婚約破棄された公爵令嬢は田舎の醜男貴族に嫁ぎますが幸せになるようです 作:品☆美
『空に堕ちる』
狂った奴が口走りそうな言葉だけど表現としてはそうとしか言いようがない。
体感的には浮遊中、でも高度計を見ると飛行船がどんどん上昇している事が分かる。
人間の感覚ってのは案外いい加減なもん、真っ直ぐ歩いてると自分では思っても大きく曲がってたりする。
計器を使わず目視で運転し浮島に激突死した熟練操縦士、どこの浮島でも数年に一回は起きてる事故だ。
必死に操縦桿を握り締める、運転してるんじゃなくて倒れないよう体を支える為に掴んでる。
徐々に全身を包んでた浮遊感が収まってくる、高度計を見ると針の進みが遅くなってた。
昇りきった場所は雲の中、右も左も前も後ろも真っ白で視界は最悪だ。
おまけに風が荒れ狂い船体がガタガタ震えて振動が凄い。
それでもこの飛行船が壊れないのはローズブレイド家が特別に誂えてくれた特注船だから。
ありがとうローズブレイド伯爵、ドロテアさん。
お礼に兄さんと存分にイチャイチャしてくれ、俺は止めない。
雲の動きから目的地を推測、風の流れに逆らうように慎重に進んで行く。
飛行船の操縦は個人の経験と計器をどれだけ信用するかが重要だ。
自分の勘を信じ過ぎて警戒を怠るのはダメ、かと言って計器を信じ過ぎて不調に気付かないのもダメ。
匍匐前進するようにゆっくり且つ慎重に前に進む。
慎重過ぎるほど慎重なのが
少し前も見えないぐらい分厚かった雲の白が少しずつ薄くなる、同時に風も治まり船体の揺れも治まった。
そのまま直進し続ける、突然前に何かが現れても平気なように気を抜かず操縦桿から手を離さない。
突然、視界が開けた。
降り注ぐ太陽の光の草木の緑が眩しい。
いや、存在していると思ってたから来たんだけど俺自身も信じきれていなかった。
同時に夢の中の問答が真実だったと分かり戸惑いを隠せない。
俺が
何だよそれ、質が悪過ぎる冗談だろ。
心の何処かで否定したい部分があった。
遅れて来た思春期の質が悪い妄想だと否定したかった。
なのに目の前の光景は現実だ。
言い逃れ出来ない、
ならここに眠っているロストアイテムも確かに存在してる。
喜びよりも先に悪寒が先に訪れた。
俺はただの凡人だ。
嫁と子供達に囲まれて人並みに生きられるならそれで充分って考えるぐらい器が小さい男なんだよ。
どう考えても世界の運命なんて左右できる英雄じゃない。
こんな物を任されても困る。
……でも約束しちまったしなぁ。
あと俺以外の奴がこの浮島に辿り着かない可能性も完全に無いとは言い切れない。
いざという時の備えは必要だ。
少なくても悪夢を見た時のように王国を滅ぼされるのだけは勘弁願いたい。
何でろくな報酬も無いのに身を粉にして働いてんだろう俺?
表彰もんだぞ、ちくしょう。
今回の件はアンジェに内緒だから相談もしてない。
バレたらきっと怒られる、めっちゃ怒られるに決まってる。
そうならない為にも面倒事はさっさと片付けよう。
厄介事は先に潰しておいた方が少しだけ気が楽になる。
軽く浮島の上空を一回りしてみる。
まずやたらデカい樹が浮島の中央に生えて、その根っこが浮島の地表の広範囲に覆っている。
軽く見ただけだとアルゼル共和国の聖樹みたいだけど詳しくは分からない。
その樹の根元から少し離れた場所に崩壊しかけてる建物の外壁が見えた。
見た限りはそれほど大きくない施設だ、少なくても飛行船の類は収容できないだろう。
「地下か……」
やだなぁ、一人で地下に埋まってるダンジョン探索とか死にに行くようなもんじゃん。
一応はありったけの準備を整えて来たけど足りるかどうか分からない。
探索に費やせるのは数日が精々だ、今回は軽い様子見で済ませた方が安心か。
取り合えず施設からそれほど遠くない平地に飛行船を移動させる。
地表には草とか低木が生い茂ってるが着陸する分には問題なさそうだ。
低めに飛びつつ平地の上空に到着するとそのまま垂直に降下を開始する。
草木が折れる音が悲鳴のように感じたけど無視する、草木に覆われて見えない岩とかで船体が傷付くより百倍マシだ。
無事着陸をすませるとホッと一息、現在の場所を確認する。
飛行船の起動キーは敢えて差し込んだままにしておく。
見た限り飛行船を盗もうとする輩は居なさそうだし、不測の事態に起動キーが見つからない方が怖い。
まずは甲板に出て手荷物に準備だ、予めある程度は済ませたけど実際に見た浮島は予想と随分かけ離れてる。
一通りの荷物を甲板に出し終えると何かが聞こえた。
飛行船の周囲を飛んでる虫や鳥の羽音じゃない、規則的で甲高い人工物が発する音だ。
周囲を注意深く観察すると銀色に光る円盤の何かが飛行船の近くを飛んでいる。
タァァン! タァン! タァッン!
