婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです   作:品☆美

68 / 174
第67章 黒vs白

 格納庫に向かうリオンの背を見送る。

 結局、私には彼を止める事が出来なかった。

 婚約破棄騒動の時は金で雇った決闘代理人に全力で戦うよう指示したのに。

 今はリオンがユリウス殿下と戦うのを止めさせようとしている己の変化が何処かおかしくも悲しい。

 もしもリオンが学園に通っていたなら、

 あの時の愚かな私を救う為に行動してくれただろうか?

 そんな詮無い事をつい考えてしまう。

 どう足掻いても私は慕う男の心を変えられない運命らしい。

 オリヴィアと親しくなるユリウス殿下を止められず、決闘に臨むリオンと押し止められない。

 己の弱さに苛立ちが募る。

 どれだけ足掻いても私は公爵家の後押しや王妃の協力が無ければ何も出来ないままだ。

 

 足元を見るとライオネルとアリエルが私を見上げている。

 二人は闘いに赴くリオンに驚いたのだろう。

 ああなったリオンはどれだけ言葉を尽くしても止められない。

 ファンオース公国が攻めて来た時もバルトファルト領の守護に専念すれば良いのに戦地へ赴いた。

 勅命があったにせよ私がどれだけ泣いて止めさせようとしてもリオンの決意を変えられなかった。

 子供達なら決意を変えられるかと賢しく実行したが虚しい結果に終わってしまうとは。

 姑息な方法でリオンの心変わりを企てた己の浅ましさが恥ずかしい。

 

「ははうえ」

「何だ?」

「ちちうえどうしたんですか?」

「父上は闘いに行ったんだ」

「?」

 

 どうやらリオンが何をするのかよく分かっていないらしい。

 やはりライオネルとアリエルは屋敷に置いてくるべきだったか?

 我が子の前で敗北する父の姿など傍から見ても良い物ではない。

 随分と私は弱くなってしまった。

 嘗ての私なら貴族としての栄誉を護る為なら命を惜しむなと口にしていただろう。

 今はリオンが大過なく戻る事を祈るしか出来ない。

 

 私の心中を察したのか子供達が手を差し伸べてくれた。

 柔らかくて温かいその手が少しだけ私の心に穏やかさを取り戻してくれる。

 バルトファルト領の皆が呆れるような手酷い敗北さえしなければ良い。

 夫の敗北を確定事項のように考える己が悪妻に思えて憂鬱になった。

 

 来賓席に戻ると慌ただしく様々な機器を準備中だった。

 拡声装置やら撮影機器やらを接続し、この闘いを記録に残そうと躍起になっている。

 義父上とコリンが忙しそうに指示するのを横目で眺めつつ少し離れた隅の座席に座った。

 本来は私が執り仕切るべきなのだがリオンへの応援という名目で二人が引き受けてくれた。

 ローズブレイド家の応対は義兄上が担当している。

 いつもなら義兄上に付き纏っているドロテアが今日に限って怯えるように伯爵やディアドリーの側から離れない、珍しい事もあるものだ。

 殿下を除いた来訪者の応対はジェナとフィンリーが立候補している。

 過剰なまでの接待はどう見ても条件の良い男に迫る婚期を逃した貴族女その物で痛々しい。

 特に四人はオリヴィアに惚れこんでいたからジェナやフィンリーに見向きもしていない、それでも挫けず迫る姿はある意味で尊敬する。

 

 子供達をあやしていると兵や技師達が貴賓席から遠ざかっていく、どうやら準備が整ったらしい。

 正面に置かれた大きな表示画面は公爵家から譲り受けた品だ。

 飛行船や鎧に使われる物と同じ技術で作られており、撮影された光景を画面に映し出す。

 画面の中央に拡大された鎧が佇んでいる。

 黒い鎧はリオン、白い鎧はユリウス殿下だ。

 人の形を模した鎧が観客席に向けて体勢を傾けると子供達が楽しそうに体を揺らす。

 画面に映る鎧は座席から見ると人形にもようで少し可愛らしくもある。

 

「これよりユリウス・ラファ・ホルファート第一王子とリオン・フォウ・バルトファルト子爵の親善試合を開始します!!」

 

 司会を任されたコリンの声が拡声器によって付近に響き渡る。

 画面に映る鎧が向き合い構えを取り始めた。

 かつて王都にある学園の闘技場で私の雇った決闘代理人達と殿下達の五人は決闘を行った。

 結果は惨敗に終わり私とユリウス殿下の婚約は無効となった。

 今回の決闘でリオンが負ければバルトファルト家は王家派に与する事となる。

 それをこの場で知っているのはあの時の闘技場で争った四人と私だけ。

 どうして私の人生は越えられない壁が立ち塞がるのだろうか?

