婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第45章 バカップル

 意識が覚醒してくる。

 嫌だ、怖い。

 また訳が分からない世界に飛ばされてひどい目に遭いたくねえぞ。

 俺がつらいのは良い。

 目の前でアンジェが泣いたり死んだりするのはごめんだ。

 このままずっと目を瞑って眠りこけたい。

 そう思えば思うほど意識が冴えてくる。

 半分自棄になって片目を恐る恐る開けてみた。

 炎で灼き尽くされる大地、観客に囲まれた闘技場、俺が住んでる王宮。

 そのどれとも違う光景だ。

 木と金属が組まれて布が絡み合ってる。

 

 ゆっくり手を動かして背中に触れてる物を触って確認。

 力を籠めると肌触りの良い布の下に弾力がある感触が返ってくる。

 見知った天井だ。

 戻って来た、やっと戻って来た。

 安堵のあまり肺の中にある全ての空気を吐き出す。

 ひどい夢を見たもんだ、その癖やたら現実味があって怖かった。

 夢ってのは記憶の整理や密かな願望が寝てる間に脳みそから溢れ出た物らしいって俺の為にアンジェが王都から呼び寄せた医者が言ってた。

 つまりアレか?

 俺はアンジェの死と王子をぶちのめして美しい女の子を大量に自分の嫁にしたいって心の底で思ってるって訳?

 

 冗談じゃない、どんな性格破綻者だよ俺。

 確かにユリウス殿下に対して蟠りはあるし、綺麗な女の子を見て動揺する事だってそりゃあるさ。

 でもアンジェの死なんて絶対に望んでない、それだけは心に誓ってありえない。

 何処に王都の大豪邸からこんな辺境の田舎に嫁いで文句言わず働いてくれるお嬢様がいるんだよ。

 俺の為にわざわざ医者を呼び寄せたり、実家の伝手で技師を連れてくるなんて普通やらない。

 あんな綺麗なお嬢様が俺に惚れて子供まで産んでくれるんだぞ。

 満足どころか感謝してもし足りないぐらいだ。

 

 これはあれだ、昼間のお見合いと少し前に聖女様御一行がうちに来たせいだ。

 確かに同い年のオリヴィア様は可愛かったし、昼間あったディアドリーさんはなかなかの美人さんで、間近で見たミレーヌ妃殿下は綺麗だった。

 きっとそのせいだ、いろんな事が起き過ぎて頭の中が混乱してるだけだ。

 

 そもそも俺がそんなにモテる筈が無い。

 俺に言い寄って来たのはアンジェを除いて地位と財産狙いの貴族女ばっかだった。

 それに比べたら人々の為に働くオリヴィア様や王家を潰さないように頑張っているミレーヌ妃殿下が眩しく見えたんだろう。

 ちょっと綺麗な人と親しくなって舞い上がって勘違いするのはモテない男の悲しいサガだ。

 

 こんなに良い嫁がいるのにひどい奴だな俺。

 そう思って隣を見ると誰も居なかった。

 寝る時はいつも俺の隣で眠っているアンジェが見当たらない。

 ヤバい、猛烈に嫌な予感がする。

 戦場じゃ虫の知らせとか死相が見えるってのが意外と重要になってくる。

 普通に生きてるなら気にも留めない些細な事を死と隣り合わせな戦場で生き抜く為に感覚が否が応でも研ぎ澄まされるせいだ。

 何となく嫌な空気ってもんが自然と分かるようになる。

 いわゆる予知夢ってのもそんな感じだ。

 あれは自分が感じた情報を寝てる間に脳みそが処理して未来で起きそうな事が夢になったらしい。

 一番最初にアンジェが死ぬ夢を見たのが気にかかる。

 ひょっとして何か起きるんじゃないか?