反射的に懐に忍ばせていた小型拳銃で狙いをつけないまま円盤を撃つ。
カァァァァンッ……
数発のうち一発は当たった。
当たったけど決定打にはなっていない。
体勢を崩したけど相変わらずそのまま飛び続けてる。
甲板に広げていた荷物にあったライフルを握り締め狙いをつけると少し遠くの林の中から銀色の人が現れた。
人か?と一瞬思ったけど違う。
確かに見た目は鎧を着た人っぽいけど肩や頭の辺りに草やら苔が生えていた。
何よりそいつは下半身が無い、腰から下は足が無いのに宙に浮きながらこっちに向かって来る。
ヤバい、本能が命の危機を察知した。
狙いを円盤から人型に移してライフルの引き金を絞る。
タァァァァァン……!
銃声が周囲に響き人型が仰け反る、型と胸の間辺りに命中したはずだ。
命中したのに人型は体勢を整えると俺に向かってきた、しかもさっきより速い動きだ。
「嘘だろ…!」
ヤバい、ヤバいヤバいヤバい。
銃が効かないとかそんなん卑怯だろ。
確かに鎧を着込んだ重歩兵に銃弾は効果が薄いけど衝撃で多少なり傷が出来て動きが鈍るもんだ。
前以上の速さでこっちに向かって来るとか反則にも程がある。
何か、何か無いか?
人相手なら有効な方法が思いつく、野生動物なら狩った経験がある。
けどモンスターの相手なんて殆ど無いから何が効くかなんて分からない。
視界へ入って来たのは黒光りしていたそれだった。
咄嗟に握ったそれを両手で構え人型の方向に振り返る。
既にあと数十歩の所まで迫っていた人型に照星を合わせて引き金を引く。
ドオォォン!
体を揺らす衝撃と鼓膜に響く轟音の後に訪れたる手首の痛み、そして何かがぶつかるような音。
恐る恐る飛行船から身を乗り出して確認すると人型は糸が切れた人形のように地面に倒れていた。
「っッ痛ってぇ!」
大口径の拳銃から放たれた銃弾は人型の胸に穴を空けていた。
痛い、すごく痛い。
鍛えている筈の俺でも撃った衝撃で手首と肩と指が痺れてる。
「何て物を贈って来るんだよアイツは」
この大型拳銃は俺の持ち物じゃない。
妙に俺を気に入ったらしい筋肉馬鹿のグレッグが寄越したホルファート王国軍の技術部が開発した最新式の銃だ。
従来の拳銃より大口径、特製の弾丸を使用すれば鉄製のドアすら貫通する優れ物という謳い文句。
もし、これで撃たれたら挽き肉になるだろうが、どう考えても対人兵器じゃない。
何より撃った側も反動で体を痛めかねない。
自分が監修したから配ったらしいが、まずコレを撃つ為に相当の筋力と骨格が求め垂れるだろうが。
どうも天才は自分を判断基準にするから困る。
けど助かったのは事実だし文句は言わないでおこうと林の方向に振り返った瞬間、絶望的な光景が目に入る。
今倒した筈の人型がまた林の方から一体、もう一体と現れる。
「勘弁してくれよ……」
何でこうなるんだよ、泣きたくてしょうがない。
俺が一体何をした?
