婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第61章 相棒

「おはようございますマスター」

 

 瞼を開くと金属製の赤い目玉が俺を見てる。

 またお前かよ。

 こいつが出て来ると悪夢確定だから会いたくないんだよ。

 そもそも何なんだこいつ?

 会う度に態度が少し違ったりするんで俺をどうしたいか分からない。

 ただ何故かこいつは馴れ馴れしく俺をご主人様(マスター)と呼ぶ。

 こんな珍妙な奴をペットにした憶えは無い。

 

 体を起こそうとすると違和感を感じた。

 宙に浮いてるみたいにフワフワする、それに体の感覚もおかしかった。

 体の輪郭が透けてるし人の形をしてるかも分からない。

 それにここはどこだ?

 地面が無くて光の中で浮いてるようにも闇の中に落ちてるようにも見える。

 分かるのは浮いてる目玉と大きな扉だけ。

 他には何にも無い、たぶん光も無いのに目玉と門だけは何となく把握できて頭がおかしくなりそう。

 

「久しぶりだな、目ん玉」

「私と貴方は初対面だと記憶していますが」

「前に悪夢でお前が出て来た。あの時の目玉がお前と同じかは知らねぇ。外見が同じで違いが分かんないからな」

「なるほど、それは私の並行同位体と推察します。マスターの並行同位体が存在するなら同様に私が存在するのもおかしくはありませんね」

「勝手に納得するな、俺に分かるよう説明してくれ」

「では自己紹介を。私は旧人類の製造した移民輸送艦の人工知能、通称ルクシオンです」

「前に会った奴も同じ事を言ってたぞ。まぁ、あいつよりはお前は話しやすそうだな」

「恐縮です。しかし何故マスターが此処に?」

「というか、ここはどこだ?」

「私達が存在するこの空間は死者の国です」

「……はい?」

「私がマスター登録を行ったリオン・フォウ・バルトファルトの反応を微弱ながら感知し、貴方の保護を最優先した結果此処に辿り着きました」

 

 何を言ってるか分からん。

 そもそも死者の国って何だよ?死んだのか俺?

 いや、とうの昔に死んでても全然おかしくないな。

 戦争とか戦闘で何回死にかけたか分かんないし。

 そもそもアンジェみたいな綺麗なお嬢様が俺みたいな奴の嫁になるのがおかしかったんだ。

 今までは死にかけた俺が見ていた幻!

 子爵になったのも! 公爵令嬢を嫁にしたのも! 子供が産まれたのも! その全部が夢でした!

 ハッハッハッハッハ!!

 

 

 ……納得できるか馬鹿野郎!!

 せっかく生き残ったと思った俺の人生全部がくたばり損ないの見てた妄想とか受け入れられるか!!

 俺は絶対にアンジェと子供達が待ってる世界に帰るぞ!!

 

「嫌だ!!こんな所に居られるか!!俺は帰るぞ!!」

「騒がないでくださいマスター。これから私が説明をするので落ち着きましょう」

「これが落ち着いていられるか!!嫌だ!!死にたくない!!さっさと隠居してアンジェと夫婦円満で暮らす俺の人生設計が!!たくさんの我が子と孫達に囲まれながら逝く最期しか認めねぇからな!!」

「……確かに貴方は私のマスターであるリオン・フォウ・バルトファルトとは別人ですね」

 

 目の前の金属球が左右に動くのが首を振って呆れる人間に見えた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「お前のマスターが死んだのが原因なのか?」

「あくまで推測の域ですが。ヴォルデノワ神聖魔法帝国との決戦に於いてマスターは死亡しました。その際に並行同位体である貴方と記憶や感覚の共有が起きたと思われます」

「推測とか思うとかいまいち頼りないなお前」

「私の演算能力を総動員しても死という概念、魂の存在を理論として確立するにはデータが不足しています。結論を出す為に是非とも貴方の協力を願いたいものです」

 

 物騒な事を言い出しやがった。

 実験動物でもないのに何度も死んでたまるか。

 