 

 慌ててベッドから飛び降りて寝室の中を見渡すと寝室の鍵は外してあった。

 俺達の寝室は風呂も便所も備え付けの特注だからわざわざ外に行く必要が無い。

 つまりアンジェは寝室から出たって訳だ。

 夜着の上にガウンを羽織って音を立てないように寝室から出る。

 バルトファルト家には使用人が何人か住み込んでるけど不寝番するほど仕事がある訳じゃないから夜は基本的に休んでもらってる。

 精々が子供達が生まれた直後に世話役が必要だった程度、今じゃ夜泣きもしないんで楽が出来る。

 窓から降り注ぐ月光と星明りを頼りに息を潜めて屋敷の中をうろつく。

 ひんやりとした空気が服に覆われてない部分の体温を奪って身震いが起きた。

 もうそろそろ収穫の秋も終わり本格的な冬がやって来る。

 子供部屋、広間、客室、厨房。

 

 取り合えずアンジェが居そうな場所を探し回ったけど何処にも見当たらない。

 最後に屋敷の外を軽く見回る為に勝手口へ向かう。

 鍵がかかってない、つまり外へ向かったらしい。

 室内履きのまま構わず外へ出るとアンジェは寝着のまま庭のベンチに座って空を見上げていた。

 ゆっくり近づいて隣に座る、特に驚いた様子もなく受け入れてくれた。

 そっと手を握ると肌が少し冷えていたから慌ててガウンを脱いでアンジェの体に被せる。

 

「どうしたんだよ?」

「別に、何となく星を見たくなった」

「寝室の中からだって星は見れるだろ」

「理由など特に無い、何となくだ」

「そっか」

 

 それで話はお終い、だけど妙に気にかかる。

 このアンジェは本当に俺の知ってるアンジェなのか、その自信が無い。

 さっきの夢の記憶が胸に閊えて不安が拭えない。

 

「アンジェ、俺達の子って何人?」

「二人だろう、お腹の子も含めれば三人」

「名前は?」

「ライオネルとアリエル」

「俺の爵位は?」

「バルトファルト子爵、近々伯爵に陞爵予定だ」

 

 うん、大丈夫だ。

 このアンジェは間違いなく俺の嫁のアンジェだ。

 そう思うと安心と同時に愛おしさが湧き上がってアンジェに抱きついた。

 アンジェが拒む様子も見せないから気が済むまで抱き締める。

 最後の夢に出て来たアンジェと全く同じ感触と温かさと声。

 全てが同じだからこそ不安が押し寄せる。

 

 あれは本当に夢だったのか?

 本当の俺は夢の中の俺で、こうして田舎で領主やってる俺の方が夢なんじゃないか?

 この俺は本当の俺が目を覚ましたら消えてちゃうんじゃないか?

 王様の俺や世界を滅ぼす俺が見てる夢で。

 アンジェも、子供達も、家族もみんな儚く消えてしまう。

 そんな恐怖が降りかかる。

 

「どうした急に?」

「怖い夢を見た」

「また戦場の夢か」

「全然違う夢、でも悪夢だった」

「どんな夢だ?」

 

 正直、夢と笑うにはあの夢が生々し過ぎた。

 内容が内容だから正直に答えるのも気が引ける。

 でも言わないと絶対にスッキリしないという確信があった。

 

「いろんな夢。俺が王様になって女の子に追い回されたり、ユリウス殿下と決闘したり。変な玉っころが案内してどうすれば良いか教えるんだ」

「何だそれは?」

「だから夢だって。自分でも分かんないんだよ」

「昼間にミレーヌ様に面会したからか」

「そうかもな。最悪な夢はアンジェが怒るから教えたくない」

「そこまで言われて聞かない方がおかしいだろう」

「やだよ、怒るもん」

「女に追い回される夢よりもか?」

「たぶん」

「いいから言ってみろ」

 

 我ながらズルいなぁ俺。

 わざとらしく興味を引いてアンジェが聞いてくれるように誘導してる。

 

「妙に現実味のある夢だったな。鎧を操縦してユリウス殿下と決闘してた。オリヴィア様が一生懸命にアンジェを慰めてさぁ、逆にマリエがユリウス殿下に惚れられてた」

「私がオリヴィアに?」

「泣いてるアンジェを見たらムカついて思いっきり殿下の鎧をぶっ壊した、死んだんじゃねぇかアレ?」

「それは中々に痛快だな、私も見てみたい」

「殿下と少しは和解したんじゃ?」

「和解と許しは別物だ」

「そうか」

 

 思いの外好評だった。

 でも殿下との婚約破棄したのが俺と結婚する切っ掛けだから、あのまま殿下をぶちのめしたらアンジェはそのまま殿下と結婚したんじゃないか?

