婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

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第63章 弟兄妹姉

 屋敷への道を物思いに耽りながら戻る。

 何度か会話してユリウス殿下の性格とか考え方が何となく分かってきた。

 殿下が悪人じゃないのは理解できる。

 きちんと王族の自覚を持って働いているのは理解できた。

 アンジェと婚約してた頃の殿下を俺は知らないけど、殿下は悪政を敷く暴君の卵って訳じゃない。

 ただ、殿下とアンジェの相性は悪かった上にオリヴィア様の存在が事態がややこしくなった原因だろう。

 喧嘩相手が善人だと相手は悪人に見られがちだ。

 ましてや相手は救国の聖女、例え公爵令嬢が相手でも分が悪い。

 

 それに殿下とアンジェの婚約破棄が原因で俺とアンジェの縁談が持ち込まれた。

 他人の不幸を喜ぶようなさもしい人間にはなりたくないけど、俺が今も生きてるのはアンジェが傍で寄り添ってくれるからだ。

 それに関しちゃむしろ感謝してもしたりない。

 やだなぁ、まるで俺が悪人みたいじゃん。

 嫁の元婚約者と縁談がぶっ壊れて喜ぶとか実に嫌な奴だ。

 あっちは王子で美男子で強い、こっちは貧乏貴族の次男で顔に傷痕がある醜い男で卑怯者。

 俺と殿下のどっちが女の子の理想かなんて分かりきってる、勝負どころか比較対象にすらならない。

 

 こんな時は恋愛結婚の父さんと母さんが羨ましい。

 ゾラと政略結婚しなきゃいけなかったけど二十年以上も連れ添って正式に夫婦になった二人は本当に幸せそうだ。

 ユリウス殿下とアンジェは性格の相性以外に政治的な思惑が絡んで婚約破棄した。

 俺とアンジェの夫婦関係にそれが起きないとは限らない。

 家の事情で離婚して再嫁するなんて事が貴族社会じゃよくある話だ。

 レッドグレイブ家がどんな思惑でアンジェと俺の縁談を思いついたのかは知らない。

 ただ、その思惑によって離婚させられる可能性は常に存在している。

 今回の誘拐事件に関して俺の力が足りないという口実でアンジェが公爵家に連れ戻されてもおかしくない。

 考えるだけで気分が滅入る。

 

 やめだ、やめ。

 こんな事をウジウジ繰り返し考え続けても何の解決にもならない。

 屋敷で朝飯を喰って二度寝だ、昨日の疲れが残ってるから嫌な想像ばっかするんだ。

 強引に結論を出して足早に歩き始める。

 屋敷に戻ると使用人達が忙しそうに朝の準備の準備を始めてた。

 邪魔にならならないようにこっそり寝室へ戻るか、朝食までの時間を嫁と子供達と過ごす贅沢ぐらい味わう権利が俺にはある。

 そんな俺のささやかな願いは横から伸びてきた腕に掴まれて奪われた。

 何事かと思って体を掴むぶっとい腕を見て相手を察する。

 こんな毛深くて太い腕の持ち主は我が家には一人しかいない。

 

「なんだよ父さん?」

 

 これから俺は綺麗な嫁と可愛い子供達に囲まれて幸せな時間を過ごすんだ。

 美味しい朝飯の後は嫁に甘えながら午後までダラダラ眠るんだ。

 そんな息子の願いを奪う父さんを睨んだけど全く意に介していない。

 表情は強張って額から汗を流してる。

 何かあったか?

 

「どこに行ってたんだ?」

「いや、ちょっとその辺で朝の散歩を」

「いいから来い、今すぐ来い」

 

 何だよ、俺なんかしたか?

 心当たりは多いけど怒られる事はしてないぞ、……してないかな?

 俺の不安をよそに力任せに廊下を引きずられる。

 父さんの必死さから何か異常事態が起きたのを薄々察した。

 

「アンジェに何かあった?」

「何も無い」

「ジェナかフィンリーの容態が悪化した?」

「ピンピンしてる」

「ユリウス殿下達から苦情が来たとか?」

「今の所そんな話は無い」

「なら離してくれよ、俺はさっさと寝室に戻ってだらだらしたい」

「いいから来い!いろいろマズい状況だ!」

 

 結局押しきられて父さんと母さんの寝室まで来ちゃった。

 これ昔からお説教される時の流れだ、嫌な予感がぷんぷんする。

 父さんが忙しなくドアを何度も叩いて部屋の中へ無理やり押し込まれた。

 何なんだよいったい?