憤りを戦意に変えて武器を漁る、ライフルから空薬莢を排出して新しい弾丸を込める。
今度は魔法の力が付与された魔弾だ、ただの弾丸とは一味も二味も違う。
ついでにお値段も倍以上、魔弾一発で通常弾が数箱変えるんだぞ糞ったれ。
現れたのは人型が三体、後ろの林が揺れてるからさらに人型が来る可能性が高い。
「ちくしょう!かかって来やがれポンコツ共がぁぁぁ!!」
それからしばらくの間、平地に銃声と俺の叫びが途切れる事無く響き続けるのであった。
ガガッ……
最後の一体が動きを止めた、但し銃口は完全に人型の動きが止まるまで動かさない。
完全に死んだと判断してから一息吐く。
人型は七体、円盤は一体、合計八体の敵を仕留めた。
死亡確認がてら注意深くこいつらを観察する。
モンスターと動物の判別の一つに死んでから消滅するか否かがある。
こいつらは死んでも消滅せずにそのまま死体を晒してるからモンスターじゃない可能性が高い。
内部はよく分からない金属の塊や配線が絡み合ってよく分からなかった。
モンスターというよりも小型の鎧、もしくはロストアイテムなのかもしれないな。
だとするとぶっ壊したのは勿体なかったか?
その手の好事家に売れば結構な値段で買い取ってくれそうだ。
こいつらを倒すのに有効な手段は強力な物理攻撃、或いは雷か炎の魔弾と判明した。
けど炎の魔弾で倒した一体は撃たれた後に爆発して死んでる。
たぶん内部の油か何かに引火したんだろう、有効な手段だけど注意が必要だな。
浮島に着陸した直後に襲われたのは却って運が良いのかもしれない。
弾薬も爆薬も無くなった後に襲われたら、ダンジョンの奥で初遭遇したら目も当てられない。
持ち運べる荷物には限界があるし、いろんな属性の魔弾や爆弾を持って行くより有効な物を多く持ってなるべく戦闘を避けた方が良い。
確認が終わったら船に戻って準備を再開だ。
銃と弾薬に剣に爆薬、携帯食と水、記録装置に紙とペン、磁石やカンテラといった冒険用の道具。
弾丸は通常弾より魔弾多め、魔法の属性も雷と炎を両方持って行った方が良いな、
ついでに大型拳銃用の特殊加工弾も追加だ。
爆薬の方も同じように通常爆弾と魔法爆弾の両方で。
荷物は背嚢に収納し、武器はすぐ使えるよう腰に差したり首に掛け、爆薬と弾丸は他の荷物と別にする。
総重量は小柄な大人一人分ぐらいあるけど、王国軍に入隊した頃は自分と同じぐらいの重さの荷物を背負って行軍訓練をした事もある。
あの頃より体格が育った今なら大丈夫だろう。
背嚢を背負うと肩掛けが肩に食い込むが動けない重さじゃない。
この重さが俺の命を護ってくれるなら安いもんだ。
崩壊した遺跡が見える近くに着陸できたのは運が良かった、これなら迷わずに進める。
この場に飛行船を放置するのは危険だけど先に進まない事には何も成し遂げられない。
後ろ髪を引かれる気持ちで飛行船から出発する。
銃を構えながら一歩、もう一歩と前進する。
鉈や鎌で前の草を刈るのは舞台で行軍の時だけだ、体力の消耗は出来るだけ避けたい。
俺の体重と背嚢の荷物が合わされば根元を踏むだけで事足りる。
途中で何回か人型や円盤に遭遇、身を屈め息を殺して通り過ぎるのを待つ。
これじゃファンオース公国の施設を歩兵部隊で強襲した時の方がよっぽど命がけだったな。
見つかったら攻撃を仕掛けて来るけど、その見つけ方が雑だ。
音や光に対して過敏な反応をする訳じゃない、足跡を辿ったり明らかに人が居た痕跡を残しても注目しない。
同じ道筋を周ってる、或いは一ヵ所にずっととどまり続けてるようだ。
不可抗力で見つかった場合、それと進む方向から動かない場合は止むを得ず銃で撃った。
雷の魔弾に弱いらしく、数発撃ち込まれるとその場所で地面に倒れる。
他の人型や鎧が倒されても騒ぎ出さずそのまま素通りして何事も無いように振る舞う。
命令された事以外はやらない兵隊、或いは経験不足の警備員みたいな連中だな。
ダンジョンは古代の遺跡や墓所が多いけどこいつらは墓守かもしれない。