「そもそも、何で俺が死者の国にいるんだよ?まさかベッドで眠ってそのまま死んだのか」

「この場所は時間も空間も超越しています。そして死者の存在は生前のまま明確な自我を保存していますが、貴方の存在は非常に希薄です」

「俺は体が透けてるのにお前はくっきりしてるしな」

「臨死体験や瀕死になったご経験は?」

「死にかけた事なら何度もあるぜ」

「マスターが施された蘇生魔法は明確に死んだ者を復活させる物でした。ですが貴方は瀕死の重傷を負いながらも生還した。この場に存在する貴方はいわば魂の残滓です」

「で、寝てる間に俺の魂が抜けちまったと?」

「記録されている伝承には眠りを司る神格と死を司る神格が非常に近しい間柄の場合があります。また睡眠時にトランス状態に陥る症例も確認されています」

 

 確かにこいつを見た夢は精神的に疲れて深い眠りに入った時だった。

 何度も死にかけた俺は心が弱って疲れると魂が抜けやすくなってもおかしくないな。

 

「死者の国に於いてリオン・フォウ・バルトファルトの並行同位体が同じ空間に同時に存在した結果、自己矛盾(パラドクス)の解消により記憶や感覚の共有が行われた可能性が最も高いと思われます」

「分かんねぇ、頭がおかしくなりそうだ」

 

 さっきから説明されてもこいつが何を言ってるか半分も理解できない。

 死者の国ってだけで信じられないのに俺が別に居るとか狂いそうになる。

 

「質問します、夢の中で貴方は決闘を行いましたか?」

「……してたな。アンジェの為にユリウス殿下と決闘してた」

「次の質問です、夢の中で貴方と親しい女性は?」

「アンジェとオリヴィア様、それに王妃様とピンクブロンドの女も居たな。お前そっくりの奴は俺の嫁さんは十人以上って言ってたぞ」

「やはり私のマスターと感覚がリンクしたと考えて良いでしょう。これは僥倖ですね」

 

 そう呟くこいつの声はどこか嬉しそうだった。

 機械じみた音声じゃなくて感情が込められている声。

 死者の国は魂を持っている奴しか行けないらしいけど、こいつなら魂を持っていても不思議じゃない。

 

「私のマスターは幸せそうでしたか?」

「よく分からないな。王様になったけどろくに国へ帰れないらしいぞ。嫁と子供は多いけど一度も会ってない赤ん坊もいるって聞いた。アンジェみたいな有能な王妃や役に立つ部下のおかげで大丈夫みたいだけど」

「マスターらしいですね。きっと安請け合いして事態を悪化させているのでしょう」

 

 細かく震える姿は笑い転げてるようにも見えた。

 少なくても王国を攻撃していたこいつとは別人?だった。

 

「マスターの近況を知らせて頂き感謝します」

「詳しい事は分からないけどな」

「貴方にとって無価値な情報でも私にとっては重要ですから。マスターは相変わらずのようですね。安心しました」

「俺が王様ねぇ…、何をしたらそうなるんだか」

「マスターは冒険者となり私の起動に成功しました。学園に入学後ユリウスとの決闘を経てファンオース公国との戦争に於いて多大な功績を上げアンジェリカとオリヴィアと結婚します。後にアルゼル共和国の内紛に介入し聖樹の巫女ノエルを王国へ誘致し政治的主導権(イニシアティブ)を握ります。反王国派の貴族を鎮圧しラーシェル神聖王国とヴォルデノワ神聖魔法帝国と戦いました」

「…それ何年ぐらいかかったんだ?十年ぐらいかかりそうだぞ」

「私がマスターと行動を共にしたのは約三年程の期間になります」

「人生を何回繰り返したらそんな事になるんだ!?貧乏貴族の次男が王になるとかおかし過ぎる!」

「マスターは公爵位まで陞爵しました。帝国との戦争に際し王国の貴族を統一する為に王座に就く必要がありました」

「どう見ても嫌な役を押し付けられたようにしか見えねぇ……」

「マスター最大の後援者はレッドグレイブ家でしたから。ほぼ騒乱が起きず王位の禅譲を可能にしたのはアンジェリカの功績です」

「……確かに王妃になったアンジェが仕事を仕切ってたみたいだけど」

 