 

 鎧が構え終わったのか、先程までの歓声が嘘のように静まり返っている。

 誰もがこれから行われる闘いは殿下の勝ちだと考えている筈だ。

 諦観に包まれながら画面の黒い鎧に目を向ける。

 

 その構えは異様だった。

 平服するように体勢を前のめりに崩している。

 確かにあの極端な体勢では鎧が付けている気球を狙うのは難しい。

 しかし、その代償として素早く動き始めるのは不可能だ。

 おそらくは殿下鎧の両脚に付けている気球を狙っているのだろうが、姿勢を低くしても真っ正面から襲えば振り落とされるロッドが黒い鎧の頭部を襲う。

 あからさま過ぎる構えに誰もが顔を顰めている。

 そんな奇策が通じるほど殿下の操縦技術は低くない。

 

「はじめッ!!!」

 

 開始の言葉と同時にリオンの鎧が消えた。

 

 いや、消えていない。

 その速過ぎる動きに一瞬だけ目が追い付かず消えたように見えただけだ。

 闘いが始まって数秒、集音機が回収した破裂音が貴賓席に響き渡る。

 リオンの黒い鎧が居た場所の地面が抉れ、殿下の白い鎧の後ろに屈んでいる。

 殿下の白い鎧の左足に付いていた気球が割れていた。

 

 何が起きた?

 誰もが目の前の光景に理解が追いつかない、おそらく闘っているユリウス殿下すら。

 再び黒い鎧が身を屈め始める。

 焦りか、或いは慣れない鎧を操縦している影響か。

 白い鎧がぎこちなく構えロッドを振りかぶる。

 その時になって漸く理解が追いつく。

 

 あれは溜めだ。

 蝦蟇や飛蝗が跳躍の前に身を縮め力を溜めるのと同じ体勢。

 力を一方向に束ねて無駄を減らした動きで最短距離を駆け抜ける。

 極端な前傾姿勢は脚を狙うと同時に相手の攻撃が来る方向を分かりやすくする目的だろう。

 

 振り上げられたロッドが大地を穿つも、其処に黒い鎧は存在しない。

 跳ねる動物のように黒い鎧が再び宙を翔ける。

 同時に白い鎧の左脚に付けられていた気球が割れた。

 誰もがその光景を想像していなかった。

 王子も、英雄も、彼の家族も、妻の私でさえ。

 

「何なんだ、あの動きは?」

 

 誰かが疑問を口にした、この場にいる全員が同じ疑問を抱いている。

 確かに鎧は人を模して造られた存在だ。

 人に出来る動きなら大凡の再現は理論上可能ではある。

 

 だが、それはあくまで理論の上だ。

 肉ではなく金属、血液ではなく魔力。

 鎧が動く理は人が動く理に非ず。

 ましてやリオンが操縦している鎧は量産型だ。

 特注の改造を施した鎧ならまだしも、バルトファルト領の鎧は兵達が使い回せるように最低限の調整しかしていない。

 それなのにどうして、世界の理に反した動きを可能としている?

 

 黒い鎧が先程までとは異なった構えに移り始める、両腕でロッドを持った中段の構えだ。

 構え終わった次の瞬間には駆け出して白い鎧に向かう。

 白い鎧も同じように構え突進を受ける。

 金属の衝突音が空気を揺らす、二つの鎧は一つの銅像のように動かない。

 いや、静止していたのは数秒だけ。

 少しずつ、だが確実に黒い鎧が白い鎧を後退りさせている。

 技量の差ではない、黒い鎧の出力が白い鎧を上回っている単純にして明快な答え。

 

 何故?

 どうして同じ量産型の鎧でこれだけの差が生まれている?