 そんな事を考えてしまう。

 

「あと俺が王様でアンジェが王妃様になってさぁ。たくさん嫁と子供がいるみたいだけど仕事が忙しくてろくに会えないんだって」

「実際の王族も面会の時間を積極的に設けなければそうそう妻や子と会う機会が無いものだ」

「マジか、じゃあいいや。王様辞めます」

「王になりたくないのか?」

「夢の中でもアンジェは仕事してた。嫁とイチャイチャ出来なくて子供に会えないとか嫌です」

「我儘な王様だな」

 

 流石にオリヴィア様やミレーヌ妃殿下が嫁として出て来たとは言わない。

 どう考えても不機嫌になるって分かりきってるもん。

 

「夢から判断すると俺はユリウス殿下をぶん殴って王様になりたいとか心の中で思ってるのかな?」

「なりたくないのか?」

「面倒臭いからやだ。俺は畑を弄るのが性に合ってる田舎者なんで。嫁は一人で充分です。アンジェが王妃になりたいって言うなら別だけど」

「お前は王になりたくないのだろう、ならば私の答えは一つしかない」

「もし俺が王になりたいって言ったら」

「それが本当の望みなら吝かではないな」

 

 どうしたもんか。

 この嫁さん、俺がその気になら王妃になるのに乗り気だ。

 此処でアンジェの為に王になるとか言えるならカッコいい旦那なんだろうけど生憎と俺は身の丈を弁えてるヘタレです。

 とても国なんか扱える自信なんて無い。

 

「最悪な夢が残っているぞ」

「話したくない。アンジェが怒るより思い出す方が怖い」

「夢だろう」

「夢だからだよ」

 

 言ったらあの光景が現実になりそうで怖い。

 俺が家族の為に死ぬのはいい、だけど俺のせいで家族が死ぬのは耐えられそうにない。

 

「いいから話してみろ、俄然興味が湧いてきた」

「後悔しても知らねえぞ」

「このままでは眠れない。ほら、さっさと話せ」

「……王国が滅んでた。辺り一面が火の海。本当に大地が壊れた鎧や飛行船で埋まってんだ。戦場でもあんな光景は見た事ない」

「ほほう」

「俺が乗ってたのは王家の船みたいなロストアイテムでさ。変な玉っころが操縦してるの」

「何なんだその玉とやらは?」

「分かんないよ、玉っころは玉っころ。で、その船が王国の船を攻撃してるんだよ。しかも最後は公爵家の船」

「……それが嫌な理由か」

「うん、しかもアンジェも乗ってた。俺を裏切者って睨みつけてさ。怖くて泣きたくなった」

 

 本当は王妃になったアンジェに抱きついて思いっきり泣いたんだけど。

 今だって思い出したら体が震えてくる。

 寒さとは違う、恐怖のせいだ。

 

「嫌な予感がするんだ、もし王家と公爵家が争ったらあんな事になるんじゃないかって」

「だから眠れなくて起きたのか」

「夢にしてはやたら現実味があったんだよ、あと今の王国のゴタゴタを知ってりゃ何が起きてもおかしくないだろ」

「そうならない為に私達も努力しているだろう」

「最悪の事態を考えなきゃ、もし本格的に争うような事になったらバルトファルト領がどうなるか分からないし」

「考え過ぎだ。そもそも分の悪い企てだと最初から分かっていただろう」

「頭の中じゃ納得してると思ってた。でも妃殿下や殿下に会って怖くなった。あの夢みたいにアンジェと争う事態になったらどうしよう」

 