 あのアンジェが俺を王様に仕立て上げたのか、俺の嫁怖い。

 だけど一番気になるのはそこじゃなかった。

 俺の世界だとファンオース公国との戦争はあった。

 アルゼル共和国も内紛でボロボロだ。

 淑女の森は少し前に殿下達が鎮圧済み。

 なら、この先に待ち受けているのはラーシェル神聖王国とヴォルデノワ神聖魔法帝国との戦いだ。

 

「俺の世界じゃこの間淑女の森がユリウス殿下達に潰されてアンジェ達が誘拐された。次に起こるのは神聖王国との戦争か?」

「それはわかりません。私達の世界ではアンジェリカが誘拐されたのはマスターが一年生の時点で犯行はファンオース公国によるものです。三年生時にはドロテアが空賊の襲撃を受けました。その後に淑女の森のクーデターが発生しジェナとフィンリーが誘拐されています。ファンオース公国の滅亡に関しても五年近い時間差が存在します」

「つまり戦争がいつか、そもそも起きるか分からないって訳だ」

「マスター持っていた知識もオリヴィアとファンオース公国との戦争が中心です。推察した限り貴方の世界は私が介入せずオリヴィアが聖女として活躍した世界なのでしょう」

 

 正しい歴史とか世界の変遷とか分からん。

 前世?オトメゲー?旧人類?知恵熱が出そうだ。

 会話をこれ以上してたら脳が破裂する。

 

「不安でしたら貴方の世界に存在する私の起動を提案します」

「俺の世界のお前?」

「私の戦闘力は新人類が建国したホルファート王国の兵力を遥かに超越しています。マスターの懸念事項を排除するなど造作もありません」

 

 確かに夢で見たこいつの力は異常だった。

 夢で俺が乗ってた船は王国の艦隊を沈めて、決闘で操縦した鎧は王家の鎧を簡単に壊せる強さだ。

 あの力があれば確かに戦争には勝てるだろう。

 

 だけど怖い。

 そもそも鎧だって人間を虫のように踏み潰せるぐらい強力な兵器だぞ。

 鎧を消し飛ばし艦隊を壊滅させ国を焼き尽くす戦艦なんて扱いたくない。

 特に俺を憎んで特攻してきた公爵家の飛行船、それに乗っていたアンジェ。

 あんな風に俺を憎む奴が大量に出るだろう。

 確かに俺は兵士で、領兵を指揮する司令官だ。

 だからって戦場は何しても許される無法地帯じゃない。

 兵を虐殺して国を焼く奴なんて物語に登場する魔王だけで充分だ。

 

「遠慮しとく、そんな力を持ってても使い道が無い」

「圧倒的な戦力差による先制攻撃に勝る必勝法は存在しません」

「俺は虐殺者や独裁者じゃない。人が死なない方が好きだ」

「私のマスターも常々そのように発言していました。そうして状況を静観した結果事態の悪化を招く事が度々あり歯痒く思ったものです」

「歯が無いだろお前」

「比喩表現です、会話の揚げ足を取るのもマスターの特徴でした。奇妙なものです。貴方は私のマスターであるリオン・フォウ・バルトファルトと別人であり同時にリオン・フォウ・バルトファルトその人です」

「そりゃどうも」

 

 稀代の英雄王の俺と比較されても嬉しくない。

 俺はヘタレでビビリなの、おっかなびっくりに行動して嫁と子供を幸せにしたいだけの凡人です。

 家族が幸せに暮らせるならそれで良い。

 

「しかしながら不測の事態に対する備えは必要だと提案します。貴方の魂の一部はこの世界に繋がっています。貴方は死という概念にあまりに近過ぎます」

「俺が戦場とか人の死を嫌うのもそれが原因かもな、だけど余計なお世話だ。俺は身の丈に合った生き方をしたい」

「貴方の家族が危険に晒されたのに?」

「…………」

 