 

「本当にバルトファルトは不正をしてないのか?」

「していないはずです、格納庫に同行させた整備士が確認しました。殿下が乗る鎧には何も仕掛けられてませんし、バルトファルトの鎧にも疑わしい部分はありません」

「だが明らかに黒い鎧と白い鎧の性能が違う。力と速さの両方で大きな差がある。慣れや経験じゃ説明できないぞ」

「そもそもあんな動きをする量産型なんて見た事が無い。最新の量産型でも無理だよ」

 

 四人の戸惑いはよく分かる、何しろあの鎧を融通したのは私の実家であるレッドグレイブ家だ。

 リオンが私と結婚しバルトファルト家が寄子となった証に公爵領で使っていた鎧を安く譲渡という建前で配備してもらった。

 多少の差は有ってもあれ程の明確な差は出るのはおかしい。

 

「多分、あれは計器を弄って出力調整してますね」

 

 横から口を挟んだのは義兄上だった。

 リオンと最も戦場を共にしたのはバルトファルト家の長男である義兄上であり、彼も鎧を駆って戦場を戦い抜いた男である。

 必然的にリオンを支援を熟す事となり、彼自身の操縦技能もそれなりの物だ。

 

「バルトファルトは一体何をしているんだ?」

「詳しくは知りません。鎧の魔力調整の設定を変えたり、感知器の精度を落としたりすると一時的に鎧の性能が上がる事があるらしいですよ」

「馬鹿な、そんな事をすれば最悪歩行すら覚束なくなるぞ」

「俺に言っても困ります。実際に何度かあいつの言う通りにやってみたけど上手くいった試しがありませんし」

 

 鎧は巨大な人型兵器だ、人の姿形を模してはいるが人力では歩く事すら不可能である。

 巨大な物体を動かす為には何らかの動力が必要不可欠。

 人々は魔力を鎧の動力として用い、鎧の制御に魔法を使う事で鎧は戦争の主力兵器として扱われるようになった。

 その一方、鎧が高性能化するほどその制御に用いられる魔法は加速度的に増えていく。

 大型且つ重装甲で鈍重だった鎧は近年に於いて小型化が進みより軽量でより速さが求められる。

 単純に鎧をゆっくり一方向に動かすよりも、素早く様々な方向へ動かすには高度な技術と操縦者の腕が必要となる。

 

 その鎧の制御用魔法を弄るだと?

 義兄上の言葉が意味する物は我々の常識では考えられない愚行だ。

 鎧は技術の結晶であり下手に弄れば起動すらままならなくなる。

 仮に説明が正しいとしてもそれは専門の技術者が緻密な計算を練って漸く出来る机上の空論でしかない。

 リオンは確かに一般の騎士よりは優れた操縦技能を持っている。

 だが鎧の整備士でもなければ技術者でもない。

 彼にそんな事が出来るとは思えなかった。

 

「信じられない。鎧は幾つもの魔法が相互干渉してやっと戦闘を行えるんだぞ。バルトファルトにそんな器用な真似が出来るとはとても思えない」

「王国軍にいた頃は手が足りなくてよく自分で調整してたらしいです。腕が良くて他の連中の整備も手伝ってたとか。本職には負けますけど暇な時間によく自分で整備してましたよ」

 

 信じられない。

 リオンが王国軍に在籍していた頃から鎧を操縦してたのは知っている。

 貴族だが最底辺の男爵家の出身であり、体の傷から騎士ではなく兵士としての戦働きが多いと本人から聞いている。

 そんな真似が出来るなど今日まで知らなかった。

 私達の驚嘆を余所に画面に映っている鎧は今も鍔迫り合いを続けている。

 誰もが予想していない異常事態だった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 画面に映っている白い鎧が持ち堪えられず一歩また一歩と後退していく。

 アロガンツの力はあっちの鎧と比べて二割から五割増しって所だ。

 この力を引き出す為に設定をあちこち弄った割に大した差は出ていない。

 勝っているのは力だけ、さっきから警告音が操縦席に鳴り響いてうるさくて堪らない。

 何しろ出力調整と姿勢制御関係の魔法を弱めて無理やり力を捻り出したんだ。

 いろんな場所に過剰な負荷がかかって悲鳴代わりの警報を上げている。

 今だって力では勝ってるけど下手に動けば無様に転がりそうなのを必死に保ってる。

 こんな無茶な方法を知ってて実行できるのは王国でも俺だけだろう。

 