 アンジェに抱きついたまま目を閉じても、あの光景が目に焼き付いて離れてくれない。

 バルトファルト家は公爵家の寄子だ。

 王家と公爵家が争うなら公爵側に付かなきゃならない。

 でも俺達は裏で王家と連絡を取り合って争いが起きるのを止めようとしている。

 公爵にとっちゃ裏切り者と罵られても仕方ない真似だ。

 もしも怒った公爵が俺とアンジェの離縁を望めば従う他ない。

 

「もしもそうなるなら私は公爵家と縁を切る。リオンと子供達を捨ててまで公爵家に戻る意味は無い」

「嬉しいけどさ、もし公爵が引き渡せって攻めて来たらどうするんだよ」

「適当に誤魔化してお前の助命を希う。口先ならリオンだって得意だろう」

「上手くやれる自信が無い」

「ミレーヌ様の御前で忌憚なく意見した奴が言っても説得力は無い。必死に父上を騙せ」

 

 やだ、アンジェが凄い漢前。

 その時になったらそうするしかないか。

 ホルファート王国の未来は田舎の成り上がり者が背負うには重過ぎる。

 いざとなったら地べたに這い蹲って謝り倒して許してもらおう。

 そもそも此処まで出世できただけでも奇跡なんだ、むしろ子爵の地位すら俺には不相応過ぎる。

 最悪の場合、貴族位を剥奪されて平民になっても元が平民みたいなもんだから十分に生きていける。

 アンジェと子供達が食っていくのに困らない稼ぎならやっていけるだろ。

 

「そんなカッコいい俺の嫁さんにお願いがあります」

「何だ?」

「とっても怖い夢を見たから一人じゃ寝れません。一緒に寝てください」

「子供かお前は」

 

 だって怖いんだもん。

 怖くて寝れないから隣に居てください。

 柔らかくて温かいアンジェが抱き枕になってくれないと俺はぐっすり寝られないんだよ。

 それにアンジェがいつまでも寒い外に居るのはマズい。

 

「ライオネルとアリエルの前で情けない姿を見せるなよ、教育に悪い」

「アンジェが俺をこんなにしたんじゃん」

「戦場の悪夢に魘されるリオンを介護しただけだ。私が居なければ眠れないような情けない男にした覚えは無い」

「その言い草はひどいだろ」

「分かった、心を鬼にしてお前を一人前にする。とりあえず寝室は別で良いな、私は子供達と一緒に寝る」

「ごめんなさい、愛してます、一緒に寝てください」

 

必死に拝み倒して何とか寝室に来てもらい一緒に寝る、その夜に悪夢はもう見なかった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「アンジェが余所余所しい」

「知らないわよ」

「はい終了、解散」

「頼むから少しは相談に乗ってくれ」

「皆、とりあえずきちんと話し合おうよ」

 

 コリンが慌てて俺達を執り成す。

 お前は良い子だよ、本当にこいつらと同じ両親から生まれたのか?

 

「え~と、それじゃあバルトファルト家族会議を始めます!」

 

 和やかな昼食後の食堂でバルトファルト家族会議が行われる。

 この会議は文字通りバルトファルト家の面々が集まって情報交換や相談が月に三・四回ぐらいの頻度で行われる。

 議題は他の領地のパーティーで聞いた噂の報告とか領地で流行ってる物とか個人的な相談とかいろいろ。

 その日の都合で参加する人数は変わるけど俺と兄さんは殆ど出席して、父さんとコリンは用がある時は来ない、母さんと姉貴とフィンリーの参加率は低め、アンジェは情報監査役として仕事が無ければ毎回出席してる。

 家族会議の司会進行役は基本的に家族の中心の父さん、長男の兄さん、領主の俺が担当する。

 末っ子のコリンが司会進行役なんて殆ど無いから張り切ってるんだろうけど、残念ながらやる気が少し空回りしてる。

 そんなバルトファルト家族会議で話し合われる本日の議題は『アンジェが俺に余所余所しい』『兄さんとドロテアさんの進展具合』だ。

 