そんな連中を簡単に撃ち殺してる俺は相当な悪党だと罪悪感を感じちまう。
やっとの思いで遺跡に到着する。
時計を見ると長針が二回ぐらい回ってた。
直線距離は大してないが戦闘を避ける為に何度も止まったり迂回したのと生い茂る植物が進行を阻んだのが原因だ。
携帯食と水筒を取り出して給水と栄養補給を行いつつ遺跡を観察。
繁殖した草木に侵食されて地表部分は損傷が激しい。
植物の繁殖力をナメちゃダメだ、光と水と土どんな小さい隙間でも繁殖する。
手入れをしなけりゃ人が住む家だって数十年で崩壊される。
この遺跡は木製じゃない、石材なのか金属かは分からないがそんな建物がここまで壊れるのに数百年、下手すりゃ千年単位は必要だろう。
外がこれだけボロボロなら内部はどうなってるか見当もつかない。
どうにか遺跡の中へ入れそうな場所を発見して足を踏み入れる。
中を少し歩くとまばらに照明が点灯していた。
ボロボロなのは外周部だけで内部はそれほど植物に侵食されていないのかもしれない。
それでも崩落している所よりマシってだけ、苔が壁に生えてたり蔦が剥き出しの天井から垂れ下がってる。
慎重に先へ進むと開いている扉が見えたから取り合えず中に入ってみた。
部屋に一歩踏み入れて床に転がる
死体だ、但しとっくの昔に肉が腐り堕ちて骨だけになった白骨死体。
ぐるりと部屋を見渡してもこの部屋がどんな目的で使われたか見当がつかない。
近くに座って死体の状況を確認。
間違いなく人間の骨、人種は分からない、顎の形と大きさから成人男性だと思う。
死因は不明だけど骨に損傷が見つからないから外的要因じゃないと思う。
着ている服も経年劣化が激しい。
骨の色からここ数年で出来た死体とは考え難い、死んだばかり人間の骨ってのはもっとこう…、
「そこまで、止めよう」
嫌な物を思い出した、口の奥が酸っぱくなる。
戦争中に見た死体は血肉の赤と骨の白で吐き気が出そうなぐらい鮮やかだ。
時間が経つほど骨は黒や茶色に染まやすい。
骨がこれだけしっかり残ってるのはこの部屋が雨風の防いで温度の変化が少なかった証明だろう。
とりあえず死体から調べられそうな物を調べ終わったと思った時に指先に骨や服と違う感触が触れた。
死体を崩さないように感触がする場所を確かめると小さな板が現れた。
金属? いや、樹脂か?
よく分からない小さな板があった。
見た限り死体が来ている服の材質は俺達とは大差ない。
その中でこの小さな板だけが異質な存在感を放っている。
板に書かれてるのは見た事も無い文字だ、少なくても王国の共用文字じゃない。
太さがまばらな縦線が何本も引かれ、隅には掠れた人の顔らしき絵か写真らしき物が書かれる。
これを作るだけでも相当な技術が必要になる。
やっぱりこの遺跡にはロストアイテムが、いや遺跡全体がロストアイテムの可能性が高い。
「借りていきます、祟らないでください」
板を懐にしまいつつ死体に頭を下げる。
死体はちょっと苦手だけど幽霊は怖い。
今でも時々見る悪夢で恨めしそうな目で俺を睨む連中はただの幻なのか、それとも幽霊なのか分からない。
どっちにしても俺は殺した相手やその家族から怨まれて当然の人間だ。
幸せになる度に罪悪感が襲って来る。
気を取り直して探索を進める。
ライフルは紐で吊って肩に下げる方位磁針と紙とペンを使って遺跡の簡単な地図を書いていく。
曲がり角に来ると落ちてる石や木の根や壁に印を付けて地図に記入する。
少し歩くと横の壁に新しい扉が見つかったが今度は閉まっていた。
出来るだけ調べたいが人力で無理やり開くのは無理そうだ。
かといって銃や爆弾を使うのは避けたい、数に限りがあるし遺跡に損傷が出る。
何より遺跡の中に円盤や人型がいて襲って来たら逃げ場が無い。
鍵穴が無いか確かめると扉の横に変な黒い板が点滅していた。
黒い板が光って示してる形はちょうど死体から借りた小さな板と同じ大きさ。
「いや、まさかな」
そう思って小さな板を近づけてみる。
ピィー
甲高い音が鳴るとゆっくり扉が横に動き出す。
マジかよ、どんな仕組みで動いているんだ?