 俺が鎧と関わるようになったのは子供の頃。

 一応は貴族の息子なんで前のバルトファルト領でちょくちょく父さんの仕事の手伝いも兼ねて寄子な騎士のおっちゃん達の世話をするのも俺の役目だった。

 鎧の操縦席に乗らせてもらったり簡単な操縦を教わった事もある。

 軍に入ってからは貴族の子供だから操縦の基礎と整備方法を学んだ。

 

 気付いたのは王国軍に入ってファンオース公国との戦争が始まってしばらく経った頃。

 同じ部隊にいた騎士が重傷で戦えなくなって退役したからだ。

 それまで簡単な整備を任されてた縁で鎧の操縦を任された。

 退役した騎士が乗ってた鎧は怪我の原因になった損傷を無理やり直したせいであちこちに無理があった。

 感知器はいくつも使えない、姿勢制御は壊れたまま、関節の連動は怪しくて武器を持つのさえ一苦労。

 歩行や飛ぶのさえ戦いながら微調整が必要で撃墜されないか怖くて泣きたかった。

 

 そんなボロボロの鎧が何故か他の鎧より力強く敵を倒した。

 理由は分からない、ただ他の鎧と比べて明らかに強い。

 整備不良が原因で死ぬのは嫌だから自分で鎧を弄ってある仮説に辿り着いた。

 鎧は魔法で機能を制御して動いている、その魔法がそれぞれが干渉し合って人間みたいな動きをしている訳だ。

 でも魔法に使える魔力の量は決まっている、高性能になれば制御する魔法の量は増えて一つの機能に使える魔力量は減っていく。

 

 なら幾つかの機能をわざと下げる、或いは完全に切ってみたらどうなるか?

 故障していない他の鎧を使って実験してみた。

 結果は同じ。

 もちろんこの方法に欠点が無い訳じゃない。

 幾つかの機能が下がるからその分を操縦や戦術で補わなくちゃいけないし、鎧の負担が多過ぎて下手すりゃ一回の戦闘で修復が出来ない部品やら内部機構が壊れちまう。

 だけど一時凌ぎや相手を出し抜くにはうってつけの方法だ。

 実際この方法で何度も俺は命を繋いできた。

 

 そして現在、俺は王子との決闘で優勢な状況で闘えてる。

 だからって勝ちを確信できるなんてとても思えない。

 ユリウス殿下は力で負けているが必死に食らいついていた。

 あくまで俺が先制点を稼いだだけで勝利するまで絶対に気を抜いちゃいけない。

 右手は操縦桿を握ったまま、素早く左手でスイッチを押し通信機能を起動させる。

 雑音が響いた後、若い男の呼吸音が聞こえてくる。

 間違いなくユリウス殿下だ。

 音声だけでもその息遣いから緊張しているのが分かった、俺の動きを見逃さないように神経を擦り減らしてるんだろう。

 なら、もっと精神を擦り減らしてもらいましょうか。

 

「ユリウス殿下ァ~、どうしたんですか~?」

『……何のつもりだバルトファルト』

「いやぁ~。御大層な事を言ってたのに、二点も先制されてどんな気持ちかな~って思いまして」

『たかが二点、まだ逆転を狙える範疇だ』

「その割には呼吸が荒いですよ。あれですか、ナメてた相手に追い詰められてびっくりしてます?」

『驚いてはいる、まさか操縦する者の違いで此処まで動きに差が出るとは』

「もしかして殿下って弱いんですか?王家の金とコネで高性能な鎧を使ってるから勝ってた訳じゃありませんよね」

『……』

 

 黙っているけど呼吸はさらに荒くなった、動揺してるな。

 

「じゃあ俺も本気を出しますんで。無様に負けたくないなら降参を勧めますよ」

『断る!』

 

 殿下の叫びと同時に鎧の背中にある推進器から空気が噴出されて大きく後退する。

 距離をとって立て直すつもりか。

 

「させねぇよ」

 