「他人事みたいに扱うな、事の重大さを理解してないだろお前ら」

「あんた達夫婦の問題なんだから自分達で解決しなさいよ」

「ついにアンジェリカさんがお兄ちゃんを見限ったんじゃ?」

「喧嘩売ってんのか。まぁ仕方ないか、結婚どころか婚約もまだのお前らには早過ぎた議題だな」

「何よ、あんただって散々お見合いに失敗してたでしょ」

「俺はアンジェと結婚できたから大成功で~す!悔しかったら早く結婚してくださ~い!」

「うわッ、めちゃくちゃムカつくこの糞兄貴」

「はい、そこ。リオン兄さんは挑発しない、姉さん達も怒らないで」

 

 コリンの仲裁でうちの姉妹が何とか落ち着く。

 止めるなよコリン、まだ言い足りないのに。

 

「リオン兄さん、答弁を求めます」

「はい、何でしょうかコリンくん」

「リオン兄さんとアンジェリカさんの仲が悪くなるとどんな影響が出るんでしょうか?」

「いい質問ですね」

 

 そう言って姉貴とフィンリーの前に置かれている食後のデザートに手を伸ばし皿ごと目の前に引き寄せる。

 

「ちょっと!」

「何してんのよリオン!」

「こんな風に食後のデザートが食えなくなります。具体的には公爵家から借りてる金をすぐに返せと言われるでしょう。ですがバルトファルト家にそんな貯えは無いのでいろんな物が差し押さえられます」

 

 流石にそこまではやらないだろうけどバルトファルト領の経営はレッドグレイブ家から多くの援助のおかげで成り立ってる。

 少しずつ領地を発展させてこつこつ返済する予定だったのがフォンオース公国との戦争でおじゃんだ。

 戦争の出費で返済計画が五年以上遅れる、そのせいでまた金を借りたから前にも増して公爵家に逆らえなくなった。

 せめて俺が隠居するまでに何とか返済したい、我が子が受け継ぐ家に負債を残したくないのが親の情ってもんだ。

 

「さっさとアンジェリカさんに謝って来て」

「全面的にリオンが悪いわね。そもそもこのケーキってドロテアさんの差し入れじゃない」

 

 好き放題言いやがって。

 こいつら本当に貴族のお嬢様かよ、だからろくな縁談が来ないんだ。

 まぁ、姉貴とフィンリーの縁談がまとまらないのはこいつらが貴族令嬢としての礼儀作法が未熟以外にも理由があるけど。

 アンジェによるとバルトファルト家と友好を結びたい貴族は多いらしいが、裏で公爵が手を回して勝手な事をしないように牽制してるそうだ。

 そんな馬鹿なと言いたいけど兄さんとドロテアさんの縁談を考えると笑えない。

 俺としちゃこいつらが恥をかかない程度におおらかで仲良くなれる相手と結婚するなら公爵派だとうと王家派だろうと構いやしない。

 

「なのでバルトファルト領の為にアンジェと早急に仲直りする必要があります」

「でもそれだけじゃないよね」

「あぁ、具体的にはもっとイチャイチャしたい。だけど元気が無いアンジェに嫌がられるのは耐えられない。そんな訳で協力しろお前ら」

 

 露骨に面倒臭そうな顔をするうちの兄弟姉妹。

 だって仕方ないだろ、お見合いの夜からずっとアンジェが元気ないんだもん。

 何を聞いても「あぁ」「うん」「そうだな」と心ここに有らずだし。

 今朝になんか「すまん、今日は休む」って朝から寝室で寝てる。

 慌てて医者を呼んだけど特に異常は無かった。

 精神的な疲労だろうと診断されたけどアンジェが心配で堪らない。

 何よりアンジェが落ち込んでるのに加えて妊娠してるから夜の方もこの半月近く途絶えてる。

 俺が強請ればアンジェは拒まないだろうけど落ち込んでる嫁を無理やり抱くのは人としてどうかと思う。

 