 部屋の中には母さんと兄さんがいる、その光景がちょっとばかしおかしかった。

 母さんは明らかに目を吊り上げて怒ってるし、兄さんは床に正座して縮こまってる。

 俺とは違って兄さんは親の命令を素直に従うから俺より怒られる回数は少なかったのに。

 とりあえず椅子に座って説明を聞こう、何が起きたか知らなきゃ対策できない。

 

「どうしたの二人共?」

 

 誰からも返事が無い、誰か説明してくれよ。

 兄さんは青褪めてるし、母さんは何故か怒ってるし、父さんは難しい顔で唸ってる。

 俺は書物に記されてる偉人じゃないから他人の顔を見て事情を推察するなんて出来ません。

 

「まったくこの子は!どうして、もう、あんたはッ!?」

「落ち着けリュース、本人も反省してる事だし」

「反省してるからって解決する訳じゃないでしょう!」

「……」

 

 母さんの口調は悲鳴に近い涙声だ。

 どうしたら良いか分かんなくて混乱してるみたいだ。

 父さんが必死に宥めてるけど大して効果が無い、むしろ父さんが大人しくさせようとするほど母さんの怒りが増してる。

 仕方ないから正座してる兄さんに近付く、どうやら原因は兄さんみたいだし。

 

「何したの兄さん?」

「……お前には言いたくない」

「どう見ても兄さんが原因だろ、父さんと母さんが喧嘩するなんて珍しいし」

「俺だって家族に言いたくない事はある」

「領主権限だ、さっさと吐け」

 

 こんな事を言うと兄弟仲が拗れるけど事態が事態だ。

 領主として経営に悩み、家庭では家族仲で悩む。

 俺の安らぎはどこにあるんだ?

 

「……たぶんな、俺、ドロテアさんと結婚する」

「めでたい話じゃないか」

 

 そうか、兄さんに嫁が来るのか。

 バルトファルト家は男爵家、ローズブレイド家は伯爵家。

 少しばかり爵位が離れてるけど、今の王国は男手が足りていないから出世の機会は昔より増えてる。

 上手くやれば爵位を上げられる可能性は十分にある。

 ローズブレイド家から支援を受けられたらレッドグレイブ家に借りを作る回数も減ってアンジェに心苦しい思いをさせずに済む。

 何よりドロテアさんも伯爵も兄さんに好感を持ってるから無碍にされないだろう。

 結婚相手との仲か良いのは貴族や平民の区別なく大事だ。

 

「それの何が問題なの?」

「この子ったらドロテアさんを押し倒したのよ!付き合ってる女の子を手籠めにするなんて!どうしてそんな風に育ったの!?」

「……おい、何やってんだ兄貴」

「押し倒してない!むしろ俺の方が押し倒された側だ!」

「でも抱いたのは事実だろう。ニックス、こういう場合は男が何言おうと悪く受け取られるもんだぞ」

「どうすんだよ、相手は伯爵家だぞ。嫁入り前の娘が手を出されたって知ったらどんな報復されるか分かんねぇぞ」

「だから悩んでるんだって!」

「首を持って行けば許してもらえそうか?」

「アンジェの実家の公爵家が仲介してくれるなら、それでも難しいと思うけど」

「流石にそれは避けたい」

「そもそも本当にドロテアさんが迫ってきたの?モテない兄さんの妄想じゃない?」

「朝起きたらこれがベッドに置かれてた」

 

 兄さんがポケットから黒い何かを取り出した。

 ……首輪だ

 革で作られて所々金属の装飾が施された首輪だ。

 どこからどう見ても、上から見ても下から見ても間違いなく首輪だ。

 

「ドロテアさんが身に着けていた首輪だ」

「ごめん、何言ってるか分からない。病院行く?」

「俺は正常だ!」

 

 頭おかしい奴は自分がまともだと信じ込んでるから信用ならない。

 狂った実の兄を気の病で幽閉するとかなんて可哀想な俺。

 どうしてこう、神様は俺の人生に苦難ばっか丁寧に用意するんだろう。

 

「いや、本当にどうしようコレ?さすがに全面戦争にはならないだろうけどさ、慰謝料とか請求されるだろ」

「そもそもゾラ達のせいでドロテアさんやディアドリーさんが襲われてる。バルトファルト家を信用しなくても不思議じゃない」

「そもそも向こうは襲われた時に騎士が死んでる、その責任を追及されたら向うの要求を呑むしかないな」

 