とりあえず分かったのはこの小さな板が扉を開く鍵だって事。
これなら何とか部屋に入れそうだ。
今度の部屋はさっきの部屋より広い、壁には小さな円柱が入った箱が何個も並んでる。
棚みたいな物の中に瓶が幾つもあるけど中身は全部空っぽ。
そして部屋の中央にはまた死体、しかも今度は二人だ。
二人はソファーらしき椅子に座りながら身を寄せ合っている。
恋人か、兄弟か、親子かは分からない。
ただ最期の時は親しい相手と一緒に過ごした事だけは伝わって来る。
黙祷を捧げた後に二人の死体を弄る、罪悪感が半端ないぞこれ。
やっぱり俺は冒険者なんて向いてねぇ。
死体に触る度に恐怖と罪悪感で押し潰れそうだ、泣きたい。
また小さな板を見つけたら死体に頭を下げて部屋を後にする。
それからは調査の繰り返しだ。
歩きながら地図を記入、部屋を見つけたら扉を開いて調査、目ぼしい物を見つけたら保管する。
遺跡の奥の方に行くほど入り口や外側より植物の侵食は少ないらしく廊下や部屋の外壁は綺麗になっていく。
ただ遺跡の中で円盤や人型が現れ始めるようになった。
隠れてやり過ごしたり、時には止むを得ず戦闘に突入したけど何とか生きてる。
遺跡の円盤や人型と戦って気付いた事の一つに、俺が目の前に現れた直後に少しの間だけ硬直して動きを止める。
攻撃を始めるのは硬直の後、だから動きを止めている間に先制攻撃を仕掛ければかなり有利に戦える。
たぶん俺をこの遺跡の住人と勘違いして動きを止めてるのかもしれない。
騙し討ち同然で遺跡を荒らす俺はやっぱり外道騎士だ。
時に行き止まり、時に施設が崩壊、またある時は歩いていた場所に逆戻りそんな事を繰り返してる内に最初の一日は終わった。
遺跡の部屋で仮眠から目覚めて時刻を確認、思った以上に疲れていたらしく八時間ぐらい経過してた。
体を起こして念入りに解した後は携帯食と水を摂取、食後は体調と所持品の確認を行う。
これから昨日見つけた地下への入り口を進む、何か起きるとしたら今日だ。
準備を整えて地下へ向かう階段を下ると照明が消えていた。
ここから先は灯りが必要みたいだ、ランタンに火を点し腰からぶら下げて進む。
生物は暗闇を本能的に恐れる、目に見えない何かが俺を見つめてるような錯覚を感じながら壁に手を添えて進む。
靴音の反響がやけにうるさい、気が立っているのが自分でも分かる。
突き当りに到着、いや突き当りじゃない。
俺の身長の数倍はある巨大な金属製の扉だ。
ランタンの灯りで扉を調べると黒い板が目に入る、小さな板を当てると音を立てて扉が開き始めた。
ガッ… ギイィィィィ…
金属同士が擦れ合う音が獣の呻き声に聞こえた。
巨大な扉から部屋に入った瞬間、異様な光景に鼓動が速まる。
「何だよ、これ……」
存在しているのは巨大な金属製の船。
町一つ程の大きさの飛行船が何隻も部屋の中に鎮座していた。
いや、ここは部屋じゃなくて格納庫なのか?
入口から部屋の隅が見えないぐらいの広さだ、もしかしてこの浮島が丸ごと格納庫なのかもしれない。
格納庫の飛行船は今まで見た事が無い形だ、こんな形状の飛行船は飛行船の最新カタログにも記載されてないぞ。
ただ、どの飛行船もあまりに放置され過ぎたのは船体の表面が錆びついて苔や蔦に覆われてる。
酷いやつだと船体が真っ二つに折れて内部が丸見えになってる物さえあった。
『こりゃ期待薄かな?』
それならその方が良い、少なくても俺は義理を果たした。
やる事やったから家に帰って子供達と遊んでやって書類を纏めたら風呂入って寝る。
俺を待ってるアンジェの所へ一っ飛びして面倒なお仕事を片付けて後はバルトファルト領に引っ込もう。
王都のごたごたなんて知った事か、俺は気楽な人生を送るんだ。
そう思ってるのに足は俺の意思に反して前へ進む。
『おい、止めろよ』
『頼むから止めてくれ』
必死に引き返そうとしてるのに好奇心と焦燥感が体を動かす。
『嫌だ、見たくない』
『そんな物俺の手に余る』
奥へ、格納庫の奥へひたすら足を動かす。
俺の何百倍、何千倍の大きさの朽ちた飛行船の横を通り過ぎても歩みは止まらない。
やっと突き当りの壁に辿り着いた。
安心した次の瞬間、目の前の
柔らかな曲線の
苔や蔦が覆いかぶさっても船体には錆一つ浮いてない。
あまりにその存在が他と隔絶してるから脳が理解できなかっただけ。
打製石斧と鍛造された剣を武器で一括りにするようなもんだ。
無駄を削ぎ落してひたすら一つの目的の為だけに造られた存在は美しいさえ感じるもんだ。
朽ちた飛行船の墓地で今も唯一生き残った存在。
「ハッ…、ハハッ。ハハハハハハハッ」
笑い声が聞こえる、それが自分の口から漏れていると気付くまでしばらく時間がかかった。
全部腑に落ちた。
別の世界の俺が王になったのも。
他の国を攻め落としたのも。
「馬鹿野郎ッ…!」
世の中には明らかに手を出しちゃいけない物が存在するんだぞ。
自分が王になる為にどれだけの命を捧げた?