「お兄ちゃんがウザくなって愛想尽かした」

「なめんな、俺達はずっとラブラブだぞ」

「女には男と違ってそんな時があるのよ。妊娠してるんだから休ませてあげなさい」

「体調がそうなら分かるけど、問題は心の方だと思う。そこら辺は男の俺じゃ分からないからこんな風に姉貴達に相談してんだろ」

「アンジェリカさんは働き過ぎだから何日か休ませてあげたら」

「それで治るならいいさ。ただ心配でしょうがない」

「…………」

「聞いてんのかよ兄さん」

「……あぁ、すまん。少し考え事してた」

 

 アンジェも心配だが兄さんの方も今日の議題の一つだ。

 どうも兄さんもローズブレイド領へお見合いに行ってから様子がおかしい。

 兄さんの方は落ち込んでいない、ただボーっとしてるだけだ。

 

「なに?ドロテアさんに本気で惚れたの?」

「そもそもあんなお嬢様がパッとしない兄さんに惚れる方がおかしいわよ」

「その辺りにしてやれ、一番戸惑ってるのは兄さんなんだから」

「でも悪い人に見えないけど」

 

 兄さんとの交際が決まってからドロテアさんは二・三日に一回はバルトファルト領に来ている。

 朝早くに手土産持参で屋敷を訪ねて、昼間は俺達と話し合ったり仕事を手伝ってくれるし、夜は一緒に食事をしてローズブレイド領に帰ってゆく。

 今日のデザートもローズブレイド領の有名菓子店の逸品を贈ってくれた。

 会話にしても手伝いにしても熱心に関わってくれるし、ぶっちゃけ姉貴やフィンリーより余程バルトファルト領に貢献してる。

 そりゃアンジェには劣るけど、それは長年王妃教育を受けたアンジェの方がおかしいだけだ。

 不慣れな所もそのうち改善されると思う。

 ぶっちゃけあの人が兄さんに嫁いでくれるなら、俺はバルトファルト家の家督を兄さんに譲っても良いとさえ思い始めてる。

 

「何かあったの?」

「特に問題は起きてない。ただ……」

「ただ?」

「重い…………」

 

 遠い目をして息を噛み殺すようにぼそりと呟く兄さん。

 確かにドロテアさんは四六時中兄さんの傍に居たがるけど付き合い始めはそんな物だろ。

 兄さんは胸元からペンダントを取り出す。

 確かドロテアさんから贈られた物だ。

 腕の良い職人の仕事らしくてアンジェも驚いてたけど、それだけ兄さんに惚れてるって事だろ。

 

「いいペンダントじゃない」

「何が不満なの?私ならこんなプレゼントしてくれる男なら婚約してもいいわ」

「これな、台座の部分に発信機が仕込まれてる……」

「何でそんなもん仕込んでんだよ」

「いつも俺を感じていたいらしい……。向こうも同じ物を付けてる。受信機も手渡された」

「どうしてまた」

「自分が何処に居るか俺に知って欲しいみたいだ。当然あっちも俺の位置を知りたがってる。怖えよ、まだ俺達は正式な婚約も済んでないんだぞ」

「「「「…………」」」」

 

 どうやらドロテアさんは束縛が強いらしい。

 まぁ、夫の浮気を疑ってこっそり発信機を仕込む奥方もいるみたいだから。

 そう思おう、そう思いたい。

 

「で、でもニックス兄さんの邪魔とかしないんでしょ!?」

「むしろそれが怖い。俺の仕事を手伝うんだけどさ、知らない間に相手と親しくなってんだよ」

「それぐらいするのは普通だろ」

「手作りの弁当くれるんだけど、伯爵家のお嬢様なのに凄い速度で料理が上達してる。しかも短期間で俺の好きな物が増えていくのは軽く怖い。俺、一度も好物とか教えてないんだぞ」

「え、何それ」

「知らない間に父さんと母さんから教えてもらったらしい。いつも俺の傍に居てそんな暇なかった筈だぞ」

「やだ、怖い」

 

 どうやら着々と外堀を埋められてるらしい。

 これ、ドロテアさんが嫁入りしたら兄さんが継ぐ男爵家が乗っ取られないか?