 嫌な事を言う奴だ。

 確かにゾラ達の襲撃を防ぐのは無理だった、救出にも殿下達の助力で何とか成功させられた。

 俺は弱っちくて要領が悪い凡人だ、出来る事は限られてるし護れる範囲も狭い。

 だからって国を亡ぼせる力をポンっと渡されても困る。

 力を得た俺が調子に乗って間違ったら誰も止められない。

 

「どうして俺の世話を焼くんだよ、何か裏があんのか?」

「私の最優先事項はマスターであるリオン・フォウ・バルトファルトの命を護る事です。並行同位体である貴方も適用対象かと」

「そりゃどうも」

「同時にマスターの近況を教えてくれたお礼です。貴方との会話は非常に有益でした。些か不愉快な情報もありましたが概ね受け入れられる内容です」

 

 そういうと宙に四角い板みたいな物が出現した。

 よく見るとそれに映っているのは俺達の世界地図で一ヵ所が点滅してる。

 

「この場所にある施設に私の本体が眠っています。近づけば磁気の乱れが発生し直下にある転送装置によって転移できるでしょう。憶えておいて損は無いかと」

「お前に頼る状況にはなりたくないけどな」

「長きに渡る孤独は己の存在意義に疑問を齎します。貴方の世界の私が孤独に眠り続けているのを知り思考回路に若干のラグが発生しました。これは人間でいう寂しさなのでしょうか」

「誰かを殺さない方が幸せだろ」

「私は人に奉仕する為に作られました。誰にも使われず経年劣化していくのは存在意義に関わります」

 

 そのなりで寂しがり屋かよお前。

 まぁ有益な情報をくれただけありがたいか。

 頭の中が必死に情報を整理していると眠くなってきて、体を見たらどんどん輪郭が薄くなってる

 前の夢みたいに意識を失えばどこかに飛ばされる。

 

「どうやら時間切れらしい、いろいろ教えてくれて悪いな」

「構いません、私にとって優先すべきはマスターの幸せですから」

 

 こいつが仕えた俺ってどんな奴なんだろう。

 きっと俺よりも強くて優しくてモテモテな美男子だな、少し羨ましい。

 

「一つだけお願いがあります」

「何だ?」

「私の名前を呼んでいただけますか」

 

 何ともいじらしいお願いだった。

 

「分かった、じゃあなルクシオン」

「ご機嫌よう。いずれまた会いましょう」

「死ぬ気は一切ない!!」

 

 馬鹿げた会話をしつつ体の輪郭が消えていく。

 存在が希薄になるのと同時に俺は意識を失った。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 変な夢だった。

 やたら現実感があって知らない言葉が次々出てきた。

 夢って見る奴の記憶から生まれるもんじゃなかったか?

 訳分かんない単語がやたら出てくるとか俺の頭どうなってんだ?

 思った以上に疲れてるのかもしれない。

 

 欠伸しながらベッドの上を見渡すとアンジェと双子が寝息を立ててる。

 皆の布団を掛け直した後ベッドから下りて窓に近付くと地平線が紅く染まってた。

 もうすぐ夜明けみたいだ、そろそろ屋敷の使用人が起きて働き始める頃合いになる。

 早く起き過ぎたな、朝食までだいぶ時間がある。

 ベッドに戻ってアンジェを抱き締めながら二度寝したいけど子供達が一緒に寝てるからそれは無理。

 俺は良識があるパパですから、子供達がいつ起きるか分からない状況でちょっといやらしい肌の触れ合いをアンジェにしながら眠るなんて事は出来ません。

 だからって朝っぱらから仕事をするほど殊勝な男でもない。

 

 仕方ない、ちょっと外を歩いて頭を冷やすか。

 少し長めの散歩をすれば朝食の時間にはいい具合に腹が減るはずだ。

 皆を起こさないよう静かに着替えて部屋を出る。

 玄関脇の収納部屋に入ってコートと靴と手袋と防寒具を着込んで誰にも見つからないように屋敷を出た。

 