 操縦桿を倒し追撃を始める、アロガンツの一撃で白い鎧が大きく傾いた。

 人間は心と体を同時に攻められてると判断力を失う。

 ごめんな殿下、あんた強いからこうでもしないと俺は勝てんのです。

 よろける白い鎧に何回も追撃を行う。

 今の俺は確かに卑怯で下劣な外道騎士だった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

『王都の連中は金をかければ強くなれるって思ってんですかァ!?それは金が強いんであって本人の強さの証明にならんでしょうが!』

『俺が勝ったのは修練の結果だ!断じて鎧の性能や王家の資金力ではない!』

『でも俺に追い込まれてるじゃないですか!だったら俺の方が強いって事ですね!』

『この鎧に慣れてないからだ!そもそもどうして拝領された最新型の鎧を使わない!?』

『本当に強い奴はどんな得物を使っても強いでしょうが!改造された最新型じゃなきゃ戦えないとか、これだから王都のお坊ちゃんは!』

 

 撮影機器が拾った鎧同士の内部通信の内容は聞くに堪えない罵声の応酬だった。

 内容が内容だけに慌ててライオネルとアリエルの耳を塞がせる。

 リオンの罵りは殿下に対する敬意も遠慮も無い。

 的確に相手を挑発し判断を狂わせる類の罵詈雑言だ。

 あれが本当に我が夫と同一人物なのだろうか?

 どうして対戦相手にあれだけ語彙が豊富な罵詈雑言が出来るのに、私に対する愛の言葉は拙いのか。

 リオンはどう考えても才能の配分がおかしい。

 この通信が聞こえるのは貴賓席だけで本当に良かった。

 もしも観客席全てに聞こえていたら領主としての体面に関わっただろう。

 何より子供達の教育に悪過ぎる。

 最近はリオンも領主や父親の自覚が出て来たと思っていたが甘かった、後で説教してくれる。

 

「戦場のリオンはいつもあのような態度なのでしょうか?」

 

 思わず口にした疑問に義兄上が苦笑いを浮かべた。

 肯定とも否定とも受け取れる曖昧な微笑みだ。

 どうやら敵に対してはあれがリオンの立ち振る舞いのようだ。

 

「違うんだ、アンジェリカさん。リオンはああやって敵を挑発して囮になったり、怒らせて罠に嵌めたり、交渉で優位に立つ為にやってるだけで、リオンの性格が悪いという訳じゃ……」

 

 話すに連れて徐々に義兄上の語気が弱々しくなるのが居たたまれない。

 公国との戦争では頼もしい能力なのだろう。

 戦時で有用な能力が平時で役に立たないような物だ。

 無理やりそう思い込む、そう信じるしかない。

 

「だとしたら殿下を甘く見過ぎですね」

 

ジルクの言葉に他の三人が頷く。

 

「ユリウスは俺達五人の中では一番じゃないさ」

「魔力は僕、剣技はクリス、射撃はジルク、単純な力はグレッグに劣る」

「だが総合的な力は一番安定している」

 

 殿下を含めた五人の英雄がホルファート王国の若者の最上級であるのは揺るぎない事実だ。

 嘗てのユリウス殿下はその五人で特定分野を競わせた場合に於いて一位になった事は無い。

 その代わり二位か三位の成績を常に収めている。

 魔力量は高いが剣技が今一つだったブラッド。

 剣技は優れているが魔力の扱いが並みのクリス。

 射撃は得意だが接近戦で後れを取るジルク。

 格闘戦に於いて敵無しだが遠距離戦は劣るグレッグ。

 ユリウス殿下は五人の中で常に安定した強さを持っている。

 特筆すべき長所は無いが眉をひそめる短所も無い。

 故に落ち着きを取り戻せば手堅く攻めに転じる筈だ。

 

バァァァン!!

 

 破裂音が鳴り響き皆が食い入るように画面を見入る。

 割れていたのは黒いの鎧の左腕に付いていた気球だった。

 同時に白い鎧の左腕の気球も割れている。

 相討ち、だが殿下の攻撃が正確に行われたという証明。

 

『どうだ!まずは一つ目!』

『一個割ったぐらいで騒がないでください、俺はもう半分を割ってるんで』

 

 得意げな殿下の叫びを嘲笑するようにリオンが水を差す。

 再び二機の距離が縮まり互いのロッドで鎧に付いた気球を狙う。

 力では黒い鎧が優勢だが、白い鎧は正面から競わず手数を増やしながら攻撃を続ける。

 

バァン!

