯渇したとは聞いていません」

「無いのは資源ではなく人ね。とにかく戦争の人的被害が大きかった。危うく王都にまで攻め込まれかけたのよ。ホルファート王国の滅亡を防ぐ為に直轄領の人材を投入したのが痛手だったわ。いくら資源が豊富でもそれを取り扱う者が居なければ宝の持ち腐れよ」

「おまけに王家の管理が行き届かないダンジョンや鉱山などを狙った不法冒険者や盗掘者が後を絶たない」

 

 ミレーヌ様の後にユリウス殿下が続く。

 嘗て政務に関して無頓着だったがホルファート王国存亡の危機には王族としての自覚が目覚めたらしい。

 

「グレッグは冒険者として経験が長いので各地のダンジョンの調査を担当している。あいつの報告だとギルドに所属せずにダンジョンに不法侵入する冒険者が増加している。忌々しい事に王家直轄のダンジョンですら同様だ。命の危険を顧みなければ手っ取り早く稼げるのが冒険者だからな。そうした犯罪者が横流しした物が裏社会で取引されている。既に官警やクリスが摘発したが数が多過ぎて意味を為していない。ブラッドには国外の犯罪組織がこれ幸いと王国に密入国している可能性が高いと言われた」

 

 気が滅入る報告に溜め息を吐くミレーヌ様の気持ちはよく分かる。

 私の隣に座っているリオンも同情している。

 せっかく開拓したバルトファルト領が戦争で資金と人手を失い開拓に費やした日々が無駄にされたような気持ちを味わったばかりだ。

 国がこの有り様なら地方領主でさえ国の行く末を案じ始める。

 

「ファンオース公国からの賠償金を増額できないんですか?うちも他の所も公国が操るモンスターにこっぴどくやられたんですけど」

「幾度も交渉した結果がこれよ。これ以上増やしたら旧公国領の民が飢えるわ。そうなれば公国と三度目の戦争が起きかねない。併合されて間もない旧公国民は王国に対する敵愾心が強いの。飢えて死ぬぐらいなら憎い王国と戦って死のうと考えるわ」

「流石に三度目の戦争はこっちの被害の方が多そうですね」

 

 死を覚悟した兵ほど恐ろしい物は無いのは自ら死兵となって公国軍を撤退させてリオン本人が良く知っている。

 これ以上の戦乱は徒に国を疲弊させるだけだ。

 旧公国領にある程度の裁量を認めてホルファート王国に帰属させるのが最善と言えるだろう。

 

「アルゼル共和国に対する支援の減額、若しくは一旦中断するのは如何かと?」

「それも難しいわね。ホルファート王国が支援を続ける限りに於いてアルゼル共和国はホルファート王国の危機に対し援軍を出す密約を交わしたの。王国の軍事力が低下した今は共和国が他国からの盾になっている部分が大きいわ」

「だから聖樹の巫女様はオリヴィア様に、オリヴィア様は俺達に情報を流したという訳ですか」

「それが同盟という物よ。私の実家があるレパルト連合王国もラーシェル神聖王国に対する抑えとして私を王国に嫁がせたわ。自分が困ってるから相手に助けてもらう、だから相手が困っている時には助ける義務が生じる。これを破れば国際社会から批判を浴びて同盟する相手は居なくなる。下手をすれば世界が敵に回るわ」

「俺には今の共和国軍が当てになるとは思いません」

「軍事力だけならその通り。問題は魔石よ。聖樹が育って魔石の産出が復活すれば王国は優先的に取引してもらえる。そうなれば他国との差が開いて迂闊に戦争できなくなるわ。五年後十年後に効果が無くても百年後二百年後には途方もない恩恵を王国に与えてくれる」

「俺は自分が死んだ後の事まで考えが及びませんよ」

「なら憶えておきなさいリオン君。為政者は子の子、孫の孫の代まで布石を打たなきゃ勤まらないわ」

「……分かりました」

「よろしい」

 

 出来の悪い生徒を諭すようにミレーヌ様がリオンに詳しく説明を受ける。

 にこやかに微笑むミレーヌ様が少々腹立たしい。

 リオンも聞くなら私に聞いておけ。

 

「人手が足りない、資金が足りない。現状の原因は此処に尽きるわ。リオン君、今の王国は生まれを問わず有能な若者を厚遇するわよ」

「ありがたい御言葉ですが俺も今は自分の領地を建て直すのに手一杯なんで」

「……仮に父上は王位に就いた後にどうやって王国を建て直すつもりでしょうか?」

 

 妬心を抑えて疑問を口にする。

 確かに今のレッドグレイブ家はホルファート王国に於いて並ぶ者の無い立ち位置にいる。

 その規模は小国に匹敵すると言っても過言ではない。

 だが、それはあくまでもホルファート王国内に限った話だ。

 ファンオース公国を降し版図を拡げたホルファート王国を統治するには私が知るレッドグレイブ家とその派閥だけでは些か人手が足りていない。

 父上にこの状況を覆せる何かがあるのだろうか?