 泣いてる母さんの横で男三人が必死に足りない頭で必死に考えを纏めてる。

 思いつくのは絶望的な未来だけだ。

 貴族の争いってのは資産が物を言う。

 証拠を揃えて、有能な法律家を雇って、何度も裁判してやっと判決が出る。

 場合によっちゃ賄賂で結果が変わるから金を惜しんじゃいけない。

 それにかかるのは金だけじゃない、時間だってかかる。

 親の代の訴訟が子の代になって判決が出たなんてざらにある。

 時間と金をかけて得られるのは賠償金請求と世間からの軽蔑とか笑い話にならない。

 

「なんで手を出したんだよ?絶対にヤバい事になると分かってただろ」

「酒飲んでたからな……。あといろいろ溜まってた……」

「それぐらい我慢してくれよ、ダメなら娼館に行ってくれ」

「地元の娼館に通ったらすぐバレて噂になるだろ!」

「それでもこうなるよりマシだって」

「あとな、あんな美人さんに迫られると拒めないっていうか……。俺の人生であんな風に求められたのが初めてだったというか」

「モテない男の悲哀だな、だから前の領地かここで平民の嫁を貰えば良かったんだ」

「父さんと俺じゃ状況が違い過ぎる、うちに嫁いでくれる令嬢なんて学園には居なかったし」

「オッパイか?あのオッパイに惑わされたのか?」

「ドロテアさんの胸をいやらしい目で見るな!お前にはアンジェリカさんがいるだろ!」

「当たり前だ!俺はアンジェのオッパイにしか欲情しない!」

「あんた達!!揃いも揃ってくだらない事ばっか言っていないの!!」

 

ゴンッ!! ボゴッ!! バキッ!!

 

 母さんの拳骨が落ちて俺達三人の頭から楽器みたいに音が鳴った、痛い。

 

「本当にもう!!どうしてうちの男連中は揃いも揃ってスケベ根性丸出しなの!?私達の時もそうだったけどリオンだけじゃなくてニックスまで後先考えず女に手を出すなんて!」

 

 マズい、何かこっちにまで飛び火してきた。

 兄さんの視線が俺を問い詰めるように見つめてくる。

 

「リオン、俺に偉そうな事を言ってたくせにお前もそうなのかよ?それで偉そうに説教してたのか」

「一緒にすんな!アンジェの方から俺に別れ話を振って来たんだよ!そしたら俺が好きとか愛してるとか言われて!綺麗な女の子が目の前で泣いて告白されたら誰だって動揺するだろ!」

「俺だってそうだった!部屋に戻ったらベッドに裸の美女がいたんだぞ!しかも抱いてくれってせがむんだ!理性がドロドロになってもおかしくないだろ!」

「そこは拒めよ!人として!貴族として!俺は清く正しい交際をするつもりだった!」

「止めろニックス、全面的にお前が悪い」

「あんただって訳知り顔で息子を諭せるような生き方してないでしょ!」

「やめろリュース!子供達の前で!」

「私の体調を無視してデカい体で迫られたら逃げられないわよ!子供を産んですぐ妊娠したからご近所さんにどれだけ笑われたか!」

 

 聞きたくねえ、家族の情事とかこの世の一番知りたくない情報だぞ。

 どうしたらこの修羅場を切り抜けられるかな?

 地獄みたいな光景に眩暈を起こしながらぼんやりそんな事を考えていた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 部屋に入るとベッドの上に珍妙な塊が鎮座していました。

 獣のような唸り声を時折出して身震いする姿は手負いのモンスターにも似ていますわね。

 これが何の繋がりもない他人なら放置していて起きたいのですが、何分お父様が心配なさっているので様子を窺うのは私の役目になりました。

 口では文句を言いながらお姉さまに甘いのがお父様の悪い癖です。

 普段からお姉様の素行や嗜好について注意していればここまで事態は拗れなかったはずですのに。

 文句を言っても始まりません姉の行き届かない所を支えるのが出来た妹というもの。

 己の意にそぐわぬ行いも完璧に熟してこそ名門ローズブレイド家の令嬢ですわ。

 

「お姉様、お姉様」

「…………」

「いい加減に部屋から出てください。お父様が心配して医者を呼ぼうとしていますわ」

「…………」

「何が起きたかは分かりませんが薄々察しはついています。素直に応じた方が身の為ですわよ」

「…………」

「そうそう、お姉様を心配なさったニックス様がこちらに向かっているそうです」

 

ブワァッ!!