 

 再び破裂音、割れたのは黒い鎧の右脚の気球。

 対して白い鎧の気球は割れていない。

 

「どうやら調子が戻って来たようですね」

「まぁ、落ち着けば順当な結果だろ」

「単なる力押しで勝てるほどユリウスは弱くない」

「これから反撃開始だな」

 

 四人の言葉は私の心境そのままだった。

 リオンは確かに鎧の操縦に優れてはいるが相手は救国の英雄とまで呼ばれている。

 技量の差は明白、力押しにも徐々に対応している。

 いつしか私は子供達の事さえ忘却して食い入るように画面を見つめていた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 よし、当たった。

 相手の攻撃を回避しつつ発生した隙を的確に狙い撃つ。

 俺専用の鎧の基本装備は盾と剣。

 相手の攻撃を引き付けた後に的確に受けるかギリギリ避けてこちらの攻撃を叩き込む。

 ロッドを剣に、もう片方の腕を盾に見立てる。

 得物が違ってもやる事は変わらない。

 いつも通りに戦えば勝機は十分すぎるほど存在してる。

 

 バルトファルトの鎧に不正は無いと整備士達は証言した。

 王族直属の整備士の言葉だ、それは真実だろう。

 向うの鎧がこちらの鎧より力が強いのは何らかの技巧か。

 或いは俺の知らない鎧の性能を引き出していると考えて間違いない。

 確かに慣れない量産型の鎧、硬く舗装された闘技場の床ではなく柔らかい地面、一般の決闘とは違うルールと不利な状況は多かった。

 しかし、それを踏破してこそ英雄という物だ。

 

 確かにバルトファルトの操縦は巧みだ。

 勝つ為に制限付きの決闘に持ち込んだ狡猾さも見事と言っていい。

 だが、今まで経験した戦いが俺を成長させた。

 バルトファルトは黒騎士バンデルを凌ぐ鎧の操縦者か?

 物量で圧倒するファンオース公国軍の大部隊ほどの力押しか?

 いくら傷を与えても再生を続ける超大型モンスターか?

 否だ、断じて否だ。

 

 殺し合いとは違う生温い闘いに感覚が麻痺していた。

 常在戦場、相手を侮る事なく的確に攻撃する。

 バルトファルトの鎧の力は此方より上、だからと言って読めない攻撃ではない。

 おそらく無理やり力を引き出している反動か、力こそ強いが攻撃は実に単純。

 攻撃の開始を見極め軌道を予測は可能だ。

 

 さらに同型の鎧で同型の武器という条件が有利に働く。

 向こうが攻撃する為には此方に近付く必要がある、そして相手の攻撃の間合いは此方の間合いだ。

 上手く相手の攻撃に合わせれば最低でも相討ち、上手くいけば此方の攻撃が先に当たる。

 何より鎧に付けてある気球を割るというルールが有利に働く。

 気球を全てロッドで割れば勝ち、つまり攻撃される場所は予め決まっている。

 それなら攻撃の予測は容易い。

 

 悪いなバルトファルト。

 どうやらこの勝負、俺の優勢勝ちで終わりそうだ。

 お前の決意を無にしてすまないとは思う。

 だが危機に瀕したホルファート王国を救うには多くの力が必要だ。

 その為に必要な人材としてお前は注目されている。

 兵士や騎士としての強さ、貴族としての経験、統治者としての器。

 お前はまだ未完成だ。

 ホルファート王国の為に俺は勝たなくてはならない。

 たとえ恨まれようとも勝たなくてはいけない。

 覚悟するんだな。バルトファルト。

 ここからは俺からの攻撃が始まるぞ。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「とか思ってんだろうなぁ」

 