 

「おそらくヴィンス公本人は王位の平和的な禅譲を望んでいると思うわ。その上で有能な宮廷貴族や官吏と閣僚は据え置きのまま。問題はむしろ周囲の貴族ね」

「公爵派の貴族が父上を煽っていると?」

「純粋にヴィンス公や公爵家を敬慕している者達は良いわ。陛下や先王弟は国政をあまりに顧みていないし、この子は失態が大き過ぎた。それを諫められなかった私も同罪ね。国を憂う貴族がヴィンス公を頼るのは納得できるわ」

 

 ミレーヌ様に指で小突かれたユリウス殿下が気まずそうな表情を浮かべる。

 だが仕方あるまい。

 失態を重ねた王家や増長した上級貴族に対する不満が年々溜まっていた所に私との婚約破棄のせいで心ある貴族達は王国の未来を憂いた。

 それに加えて戦争で疲弊した国を導く強い指導者を求めるのは当然の心理だ。

 内心でローランド陛下を侮蔑し、一時の感情で私との婚約を破棄をしたユリウス殿下を見限り自分が国を建て直そうと思うのを咎められない。

 

「問題は中立派の貴族、前回と今回の戦争で功績が無かった者、反公爵派、旧公国民をヴィンス公がどうするか?それによって国が二つに割れる内乱になるわ」

「彼らを取り潰して資産や領地を再分配すると?」

「既に先の戦争の時点でフランプトン侯爵の派閥を潰して恩賞として功労者に分け与えたという前例があるわ。今回も同じ事をすれば良いと思う貴族は多い筈よ」

「ですが、先の戦争は防衛戦であるが故に分け与える資産が無かったという致し方ない面があります。公国を併合した今回は当て嵌まらないかと」

「それで治まるなら苦労は無いわ。国として版図が拡がったのだから得た利益を還元しろと考えるのが人という物よ」

「裏切りや軍規違反をした貴族を処罰は出来ないんですか?」

「今回の戦争で裏切った貴族は僅か。功績を上げなかったと咎められても大半は自分達の領地を護るのに精一杯、敵を退けられないからやむを得ず撤退した者が殆どよ。ローズブレイド家(ここ)でさえそうなのだから無能と断じるのは酷ね」

「俺も今回は別に公国軍の司令官を討ってません。補給路を断ったり人質交換で一時撤退させただけです。最終的に防衛線を後退して王都近くまで退かなきゃならなかったし。むしろ公国のお姫様を捕まえた殿下の方が御手柄でしょう」

「それまでに多大な犠牲を払った。バルトファルト軍が撤退しなければならなかったのは他の者が攻め込まれ敵に包囲されかねなかった為だ。犠牲者を減らし持ち堪えたバルトファルトは陞爵に値する戦働きだ」

「殿下、それはどうも」

「貴族同士の対立が王家や公爵家を巻き込んでいるのが問題だ。嫌いな相手を潰し所領や資産を奪う。確かに一時的にその貴族にとっては益があるだろう。だが、国としては間違いなく衰退する。ただでさえ人手が足りない現状では内乱は避けたい」

 

 つまり国全体が戦争で困窮しているのが問題なのだ。

 戦争に勝った、国土が増えたのだから苦労した代償に恩賞や領地が増えて当然だと誰もが考えている。

 だが併合したばかりの旧公国領はいつ爆発するかも分からない火薬庫、国の貯えは最低限しか残っておらず、外交的な理由で共和国への支援を止める訳にもいかない。

 先の戦争でリオンを筆頭に取り立てた下級貴族や平民は元々ホルファート王家に対して帰属心が薄い。

 自分より能力が低い上位貴族が当然のように居座っている現状を厭うものだ。

 

 そうした不満が王家に対する不信として膨れ上がり父上や公爵家を頼る。

 歴史ある貴族は対立する貴族を倒す為に公爵家に帰順して大義名分を得る。

 公爵家に付いた相手に対抗する為に相手は王家に縋る。

 反公爵派の連中も追い詰められた貴族と同じように王家を頼ったのだろう。

 さらに中立派や能力が低い者もどちらからに与しなければ明日は我が身となってしまう。

 この混迷に乗じ他国が介入し国内の治安が乱れ人心が王家から離れる。

 悪循環が更なる悪循環を招き国が衰退の一途を辿る。

 その行く末が国を二つに割る内乱だろう。

 内乱でさらに衰退した国家に待ち受けるのは他国に蹂躙される未来しかない。

 

「アンジェ、これ立て直せるの?」

「その為に義兄上の見合いを抜け出して来たんだろうが」

「いや、でもさ。どう見ても難しいよこれ」

 