 

 翻った毛布が宙を舞い獣じみた俊敏さで黒い影が部屋の中を駆け回ります。

 流石は冒険者として名を馳せたローズブレイド家の血脈、その姿は手弱女に見えても才能と覚悟が凡俗の女とは比べ物になりません。

 お姉様は部屋の中を駆け回りながら扉の前に物を積み上げ始めました。

 ついには宿に備え付けの姿見やベッドや箪笥まで移動させようとしています。

 ……このままだと私まで部屋に閉じ込められそうですわね、いい加減に止めないければ。

 

「落ち着いてくださいお姉様、今の発言は嘘です」

「嘘……?」

「ニックス様はこちらに来ておりません。バルトファルト家の面々は今は屋敷で過ごされてる筈ですわ」

 

 あくまで現時点に於いてはという但し書きが付きますが。

 落ち着きを取り戻したお姉様は再びベッドの上で丸くなろうとしたので慌てて止めます。

 なにせお姉様は昨日までバルトファルト家を狙う不届き者達に囚われていました。

 辱めを受ける前にバルトファルト家の方々とユリウス殿下に同行した四人の英雄達によって無事に救出されローズブレイド家の面々は心を撫で下ろしたものです。

 なのに一夜明けたらお姉様は部屋に閉じこもって誰とも会おうとしません。

 心配したお父様がわざわざローズブレイド領から同行させた医師の診断を受けさせようとしても頑なに拒みます。

 痺れを切らしたお父様は私にお姉様の説得を任せて別室に戻ってしまわれました。

 この状況を改善するのは私の手に些か余りますわ。

 

「どうなされたんですか?バルトファルト領に戻ってからは小娘のようにはしゃいでいたではありませんか」

「……ニックス様が私との婚約を保留にして欲しいとお父様に提案なされたの」

「どうしてまた?」

「ニックス様は今回の事件に責任を感じていらっしゃるわ。ローズブレイド家の騎士に犠牲が出たのも御自身の至らなさ故と思っているのでしょう」

 

 確かに襲撃犯の首領はバルトファルト男爵の元妻です。

 主犯格の男性は血の繋がりが無くとも一時はバルトファルト家の嫡子であり、言うなれば今回の件はバ男爵家の相続争いとも受けれます。

 そんな争いに婚約者が巻き込まれたともなればバルトファルト家の管理能力が疑われても仕方ありません。

 責任を感じたニックス様がお姉様との婚約を保留にするのも致し方ないのかもしれません。

 

「私を助けにきたニックス様はとっても凛々しいお姿だったわ❤あの瞬間に運命を感じたの。『あぁ、私はこの殿方に嫁ぐのね』って❤」

「……なのに相手は婚約の一時保留を願い出たと」

 

 私の発言を聞いてお姉様の表情が曇ります。

 二十年以上も共に暮らしている実姉ですが最近のお姉様はまるで年頃の娘のように表情がころころ変わります。

 学生時代も多くの貴族から求婚された時も眉一つ動かさなかったのに、ニックス様に関する事になると頬を赤らめ幸せそうでした。

 ローズブレイド家の面々はようやくお姉様に春が訪れたと喜んでいましたが、その春はあまりに早く過ぎ去ったようです。

 

「それでね、お父様からその話を聞いて目の前が真っ暗になって」

「仕方ありませんわね、お父様としても被害が出た以上は放置する訳には参りませんし」

「御話を伺おうとバルトファルト家の方々が忙しそうにしてる間にニックス様のお部屋に忍び込んで」

 

 『それは淑女のする行動ではありません』という言葉が出掛かりましたが必死に飲み込みます。

 ニックス様と知り合って以降のお姉様の行動力は当家の者の追随を許しません。

 

「興奮して服を脱いだままベッドで横になってたら疲れてたせいか眠っちゃって」

「服を脱がないでください、裸で殿方のベッドに寝ないでください」

「そうしたらニックス様が戻って来て。話してたらつい盛り上がってしまったの」

「……結果を、具体的に、お聞かせください」

「……ニックス様と契りを結んだわ」

 

 お姉様の言葉を聞くや否や私はドアに駆け寄ろうとしましたが、先んじたお姉様に体を掴まれた反動で床に倒れます。

 私達姉妹は体を絡め合いながら床を転げまわります。

 

「お父様には内緒にして!お願いだから!」

「それとこれとは話が別ですわ!お姉様はローズブレイド家の誇りを何だと思っていらっしゃるの!?」

「好きな人が出来たら古臭い家名なんてどうでも良くなるの!」

「あまりに身勝手過ぎます!今まで家名で身を守ってもらっていたのに節操の無い野良犬みたいにバルトファルト家へ尻尾を振るなんて!」

「そこまで恩知らずじゃないわよ!頼むから協力して!」

「人に物を頼む時の態度じゃありません!」

 