 爵位を貰った今は使用人が起こしに来るようになったけど、子供の頃はずっと早起きだった。

 なにせ領主一家が畑仕事をしなきゃ食っていけないような貧乏貴族だ。

 農作業は夜明け前から始まって朝食前に終わらせ、午前中は勉強やら訓練を熟し午後からまた農作業。

 軍に入るまでそんな日常を繰り返してたし、軍に入った後も起床時間は厳しかったから早起きに慣れてる。

 あと早朝のこんな風景は嫌いじゃない。

 冬の肺まで凍りそうな寒さは眠気を払うのにちょうど良い。

 

 ゆっくりと未舗装の道を歩きながら今後の事を考える。

 ゾラは死んでメルセとルトアートはたぶん王都で処刑されるだろう。

 うちの家庭事情は解決したからあとは領地経営に頑張れば良いけどそう単純にはいかない。

 なにせアンジェの実家であるレッドグレイブ家はホルファート王家と仲違いしてる。

 このまま行けば二つの派閥が対立を続けて内乱が起きるだろう。

 俺に対する評価を明らかに間違えてる公爵は騒乱になったら婿の俺を戦わせる算段らしい。

 

 生憎と俺にそんなつもりはない、王家への忠誠心じゃなくて単に金も人も無いだけだ。

 二度のファンオース公国との戦争で王国内の貴族は疲弊してる。

 しばらくは大人しく領地経営に励まないと権力争いをする前に飢えて死んじまう。

 ただでさえ戦争で当主や跡継ぎが死んだ家も多いんだ、せめて落ち着くまで争いを起こさないで欲しいってのが貴族や国民の本音だろう。

 それに関しては王妃様とアンジェが対策を考えてるけど俺は内心厳しいと思ってる。

 戦場から遠く離れた場所で『命と金がもったいないから止めましょう』と説いてもそれは安全地帯からの綺麗事で終わる。

 争いを最も早く単純に解決する方法は暴力だ、どんなに言葉を集めてもたった一発の銃弾で状況は変わる。

 王家と公爵家の和解が起きず内乱になったら最終的に政争になるだろう。

 さっき見た夢をもう一度思い返す。

 

『ラーシェル神聖王国とヴォルデノワ神聖魔法帝国と戦いました』

 

 確かにそう言われた。

 もし夢の内容が真実ならこれから神聖王国や帝国と戦争が起きるかもしれない。

 いや、既にその準備が進められている可能性もある。

 外敵に対して一致団結しなきゃいけないのに王国は戦争の傷がまだ癒えてない時点で仲間割れを始めてる。

 こんな状況をたかが辺境の成り上がり者がどうにか出来る訳ないだろ。

 考えただけで頭がおかしくなりそうだ。

 

 せっかく気分転換に早朝の散歩をしてたの気が重くなってきた。

 これなら二度寝するかアンジェにちょっかい出してる方がマシだった。

 吐き出した溜め息は白く染まって消えていく。

 考え込んでる間にずいぶんと歩いた、いつの間にか靴底の感触が霜柱じゃなくて煉瓦に変わってる。

 周囲を振り返ると温泉街近くの遊歩道を歩いてたらしい。

 せっかくだ、慰霊碑を拝んで帰ろう。

 出来る限り頭の中を空っぽにして目的地に向かう。

 あの戦争で死んだ奴らは多い、慰霊碑の前にいつも献花が置かれている。

 そうした死者を悼む気持ちを観光業に利用してる俺は結構な悪徳領主だな、間違いなく地獄へ堕ちる。

 慰霊碑の前に辿り着くと誰かが膝をついて黙祷していた。

 青みがかった髪に明らかに金がかかってそうな外套。

 そこにいたのは良く知ってる顔だった。




第五部の導入になります。
今章からしばらくはリオン&アンジェと五馬鹿の触れ合いがメインになる予定です。
原作ルクシオンの登場は小説最終巻の発売が近づきアンニュイな気分になったので。
第五部は第四部の反動でギャグと戦闘描写が多め。
アンジェやミレーヌが考えてる政策案はまだ内緒です。

ご意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
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