 困難な道なのは先刻承知の筈だった。

 だがあまりに問題が多過ぎる。

 何よりホルファート王家の権威が失墜しているのが痛手だ。

 戦争前の王家なら反対派の意見を押し切れるだけの権威と力と資産があった。

 それら全てを失いつつある王家を頼ろうとする者は少ない。

 私だってそうだ。

 

 ただ、このまま行けば確実に内乱が起きる。

 その後に他国から侵攻されれば例え公爵家が王位に就いても間違いなく国が亡びる。

 これ以上リオンが戦いに巻き込まれるのは嫌だった。

 彼は家族を護る為なら自分の命すら捨ててしまう。

 リオンが居ない世界で生きるのに堪えられないほど私は弱くなってしまった。

 

「王家の信頼を回復する必要があります。論功行賞以外に、何か王家から貴族に施す必要があります。出来るなら派閥を問わずに全員が平等に恩恵を受ける物が必要です」

「それは私にも分かっています。それが目的で貴女と会いに来たの。それでどう?何か良い案はある」

 

 腹案は幾つか考えて来てはいた。

 ただ思った以上に王国の危機的状況が大きい。

 私の予想より国庫の貯えが少なく、貴族達の王家に対する信頼が低い。

 そのせいで私の腹案はほぼ役に立たない。

 どれだけ頑張ろうとない袖は振れないのだから。

 

「父上と交渉の場を設ける事は出来ます。王家から公爵家へ正式な謝罪をすれば受け入れるでしょう」

「それだけじゃ足りないわね」

「……はい、公爵家ではなく貴族を納得させる何かが必要です」

 

 その何かが思い付かない。

 公爵派ではなく、王家派でもない。

 争いを止める第三者が必要だ。

 肝心なのはバランス。

 それが何か、あと少しで思い付きそうな気配を感じるのに出て来ない。

 

「金の上乗せじゃダメなのか?それだけでもバルトファルト領(うち)は嬉しいだろ」

「開拓や温泉施設へ必要な経費、あとは公爵家に借りた金の返済に充てる。大した効果は得られない」

「ダメかァ、金を貸してくれるだけでありがたいのに」

 

 ……何かが引っ掛かる。

 今、リオンと私は何を言った?

 

「リオン」

「ん?」

「今なんと言った?」

「金の上乗せじゃダメなのか?だ」

「その後」

「金を貸してくれるだけでありがたい」

「どうしたのアンジェ?」

 

 何かが噛み合う音がした。

 公爵令嬢として受けて来た教育。

 次期王妃として与えられた情報。

 冒険者として芽生えた向上心。

 地方領主の妻として開拓に携わった経験。

 子を持つ親として未来を憂い施した布石。

 それらが私の中で混じり合い昇華されていく。

 鞄に用意していた書類を無理やり取り出してページを捲る。

 興奮しているのに頭の中は妙に冴えていた。

 どれだけ時間が経ったのだろう?

 顔を上げると六つの瞳が私を凝視していた。

 

「大丈夫かアンジェ?」

 

 リオンが恐る恐る私の頬に触れる。

 リオンの体温が冷たく感じるほど今の私はのぼせていた。

 

「ミレーヌ様」

 

 呼吸を整え目を瞑る。

 上手くいくかどうかは分からない。

 だが手を拱いているだけでは何も変わらない。

 前に進む。

 彼の隣で。

 その為にあらゆる手段を用いよう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「不肖アンジェリカ・フォウ・バルトファルトより上奏したき案がございます」




会議及びに解説回。
ルクシオンというチート戦力及びに情報提供者の不在、転生知識無しのホルファート王国の現状がひどい。
今作のテーマの一つに復興があります。
転生者リオンとルクシオン(+転生者マリエ)という優位性が無いとホルファート王国はかなり厳しい状況なのは原作の通りです。
公爵家がバルトファルト王朝を建立できたのもルクシオンという圧倒的な力があればこそ。
力の無い人間の足掻きがバタフライエフェクトで国を左右するのが好きなのです。
戦後・革命後復興モノは昔から好きなので影響を受けてます。
決してゴ〇ラを見てきたからではありません。(汗

追記:依頼主様のご依頼で05_sio様、dolphilia様、パントン様、Eve.Aries様にイラストを描いて頂きました。ありがとうございます。
05_sio様https://www.pixiv.net/artworks/113268467(衣装チェンジ注意
dolphilia様https://www.pixiv.net/artworks/113289907(クロスオーバー注意
パントン様https://www.pixiv.net/artworks/113291334(成人向け注意
Eve.Aries様https://www.pixiv.net/artworks/113305522

追記:今章の挿絵イラストをふぇnao様に書いていただきました、ありがとうございます。
ふぇnao様https://www.pixiv.net/artworks/114424424

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