 髪が乱れ服が破けそうになっても私達は言い争いを止めません。

 もしも部屋の外に誰か居たら物音に驚いて部屋に侵入したかもしれませんわ。

 私達の体が離れた時には二人とも疲労困憊で息も絶え絶えでした。

 

「はぁ…、わかりましたわ…。当面の間はお父様に秘密にしておきます…」

「えほっ…、ありがとう…」

 

 ローズブレイド家の栄誉より姉の我が儘を優先した罪悪感に胸が締め付けられます。

 顔を上げるとお姉様は嬉しそうに微笑んでいました。

 思えばこうして笑うお姉様を私は一度も見た事がありません。

 何というか、同じ人間とは思えないほど表情豊かです。

 顔の部位が変わった訳ではありません、真冬の蕾が春の訪れと共に華開いたように美しさを放っています。

 これが恋をするという事なのでしょうか?

 恋愛や結婚を政略の手段と考えている私には分からない感情ですわ。

 

「でもニックス様が来たと私が言った時はずいぶんと動揺していましたわ」

「だって後から思い返してみたら怖くなったのよ……。夜這いするなんてはしたない真似をしたら絶対に嫌われるわ」

「はしたない真似と分かっていたのなら実行しないでください。後々苦しむのはご自分ですわ」

「別れると思ったら一度ぐらい情けを戴きたかったのよ。まさか、あんなに凄いなんて……」

「……そんなに凄かったんですか?」

「魂の繋がりとか生命の神秘を垣間見たわ。確かにあんな事を繰り返したら命が生まれるのも理解できそう」

 

 行為の凄まじさを思い出したお姉様は身震いしました。

 その情欲に震える御姿は実妹の私さえ戸惑う色気を放っています。

 見てはいけない物を見てしまった気まずさを誤魔化すように会話を続けます。

 

「嫌われたのか気になるのでしたら直接会って確かめたら良いではありませんか」

「嫌よ!どんな顔して会えば良いのよ!?もしニックス様に嫌われたなら生きていても仕方ないわ!神殿に入って神様と聖女様に祈りながら一生を終える方がマシよ!」

「なら結婚すれば良いのでは?手籠めにされたと訴えればバルトファルト家はお姉様を迎え入れるしかありませんわ」

「そんな非道をしてまでニックス様と結婚したくないわ!私はニックス様に幸せになって欲しいのよ!」

 

 意外ですわ、傲岸不遜なお姉様がこんなにも他人の幸せを望むなんて。

 それほどまでにバルトファルト家の長兄が素晴らしい男性なのでしょうか?

 多少は体を鍛えてはいますが特に目立った長所は無し、あの豺狼のような外道騎士の実兄とは思えないほど凡庸で目立たない男ですのに。

 

「私はニックス様がお幸せなら満足なの。ニックス様のお隣に私が置いていただいてほんの少しだけ愛してくださるなら充分。他に何も要らない」

「その為なら結婚しなくて良いと?」

「好きな相手に愛されないほどつらい事は無いのよ。私を軽蔑するニックス様と連れ添う位なら命を絶った方を選ぶわ」

 

 ここまでお姉様を魅了するニックス様は何者なのかしら?

 リオン・フォウ・バルトファルトに嫁いだアンジェリカも随分と幸せそうでした。

 バルトファルト家には余人には理解できない魅力があるのかもしれませんわ。

 

「でもお姉様はこれからどう為さるおつもりですか?ニックス様に会うのを拒み続ける訳にはまいりません。いつか必ず話し合う時が訪れますわよ」

「うぅ……、どうしようディアドリー……?」

 

 その答えを知りたいのは私の方です。

 せめてニックス様はお姉様をご無体な扱いをしなければ良いのですが。

 一度で良いから私もお姉様のように心から恋焦がれる相手が現れないでしょうか?

 私に縋りつくお姉様を落ち着かせながらぼんやり窓の外の太陽を眺めました。




ラブコメ回及び成人向け回の続きです。
ドロテアさん、というかローズブレイド家は今作に於いて重要な立ち位置なので布石になります。
まぁ、原作小説では結婚して妊娠してたからこれぐらいは許されますよね!(悪ノリ
次章からは徐々にシリアスな内容になるので息抜きです。
筆者が節目にエロかラブを入れないと気分の切り替えが出来ないので。

追記:依頼主様のリクエストでおつかれ様にイラストを描いていただきました。
ありがとうございます。
おつかれ様 https://www.pixiv.net/artworks/116124518

意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。

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