吐き気がする、頭痛が止まらない。
こんな物を使って王になった奴が別世界の俺?
そりゃ王になれるだろうさ。
この飛行船がホルファート王国軍を壊滅させた悪夢を思い出す。
地獄の入り口が目の前にあるという事実に膝の力が抜けて崩れ落ちた。
裸で導火線に火が点いた大砲百門の前に立つ方が勝算がある。
人と蟻以上の絶望的な差に恐れ戦く事しか出来ない。
頬を伝う涙がどんな意味で流れているのか分からないまま俺は声も無く泣き続けた。
どれだけ泣いていたのか分からなかった。
ただ、胸に湧き上がったのは猛烈な使命感。
動き出したら流れる血は千や万じゃ足りない、簡単に国を滅ぼせるだけの力を秘めてる。
どうにかして動き出すのを止める、それか動かないように破壊する。
だけど、どうやって?
持って来た爆薬じゃ
誰かの力を借りるか?
いや、これだけの力を持ったらどんな人間も正常な判断なんか出来ない。
だから一人で来たのに本末転倒だ。
取り合えず写真を撮って詳細な情報を得よう、何かするのは次回に持ち越しだ。
背嚢から映写機を取り出して撮影を始める。
なるべく広範囲が写るように位置を変えながら撮影していると奇妙な違和感を感じた。
『飛行船が動いている?』
いや、まさか。
そう思いながら映写機を覗くと飛行船の下部分が動いている。
ヴイィィィィィィ ヴイィィィィィィ ヴイィィィィィィ
格納庫に脳を掻き毟るような不協和音が鳴り響いて紅い照明が点灯し始める。
ヤバい、途轍もなくヤバい事態が起きてると本能が継げている。
慌てて逃げようとするが入り口の扉が閉まり始めた。
どれだけ急いでもここから扉に辿り着く前に閉まっちまう。
飛行船に向き直ると扉らしい部分が開いて内部から人の形を象った鋼色の何かが現れた。
この遺跡に居た人型だ、ただし大きさは小型の鎧並みにデカい。
人型が絶体絶命の状況に陥った俺の方向に頭を向ける。
感情無く無慈悲に俺の命を奪う冷酷冷徹な機械の瞳。
『――侵入者を確認 排除 排除』
夢で何度も聞いた声が、俺の命を狙っている。
リオン視点のターン開始です。
ルクシオンが眠っていた施設の描写はweb版、文庫版、コミック版、アニメ版で微妙に違っているので各々の描写を複合しています。(一番参考にしたのは文庫版です
遺跡のロボット戦についても参照してます、あっさり警備ロボットを退治したのは原作リオンが14~15歳でレベルが低いのに対し、今作リオンは20歳以上で戦闘経験が豊富というレベル差によるものです。
今作ルクシオンの方から仕掛けたのは今作リオンが原作リオンに比べて多くの警備ロボットを撃墜+遺跡の探索に時間をかけた影響です。
初回で攻略本無しDLCダンジョン攻略はキツい。
追記:依頼主様のリクエストによりfreedomexvss様、vierzeck様にアンジェのイラスト、yamame様にドロテアのイラストを描いていただきました、ありがとうございます。
freedomexvss様 https://www.pixiv.net/artworks/117875440
vierzeck様 https://www.pixiv.net/artworks/117824808
yamame様 https://www.pixiv.net/artworks/117890246(成人向け注意
意見・ご感想を戴ければ今後の励みにしたいと思います。