 でもこれ位の方が頼もしく感じるから貴族の結婚は面倒だ。

 

「あと二人きりになるとやたら首輪を付けたがる。もちろん俺にもつけようとする。俺をペットにしたいんじゃなくてお互いを縛り付けたいみたいだ」

「「「「…………」」」」

「何か言えお前らァぁぁ!!」

 

 いや、何言えば良いんだよこんなん。

 そこまで特殊性癖なのは流石に俺達の手に負えない。

 兄さんが頑張って主導権を握るか、ドロテアさんに手綱を握られるかの二つに一つしかない。

 

「とりあえず頑張って」

「ドロテアさんが居ると仕事が減るから嫁入りして欲しい」

「それも一つの愛の形って事で」

「ラブラブだね」

「他人事だと思いやがって」

 

 ぶっちゃけ俺としてはドロテアさんが居るとアンジェの負担が減るから嫁入りして欲しいんだよね。

 兄さんという尊い尊い犠牲は決して忘れません。

 ごめんな兄さん、俺が出世したばかりに尻に敷かれる夫婦生活になった。

 いつか借りは返すから我慢してくれ。

 

「とりあえずリオン兄さんはアンジェリカさん、ニックス兄さんはドロテアさんと仲良くしてください」

「終わらせるな、助けろお前ら」

「嫌よ、関わり合いたくない」

「だいたい未婚の私達に相談する方が間違いよ」

 

 逃げようとする姉貴と違ってフィンリーはそう呟くと天井を指差す。

 

「この家で一番のバカップルが上に居るでしょ。あの人達に聞いて来なよ」

 

 俺達全員、そのバカップルから産まれたんですけどね。

 ただバカップルは人前で惚気るだけだから大して参考にならないんだよ。

 

「あの万年新婚夫婦がろくな助言すると思うか?どうせ惚気るだけで終わるぞ」

 

……何だよ、その目。

可哀想な物を見るような目で俺を見るな。

 

「自覚が無いって厄介だな」

「あんた、鏡見て来なさい」

「付き合いきれないわ」

「リオン兄さん、それ本気?」

 

 どうやら俺とアンジェもこいつらにとってバカップル判定らしい。

 失敬な、俺は人前ではきちんと弁えてる。

 この半月位アンジェが二人きりでも素気無いから存分にイチャつきたいだけだ。

 でも父さんと母さんもいろんな苦労しながら今まで何とか夫婦やってるんだ。

 意外と夫婦円満のコツを知ってるかもしれない。

 

「それではバルトファルト家族会議を終了します」

 

 コリンの締めの言葉で本日の家族会議は終わった。

 姉貴とフィンリーはそのままデザートを食ってる、兄さんは仕事があるから席を立ち、コリンは打ち合わせがあるから外に出た。

 俺はどうしよう?

 とりあえずやるべき仕事は殆ど終わってる。

 午後はアンジェや子供達と家族団欒する予定だったのにアンジェの様子がおかしい。

 仕方ない、ここは年長者の知恵をお借りしますか。

 美味いデザートを平らげて席を立つ。

 あの万年新婚夫婦が少しは真っ当な助言をして俺達の円満な夫婦生活の糧になれば良いなぁ。




夫婦円満の秘訣は各夫婦でさまざまです。
なのでお互いに首輪をかける夫婦が居ても夫婦仲が円満なら問題は無いのです。(おい
第四部からはバルトファルト家の面々も活躍するので相対的に出番が増えます。
同時に他の原作キャラも登場する予定です。
次章は成人向けシーンと同時投稿する為にしばらく期間が空きます。
次回投稿は十二月になる予定です。
依頼主様に頂いたイラスト数点を挿絵にする予定です。

追記:依頼主様のご依頼でLoliFreak様、さるかな様、MOB様、ゴま様にイラストを描いて頂きました。ありがとうございます。
LoliFreak様 https://www.pixiv.net/artworks/113513318
さるかな様 https://www.pixiv.net/artworks/113576075
MOB様 https://skeb.jp/@MOB_illust/works/4
ゴま様 https://skeb.jp/@goma_453/works/4

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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