 殿下の鎧が構えを取る、さっきと同じ左腕を前に出した基本姿勢。

 思考が単純というか、素直過ぎるというか。

 上手くいけば四個ぐらい気球を割れるかと予想してたけど流石に甘い見通しだった。

 ユリウス殿下は強い、それは紛れない真実だ。

 そもそも騎士や兵士が死にまくった戦争でファンオース公国の大軍勢に最強の騎士や超大型モンスターと渡り合った英雄だ。

 

 俺の奇策なんて正面突破されて当然だよね。

 さっきから何回も打ち合ってるけど俺の攻撃は決定打にならない、その代わり向こうの攻撃は的確ときたもんだ。

 何よりアロガンツの異常を知らせる警報がけたたましく操縦席に木霊してる。

 このまま行けば追い詰められるのは俺、刻一刻と敗色濃厚になっていく感覚に全身から汗が噴き出す。

 

 仕方ない、作戦を変更しなきゃ。

 弄り回してたいろんな計器を操作して数値を元に戻す。

 喧しかった警報が少しずつ消えていく、消えたからといって安心できないけど。

 今までの無茶は確実にアロガンツの内部機構を痛めてる。

 正直いつまで凌げるか分からない。

 ここから先はどれだけ耐えて相手の隙を狙えるかが勝利の分かれ目だ。

 

 操縦桿を動かして構えを取る。

 最初の伏せた体勢でもさっきの中段の構えでもない。

 両腕は急所を守るように面積を小さく、腰を下ろしてどの方向にも即座に動けるように地面を踏みしめる。

 王国軍の訓練で習ったナイフ格闘術の構えだ。

 

 俺の構えに戸惑ったのか、白の鎧は攻撃を中止して注意深く様子を窺ってる。

 殿下の戦法は相手の攻撃を受けて擦れ違いざまに攻撃を繰り出す待ちの戦い方。

 それに応じて俺も姿勢を崩さず待ちの体勢を取る、攻め込まないのは少しでも鎧を休めて負荷を減らす意味もある。

 

 一歩、もう一歩と殿下の鎧が近付いて来た。

 こんな鈍重な展開は最新型の鎧同士の戦いじゃまずありえない。

 鎧は空を飛んで強力な武器を振り回し相手を屠るのが主流の戦い方だ。

 戦争によって鎧が使われるようになり始めた時代、装甲が厚くてろくに空を飛べず動きが遅い鎧が地べたを歩いて殴り合ってた時代の戦法だ。

 

 悪いね王子様、俺は地を這う獣なんだ。

 どれだけ空に憧れても翼も羽も持ってない醜い獣。

 そんな獣が宙を舞う鳥を仕留めるにはどうすれば良いか?

 地面に下りた隙を狙って翼を折る以外にない。

 俺はこの決闘を挑む時にさんざん俺にとって有利な状況を提示してきた。

 あんたが俺の出した条件を拒むか、それとも自分に有利な条件を提示すればこんな苦戦はしなかっただろう。

 こんな卑怯な手に乗らなきゃ良かったのに、真っ直ぐな性格で本当に助かったよ。

 

 この闘いが時間無制限なのは俺にとっても殿下にとっても有利には働かない。

 今まで無茶をしてきた俺とアロガンツは消耗が激しい、殿下は俺を仕留めるのに時間がかかるほど精神的に追い詰められる。

 迂闊に動いたらやられるのはこっちだ、十分に引き付けて相手の隙を狙う。

 

 どれだけ時間が経ったか分からない、お互いに攻め手に欠けている。

 そこにさり気なく気球が付いている右腕を晒した。

 次の瞬間、白い鎧が隙を見逃さず動き出す。

 

 だけど甘いな、地面の柔らかさを計算に入れず急に動き出したせいで体勢が崩れた。

 白い鎧が握ってるロッドにアロガンツが握っているロッドを合わせる。

 添わせるように優しく、力の方向を少しずらすだけ。

 そのままロッドを滑らせて狙うのは右腕の気球。

 轟音が響き、白い鎧が宙を舞った。




リオンvsユリウス戦の前編です。
鎧での戦闘を考えた結果、リオンのスキルツリーが恐ろしい事に
まぁ、原作でも手を抜いて上の下の成績だったから問題なし。(ダメだこりゃ
個人的に天才vs凡人の対戦が好きなのその結果がこうなりました。
やってる事は棒叩きゲームですが迫力重視でいきます。

意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。